2-2

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#center(){[[<前2-1へ>2-1]]|[[次2-3へ>>2-3]]} ---- **魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」2-2 ---- ****220 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:07:33.62 ID:Lbanm5QNP メイド姉「そんなこと信じたくありませんっ」 魔王「わたしもだ」 メイド姉「……っ」 魔王「でも、私が学んできたことによれば、そうなんだ。  戦争は沢山の人が死ぬ。  憎しみと悲しみと、愚かさと狂気が支配するのが戦争だ。  経済的に見れば巨大消費で、歴史的に見れば損失だ。  でも、そんな悲惨も、出会いの一部なんだ。  知り合うための過程の一形態なんだよ」 メイド姉「これが、出会いなんですか?」 魔王「そうだ」 メイド姉「辛くて悲しくてひもじくて寒いだけじゃないですか」 魔王「でも、そうなんだ」 メイド姉「……」 魔王「出会いは必然にも似た運命、  もしくは運命に近似した必然だ。  しかし、その結果は違う。  だからせめて……あがきたい」 ****222 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:10:40.71 ID:Lbanm5QNP 魔王「戦争は争いの一形態だが、争いの全てが  戦争ではない。もっと他の方法で腕比べをしてもいいし  村の子供達が競って可愛い娘に花を届けるのも争いだ」 魔王「また、争いは関係の一形態だが、関係の全てが  争いなわけではない。友好的な関係や支援関係だって  この世にあるのは事実だ」 メイド姉「じゃぁ、なんで戦争なんか」 魔王「それはわからないが、存在するんだよ」 メイド姉「……なぜ。なぜ?」 魔王「私は、必要だからだと思う」 メイド姉「そんなものが必要だなんておかしいです」 魔王「『いずれ卒業するために必要』だと。  逆説的だが、そう言う事象もあるのかも知れない。  最初から大人として生を受けることが出来ないように」 メイド姉「……」 魔王「いずれにせよ、私には判らないことだらけだ」 ****224 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:16:55.21 ID:Lbanm5QNP ――極光島沖合、南部諸王国艦隊 兵士「快晴! 風向き良しっ!」 兵士「腕が鳴るな」 士官「この分なら朝焼けのうちに上陸だ。  見ていろよ魔族め、人間の武力、思い知らせてやる」 兵士「斧の手入れは怠りないか」 兵士「ぬかりない」 士官「反射光が目に入る。炭と油を混ぜて、  金属には塗っておけ」 兵士「わかりましたっ!」   ごぼごぼごぼ 兵士「ん? 北東に大規模な気泡ッ」 艦長「なんだ? このような場所で……」 ****227 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:24:35.32 ID:Lbanm5QNP   ごぼごぼごぼ  ごばっ! ざばっ! ざばばばぁんっ!! 兵士「てっ! 敵襲ぅぅぅっ!! 巨大烏賊ですっ!」 兵士「射てぇ! 射てぇ!!!」 士官「な、なん……だと……!?」 兵士「うわぁぁ!! 空だ、空にもいるっ!」 兵士「ハーピーだぁっ! 耳をふさげぇ!」 艦長「石弓隊っ! 頭上を狙えっ!  斧隊は触手を切り落とせっ!!」 兵士「うわぁぁ! うわぁっ!」 兵士「離れろっ! こいつ離れやがれっ!」 士官「勇戦せよっ! 一歩も退くなっ!」   ミシィ、ミシィッ!! 兵士「み、水の中から魚人が狙って」 兵士「ぎゃぁぁ!?」 ****230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:28:46.14 ID:Lbanm5QNP 兵士「死ねっ! 貴様ら魔族は、魔界へと帰れっ!」 兵士「遊軍艦が魚人の切り込み攻撃を受けています!!」 士官「支援だ! 回頭っ! 回頭しろ、操舵手っ!」 操舵手「舵輪が効きませんっ!」 兵士「触手が、艦長っ!!」   ミシィ、ミシィッ!! 艦長「この音は、船体全てからっ!?」 兵士「18番、沈没っ!!」 兵士「灼けるっ! くそぉ、こいつら。酸をっ」 士官「水をっ! 水を掛けてくれっ!」 兵士「斧じゃダメだっ! 火矢を射込めっ!」 艦長「ダメだっ! やめろっ!!  遊軍艦を燃やすつもりかっ!?」 兵士「先行艦隊、壊滅っ!」 艦長「転進だっ! 船足を止めるなぁ!!」 ****240 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:43:36.44 ID:Lbanm5QNP ――南部諸王国軍、軍議 白夜王「……」 氷雪女王「戦船200隻のうち、かえってこれたのは15隻  生き残ったのは500人足らず……と」 冬の王子「大敗、ですね」 白夜王「……っ」 鉄槌王「ふんっ。ワシは反対したではないか。  