ケインズv.s.ハイエクから考える経済政策

科学とは、明瞭にものを考えること、空想と現実との違いを検証すること、数字を使って定量的に考えることだ。
~ アヴリオン・ミチスン(イギリスの動物学者・免疫学者)

要旨■「福祉国家(大きな政府)」あるいは「市場原理主義」などのレッテル貼りではなく、「国民負担率」という具体的な数字で政府の規模を論じることが必要である。


<目次>

■1.このページの目的

ケインズvsハイエクというと、たちまち「放漫な福祉国家・大きな政府はダメだ」(ケインズ批判の場合)とか「市場原理主義・自由放任主義はダメだ」(ハイエク批判の場合)という風に、一方的に相手にレッテルを貼って(少なくとも部分的には明らかに事実に反する)お粗末な批判・中傷を繰り返す者が目立ちます。
特に、歴史問題や政治問題にはそれなりに詳しい自称「保守主義者」の有名識者までが、経済政策となると条件反射的に「ハイエクは市場原理主義だ」とか「小泉改革は冷酷非常な間違った改革だ」といった罵詈雑言レベルのレッテル貼りに終始してしまうケースが散見されます。
このようなレッテル貼りオンリーで内容検討を欠いた批判・非難は無意味で恥ずかしいことであり、各々の批判者は、少なくとも自分が批判している「福祉国家」なり「市場原理主義」なりが具体的に何を意味するのかを、①以下に説明する「国民負担率」などの数値や、②客観的な概念定義によって、まずきちんと示さなければいけません。
ここでは、ケインズ・ハイエク双方の政策スタンスの実質的な内容を、なるべく①客観的な数値や、②比較的中立的な辞書の用語定義、を活用して解説していきます。

■2.動画ケインズvsハイエク第1ラウンド(2つの経済政策)



※上の動画に現れたケインズとハイエクの経済政策を、日本やアメリカの実例に即して簡単に図式化します。

◆1.経済政策の対立軸~「新自由主義経済政策」か「ケインズ派経済政策」か

麻生政権は、サブプライム・ローン危機に対応して、小泉政権期の経済政策から大胆に軌道修正を図りましたが、政策効果が漸く現れ始めた所で政権交代となってしまいました。
  新自由主義経済政策 ケインズ派経済政策
政府介入 小さな政府を志向 大きな政府を志向
典型例 小泉政権
なお福田赳夫(元首相)以来の清和会(町村派)の基本的経済政策
小渕政権、麻生政権
なお田中角栄(元首相)以来の経世会(津島派)の基本的経済政策
マクロ政策 金融政策重視
市場の自立調整機能を信頼
財政政策重視
政府の介入による市場調整
財政方針 財政再建を優先 財政出動を容認
構造改革 構造改革を推進 構造改革に否定的
物価動向 デフレ傾向・長期で円高 インフレ傾向・長期で円安
その他 市場効率化の結果として(一時的な)格差拡大を招来
市場全体の成長力は伸張(パイの拡大)
競争制限・政府介入の結果として比較的均等分配
市場全体の成長力は衰弱(パイの萎縮)

結論から先に言うと、実は経済政策を巡るケインズvs.ハイエクの争いは、現在では、どちらかが常に一方的に正しい、という性格のものではなく、

(1) 1930年代にみられた大不況期や、2008年のリーマン・ショックのような深刻な金融危機・経済危機が発生した場合には、短期的に政府や金融当局が各々大規模な財政出動や大幅な金融緩和を実行して積極的に景気を刺激する必要がある。(=ケインズ派の主張する政府当局による大胆な裁量政策の採用)
(2) 危機が終息に向かう趨勢が見えた後は、なるべく速やかに財政規律を確保し、金融調整を市場を通じた自律調整機能に委ねる方向に復帰する。(=ハイエクなどの主張する新自由主義経済政策の採用)

という2段階で使い分けるのを良し、とする事がアメリカ政界・経済界の共通認識として確立されつつあります。

日本においても、こうした経済政策の巧みな使い分けを活用して維持されたアメリカの1980年代及び1990年代の両期の長期かつ安定的な経済好況を参考に、

2000年代初めから中期にかけては小泉政権下でどちらかといえばハイエク流の市場調整機能を重視した新自由主義政策の採用、そして
金融危機の発生した2008年後半からは麻生政権の下で一転して大胆な財政出動というケインズ型の政府裁量政策の発動

という弾力的な経済運営の方針転換が行われました。
(但し、その後発足した民主党政権では、強力な財政再建論者の与謝野氏が経財相として入閣したこともあり、経済政策の方向性が定まっていないように見受けられます)

※(参考)
経済学革命 復興債28兆円で日本は大復活!
木下 栄蔵 (著), 三橋 貴明 (著)

経済状態には「通常経済」と「恐慌経済」という二つのモードが存在し、「セイの法則」や「リカードの比較優位説」の妥当性、あるいは小さな政府vs大きな政府など,経済環境での殆どのイシューで適合性が真逆となってしまう。従って「通常経済」モードではハイエクなどの主張する新自由主義経済政策が妥当するが、数十年~100年に1度起こる「恐慌経済」モードではケインズ型の経済政策が必要となる、ということを分かりやすく解説し現在の日本に必要な経済政策を提言。

★なお三橋貴明氏は福祉国家・大きな政府推進派と勘違いされる場合が多いのですが、 新世紀のビッグブラザーへblog で、
「ちなみに、わたくしは頻繁に「ケインズ主義者」とか言われますが、別にケインズを信奉しているわけでも、ついでに否定しているわけでも何でもありません。日本の現在の環境に新自由主義によるアプローチが適していると判断したなら、平気で、「くたばれ、ケインズ主義者!」とか叫びますから、はい。」
と発言しているように、経済情勢にあわせて最適な政策方針を採るべきだとするケインズ・ハイエク両方のスタンスの使い分け派です。このことは三橋氏のblogを長期間にわたって愛読している人には周知の事柄です。

◇経済政策の使い分け

基本 例外
経済状態 通常経済 恐慌経済
経済政策 新自由主義経済政策 ケインズ派経済政策
支配原理・原則 自由競争、私的自治の原則 雇用の確保、公正の原理
価値観 自由主義、個人主義、機会の平等 共助、連帯、共同体の維持、結果の平等
実現経路 ボトムアップ(自生的秩序、市場の自律調整) トップダウン(設計主義的合理主義)
政治的スタンス リベラル右派(小さな政府を推進) リベラル左派(大きな政府を推進)
代表的論者 ハイエク、フリードマン ケインズ、ロールズ
※アメリカでは1980年代以降の経験を踏まえて、この図式が共和党・民主党間でほぼコンセンサスを得ているが、政治家にも学者にも「大きな政府」を好む左派の多い日本では、これが必ずしも理解されていない。

