3-2

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#center(){[[<前3-1へ>3-1]]|[[次3-3へ>>3-3]]} ---- **魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」3-2 ---- ****392 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:23:15.26 ID:CkBATQ0gP 司令官「ちがうのだ! 居並ぶ王国重鎮の方々!  聖なる光の精霊教会の方々! 我は決して決して  王国を裏切ったわけではないっ!」 軍閥貴族「何を言う! あの開門都市を落とすのにどれだけ  血が流れたか判っているのかっ!」 富裕貴族「二年ですぞ! 二年の準備期間と、多額の戦費。  それこそこの大陸を搾り取るように作った戦費を浪費した  あの第2回遠征の全てを、貴公は無にされた!」 司教「魔界を光の教えに導くのが精霊様のご意志だったのです。  あなたは教会信徒9500万人の願いと希望を侮辱なされた」 司令官「違うっ! そ、そ、そうだ!  わ、われは逃げたわけでは無い。  そっ、そうだ。援軍に向かったまで! 我は決して逃げてなど」 軍閥貴族「黙れ、怯懦の輩がっ!」 司令官「あのとき、開門都市は恐ろしい敵の攻撃に  晒されていたのだっ。戦略上の決断は司令官の権限だっ」 軍閥貴族「ふんっ」 司教「ではどのような敵だというのです」 ****396 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:29:51.24 ID:CkBATQ0gP 司令官「そ、それは……水と、炎と……影と、死の魔物……」 軍閥貴族「見たのか?」 司令官「姿を見ることが出来るような相手ではないのだっ。  夜陰の乗じた卑怯な奇襲が繰り返され、我が部下達は次々と  倒れていった! け、警備体制は崩壊し、士気は減衰。  と、とても統治を維持できるような状態ではなかったっ。  そ、そうだ!  反乱だ! 反乱も起きたっ!」 軍閥貴族「ほほう」 司令官「魔族どもが反乱を起こしたのだ。  我ら一万の将兵は死力を尽くして戦った。  戦って戦って戦い抜いた!  我が剣は血糊と刃こぼれで使い物にならなくなったのだ!  あれはまさに死線だった。我らは九死に一生を得て帰ったのだ。  我は、精霊より預かった、聖王国の宝とも云える  遠征軍を失わずに連れ帰ろうとしただけだっ!!」 軍閥貴族「あははは」 富裕貴族「くくく、はははは」 司令官「笑うなっ! な、何がおかしい!?」 軍閥貴族「開門都市に駐留していた軍は約9000。  その九千が千も減らずに極光島沖に現れたという。  それだけの軍勢を温存しうる死線とはどのようなものか。  貴公は500の兵卒も失わないうちから撤退をしたのかっ」 ****400 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:36:26.34 ID:CkBATQ0gP 司令官「~っ!!」 軍閥貴族「恥を知れっ!」 司令官「だがしかし!  我らが現れたおかげで極光島の戦役に終止符が打たれたのは  確かではないか! 我が増援で人類の版図であるあの島の  奪還は成ったのだ!  極光島攻略の第一の功は我にあるはずだっ!!」 富裕貴族「軍監および教会の情報によれば、  すでにあの時点で戦闘は一旦の終結を向かえ、  極光島城塞は南部諸王国軍に包囲された状態にあったと云います。  貴公の――あえて聖鍵軍とは云いますまい。  貴公の私軍はその戦いの最後に現われ、  しかも魔族の残存兵力を殲滅するでもなく、いたずらに兵を失い、  魔族の突破を許しただけではありませんか」 司教「8000の兵のうち2500も失い、申し開きのしようも  あるものか!!」 司令官「我らは広大なる魔界の辺境に荒野を彷徨い、  疲れ果てていたのだ。あのような突撃など、悪夢の突撃などっ  防ぎうるはずもない。あれは天与の災いだったのだっ!」 ****407 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:50:00.91 ID:CkBATQ0gP 軍閥貴族「いい加減聞き苦しいわっ」 富裕貴族「ふっ。吠える犬は溺れても治らぬようですな」 司令官「東の砦将だっ! ヤツがっ!  ヤツが魔族と謀り、我を陥れたのだ! 慈悲を!  どうかもう一度機会をっ! 我ほど魔界に詳しい  将はいないはず! 必ずやあの蛮族の土地を  聖王の膝下に捧げるっ! どうか、どうかっ!」 軍閥貴族「いかがいたす? 司教殿」 司教「ここで一つの罪を許すことは  聖なる教会の信徒9500万人にたいする罪を犯すこと。  わたしの心は悲しみで裂けそうですが。  くくくっ。  この病犬の罪は磔刑が相応しいものでしょう」 司令官「待ってくれ! 今少し、今少しの猶予を!」 軍閥貴族「軍律に照らしても貴公の極刑は避けられぬ」 司令官「東の砦将めぇ! 下賤の生まれの夷狄めっ!  薄汚い傭兵めっ! 許さぬ、魔族と通じおって許さぬぅっ!」 富裕貴族「狂ったか」 司教「醜い狂いざまですな」 ****410 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16:57:19.64 ID:CkBATQ0gP ――冬の国、王宮、予算編纂室 商人子弟「うわぁん、忙しいよ。