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彼女の理由◆s4f2srXljQ








森の中に雨避けを見つけて、錆白兵は足を止めた。
爆縮地―――人知を超えたその足運びにより、長距離を走破したその身に疲労は見られない。
軒をくぐり、土足で中に入り込む。どうやらここは、薬問屋らしい。
医療器具を見回しながら、錆は適当に縫合した腹部の裂傷に今一度、適度な修繕を施した。

「……さて」

錆がため息をつく。
その嘆息の理由は、入り口近くにある机の上に放られた剣を見れば明らかだ。
選定の聖剣・カリバーンは、見るも無残な鋼の残骸へと成り果てていた。

「真逆、拙者の逆転夢斬を初見で見切る剣士がいるとは、驚きでござる……。
 更に言えば、あの見えない刀身―――『えあ』とか言っていたか?
 あの不可解な技術による拙者の速遅剣との間合いの取り合い……まさしく、緊迫の極み。
 その膠着状態を打ち破ったあの疾風の一閃もまた、一揆刀銭に見劣りせぬ神技。
                                     カウンター
 拙者に刃取りがなければ、確実に両断されていたな。そして反力学で放った一揆刀銭を弾いた、
 あの禍気の奔出……まっこと、恐ろしい相手でござった」

カリバーンを砕かれるほどの激戦を終えてなお、錆の目には余裕がある。
疲労よりも、戦の高揚のほうが勝っている―――否、強き剣士との出会いに、心を躍らされているのか。

「あれほどの強敵、この一生万死の坩堝では殺しきれなかった事を悔やむべきなのであろうが―――」

久しく出会っていなかった、自分より強い存在。
まだ見ぬ他の参加者達も、あるいはあれほどの強さを持っているのか。
期待を膨らませながら、錆は鉄の棒を拾い上げ、僅かに刻んで刃のように加工する。
錆ほどの剣客になれば、どんな獲物であってもその実力に翳りは落ちない。
カリバーンの鞘に俄刀・鉄を収め、錆はしばしの休息に入った。



【G-5 診療所/一日目/黎明】

【錆白兵@刀語】
【状態】健康 疲労(中・無感)
【装備】加工した鉄の棒
【道具】支給品 悪刀・鐚@刀語(電力残量55%) カリバーンの鞘
【思考】基本:優勝し、元の世界に戻って失敗作から脱却する
1:拙者にときめいてもらうでござる

【備考】悪刀・鐚は活性化の性能が制限されているため、
     基本は疲労無視と痛覚遮断の効能しかありません。
     ダメージを負うごとにそれを治癒しますが、その度合いによって電量を消費し、
     電力がカラになると鐚の全機能が停止します。




ダイとアーチャーを見逃してから、少しの時間が過ぎた。
黒化したセイバーは彼らを追うでもなく、その場に残っている。
夜風に揺れて、更地の向こうから音を立てる森林に気を配りながらも、その心は冷静だった。

(森という戦場は、弓兵にとって絶好だ。深追いは不味い)

頭に浮かぶ直感に従い、風王結界を解除し、鎧も無に還す。
受肉しているから消滅の心配はないにしても―――供給の目処がない現状、魔力の浪費は避けたかった。
風の纏境を解かれた剣は、必然その姿を見せる。
それは、木刀だった。何の意匠もない、何の外連味もない、ただの木刀だった。
何の毒もないそれを、セイバーが黄金の瞳でじっと見つめる。

「……不思議な剣だ。嘘を見破り、心を浚い、己の真実を見せる。……私には、矛盾した王道を見せるか」
                           .....
王刀『鋸』。とある刀鍛冶が鋳造したその日本刀は、セイバーの心に黄色の信号を燈していた。
                                    .......................
違う―――いまのお前は違う―――真実ではない―――英霊と呼ばれた、アーサー王ではない!

「そうだ。私は反転した英霊。聖杯の泥に侵された、逆属性のアルトリアだ。
 だが―――果たしてお前に、私がどうであれば正しいのか、などという事が、決められるのか」

王刀が黙る。否、黙ったのは王刀が看破し、黒化したセイバーに突きつけた、アルトリアの本性だ。
しかし、セイバーはそれを否定する。正しい自分を否定し、自分の正しさを開示する。

「私の望みとは誤った過去の清算。それはいい。それは私にとって、否定できない唯一の物だ!
 だが―――それに伴う犠牲を、果たして私は理解していたのか」

それは、彼女もとうに理解しているはずの矛盾。英霊でありながら、己が生きた過去の変針を望む意思。
だが、その意思がもたらした物を、彼女は黒化してから嫌というほど知った。
かって自分が敗退した、冬木の第四次聖杯戦争……あの最後に、自分が放った約束された勝利の剣。
その一撃は聖杯を破壊し、中身の泥を撒き散らし、アンリ・マユの力で多くの人の命を奪ったのだと、
間桐桜とゾウゲンの会話から、はっきりと理解できた。自分が黒化していなければ、罪悪感に膝を折っていただろう。
それについては何も感じなかったが……さすがに、第五次聖杯戦争の結末は、堪えた。

