4-2

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#center(){[[<前4-1へ>4-1]]|[[次4-3へ>>4-3]]} ---- **魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」4-2 ---- ****171 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21:16:17.31 ID:I7KnzzEP 勇者「だったら余計にどうにかしろよ、じゃなければ怒れよ!」 鉄腕王「とはいえ、事態はもはや異端が  どうという範囲でもないしのう」 氷雪の女王「ええ」ほぅー 勇者「へ?」 鉄腕王「あんなことを言い切られてはなぁ」 冬寂王「はい」 勇者「……?」 氷雪の女王「いえ、ちゃんと説明せねば。勇者殿は、その……。  人間界に帰られて日が浅いのでしょうしね。  つまり、おそらく中央はまだ異端という言いがかりを  つけてくるとは思うのです。もちろんそれはあくまで言いがかり。  中央の狙いは我らが結束を脅かし、弱体化することですが……」 冬寂王「つまり、問題の本質は  “我らが中央にたいして独立するか、否か”  と云う問題だったわけだ。」 勇者「そんなこたぁ、判ってますよ」 冬寂王「しかしメイド姉くんの演説で、風向きは変わってしまった。  中央にとっては今までどおりかもしれないが、  我らにとっては……つまり、南部諸王国にとっては  “独立を希望する民に、国がどう向き合うか”  と云う問題になってしまったのだ」 ****175 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21:22:28.37 ID:I7KnzzEP 勇者「……」 メイド姉「す、す、すみません」 冬寂王「あの演説の衝撃はけして小さくなかった。  そして燎原の火のごとく勢いを強めて燃えさかるだろう」 将官「現に、近郊では農奴を奴隷扱いしていた地主への  反乱めいた騒動もいくつか起きているようですし」 女騎士「うむ」 鉄腕王「と、なればわしらとしてもな」 氷雪の女王「ええ」こくり 冬寂王「せめて民と共に歩みたい」 鉄腕王「なーんていっちゃって。  農民に串刺しにされるのが嫌なだけかもしれないがのっ!」 氷雪の女王「あらあら。我が国ではそんなことは  起きませんわ。おほほほほほ。ひっく」 勇者「って、あんたらぁ!? 飲んでるじゃないですかっ!」 冬寂王「いやぁ、そう言うこともあるようだな。あはは」 鉄腕王「ごっきゅ、ごっきゅ、ごっきゅ」 氷雪の女王「まぁまぁ、この程度南部諸王国では  気付け程度の意味合いですわ」 ぽわぁ ****180 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21:30:22.49 ID:I7KnzzEP    メイド妹「美味しい! 美味しいよ、このパン♪」   将官「美味いですよねぇ」ほくほく   商人子弟「暖かいところが良いねぇ」   メイド妹「どうやって、この甘さを出してるのかなぁ」   将官「干し葡萄だとか云ってましたよ」 勇者「じゃぁ、もうそのっ! そっちの事情はわかったとして!」 冬寂王「ふむふむ」 勇者「これからの方策とか、方針とか、作戦とかを  かんがえてるのかよ、ちゃんとっ!」 女騎士「勇者」きりっ 勇者「そこっ、一番。女騎士っ」 女騎士「わたしは考えることが苦手だ」 えへんっ 鉄腕王「あはははははは!!」 女騎士「勇者の純潔は、わたしがまもるっ!」きりっ 勇者「誰だこいつに飲ましたの、うわっ。酒くせぇ。  ……ひーふーみー。4? 5杯かぁ!?」 女騎士「湖畔騎士流戦闘術と、愛剣・惨殺三昧は無敵だっ!」 ****185 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21:37:41.59 ID:I7KnzzEP 氷雪の女王「では次はわたしですね」 勇者「よし、二番。氷雪の女王。胸はでかいが年増」 氷雪の女王「既婚者ですからね。  そそういう突っ込みを入れる殿方は埋めますよ?  さて、問題の対応策ですが、これはもう  農奴の開放政策しかないでしょうね……」 勇者「以外にまともな意見だ」 氷雪の女王「馬鈴薯のお陰で扶養人口は倍増していますから  今なら、さほど無理なく方向転換が出来るとも思えます」 鉄腕王「しかし、それは中央との戦争がなければであろう?」 勇者「その辺はどうするんだ?」 氷雪の女王「戦争は殿方のお気に入りですからお任せします。  ぐっぴ、ぐっぴ、ぐっぴ。あら、もう一杯お願いね」 将官「はぁ、もってまいります」 勇者「だ、だめだ。このおばさんも何も考えてない……」 ****189 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21:41:41.42 ID:I7KnzzEP 鉄腕王「ふふん、では真打ちの登場と  行こうじゃないか。勇者殿っ。我こそは鉄の国6代、鉄腕王じゃ!」   ドーン! 勇者「あんまり気乗りしないけど、じゃ三番、鉄腕王」 鉄腕王「まずは我が三カ国連合軍で、北の平野に前線をひく。  我が領土の収穫量を減らさぬため、今度は出戦となろう。  