どうなってんだよ」 将官「だ、大丈夫ですか?」 従僕「僕お茶を入れてきますっ」 商人子弟「お茶なんか良い! 逃げるな! 整理しろ!」 従僕「ふぇぇーん。もう目がしばしばしますぅ」 商人子弟「ちょっと泣きべその方がもてるんだ。  お前みたいなショタっ子は特になっ! 下兄貴が云ってたぞ」 従僕「ふぇぇぇーん。ふぇぇーん」 将官「容赦がありませんね」 商人子弟「冬寂王が僕に判らせてくれたんだ……。  容赦なんかしてると自分の方が酷い目に会うって」 将官「なるほど」 商人子弟「見ろ、この書類の山をっ!」   どでーん!! 将官「でも、商人子弟さんが来るまではこの六倍  あったんですよ。もはや残敵掃討戦ではないですか」 商人子弟「王国経営する気無かったとした思えない!」 ****414 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:02:41.41 ID:CkBATQ0gP 将官「いや、冬寂王はあれでも名君って云われてるんですけどね」 商人子弟「そうなのか……。ノリで統治してるんじゃなかったのか」 従僕「そうですよ! 王様は格好良いですよ?」 商人子弟「とはいえなぁ、この惨状はなー」 将官「まぁ、三国通商協定や極光島奪還が成功するまでは  こうじゃなかったんですよ。その頃から書類仕事が  莫大に増えてしまったわけで」 商人子弟「ふむふむ。……その辺に解決のヒントがあるのかな?」 将官「そうなんですか?」 商人子弟「“問題を考えてはいけない。解決方法を考えよ”  これが先生の教えだ。ちょっと聞かせてくれないか?」 将官「もちろんかまいませんが」 商人子弟「おい、従僕くん。お茶を頼む」 従僕「ふぁい! あの、ぼ、僕の分も良いですか?」 商人子弟「ああ、いいぞ。将官さんの分もだ」 従僕「はいっ! すぐ入れてきます!!」   たたたっ ****416 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:07:33.57 ID:CkBATQ0gP 商人子弟「わんこみたいなヤツだな」 将官「可愛いですね」 商人子弟「しっかり仕込んでやらにゃぁ、僕が死んでしまう」 将官「そうですねぇ、これは流石に……」   ごちゃらぁ 商人子弟「で、話の続きなのだけど」 将官「そうですねぇ、どこから始めましょうかね……。  うーん、お役に立つかどうかは判りませんが。  例えば、南部諸王国には貴族領が無いんですよ」 商人子弟「そうなのか? でも、書類には、男爵だの侯爵だの  色々出てくるぞ?」 将官「うーん、その辺が難しいんですけれどね。  恩貸地ってわかりますか?」 商人子弟「授業で聞いてるから、だいたいは。  王が臣下に土地を与えるということだろう?  報酬として与える物だったと思うけれど」 将官「そうです。それが判ると早いですね。  南部諸王国は冬が長く貧しいわけです。基本的に貧乏国ですね。  本来は人が住むには適していなかったわけですよ。  昔は今よりももっとそうでした。暖房とかが不十分でしたし」 ****417 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:14:42.38 ID:CkBATQ0gP 商人子弟「ふむふむ」 将官「ですから、国なんて偉そうなことを云っても、  それほどたいした組織じゃないんですよ。人も少ないし。  王とは名ばかりの、領主の親玉みたいな存在が  一人で土地の隅々まで見てれば良かったわけです。  どうせ監視が必要な土地はちょっぴりで、ほとんどは  耕作に適さない深い森や荒れ地や山地なんですからね」 従僕「熱いお茶を入れてきましたぁ」 商人子弟「おお、ありがとう。……うん、続けて」 将官「ですから貴族という名前がついていても、  大陸中央部とは意味合いが違うんです。  大陸中央部では、貴族というのは王から恩貸地を授かった  多くの場合、武力を持った領主です」 商人子弟「ふむふむ」 将官「当然、授かった土地は自分の物ですから、  自分で――もちろん農奴にやらせるわけですが、  開拓したり耕作したりして、作物も自由に取り立てます。  通行税なども貴族が自由に設定して取り立てますね。  賦役といって、農奴を強制労働させるのも自由です。  ですから大河や港を領地にもつ貴族は金持ちになります」 ****418 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:21:17.88 ID:CkBATQ0gP 商人子弟「ふむふむ。ああ、それで同じ国の中でも  何回も通行税を取られたり、  場所によって税が違ったりするのか」 将官「そうですね」 将官「王の側から見ると、王の直轄地は、  つまり自分が貴族であるのと同様に経営を行います。  開墾や税の設定などは王自身が決めるわけですね。  それ以外に臣下の貴族からの上納金が入ってきます。  さらには商人や教会からの献金もありますね。  ですから収入が複数あって、普段から税の処理は複雑です。  そのため、税収人が沢山いるし、担当の文官も多い」 将官「そこへ行くと南部諸王国は土地も痩せているし  貴族に対して恩貸地を与えるほどの良い土地もない。  