ロッキー◆ClAmicNkI



「その青い人ってのは、俺の服にある様な紋章が描かれた盾を持っていなかったか?」
「一緒にいたのは短い間だったけど、それらしき盾は持ってなかったと思うわ」
来た道を戻りつつ、龍咲海はサトリに軽い自己紹介と共にヒュンケルとロランの件について説明した。
「ロトの紋章が描かれた盾が没収されたとすると決め手に欠けるな……。ロトの子孫ならもっとアピールしとけってんだ」
この狂気に満ちた島で、一緒に大神官ハーゴンを討伐したかつての仲間と再開できる幸運に、サマルトリアの王子は顔を綻ばせた。
彼が一緒であるならば、魔王だって相手できる。
「あいつは生真面目だからなぁ。いつも面倒ごとを抱えてやってくるし困ったもんだ」
日頃軽口を叩いているサトリであったが、親友との再開に心が躍り軽口も更に磨きがかかっていた。
「もうすぐよ!急いで」
「それにしては静か過ぎやしないか。ったく、人を駆けつけさせておきながら自分一人で解決してやんの」
二人の脳裏に違った映像が流れる。
海の脳裏には自分を庇って疵ついていたロランの姿が。
サトリの脳裏には遅かったな、と笑いかけてくる戦友の姿が。

「嘘……だろ……」
サトリの目の前には見慣れた親友の物言わぬ背中が横たわっていた。
身体の至る所が傷ついていたが、恐らく死因は背中へと貫通している一刺しであろう。
「おい、そんな悪質な冗談お前らしくねぇよ。いつもの俺の軽口への仕返しにしたって時と場合があるだろ……」
相棒のこんなに疵付いた背中は未だかつて見た事がなかった。
大神官ハーゴンやシドーを相手にしたときですら、ここまでの疵を負っていただろうか。
サトリが知っていたロランの背中――それは、彼が彼なりに必死に守ってきた居場所であった。
「ザオリク……!ザオリク……!おい、これは俺の数少ない取り柄だった筈だろっ」
必死になって戦闘不能状態から復活させる呪文を連唱する。
しかし無駄にMPを消耗するばかりで、屍は再び動き出す事がなかった。
「畜生、畜生っ……!!」
先程まで軽口を叩いていた男が、今は地面に膝をつき拳で大地を叩きながら哭いていた。
その悲痛な姿から、自分と光や風との関係と同じだったのだろうと予測はつき、海は自分からサトリに声をかけられないでいた。
「――おい、その男はどんな風貌をしていた」
再び顔を上げたサトリの面持ちは憎しみの色に支配されていた。
「え、二十歳前後で端整な顔立ちしててる男だったけど……」
「サンキュー。情報としては少ないがこの近くにまだいるなら十分だろ」
そういうが早いかサトリは駆けだした。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ!」
「わりぃが、今回ばかりは足手まといと一緒に行動できる自信がないのでね。デートはまた縁があったらだ」
私だって戦える、ロランの時に続き再びそう叫びかけた海であったが、ロランの背中の疵を思い出し言葉を紡ぐ事は出来なかった。
「ほんと、男って馬鹿なんだから……。死んだら許さないんだからね」
走り去るサトリの背中を見つめながら、海はそう呟いて佇むしかなかった。

