2スレ827


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2スレ827
  • 作者 2スレ827
  • 投下スレ 2スレ
  • レス番 827-830
  • 備考 電波 小ネタ

827 名無しさん@ピンキー sage 2008/03/15(土) 00:55:23 ID:OM9kCPYX
ジュウ×雨投下
エロなし電波なしむずかゆい青春臭いの



 生理現象めいて不随意かつ唐突に訪れる悪夢との対峙は精神力をどうにも削り過ぎる。
目覚ましを経ず自然に目を覚ます休日の朝のすがすがしさと言ったら果てがないはずだった。
身体が求めるままに惰眠を貪り予定もなく過ごす。知人と友人の間をふらふら行き来するような
関係の連中と連れ立って出掛けることもあれば、一人でゲーセンやら本屋やらで暇を潰すことも
できる。一切合切が常識の範囲で自由である喜びに胸をときめかせる――ことはまったくないが、
それなりに気楽なはずの週末、俺の目覚めは最悪だった。最も悪いと書いて最悪。今のところの
俺にとってワーストのそれは、悪夢に魘されて起きることだ。内容は様々、思い出せないことも
あれば過去の出来事を単純にトレィスしているだけのこともあるし、そこに恣意的な解釈が
混じってまったくのファンタジーと化していることもある。どれであっても悪夢には違いがない。
裸の雪姫に迫られる夢だろうが母親との壮絶な銃撃戦の果てにあっけなくおっ死ぬ夢だろうが
三輪車に轢かれて植物人間になる夢だろうがすべてが並列だ。汗びっしょりで目覚める不快感の
元には、何もかもがまっ平らだ。

 苛立ち紛れに寝巻き代わりのTシャツを乱暴に脱ぎ捨ててベッドの下に放り、改めて部屋の中を
確認する。窓から見える空の青はまだ薄っすらとしていて、そう遅くない朝なのが解った。細長い
ため息を吐いてから頭をばりばりと乱暴に掻くと、抜け髪の金色がベッドの上にはらりと落ちる。
色が薄くて目立たないが、そろそろシーツを洗おうか。ついでにシャワーも浴びてすっきりしようか。
ベッドから脚を下ろしたところで、がらり、と音がした。

 この部屋の中に引き戸は一種類しかない。
 ずばり、窓。

「あ」

 視線を向ければ、水彩絵具を薄く薄く溶かしたような空を切り取って見せていた窓に、
シルエットのような黒が乱入していた。
 休日だと言うのに制服姿、長い髪と長い前髪で外側から窓を開けた相手は、珍しくぽつりと
不覚そうな声を零して俺を見ている。
 驚きもせず呆れもせず、考えが半周ばかりして、俺はむしろ感心した。

「早いな、お前」
「おはようございます……ジュウ様」

 窓からの闖入者、堕花雨はいつものように淡々とした声音でまずは俺に朝の挨拶をした。

「いつぞやと同じくジュウ様に呼ばれている気がしましたのでやはり同じ手段で侵入を試みたのですが、
起き抜けで身体が思うように動かず、難儀してしまいました。その間にジュウ様は落ち着きを
取り戻されたようで、お役に立てず申し訳ございません」
「もっと他に言うことがある気もするんだが」
「パジャマで出歩くのは憚られましたので、休日ではあったのですが咄嗟に手近にあった制服を」
「そこでもない」
「申し訳ありません、二度と入るなと言われていたのに、また窓を使ってしまいました」


828 名無しさん@ピンキー sage 2008/03/15(土) 00:56:01 ID:OM9kCPYX
 『いつぞや』のように本気の詰問でもない突っ込みに、雨はほんの少し項垂れ気味にしてみせる。
フローリングの床に正座した雨の頭を、俺はベッドに腰掛けた形のまま見下ろしていた。いつもより
更に低い位置にある旋毛を眺めながら、何となくその頭をぺたぺたと叩いてみる。汗で湿ったシャツを
着直す気にはなれず、上半身は裸のままだ。雨が顔を伏せているのはその所為か。それとも
間に合わなかったことにか。少なくとも、不法侵入そのものを反省しているわけではないだろう。
 俺の従者を自称するこの堕花雨と言う娘との付き合いも、少なくとも性格のいくらかを認識出来る
程度の期間に及んでいる。だからこいつが俺に呼ばれたと思ったらいかなる障害を排してでも傍に
やって来ることは解っているし、その部分に関して譲るつもりがないことも解っていた。つまりは怒りも
突っ込みも無駄だろう――ガシ、と軽く自分の頭を引っ掻いて、俺は窓を見る。開いたそこからは
少し冷たい朝の空気が流れ込んでいた。雨は黙ったまま、目の前に正座している。