南部諸王国で云う貴族というのは、名誉職であるか  宮廷内での位を表すんですよ」 商人子弟「それで文官の数が足りないのか……」 将官「付け加えると、軍の招集にも大きな差があります」 商人子弟「へ? 税と何か関係があるのか?」 将官「ええ。中央部では、王はもちろん軍をもっていますが、  その数はけして多くないんですよ。  そうですね……霧の国のような大国でも700程度ではない  でしょうか?」 ****421 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:25:57.46 ID:CkBATQ0gP 将官「王は戦争を行う場合、貴族に召集令を発布するんです。  貴族は土地を与えて貰っている代償として、  この招集に応じる義務があります。  貴族はさらに臣下の騎士や戦士に招集を掛けます。  こうして軍が集まるんですよ。  軍の規模は、王の直属の配下の十数倍になることが殆どです。  こうした招集は、当たり前の話ですが  集合までに時間がかかります。  また、あまり長い間拘束は出来ません、  貴族の側に負担があつまりますからね。  でも、メリットとしてはお金が殆どかからないという点が  あります」 商人子弟「なぜだい? 戦争するには金が必要だろう?」 将官「自分の軍を食べさせるのは貴族が自腹でやるんですよ。  “自分の臣下の面倒は自分で見る”。そういう機構なんです。  王は王の直下の軍だけ用意して食べさせれば良いんですね」 商人子弟「なんだか貴族には損ばかりに聞こえるな」 将官「いや、そんなことはないですよ。  だって、戦争で勝てば、土地がもらえるんですからね」 商人子弟「ああ、そういうことか。  恩貸地はそう言う循環で機能する訳なんだね」 将官「そうですね。ですから魔界への侵攻は多くの貴族の  関心を集めないではおかないんです」 ****422 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:31:39.75 ID:CkBATQ0gP 商人子弟「つまり、貴族は賭けをしているわけだ。  自分の君主が勝てば、自分も儲かると」 将官「その通りです」 商人子弟「南部諸王国はどこが違うんだ?  というか、南部諸王国は貴族が居ないのだから  軍もすごく少ないんじゃないのか?」 将官「南部諸王国の軍は、中央と違って常備軍なんですよ」 商人子弟「ああ、それも授業で聞いたなぁ。  軍事のことだからあまり覚えてもいないけれど……」 将官「南部諸王国の軍の最大の目的は、魔族の侵攻を防ぐこと  ですよね。そのような目的では、召集令を出してから集合する  貴族の軍では動きが遅くて間に合わない」 商人子弟「当たり前だな」 将官「だから、常備軍。つまり“常に待機している軍”が  必要なんですよ。当然招集なんて無いから、貴族の下でも  ない。全員が王の直下にいるわけです。わたしもそうですよ」 商人子弟「だがしかし、先ほどとは逆のデメリットがあるだろう?  つまり、常駐故に集合はきわめて高速。長い間拘束しても  専用の軍なので不満は少ない。  しかし、多量の金を食うはずだ」 将官「そうですね」 ****425 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:36:43.83 ID:CkBATQ0gP 将官「その弱点を、中央からの支援金がまかなってるわけです」 商人子弟「ああ、勘定項目の中でとがっているあれだな」 将官「そうです」 商人子弟「……」 将官「判って頂けましたか?」 商人子弟「だいたいな」 従僕「僕も少し難しかったけど、わかりました!」にぱぁ 商人子弟(だが、それはつまり……) 従僕「つまり、僕たちの兵隊さんは、魔界に行っちゃったり  しないで、僕らを守ってくれるって事ですよね?」にこっ 将官「そうだよ、えらいね」なでなで 商人子弟(そういうことだ。……防衛目的の部隊。  それに金を出すと云うことは、もちろん魔族の侵略を  食い止めるという目的もあるだろうが……  “美味しい獲物、つまり魔界の領土”を南部諸王国には取らせない  そんな思惑もあるんじゃなかろうか……) 将官「どうしました?」 商人子弟「いや、ちょっと考え事を」 ****430 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:42:01.79 ID:CkBATQ0gP 将官「こんな話で参考になれば幸いですけれど」 従僕「なりました?」 商人子弟「十分に」 将官「え? 本当ですか? あれだけでっ?」 商人子弟「ああ、先生に沢山教わったからね。  まず、話には出てこなかったけれど、中央の貴族制度には  問題が他にもあると思う」 将官「どんなでしょう?」 商人子弟「それは一部の貴族が、  ――たとえば地主とか、商人とか、大工房、  あるいは傭兵部隊でもいい。そう言った勢力と癒着するのを  防げないって事じゃないかな。  だって貴族には税制の自由があるわけだろう?  だからその種の癒着がおこって、税が不公平になる。  実家は商人だからよくわかる。  毎年納める賄賂の額は、そりゃ相当なものだ。  もちろんその賄賂で港や運河の使用権を融通して貰ったり  するんだけどね。  時にはライバル商人の妨害を依頼することもある」 将官「ああ、そういうこともありますね。  