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開幕 ◆e3C3OJA4Lw


「これから殺し合いをしてもらう」


のしかかるような澱んだ暗闇の向こうから、厳かとも言える声が聞こえてきた。
その言葉に反応する者はいない。何も誰も発言の内容が理解できなかったというわけではない。
まとわりつく闇を物ともせず、人々の魂にまで届きそうな霊的な声に、言葉以上の説得力を感じてしまったのだ。
これは逃れ得ぬ運命なのだ、と。


だが、暗闇の中にいて、その言説を聞いていたのは、単なる有象無象ではない。
そのいずれもが英雄と呼ぶに相応しい傑物たちなのである。
運命だからといって、ただ屈従や隷属を選ぶわけではない。
皆が皆、その運命を切り開くため、その瞳に太陽ような輝きを灯した。
そして暗闇に慣れたのだろう、その中にいた一人の少年が、暗黒の向こうに座って先程の言辞を弄した存在に気がついた。



「大魔王バーン!」



その雷声のような叫びを聞いて、バーンと呼ばれた老人は、僅かに口角を吊り上げた。



「竜の騎士か……久しいな……」


「バーン、お前は一体何を企んでいる!?」



ダイという少年の中には怒りがあった。
多くの人に殺し合いを命じ、強要させる。
当然、人々を守り抜くために勇者となった少年の心に、そんな事実など許容できるはずもない。
だけど、ダイにはその怒り以上に疑問があった。
いつの間にかここに連れ去ったことからして、いつでも自分を殺すことなどできたはずだ。
それなのにわざわざそんなチャンスをふいにして、妙な企てを披露している。
不思議に思わないわけがなかった。



「ふむ、何故……か。確かにその問いは皆に答えてやる必要があるだろうな。
では、聞かせよう。この殺し合いの目的。
それは魔界随一の名工、ロン・ベルクが鍛えし、究極にして、至高の剣の担い手を決めるためだ」



「ロン・ベルクさんの? そんなことのために……!?」



バーンの答えに我慢がならなかったのか、今までかろうじて抑えていた怒気が、
ついに竜闘気となってダイの身体を包み込む。
そしてその全てを右拳に集め、いざ攻撃しようとしたところで、それは突如として中止させられることになった。
見てみれば、ダイの前には金髪碧眼の一人の少女が立っていたのだ。
少女といえど、剣の担い手の候補として、この場に呼ばれた者。
その身からは獅子のような猛々しさと、洗練されたような高貴さを発していた。
そしてその少女――セイバーは後ろで戸惑いの表情を浮かべているダイを尻目に
獅子の如き覇気でバーンをねめつけてきたのだ。



「バーンと言いましたか。貴方は先程剣の担い手を決めると言いましたが、それでどうするのですか?
その先に何か意味があるのですか? 正直、貴方がしていることは馬鹿げているとしか言いようがありません。
仮にも王の名を冠しておきながら、そのような無様な振る舞いでは、余りに愚鈍というものです」



辛辣な表現であった。
当然そんな言葉を受けては、王たるもの、不敬としてそれ相応の処置を下すだろう。
しかし大魔王バーンは、ただ愉快そう口から笑い声を漏らすだけであった。
そしてその愉悦を十分に堪能すると、改めてバーンはセイバーに向き直した。



「ふむ、セイバーの言うことはもっともだ。だが余とて、それだけで終わりにすることはない」


「それではどうするというのです?」


「その剣の担い手と共に余は天界に打って出る」


「天界?」


予想だにしなかった答えに、セイバーは驚きと疑問の声を上げる。



「そう、天界……神々の住まう世界だ。
そちらは友人、恋人、家族、国家……対象は何でもいい、何か大切なモノを不条理に失ったことはないか?
自らが憧れ、恋した太陽が、理不尽に奪われたことが、そちらにはないか?」



バーンは滔々と話を続けながら、自分の手を中空に上げ、何を掴むような動きをした。
その様子をいぶかしみながらも、セイバーは訊ねる。



「……一体何が言いたいのですか、バーン?」


「簡単なことだ。余はそれを全て無くそうと思っている」


「そんな事が可能とでも?」


「余ならできる」バーンは確信と共に言い切った。
「そもそも疑問に思わないのか、余がそちらをどうやってここに招いたのかを?」


「それは……」


「余はここにいる者たちを集めるために次元を渡るある秘法を用いた。
だが、それは家の裏の窓から、コッソリ侵入しようというものではない。
正面の玄関を盛大に叩き壊し、音を上げて踏み入るというものだ。
そちらはそのような形で自分の家に侵入してきた者に対してどうする?
しかも家中の人間をさらおうというのだ。
当然、話し合いだけで済むはずがあるまい。
しかし、そちらの世界を管理する神々は余を無視し、そちらを連れ去ることも黙認した。
そんな愚昧な神々どもに、そちらは世界の管理を任せられるか?」