 ――『いつぞや』も、同じような位置に座っていたっけか。
 あの時も嫌な感じの夢を見て、それで、眼を覚ましたらこいつが。

「……おい、雨」
「はい。ジュウ様」
「呼ばれてる気がするって、どんな風にだ?」

 雨は長い髪をさらりと小さく揺らして、少し顔を傾がせる。ずれた前髪の奥に、普段はあまり見えない
眼が覗けた。あの前髪にはどんなフィルターが掛かっていて、普段俺のことがどんな風に見えて
いるのだろう、なんて思考が他所へと逃げる。
 堕花雨の恐るべき勘の良さは認めるし、恐るべき思い込みの強さも同様だ。俺を主と言い張ることで
何か超能力的な嗅覚が働いていることもあるのかもしれないし、単純に第六感が優れているだけかも
しれない。
 どっちにしても幻聴ながら『俺が呼ぶ声』が聞こえるとしたら、それはどんなもんだろう。何をどうして
いるんだろう。アニメなんかなら感覚であって言葉ではないとか言う理屈が出てきそうだが、存外に雨は
思案顔を見せた。とくに激しく興味があったわけでもないのに、自然と俺もそんな雨の様子を眺めて
しまう。
 まだ頭が完全に起きていない所為か、或いは、夢のダメージが残っているのか。どっちでも、
そんなのは言い訳かも知れない。

「これはあくまでわたしの感覚ですのでジュウ様が本来発したニュアンスとは違うのかもしれませんが」
「そもそも発していないからもったいぶらなくて良い」
「わたしには、泣き声のように感じられました」

 子供がぐずる様に、心細げに。

 悪夢の内容はいつだって様々細々限りがない。日常や経験を重ねるだけでも妄想は果てしなく
展開され、それが無意識に投影されていく。過去と現在が入り混じるように混濁して吐き気を催す
ほどだ。何かの事件に首を突っ込んでいる間はそのことが。終わっても、見聞きしたものは頭の中に
じくじくと蓄積されて、気まぐれに引っぺがされた瘡蓋のようにじわじわと滲み出してくる。
 そうだ、特に今朝のはキツかった。ガキの自分が家で一人留守番をしている光景から始まって、
テレビの中には父親と母親の姿、言い争う様子。チャンネルを変えれば殺されたクラスメート。
写真の静止画、命乞いの表情。チャンネルを変えれば殺したクラスメート。笑顔でこっちに向けられる
カメラ。チャンネルを変えれば眼球のない少女の笑顔。チャンネルを変えれば母親の嘲り。
チャンネルを変えれば腐乱死体。チャンネルを変えれば。チャンネルを変えれば。
 取りつかれたようにリモコンを何度も連打して、それでも映し出されるものはどんどん醜悪に
なっていく。終わりのないそれに電源を切ろうとするのに、何故かそれが反映されない。
どころかチャンネルの移り変わりすらもいつのまにかオートマティックになっていた。一つの物事を
追体験するならまだしも、ランダムにいくつもの傷を抉り出されるような感覚はゾッとしない。
にこやかに手を振る子供たちの瞼は上がらない。テレビの前から立ち上がることも出来ず
いつの間にか俺は現在の俺になり、結局変わらずにテレビに釘付けにされている。
わけもない焦燥感とちらちら頭の奥を焼くような映像の羅列。
 そして結局そのまま途切れるように唐突に、目が覚めた。