水棲魔族への攻略無くして数で押し切ろうなどと  自殺行為ではないかと」 白夜王「うっ、うるさいっ!!」 鉄槌王「うるさいとはなんだ!!  貴様は大口を叩いていたではないか!!  勇気があれば敗れることはないなどと。  この様は何だ。指揮官のみおめおめと逃げ戻り」 白夜王「我は王族なのだっ、生き残る義務があるっ」 ****243 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:48:13.67 ID:Lbanm5QNP 鉄槌王「それもこれも、貴様が旗艦を転舵させている  あいだ身を挺してかばってくれた冬の国の戦船の  おかげではないかっ!!」 白夜王「頼んだわけではないわっ!」 冬の王子「……ッ」 鉄槌王「心中、お察しいたす」 氷雪女王「冬の王は勇敢な方でした」 冬の王子「いえ、父らしい最期でした」 白夜王「はんっ! らしいもらしくないも無かろう。  そもそもあの島が奪われたのも、冬の王がしっかりと  防備を固めていなかったためではないか。  命をかけてかばったくらいでその失点が  消えるわけでもないわっ」 鉄槌王「貴様ッ。南部の武人の矜恃を何処へやった!?」 氷雪女王「そうです。あの当時、聖鍵遠征でわれら  南部諸王国の兵力は殆ど出はからっていました。  総力を挙げた侵攻作戦だったのです。  それこそ、人間世界の防備がおろそかになるほどの」 ****249 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:53:30.09 ID:Lbanm5QNP 白夜王「それを云うならば、今回の作戦だって  聖王国と光の教会からの提案によるもの。  その提案を断れる南部諸王国かどうか、  お前達も自分の胸に手を当てて考えてみるがいい。  そうだっ!  貴様もっ!  貴様もっ!  そこの小僧、お前もだっ!!」 白夜王「冬の王に罪がないというのなら、  我の罪もないわっ。  我は艦隊を率い、総意によって総大将を勤めたまで。  その依頼は聖王国と光の教会からだったのだ。  200の船が壊滅したからどうだというのだ。  これでまた新しい船が手に入るではないかっ!」 鉄槌王「云わせておけば……」   バンッ!! 冬の王子「黙れっ」 ****253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 20:57:22.10 ID:Lbanm5QNP 白夜王 びくっ 氷雪女王「……王子」 冬の王子「父は父の信じるところ為し、  その過程で命を落としたのだ。そのことで、白夜王。  貴公を責める気持ちは私にも、冬の民の1人に  至るまで持ってはいないっ」 白夜王「ほらみろ、そうではないかっ」 冬の王子「しかし、だからといって  この海戦敗北の責任を免れえるはずもない。  無策によって6000の将兵の命を散らしたのだ。  その意味、この会議に集った王族であれば  判らないはずは無いと考える」 白夜王「誰に向かって口をきいている、  くちばしの黄色いひよっこがっ」 鉄槌王「この会議に出た時点で、各国の代表だ。  わきまえよ、白夜王っ」 ****260 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 21:05:04.42 ID:Lbanm5QNP 白夜王「はっ! よかろう。貴様らがそう言うならば、  どのような責任でもとろうさ。はん? なんだ?  我の首でも欲しいのか? 我の首があれば、  中央や教会が納得するとでも?」 鉄槌王「……」 氷雪女王「常識的に考えて、賦役か資金援助でしょうね」 白夜王「良かろう、払おうではないか。  だがな、冬の。聞いておるぞ?」 冬の王子「何をです」 白夜王「冬の国が最近なにやら、湖畔修道会と1人の  天才学者をおしたてて、巨大な利益を独占していると。  何でも新しい作物や風車を通して、  かの『同盟』までをも巻き込み、  多額の戦費をたくわえているそうではないか」 冬の王子「農業に工夫を加えたのは事実だ」 白夜王「そのうえで、なお白夜の国からの資金援助を  欲するというのか? 冬の国は金の亡者というわけだ。  南海の槍武王の末裔が聞いてあきれるわっ!」 鉄槌王「……貴様ぬけぬけと」 ****266 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 21:08:18.82 ID:Lbanm5QNP 冬の王子「……潮時、か」 氷雪女王「?」 冬の王子「いえ、会議を続けましょう」 鉄槌王「そうだな。こうなっては善後策をうたねばならん」 氷雪女王「とはいえ、中央からの要請を放置するわけにも  行かないでしょう。このままでは財政にどのような  圧力を掛けられるか」 冬の王子「使者はなんと?」 氷雪女王「追加の援助が必要であれば、戦船で払う、と」 鉄槌王「ふんっ。どうやっても戦争をさせなければ  気がすまんようだな。自分たちは安全なところに  隠れておれば、どんな命令でも出せるというわけだ」 氷雪女王「どれだけの犠牲が出ればよいのか」 冬の王子「聞いてください。会議の方々。  中央や光の教会は意図は、戦意の高揚です。  