◆2.問題は国民負担率の増減

通常期はハイエク型の政策、金融危機が発生した場合には短期でケインズ型の政策を採る、というふうに両政策を使い分けるとして、国民生活や国家の中長期的な経済成長の可能性に関して広い視野で注目しなければいけない重要な事項があります。それが「国民負担率(national burden rate)」です。

◇1.辞書による説明:「国民負担率」

広辞苑(岩波書店) こくみん-ふたん-りつ
【国民負担率】
国・地方租税負担と社会保障負担(社会保険料負担)の合計額の、国民所得に対する比率。負担には税外収入・受益者負担などは含まれない。
ブリタニカ国際百科事典 こくみんふたんりつ
【国民負担率】
一般的に国民所得に対する国民全体の①租税負担と②社会保障負担の合計額の比率をいう。
厳密な定義はないが、国民の公的負担の程度を示すおおよその指標としてよく使われている。
国民負担率は、①租税負担率(租税負担の対国民所得比)と②社会保障負担率(社会保障負担、すなわち社会保険料負担の対国民所得比)とに大別される。
国民負担率は、地方自治体も含めて政府部内の財政規模の拡大や医療保険をはじめとする社会保障制度の充実を伴い必然的に増加する傾向にある。
1992年の統計では
(1)ヨーロッパの負担率が50%前後と高く、
(2)アメリカは36.2%となっている。
(3)日本の場合、<1>1955-65年には20%台の水準であったが、<2>1970年代後半から上昇傾向にあり、95年には37.8%と予想されている。

つまり、国民負担率とは簡単にいえば、我々の収入から政府が勝手に徴収するお金の割合のことです。

◇2.国民負担率の上昇は“自由の喪失”を意味する

金融危機が発生した場合には、一時的に財政出動を増やさざるを得ないのは分かりますが、それを不必要に続けると中期的には必然的に国民負担率の上昇を招きます。つまり、

国民負担率が上昇する 我々の可処分所得が減る 我々の行動の自由がその分制約されてしまう

という結果になります。

具体的に示すと・・・
一年前にはAさんの月収は20万円で、そのうち税金と社会保険で5万円差し引かれるので、手取りは15万円だった。 負担率=5/20=25% 1970年頃の日本
現在はAさんの月収は20万円で変わらずだが、税金と社会保険で7万円差し引かれて、手取りは12万円になった。 負担率=7/20=35% 現在の日本
一年後もAさんの月収は20万円で変わりそうもないが、税金と社会保険で9万円差し引かれて、手取りは11万円になる予定だ。 負担率=9/20=45% 10年後の日本?
二年後もAさんの月収は20万円で変わりそうもないが、税金と社会保険で11万円差し引かれて、手取りは9万円になる予定だ。 負担率=11/20=55% 20年後の日本?

※①と③を比較すると、Aさんの経済的自由度は20%も奪われることになり、さらに①と④では30%も奪われることになります。
実際には1970年頃の日本と現在の日本とでは経済規模が大きく違いますから、国民負担率の上昇は国民所得の上昇によって吸収されて国民にはそれほど痛みと感じられませんでした。
しかし、これからの日本は、経済規模の拡大が余り望めない中での国民負担率の上昇を迎えることになりますから、何らかの対策を政府がしっかり取らないと、国民の経済的自由の損失が急ピッチですすんでしまいます。

※各国の国民負担率の推移
参考リンク

なおリンク先の「日本を欧州型の福祉社会にする」という主張には強く反対します。
欧州諸国のように国民負担率が50%を超えてくると、「額に汗して働き収入を上げて豊かになる」という動機よりも「どうせ働いても政府に吸い上げられるだけであり、上手く政府の補助金や扶助を獲得することを考えるのが得だ」といった考えに傾く国民が多くなってしまい、経済が停滞してしまうからです。
図中の各国で、曲がりなりにも一番経済活力が高い国は、国民負担率が一番低いアメリカであり、その次は国民負担率が二番目に低い日本であることがこれを証明しています。)

【関連】 左派・左翼とは何か 右派・右翼とは何か

国民負担率の数値を示さずに「福祉の充実」を訴える者に注意

選挙になると、それをすると将来に国民負担率がどうなるのかといった数値をまったく示さずに「福祉の充実」「安心社会の実現」などの耳障りの良いスローガンを繰り返す者が必ず現れます。
この言葉の真に意味するところは「貴方の収入から、政府が天引きして貴方の知らない誰かのために勝手に使用する金額の割合を今よりも増やします(つまり貴方の自由に処分できる所得を減らします)」ということです。
社会民主主義の立場をとる政党が長期に渡って政権を握り続けてきたスウェーデンなど北欧諸国は、そのようにして個人の収入の70%以上が現実に政府に吸い上げられていますし、左翼政党がやはり強い勢力を持つフランスなども国民負担率が60%を超えています。
「福祉の充実」「ヨーロッパ型の高度福祉社会の実現」といった言葉に踊らされている人は、本当にそれが自分の望む社会の在り方なのか再検討してみる必要があります。

◆3.政治的スタンスと経済政策

当サイトで薦めている政治的スタンス8分類には、実はスタンス毎の経済政策も組み込まれています(下図参照)。
これに上記の国民負担率の目安も対応させてみます。

政治的スタンス (経済政策) 国民負担率の目安 補足説明
(1) リベラル右派 (最低限の政府介入) 10%台 ※ハイエクのスタンス 1870年代までのイギリス
(2) 保守主義 (中負担・中福祉) 20%台 1970年代までの日本
(3) 中間 (無定見・便宜主義) 30%台 現在の日本・アメリカ
(4) リベラル左派 (やや高負担・高福祉) 40~50%台 ※ケインズのスタンス 英・独など欧州主要国
(5) 左翼・右翼 (高負担・高負担) 60~70%台 ※社会民主主義者のスタンス スウェーデンなど北欧諸国、仏、準戦時体制
(6) 極左・極右 (国家管理) 80%以上 ※マルクスのスタンス 旧ソ連/東欧など共産主義国、戦時体制

こうして見ると、1955‐75年頃の日本(自民党の鳩山・岸・池田・佐藤・田中政権期)は国民負担率20%台で、経済政策面からも保守政権だったことになります。
またアメリカは、2004年に国民負担率31%という数値があり、ブッシュ子政権は経済政策面で保守主義にあと一歩の所まで接近していたことが分かります。
現在は、日本もアメリカも30%台半ばから後半で、中間から、40%台以上のリベラル左派的なスタンスに近づきつつある状況と言えます。