余剰食料を元手に傭兵も雇い入れる。  なあに、まだ中央からの義援金は残っておる。  いいや、実を言えば先代王の頃から少しずつ蓄えておったよ」 勇者「おおお! 初めて堅実な言葉が聞けたっ!」 鉄腕王「そして、進軍してくる異端審問官および捕縛軍、  または中央国家連合軍を、北の平原で迎え撃つ。  過去の遠征軍の規模からして、5万を超えると云うことは  まずありえないだろう。これを初戦で撃破!」 勇者「ふむふむっ」 鉄腕王「そのまま北上、駐留軍を撃破! 城を攻略!  恭順の意を示す国家は次々と組み入れ、連戦連勝!  とどろく我が無敵鉄鋼からくり部隊っ!」 勇者「……」 鉄腕王「そのまま聖王都に肉薄し、昼夜を分かたぬ  波状攻撃にて、王都陥落っ! 後顧の憂い無し。  物語は大団円を迎えるのじゃー! がははははは」 勇者「はい消えたー」 ****192 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21:49:21.56 ID:I7KnzzEP 勇者「……もうね、なんかね」 メイド姉「すいません、勇者様」 冬寂王「ふぅむ。これは政策の根本から見直す必要があるな」 勇者「何か良い考えでもあるのか? 王様」 冬寂王「正直、無い」 勇者「がくっ」 冬寂王「だが、整理をしてみれば……、何か思いつくかもしれん」 勇者「あーもう。おい、誰かー?  何か思いついたやつは居ないのかよ」 将官「あのー」 勇者「おお、君は?」 将官「将官は名も無き軍人であります、勇者殿!」したっ 勇者「いや、素面というだけで君は有用な人材だ」 将官「将官もなにも思いつきはしませんが、  いくつか気にかかることを。  いや、気が付いたこと、とでも云いますか」 勇者「ふむ」 ****194 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21:56:17.97 ID:I7KnzzEP 将官「まず、おそらく、中央はすぐには  軍を発しないと思われます」 商人子弟「それはそうでしょうね」 勇者「根拠は?」 商人子息「まず、第一に中央の意図は、南部諸王国を屈服  させることであって滅ぼすことではないということです。  南部諸王国が滅びたあと、魔族の侵攻があった場合  結局は自分達の身を守る盾が無いことに気がつくでしょう?  ですから、このあと、さらに圧力を強める何らかの  手を打ってくるのではないでしょうか?」 将官「それに、中央の持っている軍事力の殆どは  貴族の元に分散されています。  ですから集合や準備に時間もかかりますし  もし軍を発するのならば、その報酬も問題になります。  この場合、報酬は……考えたくはありませんが  わが南部諸王国を解体して、  貴族に分け与えることになるでしょう。  ですから、軍を発するとなれば、南部諸王国を  消滅させるつもりです。その準備には時間がかかる」 勇者「ふむふむ。どれくらい猶予があるんだ?」 冬寂王「いまは冬だからな。短くても春まで。  普通に考えれば、半年以上はかかるだろう」 ****200 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22:05:40.90 ID:I7KnzzEP 勇者「半年かぁ……」 冬寂王「だが……いや……。そのような……ある、とすれば」 将官「……?」 勇者「どうしたんだ、王様?」 冬寂王「いや、なに。ちょっとした、懸念をな。  無いとは思う。ありえないとは、思うのだが……」 氷雪の女王「なんですか、若き王よ。じらしてはいけませんよ」 鉄腕王「がっはっはっは。なんでも忌憚なく言うが良い!」 冬寂王「聖王都が、魔族と……すくなくとも、魔族の一部と  手を握るなどということがあるだろうか?」   ぞくっ 冬寂王「いや、ただの思い付きだが。あははは。  まぁ、そうなれば、魔族の再侵攻についてもある程度は  安心が得られようしな。我らが南部諸王国に対する圧力も  ずっと自由度が上がるのではないか。  たとえば、魔族の侵攻にあわせて、再び異端告発を行い  動揺と経済的疲弊を狙う、といったような……。  いや、空想的なことを云ってしまった」 ****205 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22:12:29.51 ID:I7KnzzEP 勇者「まぁ、そいつについては、俺が偵察して事情を  探ってくるしかないとして……」 女騎士「なぬ!? お出かけか? お出かけなら  お供するぞ勇者っ。地の果てまでも惨状、いや参上だっ」 勇者「えい、沈んでやがれ」スコンッ 女騎士「くふっ」 どでん! 勇者(えーっと、何から手をつけりゃ良いんだ……。  どれがどうなってんだよ、もう……っ) 勇者(こんなとき、あいつならどうする?  あいつならどう考える? 表面を考えちゃダメだ。  構造と、利害関係を……。  わ、わからーんっ!?)    メイド妹「でねー! じゃーん! これがパイですー!」   将官「おお! これはなんとも雅な……」 勇者(そもそも、何で戦ってるんだ。俺達は。  領土争い……なのか? 豊かになるための。  豊かってなんだっけ……?) ――……つまり、富をため込むってのは『お金持ち』にはなれても  『豊か』にはなれないんだ。  お金を渡して、使ってもらう。