勝てば良し、もし負けたとしてもその被害をテコに、  魔族の脅威を全世界に訴えて、次の聖鍵遠征軍を  起こすつもりだとしか思えません」 ****270 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 21:15:43.04 ID:Lbanm5QNP 冬の王子「どちらにせよ、我らの手には選択権がない」 白夜王「それみろ。結局は狗にすぎん」 鉄槌王「……」 氷雪女王「……」 冬の王子「犬で結構。犬なりの意地の見せ方を  白夜王にはお目に掛けるとしよう」 鉄槌王「まさかっ」 氷雪女王「いけませんっ」 冬寂王「いまを持って、冬寂王の名を継がせていただこう。  この冬のあいだに、第二次極光島奪還作戦を決行する」 鉄槌王「本気なのかっ!?」 冬寂王「私は若輩ゆえ、何の発言権もなかったが  その罪の重さは魂で感じている。  ここでもう一度懺悔させていただきたい。。  勇者を行かせたのは、  勇者を葬り去ったのは我ら四人の罪だ。  南部諸王国の罪なのだ。  この世界から星が一つ消えたのは  この会議が追うべき重責をたった1人の勇者に  負わせたからだ」 ****271 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/06(日) 21:18:52.99 ID:Lbanm5QNP 鉄槌王「……」 氷雪女王「……」 白夜王「たかが兵卒の1人ではないかっ!」 冬寂王「中央の太鼓持ちに成り下がった輩には判らぬ。  王族には、王族なりの信義というものがあるのだ。  それは時に非情であり……。  ――我が父のように、背くこともある。  その王族は一生の間恥を背負ってゆくのだ」 冬寂王「私は前王の子として、極光島を奪還し  勇者が為すべきだった光の千分の一でも  南部の王国にて肩代わりしなければならない」 白夜王「出来るかな、小童が」 冬寂王「その答えは戦場で証明しよう。失敬」 バタンッ! 執事「若様……」 冬寂王「会議は決裂だ。……至急、女騎士へ使いを出せ」 執事「女騎士に?」 冬寂王「この戦には総司令官が必要だ」 ****383 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 00:46:53.45 ID:vGBiMEoLP ――大陸街道、関所 義勇軍兵「ああ、そうだ。俺も南氷海での戦いへ参加する」 若い傭兵「俺もだ、もし南氷海へ行くのなら一緒に行かせてくれ」 遊歴騎士「わがはいもそうだ。是非頼む」 関所の兵士「おおいな、今日だけで15人は通ったぞ」 関所の兵士「ああ、何時にない勢いだな」 義勇軍兵「今回の遠征は、とうとう若い英雄、  冬寂王が立たれると聞いたんだ」 若い傭兵「ああ、槍武王の末裔、代々勇猛をもってなる  冬の国の若い王が軍を挙げるときいたぞ」 遊歴騎士「しかも、将軍は若く美しい、あの伝説の  女騎士だというじゃないか」 義勇軍兵「おお! 勇者の右の翼と呼ばれた!!」 若い傭兵「聞いたことがあるぞ!」 遊歴騎士「『黒点の射手』と呼ばれた左の翼、弓兵と並んで  魔王軍の並み居る将軍をたった四人で次々と打ち破った  勇者の仲間。伝説の英雄の一人だ!」 ****386 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 00:52:08.64 ID:vGBiMEoLP 義勇軍兵「実は俺の家族も後から来るんだ」 若い傭兵「そうなのか? 奇遇だな。俺もだ」 遊歴騎士「お前たち何を。戦場に家族づれだと?」 義勇軍兵「いや、そういう訳じゃないんだが」 若い傭兵「うむ。実を言えば、最近冬の国は豊かになったと  聞いてな。商業も盛んになってきたとか」 遊歴騎士「そんな噂があるのか?」 義勇軍兵「ああ。農奴の税も、賦役や作物ではなく  銀貨で治めても良いと云うことらしいんだ」 若い傭兵「俺もそう聞いた。銀貨で払って良いのならば  傭兵の給金で払えるじゃないか? 俺たちの家族は  やっと解放された農奴なんだ。冬の国へ行けば  小さな畑でも手に入れるかもしれない」 遊歴騎士「そんなうまい話があるものか」 義勇軍兵「ダメで元々だ。どうせ戦って死んでいくしか  俺たちみたいな半端者には残されていないんだ」 ****393 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 00:56:24.31 ID:vGBiMEoLP 遊歴騎士「まぁ、そうともいえるが」 若い傭兵「湖畔修道院の修道士が、紹介状を書いてくれたしな」 義勇軍兵「紹介状?」 若い傭兵「ああ、これをもってゆけば、  馬鈴薯の種芋をくれるというんだ」 義勇軍兵「種芋? なんだそれは」 遊歴騎士「わがはいもしらんな」 義勇軍兵「小麦の種のような物らしい」 義勇軍兵「ふむ、すぐにくれればいいのに。道中食べれたろうに」 若い傭兵「いや、それをつかって、  馬鈴薯を増やして欲しいと云うことなんだろう。  俺たちの家族は、もうずっと長い間、  自分たちの畑というものに憧れてきたんだよ」 遊歴騎士「その気持ちはわからんでも無いな」 義勇軍兵「なぁ、俺にもその紹介状はもらえるだろうか?」 若い傭兵「ああ。