ケインズv.s.ハイエクから考える経済政策

科学とは、明瞭にものを考えること、空想と現実との違いを検証すること、数字を使って定量的に考えることだ。
~ アヴリオン・ミチスン(イギリスの動物学者・免疫学者)

要旨■「福祉国家(大きな政府)」あるいは「市場原理主義」などのレッテル貼りではなく、「国民負担率」という具体的な数字で政府の規模を論じることが必要である。


<目次>

■1.このページの目的

ケインズvsハイエクというと、たちまち「放漫な福祉国家・大きな政府はダメだ」(ケインズ批判の場合)とか「市場原理主義・自由放任主義はダメだ」(ハイエク批判の場合)という風に、一方的に相手にレッテルを貼って(少なくとも部分的には明らかに事実に反する)お粗末な批判・中傷を繰り返す者が目立ちます。
特に、歴史問題や政治問題にはそれなりに詳しい自称「保守主義者」の有名識者までが、経済政策となると条件反射的に「ハイエクは市場原理主義だ」とか「小泉改革は冷酷非常な間違った改革だ」といった罵詈雑言レベルのレッテル貼りに終始してしまうケースが散見されます。
このようなレッテル貼りオンリーで内容検討を欠いた批判・非難は無意味で恥ずかしいことであり、各々の批判者は、少なくとも自分が批判している「福祉国家」なり「市場原理主義」なりが具体的に何を意味するのかを、①以下に説明する「国民負担率」などの数値や、②客観的な概念定義によって、まずきちんと示さなければいけません。
ここでは、ケインズ・ハイエク双方の政策スタンスの実質的な内容を、なるべく①客観的な数値や、②比較的中立的な辞書の用語定義、を活用して解説していきます。

■2.動画ケインズvsハイエク第1ラウンド(2つの経済政策)



※上の動画に現れたケインズとハイエクの経済政策を、日本やアメリカの実例に即して簡単に図式化します。

◆1.経済政策の対立軸~「新自由主義経済政策」か「ケインズ派経済政策」か

麻生政権は、サブプライム・ローン危機に対応して、小泉政権期の経済政策から大胆に軌道修正を図りましたが、政策効果が漸く現れ始めた所で政権交代となってしまいました。
  新自由主義経済政策 ケインズ派経済政策
政府介入 小さな政府を志向 大きな政府を志向
典型例 小泉政権
なお福田赳夫(元首相)以来の清和会(町村派)の基本的経済政策
小渕政権、 麻生政権
なお田中角栄(元首相)以来の経世会(津島派)の基本的経済政策
マクロ政策 金融政策重視
市場の自立調整機能を信頼
財政政策重視
政府の介入による市場調整
財政方針 財政再建を優先 財政出動を容認
構造改革 構造改革を推進 構造改革に否定的
物価動向 デフレ傾向・長期で円高 インフレ傾向・長期で円安
その他 市場効率化の結果として(一時的な)格差拡大を招来
市場全体の成長力は伸張(パイの拡大)
競争制限・政府介入の結果として比較的均等分配
市場全体の成長力は衰弱(パイの萎縮)

結論から先に言うと、実は経済政策を巡るケインズvs.ハイエクの争いは、現在では、どちらかが常に一方的に正しい、という性格のものではなく、

(1) 1930年代にみられた大不況期や、2008年のリーマン・ショックのような深刻な金融危機・経済危機が発生した場合には、短期的に政府や金融当局が各々大規模な財政出動や大幅な金融緩和を実行して積極的に景気を刺激する必要がある。(=ケインズ派の主張する政府当局による大胆な裁量政策の採用)
(2) 危機が終息に向かう趨勢が見えた後は、なるべく速やかに財政規律を確保し、金融調整を市場を通じた自律調整機能に委ねる方向に復帰する。(=ハイエクなどの主張する新自由主義経済政策の採用)

という2段階で使い分けるのを良し、とする事がアメリカ政界・経済界の共通認識として確立されつつあります。

日本においても、こうした経済政策の巧みな使い分けを活用して維持されたアメリカの1980年代及び1990年代の両期の長期かつ安定的な経済好況を参考に、

2000年代初めから中期にかけては小泉政権下でどちらかといえばハイエク流の市場調整機能を重視した新自由主義政策の採用、そして
金融危機の発生した2008年後半からは麻生政権の下で一転して大胆な財政出動というケインズ型の政府裁量政策の発動