「貴様か――ロランを、親友≪ダチ≫を殺ってくれたのは」
「どこに鼠が隠れているのか知らんが、あの女の呼んだ増援って所か」
ヒュンケルは周りを見渡す。
声と殺気から近くの何処かから、自分を狙っている者がいるのは解るが、場所が特定できない。
木々に囲まれ隠れる場所が多い上に、周囲は暗く、後方には山が聳え立っており声が乱反射するので隠れるにはもってこいの場所であった。
「ローレシアのロランか……、見事な剣士であった。しかしその親友を自称する男が隠れるしか脳がない鼠とは同情する」
「あぁ俺の事はなんとでも言うがいいさ。実際親友の背中に隠れながら戦ってた様な男だ。だがあいつは……ロランは死んで良いような奴じゃなかったっ!」
足手まといだった自分を嫌味一つ漏らさずにいつも笑顔で迎えてくれていた。
ベラヌールの町でハーゴンの呪いに倒れたときも、見捨てる事はせず貴重な世界樹の葉を自分の為に使ってくれた。
体力(HP)だってムーンブルグの王女に負け、力もロランの半分程度、呪文だってスクルトとザオリクしか取り柄が無いこの俺を肩を並べるに値する戦友のように扱ってくれたのだ。
その十八番だったザオリクもムーンブルグの王女――ルーナの方が習得が早く、何度枕を涙で濡らした事だろうか。
何とかしてロランの役に立ちたくて自己犠牲呪文≪メガンテ≫を覚えた事もあった。
それがロランの怒った顔を見た最初で最後であった。
メガンテを使う覚悟があるなら置いていくとまで言われた。
どんなに足手まといな時でもそんな事は言わなかったのにだ。
その言葉で俺はロランの背中を命に代えてでも守り抜く事を決意した。
力も鍛えて、ロランの背中を守り抜く相棒に恥じぬ努力はしてきたつもりだ。
だが俺は肝心な時にあいつの後ろにいる事が出来なかった。
「これだけ言われても姿を見せぬか……、鼠は所詮鼠か。かくなる上はこちらから鼠狩りを行うまで。魔王軍、不死騎団長ヒュンケ……」
痺れをきらし名乗りを上げようとしたヒュンケルの言葉が途中で途切れる。
「閃熱呪文≪ギラ≫かっ!」
視界を覆うように襲い掛かる炎の群れ。
知っている呪文なだけに、ヒュンケルは思わず身構える。
愛用していた魔鎧さえあれば、ギラ程度気にする必要もないのであろうが今はそうも言ってられない。
しかしその見覚えのある呪文はかつての威力を伴わず、肌を軽く焦がす程度の威力で終わってしまった。
「視界がなくなれば十分っ!」
自らの放ったギラを切り裂き、ダマスクスソードをヒュンケルに振り下ろす。
「相手の名乗りの途中に仕掛け、なおかつ目眩ましとは騎士道の風上にも置けぬ輩が」
しかしサトリの剣はヒュンケルを切り裂く事敵わず、覇者の剣によって軽々と受け止められた。
ダマスクスソードを払いつつ、ヒュンケルは返す刀で目の前の鼠を切り裂こうと試みる。
「ならば、これでどうだっ!大閃熱呪文≪ベギラマ≫」
先程より燃えさかる炎がヒュンケルを包み込む。
炎によって目標を見失ったヒュンケルの剣は、やむなく目の前の炎に振り下ろした。
切り裂いた炎の向こうに見えたのは、トラマナを唱えつつ炎に駆け込んでくるサトリの姿。
「小癪なっ!」
ダマスクスソードと覇者の剣が再び交わり、金属同士がぶつかる特有の甲高い音を周囲に響かせた。

「スクルトっ!」
ヒュンケルから放たれたブラッディースクライドの剣圧を、サトリは守備力上昇呪文で辛うじて耐える。
幾たびかの撃ち合いの中、次第にサトリが劣勢になっていった。
ロランが真っ正面から勝てなかった相手である。
剣士として全てが劣る自分が仇を討とうとするならば、綺麗事を考えず呪文や不意打ちを駆使するしか方法はない。
しかし奇襲は尽く失敗し、今では奇襲のタイミングに合わせて見えない相手に反撃を合わせられたりもしている。
更にはロランへのザオリクも含め、今まで呪文を湯水の如く使ってきたツケが回ってきた。
ガソリン(MP)切れ――それはロランと同等かそれ以上の剣士であるヒュンケルに対し死を意味していた。
――俺に、もっと力があれば!
力が足りないから、尽くヒュンケルに剣を受け止められていたのだ。
これがロランであれば、そう易々は受け止められず相手にも幾分かダメージを与えていられたであろう。
そして力と共に武器の愛称も悪かった。
閃熱呪文を切り裂いた剣の煌めきは見覚えがある。
あれはロトの子孫に代々伝わる剣と同じ煌めき。
つまりはオリハルコン製の剣である。
それに対しこちらはウーツ鋼の合金製の剣。
決してなまくら剣ではなかったが、伝説の剣と同等の剣相手では分が悪い。
「そろそろ終わりにしよう」
対するヒュンケルもまた決め手が欠けていて苛立っていた。
いや、恐らく相手が正々堂々とした剣士であるならば長い戦いでも楽しめていたであろう。
しかし相手は不意打ち、奇襲、目眩ましなどの搦め手を多用してきている。
その様な戦いの方法があるとも、正面から戦う自分の様な相手に非常に有効であるという事も重々承知している。
だが幼い頃から騎士道を教わってきたヒュンケルにとっては好みではないスタイルであった。
しかし相手の闘気や癖も読めてきたし、MP切れ間近か呪文の手数も減ってきた。
畳み掛けるタイミングとしては悪くは無い。
「筋は悪くはない、だが相手が悪かった様だな。親友共々同じ刀の錆になれる事を幸いと思え」
再び腰を落とし、ブラッディースクライドの構えを取る。
大閃熱呪文だろうが守備力上昇呪文だろうが問答無用に突き抜ける威力となる様に暗黒闘気を剣に込めた。
「へっ、こっちの弱り具合までお見通しって訳かよ。しかし窮鼠猫を噛むとも言うぜ。閃熱呪文≪ギラ≫を知っていた貴様ならこの呪文の威力も知ってるだろ?」
ニヤリと笑うその姿は、とある有名な魔物を思い出させる。
そしてその威力も優勢ながらも勇者アバンと相打ちで終わってしまった同僚で重々承知していた。
「まさかっ……」
「そう、そのまさかさ!自己犠牲呪文≪メガン……」
自慢のブラッディースクライドもメガンテ相手では敵わないであろう。
咄嗟にヒュンケルは構えをとき、一歩退いた。
自爆しようとする相手に付き合う必要は欠片もない。
しかし敵に背を向けるという、騎士道の美学から反した行動に一瞬躊躇してしまった。