物もお金も流れが  よどみなく太いことが豊かなんだよ。 ****208 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22:21:57.10 ID:I7KnzzEP 勇者(つまり、それは、その。  関係があるってことだよな。  物を売ったり、買ったりして流れて……  それが豊かってことだろう?  じゃぁ、俺達の世界は豊かになってないんじゃないか?  だって閉じてるんだから。  ……教会がやってること、聖王都がやってること。  それはなんなんだ? 世界を限定して、狭くして……  その意図はどこにあるんだ?)    鉄腕王「黄金色で綺麗じゃのう!」   氷雪の女王「これはなんじゃ? ウズラのタマゴと肉なのか?」 勇者(つまりそれは……  教会がなりたいのは『お金持ち』なのか?  それは“富の独占”。いや、富ばかりじゃない。  知識も、人気も、権力も……“独占”するってことなのか?)    商人子息「おもしろいですね、さくりとした感触が」   メイド妹「そうだよー! 洋ナシのもあるよー♪」 勇者(閉じられた環境下で、他者から吸い上げることによって  階層構造を作り出し、それを永続化させることか?  そうなのか……。魔王が“違う”といったのはそういうことか) メイド姉「勇者……さま?」 ――精霊様は……  精霊様はその奇跡を持って人間に生命をあたえてくださり、  その大地の恵みを持って財産を与えてくださり、  その魂のかけらを持ってわたし達に自由を与えてくださいました。 ****212 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22:25:49.48 ID:I7KnzzEP 勇者(“独占”……“生命”……“財産”  そして“自由”……。独占とは、一者が全てを占めること。)    冬寂王「ほほう、甘い味のもあるのか。うむ、美味い!」   将官「これは絶品でありますね」   鉄腕王「酒にも合うぞ、もっと塩辛くてもいけるのぅ」   氷雪の女王「軽やかで宮廷料理に比べても引けをとりませぬね」 勇者(一者とは……中心。集中する点。積み上げた石組みの、頂点)    商人子息「これは新商品になりますよ!」   メイド妹「えへへ~そうかなぁ?」    冬寂王「おお、王直筆の勅書をあたえよう!」   将官「御用達というヤツですね王様っ」    鉄腕王「おお、わしのもやるぞ」   氷雪の女王「氷の国でも是非流行させてください」 勇者「じゃかしいわっ! お前ら王族かよっ!!」 メイド姉「す、す、すみません。勇者様っ」 鉄腕王「がははは! 勇者殿も、そう泣き笑いしても  しかたあるまい。勇者殿はどっちを食べる?」 勇者「どっち?」 メイド妹「ウズラのパイと、洋ナシのパイだよ♪」 ****219 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22:33:09.65 ID:I7KnzzEP メイド妹「はい♪ どっちにする?」 勇者「――」 将官「勇者殿?」 冬寂王「しっ」 勇者「――」 メイド姉「……ゆうしゃ、さま?」 勇者「公布を出そう」 商人子弟「公布? 新しい税ですか? 法律ですか?」 勇者「南部諸王国三カ国は、湖畔修道会を、  国家宗教として認めると。正当なる光の精霊信仰だと」 将官「へ?」 勇者「そうだよなっ! 別に1つしかないなんて決まりは無いし!  二つあっても良いじゃんな! 選べた方が幸せじゃん!  そうしよう! そうしようぜ。おい、起きろ、女騎士」ぐらぐら 女騎士「う、うぅうーん」 勇者「で、印刷機でどんどん刷らせよう! ほら、例のさ!  メイド姉の演説? あれを表紙にして、湖畔修道会の教えをさ。  農業技術だって載せちまおうぜ! なぁ、いいじゃないか。  教科書の代わりにもなる。なんだったら種芋の引換券を  つけちゃうってどうだ!?」 氷雪の女王「それにどういう意味があるのだ?」 勇者「頂点を二つにするのさっ。広報戦争だっ」 ****231 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22:53:01.12 ID:I7KnzzEP ――湾岸都市、商業区、大きな商業会館執務室 青年商人「は?」 辣腕会計「えっと、ですから……。もう1つの教会である、と」 青年商人「……湖畔修道会が?」 辣腕会計「ええ、少なくとも南部三カ国通商同盟はそう公布しました」 青年商人「……」 辣腕会計「どう、されました?」 青年商人「ふふふふっ」 辣腕会計「?」 青年商人「ふははははははっ! そうですか!  そんな手を打ちましたかっ!  誰ですかね、これは。  あの人かな。いや、違う気がしますね。  あの人はああ見えて保険を忘れない人ですから。  私にも言質はくれませんでしたしね。  このやぶれかぶりっぷりは、勇者ですかねっ。  あはははっ!」 辣腕会計「委員……」 青年商人「そうですか、もう1つの教会。あははっ。  これはすごい、傑作ですね! 聖光教会の偉いがたは  赤、青を通り越してどす黒くなっているのではありませんか?」 辣腕会計「それはもう。すさまじい怒声だそうです」 ****236 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22:59:20.48 ID:I7KnzzEP 青年商人「あははは。