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 幻想を否定する者は、幻造によって殺せ。
 幻想を抱く者は、幻造によって沈め。
 幻想を嘲う者は、幻造によって復讐された。[幻造テレビ局社訓より]。





幻想世界(ファンタジィ)があった。

幻在世界(ファンタジィ)があった。

幻像世界(ファンタジィ)があった。

それは宇宙の合間を照らす無数の物語。
......
唯一無限の夢幻の果て。

その幻想は誰にも触れられず、粛々とエンディングに向かう。

筋書きのまま、たっぷりの情愛とほんの少しの皮肉を込めて。

だが―――今また、その原則が破られる。

幻想に。触れえぬユメに、今、"幻造"が触れた。







『おめでとうございます。抽選に当たりました!』

時空―――次元―――界層―――星間。

あらゆる頸城を超えて、120人の脳裏に、その声は届いた。
ある者は戦いの中で、ある者は日常の中で。
ある者は失意の中で、ある者は克己の中で。
それぞれが、その声に耳を傾けた。
歓喜し、混乱し、訝い、恐怖し、関心を持たず、意味を理解せず。
反応に関わらず、決断せよ、と迫られる。

それは殺し合い。
生き残った者のあらゆる望みを叶える宴。
詳細は"スタジオ"で。
参加は任意ですが、途中脱退は認められません。

戯言だ。
ある者は完全に無視し、ある者は彼の敵の仕業か、と周囲を見渡す。
だが―――感じる者は、その言葉が絶対の真実だと看破していた。
また―――心ある者は、その言葉を許せない、と直感していた。

 .........
『参加しますか?』

「是! 是! 是! 是!」

「否! 否! 否! 否!」

二つの返信が唱和する。

声をかけられた120名のうち52名が誘いに応じ、68名は自分の幻想から出る事を拒んだ。
これから語られるのは、前者の物語だ。
血で血を洗う、剣と魔剣の物語だ。
いや……物語とは呼べないだろう。
この幻想に筋書きはなく、この幻想に結末はない。
故にこれは、現実(ファンタジィ)だった。

さあ、篤と御覧ぜよ。

人間(ヒト)の手垢に塗れた、神と神話の成れの果てを。




                     ファンタジー剣士・バトルロワイアル


                            開    演            










ざわざわと、広間が喧騒に包まれていた。
そこには、謎の声を聞き、その勧誘に応じた者達がいた。
周囲の人間の様子を窺う者、会話を試みる者。
殺し合いという物騒な誘いに乗っておきながら、
その場で争いを始めないのは、謎の声が脳裏から消える直前に残した言葉を斟酌しての事。

『そうそう、"収録"が始まるまで、大人しくしていてくださいね?』

収録とは、何を意味するのか?
それを理解できる者はそう多くなかったが、
とりあえず揉め事を起こさなければいいのだろうと、大抵の者は静観を決め込んでいる。
中にはこの宴の存在を許せず、叩き潰そうと思って足を運んでいた者もいた。
そういった者たちは同類を探し、慎ましながらも一団を結成している。
中には大真面目にこの宴に参加し、必ず勝ち残って望みを能わんと意気込む者もいた。
そういった者たちは抜け目なく集団に目を見張らせ、標的と強敵を吟味していた。
中には半ば寝ぼけ眼で辺りを見渡す者がいた。
そういった者たちは正常な精神状態でない時に『誘い』をかけられ、よく分からないまま同意してしまったようだ。

『剣士剣女の皆さん。この度はご参加ありがとうございます』

突如、広間の高台から声が響く。
その声の主は、なんとも不思議な人物だった。
性別も年齢も人種も、その他一切がはっきりとしない、幻のような存在であるとも言えた。
その唯一の特徴が、顔と思しき位置に装着しているピエロの仮面(ファニーマスク)。
集められた者の誰かは、そのピエロの声が自分の脳裏に響いたあの声とは違うと気付いたかもしれない。