わたしたち南の田舎者が都会に行くとすぐ  騙されて、ケツの毛まで抜かれるなんて聞きます」 ****432 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:47:05.86 ID:CkBATQ0gP 商人子弟「それにもう一つは、  賄賂に似ているけれどコネや袖の下だろうね」 将官「コネ、でありますか」 商人子弟「うん。そういう制度で動いているって事は  例えば役人や責任有る立場になるときに  誰かの血縁であったり、賄賂を納められるかどうかが  重要って事になってしまう。  役人になってしまえば甘い汁が吸えるわけだから  最初の段階で袖の下を使ったり、例えば血縁関係を  使って潜り込んだりするのは当たり前になる」 将官「そういえば、そんなのも聞き及びますねぇ。  都会の人の親戚自慢ってのはそう言うとこから来るんでしょうか」 商人子弟「これが答えだ」 将官「へ?」 商人子弟「判らないかな? つまり、大陸中央では  “能力ややる気があっても出世できない”傾向がある。  ならば、南部諸王国の答えは一つ」 将官「!」 商人子弟「広く一般から役人を募る。そしてその能力と  やる気に応じて給金を出す。――賄賂との、決別だ」 ****436 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 17:56:45.07 ID:CkBATQ0gP ――冬越し村、冬の始まり、メイド妹の日記 「このお屋敷に着てから三度目の冬が始まりました。  今年最初の雪です。  空がどんどん低くなって、雲がぐるぐると動いていたので  雨が降るかな、と思ったら雪でした。  べしゃべしゃして重い雪です。こういう雪は嫌いです。  当主のおねーちゃんと眼鏡のおねーちゃんが居ないので  お屋敷は静かです。  ご飯は、おねーちゃんとわたしが交代で作ります。  掃除が楽になったので、美味しいご飯を沢山勉強できます。  今日は酒場で、お料理を習ってきました。  ニジマスの香草焼きです。  おねーちゃんが当主様の書斎から、料理の本を探してくれました。  汚したら二度と口を聞いてくれないというので、  いま、紙に写しています。  文字を覚えて初めて便利だって思いました!  パイっていうのが面白そうです。  何でも包んでパン釜で焼くみたい。  このパイっていうの、作ってみたいな。  おにーちゃんは、ぼけらっとしているので  パイを作るのを手伝わせようと思います」 ****439 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:12:20.27 ID:CkBATQ0gP ――白夜の国、白夜王の宮殿 片目司令官「ええい! 黙れッ! 黙れッ!」   びゅっ! びゅうんっ! 白夜王「ふん。荒れておるではないか」 片目司令官「ふっ。疼くのだ、この目がっ。  下郎っ! 酒だ! 酒を持てっ!!」 侍従「は、はひぃっ……」 ダダダダッ 白夜王「我が宮殿の者に乱暴を働くのはよしてもらいたい」 片目司令官「うるさいっ! この目が」ガリ、ガリ、ガリッ 白夜王「ふはは。憎いのか」 片目司令官「ああ、憎い。ニクイっ」 白夜王「だがその狂気、我には向けるな、判っているだろうな」 片目司令官「ああ。感謝はしているさ。死を待つだけの  あの地下牢から替え玉まで使って救ってくれたことはな」 ****443 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:18:34.37 ID:CkBATQ0gP 白夜王「ふふ、そうだ。あの不潔な汚泥の中からな……。  貴族院の地下の地下、拷問の塔の最下層、黄泉へと通じる  ほどの深淵からお前を救ってやったのはこの我だ」 片目司令官「……」ごくっ、ごくっ、ごくっ 白夜王「思い出せるか? あの闇が」 片目司令官「ネズミがっ。ネズミが這い回り、我の目をっ。  我の目を、我の光を……。  うううっ。疼くっ。瞳が。  見えるぞ、赤黒い闇がっ。  闇が我を蝕むっ。痛い、全身が痛むっ。  殺す、殺してやるっ。東の砦将めっ! くされ魔族めっ!  我を取り囲み、愚弄しやがって!」 白夜王「そうだ、あやつらは我らを愚弄したのだっ」めらっ 片目司令官「……っ」 白夜王「冬の国の青二才め、この我をっ。この我を侮辱しおって。  何が流氷だ。何が農業改革だ。なにが生産性だっ。  やつのような詭弁を用いて戦って何になる。  やつのようなやり方、精霊が認めるはずがないっ」 片目司令官「そうだ、奴らは裏切り者だ。この世界を  暗黒に売り渡す売国奴。腐臭を放つ半人間どもよっ」 ****446 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:24:37.98 ID:CkBATQ0gP 白夜王「賢しい青二才が、西の交易を用いて  巨額の利益を上げているだと?  極光島は我ら南部諸王国共有の財産のはず。  いや、あの島にもっとも血を捧げたのは  我が白夜。  我らではないかっ!!  それをこともあろうに、なぜあの青二才が  勝利を吸い上げる。利益をむさぼるっ?」 片目司令官「ヒヒヒ、ヒヒィーッ」 白夜王「それをあの鉄腕王や、氷雪の女王までもが  英邁よ、豪傑よともてはやし、挙げ句の果ては  義勇軍として参加したものどもまでが冬の国に住み着くという。  