そこはどこまでも薄暗く、凍てつくほど寒く、そして狭い素掘りの坑道の様な場所であった。
ラティアスは元の姿の状態で必死にそんな場所を飛んでいる。
何故そんな所を飛んでいるのか?
その理由は後ろからおぞましい空気を内包しつつ迫って来た。
その正体は、自分を捕まえようとする携帯獣狩りを専門にする連中だ。
捕獲網発射装置や麻酔銃を持っている事で容易に分かる。
反抗しようにも今まで追手から逃れる為に使ったためか、肝心の技はもう出す事も出来ない。
次第に体のあちこちが連中によって付けられた傷でずきずきと痛んできた。
それと元から体温が低い事も手伝ってか震えが治まらない。
段々と飛ぶ速度が遅くなり、遂に人間の進む速さと変わらないほどになってしまった。
その時、前に大きな影が現れる。
彼女は知っていた。自分の体に似た影の正体が何なのかを。
ラティアスは元の姿の状態で必死にそんな場所を飛んでいる。
何故そんな所を飛んでいるのか?
その理由は後ろからおぞましい空気を内包しつつ迫って来た。
その正体は、自分を捕まえようとする携帯獣狩りを専門にする連中だ。
捕獲網発射装置や麻酔銃を持っている事で容易に分かる。
反抗しようにも今まで追手から逃れる為に使ったためか、肝心の技はもう出す事も出来ない。
次第に体のあちこちが連中によって付けられた傷でずきずきと痛んできた。
それと元から体温が低い事も手伝ってか震えが治まらない。
段々と飛ぶ速度が遅くなり、遂に人間の進む速さと変わらないほどになってしまった。
その時、前に大きな影が現れる。
彼女は知っていた。自分の体に似た影の正体が何なのかを。
「兄様!」
不意に口を突いて出てくる言葉。そこで彼女はふと首を傾げた。
影の正体は間違い無く、自分達の種族において雄個体であるラティオス。
それは分かる。
問題は何故無意識的に彼の事を兄様等と叫んでしまったのか。
その瞬間ラティアスの体は地面に叩きつけられた。
後ろから追っていた人間連中が捕獲網を発射してきたからだ。
一回では効果が薄いと感じたのだろうか、更に網は2発、3発と立て続けに放たれ、ラティアスの動きを封じていく。
身動きの取れなくなったラティアスは忽ち取り押さえられてしまう。
それでもラティアスは必死に叫んだ。
影の正体は間違い無く、自分達の種族において雄個体であるラティオス。
それは分かる。
問題は何故無意識的に彼の事を兄様等と叫んでしまったのか。
その瞬間ラティアスの体は地面に叩きつけられた。
後ろから追っていた人間連中が捕獲網を発射してきたからだ。
一回では効果が薄いと感じたのだろうか、更に網は2発、3発と立て続けに放たれ、ラティアスの動きを封じていく。
身動きの取れなくなったラティアスは忽ち取り押さえられてしまう。
それでもラティアスは必死に叫んだ。
「兄様!見捨てないでっ!助けてぇっ!!兄様!!」
しかし割れんばかりの声への返事は何も言わずに消えていくラティオスの姿だった。
無慈悲な狩人達の下卑た哄笑がわんわんと響く。
ラティアスは耐えられなくなり再び叫んだ。
無慈悲な狩人達の下卑た哄笑がわんわんと響く。
ラティアスは耐えられなくなり再び叫んだ。
「兄様ーっ!!」
ラティアスははっと目を覚ます。
気づけば全身から滝の様な汗が吹き出し、息もいつもと比べて荒くなっていた。
辺りを落ち着いて見回すと、そこはもう坑道の中ではなく、魔法学院にあるルイズの部屋だった。
時間はとっくに就寝時間を越えており、ルイズもベッドの中で軽い寝息をたてている。
窓からは高く昇った双月の光が射し込み、部屋の中を煌煌と照らし続けている。
低く飛んでみると自分の体がある場所に敷いてある藁はじとっと濡れており、横には明日洗濯する事になっているルイズの服があった。
紛れも無くこれは現実である。
気づけば全身から滝の様な汗が吹き出し、息もいつもと比べて荒くなっていた。
辺りを落ち着いて見回すと、そこはもう坑道の中ではなく、魔法学院にあるルイズの部屋だった。
時間はとっくに就寝時間を越えており、ルイズもベッドの中で軽い寝息をたてている。
窓からは高く昇った双月の光が射し込み、部屋の中を煌煌と照らし続けている。
低く飛んでみると自分の体がある場所に敷いてある藁はじとっと濡れており、横には明日洗濯する事になっているルイズの服があった。
紛れも無くこれは現実である。
「夢……かぁ。」
ラティアスはほっとして胸を撫で下ろす。
それにしても悪質な夢だった。
まるで現実に感じてしまうほどのリアルな空気があったからだが……
そこまで考えてラティアスは夢の内容を再考した。
自分を追う狩人。それは考えられなくも無い。
何しろ元の世界は勿論の事、この世界においても自分の存在はかなり特殊視されているようだから。
では窮地の自分を見捨てたあのラティオスに関してはどうだろうか?