◆4.増税が好きなリベラル左翼

昨年の参議院議員選挙の頃から、菅首相をはじめとする民主党政権首脳が盛んに消費税率10%への引き上げなどの増税策を打ち出しており、困ったことに谷垣自民党総裁(自民党内のリベラル左翼)もそれを容認するかのような発言を繰り返しています。

これは、私たち一般国民から見れば極めておかしな現象ですが、上記の説明の通り、リベラル左翼はいずれも「大きな政府」が好ましいと(私たちの常識に反して)本気で考えているのです。
つまり、「福祉の充実」という耳障りの良い言葉を名目に、増税あるいは社会保険料の増額徴収によって、国民個々人の可処分所得を減殺し、実質的に国家がコントロールする経済領域の拡張(=個人が自由に処分できる経済領域の縮小)を実現しようとしているのです。
これをフロー(資金の流出入)の社会主義化といいます(これに対して、旧ソ連など共産主義国でかって行なわれた生産手段の国有化を「ストック(資産)の社会主義化」といいます)。

英サッチャー・米レーガン両保守政権の規制緩和/減税/補助金削減/公的企業の民営化といった新自由主義に基づいた経済改革が大きな成果を収め、ソ連・東欧の共産主義国が崩壊した1990年代以降は、日本も含めて各国の左翼は、もはや生産手段の国営化(主要民間企業の公営化などの形態を含む)による社会主義の実現は政策としては完全に引っ込めてしまったかわりに、課税強化や社会保険の増額負担という手段を通じて、政府のコントロール下に置かれる国民経済の割合を徐々に増やしていく方向に転換しました(ソ連に代わって、スウェーデンなど北欧諸国が、こうした左翼たちの理想の国家・社会となったのはよく知られているところです)。

このような政府の経済的コントロールの強化は、必然的に政治的コントロールの強化につながります。
私たちが特定の政党や政治家を応援する場合には政治献金や応援集会に参加するという形をとりますし、特定の政策に反対する場合には抗議デモへの参加や陳情やネットやチラシでの周知活動という形をよくとりますが、これらの活動にはいずれも相応の資金が必要になります。
従って、政府によって私たちの経済的自由が減殺されれば、必然的にその分の政治的自由も奪われることになります。
これがハイエクが1960年に『自由の条件』で警告した「(福祉国家という)新しい隷従への道」です。

本書を書いた時には、社会主義という言葉は、はっきりと、生産手段の国有化と、それによって可能になり、必要ともなる中央集権的経済計画化を意味していた。・・・(中略)・・・今日において社会主義とは、もっぱら課税という手段を通じて広範囲な所得の再配分を行なうことを意味しており、また福祉国家という制度のことを意味するようになってきている。・・・(中略)・・・この福祉国家という形態においては、本書で警告したような事態は、もっとゆっくりとした、間接的な、不完全な形でしか現れないだろう。けれども・・・究極的な結果はここで警告したようなものになっていくだろうと、私は確信するものである。
~ F.A.ハイエク『隷従への道』(1944年)の1976年版への前書き

保守主義者・自由主義者が一般に価値を置くのは「機会の平等」ですが、実は社会には、幼いころに経済的理由から不当な差別を受けたなど様々な理由により「結果の平等」が確保された世界を強く夢見ており、その夢を達成するために努力して、政治家なり法曹なり言論人なりへの道を歩んだという(ある意味で非常に立派な)人物が、私たちの一般に考えているよりもずっと多く存在しています。
そして、そのような勢力が「福祉の充実」などの甘い言葉を巧みに使って、①事実上の政府による経済的コントールの強化→②政治的コントロールの強化→③彼らの目標とする「平等社会の実現」へと日本社会を引きずっていこうとしている危険性が実は高い、ということを私たちはもっと確りと認識しておくべきです。
(フランス革命に最大の思想的影響を与えたルソーの平等思想とは実際にそういうものでしたし、日本においても、戦後に教育界や言論界を占拠した左翼たちによってルソーが学校教育の場などで素晴らしい思想家として最大限に賞賛され続けている現状によって、それは裏づけられると思います)

◆5.「福祉国家」「市場原理主義」批判をする者は共に国民負担率の目標を示すべき

各国の国民負担率の増減グラフの横欄に書きましたが、「福祉の充実」を主張する者は、具体的に国民負担率が何%台の社会を目標としているのか、を明示しなければ不誠実・不見識であり、政治家あるいは識者として不適当といえます。
同様にして、ハイエクや小泉政権を「市場原理主義」として批判する者も、「では自分たちは国民負担率が何%台の社会を目標としているのか」をきちんと明示できなければ不誠実・不見識で、的外れの批判をしていると言わざるを得ません。

このように、自分が国民負担率が何%台の社会を目標としているのか、を確り検討することは、自分の政治的スタンスを確り検討することにつながります。
そして、そのようによく検討してみると、今までハイエクを「市場原理主義」として何となく批判してきた人が、
実はリベラル左派の目指す「大きな政府(=やや高負担・高福祉の社会…具体的には国民負担率40~50%台の社会)」ではなくて
「中規模の政府(=中負担・中福祉の社会…具体的には国民負担率20%台の社会)」が良いと考える保守主義のスタンスであって、ケインズよりもむしろハイエクのスタンス(小さな政府)により近いことが分かる場合
などがおこるはずです。

私自身の見解としては、国民負担率が30%台後半から40%台に接近している現在の日本は、かなり問題のある状況だと見ています。
自分の収入のうち、私たちは既に35%以上を政府に吸い上げられており、今後さらにその割合が上昇していく(=私たちの可処分所得の割合がさらに減殺される)可能性が濃厚なのです。

自分の収入の一定の割合が、自分の知らない誰かのために使われるとしても、
私としては、それはあくまでチャリティ(慈善)、すなわち私たち国民自身の意志による自発的な資金拠出であるべきであり、
政府によって、私たちの収入の今以上の割合が強制的に徴収されて、誰かの為に勝手に使用されてしまう、という状況は余り望ましいとは思いません。

そういう状況下では、
(1) 強制的に徴収される側には、 正当な理由なく収入が奪われているという不満が残る一方で、
(2) 政府から給付を受ける側には、 本来の対価がないにも関わらず便益を受け続けることからくるモラル・ハザードの発生と、
今後も継続して便益を受け続けようとするところからくる不当な既得権益の発生(受益者の圧力団体化)が容易に想定されます。

