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願果(ねがいのはて)◆Mc3Jr5CTis



三年前のあの日。
母が還らず、父がお役目を継承した日。
家族をなくした私に「お姉ちゃん」が出来ました。


吹き抜ける生臭い潮風が、短くカットされた少女の黒髪を嬲る。
小さくはためく中学校指定のセーラー服の襟や、短く巻き込まれたスカートの布地。
それらが立てる小さな物音を、潮騒の音が呑み込んでいた。
天頂の月と、無数の星だけが照らす海辺の岬。
そんな薄ぼんやりとした闇の中に、一人の少女が佇んでいた。
いつから、そうしているのだろうか。
いつまで、そうしているのだろうか。
左手には、鍔すら付いていない白鞘の野太刀を持って。
少女は何かを深く思い悩むかのように瞑目し、微動だにしない。

絶壁の岬に、打ちつけるような波の音が轟く。
不規則なリズムで刻まれる、大自然の律動。
その自然との合一の中、何かを悟ったのか。
豁然と、少女が目を見開いた瞬間。
無窮の闇の中に、一筋の光が閃いた。


転瞬の間、一気呵成に抜き放たれていた長大な刀身が、月の光を受けて濡れたような妖しい光を放つ。
青白い燐光に照らされた横顔は、死人のように青褪めている。
しかし、その瞳は何かを決意したかのように強い輝きを帯び、闇の先を見据えていた。

少女は、刀を鞘に納めると歩きだす。
己が意思のままに。




ロワと名乗る女が催した、剣を使う者同士の殺し合いという最悪のゲーム。
帝都を守り、悪を挫く帝国華撃団の隊長である大神一郎は、そんなものに乗るつもりは、まったくない。
持ち前の熱い正義感の燃えるがままに――大神は、ただ夜の海岸沿いを歩いていた。

なにか脱出の手立てでもないかと思っていたのだが、島は紺碧の海の上に屹立するかのようにそびえ立っており
例え筏でも組んだとしても、それを海に浮かべる事すら困難だろうという事が判っただけだった。
翔鯨丸のような空を飛ぶ船がなければ、島からの脱出は難しいだろう。

まぁ、それ以前の問題で。
参加者たちの首に嵌められた首輪をどうにかしない事には、脱出も何もあったものではないのだが、
大神には爆発物を仕込まれた首輪を解体するだけの技能はない。
今は自分に出来る事から、地道にコツコツと反撃の糸口を掴んでいくしかないのだ。
例え、何の意味もなさそうな小さなきっかけだとしても。

機械発明が得意な部下である李紅蘭がこの場に居ればいい知恵を貸してくれたかもしれないが、ひとかどの剣士のみを
集めたというこの殺し合いに、彼女が呼ばれる事はないだろう。
軍人……隊長としての大神は、適材である彼女の不在を残念に思うが、人としての大神は、一人のか弱い女性である
紅蘭が戦いに巻き込まれなかった事を嬉しく思う。
強い霊力を持つ女性しか魔とは戦えないとはいえ、未だ彼は少女たちを戦いへと駆りだす事に納得している訳ではないのだから。

「さくらくん……無事でいてくれ」

だから、この戦いに巻き込まれただろう唯一の部下が心配だった。
北辰一刀流免許皆伝の腕前と、強い霊力を持つ彼女ならば、この戦いへと喚ばれた可能性は高いだろう。
つい足早になりそうな歩調を抑えながら、大神は周囲を警戒しつつ遠目にも朧げに姿の見えるランドマーク――
地図上ではピラミッドのような形をした遺跡を目指す。


と、その時である。
向かいの道から歩いてきた人の存在に、大神は気付く。

年の頃は、14~5歳ほどだろうか。
女性として少しずつ丸みを帯びてきた肉体を、明治の世から制定された海軍の服に包んでいるのが妙に似合っていた。
だが、あのスカートはなんだろう。
いくら子供とはいえ、あんなに短いのはハレンチすぎやしないだろうか。
すみれくん独自のファッションを初めて見た時も驚いたが、この子はそれ以上なのではないか……

いけないと思いながらも、大神の視線はついつい少女の肉付きのよい、伸びやかな太腿へと注がれてしまう。
やはり剣術で鍛えこまれているのか。少女の身ながらもその力強さに、大神は野生動物のような躍動感を連想する。

「こんばんは。環境省超自然災害対策室所属、土宮神楽です」

そんな思いにふけっていると、少女も大神の存在に気付いたのか、立ち止まり礼儀正しく挨拶をする。

「うーむ……あ、ああ、こんばんはっ! 帝……国海軍所属、大神一郎少尉です」

秘密組織である帝国華撃団の存在を、余人に教えるわけにはいかない。
大神は表向きの所属を伝えておく事とする。
相手の所属する組織名も大神には覚えのないものであったが、華撃団のような秘密の組織名をうっかり口に出して
しまったのだろうか。
無理もないだろう。
如何に剣の腕が優れると言ってもこんな年端もいかない子が、いきなりこんな場所に連れて来られたのでは、
その心中は察するにあまりある。
ロワに対する憤りと共に、大神は少女の保護を決意し――