同属でありながら見捨てるなど実際に兄がいたなら兄とも呼びたくなかったが、では何故自分は意識もせずに彼の事を兄様などと呼んだのだろうか?
『こころのしずく』を持った時といい、自分には前の世界で生き別れの兄でもいたのだろうか?
考えても結論は一向に出ない。
ラティアスは短くではあるがそこで考えるのを止めにした。
ご主人様のお世話をするため明日も早いのだ。
夜更かしなんかしていれば体の調子がおかしくなってしまう。
ラティアスは軽く欠伸を一つし、眠りの世界へとまどろんでいった。
それにしても悪質な夢だった。
まるで現実に感じてしまうほどのリアルな空気があったからだが……
そこまで考えてラティアスは夢の内容を再考した。
自分を追う狩人。それは考えられなくも無い。
何しろ元の世界は勿論の事、この世界においても自分の存在はかなり特殊視されているようだから。
では窮地の自分を見捨てたあのラティオスに関してはどうだろうか?
同属でありながら見捨てるなど実際に兄がいたなら兄とも呼びたくなかったが、では何故自分は意識もせずに彼の事を兄様などと呼んだのだろうか?
『こころのしずく』を持った時といい、自分には前の世界で生き別れの兄でもいたのだろうか?
考えても結論は一向に出ない。
ラティアスは短くではあるがそこで考えるのを止めにした。
ご主人様のお世話をするため明日も早いのだ。
夜更かしなんかしていれば体の調子がおかしくなってしまう。
ラティアスは軽く欠伸を一つし、眠りの世界へとまどろんでいった。
翌朝。ルイズにとっていつも通りの朝が始まった。
先ずラティアスに起こしてもらった後、服を着替えさせてもらう。
それから彼女が朝一番に汲んで来た水で顔を洗わせてもらった後、洗濯と部屋の掃除を言いつけてから本塔に向かうのだ。
その前にルイズはラティアスが学院長と何を話していたのか気になったのでその事を訊いてみた。
しかしラティアスからは『学院長から口外するのを禁じられた。』という返事しか来なかった。
それから本塔の食堂で朝食を取った後、最初の授業が行われる教室へ行く。
が、いつもと違う事はその途中で起きた。
通常ルイズから言いつかった仕事が終われば、ラティアスは厨房で給仕の仕事をする事になっている。
それも終わったならラティアスはルイズと一度合流する事になっているが、そのラティアスが何時まで経っても来ないのだ。
次第に閑散としていく食堂の中で不審に思っていたルイズに後ろから声がかかった。
先ずラティアスに起こしてもらった後、服を着替えさせてもらう。
それから彼女が朝一番に汲んで来た水で顔を洗わせてもらった後、洗濯と部屋の掃除を言いつけてから本塔に向かうのだ。
その前にルイズはラティアスが学院長と何を話していたのか気になったのでその事を訊いてみた。
しかしラティアスからは『学院長から口外するのを禁じられた。』という返事しか来なかった。
それから本塔の食堂で朝食を取った後、最初の授業が行われる教室へ行く。
が、いつもと違う事はその途中で起きた。
通常ルイズから言いつかった仕事が終われば、ラティアスは厨房で給仕の仕事をする事になっている。
それも終わったならラティアスはルイズと一度合流する事になっているが、そのラティアスが何時まで経っても来ないのだ。
次第に閑散としていく食堂の中で不審に思っていたルイズに後ろから声がかかった。
「ミス・ヴァリエール!」
聞き覚えのあった声だったので振り向くと、何時ぞやのメイドが自分の元に歩いてきていた。
確か……名前はシエスタって言ったっけ。
確か……名前はシエスタって言ったっけ。
「何か用?」
「ええ。ラティアスさんをお探しですか?」
「そうだけど。それで?」
「ラティアスさんなら、ちょっと前に学院長に相談したい事があるって言って学院長室に向かわれました。」
「えええっ?!」
「ええ。ラティアスさんをお探しですか?」
「そうだけど。それで?」
「ラティアスさんなら、ちょっと前に学院長に相談したい事があるって言って学院長室に向かわれました。」