この紹介状をくれた修道士は、  人数は向こうで相談してくれと云っていたんだ。  家族が来たら俺と一緒に行ってみようじゃないか」 ****395 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:01:48.55 ID:vGBiMEoLP ――冬越しの村、夜の修道院 ばすん、どすん! ばたん! 女騎士「よし、こうだっ! この荷物めっ!」 女騎士「えいっ! えやっ!  何で素直に荷造りされないんだっ! えやっ!」 こんこん 女騎士「開いている、済まないが今手を離せないんだ」 魔王「夜半、すまない。良いだろうか」 女騎士「あ? ああっと。す、すまない。学士様だったのか  わたしはてっきり修道士かと」 魔王「いや、修道士殿に頼んでお邪魔させて貰ったのだ」 女騎士「そうだったのか」 魔王「……」きょろきょろ 女騎士「すごい有様だろう?」 魔王「もう、荷造りはされたのだな」 女騎士「もともと女らしさに欠ける性格でな。  その気になれば旅支度など簡単に整ってしまう」 ****397 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:06:51.65 ID:vGBiMEoLP 魔王「そうなのか。……よいかな?」 女騎士「ああ。すまないな散らかっていて。  その寝台に腰を掛けてくれ」 魔王「……」 女騎士「……えいっ! とやっ!」 魔王「……」 女騎士「どうしたんだ? 学士様」 魔王「いや、なんだか慌ただしくてな」 女騎士「ああ。わたしの出発か?」 魔王「うん」 女騎士「指名頂いたことだし。せいぜい暴れ回ってくるよ。  心配はしなくて良い。修道会の仕事はわたしなんか居なくても  全て滞りなく回るようになっている。  そもそも最初からわたし抜きでも回っていたんだ。  わたしは運営にはとんと不向きだからな」 魔王「そうではない」 女騎士「……」 魔王「そうではないんだが」 ****399 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:10:36.35 ID:vGBiMEoLP 女騎士「なんだ、随分歯切れが悪いな」 魔王「……」 女騎士「わたしのことなら心配はいらない。  確かに勇者に及ばないかもしれないが、  そこらの魔族にやられるような鍛え方はしていないよ。  あははははっ。  たとえ船が沈んだって泳いで帰ってこれる。うん」 魔王「……」 女騎士「どうした?」 魔王「その……。この一年間、わたしの我が儘に  さんざん付き合わせて」 女騎士「馬鈴薯のことか? 四輪作かな? 最初に云ったけれど  それらはぜんぶ我が修道会の理念に照らして正しいから  協力したんだ……。  だから遠慮することなど無い。  むしろ修道会一同、深く感謝している」 魔王「そうではなく、学院の指導だとか」 女騎士「ああ。剣と軍事教練か~」 魔王「そうだ」 ****408 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:17:43.30 ID:vGBiMEoLP 女騎士「あれは良い運動になる。ストレス解消にも。  それにね。適度な燃焼をさせないと脂肪が肉についてしまう。  肥えてしまうからなぁ~」ちらっ 魔王「ううっ……。うう」 女騎士「言い返してこないのか。  貧乳だの何だの。つまらないな。  その点ではあの眼鏡メイドの方が手強いか」 魔王「その、女騎士殿は」 女騎士「うん?」 魔王「わたしは……その、幼いときから、ずっと……  部屋の中で育ってな。狭い家ではなかったのだが。  一人で……育ってな」 女騎士「貴族の出だったのね」 魔王「うん、そんなものなのだ……」 女騎士「それで?」 魔王「だから、同性の親しい人は一人しかいなくて。  それはメイド長な訳だが」 女騎士「ふむ」 魔王「その、女騎士殿は。わたしにとって、いってみれば」 女騎士「……」 魔王「友達に一番近い存在だというように、  わたしの推測では、先日、そう結論したのだ」 ****410 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:22:07.69 ID:vGBiMEoLP 女騎士「……」 魔王「もちろん、女騎士殿がどう思ってるかと  わたしの推論は何の関係もなくてだな、  これはいわばわたしの側の勝手な定義付けというか、  境界条件の曖昧な主観的な分類に過ぎないのだとは  判っているんだがな」 女騎士「……」 魔王「その女騎士殿が、将軍として戦場に出向く。  この戦は何もわたしと無関係なわけではない。  状況に照らせば、わたしの意志がバタフライ効果的に  影響を及ぼしたことは想像に難くないのだ。  しかし、それなのにわたしは……」 女騎士「……」 魔王「わたしは、まだ躊躇ってしまい、  手を下せない事がいくつもあるのだ。  わたしは、こんなにも愚かで弱い。  毎日のように愚かになっていくような気さえする。  ――例えば、硝石と黒色火薬がそうだ」 ****414 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:26:28.45 ID:vGBiMEoLP 魔王「それがあれば戦局は有利に展開できるのは判っている。  