「ごめんなさい……」
「え?」

その木枯らしの如き鋭い踏み込みに反応出来たのは、自分でも上出来と思えた。
少女の脚を、よく観察していたからだろう。
大神は、突如として自分の間合いまで踏み込んできた少女の斬撃を潜り抜けて、体を交差させたのだ。
互いの立ち位置は、先ほどまでと真逆となる。
素早く振り向いて、叫ぶ。

「君、いきなりなにをっ!」
「ごめんなさいっ! 死んでくださいっ!」

群青色の瞳を見開いて、神楽は手にした野太刀を振るう。
教本に載せたくなるような、よく練り込まれた体捌き。
よほど小さな頃から修行を重ねてきたのだろう。小さな身体で長物をよく遣うと、大神は感嘆してしまう。

だが、今はそんな感心などしている場合ではない。
神楽が刀を振るうたびに、大神の肉体に朱色の線が刻まれる。
自分も応戦しなくては、これ以上は耐えきれないと判断し腰の物を引き抜いた。
手にする刀は、真宮寺さくらが父より受け継いだという破邪の霊剣荒鷹。

(借りるぞ、さくらくんっ!)

心中にて一言断り、神楽の一撃を受け止める。
大神の使う流派は、かの大剣豪宮本武蔵が興した二天一流。
二刀を扱う事で有名な流派ではあるが、別に一刀でも戦えぬ事はない。

「ッセイ!」
「はっ!」

短い呼気を吐き、二人の剣が重なり合う。
小兵ではあるが、素早い体捌きで体重を乗せてくるような神楽の剣は重く、鋭い。
降魔をも一刀両断にしかねない斬撃を、大神もまた霊剣に霊力を注ぎ込んで耐える。

「馬鹿な事は止めるんだっ! 
 死にたくないのはわかるが……あの女の言いなりになって最後の一人になるまで殺し合うなんて、正気の沙汰じゃないっ!
 まずは落ちついて、話し合おうっ!」

剣を挟んで、視線がぶつかる。
神楽の濡れたような瞳に、戦意の揺らぎは見えない。
だが、先ほどから振るわれる剣には、どこか迷いがあるように感じられる。
それがなければ、大神は既に死んでいたかもしれない。
だから大神は説得を重ねるのだ。
過去、幾多の隊員たちと心を通わせたように――
この少女とも、理解し合えると信じて。

「判って欲しいなんて言わない……でも、私は戦うんだ……
 ――黄泉のためにっ!!」

だが、神楽はそれを拒む。
あのロワという女の言葉を聞いた時、神楽の心に走ったのは殺し合いへの恐怖だけではなかった。
彼女の提示した、どんな願いも叶えるという万能の力。
その力さえあれば、再起不能の重傷を負った黄泉を助けられるかもしれないと思ったのだ。

二か月前、全身108箇所を鋭い刃物によって刺し貫かれた黄泉は、命こそ取り留めはしたが全身の神経や腱を
ズタズタにされて、日常生活すらままならぬ重傷を負っていた。
美しかった肌を傷だらけにされ、右目を失い、声を失い、わずかに動く指先を使った意思疎通しか出来なくなった黄泉。
だが、それでも神楽に優しく笑いかけてくれる彼女を――救いたいと神楽は強く願った。

だって、あまりにも酷過ぎる。
黄泉が尊敬する義父を失ったのは、つい先日の事だった。
正体不明の悪霊による犯行と思われたその事件以来、神楽と黄泉の二人を取り巻く環境は激変する。
叔父に諫山家の跡継ぎの座を奪われ、部屋を追い出され、義父が与えてくれた宝刀も奪われた。

やがて判明した父の仇――悪霊に乗っ取られてしまっていた従姉を倒した黄泉だったが、余人を交えぬ所で行われた
その戦いは、悪霊退治などではなく私怨による殺人だったのではないかという嫌疑も掛けられた。

黄泉に残されたのは身動き一つ出来ない重傷の身体と、殺人容疑。
婚約者にすら見放された黄泉には、本当に神楽以外、何も無くなってしまっていた。

――あなただけよ、神楽……あなたが、私の最後の宝物。

声を失う前の黄泉に、かけてもらった言葉を思い出す。
神楽にとっても黄泉はかけがえのない人だ。
お役目で忙しい母と、厳しい父に育てられ、受け継ぐべき使命の重さと剣の修行しか知らなかった神楽に
家族の温かさと、楽しい毎日を与えてくれた人。
強くて優しい、大好きな黄泉お姉ちゃん。
その黄泉と、悪霊なんて関係のない世界で普通の姉妹のように生きられたら……
それが神楽の願いだった。

だからこそ、こんな所で倒れるわけにはいかなかった。
必ず勝って、力を手に入れて黄泉の元へと戻る。
悩みの果てにそう誓った神楽だったが、その剣はいざとなると鈍ってしまう。