素晴らしいっ!  見世物だとしたところで、金貨千枚の価値がある!  あの老人達も冷水を浴びせかけられたような気分でしょうよ」 辣腕会計「それはそうですよ。まったく!  自分達が異端指定した人物を、聖人に祭り上げた挙句に  真っ向から対立されたんですよ?」 青年商人「情勢は?」 辣腕会計「それは、中央聖光協会が圧倒的な人数と支持ですよ。  当たり前ですがね。ただ、気になることも……」 青年商人「気になること?」 辣腕会計「こんなものが配られているんです」 青年商人「紙ですか? まだ高価でしょうに」 辣腕会計「いえ、それが、どうやら氷の国に工場なるものが  あるらしく……」 青年商人「工場?」 辣腕会計「工房に似たもののようです。  沢山紙を作っているのだとか。さらにそれを鉄の国で  印刷なる方法で、文字を記しているようで」 青年商人「ふぅむ。なるほど、これは……  ハンコのようなもののようですね」 辣腕会計「ええ、読めば判りますが、どうもこれは……」 青年商人「……」こくり 辣腕会計「ええ、そうです。  農奴の権利開放を意図しているようなんです。  ですから、南部に近い王国では、この半月で  ずいぶんな数の農奴が三カ国通商同盟に流入しているらしく」 ****240 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 23:05:31.15 ID:I7KnzzEP 青年商人「ほほう」にやっ 辣腕会計「驚きませんね」 青年商人「彼らなら、それくらいはするでしょう」 辣腕会計「そうですか」 青年商人「『同盟』内部の状況はどうです?」 辣腕会計「教皇派は3人のようです。三カ国派は2名。  残りは中立です。資産状況はこちらにまとめました」   ペラッ 青年商人「まだ機は熟していませんが……。  こちらも動き出すべきのようですね。小麦の価格は?」 辣腕会計「先週より2ポイントあがっています。上昇基調ですね。  冬ですし、このところ中央大陸の景気は低調ですから  しかたありません。今年も餓死者が出そうです」 青年商人「買いです」 辣腕会計「買い、ですか? 『同盟』の抑えている小麦を  放出すれば、かなりの利ざやが期待できますが?」 青年商人「……まぁ、そういう意見が多いでしょうから  “まだ値上がりしそうなので買い”と。しておきましょう」 ****243 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 23:12:32.27 ID:I7KnzzEP 辣腕会計「は、はぁ」 青年商人「小麦の買い指定は、とりあえず6ポイント上乗せまで  『同盟』全て、それに取引のある商人に回してください」 辣腕会計「了解」 さらさら 青年商人「それから、これは『同盟』内部の担当部署に  向けての発注です。鉄鉱石、木炭、銀。全て買いで」 辣腕会計「ポイントは?」 青年商人「不自然にならない範囲で、部署に任せます」 辣腕会計「はっ」 さらさら 青年商人「来週には100ポイント、来月一杯で250ポイントまで  小麦を買い付けますよ」 辣腕会計「っ!?」 青年商人「どうしました?」 辣腕会計「3倍以上の値段ですよ!? それは常識外れですっ!  そんな買いなど、聞いたことがありません。  だいたいそれだけの資本金をどうやって調達するんですか!?」 青年商人「調査して貰った資本で十分にまかなえますよ」 辣腕会計「それにしたって常軌を逸しているっ」 青年商人「あはははっ。そう見えるだけです。  わたし達は、買い付けなんかをしている訳じゃないんですよ?」 辣腕会計「何をしていると云うんですかっ?」 青年商人「王国の金貨を、売っているんです」にこっ ****343 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/11(金) 15:53:53.03 ID:sQx9tPoP ――冬の王宮、広間、対策会議 将官「国境街道で見る限り、昨日は12人ですね」 勇者「うーん。思ったようもペースが鈍いな」 冬寂王「ふむ」 メイド姉「やはり、自由という考えは  受け入れられないのでしょうか……」 勇者「まぁ、難しいってのはあるだろうな」 冬寂王「言葉のない者に言葉を教えるようなものだからなぁ」 氷雪の女王「でしょうね……」 女騎士「いっそ、こう。どかんと人さらいをだな」 勇者「お前、本当に聖職者か?」 冬寂王「だが、あまりペースが遅いと冬が終わってしまうだろう」 勇者「そうだな、少なくとも冬の間にある程度の数を  取り込まないと、結局は既存路線の強さが出てしまうだろうし。  時間を掛けると、あっちの教会は信者も聖職者も  わんさといるんだ。押し負ける。  うーん……  文字を読む、ってのが意外とハードルが高いのかもなぁ」 女騎士「説法士を派遣はしているのだが、  湖畔修道会全体で50人も居ないのだ。  とても大陸はカバーできない」 勇者「ふむ……」 氷雪の女王「説法士ですか。――説法ではなくとも  良いのではないですか?」 女騎士「ん? 当てがあるのか?」 ****346 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 15:56:27.27 ID:sQx9tPoP 氷雪の女王「詩人はどうですか?  