確かにセイバーには「世界」との繋がりを感じられなかった。
セイバーは自らの国を救うために、「世界」と契約して、英霊として召し上げられることになった。
しかし、自分の悲願とは無縁の場所に連れて来られて、「世界」が何もしないようでは、それこそ裏切りに近いものを感じてしまう。
セイバーはその事に思い至り、自然と顔を歪めた。
その後ろにいたダイもセイバーの様子に、先程以上に戸惑いを大きくして、言葉が出ない。
そしてそんな二人を不甲斐無く思ったのだろうか、もう一人の勇者が暗闇の中から立ち上がることとなった。



「お前の言う事など信じられるか、大魔王バーン!」


北の勇者を謳われるノヴァであった。


「……誰だ?」


しかし、バーンの返答はノヴァの予想を超えて、酷薄なものであった。


「だ、誰だと!? お前がここに僕を呼んだんだろうが! 僕は北の勇者ノヴァだ!」


「ふむ……ミストバーンの仕業か。だが……まあ、良かろう」


「ミストバーンだと? 一体何を言っている?」



ノヴァは盛んに疑問の声を上げるが、バーンは一切取り合わず、顔はおろか、目すらも彼には向けない。
その扱いに情けなさと怒りが同時にノヴァの心を支配した。
だが、とノヴァは続けざまに思った。
顔も目も自分には向けていない。それつまり隙だらけというわけなのだ。
ノヴァは自らの剣を手に取り、最大の技ノーザングランブレードを放つことにした。
バーンはノヴァの高まる闘気に気がつきはしたが、依然と注意を払うことはない。
それどころか、他の人間に向かって話しかける始末であった。




「セイバー、竜の騎士、そして他の参加者たちよ。色々と戸惑ってしまうのは仕方のないことかもしれん。
しかし、そちらには他に選択肢がないというのも、また事実なのだ」



パチンッ、とバーンの指が鳴り響く。
そして次の瞬間、ノヴァは全身から血を噴き出して、床に倒れた。



「ノヴァ!」



ダイが急いでノヴァの元に駆け寄るが、それで事態が変わる事はない。
ダイの目の前にノヴァの死という事実が否応なしに突きつけられた。



「バーン! よくもノヴァをっ!」



再びダイの身体を竜闘気が包み込む。
その質、量、共に先程と比べても段違い。
その神々しいまでのオーラの輝きは、暗闇を隙間なく照らし出す。
しかしそれを目にしても、バーンは焦ることなく弁を続けていった。



「そう急くな、竜の騎士ダイよ。そちを含め、ここにいる参加者たちには、先程死んだ…………何とかという人間と同じ禁呪が施されいる」


「禁呪?」


その不穏当な言葉にダイは思わずたたらを踏んでしまう。



「己が首元を見てみるがいい。そこには余がそちらに禁呪を施した証がある。
それは余の意志一つで、そちらの魂を食い破り、死へと誘うもの。結果は先に見たとおりだ」



自らの命が相手の手の上にある。バーンの前にいる全員が、不快感を示し、バーンを殺さんばかりの勢いで睨みつけた。
しかし、対するバーンはそれ涼風のように心地よく受け流し、更なる説明を加えていく。



「そちらには一日分の食料、一枚の地図、そして一振りの剣を渡そう。
戦いの場は、こちらで用意させてもらった。死に花を咲かせるには、相応しい舞台だろう。
また六時間ごとに死者の名前と禁止エリアを発表させてもらう。
禁止エリアに入った者には、そちらに首にある禁呪が発動する仕掛けとなっている。
その事はゆめゆめ忘れるな」



自分の言葉が全員に行き渡ったのを確認すると、バーンはいつの間にか手に取った血のような赤いグラスワインを口に含んだ。
そしてそれを思う存分嚥下すると、その紅く濡れた唇を、再び大きく開いた。



「これより剣士によるバトルロワイアルを開始する」







【ノヴァ@ダイの大冒険 死亡】


【主催者 大魔王バーン@ダイの大冒険】