◆6.ここまでのまとめ

「通常経済」か「恐慌経済」か、経済局面を見極めて、ハイエク型の経済政策を採用するかケインズ型の経済政策を採用するか決定するのが正しい在り方であり、
現在は「恐慌経済」下にあるのでケインズ型の経済政策を採るのが正解となると考えますが、
ケインズ政策をいつまでも続けると、国民負担率の上昇を招いて、その分我々の経済的自由(そして政治的自由)が奪われる結果に至ります。(ハイエク「新しい隷従への道」)
従って、我々としては、経済局面の転換によるケインズ型からハイエク型への転換まで見据えて、政府の経済政策を評価していく必要があります。

■3.動画ケインズvsハイエク第2ラウンド(対立構図の一般化)

以下では、ケインズvsハイエクの経済政策の対立を、リベラル左派(大きな政府)vsリベラル右派(小さな政府)の政治的な対立構図に一般化します。

2番目の動画でケインズが強調している「トップダウン」は政府が経済の在り方の大部分を設計・計画し管理する「設計主義(的合理主義)」(⇒全体主義に繋がる)を、またハイエクが強調している「ボトムアップ」は政府の経済的介入が少なく民間が個々に自主的に経済活動に携わった結果としての 「自生的秩序」(⇒自由主義に繋がる)をそれぞれ含意しています。

◆1.リベラル左派vsリベラル右派(図解)

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※下図の解説は 保守主義とは何か 参照(ハイエクの政治的スタンスを「経済保守=新保守」ともいいます。)

◆2.ケインズvsハイエク用語解説

◇1.ケインズと修正資本主義

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※下記は、ブリタニカ百科事典(日本版)より引用(ただし※はこちらで追記)
ケインズ
Keynes, John Maynard
1883.6.5 ケンブリッジ生 - 1946.4.21 サセックス,ティルトン没
イギリスの経済学者。J.N.ケインズの子。1905ケンブリッジ大学キングズ・カレッジを卒業。
卒業後3年間インド省に勤務し、09年にケンブリッジ大学のフェローとなり金融論を担当。
15年には大蔵省に勤務し、パリ講和会議の大蔵省主席代表となった。
連合国のドイツに対する過酷な賠償要求に反対して辞任。
第1次世界大戦後、イギリスの金本位制度復帰に反対して管理通貨制度を主張。
また保守党の自由放任政策を批判した。
大不況が生じるやマクミラン委員会委員として活躍した。
36年には『雇用・利子および貨幣の一般理論』The General Theory of Employment, Interest and Money を著わし、完全雇用を前提として、セーの法則をとる従来の正統的経済理論・雇用理論を批判し、以後の経済学・経済政策に絶大な影響を与えた。
第2次世界大戦中は大蔵省顧問として戦時財政、金融政策の計画と実行に参画、41年にはイングランド銀行理事となり、42年には男爵に叙せられた。
44年ブレトンウッズにおける連合国国際通貨会議のイギリス首席代表として戦後の国際通貨体制再建策のイギリス側原案(⇒ケインズ案)を提示し、アメリカのホワイト案と対立した(⇒ブレトンウッズ協定)
46年国際通貨基金IMFおよび国際復興開発銀行のイギリス側理事となった。
上記以外にも『平和の経済的帰結』The Economic Consequences of the Peace(1919)、『貨幣改革論』A Tract on Monetary Reform(23)、『貨幣論』A Treatise on Money(2巻、30)、『説得評論集』Essays in Persuasion(31)など多くの著書・論文があり、71年以降、王立経済学会の手で『ケインズ全集』Collected Writtings of John Maynard Keynesの刊行が始められた。
『雇用・利子および貨幣の一般理論』
The General Theory of Employment, Interest and Money
1936年に公刊されたJ.M.ケインズの主著。
1920年代のイギリスの不況や30年代の世界的不況を背景に古典学派・新古典学派経済学との対決として書かれた。
主な内容は所得決定理論としての乗数理論と利子率決定理論としての流動性選好説とから成る。
乗数理論とは投資の増加に応じる所得の増加の過程をとらえたもので、古典派の理論が貯蓄と投資の利子率を媒介とした均等化を論じたのに対し、所得の変化を媒介として貯蓄と投資が均等化することを主張した。
また投資誘因の一つとしての利子率の決定は、古典派が主張したように貯蓄・投資によって決まるのではなく、貨幣需要関数である流動性選好関数と中央銀行の政策による貨幣供給により決まると主張した。
これらの理論により新古典学派の雇用理論を批判し、不完全雇用下の均衡の可能性を説き、さらに不況からの脱出のためには国家の経済への積極的介入が必要であると主張した。
また方法論的には所得分析ともいわれるマクロ分析が中心であり、動態的要素を多分に含んでいるが、形式的には経済全体としての均衡状態を問題としているため静学分析である。
また資本ストックの変化・完全雇用水準の変化を考慮しておらず、短期分析である。
修正資本主義
revisionist capitalism
本来の資本主義経済の無計画性に基づくさまざまな弊害を国家が政策的に是正し、福祉国家を目指そうとする思想。
資本主義における弊害としての所得分配の不平等は、労使の協調と国家の所得再分配政策によって、恐慌の発生は経済計画によってそれぞれ是正され、克服されるとする。
この思想は1929年に始まる世界大恐慌、ソ連の第1次5ヶ年計画などを背景とし、33年のアメリカ大統領F.ルーズベルトによるニューディール政策後に登場したものである。
理論的にはJ.M.ケインズの雇用理論、A.ピグーの厚生経済学などにより基礎付けられる。