死者の数を2桁オーダーで減らせる可能性もある。  密かに冶金師への依頼も行い、研究も進めていた。  でも、それでもどうしても踏ん切りがつかないのだ。  それを手渡せば、戦には勝てるかもしれない。  でも、それを手渡してしまったら、  もう二度と戻れないのではないか。  そう思うと、笑ってくれるが良い。  手が震えそうになる」 女騎士「……」 魔王「あの日わたしは誓ったはずだった。  勇者の手を取って。……どんなことでもすると。  願いを叶えるためだったならば、  たとえこの身体がこの命が  どこともしれぬ道ばたで腐れ果てようと気にはしないと。  幼いときから学んできた書物と情報海以外の  何かを見るためにだったら  どんな物だろうが生け贄に差し出しても良いと。  ……でも。  なぜだか判らないが、わたしはどんどんと  弱くなってゆく。どのような技術でも渡してしまい  その結果世界がどう変わるか見てみればいいのに。  ……その勇気がでないんだ」 ****418 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:31:38.30 ID:vGBiMEoLP 魔王「これから、戦場へ赴く……友に。  それは酷い仕打ちだと思う。酷い裏切りだと思う。  わたしは女騎士殿と何の契約も交わしていない。  修道会と技術頒布の契約を交わしただけだ。  だから、わたしが女騎士殿に感じる  この罪悪感は無意味な物なのだ。  そのはずだ。  しかし、それでも胸からぬぐえない」 女騎士「まぁ、要するに」 魔王「……」 女騎士「そのブラックパウダーとかいうのは  特性の広域殺傷用魔法のような物でしょう?」 魔王「ああ」 女騎士「すごく強力で、すごく便利で、素人でも  使えちゃうかもしれないけれど、いってみれば  そういうものでしょう?」 魔王「そうだ」 女騎士「わたしはそんな物が無くても負けないから」 ****420 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:34:55.59 ID:vGBiMEoLP 魔王「それだけじゃない。……わたしは」 女騎士「……?」 魔王「女騎士殿に嘘をついているんだ」 女騎士「……」 魔王「ずっとみんなにも嘘をついている」 女騎士「……」 魔王「だから、今夜はここへ来たんだ。  これもまたわたしが望んだことだから。  かつて見たことのない『丘の向こう』のひとつだから。  女騎士殿。  わたしは……。  わたしは魔王なんだ」 女騎士「……」 魔王「……」 女騎士「わたしが、湖畔修道会の修道院長だってしってるよね?」 魔王「ああ」 女騎士「光の精霊に仕えていることも」 魔王「もちろん知っている」 ****427 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:40:09.20 ID:vGBiMEoLP 女騎士「では、私、女騎士が  聖なる光の精霊の信徒の一人として  湖畔修道会の修道院長として  魔王、あなたの告悔を受け入れましょう」 魔王「え?」 女騎士「あなたは友に嘘をついた。  それを友と精霊に告白をした。  あなたの罪は洗い清められた。  何の問題も有りはしない」 魔王「魔王なのに……?」 女騎士「懺悔の内容は嘘をついたことでしょう?  それとも、なに? 魔王であることに罪の意識があるの?」 魔王 ぶるぶる 女騎士「勇者を横取りしようとしたこと反省してるの?」 魔王 ぶるぶる 女騎士「じゃ、この件はそれで終了で良いでしょう。  湖畔修道会はごちゃごちゃした儀礼苦手なのよ」 ****439 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:46:30.44 ID:vGBiMEoLP 魔王「し、しかし!」 女騎士「いいじゃない。手早くて」 魔王「それじゃ……女騎士殿はっ」 (やー。わるいなぁ。女騎士よっ。  俺ちょっとさ、また魔界へいってこなきゃならねんだわ!) (そんでさ、申し訳ないけど、俺の代わりに  剣の先生やっといてくれねぇ? ひよっこどもだから  面倒くさきゃ毎日走らせておけばいいよ。  逃げ足ってのはいつまでたっても重要だからさ) (そんでさ) (やー。いいづらいな、ほれ。あれだよ、察しろよ) (うん、そうそう。あいつ魔王でさ~。  痛っ!? ま、ま、まじ。や、やめて!? 両手剣は止めて!) 女騎士「何の問題もない」 (な、頼むよ。ほんと。土下座するから。  あれは魔王だけど……。その、悪いやつじゃないんだ。  頭はぶっ飛んでるし、常識ずれてるけどさ。  義理堅い、約束を破るヤツじゃないんだよ) 女騎士「何の問題もないんだ」 ****447 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 01:51:44.43 ID:vGBiMEoLP 女騎士「おい、魔王!」 魔王「お、女騎士殿……」 女騎士「こうなったら『殿』なんてつけるのは  やめにして欲しいな」 魔王「……それは」 女騎士「たしかに、勇者はあなたと契約をした。  