わが白夜が凍えるような冬の厳しさに耐え  貧しい暮らしをつづけているというのに、  我を愚弄する小せがれは、我らが利益を盗んでいるのだ。  そのようなこと、精霊がお許しになるはずもないわっ」 片目司令官「アハハハハッ! 任せろ。この我にっ。  我にもはや失うべき命など無い。不死不滅の怨霊として  その青二才、我が切って捨ててくれるわ。  ははははっ。軍をよこせ! 我に手足を与えろっ!  斬って、斬って、斬り殺してやるっ!」 ****452 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:31:00.01 ID:CkBATQ0gP 白夜王「まぁ、まて。その狂気を解き放つのはな」 片目司令官「何故だ……」 白夜王「奴らを殺すのはいつでも出来る。杯に垂らす  一滴の毒、もしくは寝室に忍び込ませる短剣の一本でな」 片目司令官「ヒヒヒっ」 ごくっ、ごくっ 白夜王「あのヒヨッ子、そう容易くは殺しはしない。  やつには我が味わった、この高貴なる王者のあじわった  数千倍の恥辱を与えてやる。そうであろう?」 片目司令官「そうだっ! 屈辱の極みをっ。  裏切りの叛徒どものに、侮蔑の視線にさらされ  恥辱に灼かれる地獄を味あわせてやるっ!」 白夜王「ではまずはこの一手だ」にたり 片目司令官「……ふん? ははっ。  あははははははは!! これはいい!  そうか、そういうことかっ! あはははははは!!」 白夜王「ふふふ、そうだ。冬の王よ。お前の宝を  お前の国をばらばらにしてやろう。あははははは!」 片目司令官「あはははははははははは!!!!!」 ****460 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:36:57.16 ID:CkBATQ0gP ――冬越し村、魔王の屋敷、客間 メイド妹「こ、こちらにどうぞー」 青年商人「おやおや。小さなお嬢ちゃん。そんなに緊張しないで」 メイド妹「き、緊張してないですでございます」 青年商人「右手と右足が一緒だよ?」 メイド妹「へ、平気だもんっ」 青年商人「あははっ。よろしくね」   がちゃ メイド妹「こ、こ、ここにどうぞっ」 青年商人「はい、座ります」 メイド妹「では、おねーちゃ……じゃなかった、当主様を  呼んでまいります。しょーしょーおまちくださひ」 青年商人「さひ?」 メイド妹 じわぁ 青年商人「あ、泣かない、泣かない!」 おろおろっ ****463 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:42:59.95 ID:CkBATQ0gP     メイド妹「お、おねーちゃん、どうしよー?」    メイド姉「仕方ないわ。当主様から貰った指輪を使うしか」    メイド妹「う、うん……」    メイド姉「お茶の準備をお願いね」 こんこん…… メイド姉「お待たせして、済まない」 青年商人「ご無沙汰しています、学士殿っ」 メイド姉「一別以来だな。どうかな、変わりないかな」 青年商人「ええ……。  無事に商売を続けさせて頂いております」 メイド姉「……」 青年商人「……」 メイド姉「その、本日は」 青年商人「今回も定例の報告書や、収支決算書、納品書に  領収書類などのお届けです。普段は船便ですが、流石に  わたしも紅の学士殿の艶姿が懐かしくなりまして。  今回はお目にかかるためにのこのこ参上してしまいました。  はははは、お恥ずかしい」 メイド姉「それは、その……。言葉に困るな」 青年商人「ええ。はい。そのようなわけで、学士様。  お色直しなど、いかがですか?」 ****466 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:49:25.89 ID:CkBATQ0gP メイド姉「はい?」 青年商人「いえいえ。極光島奪還が成りましたからね。  南西交易路による流通が増えて、船の便も増えました。  この冬の国にも、様々な物資が入ってくるようになった  でしょう?」 メイド姉「う、うむ」 青年商人「となると、商人に取りまして目利きが大事でして。  麦などは水を含ませて取引の際に目方を増やそうとする  者も居る始末でしてね。傷みが早くなるうえ、粗悪品。  そのような物を掴むのは二流の商売人。  わたしも駆け出しの頃は、父から良く鉄拳制裁を受けた  物です。お恥ずかしい話ですが。あはははは」 メイド姉「……そ、それが」 青年商人「さぁて」   カチャ 勇者「メイド姉、もういいや」 メイド姉「は、はいっ。いえ、まだっ」 勇者「いや、下がって良い。この人はもう見抜いてる」 メイド姉「……そっ、そんな」 勇者「確かな目利きだ。話に聞いていたとおり凄腕だなー」 ****471 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 18:55:02.08 ID:CkBATQ0gP メイド姉「失礼します」  がちゃり。 とてて…… 青年商人「や、すごい技ですね。幻術ですか?」 勇者「ああ、そうだ。一目で見抜かれるとは思わなかったよ」 青年商人「いえいえ逆です。こういう事は大抵直感が正しい。  考えた末に見破るというのは少ないのです」 勇者「恐れ入ったよ」 青年商人「あははは。大したことではありません。  それにしても……。お久しぶりですね、勇者殿」 勇者「ああ、久しぶり。三年、いや四年になるのか?」 青年商人「そうですね。