◇2.ハイエクと新自由主義

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※下記は、ブリタニカ百科事典(日本版)より引用(ただし※はこちらで追記)
ハイエク
Hayek, Friedrich (August) von
1899.5.8. ウィーン生 - 1992.3.23 フライブルク没
オーストリア生れの経済学者。
ウィーン大学卒業後官吏となり、1927~31年オーストリア景気研究所長、29~31年ウィーン大学講師を兼任、31年ロンドン大学客員教授、同正教授を経て、50年にシカゴ大学教授、62年に西ドイツのフライブルク大学教授に就任した。
第2次世界大戦前はオーストリア学派第3世代の代表的理論家の一人として貨幣的景気理論を展開し、景気の安定のためには貨幣の中立性を維持すべきであるという中立貨幣論を堅持する一方、経済政策面では最小限の計画と社会保障を容認しながらも徹底的な自由主義を主張した。
その後、社会哲学面に関心を移し、47年世界の自由主義者の国際団体モンペルラン・ソサエティーを創立、初代会長(のち名誉会長)となり、新自由主義の指導者として活動した。
『貨幣と景気』Geldheorie und Konjunktur theorie(1929)や『価格と計算』Prices and Production(31)などの著作を通じて、かってはその貨幣的経済理論によって著名であったが、今日ではむしろネオ・オーストリアンの理論的源流の一人として、あるいは経済理論の枠組みを超えた思想家として評価されている。
74年ミュンダールとともにノーベル経済学賞受賞。
主著『資本の純粋理論』The Pure Theory of Capital(41)、『隷従への道』The Road to Serfdom(44)、『個人主義と経済秩序』Individualism and Economic Order(48)など著書多数。
『自由の条件』
The Constitution of Liberty
F. von ハイエク著。1960年刊。
現代福祉国家思想とそれを背後で支える狭義の近代合理主義に対して、徹底的な批判を加えた自由主義政治哲学の代表的著作である。
ハイエクが擁護するのは個人の自由であるが、その重要な論拠となるのは無知の自覚である。
我々がもし全知全能の存在であれば、未来を完全に予見し合理的な計画を立案することが可能である。
しかし現実には我々は限られた知識を持ち得るのみであり、予測不可能な事態に対応する個人的自由が必要となる。
そして自発的な活動の中から秩序は自生的に形成される。
その意味でハイエクは、強制のない状態を自由の本質とみなすイギリス的伝統を高く評価する。
新自由主義
neo-liberalism
(1) 1870,80年代から勃興したイギリスの理想主義運動、なかんずくT.H.グルーンが主唱した社会思想。
グリーンは、道徳哲学としてはJ.ロック、J.ベンサムなどの功利主義的自由主義ではなく、カントやヘーゲルの影響を受けた観念論的・理想主義的自由主義を、社会哲学としては、自由放任主義(経済的自由主義)ではなく国家による保護干渉主義(社会政策)を主唱した。
しかし決して国家専制主義や全体主義に陥らず、個人の自我の実現、個人の道徳的生活の可能な諸条件の整備に国家機能が存在するとして、自由主義の中心である個人主義を継受した。
この思想はイギリス自由党の労働立法・社会政策に思想的根拠を与えた。
⇒※:こちらは正確には new liberalismであり、訳すと文字通り「新自由主義」だが、現在はこちらの意味では使用されなくなったので注意が必要。
(2) 1930年代以降の全体主義国家の台頭や第二次世界大戦中から戦後にかけてのケインズ政策に反発して、再び個人の自由の尊厳を説き、政府の恣意的政策の採用を排し、法の下での自由を強調する思想。
このような思想をもつW.オイケン、W.リプケ、L.ミーゼス、G.ハーバラー、F.ハイエク、L.C.ロビンズ、M.フリードマンらの多彩な人材を擁して、47年にモンペルラン・ソサエティーを結成している。
恣意的・強権的権力の行使に反対する点ではかっての自由放任的自由主義と共通する面をもつため、その単なる復活と誤解されがちであるが、普遍的な法の強力な支配の必要を説き、法秩序の下での自由を強調する点で、かっての自由放任とは異なる。
経済政策面でのその端的な表れは、ドイツに代表される社会的市場政策とシカゴ学派に代表される新貨幣数量説である。
⇒※:こちらが、neo-liberalism(正確に訳すと「再興自由主義」)すなわち現在使用されている意味での「新自由主義」である。
リベラリズムと自由主義参照

◆3.「福祉国家」と「小さな政府」

◇1.福祉国家(welfare state)

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※下記は、ブリタニカ百科事典(日本版)より引用(ただし※はこちらで追記)
福祉国家 welfare state 国民に生存権を保障し、平等に福祉を分配する国家をいう。
歴史的には絶対主義国家もすでに慈恵的な福祉国家観をもっていた。
しかし、現代の福祉国家は、19世紀末頃から社会問題の解決が国家の手に委ねられるとともに現れた。
従ってそれは、社会保障の確立された国家をさすものと言ってよい。
この意味では福祉国家は社会国家ともいわれる。

※上記の説明(日本版ブリタニカ百科事典)はいささか内容が足りないので、英語圏の辞典の該当項目を翻訳して追加説明します。
(1) ブリタニカ・コンサイス百科事典(welfare stateの項)より全文翻訳
国家が、市民達の経済的・社会的な安寧幸福(the economic and social well-being of the citizens)の保護と促進に関して、鍵となる役割を演じる、とする政治的概念(concept of government)
(福祉国家が)基礎を置く原則は、①機会の平等、②富の公平な分配、③良好な生活の最小限の用意が欠落している人々に対する公的責任、である。
この言葉は、多様な経済的・社会的有機体の形態に対して用いることが出来る。
福祉国家の基本的な提供物の一つは社会保険である。それは恩恵が大いに必要とされる時節に供給されることを目的としている(例:老齢・疾病・失業)
福祉国家は、また通常、①教育、②健康サービス、③住宅、の公的な供給を包含する。
多くの欧州諸国では、包括的な健康保険と国家助成金支給による大学水準の教育が一般的となっているのに比べると、アメリカ合衆国の公的供給は展開されている範囲がより小さい。
中央計画的な経済を持つ国々では、福祉国家はまた①雇用と②消費者価格の管理をも包含する。
殆どの国々は、少なくとも福祉国家に関連した何らかの方策を制度化している。英国では1948年に包括的な社会保険が採用された。アメリカ合衆国ではニューディールやフェアデールといった社会的-立法プログラム(social-legislation programs)は福祉国家の原理に基礎を置いている。
スカンジナヴィア諸国は、個人に対して生活のあらゆる側面に関する国家的扶助を供給している。
(2) オックスフォード英語事典(welfare stateの項)より抜粋翻訳
<1> 国家が、市民、特に金融的・社会的必要に迫られている人々に、交付金・年金その他の恩典によって健康と安寧幸福の保護を引き受ける制度。
英国における近代福祉国家の設立は、1942年のベヴァリッジ報告によってその路線が敷かれた。
国営の健康サービス・国営の保険スキーム(仕組み)の設立といった、その報告の提案は、1948年に労働党政権によって実施された。
<2> そうした制度を実行している国家のこと。
(3) コウビルド英語事典(welfare stateの項)より全文翻訳
英国や他の幾つかの国において、福祉国家とは、政府が健康や教育などの無料サービスを供給し、例えば老齢や失業や疾病によって労働することが出来ない人々に金銭を付与する制度をいう。

◇2.小さな政府(limited government)

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※下記は、ブリタニカ百科事典(日本版)より引用(ただし※はこちらで追記)
小さな政府
(limited government)