我が国は吟遊詩人のふるさとです。  幸い今は冬ですから、旅回りの吟遊詩人達も王都に  集まっているでしょう。  彼らに報償を出して、諸国で歌って貰うのですよ。  内容は、新しい修道会の教えで良いでしょう?  そして、三カ国の行いも歌って貰う。  歌は強いですよ? 農民でも節回しさえあれば  かなり難しい言葉を覚えてくれるものです。  覚えてくれれば、吟遊詩人が立ち去ったあとでも  歌の響きが続くでしょう」 女騎士「それは良い考えだな!」 勇者「どれくらいの人数が居るんだ?」 氷雪の女王「そうですね。腕の如何を問わなければ  500人近くは居るかと思います」 冬寂王「よし、早速依頼しよう。  旅の支度金はこちらで用意してもかまわぬぞ」 氷雪の女王「そうですね。……いっそ、吟遊詩人には、  この国当ての紹介状を書かせ、沢山の開拓民を  送り込んでくれた吟遊詩人には開拓民ひとりにつき、  金貨1枚の褒賞を与えるという事にしたらどうでしょう」 勇者「ああ、それがいいな! えっと、なんだっけ。  学士がいうところの、いんせんちぶだ」 冬寂王「いんせんちぶ?」 勇者「やる気があるやつに金を出す、みたいな意味だよ」 ****348 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 15:57:34.68 ID:sQx9tPoP メイド姉「あのぅ」 冬寂王「ん、どうしたのだ?」 メイド姉「今回の目的は、戦争じゃないんですよね?」 冬寂王「ああ、そうだ。出来れば戦争は避けたいと思っている」 氷雪の女王「そうですわね。  魔族の襲撃が何時あるか判らないこの状況では  争うのは愚かという他ないですわ」 メイド姉「では、教会とは喧嘩をするべきではないと思うんです」 勇者「……ふむ」 女騎士「どういうことだ?」 メイド姉「たぶん、教会のひとたちは、修道会の説法士さんや  吟遊詩人さんをあしざまに罵倒すると思うんです。  嘘つきだとか、悪魔の使いだとか……背教者だとか」 勇者「するだろうな」 女騎士「馬鹿の一つ覚えというやつだ」 メイド姉「ですけれど、そこで喧嘩を買ってしまったら  戦いになってしまいます。  人間同士で戦いはしたくないですよね」 冬寂王「そうだな」 メイド姉「ですから、説法士さんや吟遊詩人さん、  それをいうならばこれから印刷する紙にも、  教会を非難するような内容は盛り込むべきでは  ないと思うんです」 ****349 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16:00:24.41 ID:sQx9tPoP 女騎士「とはいえ、あいつらの根性が曲がっているのは  確かなことだぞ。やられっぱなしではないか」 メイド姉「そうかもしれませんけれど、  大部分の信仰者の人は、本当に光の精霊様を信じているだけの  普通の人々なんですよ? そういう人まで争いに巻き込んでも  益はないはずです」 勇者「そうだな……」 女騎士「では、無視か? こう、つーんとな。  馬鹿は相手にしないっ。と」 メイド姉「それもあまり適当ではないと思うんです。  むしろ、褒めて良いと思うんですよ。  光の精霊様は尊い存在です。  正直、勤勉、平和。  そう言った点では同意が出来ると思うんです。  ですから、中央の聖教会も否定せず、その信仰を  守っている人も尊重すべきです」 氷雪の女王「それでは開拓民達を勧誘できないではないか」 メイド姉「それは手法の差で表現するんです。  南方の荒れ地は未だ開拓されていない。  そこには苦労もあるけれど、チャンスもある、と。  のうちを手に入れる機会は、精霊様がくれたものです、と。  南部の諸王国は、新しい開拓民を求めていて、  そこには農奴制度はなくて、誰でも頑張って働きさえすれば  飢えないだけの実りが取れる。租税もかなり安いぞ、って」 冬寂王「……夢見がちな理想論を唱えるかと思えば  嫌になるほど冷静な現実を武器として持ち出すな」 勇者「あいつの教え子はみんなそうなるんだよなぁ」 ****356 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16:36:56.25 ID:sQx9tPoP ――湾岸都市、商業区、大きな商業会館執務室 辣腕会計「委員、小麦の価格が多くの都市で  +6ポイントまで上昇しました」 青年商人「市場動向はどのような印象ですか?」 辣腕会計「貴族や商人はむしろ好感触のようですね。  手持ちの小麦に余裕あるからでしょうか、  換金する動きも見て取れます。  農場主は警戒感を強めています。  彼らにとっては冬の間の食料ですからね。  しかし、金額によっては手放すものも少なくありません」 青年商人「そうですか」 辣腕会計「今のところ相場の上昇は例年とそう変わりなく  ある意味織り込み済みですから激しい反応は出ていませんが」 青年商人「了解です。――次の手を打っておきましょう。  “生産物買い取り証書”の発行、ですね」 辣腕会計「聞き慣れない言葉です。なんですか?」 青年商人「今でっち上げましたからね。まぁ、聞いてください」 ****359 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16:41:25.91 ID:sQx9tPoP 辣腕会計「黒板に板書してみます」カッカッ 青年商人「現在は冬です。