 ……そりゃ泣きたくもなるか。


829 名無しさん@ピンキー sage 2008/03/15(土) 00:56:39 ID:OM9kCPYX
「可能な限り迅速に行動したつもりだったのですが、申し訳ありませんでした。何か悪い夢を
ご覧になっていた時のために、いくつかアイテムも持ってきておりましたのに」
「それはポケットから見えてる一般的にはにはまったく見掛けないホーリーシンボルに関係があるのか。
そもそもそんなもん準備してたからだろ……って、これだとお前が来るのを期待でもしてたように
聞こえるか。とりあえず、不法侵入は出来るだけやめろ」
「了解いたしました。出来るだけ善処致します」
「出来るだけ、も二つ重なると途端に疑わしいな」

 はあっと軽く息を吐いて、俺は雨を見下ろす。
 たとえば三か月も前の自分なら、こんな状況を許しはしなかっただろうし、雨に対して何らかの
攻撃的な言葉を投げつけていただろう。しかし三ヶ月後の自分はこの状況を受け入れて、
あまつさえこうして日和るように言葉を重ねている。電波に毒されたのか受け流しているのか、
自分ではよく解らない。どうでも良いのかも知れない。理解せずに自分の上を上滑りさせることで
スルーを決め込む。そうしているつもり。どれにしても、雨がこの場にいることを、不愉快に
思っていないのは事実だ。恐るべきことに。
 夏になる前に会って、夏が過ぎようとして、慣らされていって、毒されていって。それはまったく
恐るべきことだ。ここにいることに違和感を覚えないのは危険なことだ。
 逆説いつか隣にいないことが不自然に思える日が来ないとも言えない。
 カギっ子にされたのはいつの頃からだったか。

 軽く頭を振る。まだ頭の中が夢から出てこないのか、いつもに増して考えるのが億劫だ。
状況さえももしかしたら掴めていないのかも知れない。実は今リビングで円が休日スタイルで
寛いでいると言われてもそうかと納得してしまえそうだ。
 目を押さえるようにして軽くこめかみを揉むと、膝に乗せていた方の手がそっと体温に包まれた。
見ると雨が俺の手を握っている。それほど力強くはないのに体温はしっかりと感じられて、
俺は単純に、ああここに雨がいるんだなあ、と思った。自分とは違う平熱、解り易い他人。
少し重さの残っていた目の奥からそれがスゥと消え始める。
 そういやお袋も体温は高い方だったっけ。多分基礎代謝とか言うのが高いんだろう。共通点は
異常な戦闘力か、異常に据わった胆か。似ている体温に安堵しているとしたら、笑えない。
ああ、それにしても、暖かいな。

 ごく何気なく、俺は雨の頭を引き寄せてみた。
 単純に顎を載せるのに丁度良さそうな位置だったからだ。
 後頭部に手を回された雨が、ふと顔を上げる。
 狙いは外れて、額に顎を押し付けるような形になった。

「――――」

 もう少しずれてたら額にキスでもするような形になっていたかもしれない。

 ば、っと音がするほどの素早さで、口元から雨の前髪の感触が消えた。
 飛びのいた雨の脚は正座の形から少し崩れていて、素足が見える。急いでいたのか靴下を
履いていなかった。朝は弱いのか、流石に寝起きは見たことがないが、よく見ると制服のスカーフも
左右が非対称気味だ。手に当たっていた温度も離れて、距離が出来る。雨の口元は一文字に
引き結ばれて硬直している。その頬が控えめながら紅潮しているのは、羞恥か怒りか――
性格を考えると、前者の方だろう。
 思い付きは魔が差すように訪れる。単純に思いついて、それをしてみたいと思って、だから俺は口に出す。
 正直なところをぶっちゃけてぶっちゃけてぶっちゃけてしまうと、拒否されるとは思っていなかった。

「雨」
「は。はい。ジュウ様」
「ちょっと抱かせてくれ」


830 名無しさん@ピンキー sage 2008/03/15(土) 00:57:15 ID:OM9kCPYX
 一拍、雨の耳だけが完全にのぼせた。
 さらに一拍、俺は何か今非常に誤解を招くようなことを言ったらしいことに思い当たる。