「――なーんてね」
攻撃もできず、後退もできず中途半端に腰が引けていたヒュンケルに向かってサトリは跳躍した。
これが最大、最後のチャンス。
落下速度を味方につけ、最大の力で相手に剣を叩き込む。
「貴様!どこまで下劣な真似を!」
今日一番の金属音が鳴り響く。
これだけの隙でさえ、サトリの一撃はヒュンケルに通用しなかった。
剣を横にし、刃に手を当てヒュンケルはサトリの一撃に耐えたのだ。
しかしそれもサトリは予想していた。
一番の目的はヒュンケルに腰が引けたまま両手を使わせること。
サトリは空中で剣を止められると同時にダマスクスソードを片手に持ち替え、空いた片方の手で今まで相手に見せなかった死角――背中からもう一つの支給品を取り出した。
そのまま着地と同時に、相手に向かい再度跳躍する。
「――むっ!」
「俺の剣は二度“破壊”の風をおこす」
すれ違いざまに、相手の無防備な横腹を切り裂いた。
しかし悲しいかな支給品はナイフであった。
呪文以外で初めて仇に痛手を負わせる事に成功はしたが、疵はそう深くはなかった。
「俺は親友を殺した貴様を許さないっ!更に強くなり、良い武器も手に入れたらもう一度貴様の前に現れてやる!」
そう言い捨てながら、そのままヒュンケルの後方へとサトリは走り去っていった。
「俺もまだまだ甘いという事か……」
ヒュンケルは逃げるサトリを追おうとしたが、脇腹の痛みからサトリの背を見送くるしかなかった。

【E-6 森林/一日目/黎明】

【サマルトリアの王子(サトリ)@ドラゴンクエストⅡ 】
【状態】疲労(中)、MP消費大
【装備】ダマスクスソード@テイルズオブファンタジア、チキンナイフ(逃げた回数二回)@FFV
【道具】支給品
【思考】基本:ローレシアの王子(ロラン)の敵を討つ。
1:他の参加者はどうでもいいが、ヒュンケルだけは許さない。
2:戦いはできるだけ避けるか適当にあしらう。どうしてもという時だけ戦う。

【ヒュンケル@DRAGON QUEST-ダイの大冒険-】
【状態】傷(小)、体力消費(中)、脇腹に裂傷。
【装備】覇者の剣@DRAGON QUEST-ダイの大冒険-
【道具】支給品
【思考】基本:優勝する。
1:優勝する。
2:できるだけ女は手にかけたくない。
3:自分の未熟さを痛感。


【F-6 山脈/一日目/黎明】

【龍咲 海@魔法騎士レイアース】
【状態】疲労(大) 魔力消費(大)
【装備】無し
【道具】支給品 ランダムアイテム
【思考】基本:光と風を捜す。
1:また一人になっちゃった。
2:身を守る剣が欲しい。




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最終更新:2010年10月28日 22:27