という弾力的な経済運営の方針転換が行われました。
(但し、その後発足した民主党政権では、強力な財政再建論者の与謝野氏が経財相として入閣したこともあり、経済政策の方向性が定まっていないように見受けられます)

※(参考)
経済学革命 復興債28兆円で日本は大復活!
木下 栄蔵 (著), 三橋 貴明 (著)

経済状態には「通常経済」と「恐慌経済」という二つのモードが存在し、「セイの法則」や「リカードの比較優位説」の妥当性、あるいは小さな政府vs大きな政府など,経済環境での殆どのイシューで適合性が真逆となってしまう。従って「通常経済」モードではハイエクなどの主張する新自由主義経済政策が妥当するが、数十年~100年に1度起こる「恐慌経済」モードではケインズ型の経済政策が必要となる、ということを分かりやすく解説し現在の日本に必要な経済政策を提言。

★なお三橋貴明氏は福祉国家・大きな政府推進派と勘違いされる場合が多いのですが、 新世紀のビッグブラザーへblog で、
「ちなみに、わたくしは頻繁に「ケインズ主義者」とか言われますが、別にケインズを信奉しているわけでも、ついでに否定しているわけでも何でもありません。日本の現在の環境に新自由主義によるアプローチが適していると判断したなら、平気で、「くたばれ、ケインズ主義者!」とか叫びますから、はい。」
と発言しているように、経済情勢にあわせて最適な政策方針を採るべきだとするケインズ・ハイエク両方のスタンスの使い分け派です。このことは三橋氏のblogを長期間にわたって愛読している人には周知の事柄です。

◇経済政策の使い分け

基本 例外
経済状態 通常経済 恐慌経済
経済政策 新自由主義経済政策 ケインズ派経済政策
支配原理・原則 自由競争、私的自治の原則 雇用の確保、公正の原理
価値観 自由主義、個人主義、機会の平等 共助、連帯、共同体の維持、結果の平等
実現経路 ボトムアップ(自生的秩序、市場の自律調整) トップダウン(設計主義的合理主義)
政治的スタンス リベラル右派(小さな政府を推進) リベラル左派(大きな政府を推進)
代表的論者 ハイエク、フリードマン ケインズ、ロールズ
※アメリカでは1980年代以降の経験を踏まえて、この図式が共和党・民主党間でほぼコンセンサスを得ているが、政治家にも学者にも「大きな政府」を好む左派の多い日本では、これが必ずしも理解されていない。

◆2.問題は国民負担率の増減

通常期はハイエク型の政策、金融危機が発生した場合には短期でケインズ型の政策を採る、というふうに両政策を使い分けるとして、国民生活や国家の中長期的な経済成長の可能性に関して広い視野で注目しなければいけない重要な事項があります。それが「国民負担率(national burden rate)」です。

◇1.辞書による説明:「国民負担率」

広辞苑(岩波書店) こくみん-ふたん-りつ
【国民負担率】
国・地方租税負担と社会保障負担(社会保険料負担)の合計額の、国民所得に対する比率。負担には税外収入・受益者負担などは含まれない。
ブリタニカ国際百科事典 こくみんふたんりつ
【国民負担率】
一般的に国民所得に対する国民全体の①租税負担と②社会保障負担の合計額の比率をいう。
厳密な定義はないが、国民の公的負担の程度を示すおおよその指標としてよく使われている。
国民負担率は、①租税負担率(租税負担の対国民所得比)と②社会保障負担率(社会保障負担、すなわち社会保険料負担の対国民所得比)とに大別される。
国民負担率は、地方自治体も含めて政府部内の財政規模の拡大や医療保険をはじめとする社会保障制度の充実を伴い必然的に増加する傾向にある。
1992年の統計では
(1)ヨーロッパの負担率が50%前後と高く、
(2)アメリカは36.2%となっている。
(3)日本の場合、<1>1955-65年には20%台の水準であったが、<2>1970年代後半から上昇傾向にあり、95年には37.8%と予想されている。