「私がシロウとの一騎討ちに破れ、トドメを刺す前にシロウが息絶えた後……。
 桜が死に、凛が死に、制御を失って溢れ出した泥の量は、四次の時の比ではなかった。
 そして私は泥に呑まれ、消化される寸前に確かに見た。冬木の町が、アンリマユに蹂躙される瞬間を!」

黒化した桜を止めるために戦った衛宮士郎は、セイバーに勝って死んだ。
妹を殺す覚悟を決めていたはずの遠坂凛は、結局妹を殺す事ができずに死んだ。
とうに正気を失っていたはずの間桐桜は、姉の愛に触れ、自ら死んだ。
同じように悲惨な終わりを迎えて消滅した筈の自分が、何故黒化したままここにいるのか……それは理解できないが、
セイバーは、最後の光景を忘れなかった。再び受肉してもなお、その時の思いを忘れなかった。

「私が過去の改竄を願う度に未来の命が消えるのならば、私に夢を見る権利などなかったのだ……。
 私の願いは聖杯の中身など関係なく、初めから、間違っていた……たった一つの理想こそが、
 私を蝕む毒だった! 何度も、気付く機会はあったはずなのに! 私はそれに目を向けなかった!
 これは変えたいと望んだ生前の我が行いと、変えられると信じた生前の国の末路と、何も変わらないではないか!」

王刀は、持ち主の毒を殺す。
だが―――殺した毒は、属性を変換させる聖杯の泥ではなかった。
それはアルトリアを殺し、アーサーが望み、セイバーが叶えようとした歪んだ願い。
決して曲がらない、王道と騎士道。それら全てを蹂躙して、黒騎士は叫ぶ。
過去の毒に影響されない、彼女自身の、現在の心からの渇望。

「私はあの願望器を獲り、『聖杯の存在しない冬木市』を実現させる。選定は―――間違っていたと、受け止めよう」

受け止める。セイバーが搾り出したその言葉は、もはや王の選定のやり直しを望まないという意味を孕んでいた。
黒化しても変わらない彼女の誇りが最後に選んだのは、
自身の仮マスター、間桐桜と、かってのマスター、衛宮士郎の救済。
騎士ならぬ騎士が見せる、最後の忠義……否、それは親愛にも似ていた。
それを実現させるため、英霊アルトリアは、殺人者セイバーとして地に足を付けた。
――――だが、彼女は気付いているだろうか?
その選択もまた、矛盾を孕んでいるという事実に。
王刀の特性が『毒のなさ』だけでなく、抱える矛盾にある事に。

「……」

突如セイバーの黄金の瞳が細まり、敵の接近を告げる。
かなりの距離まで詰められている―――アサシンでもなければ、これほど見晴らしのいい更地で
ここまで気配を立てずに接近する事は不可能なはずだと、セイバーが周囲に目をやる。

「その刀は―――いい刀でござる」

何故気付かなかったのか、セイバーは即座に理解した。
目の前に現れた、目麗しい堕剣士は、人間の気配を出していなかった。  ...
それはまるで一本の刀のような、鋭く、近寄りがたく、しかし美しい、そんなそれだった。

(――――――!)

敵の力量を測るために目をやった腰に、セイバーは息を奪われる。
そこにあったのは全ての元凶。自分の生き方を決定付けた、選定の聖剣だった。
浮かんだ感情は怒りか、憎悪か、あるいは当然のように美しいままの聖剣への呪いか。

「その剣は―――悪し剣だ」

ともかくその感情のまま、セイバーは白髪の剣士に斬りかかる。
風の鞘を招来し、黒の鎧を身に纏い。
この戦いの結果がどうあれ、彼女はこれからも同じ事をし続けるだろう。


……そして、その結末も、また……。



【F-6 森/一日目/深夜】


【セイバー(オルタナティブ)@Fate/stay night】
【状態】疲労(小) 魔力消費(小)
【装備】王刀『鋸』@刀語(風王結界) 魔力で編みあげた鎧
【道具】支給品 ランダムアイテム×1
【思考】基本:ロワの提示した万能の願望器を得、『聖杯のない冬木市』を実現させる。
1:敵を倒す。

【備考】受肉した肉体なので、物理攻撃の無効化・霊体化などは出来ません。





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