「責任の所在が気になっています。そもそも権益の定義ってどんなものでしょうか?油田はリース契約されているとのことですが、結局誰が持ち主なのでしょう?」

「責任の所在が気になっています。そもそも権益の定義ってどんなものでしょうか?油田はリース契約されているとのことですが、結局誰が持ち主なのでしょう?」(6.26 投資家Bさんからの質問)

 さて、ご質問に対しては、当wikiの責任の所在はチラ見したという前提でお答えいたします。
 まず、「油田の権益とは。油田とは誰のものか」について、少しお話します。

 油田は誰のものか?国によって色々と契約は違いますが、ほぼ例外なく、「油田は産油国の物」です。石油会社は何をしているかというと、その油田を開発して、油を売る権利を「借りている(リースしている)」というのがよくあるパターンです。貸してもらった代わりに支払うものは、例えば税金であったり、例えばロイヤリティであったりします。国策企業にある程度のパーセンテージを渡すことを求められる場合もあります。国によって違いますし、アメリカでは州によっても微妙に違うようですが、米国では一般にこのロイヤリティは12.5%だそうです。
 私はアメリカの鉱業法を原文で読んだ事はありませんが、おそらく生産した油それ自体の権利は、カンパニー(今回でいうBPやアナダルコ、三井)に属していると思います。


 国によっては、油の権利さえも産油国の物で、カンパニーは油の売り上げから分け前を得る、というパターンもあります。Production Sharing契約(PS契約)と言います。この場合、大抵は上記のリース契約よりも、更に産油国有利な契約内容になっている事が多いですね。


 何れにせよ、油田そのものの持ち主は産油国です。ですから、中東や南アメリカ、それにアフリカなどでは、政権がクーデター等で変わった場合には「前の契約は、なしとする」と突然宣言され、二束三文の保証金と共に追い出される可能性もあります。カントリーリスクというものです。

 さて、上記の説明で、「権益とは何か」についても見えてきます。権益とは、辞書で引けばその通り、「権利と利益」ですが、裏返せば「責任とコスト」です。油田の権益とは「油田開発を行い、利益を得る権利。但しそのパーセンテージに応じて、コストを支払い、有事に於いては責任を負う」という事です。


 それを踏まえて、今回の事故に於ける責任の所在について再考しましょう。

 まず、BPの責任は極めて大きいです。言うまでもなく責任の大部分は彼等にあります。結果責任も原因も、彼らにあると言ってもいいでしょう。

 次にパートナー(co-operator)のアナダルコと三井ですが、彼らの責任が追及される事は避けられません。実務的には彼らが事故を防ぐ事はほぼ不可能であったとは思いますが、それでもco-operatorにはフォロワーとしてオペレーターであるBPの計画と実施状況を監視監督する事が求められると、鉱業法なりで記載されている「はず」です。彼らが免責されるには、BPのGross Negligence(重過失)と、それに彼らが関与する余地が無かったことを証明する必要があります。しかし、私見ではありますが、証明出来たとしても、完全免責は結果責任の観点から見て難しいと思います。

 その他のコントラクター(トランスオーシャンやハリバートン)に関しては、責任の所在でモルガンスタンレーのレポートを引用して以降、大きな更新はありません。強いて言えば、ハリバートンがBPに提出した計画書には明確に「全ての責任はユーザー(BP)に属す」と明記されていた事、ハリバートンのエンジニアはBPにより安全な方法で作業する事を提案していますので、彼らの責任はより限定的になるかと思います。

(結果的に事故になったなら、ハリバートンにも責任があるじゃないか!というご指摘もあるかと思いますが、このような「現場」に於いては意思決定を誰が行うかは明確にしておく事が原則です。この原則を崩すことは、一作業員が「自分はこう思ったから」という判断で、上位意思決定者の許可無く勝手な変更をしうる事になり、極めて危険なことになり得ます)

 時折、リグの建造に関った現代重工業の名前をウェブ上では見かけますが、正直申し上げてどうして今回の暴噴でリグの建造業者の名前が責任者の項目に上がるのか、よくわかりません。事故原因への関りという事で責任者として挙げられるのであらば、今回の作業に使われた全ての工具、材料、パーツの納入業者全員も同様に挙げられてしかるべきでしょう。情報を持たない「被害者」がBP等のほか企業とまとめて、とにかく何もわからないなりに訴えたケース以外では、名前も出ていません。

 さて、後はアメリカ政府の、または内務省の担当機関MMSの責任についてですが、正直言って今回は事故を起こしたのが、「たまたま」賠償能力のあるBPでしたが、そうでなければ大部分のコストは、アメリカ政府が払う事になっていたでしょう(またはパートナーの三井やアナダルコが)。私には、油濁法での損害賠償の上限を7500万ドルと定めておきながら、BPに200億ドルのエスクロー勘定の成立を求める事をアメリカ政府がどう正当化するのか、よくわかりません。もしもMMSやアメリカ政府はこの事故を一切止められなかったとして責任をBPに押し付けるならば、その場合は同程度の情報を持っていたに過ぎなかったアナダルコや三井も、同じように責任から逃れると見るべきではないかと思います。しかし一方、ルイジアナ州の財務長官は三井とアナダルコにも基金への拠出を求める趣旨の発言をしています。

 以上の説明から、Wiki作成者がアメリカ政府側について微妙な気持ちを持っていることをご理解いただければ幸いです。
最終更新:2010年06月28日 20:18
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