『私、幻造"道化"と申します。此度の司会を務めさせていただきますので、以後お見知りおきを』

道化は、早速殺し合いのルールの解説を始めた。
その解説は極めて冗長で分かりづらく、参加者と称された者達の幾名かは眉根をしかめ、足を踏み鳴らした。

『おや、これは失礼。もったいぶった喋りは、道化の職業病でして。では、質問に答える形としましょう』




「望みを叶える―――というのは、具体的にはどういうことだ」

着流しの、退屈そうな目をした男が問い掛ける。
道化は、いきなりそこか!というような仕草でおどけ、もったいぶって返答した。

『それは、言葉の通りですよ。あなた方が願ってやまない、でも成し遂げるのが困難であったりする望み。
 それを叶えるのを、お手伝いするという事です。上からポン、と結果を与えるということではないので、
 そこは誤解のないようお願いしますよ? 優勝者に関しては、いかなる望みをも実現するよう、
 我々幻造テレビ局が全力にして全手段を用いて、必ずや成就の道を敷くと約束しましょう』
 ............
「優勝者に関しては?」

注意して聞くのも億劫な、芝居がかった道化の言葉の一端を、抜け目なく捕まえる女がいた。
契約に関して自分に不利益な物があることを許さない、というような厳しい口調であった。

『ああ、それについては……。我々はね、一人も殺さずに最後の一人になった者を許容しません。
 今のところは、そんな前例はありませんが……もし今回、そんな者が出た場合は、どうするかわかりますよね?
 まあ……逆に言えば、自分以外の最後の一人だけを殺せば条件は満たせるということですけど』

あらゆる望みを叶えられる力を持つということは、あらゆる希望を断てるということだ。
参加者の大半はそれを理解し、心に刻み込む。

『つまりですね、我々には結果より過程を大事にしたい、という気持ちが少なからずあるわけですよ。
 だってそうでしょう? 頑張った人に、ご褒美がないなんておかしいじゃないですか。
 この中に剣士でありながら、口先で皆を躍らせて旨い汁を吸おうなんて考える人がいないとは限りませんしね』

「生き残るのが一人なのに、結果より過程もなかろう。それともなにか、大勢殺せば叶う願いが増えるのかね?」

皮肉げな笑みを浮かべた壮年の男が問いに、道化はビシィ! と指を立てて答える。

「そう! いえ、一人の叶えられる望みは一つですが。その一つの望みは、我々が完全に把握しています。
 心変わりがあっても、問題なく対応できますしね……個が渇望する望みは、何故か一つに固まるのが道理でして。
 私が言っているご褒美というのは、途中で脱落してしまった人にも、殺した人数によってその望みを叶える権利が
 与えられる、という話でして。一人で五分の一、五人で十全に。だから、ふるって活躍ください」



広間にざわめきが走る。最後の一人にならずとも願いを叶えられるというなら、
争いの中で取るべき方針は大きく変わってくると、皆気付いているのだ。

『―――とはいえ、そう上手い話ばかりではありません。
 自分が死んでしまっては叶えても意味がない類の望みの方も多いですし。
 更に御自身が亡くなられたのでは、例えば一人しか殺せずにリタイアしてしまった場合、
 叶える望みの五分の一の部分は、我々が独断で決めざるを得ません。
 そういった場合、皆さんにとって逆に望ましくない結果に終わる場合も多くて……ね』

参加者達の興奮が鎮まる。
そうだ――――うかつに踊らされるだけでは、目の前で踊るピエロ以上の道化になりかねない。


 死者蘇生(ファンタジィ)!
 故郷に錦を(ファンタジィ)!
 運命改変(ファンタジィ)!
 世界編纂(ファンタジィ)!
 超絶超力(ファンタジィ)!

 叶う望みは正に何でもありのデタラメ三昧!
 ―――ただし、八百長を避けるために、今回の番組で死んだ方の蘇生だけは禁止させていただきます』

その言葉に、ついに先だって集団を形成していた、『止める為に来た者達』が動いた。
先頭に立っていた、額に宝石付きの頭輪を付けた少年が叫ぶ。

「ふざけるな! お前達のような連中の思い通りにはさせないぞ!」

『自分から来ておいてなんですかその態度は? 皆納得してこの場にいるんですよ?』

「黙れ! たとえそうだとしても何故殺し合いなんてさせる?
 本当に願いを叶えるのが目的だというなら、今すぐ皆の願いを叶えて見せろ!」

少年の剣幕に気圧され、道化は一瞬助けを求めるように天井を仰ぐが、すぐに気を取り直した。
おどけた調子で、今にも飛び掛ってきそうな少年に返答する。

『ギブアンドテイクですよ』

「……なんだって!?」

『皆さんは殺し合いをして、生き残り、望みを叶える。
 私ども幻造テレビ局は、その様子を四苦八苦しながら撮影させて頂いて、しかるべき方々の下に配信。
 まあ子供に生々しい話をするのもアレなので詳細は省きますが……娯楽という名の利益を頂くわけです。
 望みを何でも叶えられる、といっても娯楽だけはなかなか得難いものなのですよ。
 我々にとっても、視聴者の方々にとっても、ねぇ』