懐かしいなぁ」 勇者「あー。腹立ってきた! そうだ、腹が立ってたんだ!  くっそ、広範囲殲滅雷撃系呪文が猛烈に恋しくなってきた」 青年商人「はい? どうしました?」 勇者「あのときは俺のこと騙したって云うじゃないか!」 青年商人「とんでもない。騙すだなんてこれっぽっちも」 勇者「金貨十五枚だぞ!? そっちは金貨数万枚は  少なくとも稼いだって云う話だぞっ!」 青年商人「ええ、あの演説は金になりました。  ありがとうございます」にこにこ ****476 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:02:21.26 ID:CkBATQ0gP 勇者「うっわ、むかつく」 青年商人「ちゃんと契約どおりのお金をお払いしたじゃないですか」 勇者「それで納得してた俺の幼さが腹立たしいっ!」 青年商人「これもまた駆け引きの勝敗です」にこっ 勇者「まーそうだよな。はぁ……」 青年商人「生きてらっしゃったんですね」 勇者「ああ? おう。ぴんぴんしてるぞ」 青年商人「ふむ……」 勇者「何を考えている?」 青年商人「この後の話のもって行き方を」 勇者「あんたは……少し、変わったような気がするな」 青年商人「そうですか?」 勇者「四年前に会ったときは、もっと隙が無くて完璧で  どこをとってもとりつく島がないように見えた記憶がある」 青年商人「じゃぁ、四年で随分まるくなって温くなったんでしょう。  わたしもそろそろ後進に道を譲って隠居すべきでしょうか。  あはははっ」 ****477 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:10:02.45 ID:CkBATQ0gP 勇者「でも、今の方がよほど敵にはしたくないな」 青年商人「おやおや、奇遇ですね。  わたしもそう思っていたところです」 勇者「……」 青年商人「変わったとすれば、  それはあの方のせいかもしれませんよ。  自分の常識や今までの経験では飲み込めないような  巨大な存在に出会ったとき、どうすればいいのか。  腹をくくるとはどういうことか、  それを教わったような気がします」 勇者「あいつなのか?」 青年商人「はい」 勇者「そうか……」 青年商人「“相容れない光と影を仲介し、妥協し、  取引する”と。あれでわたしの商人としての生は  一つの道しるべを得た。かけがえのない言葉です」 ****479 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:15:30.82 ID:CkBATQ0gP 勇者「あいつが?」 青年商人「はい、最初にあった時に。  そして勇者、あなたがここに現われたことで  確信が持てました」 勇者「……契約は守ったとか云ってたよな?」 青年商人「はい?」 勇者「四年前の演説だよ」 青年商人「ええ、云いましたが……」 勇者「それは嘘だろう?  ……俺が帰ったら宴を奢るとって云ってたじゃないか」 青年商人「おお。そうでした! 良く覚えていましたね。  それはまさしくその通りです。よろしいでしょう。  契約は果たさねば。いつでも良いですよ」 勇者「よし、その言葉、二言はないな」 青年商人「ええ、もちろん」 勇者「じゃぁ、今だ」 しゅいんっ!! ****482 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:21:57.89 ID:CkBATQ0gP ――魔界、開門都市、郊外の虹降りしきる丘 しゅわんっ! 青年商人「こ、ここは……。くっ」 勇者「転移酔いだ。深呼吸すれば治るさ」 青年商人「これは……移動の呪文ですか?」 勇者「そうだ」 青年商人「ここは……。なんて場所だろう!!」 勇者「このあたりでは、夜になるとなぜか虹が降るんだ  磁気がどうとか説明されたけれど、俺にはちょっと  難しくて判らなかったな」 青年商人「すごい……」 勇者「夢魔鶫っ」  夢魔鶫「御身の側に」 勇者「公女に云って酒の用意を頼んでくれないか。  場所はここで良いだろう」  夢魔鶫「仰せのままに」 青年商人「魔族……?」 勇者「使い魔っていうんだ。伝言に便利だよ」 ****483 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:26:20.97 ID:CkBATQ0gP 青年商人「ここはまさか」 勇者「うん、魔界だ」 青年商人「……」 勇者「さっきの言葉で判ったよ。だから連れてきた」 青年商人「あの人は」 勇者「魔族だ」 青年商人「やはり……」 勇者「……」 青年商人「空気の香りも、違うのですね」 勇者「ん。そうかもな。でも、港町には港町の、  都市には都市の匂いがあるだろう? そういうものだ」 青年商人「あの外壁は?」 勇者「あれが『開門都市』。……この間まで人間が占拠  していた街さ」 青年商人「ああ。司令官が逃げ帰って魔族に再統治されたという」 ****488 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:32:50.23 ID:CkBATQ0gP 勇者「そりゃ嘘だな。だいたいその話が本当なら  開門都市にいた人間の商人数千人は殺されたことになる」 青年商人「違うのですか?」 勇者「あの都市で今でも商売をしているよ」 青年商人「は?」 