黄泉との暮らしで優しくなりすぎてしまった剣は、カテゴリDと呼ばれる人の死骸に取り憑いた悪霊ですら
切れないほどに鈍っていた。
ましてや生きてる人間を切る事は、吐き気がするほどに抵抗がある。
その抵抗を――黄泉への想いの力で打ち破るように、神楽は剣を振るう。

「はあああっ!!」
「くっ! よすんだ、土宮くん……っ」

激しい剣戟の音が、夜の平原に響く。
大神は何度も説得の言葉を口にするが、それで神楽の攻撃の手が緩む事はない。
風のように縦横無尽の立ち回りを見せる神楽に対し、大神は山のようにどっしりと構えてそれを受けていた。
だが、全身にいくつもの創傷を受けた肉体からは鮮血が溢れだし、これ以上の持久戦は不可能なように思える。
遂に大神は一旦説得を諦め、少女を峰打ちして気絶に追い込む事を決断した。

この戦いが始まって以来、初めて大神が自ら動く。
弧を描くように、大神の周囲を回っていた神楽を一足で捉えた。

「狼虎……滅却っ!」

大神の肉体の中で、急激に霊力が高まる。
構える剣は狼のように獰猛に。
吼える声は猛虎の如し。

「オオォッ! 国士無双オオオオオッ!!」

少女を止める。
その一念の元、白炎の如き霊力を纏った荒鷹の峰が、神楽の腹に喰らいつかんとする。

「ハァッ!」
「――なにぃっ!?」

だが、八相の構えから流れるように打ち込まれたその剣は、ただ虚空を裂くのみに終わる。
神楽は高く上空へと跳躍する事で、これを避けて見せたのだ。

神楽を追い、上を見上げた大神の視界に、投げつけられた野太刀が迫る。
渾身の力を込めた必殺技を空振った大神に、体勢を整えてそれを避けるだけの余力はない。

「――オオッ!」

かろうじて剣を切り返し、これを打ち払う。
その乱れ切った体勢の大神の胸に、落下しながら宙で一回転して勢い付けた神楽の膝打ちが決まった。

「ぐぁっ」

肋骨が軋み声を上げ、肺の空気が抜ける。
勢いのままに地面に叩きつけられた大神の両手を広げた脚で抑えると、神楽は黒いベルトで太腿に括りつけた
ナイフケースから短刀を引き抜く。
そして、馬乗りの体勢のまま、大神の胸へとその短刀を突き刺そうとし――

「――出来ないよぉ……ごめん……黄泉ぃ、ごめん……」

その、数センチ手前で、刃は止まっていた。
代わりに大神のシャツに降り注ぐのは、大粒の涙の雫。

「土宮くん……やはり、君は……」
「止めてっ! 私は決めたんだから……黄泉の為に、なんでもするってっ!
 でも、あなたが……あなたが、本気で戦ってくれないから、私はっ……」

本気で戦っていなかった、などという事はない。
大神は、間違いなく本気だった。
本気で、神楽を止めようとしていた。
だからここで神楽が言う本気とは、本気で殺し合って欲しかったという事だ。
命を奪い合う極限の戦いの中でなら、神楽の中の殺しを忌避する心はねじ伏せられていたかもしれない。
だが、追い詰められても最後まで殺し合いを回避しようとする大神の姿勢が、今回は殺し合いを止めたのだ。


神楽は、唇を噛みしめながら立ち上がる。
そして、地に突き刺さっていた野太刀を引き抜くと、そのまま夜の闇の中へと走り去った。
これ以上、大神の言葉を聞いていると、決心が鈍ってしまいそうだったから。

「ま、待つんだ、土宮くんっ! ぐっ……」

それを追い掛けようとした大神だったが、怪我の痛みが身体に立ちあがる命令を拒否させる。

「く、くそっ……」

この殺し合いを止めるどころか、少女一人止める事の出来ない己の不甲斐無さに歯噛みしながら、大神は
一人夜空を見上げるしかなかった。


【B-7 海辺 一日目 深夜】

【大神一郎@サクラ大戦】
【状態】疲労(小)、胸に打撲、裂傷多数
【装備】霊剣荒鷹@サクラ大戦
【道具】基本支給品、ランダムアイテム(個数、内容ともに不明)
【思考】基本:この戦いを止める。
 1:殺し合いを止めさせるために動く。
 2:神楽を見つけて、殺し合いを止めさせる。

【土宮神楽@喰霊-零-】
【状態】疲労(小)
【装備】夕凪@魔法先生ネギま!  アサシンダガー@ファイナルファンタジータクティクス
【道具】基本支給品
【思考】基本:黄泉の為に優勝する
 1:誰かを殺して覚悟を決めたい

【備考】
 ※諫山黄泉がこの島にいる事に気付いていません。
 ※参戦時期は喰霊-零-9話途中からです。



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