「いや違う多分お前が思っているような意味じゃない。だからとりあえず誤解するな、
お前や雪姫が買い漁ってる同人誌みたいなことを言ってるわけじゃなくてだな」
「わたしは構いません、ジュウ様のお望みとあらば火の中水の中死すら厭わぬことは前世から覚悟していまひゅ」
「平静を装うとして噛んでるじゃねぇか。落ち付け、抱かせろってのはだから、あれだ、抱っこさせろってことだ」
「は」

 顔はいつもの白さ、耳だけを器用に赤くした雨から、不意にぎくしゃくとした緊張が抜ける。
その隙を逃がさないように、俺は弁解をした。なぜか自分の顔もいくらか熱い気がする。そりゃあ、
この格好であのセリフはまずかっただろうが――そう物事に動じる性質でない雨が取り乱す様子を
見てから恥ずかしくなったのは、いったいどういうことだ。
 火照った顔に窓からの風が当たる。上着を脱いだままの上半身には、幾分寒い。雨の髪が
さらさらと小さな小さな音を立てる。
 お袋の髪も長いが、こう綺麗なストレートじゃないから、この音は新鮮だ。

「頭が丁度良い位置っぽいから、してみたくなったんだよ。解ったらちょっと、こっち来い」
「あ。はい。ジュウ様」

 こいこい、手招きをされた雨は膝で歩きながら、さっきの位置まで戻ってくる。視線が外れ気味なのは
やはり目のやり場の問題だろうか。肩を掴んで、俺は雨の身体を反転させ、向こうを向かせる。
長い髪に覆われた背中がこちらを向いた。
 もう少し近くに引き寄せて、脚の間に身体を置くようにしてみる。誂えたように丁度良い位置に
なったそのつむじに、俺はのっしりと顎を乗せた。
 ざりざりと髪が擦れる音が皮膚に直に響く。手のやり場に困ったので、とりあえずは雨の肩から
前に回して、組んでみた。実に丁度良い位置になって、ふ、と息が漏れる。

 両親が諍いすら止めてそれぞれに家を出て行くより前から、俺は家の鍵を持たされていた。
それでも気まぐれにお袋がいることはあったから、家に帰って鍵の確認をするのはむしろ楽しみだった。
それが苦痛になったのは二人が完全に出て行ってからだ。誰もいないのが当たり前になってしまった
部屋で一人テレビを眺めるだけの時間を過ごすのは、妙に恐ろしかった。少しでも良い思い出ばかりが
自然に出てくるのが、何より嫌だった。塞がり掛けの瘡蓋を悪戯に剥がれるような感覚が、
じりじりと続く。慣れて諦めるまでに、それほど時間は掛からなくても。それでもじくじくとしたその時間が
苦痛だったことは、何も変わらない。嫌な思い出のまま、きっと一生そうだろう。
 顎が疲れて、角度を変えた。頬を載せる形にすると、学校の机で自分の腕を枕にしている時に似た、
程よい眠気が訪れる。他人の体温を枕にしていれば、嫌でも接していれば、それは安堵感を与える。
部屋に一人でいたことを思い出さない。瞼を閉じれば、徐々に登り始めた日の光がうっすらと広がる。
黒くはない闇。昼寝めいたまどろみ。

 雨は微動だにしない。
 きちんと正座して、そこにいる。
 ここで飛びのかれたら流石に怒るかもな、俺。
 いや、それとも、泣いたらどうしよう。



「……。朝飯でも作ろうかと思って来たんだが、私はどんな反応をしたら良いんだろうな、堕花雨。
何故私の息子は半裸かつそんな奇っ怪な場所で、実に気持ち良さそうに眠っているんだ」
「ジュウ様のお望みに全身全霊でお答えするのがわたしの使命ですので」
「そうか。ならば私はそれをしかと見届けさせてもらおう。さて、起きたらどんな顔をするかな、このガキは
――ついでに一応言っておくと、堕花、お前も大概顔が緩んでるぞ」
「ジュウ様のお望みを叶えることは私の至福ですので」
「そうか。おめでとう」
「ありがとうございます」



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