第四章 戦争の放棄

阪本昌成『憲法理論Ⅰ 第三版』(1999年刊)   第二部 実定憲法理論    第四章 戦争の放棄 p.241以下

<目次>

■第一節 戦争の違法化への努力


[266] (一)国際法は戦争を違法化してきた


国際紛争を解決する強制的手段は、非軍事的措置(例えば、相手国の大公使の国外退去のごとく、自国の領土内でとり得る措置)と、軍事(武力)的措置とに分けられる。
軍事的措置のうち、最も徹底したそれが戦争である。

戦争とは、国際戦時法の範囲内で、国家または国際団体のあらゆる強制的加害手段、なかでも正規兵力を用いて、相手国の抵抗力を制圧できる法状態をいう。
歴史上、近世自然法学者たちは、戦争が、相手国のみならず自国に対しても、残虐な殺戮と大量の破壊をもたらすことを重視して、これを野放しにしないために、正当原因に基づく戦争、すなわち正戦だけが法的に許されると説いた( 正戦論 )。
ところが、超国家的な判定者のいない国際社会において交戦当事国が正当原因を主張した場合、正戦か不正な戦争かの実際上の判断は不可能であった。
そこで、18世紀以降の国際法の世界で、正戦か否かを問わない無差別戦争観が支配的となってくる。
それは、戦争の合法性を、主権者によって開始され宣言されたかという手続に基づいて判断する考え方である。
この考え方が第一次世界大戦に至るまで国際法学の主流を占めた。

第一次世界大戦は、人類に未曾有の惨禍をもたらした。
1920年に国際平和維持を目的として設立された国際連盟は、連盟規約の前文で、加盟国による戦争に法的歯止めをかけるべく、紛争当事国がその解決手段として「戦争ニ訴ヘサルノ義務ヲ受諾」することを概括的に謳った。
これは、従来法的野放し状態にあった戦争に対して、限定的ではあるが法的規制を課し、戦争を違法化する第一歩であった。
もっとも、連盟規約は戦争の一般的禁止にまで踏み込まず、戦争という危機が生じた場合に、当事国に対して仲裁裁判に付すことを選択的とし、これに付さなかったときには、連盟理事会の審査に付すよう義務づけたにとどまった。
戦争を一般的に禁止し違法化する国際社会の目標の実現は、その後の努力をまたねばならなかった。
1928年の不戦条約(正式には「戦争放棄ニ関スル条約」)は、条約締結国があらゆる紛争の平和的解決を約束するとともに、「国際紛争解決ノ為戦争ニ訴フルコトヲ非トシ、且其ノ相互関係ニ於テ国家ノ政策ノ手段トシテノ戦争ヲ放棄スル」(1条)ことを謳った。
さらにそのうえで、紛争解決にあたって平和的手段に訴えるべきことを定めて(2条)、紛争解決手段としての戦争を全て違法としたのであった。
但し、同条約は、不戦条約に違反して武力を行使した国に対して行う戦争や、自衛のための戦争まで禁止してはいない。

[267] (ニ)国連憲章は武力行使まで違法化した


こうした国際的努力をもってしても、第二次世界大戦の勃発は阻止し得なかった。
国際連盟の経験と反省を基礎に設立された国際連合は、不戦条約の内容をさらに前進させて、ひろく武力行使の違法化に乗り出した(国連憲章2条4項は、「戦争」という表現を避けて、すべての加盟国に対して、ひろく「武力による威嚇又は武力の行使」を慎むよう義務づけている)。
国連憲章は、国連による強制措置、「自衛権」の発動等一定の場合における例外を除いては、国際紛争解決の手段としての武力行使を一般的に禁止して、 戦争の違法化 からさらに 武力行使の違法化原則 を確立した。

[268] (三)国際法は「自衛権」行使にも制限を加えてきている


国連憲章51条は「個別的又は集団的自衛の固有の権利を侵害するものではない」ことを確認して、自衛権については、その行使を禁止対象外としている。
国際法上、個別的「自衛権」は、不法な攻撃を除去するために、緊急やむを得ない場合に必要な範囲にとどまる限りで行使される国家の固有の権利(自己保存権としての緊急権)であるとされ、同条の明文規定をまたなくても当然に国家であれば揺有するところである、と通常いわれる(本書は、この「自衛権」の捉え方に賛同しない。この点については、[270]参照)。

「自衛権」の発動要件として、不法な危害の急迫性と、排除の必要限度性が挙げられる ものの、その該当性は当該国家の自主的判断に委ねられるほかないために、その濫用を防止する必要は大きい。
憲章51条は「自衛権」の発動を「武力行使が発生した場合」であって、しかも、「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間」という制約を設けたのはこのためである。