あなたと勇者の間には特別な絆があるかもしれない。  それはまぁ……。  悔しいけれど、仕方ない。認める」 魔王「……」 女騎士「でもね、絆は一つじゃない。  わたしは勇者に信頼されたんだ。それはわたしの宝だ。  わたしは……わたしだって勇者を裏切らないっ」 魔王「女騎士殿……」 女騎士「だから心配なんてしないで。こんな戦で  わたしが毛筋ほども傷つくなんてあり得ない。  まだまだ降りるつもりはないんだからねっ」 ****456 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 02:04:09.11 ID:vGBiMEoLP ――冬の国、海岸資材集積地 開拓民「ほーぅい! ほーぅい!」 開拓民「よーそー。ようそー」 開拓民「あげろー! もっとあげろー!!」 冬寂王「どうだ?」 士官「はっ! これは冬寂王! 云って頂ければ報告を  お持ちしましたのに」 冬寂王「足が不自由な年寄りじゃねぇよ」 士官「作業は順調であります」 開拓民「ほーぅい! ほーぅい!」 冬寂王「よー!! 精が出るな!!」 開拓民「あんれ! 王様だよー!」 開拓民「王様だー!」 開拓民「冬寂王だー!」 冬寂王「すまねぇががんばってくれ! 夕暮れになったら  宿舎に熱い酒でも届けさせるからな!」 開拓民「任せてくだせぇ、王様!」 開拓民「ほーぅい! ほーぅい! 王様のために木を切るよ!」 ****459 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 02:07:21.56 ID:vGBiMEoLP 冬寂王「みんな表情に力があるな」 士官「王が回ってるお陰ですよ」 冬寂王「何ほどのことも出来てやしないさ。  おお、丁度良いところに」 漁師「おお、王様。戻ってきました」 冬寂王「アレはどうなってる?」 漁師「近いですだ。今年も必ず」 冬寂王「どれくらいになるかね」 漁師「年越しをしてから、2週間ほどかと」 冬寂王「ふむ」 士官「野営地の拡充を検討すべきですね」 冬寂王「足りないか?」 士官「志願兵が……これは大陸中央部からですが  思ったよりずっとやってきています。このままでいくと  今の2倍の野営地があっても足りないかもしれません」 冬寂王「ふむ、そっちの手を先に打ってくれ。  開拓民が必要なら、ふれを回せ」 冬寂王「で、あるならば外套と手袋が必要だ。  指が氷っちまったら作業も何もないからな」 青年商人「その件はわたしが対応しましょう。  『同盟』の名にかけて」 ****462 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 02:12:27.31 ID:vGBiMEoLP ――第二次極光島攻略作戦、臨時作戦本部 執事「はっはっは。お久しぶりでございます。  女騎士殿、お変わりないようで欣快に堪えません」 女騎士「爺さんもまったく変わらないな」 執事「ほっほっほ。女騎士殿もお胸のサイズが変わらないようで」 女騎士「斬るっ!」 執事「にょっほっほっほ。にょっほっほっほっほ」 女騎士「その妖怪じみた動きっ! いい加減にしろっ!」 執事「にょっほっほっほ。これは森の中で密かに動くための  弓兵独特の穏行術ですよ、にょっほっほっほ」 女騎士「ええーい、だから爺さんは昔から苦手なんだっ!  じっとしろっ! そのヒゲをさっぱりつるつるにしてやるっ」 執事「おや、まさかまだつるつるなのですか!?」 女騎士「~~っ!!!」 ****467 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 02:17:58.87 ID:vGBiMEoLP 執事「にょっほっほ! まだまだこんな物ではありませんよ」 女騎士「ええーい! 器用に腰だけ分身するなっ!!」 執事「まだまだ増えますぞっ!」 冬寂王「あー。なんだ。本当に仲が悪いのか?」 女騎士「こ、これは冬寂王っ!」 執事「若っ。のぞき見とはちとはしたないですぞ」きりっ 冬寂王「……」じー 執事「こほん。女騎士殿、こちら冬の国の冬寂王でございます」 冬寂王「……」じー 女騎士「……なんだその変わり身」 執事「何のことでございますかな?」 冬寂王「爺はこうだったのか?」 女騎士「最初から最後までこうでした」 執事「な、なんのことですかなっ!?」 冬寂王「我が国の者がご迷惑をおかけして申し訳ない」 女騎士「いえ、仕方有りません。しつけをしてください」 執事「若っ!」 ****472 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 02:25:01.79 ID:vGBiMEoLP 冬寂王「ともあれ呼集に快く応じてくださって  感謝してもしきれません、女騎士殿」 女騎士「顔を上げください。一国の王ではありませんか」 冬寂王「いえ、我ら一同あなた方には返しきれないほどの  借りがあります。そのせいで、爺など連絡を渋る始末で」 女騎士「そうなのか?」 