勇者「ゲート周辺の治安や周囲の荒野の関係で、  いまはちょっと人間界と連絡を取りずらいかもしれないが  『同盟』の商人だって、残ってる」 青年商人「本当ですかっ!?」 勇者「嘘は言わない」 青年商人「そんな……」 勇者「おいおい。あいつと話したんだろう?」 青年商人「あ……。ええ……」 勇者「じゃあ判ってたはずだ。あいつが何を夢見ていたか」 青年商人「勇者……」 勇者「あいつは、お前のこと買ってたぞ?」 青年商人「……っ」 勇者「人間界にも好敵手は居る、ってな」 ****491 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:41:56.11 ID:CkBATQ0gP 勇者「俺はあいつじゃないから、あいつのように  計画も語れないし損得勘定であんたを説得できそうもない。  でも、やっぱり、今あんたに降りられると困るし。  あー。なんだろうな。  この感じは……。  うん……寂しい。  ただの勇者に戻るのは――寂しいんだな」 青年商人「……」 勇者「だから、見せる。これが開門都市だ。  今この世界にある唯一の魔族と人間が共存する交流都市だ。  この都市の人口は約三万二千。湖の国の首都より大きい。  この都市は中立地帯として魔王にも承認されている。  自治都市として、都市議会が統治を行っているんだ。  議会のメンバーの1/3は人間だよ。  議長は人間の元軍人が務めている。議員には魔界の  有力氏族の子女も……」    火竜公女「わが君~ぃぃ」 勇者「入ってもらう形で……」 火竜公女「わが君、ご下命に応じましてただいま参上  いたしました。宴席であるとか。わが火竜一族の誇りに  賭けてお客人のおもてなしに無礼があっては成りませぬ故、  ただいま設営をっ!」 勇者「あー、んー。そのー。お手柔らかに」 ****494 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:46:46.44 ID:CkBATQ0gP ――魔界、開門都市、虹降りしきる丘、宴席 火竜公女「酌をしましょう、お客人」 青年商人「いえ、随分飲んだので」 火竜公女「なりませぬ」ぷいっ 勇者「ああ。飲んだ方がいいぞ。  火竜の酌を拒むと耳がかじられる。片耳だと不便だぞ」 青年商人「ええっ!? そんな無法なっ!!」 勇者「魔界だから仕方ない」 魔族娘「そ、その……黒騎士さまも、どうぞ……」   ぽたぽたぽた 青年商人「そ、そのくらいで。止めてくださいっ」 火竜公女「一人前の男子たるもの、杯の縁より酒が  こぼれるくらいでないと“注いだ”とは申しませぬ」 青年商人「なんて所なんだ!?」 勇者「おい、商人」 青年商人「なんですか、勇者」 ****496 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:50:55.47 ID:CkBATQ0gP 勇者「どーだ」 青年商人「なにがどーだですか」 勇者(小声)「おっぱいだよ、おっぱいっ!」 青年商人「はぁぁ!?」 勇者「お前がおっぱいいっぱいの打ち上げパーティーを  企画しておくから、民衆に手を振ってばきゅーん☆って  しろって俺を魔界に送り出したんだろ!」 青年商人「あ。あははは! そうでしたっ。  あははっ。ひどいなぁ、わたしそんなこと  云ってましたよね。若気の至りとは言え  我ながら呆れる悪辣さだっ」 勇者「どうよ、これ」ちらっ 青年商人「ええ、結構なお点前です」こくり 勇者「……あははっ」 青年商人「あはははっ。  ああ、おかしい。こんなに笑ったのは久しぶりです」 勇者「酒も旨いか」 青年商人「ええ。わたしは商人ですからね。  色んな国の酒を飲む。酒にはその国がでるような気がしますね」 勇者「おい、商人」 青年商人「なんですか、勇者」 ****499 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 19:54:50.66 ID:CkBATQ0gP 勇者「虹が、すごいなぁ!」 ごろん 青年商人「確かに」 ごろんっ    火竜公女「まぁ、殿方は子供ですね」   魔族娘「でも、ほんとうに……風が気持ちいいです」 青年商人「虹はすごいですが、それで交渉の妥協は  しませんよ? 勇者殿」にこっ 勇者「あいつが云ってたぞ。  “商人たちはその『許可』を求める”ってな。  使用許可、通行許可。新しい土地は新しい市場でもあり  新しい物産の供給源でもある。そう言った場所と  取引をする」 青年商人「ええ」 勇者「あの都市のそれはどうだ?」 青年商人「それは、そうですね。まさに……  “中央大陸の都市の金全て。   いや、既知世界の全てよりも金になる”」 勇者「売ろう」 青年商人「良いのですか?」 ****500 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 20:00:45.18 ID:CkBATQ0gP 勇者「かまわない」 青年商人「対価は何を求めるんです?」 勇者「俺はあいつじゃないから、何が適当な対価なんて  判らないんだよな。何が釣り合って、  何が釣り合わないかなんて、今までろくに考えないで生きてきた」 青年商人「……」 勇者「だから、対価なんて困っちまうんだけど。  それでも、となるとさ。  ……商人は、何でも損と得に切り分けて  考えるのだろう?」 青年商人「ええ」 勇者「なんて云うのかな。  