:項目なしのため、
安価な政府
の項目で代用
※補注参照
「小さな政府」ともいう。
18世紀末頃より用いられた自由主義の財政的標語で、財政規模のあまり大きくない政府をいう。
ナポレオン戦争後のイギリスでは、軍事費の削減はもとより、航海法・独占特許制度の撤廃などの自由主義施策の推進と並んで一般経費の縮減が進められた。
このため1870年頃まで国家財政の規模は年々減少、または漸増するにとどまり、史上ほとんど唯一の「安価な政府」が出現した。
その思想的背景にあるものは、国の役割を国防・警察などに限るA.スミスの夜警国家観である。
しかし、前世紀(:19世紀)末以降イギリスを含めて経費膨張が避けがたい傾向となったことは、帝国主義の風潮に追うところが大きい。
第二次世界大戦後は、福祉の充実など各経済分野での公共部門の拡大が「高価な政府」へと拍車をかけているが、1980年代アメリカのレーガン政権、イギリスのサッチャー政権下では「小さな政府」への動きがみられた。
その趣旨は、経済・社会政策の領域での政府の役割を削減し、市場機構と競争に多くを委ねることによって財政赤字・政府規制を改め、公営企業の民営化を促し、自立・自助の精神により資本主義経済の再活性化をはかることにあった。(⇒経費膨張の法則)
※補注: 実際には「安価な政府(cheap government)」という政治・経済用語は英語圏には存在しない。 (cheap government は「安っぽい・みすぼらしい政府」の意味になってしまい、用語として不適切)⇒英語に疎い日本人学者の間で使用される誤った用語と思われるが、ここでは日本語版ブリタニカ百科事典の記載内容をそのまま転記する。

◆4.右派と左派の2種類ある「リベラル」

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※「リベラリズム」(liberalism)の辞書的定義および説明
(1) ブリタニカ・コンサイス百科事典(liberalismの項)より全文翻訳
  政治的および経済的ドクトリン(理論・信条)であり、①個人の権利・自由、②政府権力の制限の必要性、を強調するもの。
<1> リベラリズムは、16世紀欧州の戦争(30年戦争)の恐怖に対する防御的リアクションとして発生した。
その基本理念は、トーマス・ホッブズとジョン・ロックの著作の中で公式な表現を付与された。この両者は、至上権は究極的には被統治者の同意によって正当化され、神権ではなく仮想的な社会契約によって付与されると唱えた。
経済分野では、19世紀のリベラル(自由主義者)達は、社会での経済生活に対する政府介入の撤廃を強く要求した。アダム・スミスに従って彼らは自由市場に基礎を置く経済システムは、部分的に政府にコントロールされた経済システムよりも、より効率的であり、より大きな繁栄をもたらすと論じた。
<2> 欧州と北米の産業革命によって発生した富の巨大な不平等その他の社会的問題への反動として、19世紀末から20世紀初めにかけてのリベラル(自由主義者)達は、市場への限定的な政府介入と、無料の公共教育や健康保険などの政府拠出による社会的サービスの創出を唱えた。
アメリカ合衆国では、F.D.ルーズベルト大統領により企画されたニュー・ディール(新規まき直し)計画により、近代ないし進歩的リベラリズム(modern liberalism)は、①政府の活動領域の広範な拡張、そして、②ビジネス活動の規制の増大、として特徴づけられた。
第二次世界大戦後、社会福祉の一層の拡張が、イギリス・スカンジナビア諸国・アメリカ合衆国で起こった。
<3> 1970年代の経済的不振(スタグネーション:不況とインフレの同時進行)は殊にイギリスとアメリカ合衆国において、自由市場を選好する古典的な自由主義の立場(classical liberal position)の再興を導いた。
<4> 現代リベラリズム(contemporary liberalism)は、①不平等の緩和、②個人の権利の拡張、を含む社会改革に依然関心を寄せ続けている。
(2) オックスフォード英語事典(liberalの項)より抜粋翻訳(※liberalismは派生語扱い)
(政治的文脈で)個人的自由、自由交易、漸進的な政治的・社会的改革を選好する(形容詞)。
語源(ラテン語) liber(=free (man):自由(人))。原初的語感は「自由人として適格な(suitable for a free man)」 ⇒つまり「自由人=奴隷でないこと」
(3) コウビルド英語事典(liberalismの項)より全文翻訳
<1> ・リベラリズム(liberalism)とは、革命ではなく、法改正によって社会的進歩を漸進的に行う、とする信条である。
<2> ・リベラリズム(liberalism)とは、人々は多くの政治的そして個人的な自由を持つべきである、とする信条である。

  • 以上の辞典による説明は、かなり内容が不明瞭であるが、まとめると「リベラリズム」という言葉は、次の4つの段階あるいは種類・区分をもってその意味内容を拡張ないし変化させてきた、ということになる。

リベラリズムの段階・種類・区分 時期 意味内容
<1> 古典的リベラリズム(classical liberalism) 16世紀~19世紀 ①個人の権利・自由の確保、②政府権力の制限、③自由市場を選好…消極国家(夜警国家)
<2> ニュー・リベラリズム(new liberalism) 19世紀末~20世紀 経済的不平等・社会問題を緩和するため市場への政府介入を容認→次第に積極的介入へ(積極国家・福祉国家・管理された資本主義)
社会主義に接近しているので社会自由主義(social liberalism)と呼ばれ、自由社会主義(liberal socialism)とも呼ばれた。
<3> 再興リベラリズム(neo-liberalism) 1970年代~ スタグフレーション解決のため自由市場を再度選好。
<2>を個人主義から集産主義への妥協と批判し、個人の自由を取り戻すことを重視
<4> 現代リベラリズム(contemorary liberalism) 現代 ①不平等の緩和、②個人の権利の拡張、を含む社会改革を志向
1970年代以降にJ.ロールズ『正義論』を中心にアメリカで始まったリベラリズムの基礎的原理の定式化を目指す思想潮流で、①ロールズ的な平等主義的・契約論的正義論を「(狭義の)リベラリズム」と呼び、②それに対抗したR.ノージックなど個人の自由の至上性を説く流れを「リバタリアニズム(自由至上主義)」(但し契約論的な構成をとる所はロールズと共通)、③また個人ではなく共同体の価値の重要性を説くM.サンデルらの流れを「コミュニタリアニズム(共同体主義)」という。
補足説明 <2>ニュー・リベラリズム(new liberalism)と<4>再興リベラリズム(neo-liberalism)は共に「新自由主義」と訳されるので注意。
もともと<1>古典的リベラリズムに対して修正を加えた新しいリベラリズム、という意味で、<2>ニュー・リベラリズム(訳すと「新自由主義」)が生まれたのだが、世界恐慌から第二次世界大戦の前後の時期に、経済政策においてケインズ主義が西側各国に大々的に採用された結果、<1>に代わって<2>がリベラリズムの代表的内容と見なされるようになり、<2>からnewの頭文字が落ちて、単に「リベラリズム」というと<2>ニュー・リベラリズムを指すようになった。
ところが、1970年代に入るとインフレが昂進してケインズ主義に基づく経済政策が不況脱出の方途として効かなくなってしまい、市場の自律調整機能を重視する<1>の理念の復興を唱える<3>ネオ(=再興)・リベラリズムに基づく政策が1980年前後からイギリス・アメリカで採用されるようになった。そのため今度は、<3>を「新自由主義」と訳すようになった。