つまり、国民負担率とは簡単にいえば、我々の収入から政府が勝手に徴収するお金の割合のことです。

◇2.国民負担率の上昇は“自由の喪失”を意味する

金融危機が発生した場合には、一時的に財政出動を増やさざるを得ないのは分かりますが、それを不必要に続けると中期的には必然的に国民負担率の上昇を招きます。つまり、

国民負担率が上昇する 我々の可処分所得が減る 我々の行動の自由がその分制約されてしまう

という結果になります。

具体的に示すと・・・
一年前にはAさんの月収は20万円で、そのうち税金と社会保険で5万円差し引かれるので、手取りは15万円だった。 負担率=5/20=25% 1970年頃の日本
現在はAさんの月収は20万円で変わらずだが、税金と社会保険で7万円差し引かれて、手取りは12万円になった。 負担率=7/20=35% 現在の日本
一年後もAさんの月収は20万円で変わりそうもないが、税金と社会保険で9万円差し引かれて、手取りは11万円になる予定だ。 負担率=9/20=45% 10年後の日本?
二年後もAさんの月収は20万円で変わりそうもないが、税金と社会保険で11万円差し引かれて、手取りは9万円になる予定だ。 負担率=11/20=55% 20年後の日本?

※①と③を比較すると、Aさんの経済的自由度は20%も奪われることになり、さらに①と④では30%も奪われることになります。
実際には1970年頃の日本と現在の日本とでは経済規模が大きく違いますから、国民負担率の上昇は国民所得の上昇によって吸収されて国民にはそれほど痛みと感じられませんでした。
しかし、これからの日本は、経済規模の拡大が余り望めない中での国民負担率の上昇を迎えることになりますから、何らかの対策を政府がしっかり取らないと、国民の経済的自由の損失が急ピッチですすんでしまいます。

※各国の国民負担率の推移
参考リンク

なおリンク先の「日本を欧州型の福祉社会にする」という主張には強く反対します。
欧州諸国のように国民負担率が50%を超えてくると、「額に汗して働き収入を上げて豊かになる」という動機よりも「どうせ働いても政府に吸い上げられるだけであり、上手く政府の補助金や扶助を獲得することを考えるのが得だ」といった考えに傾く国民が多くなってしまい、経済が停滞してしまうからです。
図中の各国で、曲がりなりにも一番経済活力が高い国は、国民負担率が一番低いアメリカであり、その次は国民負担率が二番目に低い日本であることがこれを証明しています。)

【関連】 左派・左翼とは何か 右派・右翼とは何か

国民負担率の数値を示さずに「福祉の充実」を訴える者に注意

選挙になると、それをすると将来に国民負担率がどうなるのかといった数値をまったく示さずに「福祉の充実」「安心社会の実現」などの耳障りの良いスローガンを繰り返す者が必ず現れます。
この言葉の真に意味するところは「貴方の収入から、政府が天引きして貴方の知らない誰かのために勝手に使用する金額の割合を今よりも増やします(つまり貴方の自由に処分できる所得を減らします)」ということです。
社会民主主義の立場をとる政党が長期に渡って政権を握り続けてきたスウェーデンなど北欧諸国は、そのようにして個人の収入の70%以上が現実に政府に吸い上げられていますし、左翼政党がやはり強い勢力を持つフランスなども国民負担率が60%を超えています。
「福祉の充実」「ヨーロッパ型の高度福祉社会の実現」といった言葉に踊らされている人は、本当にそれが自分の望む社会の在り方なのか再検討してみる必要があります。

◆3.政治的スタンスと経済政策

当サイトで薦めている政治的スタンス8分類には、実はスタンス毎の経済政策も組み込まれています(下図参照)。
これに上記の国民負担率の目安も対応させてみます。

政治的スタンス (経済政策) 国民負担率の目安 補足説明
(1) リベラル右派 (最低限の政府介入) 10%台 ※ハイエクのスタンス 1870年代までのイギリス
(2) 保守主義 (中負担・中福祉) 20%台 1970年代までの日本
(3) 中間 (無定見・便宜主義) 30%台 現在の日本・アメリカ
(4) リベラル左派 (やや高負担・高福祉) 40~50%台 ※ケインズのスタンス 英・独など欧州主要国
(5) 左翼・右翼 (高負担・高負担) 60~70%台 ※社会民主主義者のスタンス スウェーデンなど北欧諸国、仏、準戦時体制
(6) 極左・極右 (国家管理) 80%以上 ※マルクスのスタンス 旧ソ連/東欧など共産主義国、戦時体制