みんなは、そんな商人を強突張りだとか  利益にしか関心のない化け物のように云うけれど、  あいつを見ていると、  そんなことはないのじゃないかと、俺は思うんだ」 青年商人「……」 勇者「誰よりも利に聡く、誰よりも真剣に損得勘定で  生きている商人は、もしかしたら世界で一番最初に  損得では割り切れないものを見つけるかもしれない」 ****502 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 20:04:08.42 ID:CkBATQ0gP 青年商人「勇者……」 勇者「もしかしたらもっとちゃんとした  対価を求めるべきかもしれない。  あとであいつに殺されるかもなぁ。  でも、俺に『それ』を見せてくれ。それが対価だ」 青年商人「はははっ。なんでしょうね、この」 勇者「あいつと俺には、あんたの見つけるそれが必要だと思うんだ」 青年商人「うん、そうだ。このばかばかしい気持ちはっ!  ああ、愉快だ。わたしはどうやらとっても愉快ですよ」 勇者「……」 青年商人「良いでしょう、確かにその契約をお受けしました。  わたし自らが陣頭に立ち『同盟』を率いて  必ずや『それ』を仕入れてご覧に入れましょうっ」 勇者「頼む」 青年商人「その暁には」 勇者「?」 青年商人「あなたとあの方の関係を聞いても、  きっと退かずにに済むでしょう。なぁに、不利な時期に  戦いを挑むほど、この商人は愚かではありません」 ****537 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 22:06:26.36 ID:CkBATQ0gP ――冬越し村、屋敷の馬小屋 馬 ぶるるるんっ! 女騎士「よしよし、いいこだぞ。今拭いてやるからな」 勇者「やっぱり騎士だけあって、馬の扱いは上手いなぁ」 女騎士「何云ってるんだ。勇者だって乗れないと困るぞ」 勇者「自分で走った方が早いし……」 女騎士「見栄えの問題だ」 勇者「わかっけど。よし、林檎やる」 馬 がぶっ! 勇者「な、なにをするおんどれー!?」 女騎士「おい、大人げないな」 勇者「こいつがぶってやったんだぞ!?」 女騎士「お前、怒らせたんだろ?」 勇者「ちっげーよ。林檎食べる? ヘイ君可愛いねって」 馬 がぶっ! 勇者「ちょ、まてやこら。しまいにゃ卸すぞっ!」 ****543 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 22:13:32.13 ID:CkBATQ0gP ――。 ――――。 女騎士「ったく、馬と喧嘩するやつがあるか」 勇者「だって……」 女騎士「おまけに駆けっこで負かすやつがあるか。  ほれみろ、お前の馬だって自信喪失だぞ」 勇者「面目ない」 馬 しょんぼり。 女騎士「まぁ、いい。馬の世話はやってやる」 勇者「む……」 女騎士「いくら勇者でも、馬で旅することもあるだろう?  何かのパレードに参加する事にでもなったら、  馬に乗れないじゃ格好はつかないぞ」 勇者「それはそうだけどさ」   ごっしごっし、ごしごし 女騎士「~♪」 勇者「やっぱ、戦いよりも平和のが良いよな」 女騎士「それは当たり前だ」 勇者「当たり前なのに、そうならんのは何故かなぁ」 女騎士「それは判らない。わたしは馬鹿だからなっ」ふふん ****548 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 22:19:28.53 ID:CkBATQ0gP 勇者「魔王と一緒にいると傷つくものが  女騎士と一緒だと癒されるよ」 女騎士「どういう意味だ?」 勇者「そのまま馬鹿でいて欲しい」 女騎士「喧嘩を売ってるのか?」 勇者「ちげー、ちげーですよ」 女騎士「まったく、勇者と居るとふざけてばっかりだ」 勇者「それがいいんじゃないか」 女騎士「へ?」 勇者「そういうのが良いんじゃないか。判って無いな」 女騎士「……」 勇者「俺はそうやって女騎士とふざけてるの好きだぞ?」 女騎士「え、あ……その」 勇者「?」 女騎士「……ありがとう」 勇者「……うわ、むず痒っ。普通に返すなよ」ぼりぼり ****551 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 22:24:54.29 ID:CkBATQ0gP 女騎士「どうしたんだ?」 勇者「いや、髪が。ちょっと目に刺さって」 女騎士「ああ、長くなってきたもんな」 勇者「ちょっと切ってくれないか?」 女騎士「えっ。いいのかっ?」 勇者「うん。なんで?」 女騎士「あ。いや……。なんでもない。  何でもないけれど、切るのはやめておこう」 勇者「なんでだよ」 女騎士「なんでもない。……そうだ。  額環を作ってやるよ。それで髪をまとめれば、伸びても  目に刺さらないぞ」 勇者「面倒くさそうだぞ」 女騎士「いいや、似合うよ。ちょっと都会風になって  もてるかもしれないぞ? 勇者」 勇者「お! そうか? 格好良くなるのかっ」 女騎士「うむ、似合うものを作ってやろう!」 #right(){{&link_up(ページトップへ)}} ---- #center(){[[<前3-1へ>3-1]]|[[次3-3へ>>3-3]]} ----

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