  • 上記のうち「リベラル右派」に該当するのは、<1>古典的リベラリズム、及び<3>再興リベラリズムである(薄青色部分)。
  • また「リベラル左派」に該当するのは、<2>ニュー・リベラリズム、及び<4>現代リベラリズムのうちロールズ的な平等主義的・契約論的正義論である(ピンク色部分)。

◆5.「左派」「左翼」の辞書的定義

◇1.左派(left)

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(1) ブリタニカ・コンサイス百科事典(leftの項)より全文翻訳
政治に関して、一般的に、①平等主義(egalitarianism)と、②政治的・経済的生活の主要な諸機構の人民または国家による管理(popular or state control of the major institutions of political and economic life)、とに結びついた政治的帯域(political spectrum)の一角。
この言葉は、フランス革命時の議会で、社会主義者の代表達が、議長席の左側に陣取った1790年代に由来する。
左派は、 ①富裕者や貴族階級のメンバーを含む伝統的なエリート達(traditional elites)の利益に対して敵意を持ち、
かつ、 ②労働者階級(working class)の利益に対して好意を持つ傾向がある。(プロレタリアートの項を見よ)
<1> 彼らは、社会福祉(social welfare)を政治の最重要目標とみる傾向がある。
<2> 社会主義(socialism)は、世界の殆どの国々で、左派の標準的なイデオロギーである。
<3> 共産主義(communism)は、いっそう急進的な左派のイデオロギーである。
(2) オックスフォード英語事典(leftの項)より抜粋翻訳
急進的(radical)、革新的(reforming)、または社会主義的(social)な見解を好む集団または政党。
(3) コウビルド英語事典(leftの項)より全文翻訳
社会主義の政治的理念を支持する人々を左派(the left)という。
彼らは、しばしば右派(the right)つまり資本主義と保守主義の政治的理念を支持する人々と対比される。

◇2.左翼(left-wing)

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(1) オックスフォード英語事典(left-wingの項)より抜粋翻訳
<1> 政党または政治体制のうち、急進的(radical)、革新的(reforming)、または社会主義的(social)な部分。
<2> サッカー・ラグビー・ホッケーの競技場でチームの左側をいう。
(2) コウビルド英語事典(left-wingの項)より全文翻訳
<1> 左翼の人々は、社会主義的(socialism)に基礎を置く政治的理念を保持している。
<2> 人々の集団、特に政党としての左翼(the left wing)は、その他のメンバーに比較して社会主義により近い信条を持つメンバーによって構成されている。

◇3.左派には3種類ある

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※要約すると、左派には次の3種類がある。(ブリタニカ百科事典(leftの項)のピンク色部分参照)
内容 キーワード
極左 共産主義(communism)即ち、いっそう急進的な左派のイデオロギーを支持する立場 ①共産主義、②マルクス主義、③弁証法的唯物論、④ヘーゲル主義
左翼 社会主義(socialism)即ち、左派の標準的なイデオロギーを支持する立場 ①社会主義、②社会民主主義(社会民主制)、③集産主義
リベラル左派 社会福祉(social welfare)を政治の最重要目標とする立場。左翼理念の持ち主 ①福祉国家、②リベラリズム、③J.ロールズ、④社会契約、⑤自然法、⑥人権
※詳細は 左派・左翼とは何か


※政治的スタンス5分類・8分類について詳しくは 政治の基礎知識 参照。

◆6.「右派」「右翼」の辞書的定義

◇1.右派(right)

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(1) ブリタニカ・コンサイス百科事典(rightの項)より全文翻訳
保守的な政治思想(conservative political thought)に結びついた政治的帯域(political spectrum)の一角。
この言葉は、保守的な代表達が、議長席の右側に陣取った1790年代のフランス革命時の議会の座席配置に由来する。
19世紀には、 この言葉は、①権威(authority)、②伝統(tradition)、③所有(property)を擁護する保守主義者に対して用いられた。
20世紀には、 ファシズム(fascism)に結びついた、④逸脱した急進的な形態(a divergent, radical form)が勃興した。
左派(left)を見よ。
(2) オックスフォード英語事典(rightの項)より抜粋翻訳
(しばしば the Right)保守的な見解(conservative views)を好み、資本主義の原則(capitalist principles)を擁護する集団や政党。
(3) コウビルド英語事典(rightの項)より全文翻訳
資本主義と保守主義の政治的理念を支持する人々を右派(the right)という。
彼らは、しばしば左派(the left)つまり社会主義の政治的理念を支持する人々と対比される。

◇2.右翼(right-wing)

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(1) オックスフォード英語事典(right-wingの項)より抜粋翻訳
<1> 政治思想または政治制度の中で、保守的(conservative)または反動的(reactionary)な部分。
[起源はフランスの国民議会(1789-91)を参照。そこでは貴族達(the nobles)は議長の右側に座り、平民(the commons)は左側に座った。]
<2> サッカー・ラグビー・ホッケーの競技場でチームの右側をいう。
軍隊の右サイドのこと。
(2) コウビルド英語事典(right-wingの項)より全文翻訳
<1> 右翼の人または集団は、保守的(conservative)または資本主義的(capitalist)な見識を保持している。
<2> ある政党の右翼は、最も保守的または最も資本主義的な見解を持つメンバーによって構成されている。

◇3.右派には4種類ある

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※要約すると、右派には次の4種類がある。(ブリタニカ百科事典(rightの項)のピンク色部分、コウビルド英語事典(right-wingの項)参照)
内容 キーワード
極右 ファシズム(fascism)即ち、逸脱した急進的な形態(a divergent, radical form) ①全体主義、②ファシズム、③国民(国家)社会主義、④ジンゴイズム
右翼 権威主義(authritalianism)即ち、権威(authority)を擁護する立場 ①権威主義、②ナショナリズム、③パトリオティズム
保守 保守主義(conservatism)即ち、伝統(tradition)を擁護する立場 ①保守主義、②E.バーク
リベラル右派 資本主義(capitalism)即ち、所有(property)を擁護する立場 ①資本主義、②自由主義、③F.A.ハイエク、④K.R.ポパー
※詳細は 右派・右翼とは何か