冬小麦は秋に籾を蒔き、冬を越えて  初夏の収穫と云うことになりますね。  現在畑に籾はあるけれど、収穫はまだまだ……そうですね、  6ヶ月は先でしょう。  この先、畑にはどんなトラブルがあるか判らないが、順調に  行けば半年後には収穫が望める」 辣腕会計「ふむふむ。まぁ、常識ですね」 青年商人「しかし、何らかのトラブルの発生で小麦の生産が  減ってしまうと、地主や領主の収入は激減してしまう。  またはそうでなかった場合でも、天候に恵まれて大豊作に  なってしまっえば小麦の相場が安くなってしまう」 辣腕会計「ふむ」 カッカッカッ 青年商人「そこで、“小麦引き渡し証書”の出番です。  つまり、“できあがった小麦を買い取る約束”です」 辣腕会計「それは、代金を先払いするという意味ですか?」 青年商人「そうです」 辣腕会計「地主や領主は手元にない麦でも売れるわけですね」 青年商人「そうなりますね。しかし、引き渡し時期……  年明けの初夏には、契約した量の小麦は必ずそろえて貰う」 ****362 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16:47:34.92 ID:sQx9tPoP 辣腕会計「つまり豊作であれば、領主達は、  “小麦の販売時と引き渡し時の差益”を得ることが出来る」 青年商人「引き渡し時に凶作などの理由で相場が上昇していれば  わたし達は“相場より安い金額で小麦を手にする”ことが出来る」 辣腕会計「相場が上昇する読みはあるのですか?」 カリカリ 青年商人「中央聖王都と教会が異端告発を意図している以上  戦争が開始される可能性は高いでしょうね。  それに――仮に戦争が回避されても問題はないでしょう」 辣腕会計「なぜです?」 青年商人「戦争がなければ、その人口は減らない。  今まで足りなかったのは、資本と輸送力。  それから市場間の“膜”ですよ。  食べる口さえあれば、人為的な小麦の枯渇を作れる、  小麦相場が下がることはあり得ない」 辣腕会計「……」ごくっ 青年商人「もし仮に、大陸の小麦生産量がわたしの予想より  倍も大きければ『同盟』は破産するかもしれませんけどね」 辣腕会計「……なるほど。  人為的な相場形成の一つの手段にすると。  となると、この“小麦引き渡し証書”は  最終的には、貴族を縛る鎖となりますね」 青年商人「それも一つの過程。あり得る選択肢ですね」 ****364 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16:49:48.13 ID:sQx9tPoP 辣腕会計「意図がよく判りませんね」 青年商人「領主や地主の判断を重くするんですよ。  来年の小麦相場のことを考えさせるのです。  “小麦引き渡し証書”がこちらの手にある限り  それは云ってみれば、多量の小麦を借りているに等しい状況。  自領内の畑を損なうような動きは取れない。  また、初夏の収穫から、あらかじめ引き渡す分は  除外して考えなければならない」 辣腕会計「そうなりますね……」 青年商人「小麦の流通のイニシアチブを押さえるのが  目下の目的です。そこが第1段階のステップ。  初夏になっても小麦を自由に出来る量が少ない。  手元にはさほど残らない。  しかも小麦は高騰を続けていたら……。  なにも本当に高騰している必要はない。  “そうであったら困る”。  そう思って貰うだけで、その不安は利益になります。  証書を発行して、王国の金貨を渡しましょう。  なに、安い投資ですよ」 にこにこ 辣腕会計「……」ぞくっ 青年商人「中央貴族の皆さんには、  今しばらく長い冬を味わって貰おうじゃないですか。  楽しい舞踏会の始まりです。  この円舞曲。――買い、売り、交換する。  その響きが大陸を満たすまで」 ****368 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17:23:08.38 ID:sQx9tPoP ――開門都市、自治議会、執務室   コンコンッ 東の砦将「開いてるぞー。どうぞー」 火竜公女「ごきげんいかがかや、砦将?」 東の砦将「可もなく不可もなく。  天気は良いが仕事は山積み。  やってもやっても終わらんな」 火竜公女「やってもやっても終わらないのであれば、  やらなくても良いのではないかや?」 東の砦将「おお! 尻尾のお嬢はいいこというなぁ!!」 副将「全然良くありませんっ!」 だむんっ 魔族豪商「ははは。相変わらずだのぅ」 火竜公女「これはこれは! 八鎧のお爺さまっ」 東の砦将「通商の用件で尋ねてきてくださったんだ」 火竜公女「それはお邪魔をしましたかや?  妾は席を外す故、お話などゆるりと」 魔族豪商「かまわんよ。話は簡単なもので、  ものの数分で片がついてしまったわ。  じつに剛胆な御仁じゃな」 ****369 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17:25:17.44 ID:sQx9tPoP 東の砦将「いやいや。自治都市とは名ばかりの  張りぼて所帯ですからね。  商売に来てくれるってんならこんなにありがたい  事はないってやつですよ」 副将「ええ、本当に。