[269] (四)国家の戦争権限を制限することは現代立憲主義の重大課題である


戦争は、相手国にとっても、自国にとっても、多大な損失・犠牲をもたらす。
特に、既にふれたように([92]参照)、現代立憲主義は、大量殺人兵器を抱える国家において、軍隊を憲法上いかに統制するか、また、外国との間でいかにして平和を維持していかに実現するか、難題を抱え込む。
諸国家のなかの憲法典が、侵略戦争の放棄を謳ったり、戦争遂行用の武器の製造販売等を政府の許可制のもとに置いたり(ドイツ基本法26条)、防衛上の緊急事態を定義してその確定権限の所在と手続を法定したりしているのは(同115条a)、この課題に対する対処を示している。


■第ニ節 日本国憲法九条の狙い


[270] (一)「自衛権」は国家の「基本権」ではない


国内法たる憲法典は、国家の戦争権限を手続的に統制することからさらに進んで、「自衛権」を放棄することを定め得るか。
これへの解答は、
「自衛権」が国家に固有で不可譲の「基本権」、または、自然法上の「基本権」であるか、
自衛の行使態様は武力によるものに限られるか、
という論点と関連している。
国際法上、「自衛権」は自然法上の自己保存権であるとか、国家の固有の基本権であるとかいわれてきたのは、「自衛権」が不可譲であることを含意してのことであろう。

「自衛権」は自然権であるか。
この点を肯定するとすれば、理性によって発見された一般法則を意味してきた自然法概念を基礎にしながら、「国家は自己保存に必要なあらゆるものに対して権利を持つ」と説くこととなって、それはまさに理性なき法秩序を理性によって根拠づけようとする自家撞着である。
次に、「自衛権」は国家固有の不可譲の「権利」であるか。
実は、自衛行為が権利として理論構成されたのは、次のような事情からであった。
不戦条約は、国策の手段として戦争を使用しないという国家の不作為義務を定めるに当たって、その留保を「権利」という積極的用語によることによって、主要国の参加を容易にしようとした。
こうした政策的配慮が背後にあったからこそ、「権利」としての「自衛権」が説かれたのである。

「自衛権」概念が、右のような背景で説かれたことに留意すれば、「主権国家たる以上、日本も国家固有の権利としての自衛権を、憲法典の規定の如何に拘わらず、当然に有しており、憲法典によって放棄したり、否定できる筋合いのものではない」とする論理は、当然のごとくには成立しない。
しかも、右論理は、「主権国家→固有の自衛権保持→武力の行使可能→そのための武力装置の維持当然」という一連の思考に流れ易いのである。
「主権国家たる以上」でいわれる「主権」は、当初は、対外的独立性という国家の属性を指す意味でオーソドックスに用いられている。
それが何時の間にか「対外的独立性という属性→その手段としての固有の自衛権→自衛権行使のための正規軍」という、手段までを指す主権概念となってしまう。
国家の属性と手段とを架橋する語が「固有の自衛権」である。
「国家を形成するためには、共有の軍隊と国家権力が必要である」(ヘーゲル)といわれる如く。

国家の国家たる要素は、対外的独立性という意味での主権(対内的には統治権)、領土そして国民である、とこれまで公法学は想定してきた。
国家に「固有の自衛権」は、あたかも右の国家の要素に内在するかのように説くためのマジック・ワードなのである。

武力行使が違法化されてきた歴史の流れを考慮した場合、自衛とは、武力不行使という原則に反して、他国の主権を侵害した場合であっても、 違法性の阻却される国家行為 である、と定義するのが、法的には正確である。

[271] (ニ)正規軍の保持は正当防衛等の概念では正当化できない


また、「自衛権」を刑事法でいう正当防衛とか緊急避難といった概念とのアナロジーで軽々に正当化してはならない。
確かに、戦争は国家によって取られる緊急行為であって、国際法上、この行為は武力不行使原則の適用除外(例外)として位置づけられている。
これに対して、憲法体系という国内法で統制しようとする領域は、武力行使のための恒常的実力組織(正規軍)を建設するか否か、建設するとすればその程度如何といった、緊急事態の準備段階にある。
この準備段階を正当防衛等の概念で正当化してはならず、その段階の選択は、国内法たる憲法典によって統制すること可能である。