◆7.自生的秩序論と設計主義的合理主義

「個人主義」と「集産主義」 ~ ハイエク『隷従への道』読解の手引き に包括的な説明があるので、そちらを参照下さい。

◆8.まとめ

以上で、リベラル右派とリベラル左派の理解に必要な事項を押さえました。これを図示したものが下図となります。



※上図の解説は 保守主義とは何か を参照(ハイエクの政治的スタンスを「経済保守=新保守」ともいいます。)

■4.参考図書

『自由の条件Ⅲ福祉国家における自由』  F.A.ハイエク著(1960年)

出版社/著者からの内容紹介
『自由の条件』の最終巻。自由を抑圧し、財政破綻を導く可能性をはらむ福祉国家=<大きな政府>を批判。
代わって、国家の役割を限定し個人の自由度を高める<効率的な政府>のあり方を、具体的な課題----税制、通貨、雇用問題、社会保障、教育、都市計画など----を交えて提言する実践的な書。
【新解説付き】

★現代の日本にも通じる「福祉国家=大きな政府」の下での既得権益の発生と政治的腐敗の根本原因を深く抉り、かつその処方箋を示して、英サッチャー首相のバイブルと呼ばれた名著。
『法と立法と自由Ⅲ自由人の政治的秩序』  F.A.ハイエク著(1979年)

出版社/著者からの内容紹介
民主主義の行き詰まりの原因を鋭く分析し、あるべき政府への処方箋を提言するハイエクによる民主主義改革論。
政府・官僚の肥大化、利権政治の跋扈、立法府の機能不全、規制緩和の必要性など、「大きな政府」から「効率的な政府」への道を説く。

★『法と立法と自由』シリーズ3巻の最終巻であり、慢性的な不況と政治腐敗に苦しむ1970年代の肥大した福祉国家の病理をさらに鋭く考察しているほか、1970年代前半に出版されたロールズ『正義論』やノージック『アナーキー・国家・ユートピア』を意識した発言も見られる興味深い一冊。


■5.ご意見、情報提供

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  • 現在が恐慌という所だけ同意できません。そこまでの不況ではないと思います。 -- 名無しさん (2012-12-11 18:03:14)
  • 通常経済-恐慌経済 -- 名無しさん (2013-01-07 02:16:34)
  • 「政治思想と社会保障観」を参照されたい。http://www22.ocn.ne.jp/~kguik/seijisisou.html -- kisi (2013-01-24 11:17:04)
  • 現在の日本の状況はまさに恐慌です。 -- 名無しさん (2013-02-01 22:45:55)
  • 国民負担率を使うとは初めて聞きました。素晴らしいと思います。 -- a (2013-07-15 15:53:55)
  • ただ、日本の国民負担率が20%台だったのに需要>供給だった70年代と、30%台なのに需要<供給の現在で、単純に比較出来るか疑問です。 -- a (2013-07-15 16:01:43)
  • 不況時はケインズ、好況時はハイエク。古典派総合の理論ですね。それが出来たらいいんですが、新自由主義者の場合、不況時もハイエクと言い出しますからね。 -- a (2013-07-15 16:12:45)
  • インフレ経済=通常経済 デフレ経済=恐慌経済 -- 名無しさん (2013-10-15 21:33:23)
  • 竹中平蔵に対する是非について言及したスレッドが見つからないのですが? -- 名無しさん (2014-06-22 18:38:20)
  • 好況(ハイエク) -- 名無しさん (2014-12-01 03:32:33)
  • これは正確には長期の供給側の問題と短期の需要側の問題の比較です。あと、国民負担率自体ではなく、それによる労働力配置や資源配分の変化が重要です。 -- 名無しさん (2014-12-01 03:53:39)
  • >「福祉の充実」「ヨーロッパ型の高度福祉社会の実現」といった言葉に踊らされている人は、本当にそれが自分の望む社会の在り方なのか再検討してみる必要があります。 経済成長によるパイの拡大の見込めない日本において、多くの労働者は職に就けず、まともな額の賃金を受け取れないor所得0なので、「少ない所得に対する多くの割合」の小額の負担よりも「安定した固定の補助金」に魅力を感じる人はいるかもしれませんね 人間「継続可能な社会」よりも「目の前のおまんま」が無ければ生きていけませんから -- 名無しさん (2015-08-21 13:03:59)

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  • 現在が恐慌という所だけ同意できません。そこまでの不況ではないと思います。 -- 名無しさん (2012-12-11 18:03:14)
  • 通常経済-恐慌経済 -- 名無しさん (2013-01-07 02:16:34)
  • 「政治思想と社会保障観」を参照されたい。http://www22.ocn.ne.jp/~kguik/seijisisou.html -- kisi (2013-01-24 11:17:04)
  • 現在の日本の状況はまさに恐慌です。 -- 名無しさん (2013-02-01 22:45:55)
  • 国民負担率を使うとは初めて聞きました。素晴らしいと思います。 -- a (2013-07-15 15:53:55)
  • ただ、日本の国民負担率が20%台だったのに需要>供給だった70年代と、30%台なのに需要<供給の現在で、単純に比較出来るか疑問です。 -- a (2013-07-15 16:01:43)
  • 不況時はケインズ、好況時はハイエク。古典派総合の理論ですね。それが出来たらいいんですが、新自由主義者の場合、不況時もハイエクと言い出しますからね。 -- a (2013-07-15 16:12:45)
  • インフレ経済=通常経済 デフレ経済=恐慌経済 -- 名無しさん (2013-10-15 21:33:23)
  • 竹中平蔵に対する是非について言及したスレッドが見つからないのですが? -- 名無しさん (2014-06-22 18:38:20)
  • 好況(ハイエク) -- 名無しさん (2014-12-01 03:32:33)
  • これは正確には長期の供給側の問題と短期の需要側の問題の比較です。あと、国民負担率自体ではなく、それによる労働力配置や資源配分の変化が重要です。 -- 名無しさん (2014-12-01 03:53:39)
  • >「福祉の充実」「ヨーロッパ型の高度福祉社会の実現」といった言葉に踊らされている人は、本当にそれが自分の望む社会の在り方なのか再検討してみる必要があります。 経済成長によるパイの拡大の見込めない日本において、多くの労働者は職に就けず、まともな額の賃金を受け取れないor所得0なので、「少ない所得に対する多くの割合」の小額の負担よりも「安定した固定の補助金」に魅力を感じる人はいるかもしれませんね 人間「継続可能な社会」よりも「目の前のおまんま」が無ければ生きていけませんから -- 名無しさん (2015-08-21 13:03:59)
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