こうして見ると、1955‐75年頃の日本(自民党の鳩山・岸・池田・佐藤・田中政権期)は国民負担率20%台で、経済政策面からも保守政権だったことになります。
またアメリカは、2004年に国民負担率31%という数値があり、ブッシュ子政権は経済政策面で保守主義にあと一歩の所まで接近していたことが分かります。
現在は、日本もアメリカも30%台半ばから後半で、中間から、40%台以上のリベラル左派的なスタンスに近づきつつある状況と言えます。


◆4.増税が好きなリベラル左翼

昨年の参議院議員選挙の頃から、菅首相をはじめとする民主党政権首脳が盛んに消費税率10%への引き上げなどの増税策を打ち出しており、困ったことに谷垣自民党総裁(自民党内のリベラル左翼)もそれを容認するかのような発言を繰り返しています。

これは、私たち一般国民から見れば極めておかしな現象ですが、上記の説明の通り、リベラル左翼はいずれも「大きな政府」が好ましいと(私たちの常識に反して)本気で考えているのです。
つまり、「福祉の充実」という耳障りの良い言葉を名目に、増税あるいは社会保険料の増額徴収によって、国民個々人の可処分所得を減殺し、実質的に国家がコントロールする経済領域の拡張(=個人が自由に処分できる経済領域の縮小)を実現しようとしているのです。
これを フロー(資金の流出入)の社会主義化 といいます(これに対して、旧ソ連など共産主義国でかって行なわれた生産手段の国有化を「 ストック(資産)の社会主義化 」といいます)。

英サッチャー・米レーガン両保守政権の規制緩和/減税/補助金削減/公的企業の民営化といった新自由主義に基づいた経済改革が大きな成果を収め、ソ連・東欧の共産主義国が崩壊した1990年代以降は、日本も含めて各国の左翼は、もはや生産手段の国営化(主要民間企業の公営化などの形態を含む)による社会主義の実現は政策としては完全に引っ込めてしまったかわりに、課税強化や社会保険の増額負担という手段を通じて、政府のコントロール下に置かれる国民経済の割合を徐々に増やしていく方向に転換しました(ソ連に代わって、スウェーデンなど北欧諸国が、こうした左翼たちの理想の国家・社会となったのはよく知られているところです)。

このような 政府の経済的コントロールの強化 は、必然的に 政治的コントロールの強化 につながります。
私たちが特定の政党や政治家を応援する場合には政治献金や応援集会に参加するという形をとりますし、特定の政策に反対する場合には抗議デモへの参加や陳情やネットやチラシでの周知活動という形をよくとりますが、これらの活動にはいずれも相応の資金が必要になります。
従って、政府によって私たちの経済的自由が減殺されれば、必然的にその分の政治的自由も奪われることになります。
これがハイエクが1960年に『自由の条件』で警告した「(福祉国家という)新しい隷従への道」です。

本書を書いた時には、社会主義という言葉は、はっきりと、生産手段の国有化と、それによって可能になり、必要ともなる中央集権的経済計画化を意味していた。・・・(中略)・・・今日において社会主義とは、もっぱら課税という手段を通じて広範囲な所得の再配分を行なうことを意味しており、また福祉国家という制度のことを意味するようになってきている。・・・(中略)・・・この福祉国家という形態においては、本書で警告したような事態は、もっとゆっくりとした、間接的な、不完全な形でしか現れないだろう。けれども・・・究極的な結果はここで警告したようなものになっていくだろうと、私は確信するものである。
~ F.A.ハイエク『隷従への道』(1944年)の1976年版への前書き

保守主義者・自由主義者が一般に価値を置くのは「機会の平等」ですが、実は社会には、幼いころに経済的理由から不当な差別を受けたなど様々な理由により「結果の平等」が確保された世界を強く夢見ており、その夢を達成するために努力して、政治家なり法曹なり言論人なりへの道を歩んだという(ある意味で非常に立派な)人物が、私たちの一般に考えているよりもずっと多く存在しています。
そして、そのような勢力が「福祉の充実」などの甘い言葉を巧みに使って、①事実上の政府による経済的コントールの強化→②政治的コントロールの強化→③彼らの目標とする「平等社会の実現」へと日本社会を引きずっていこうとしている危険性が実は高い、ということを私たちはもっと確りと認識しておくべきです。
(フランス革命に最大の思想的影響を与えたルソーの平等思想とは実際にそういうものでしたし、日本においても、戦後に教育界や言論界を占拠した左翼たちによってルソーが学校教育の場などで素晴らしい思想家として最大限に賞賛され続けている現状によって、それは裏づけられると思います)