「えええっ?!」
驚きのあまりルイズは大声を出して立ち上がる。
主人に相談する事もせずに、あの使い魔は何を勝手な事をしているのだろうか。
ルイズは早足で上階にある学院長室へと向かおうとする。
しかしシエスタがそれを引き止めた。
主人に相談する事もせずに、あの使い魔は何を勝手な事をしているのだろうか。
ルイズは早足で上階にある学院長室へと向かおうとする。
しかしシエスタがそれを引き止めた。
「ま、待って下さい、ミス・ヴァリエール!ミス・ヴァリエールは授業に行っていて下さいと一緒に言いつかいました!」
それを聞いてルイズの足が止まる。
という事は学院長と何か大事な話でもあるのだろうか。
今日、最初の授業担当は生徒達に対して厳しい事で有名なミスタ・ギトーである。
授業の方も出席しなくてはいけない事は重々分かってはいたが、使い魔の管理もろくに出来ないメイジと思われるのも癪なので、シエスタから伝えられたラティアスの伝言を無視し、ルイズは学院長室へと向かった。
という事は学院長と何か大事な話でもあるのだろうか。
今日、最初の授業担当は生徒達に対して厳しい事で有名なミスタ・ギトーである。
授業の方も出席しなくてはいけない事は重々分かってはいたが、使い魔の管理もろくに出来ないメイジと思われるのも癪なので、シエスタから伝えられたラティアスの伝言を無視し、ルイズは学院長室へと向かった。
「ふむ。実に興味深い夢じゃな。いや、もしかすると事実じゃったのかもしれんの。して、『こころのしずく』は失われた記憶を呼び戻す物でもあるのかね?」
「いえ、『こころのしずく』にそんな力はありませんし、そんな事が起きるなんて聞いた事もありません。
でも私が知らなかっただけかもしれませんし、仮にそれが本当の事ならもっと多くの事が分かるかもしれません。学院長先生。お願いです。もう一度『こころのしずく』に触らせてください。」
「いえ、『こころのしずく』にそんな力はありませんし、そんな事が起きるなんて聞いた事もありません。
でも私が知らなかっただけかもしれませんし、仮にそれが本当の事ならもっと多くの事が分かるかもしれません。学院長先生。お願いです。もう一度『こころのしずく』に触らせてください。」
学院長室でラティアスは人間形態になり、オスマン氏に頭を下げていた。
人に対して何か物を頼む時にはこうするのが一番だと、ラティアスは学習していたからだ。
目の前にいるオスマン氏は始め興味深そうに聞いていたが、今は口髭を弄りながら難しい顔をしていた。
人に対して何か物を頼む時にはこうするのが一番だと、ラティアスは学習していたからだ。
目の前にいるオスマン氏は始め興味深そうに聞いていたが、今は口髭を弄りながら難しい顔をしていた。
「うーむ。わしとしても協力したいがのう。じゃが、ついこの間盗賊騒ぎがあったばかりじゃから魔法による規制をかなり頑丈にかけてしまったのじゃ。
元々は君の世界の物であり、君の過去の記憶に深く関係しているとはいっても、そうそう簡単には宝物庫から取り出す事は難しいぞい……」
元々は君の世界の物であり、君の過去の記憶に深く関係しているとはいっても、そうそう簡単には宝物庫から取り出す事は難しいぞい……」
フーケの襲撃以来、教師陣の危機管理意識の低さが見事に露呈したので、オスマン氏はその面の強化を最優先する事にした。
宝物庫に関してもそれは例外では無く、『固定化』の魔法だけではなく更に多くの警備用魔法がかけられた為に、開けるのは勿論の事閉めるのにも時間のかかる物となった。
宝物庫に関してもそれは例外では無く、『固定化』の魔法だけではなく更に多くの警備用魔法がかけられた為に、開けるのは勿論の事閉めるのにも時間のかかる物となった。
「学院長の権限でどうにかなりませんか?」
「それはわしも考えておる。君に対し出来る限りの協力はするといった手前、何もせんのは約束を違える事になってしまう。しかし、こればかりはのう……」