ああ、公女様、加糊茶をどうぞ」 魔族豪商「はっはっは。こんな具合で、細かい書類も調べも  袖の下もな。何にもなかったんじゃよ」 火竜公女「それはもう。  この開門都市は自治委員会で運営されていますゆえ。  執行役とはいえ、賄賂なんてもらったら一発で首を  撥ねられてしまうのです。  ――お爺さま? この都市には何を商いにいらっ  しゃったのですか?」 魔族豪商「なぁに、細々とした日常品じゃよ。  塩、鉄、馬鈴薯に、玉蜀黍。可可樹。綿花。  それに砂金を少々」 火竜公女「そんなことを云って、お爺さまの商会は  いつでも大商いをなさるではありませぬか」 東の砦将「豪商どのは馬鈴薯を入れてくださることに  なってな。塩を求めているらしいんだが……」 副将「いやはや」 魔族豪商「以前は極光島から潤沢な塩が送られてきた  ものだがな。いや、あれは痛かった」 火竜公女「そうでありました……」 ****371 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17:27:48.78 ID:sQx9tPoP 魔族豪商「いやいや、人間である砦将殿が居る前で、  詮方ないことを云ってしまった。老人の繰り言と  思って許されよ」 火竜公女「……」ちらり 東の砦将「いやいや。お気遣いなどなさらずに。  開き直るわけではありませんが、我らも沢山の  魔族の方を手に掛けた。我が部下も沢山散っていった。  争いもこの世の習いの一つですから……。  今は明日を生きることが出来ることを感謝したいと。  ――そう思います」 魔族豪商「若いのに、肝が据わっておるの」 東の砦将「塩は何とかしてみましょう」 魔族豪商「ではよろしく頼みましたぞ。  いや、茶を馳走になりましたな」 東の砦将「副将、お送りして差し上げてくれ」 副将「はっ!」  ザッザッザッ。ガチャン 東の砦将「存在感のある爺さんだな」 火竜公女「それは、お爺さまは魔族でも重鎮ですゆえ。  ああ見えて、昔は相当強面だったとの話」 ****372 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17:30:50.81 ID:sQx9tPoP 東の砦将「さぁて、話がある」 火竜公女「妾もですわ」 東の砦将「先にそちらを聞きましょう」 火竜公女「気になることがありまして。  ……砦将どのは蒼魔族をご存じかや?」 東の砦将「蒼魔族ですか? 戦ったことはあるが、  あんまり詳しくはないな。そもそも、あのころは  魔族の見分けもついちゃ居なかった」 火竜公女「蒼魔族とは蒼い肌をもつ魔神の末裔たる魔族。  魔界四氏族の一つにして、勢力も強い一族なのです。  中には小型の者から大型の者まで、様々な亜種族を  含みますが、総じて魔力、戦闘能力に秀でております」 東の砦将「ふむ……」 火竜公女「我ら竜族、妖精族などとはあまり交わろうとは  しませぬね。我らもまた他族と交わる気風を持ちませぬが。  ――蒼魔族は歴代のうち4名の魔王を輩出した、大氏族と  いえるでしょう。そして、人間界を欲する氏族でもあり  まする」 東の砦将「どうもきな臭い氏族だな」 火竜公女「その蒼魔族を最近、この都市で見かけると……」 東の砦将「……」 ****374 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17:32:10.76 ID:sQx9tPoP 火竜公女「妾も直接確認したわけではないが、  そのような話が出ております。  開門都市はいまや人間族と魔族が混交した珍しき地。  もちろん蒼魔族が住まって悪いわけではないのです。が」 東の砦将「気になる、と」 火竜公女 こくり 東の砦将「判った、配下を出そう。  いや、魔族の方に頼んだ方が目立たないかな?  とにかく、手を打ってみますよ。お任せあれ」 火竜公女「感謝いたします。……して、そちらの用件は?」 東の砦将「あー。んー。さっきのな」 火竜公女「?」 東の砦将「豪商どのの求めているのは塩なんだ」 火竜公女「はい、そのようで」 東の砦将「でも、この都市にも今そこまでの塩の備蓄はない」 火竜公女「はぁ……」 東の砦将「調達してきてくれないか?」 火竜公女「それはそれで無体な要求。塩の需要はどこでも  高く、随分高価です。我が一族の領内にも塩山はひとつ  しかないのですよ?」 東の砦将「いや、まぁ……。行く場所はあるんだ」 火竜公女「?」 東の砦将「人間界だよ」 ****386 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18:00:02.88 ID:sQx9tPoP ――思い出の庭、魔王の回想 魔王「……ん。……うぬぬ! うわぁっ!?」  きょろきょろ 魔王「もうこんな時間か。……おわっ。な、なんだ。  背中が痛いぞ。と云うか、全身が痛む……。  な、なぜだ」 メイド長「“こんな時間か”、が二日ぶりだからですよ」 魔王「おわっ」 メイド長「いい加減にしないと身体をこわしますよ」 魔王「うーん。しかし、面白いのだ、止められん」 メイド長「気持ちはわかりますが」 魔王「そちらはどうなんだ?」 メイド長「わたしの専門は実技を伴いますからね。  