◆5.「福祉国家」「市場原理主義」批判をする者は共に国民負担率の目標を示すべき

各国の国民負担率の増減グラフの横欄に書きましたが、「 福祉の充実 」を主張する者は、具体的に 国民負担率が何%台の社会 を目標としているのか、を 明示 しなければ不誠実・不見識であり、政治家あるいは識者として不適当といえます。
同様にして、ハイエクや小泉政権を「 市場原理主義 」として批判する者も、「では自分たちは 国民負担率が何%台の社会 を目標としているのか」をきちんと 明示 できなければ不誠実・不見識で、的外れの批判をしていると言わざるを得ません。

このように、 自分が国民負担率が何%台の社会を目標としているのか、を確り検討する ことは、 自分の政治的スタンスを確り検討する ことにつながります。
そして、そのようによく検討してみると、今までハイエクを「市場原理主義」として何となく批判してきた人が、
実はリベラル左派の目指す「大きな政府(=やや高負担・高福祉の社会…具体的には国民負担率40~50%台の社会)」ではなくて
「中規模の政府(=中負担・中福祉の社会…具体的には国民負担率20%台の社会)」が良いと考える保守主義のスタンスであって、ケインズよりもむしろハイエクのスタンス(小さな政府)により近いことが分かる場合
などがおこるはずです。

私自身の見解としては、 国民負担率が30%台後半から40%台に接近している現在の日本 は、 かなり問題のある状況だ と見ています。
自分の収入のうち、私たちは既に35%以上を政府に吸い上げられており、今後さらにその割合が上昇していく(=私たちの可処分所得の割合がさらに減殺される)可能性が濃厚なのです。

自分の収入の一定の割合が、自分の知らない誰かのために使われるとしても、
私としては、それはあくまでチャリティ(慈善)、すなわち私たち国民自身の意志による自発的な資金拠出であるべきであり、
政府によって、私たちの収入の今以上の割合が強制的に徴収されて、誰かの為に勝手に使用されてしまう、という状況は余り望ましいとは思いません。

そういう状況下では、
(1) 強制的に徴収される側には、 正当な理由なく収入が奪われているという不満が残る一方で、
(2) 政府から給付を受ける側には、 本来の対価がないにも関わらず便益を受け続けることからくるモラル・ハザードの発生と、
今後も継続して便益を受け続けようとするところからくる不当な既得権益の発生(受益者の圧力団体化)が容易に想定されます。

◆6.ここまでのまとめ

「通常経済」か「恐慌経済」か、経済局面を見極めて、ハイエク型の経済政策を採用するかケインズ型の経済政策を採用するか決定するのが正しい在り方であり、
現在は「恐慌経済」下にあるのでケインズ型の経済政策を採るのが正解となると考えますが、
ケインズ政策をいつまでも続けると、国民負担率の上昇を招いて、その分我々の経済的自由(そして政治的自由)が奪われる結果に至ります。(ハイエク「新しい隷従への道」)
従って、我々としては、経済局面の転換によるケインズ型からハイエク型への転換まで見据えて、政府の経済政策を評価していく必要があります。

■3.動画ケインズvsハイエク第2ラウンド(対立構図の一般化)

以下では、ケインズvsハイエクの経済政策の対立を、リベラル左派(大きな政府)vsリベラル右派(小さな政府)の政治的な対立構図に一般化します。

2番目の動画で ケインズ が強調している「 トップダウン 」は政府が経済の在り方の大部分を設計・計画し管理する「 設計主義(的合理主義) 」(⇒全体主義に繋がる)を、また ハイエク が強調している「 ボトムアップ 」は政府の経済的介入が少なく民間が個々に自主的に経済活動に携わった結果としての 「 自生的秩序 」(⇒自由主義に繋がる)をそれぞれ含意しています。

◆1.リベラル左派vsリベラル右派(図解)