「そこを何とか……出来ませんか?」
「それはわしも考えておる。君に対し出来る限りの協力はするといった手前、何もせんのは約束を違える事になってしまう。しかし、こればかりはのう……」
「そこを何とか……出来ませんか?」
ラティアスは必死に食い下がる。
だがオスマン氏はそれきり言葉を切って黙り込んでしまった。
そんな時、コルベールが慌てた様子で学院長室に入ってきた。
だがオスマン氏はそれきり言葉を切って黙り込んでしまった。
そんな時、コルベールが慌てた様子で学院長室に入ってきた。
「どうしたのじゃ、ミスタ・コルベール。ノックぐらいしたらどうかね?」
「学院長!大変ですぞ!」
「またそれか……全ては小事といつも言うておろう……で?今度は一体何がどうしたというのかね?」
「学院長!大変ですぞ!」
「またそれか……全ては小事といつも言うておろう……で?今度は一体何がどうしたというのかね?」
最早お決まりのやり取りである。
コルベールは落ち着くわけでも無く、はたまたノックをしなかった事を詫びるわけでも無く、興奮した状態のまま弾丸の様に話し出した。
コルベールは落ち着くわけでも無く、はたまたノックをしなかった事を詫びるわけでも無く、興奮した状態のまま弾丸の様に話し出した。
「今度ばかりは小事ではありませんよ!こ、この学院に、アンリエッタ姫殿下がおいでになられるんですよ!」
事の次第はこうである。
今は亡きトリステイン王の忘れ形見とも言える王女アンリエッタが、軍事大国でもある隣国ゲルマニアへの訪問の帰途において、魔法学院に行幸するというものだった。
ラティアスは事の規模がどれほど大きいかあまり良く把握できなかったが、兎に角大事であるという事だけは理解した。
学院長はすっと立ち上がりコルベールに忠告する。
今は亡きトリステイン王の忘れ形見とも言える王女アンリエッタが、軍事大国でもある隣国ゲルマニアへの訪問の帰途において、魔法学院に行幸するというものだった。
ラティアスは事の規模がどれほど大きいかあまり良く把握できなかったが、兎に角大事であるという事だけは理解した。
学院長はすっと立ち上がりコルベールに忠告する。
「よろしい。では、至急今から全力を挙げて歓迎式典の準備をしてくれたまえ。本日生徒達が受ける授業は全てとりやめという事にする。
その後全員正装し、殿下を迎える為に門に整列させておくのじゃ。王室に教育成果の一端が垣間見える時でもある。くれぐれも粗相のない様に言っておくのじゃぞ。」
「は、はい!分かりました!」
その後全員正装し、殿下を迎える為に門に整列させておくのじゃ。王室に教育成果の一端が垣間見える時でもある。くれぐれも粗相のない様に言っておくのじゃぞ。」
「は、はい!分かりました!」
そう叫んでコルベールは学院長室から大急ぎで出て行った。
あまりの出来事に呆然としていたラティアスだったが、直ぐにオスマン氏の方に向き直って再び頼み込みをする。
あまりの出来事に呆然としていたラティアスだったが、直ぐにオスマン氏の方に向き直って再び頼み込みをする。
「それで、学院長先生。あの、『こころのしずく』は……」
「ん?ああ、そうじゃったな。その件に関してはともかくこちらも尽力しよう。まあ早くて1週間、いや、三日以内なら何とかできん事も無いかもしれん。
安心してくれたまえ。さあ、御主人が心配しているんじゃろうから、もう行きなさい。」
「……分かりました。」
「ん?ああ、そうじゃったな。その件に関してはともかくこちらも尽力しよう。まあ早くて1週間、いや、三日以内なら何とかできん事も無いかもしれん。
安心してくれたまえ。さあ、御主人が心配しているんじゃろうから、もう行きなさい。」
「……分かりました。」
ラティアスはそう言って、いつかルイズがやったスカートの両端を持って行うお辞儀をしてから退室した。
その様子を見届けた後にオスマン氏は椅子に腰掛け、水煙草を吹かすのであった。
その様子を見届けた後にオスマン氏は椅子に腰掛け、水煙草を吹かすのであった。