身体を動かして技術を身につける以上、  そこまで本や資料を読みあさって、  筋が硬くなるなんて事はないんですよ」 魔王「そういえばそうか」 メイド長「お茶でも入れましょうか?」 魔王「なにも気を遣わなくても良いのに」 メイド長「あなたには恩がありますからね」 魔王「あれは行きがかり上だ」 ****387 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18:01:10.10 ID:sQx9tPoP メイド長「だとしても奴隷だったわたしには救いでした」 魔王「……」 メイド長「いえ、別にそれだけが理由ではありません。  そんなことより目下重要なことがあるんです」 魔王「なんだ? 新しい研究か?」 メイド長「ええ、お茶を出すときの新しい作法です」 魔王「何だ、作法に新しいだの古いだの、いらないだろうに」 メイド長「必要なものだけがある世界なんて  味気ないじゃありませんか。これも彩りです。  そもそも“メイド道”は彩り重視なんですよ」 魔王「お茶がもらえるならありがたくもらうけど」 メイド長「承知しました、お嬢様」 魔王「お嬢様ぁ?」 メイド長「演出の一環ですよ。しばらくお付き合いください」  とっとっとっ 魔王「しかし、我が一族は奇人変人ばかりだが……  というか奇人変人が我が一族になるわけだが、  あそこまでの変わり者もなかなかいないなぁ。  部屋が片づいて良いけど」 魔王「……」 ****388 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18:03:26.08 ID:sQx9tPoP 魔王「――ファンダメンタルズ、最適化、パレート  ――債権、内需、所得、産業、成長率、空洞化」 魔王「興味は尽きないな。これはおそらく、価値観か」 魔王「名前、が本体なのだろうな。  概念に名前――名詞をつけることによって、  新しい価値観が発見/創造される。   この場合発見と創造は同じ行為で、その瞬間に世界が  拡張される。  新しい視座を得て、今までの全ての事象は再評価されるわけだ。   つまり、視座の数は、世界に対する係数。  視座を多く持つほどに多くの世界を見ることが叶う。  それが知識の、学習の意味。  我が一族の、存在意義。   我らは概念に名前をつける。  新しい概念で世界を拡張する。  概念と概念は時に出会い、融合して、生み出した我々にも  思いつかなかったような変化を遂げることがある。   それは、我らが手にする実り。  世界の、果実。  理論面においてはl=n(n-1)/2を取るのかな。   素晴らしいな。……知ることは素晴らしい。  けれど、それ以上にこの世界は素晴らしいな。  この世界には、この世界を加速度的に拡張する存在が  沢山いるんだ。  それは魔族だけじゃなくて……」 ****389 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18:05:54.96 ID:sQx9tPoP 魔王「……“魂持つ者”」 魔王「そう呼べたら素敵だな。  あの向こうには、どれほど豊かな世界が広がっているんだろう?  二つの世界が出会ったら、どれだけの組み合わせ爆発が  起こるんだろう? 概念と概念が融合し、どんなに  素晴らしい世界を見せてくれるんだろう?」 魔王「人間、世界か……。  ただの魔物の一匹であるわたしには、触れ得ないだろうけれど。  城ってどんなものなんだろうな。  村って云うのは、魔族のそれといっしょなのかな。  なかなかにもどかしいな。  映像資料がもうちょっと充実してればよいのだろうが……」 魔王「我らも、物も、貨幣も流れる。  決して留まりたるを知らない。  時も流れる。  でも、現われたものは、けして消えない。  消えたかに見えて、必ずや残る。  この瀬良の図書館のように。  いくつも、いくつも、数千数億の世界の記録が  歌っているのが聞こえる。  何でみんなには聞こえないのかな?」 魔王「こんなにも見つけて欲しいと  誇らしげに、高らかに、歌っているのに。  わたしの想いも、  やはり誰にも……届かないのかな」 ****392 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18:07:46.47 ID:sQx9tPoP メイド長「お嬢様、お茶が入りました」 魔王「ん? 何だ、そんなところに立って」 メイド長「……新しい作法でして」 魔王「ふむ」 メイド長「きゃー」 魔王「きゃー?」 メイド長「あー、ちょっと、ちょっと。わわわ、きゃふうん」 魔王「何を言っているんだ?」 メイド長「ここで素早くカップを投げつける」 魔王「へ?」  ばしゃぁ! 魔王「熱っ! 熱っ! 熱いではないかっ!!」 メイド長「だ、だいじょうぶですかぁ。きゃふーん」 魔王「なんで雑巾っ、こっ、こらぁ!!」 メイド長「新しい作法でございます」すちゃ 魔王「……」 メイド長「まったく知識は素晴らしい。  研鑽に果てはございません」きらきらっ 魔王「どんな資料を参照しているのだっ!」 #right(){{&link_up(ページトップへ)}} ---- #center(){[[<前4-1へ>4-1]]|[[次4-3へ>>4-3]]} ----

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