執事「胸が育つ時間を猶予で差し上げたかったのです」 女騎士「斬るっ」 執事「にょっほ……こほん、こほんっ」 冬寂王「早速で悪いのですが、こちらへ」 女騎士「は、その方が助かります」 冬寂王「これはこの近辺の地図になります」 女騎士「かなり正確ですね」 執事「わたしが直々に指図して作りましたからな」 冬寂王「だ、そうです」 女騎士「加齢臭がしますね」 執事「なっ!?」 冬寂王「では、戦略の概要を検討するとしましょう」 女騎士「お聞きしましょう。新しき英雄との噂  我が友の二人の代わりに見届けさせて貰う所存です」 ****529 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 11:17:18.21 ID:vGBiMEoLP ――冬越しの村、降り込める雪 小さな村人「ほーぅい! ほぅい!」 中年の村人「寒いねぇ」 鋳掛け職人「まったくだぁよ」 小さな村人「今年の雪は大粒だなや」 中年の村人「ぽってりした感じだでなぁ。年が明けてから  急に寒くなるかもしんねだなぁ」 鋳掛け職人「冬籠もりの準備は終わったけぇ」 小さな村人「ああ、今年はよくがんばっただぁよ」 中年の村人「うちでも、今年は倍もベーコンを作っただ。  それなのに、豚は去年の3倍も居るだぁよ」 鋳掛け職人「ああ、カブなのかい?」 小さな村人「そうだねぇ。今年はイノシシも捕れたし」 中年の村人「何年ぶりだろう、こんなに豊作な冬は」 鋳掛け職人「良かったねぇ。うちもこの冬に、  注文して貰った農具の直しを全部やっちまわねぇと」 小さな村人「豚っ子の小屋を少し手直ししてやんねぇと」 中年の村人「雪の中でか? そりゃいそがねぇと!」 ****533 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 11:21:58.44 ID:vGBiMEoLP 鋳掛け職人「そういえば、学士様が来てもう1年以上だなや」 小さな村人「ああ、そうだなや」 中年の村人「学士様には世話になっとるだなぁ」 鋳掛け職人「ああ、そうだそうだ。修道院が出来てから  オラの所にもお客がたくさん増えただぁよ」 小さな村人「考えてみたら、村の人も増えただなや」 中年の村人「ああ、そうだ。今年のお祭りはきっと賑やかだぞ!」 鋳掛け職人「年越祭か?」 小さな村人「年越祭だ!」 中年の村人「ああ、楽しみだなやぁ!」 鋳掛け職人「一年で一番良い日だなや」 小さな村人「今年は戦に行ってる人もいるんだけども」 中年の村人「ああ、そうだ。修道院で、戦に行ってる人に  年越祭の届け物を集めるっていってたなや」 鋳掛け職人「そうかぁ。ジョッキを送ったら使って  もらえるだろか-?」 小さな村人「鋳掛けさんのジョッキなら大歓迎だでよ!」 中年の村人「おら、ベーコンおくるべぇか。今年は沢山出来たし」 小さな村人「じゃぁ、おらも何か贈り物用意せんとなぁ」 ****535 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 11:26:00.18 ID:vGBiMEoLP ――冬越しの村、村はずれの館……年越祭の夕べ メイド妹「~♪ ふふぅん~♪」 メイド長「料理の準備は?」 メイド妹「でーきました~♪」 メイド長「語尾を不必要に伸ばさない」 メイド妹「はぁい」うきうき メイド長「まったく……。そんなに楽しみですか」 メイド妹「それは楽しみだよう!」 メイド長「よく判りませんね」 メイド妹「眼鏡のおねーちゃんは引っ越してきたから。  年越祭はこの国では一番大きなお祭りだよ~」 メイド長「ふむ」 メイド姉「そうなんですよ?」 メイド長「ああ、メイド姉。書類整理はどうでした?」 メイド姉「はい。帳簿整理も、出納管理も一段落しました  荷物にはタグを全てつけましたので、明日にでも、  人手を借りられれば修道院の倉庫へ移せます」 ****537 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 11:34:02.20 ID:vGBiMEoLP メイド長「ありがとう。それで……」 メイド姉「はい?」 メイド長「そんなに賑やかな祭りなのですか?」 メイド姉「賑やか、と云うのとは違いますが……。  この地方の冬は厳しくて、ほぼ四ヶ月は  ろくに屋外には出られません。  長い冬の間は家畜の世話をするくらいしかないんですよ。  もちろん、細工物をしたり、繕い物をしたり、  夏の間に出来ないことはしますけれどね。  長い冬の間、大人たちは、そういった細かい仕事をしながら  退屈を紛らわせます。  子供は新しいお話を覚えたり、羊の世話を覚えます。  年頃になった女の子は絨毯を編むことを覚えたりしますね。  それもこれも開拓民の話ですが……」 メイド長「……」 メイド姉「農奴はもっと惨めですが、それでも冬の寒さだけは  平等です。長い間表にも出られず、じっと火を守って  春を待つんですよ? そんな長い冬の間の最大の楽しみが……」 メイド妹「年越祭りなんだよ♪」 ****539 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 11:45:10.91 ID:vGBiMEoLP メイド姉「新年を迎える日を挟んで四日間が年越祭です。  ご馳走を作って、プレゼントを交換するんです。  