「娯楽だと!? 遊びで殺し合いなんて……させないぞ!」

「待ちたまえ、ダイ君。ここは私に任せてもらおう」

「ロトさん!?」

憤り、道化に斬りかかろうとした少年を止めたのは、鎧兜に身を包んだ男だった。
恐らくは、この空間で最も勇者然とした、いや勇者という他ない超級の英雄、勇者ロト。
あらゆる邪悪を滅ぼす力と使命を背負う彼は、手馴れた風で腰の剣―――ロトの剣を抜く。
参加者達が息を呑んだ。その剣は、正に神秘。あらゆる剣の頂点に立つであろう風格を感じさせたからだ。
存在するだけで星間宇宙に遍く万物を引き裂き、完全に支配化に置くオーラ。それに勇者ロト自身のオーラが加わり、
もはや参加者も道化も、彼から目を離すことは一瞬たりともできなかった。
少年……勇者ダイも、同じ勇者としてロトの放つ清澄な闘気に圧倒され、
たった今出会ったばかりの男に対し、師父へのそれにも近い畏敬の念を抱いていた。

「ロトさん……わかりました、お任せします」

「ありがとう」

口早にダイへ謝辞を述べ、ロトは走るでもなく道化に歩み寄る。
道化は一歩も動けない。このままでは斬られる、と直感していながら、それもいいかと諦めが先行する。
それほどに、勇者ロトの"悪滅"への動きは洗練されていた。

「私の望みは故郷へ帰ることだ。だが、その望みを叶える必要はない。名前と共に、私は多くを捨てたが。
 帰るまでもなく、私はあの美しい町を守ると決めた―――世界全てを、守ると決めたのだから」






神剣一閃。20m程の間合いから勇者ロトが道化を殺すまでにかかる時間は、3秒を切るだろう。

『あわ……あわわ……』

ようやく恐怖を感じた道化が逃げようとした時には、ロトは彼の目の前に立っていた。

「―――――― 」

目の前に立って、死んでいた。

「な―――?」

ダイが目を疑う。
彼にとってもロトにとっても、まったく意識していなかった側面。
勇者ロトは、背後から無数の剣と魔法に撃たれ、その命脈を止めていた。

『なんということだ……』

道化が、慄いたように後ずさる。

『始まる前から、死人が出てしまうとは! 私はとても悲しい! なんて残忍で抜け目がない人たちだろう!』

そう。勇者ロトは、他の参加者の一群が放った攻撃によって、その命を奪われていた。
彼らは――――「余計な事をするな」と言わんばかりに、何の後悔もない様子で、勇者の命を奪ったのだ。

「こいつの分は、カウントに入るのか?」

まったく動じずに、剣を投げ放った男の一人が問い掛ける。

『馬鹿な―――貴重な参加者を、収録が撮影する前に失ってしまったのですぞ!そんなサービスは出来ません!』

「チッ……無駄手間か。それはそうと、ルールの説明を続けろ。支給される道具の続きからでいい」

別の狼藉者が舌打ちし、何事もなかったような口調で、道化に続きを促した。

『……特別な支給品は、一振りの刀剣と、ランダムに入っているアーティフィクトです。
 皆さんが元々持っている武器は没収させていただきますが……よろしいですね?』

返事を聞くまでもなく、参加者達の武具が消失し、道化の後ろに山と積まれる。
その一部は更にそこから消え、天井に転移していく。
参加者達が天を仰ぐと、猛烈な勢いで刀剣が自分達の足元に突き刺さった。



『今、目の前にあるのが、あなたたちへの支給武器です。自分の獲物が欲しい人は、
 他の人に支給されている事を祈るほかありません……それと、さきほどロト氏の命を奪ったような、
 強力な魔法の一部は、殺し合いの舞台に設置された結界で禁止、あるいは制限されています』

「剣だけで戦えということですか?」

『だけとはいいません。でも、企画の趣旨に合わないので、剣以外での戦闘はご遠慮願いたいですな。
 あと、6時間に一度行われる、死んだ方々の名前を呼ぶ放送の際に、禁止エリアというものを発表します。
 そこはより強力な結界によって封鎖され、入ることも出ることも出来なくなりますのでお気をつけ下さい。
 その中に入っていた場合、即リタイアとなり、餓死するまで放置することになりますので、重ね重ね……』