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※下図の解説は 保守主義とは何か 参照(ハイエクの政治的スタンスを「経済保守=新保守」ともいいます。)

◆2.ケインズvsハイエク用語解説

◇1.ケインズと修正資本主義

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◇2.ハイエクと新自由主義

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◆3.「福祉国家」と「小さな政府」

◇1.福祉国家(welfare state)

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◇2.小さな政府(limited government)

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◆4.右派と左派の2種類ある「リベラル」

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※「リベラリズム」(liberalism)の辞書的定義および説明
(1) ブリタニカ・コンサイス百科事典(liberalismの項)より全文翻訳
  政治的および経済的ドクトリン(理論・信条)であり、①個人の権利・自由、②政府権力の制限の必要性、を強調するもの。
<1> リベラリズムは、16世紀欧州の戦争(30年戦争)の恐怖に対する防御的リアクションとして発生した。
その基本理念は、トーマス・ホッブズとジョン・ロックの著作の中で公式な表現を付与された。この両者は、至上権は究極的には被統治者の同意によって正当化され、神権ではなく仮想的な社会契約によって付与されると唱えた。
経済分野では、19世紀のリベラル(自由主義者)達は、社会での経済生活に対する政府介入の撤廃を強く要求した。アダム・スミスに従って彼らは自由市場に基礎を置く経済システムは、部分的に政府にコントロールされた経済システムよりも、より効率的であり、より大きな繁栄をもたらすと論じた。
<2> 欧州と北米の産業革命によって発生した富の巨大な不平等その他の社会的問題への反動として、19世紀末から20世紀初めにかけてのリベラル(自由主義者)達は、市場への限定的な政府介入と、無料の公共教育や健康保険などの政府拠出による社会的サービスの創出を唱えた。
アメリカ合衆国では、F.D.ルーズベルト大統領により企画されたニュー・ディール(新規まき直し)計画により、近代ないし進歩的リベラリズム(modern liberalism)は、①政府の活動領域の広範な拡張、そして、②ビジネス活動の規制の増大、として特徴づけられた。
第二次世界大戦後、社会福祉の一層の拡張が、イギリス・スカンジナビア諸国・アメリカ合衆国で起こった。
<3> 1970年代の経済的不振(スタグネーション:不況とインフレの同時進行)は殊にイギリスとアメリカ合衆国において、自由市場を選好する古典的な自由主義の立場(classical liberal position)の再興を導いた。
<4> 現代リベラリズム(contemporary liberalism)は、①不平等の緩和、②個人の権利の拡張、を含む社会改革に依然関心を寄せ続けている。
(2) オックスフォード英語事典(liberalの項)より抜粋翻訳(※liberalismは派生語扱い)
(政治的文脈で)個人的自由、自由交易、漸進的な政治的・社会的改革を選好する(形容詞)。
語源(ラテン語) liber(=free (man):自由(人))。原初的語感は「自由人として適格な(suitable for a free man)」 ⇒つまり「自由人=奴隷でないこと」
(3) コウビルド英語事典(liberalismの項)より全文翻訳
<1> ・リベラリズム(liberalism)とは、革命ではなく、法改正によって社会的進歩を漸進的に行う、とする信条である。
<2> ・リベラリズム(liberalism)とは、人々は多くの政治的そして個人的な自由を持つべきである、とする信条である。

  • 以上の辞典による説明は、かなり内容が不明瞭であるが、まとめると「リベラリズム」という言葉は、次の4つの段階あるいは種類・区分をもってその意味内容を拡張ないし変化させてきた、ということになる。