農奴はプレゼントを用意することは難しいですが、  それでも精一杯のご馳走を作ります。  このときばかりは、地主の方も振る舞いをして  農奴にベーコンやエールなどを訳惜しみなく与えることも  よく見られます。みんなで歌を歌ったり、運が良ければ  吟遊詩人や旅人の珍しい話を聞いたりします。  年越祭は、長い冬をすごすこの国の人の  一番楽しみにしている日なんですよ」 メイド妹「眼鏡のおねーちゃん、眼鏡のおねーちゃん」 メイド姉「妹、メイド長様と仰い」 メイド長「お姉さんでかまいませんよ?」 メイド妹「おばさんって云うと怒る……」 メイド長「吊されたいんですか?」ちらっ メイド妹「……え、えっと。眼鏡のおねーちゃん。  踊りに行っても良いんだよね?」 メイド長「ええ、かまいませんよ。  そう言うことならば、是非いってらっしゃい」 魔王「うむ、そうだぞ。行ってくるべきだな」 メイド長「あら、当主様。いらしてたんですか?」 ****540 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 11:51:56.60 ID:vGBiMEoLP 魔王「そうか、そのような素晴らしい祭りであったのか」 メイド姉「はい」 メイド長「どうされました?」 魔王「いや、さきほど村長と修道士が招待に来たのだが、  生返事をしてしまったのだ」 メイド妹「えー。よくないよぅ」 メイド姉「こらっ」 魔王「もっともだ。良くない事だ。反省しよう」 メイド妹「当主のおねーちゃんも一緒に行こう?  あのねー。男の子もいっぱい居るんだよ。  おねーちゃんはおっぱい格好良いから、誘われるよ?」 メイド姉「こ、こ、こ、こらっ」 魔王「うーん。それはありがたい申し出だが  遠慮しておくとしよう」 なで メイド妹「えー」 魔王「メイド長」 メイド長「はい?」 魔王「後で村長の家に林檎酒を1樽とどけてくれないか?  ほら、味見とか云って商人が送ってきたのがあっただろう」 ****542 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 11:59:19.56 ID:vGBiMEoLP メイド長「よろしいのですか?」 魔王「いいだろう? わたしたちでは飲みきるものでもないし」 メイド妹「わたしあとで馬車頼んでくるよー!」 メイド姉「そうね。樽を運ぶのは私たちには無理ね。  馬丁さんによろしくね」 メイド長「賄賂は空振りですよ、商人様。  まぁ、商人様には泣いて貰いましょう」 魔王「?」 メイド妹・姉 こそこそ メイド長「どうしたんです?」 メイド妹「ドジャーン!!!」 メイド姉「えっと」 メイド長「?」 メイド妹「年越し祭りのプレゼントで~っす!!」 メイド姉「大きな物は用意できなかったのですが……」 ****544 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 12:04:12.35 ID:vGBiMEoLP メイド妹「当主のおねーちゃんには、これですー!」 魔王「これは……?」 メイド妹「ぶらぶら勇者様人形でーっす!」ぶんぶんっ メイド姉「お恥ずかしい」 魔王「あはははは。すごいではないかっ! くれるのか?」 メイド妹「プレゼントですっ」 メイド姉「わたしからは、スズランの香水です。  秋口から集めて作ったんです。修道院の資料にありまして……」 魔王「ああ。嬉しいぞ。ありがとうっ」 メイド長「あらあら、まぁまぁ」にっこり メイド妹「眼鏡のおねーちゃんにはこれでーっす!  二人で作りました~!!」 メイド長「え? わたしにもいただけるのですか?」 メイド姉「はい。新しい飾りエプロンなのですが」 メイド長「こんな……」 メイド妹「刺繍はスズラン、お姉ちゃん作っ! でぇす!」 魔王「わたしとおそろいだな?」 メイド姉「はいっ」 ****546 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/07(月) 12:10:25.38 ID:vGBiMEoLP メイド長「でも、こんな」 メイド姉「あっ。や、やっぱり。縫い目が不揃いですか?」 メイド長「とんでもない! でも……」 魔王「私たちはプレゼントなぞ、用意していないのだ。  すまんな。祭りのことなど、すっかり失念していた」 メイド妹「そんなのいいよー♪」 メイド姉「ええ、お気遣いなく」 メイド長「……」きゅっ 魔王「しかし」 メイド姉「こんなに優しくて暖かいお屋敷で  働かせて頂いてるんです。  毎日プレゼントをいただいているような気持ちです」 メイド妹「わたしたち、すっごく幸せだよ~♪」 魔王「……お前たち」 メイド妹「それにねー。今年はね」じゅる メイド姉「もぅっ」 メイド妹「えへへ~」 メイド姉「この子、もうお祭りのご馳走で頭が  いっぱいなんです。これ以上幸せになったら、  子豚さんになっちゃいますよ」 #right(){{&link_up(ページトップへ)}} ---- #center(){[[<前2-1へ>2-1]]|[[次2-3へ>>2-3]]} ----

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