[272] (三)日本国憲法九条は武力不行使原則を徹底させた


伝統的には、「自衛権」とは、相手国の武力行使に対して武力でもってこれを排除する行為を指した(これを「伝統的意味での自衛権」と呼ぼう)。
国連憲章51条等、国際法上にいう「自衛権」もこれを念頭に置いて、国際機構によるその制約を模索してきたのである。

ところが、自衛行為は、武力によるものに限定されるわけではない。
自衛行為として、電波妨害、侵入国に対する租税支払拒否等の不服従もあり得る。
これを「広義の自衛行為」と呼ぼう。

国家は、自衛行為の態様と、そのための装置を憲法典によって選択することが出来る。
その際の選択肢には、武力不行使原則を徹底することを選びとって、伝統的意味での自衛権を放棄し、広義の自衛行為だけを許容したものと解される(国際政治上の事実からしてその選択が賢明であったか否かの議論は、また、別である)。

学説のなかには、この徹底化を、政治的目標であって、法的意味なしと理解するものもみられるが、これだけの重大な決断を憲法典に組み入れながら、法的意味なしとする理解は不可解である。
もともと国際社会においても、武力不行使原則は、法的意味を持たされてきたのである。

[273] (四)我が国の通説・判例は「自衛権」存在を肯定するものの、その意味のとり方を異にしている


9条と「自衛権」との関係につき、学説は、次のように大きく分れている。
自衛権が「広義の自衛行為」を含まないとの前提に立って、9条が伝統的意味の自衛権そのものを否定した結果、全ての武力の維持と行使が放棄されている、とする A(全武力放棄)説
伝統的意味の自衛権は否定されるものの、広義の自衛行為(ある論者の表現によれば「武力によらない自衛権」)だけは容認されている、とする B(伝統的自衛権放棄)説
国家には固有の伝統的意味の自衛権が認められている以上、「戦力に至らない武力」の維持と行使は許されている、とする C(非戦力的武力合憲)説
9条は自衛戦争まで放棄しておらず、自衛の手段としての「自衛用の戦力」保持も禁止していない、とする D(自衛戦力合憲)説

右の学説のうち、近時有力になっているのが、C説である。
この説は、「国際紛争を解決する手段としては」の限定は、「戦争」、「武力による威嚇」、「武力の行使」のうち、後二者にかかるものと読む。
換言すれば、「戦争」は全面的に禁止されているのに対して、後二者は限定的に放棄されている、と理解するのである。
この理解からすれば、自衛権行使の範囲内で武力を行使すること、そのための装置を維持しておくことは、9条によって禁止されていないことになる(佐藤・650~1頁)。

しかしながら、「戦争」の原則禁止から「武力による威嚇」の禁止にまで拡大してきた国際法上の展開に鑑みた場合、「戦争/武力行使」、「軍隊/非戦力的武力」という区別自体成立し難く、この見解の説得力は大いに疑問である。

[274] (五)判例は国家の自衛権を基本権と捉える傾向にある


判例の主流は、学説でいうD説に与してきている。
まず、砂川事件上告審判決(最大判昭34.12.16、刑集13巻3225頁)は、「わが国が主権国としてもつ固有の自衛権」というお馴染みの表現に拠りつつ、9条がこの自衛権を否定していないこと、無防備・無抵抗を定めたものではないこと、を指摘した。
百里基地訴訟第一審判決(水戸地判昭52.2.17、判時842号22頁)も、伝統的意味での自衛権を国家の基本権と捉えたうえで、9条は、自衛権行使のための有効な防衛措置を予め組織することを禁止していない、とした。

これに対して長沼事件訴訟第一審判決(札幌地判昭48.9.7、判時712号24頁)は、「わが国が、独立の主権国として、その固有の自衛権までも放棄したと解すべきであに」としながらも、だからといって伝統的意味での自衛権行使が容認されているわけではなく、「民衆が武器をもって抵抗する群民蜂起の方法」等の、軍事力によらない方法によるべきことを説いた。
しかし、民衆による抵抗は国家による行為ではなく、これを自衛行為と位置づけることは正しくない。

なお、内閣は、
(a) 9条1項によって放棄されているのは「国際紛争を解決する手段」としての戦争にとどまり、自衛のための実力行使は放棄されていない、
(b) 9条2項にいう「前項の目的」とは、国際紛争解決手段としての戦争を放棄することを指し、その目的達成のための「戦力」保持は禁止される、
(c) 「戦力」とは、自衛のための必要最小限度の一線を超える実力をいう、
(d) 現在の自衛隊は自衛のための必要最小限度の実力に該当し、違憲ではない、
と解釈している。


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