リベラリズムの段階・種類・区分 時期 意味内容
<1> 古典的リベラリズム(classical liberalism) 16世紀~19世紀 ①個人の権利・自由の確保、②政府権力の制限、③自由市場を選好…消極国家(夜警国家)
<2> ニュー・リベラリズム(new liberalism) 19世紀末~20世紀 経済的不平等・社会問題を緩和するため市場への政府介入を容認→次第に積極的介入へ(積極国家・福祉国家・管理された資本主義)
社会主義に接近しているので社会自由主義(social liberalism)と呼ばれ、自由社会主義(liberal socialism)とも呼ばれた。
<3> 再興リベラリズム(neo-liberalism) 1970年代~ スタグフレーション解決のため自由市場を再度選好。
<2>を個人主義から集産主義への妥協と批判し、個人の自由を取り戻すことを重視
<4> 現代リベラリズム(contemorary liberalism) 現代 ①不平等の緩和、②個人の権利の拡張、を含む社会改革を志向
1970年代以降にJ.ロールズ『正義論』を中心にアメリカで始まったリベラリズムの基礎的原理の定式化を目指す思想潮流で、①ロールズ的な平等主義的・契約論的正義論を「(狭義の)リベラリズム」と呼び、②それに対抗したR.ノージックなど個人の自由の至上性を説く流れを「リバタリアニズム(自由至上主義)」(但し契約論的な構成をとる所はロールズと共通)、③また個人ではなく共同体の価値の重要性を説くM.サンデルらの流れを「コミュニタリアニズム(共同体主義)」という。
補足説明 <2>ニュー・リベラリズム(new liberalism)と<4>再興リベラリズム(neo-liberalism)は共に「新自由主義」と訳されるので注意。
もともと<1>古典的リベラリズムに対して修正を加えた新しいリベラリズム、という意味で、<2>ニュー・リベラリズム(訳すと「新自由主義」)が生まれたのだが、世界恐慌から第二次世界大戦の前後の時期に、経済政策においてケインズ主義が西側各国に大々的に採用された結果、<1>に代わって<2>がリベラリズムの代表的内容と見なされるようになり、<2>からnewの頭文字が落ちて、単に「リベラリズム」というと<2>ニュー・リベラリズムを指すようになった。
ところが、1970年代に入るとインフレが昂進してケインズ主義に基づく経済政策が不況脱出の方途として効かなくなってしまい、市場の自律調整機能を重視する<1>の理念の復興を唱える<3>ネオ(=再興)・リベラリズムに基づく政策が1980年前後からイギリス・アメリカで採用されるようになった。そのため今度は、<3>を「新自由主義」と訳すようになった。

  • 上記のうち「リベラル右派」に該当するのは、<1>古典的リベラリズム、及び<3>再興リベラリズムである(薄青色部分)。
  • また「リベラル左派」に該当するのは、<2>ニュー・リベラリズム、及び<4>現代リベラリズムのうちロールズ的な平等主義的・契約論的正義論である(ピンク色部分)。

◆5.「左派」「左翼」の辞書的定義

◇1.左派(left)

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◇2.左翼(left-wing)

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◇3.左派には3種類ある

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※要約すると、左派には次の3種類がある。(ブリタニカ百科事典(leftの項)のピンク色部分参照)
内容 キーワード
極左 共産主義(communism)即ち、いっそう急進的な左派のイデオロギーを支持する立場 ①共産主義、②マルクス主義、③弁証法的唯物論、④ヘーゲル主義
左翼 社会主義(socialism)即ち、左派の標準的なイデオロギーを支持する立場 ①社会主義、②社会民主主義(社会民主制)、③集産主義
リベラル左派 社会福祉(social welfare)を政治の最重要目標とする立場。左翼理念の持ち主 ①福祉国家、②リベラリズム、③J.ロールズ、④社会契約、⑤自然法、⑥人権
※詳細は 左派・左翼とは何か


※政治的スタンス5分類・8分類について詳しくは 政治の基礎知識 参照。

◆6.「右派」「右翼」の辞書的定義

◇1.右派(right)

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◇2.右翼(right-wing)

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◇3.右派には4種類ある

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※要約すると、右派には次の4種類がある。(ブリタニカ百科事典(rightの項)のピンク色部分、コウビルド英語事典(right-wingの項)参照)
内容 キーワード
極右 ファシズム(fascism)即ち、逸脱した急進的な形態(a divergent, radical form) ①全体主義、②ファシズム、③国民(国家)社会主義、④ジンゴイズム
右翼 権威主義(authritalianism)即ち、権威(authority)を擁護する立場 ①権威主義、②ナショナリズム、③パトリオティズム
保守 保守主義(conservatism)即ち、伝統(tradition)を擁護する立場 ①保守主義、②E.バーク
リベラル右派 資本主義(capitalism)即ち、所有(property)を擁護する立場 ①資本主義、②自由主義、③F.A.ハイエク、④K.R.ポパー
※詳細は 右派・右翼とは何か