「行動を制限するなら、首輪に爆弾でも詰めて全員に付けたほうが早いんじゃないのか」

『そんなサイズに仕込める爆薬の量では死なない人がいますので』

「おい、生きるか死ぬかのやり取りの時に、カメラなんぞ意識できるか。そっちで勝手に編集なりすればいい」

「あのー僕、あんまり何が起こってるか分からないんですけど」

俄かに質問ムードになりかけた広間に、突如鐘の音が響く。
道化は慌てて手を振り、「では、開始しますよ!」と言って、数歩下がる。

参加者達が身構える中で、ダイを中心とする『止める為に来た者達』の表情は暗い。
主柱となりうる仲間を失い、更に凶悪な参加者達の本性を目の当たりにしたのだ、無理もない。
なんと道化はそんなダイ達を気遣うように、優しい言葉をかけた。

『大丈夫ですよ、貴方たちのような人たちが徒党を組み、我々を打ち倒した前例も300ほどありましたし。
 そういうのでも視聴率(すうじ)は取れますし、思う様行動してください。毎回それだと困るんですがね……』

ダイはその言葉をなんともなしに聞きながら、先ほどロトに不意討ちを仕掛けた者達の視線を感じていた。
―――獲物だ。望みを叶えるために、切実な思いで参加した狂犬たちが、自分達を獲物として見ているのだ。
その圧力を感じ、徐々に肉体が透けてどこかへ飛ばされる感覚に耐えながら……ダイは、道化に問う。

「前例があるって……これは一体、何回目なんだ?」

道化は、ダイにではなく、参加者全員に高らかに返答する。
その言葉は、様々な感情を彼らに与え―――彼らがこの広間で聞いた、最後の台詞となった。


『それでは! 第1302回、幻造(ファンタジー)・バトル・ロワイアル―――剣士編! 開始します!』









「では、撮影に向かいます」

幻造"黒服"と呼ばれる、裏方や雑用・撮影をこなす十数名のスタッフが、
広間に一人残った道化に報告に来た。
道化は、勇者ロトの死体の目を塞いでいたのを気付かれないように慌てて飛び上がり、
殺し合いの舞台に向かう許可を出した。

「その男は……参加者ですか? 珍しいですね、開始前に死人が出るとは」

『ああ。まったく、彼にはかなり期待していたのだが……恒例通りランダムで選んだにしては、
 今回はなかなかいい面子だと思うしね。残念だ。残り52名の撮影――しっかり頼むぞ』

「はい……ん? 召喚に応じたのは、彼を含めて52人でしょう? 残りは51名では?」
           ..........
『――――いや、残りは52名だよ』

「……」

『上も、色々新しい事を試してみたいらしくてね』

「わかりました。それでは」

黒服達が消える。
道化はロトの死体の側に落ちた剣を拾い、その最上級の剣を眺める。

『……剣、か。』

一瞬、道化の仮面が歪んだ。それは、仮面の中の本当の素顔が―――そんなものがあればだが―――、
歪んだように、錯覚しうる挙動だった。やがてそれも収まり、道化は広間を去る。
遺されたのは、ロトの死体と、粉々に砕かれたロトの剣のみ。

これにて、この場所からカメラは離れる。
これから映されるのは、神秘の澱、奇跡の穢、伝説の崩壊する場所。
演じるアクターは52名。

夢を追い、いかなる手段を用いてもそれを叶えると決めた"宿願者"たちが在った。
復讐を誓い、どこまで堕ちても怨讐を晴らさんとする"狂憎者"たちが在った。
ただ巻き込まれただけでありながら、生きる意志は最も強い"平常者"たちが在った。
力と敵だけを求め、戦場に意気揚々と向かう"兵錬者"たちが在った。
巨大な悪に立ち向かう、正義と希望を信仰する"勇者"たち。が在った。
そして――――――――――――"――――"。


放送日は、未だ定まらず。

撮影だけが、幕を開けた。


【勇者ロト@ドラゴンクエストⅢ 死亡確認】
【残り 52名】


【主催者:幻造テレビ局@詳細不明】
【司会進行:幻造"道化"@詳細不明】
【裏方・撮影:幻造"黒服"@詳細不明】