◆7.自生的秩序論と設計主義的合理主義

「個人主義」と「集産主義」 ~ ハイエク『隷従への道』読解の手引き に包括的な説明があるので、そちらを参照下さい。

◆8.まとめ

以上で、リベラル右派とリベラル左派の理解に必要な事項を押さえました。これを図示したものが下図となります。



※上図の解説は 保守主義とは何か を参照(ハイエクの政治的スタンスを「経済保守=新保守」ともいいます。)

■4.参考図書

『自由の条件Ⅲ福祉国家における自由』  F.A.ハイエク著(1960年)

出版社/著者からの内容紹介
『自由の条件』の最終巻。自由を抑圧し、財政破綻を導く可能性をはらむ福祉国家=<大きな政府>を批判。
代わって、国家の役割を限定し個人の自由度を高める<効率的な政府>のあり方を、具体的な課題----税制、通貨、雇用問題、社会保障、教育、都市計画など----を交えて提言する実践的な書。
【新解説付き】

★現代の日本にも通じる「福祉国家=大きな政府」の下での既得権益の発生と政治的腐敗の根本原因を深く抉り、かつその処方箋を示して、英サッチャー首相のバイブルと呼ばれた名著。
『法と立法と自由Ⅲ自由人の政治的秩序』  F.A.ハイエク著(1979年)

出版社/著者からの内容紹介
民主主義の行き詰まりの原因を鋭く分析し、あるべき政府への処方箋を提言するハイエクによる民主主義改革論。
政府・官僚の肥大化、利権政治の跋扈、立法府の機能不全、規制緩和の必要性など、「大きな政府」から「効率的な政府」への道を説く。

★『法と立法と自由』シリーズ3巻の最終巻であり、慢性的な不況と政治腐敗に苦しむ1970年代の肥大した福祉国家の病理をさらに鋭く考察しているほか、1970年代前半に出版されたロールズ『正義論』やノージック『アナーキー・国家・ユートピア』を意識した発言も見られる興味深い一冊。


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  • 現在が恐慌という所だけ同意できません。そこまでの不況ではないと思います。 -- 名無しさん (2012-12-11 18:03:14)
  • 通常経済-恐慌経済 -- 名無しさん (2013-01-07 02:16:34)
  • 「政治思想と社会保障観」を参照されたい。http://www22.ocn.ne.jp/~kguik/seijisisou.html -- kisi (2013-01-24 11:17:04)
  • 現在の日本の状況はまさに恐慌です。 -- 名無しさん (2013-02-01 22:45:55)
  • 国民負担率を使うとは初めて聞きました。素晴らしいと思います。 -- a (2013-07-15 15:53:55)
  • ただ、日本の国民負担率が20%台だったのに需要>供給だった70年代と、30%台なのに需要<供給の現在で、単純に比較出来るか疑問です。 -- a (2013-07-15 16:01:43)
  • 不況時はケインズ、好況時はハイエク。古典派総合の理論ですね。それが出来たらいいんですが、新自由主義者の場合、不況時もハイエクと言い出しますからね。 -- a (2013-07-15 16:12:45)
  • インフレ経済=通常経済 デフレ経済=恐慌経済 -- 名無しさん (2013-10-15 21:33:23)
  • 竹中平蔵に対する是非について言及したスレッドが見つからないのですが? -- 名無しさん (2014-06-22 18:38:20)
  • 好況(ハイエク) -- 名無しさん (2014-12-01 03:32:33)
  • これは正確には長期の供給側の問題と短期の需要側の問題の比較です。あと、国民負担率自体ではなく、それによる労働力配置や資源配分の変化が重要です。 -- 名無しさん (2014-12-01 03:53:39)
  • >「福祉の充実」「ヨーロッパ型の高度福祉社会の実現」といった言葉に踊らされている人は、本当にそれが自分の望む社会の在り方なのか再検討してみる必要があります。 経済成長によるパイの拡大の見込めない日本において、多くの労働者は職に就けず、まともな額の賃金を受け取れないor所得0なので、「少ない所得に対する多くの割合」の小額の負担よりも「安定した固定の補助金」に魅力を感じる人はいるかもしれませんね 人間「継続可能な社会」よりも「目の前のおまんま」が無ければ生きていけませんから -- 名無しさん (2015-08-21 13:03:59)
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