2010年度1年生懇親キャンペーン第2話(ナツミ視点)

夜の公園。街灯に照らされる場所で私は一人待っていた。そう、彼が来るのを。
程なく彼はやってきた。いつもどおり狐の仮面をつけている。しかしそれを怪しむことはなかった。それが彼、館林理樹なのだから。
『遅くなってすまない。』
冷静な声。演技しているようには見えない。
本当に味方なのか聞いてみた。(止まらずの舌使用。)
しかし、彼が嘘をついている素ぶりはない。
彼は違うのかしら?もしかしたら、私が早合点してしまったのかもしれない。最近、ローザ様にも連絡していない。
だからと言って、監視の目を緩めるわけにはいかないけど。
それから数日後。私は支部長から呼び出されて支部に行った。
前の日にUGNの研究所が谷島に襲われて無垢なる凶鳥(フリーカムイ)と呼ばれるものが盗まれたらしい。フリーカムイ?悠里に聞いてみたんだけど、彼女もわからないみたい。どうやら、それについて調べるのが任務らしい。そういえば、呼ばれたのは私だけ。私一人だけで任務をするみたいね。ただ、任務をするうえで気になることが一点ある。上層部が隠している情報を調べるのはよくないことではないのかしら?
悠里としては目の前に危険なものがあって欲しくないから調べてほしいようだ。
悠里の気持もわかるし、私自身もその存在に興味があったから調べることにした。
しかし、研究とかそういうものには疎かったのでどう探せばいいかわからない。美亜ならうまく探してくれるんじゃないかな?
とりあえず連絡☆
『もしもし♪』
いつも通り明るい声で美亜は返事した。要件を頼んでみたら、OKしてくれた。美亜とは会う機会がなくてさみしいと思っている。電話越しじゃなくて、直に会いたいなぁ。美亜の方もそう思っているらしく、お互いにそんな話をしていた。
「そうだ、今度学園祭があるんだけど、美亜来ない?」
今度の金・土に学園祭がある。学園祭に向けて神山高校の雰囲気も壁の装飾も活気づいている。私のクラスはハロウィンコスプレ喫茶をやる予定だ。
『うーん・・・。予定があったら考えてみるよ。』
来てくれたら嬉しいなと思いつつ、私は電話を切った。
放課後。
私は教室で雫と話をしていた。零も龍之介君も生徒会でここにはいない。私は彼女に嘘をついていたことを謝っていた。雫ちゃんは優しかったから気にしないでいてくれた。文化祭の話になった。明日から本格的な準備になる。だいぶ楽しみだ。そういえば、ハロウィンコスプレ喫茶は零の希望でなったらしい。龍之介君は演劇をやりたかったみたい。
龍之介君に関してはこの前の戦闘で不安になったところがある。戦闘中だが明らかに力を使いすぎている。力を使いすぎてジャームになるかもしれない。でも、雫に危害が及んでいない現在、彼の出番はない。だからもう心配しなくても大丈夫ぶい☆(龍之介君の言葉を真似てみた。)
そんなことより今夜は雫と零と鍋パーティーだ。具は昨日のうちから買ってきてある。早く夜にならないかなぁ?
『涙摘って、姉とか妹とかいたりする?』
唐突に雫にこんな質問をされてしまった。私は生まれた時から天涯孤独でUGNの施設にいた。親もいなければ兄弟もいない。何故、こんな質問をされたのだろう?
雫の話で思い出したことだけど、最近気になることがある。なぜか子供のころの記憶を思い出すことができない。思い出すことができないというよりは記憶がないと言った方がいいかもしれない。幼稚園とかそんな幼いころのことだけではなく小学校とかもっと大きくなってからの記憶もない。むしろ、中学の時からの記憶しか残っていないと言うべきかな。
この思い出した悩みを雫に話してみた。オーヴァードに覚醒してからたびたび記憶が飛ぶようになったから、涙摘もそうなんじゃないのと言われた。確かにそうかもしれない。でも、私の場合は雫と違って昔の記憶がきれいさっぱり無くなっている。どうしてなのかしら?
下校時間になっても昇降口あたりで話をしていた。ただ、雫は用事があったらしくそこで別れた。私の方としても鍋の下ごしらえをする時間が欲しかった。
私の心の中は鍋パーティーでいっぱいだった。早く白菜が切りたいな♪斬りたいな♪
ごつんっ。
よそ見をしていて目の前の電柱に気付かずに衝突してしまった。勢いがあったため、私の身体は車道へ跳ね返された。
「痛つつ・・・。」
体勢を立て直して起き上がろうとした。だが、あたりから気配を感じる。そう、ワーディングの気配だ。どうやら敵の罠にかかってしまったみたいね。あたりを見回してもハトしかいない。えっ、ハト?
『あなただけが自由なんて不公平ね。」
どこかで聞いたことのある少女の声。どこから声を発しているかわからない。
ハトたちが私を取り囲んで私に襲いかかってきた。瞬間的に香気の濃度を高めてハトを気絶させようとした。だが、数体気絶せずに私に突撃をする!!
「くっ!」
反射的に身を翻して避けた。私の香気で気絶しないなんて・・・。
『涙摘さん!!』
みんなが駆けつけて来た。龍之介君も入っている。
「何で来たのよ!?」
ハト相手に苛立っているのか、私はそんな口調で彼を責めた。
『守るためです。』
「それが足手まといになるってわからないの!?」
それ以上は何も話さなかった。戦闘の無駄になる会話をしたくなかった。・・・えっ?ハト相手にこんなに真面目なのwwwハトといえども相手は空を飛んでいる。攻撃を当てようとしても軽々と避けられてしまう。私もただ当たらないように追い払うのが精いっぱいだった。
数分の格闘の後に残ったものは散らかったハトの羽根と血みどろのハトの死体、汗だくになって立っている私達だった。文明の発達によって人類の肉体は衰えていることをつくづく実感した。隣で生ハト食べてるアシュレイを見ると本当に実感する。
結局、声の主が誰なのかは分からなかった。私は家に帰りたかったが、支部に行くことになった。
『ようこそ、バーボンハウスへ☆★まあ、何もないがまずはテキーラを飲んで落ち着いてほしい。』
目の前の現象に理解できなかった。でも、気が付いたらパフェを頼んでいた。アシュレイは慣れているのかさっきのハトをボキボキ折りながらパフェを大量に頼んでいた。って、それ私のパフェ・・・。
『あら、石崎さん。何をしていらっしゃるの?』
悠里が部屋に入ってきた。途端にバーボンの顔が青ざめて泣き顔になっていた。
『あなたは本当に油断のない方ですね。ちょっと隙を見せるとこうなる。』
そう言って、バーボンをハリセンで叩いた。
パツィィイイン!!
ハリセンのように軽い音。だが、紙で叩いたとは思えないしっかりとした音。そして、スナイパーライフルで撃ったかのような衝撃がバーボンハウスに響き渡った。バーボンはそのまま別室へと連れて行った。
別室で何が起きたかはよく分からないが、悠里の『あなたはいつもこうですね。この前も・・・』という呆れた様子の声とバーボンの『すいませんでした、もうしません!だからせめて減給だけは!!減給だけは!!』という苦痛に満ちた声とそれを途切れさせるように聞こえるハリセンの音だけは聞き取れた。
数分して、何事もなかったかのように悠里とバーボンが現れた。それからは今までに起きていることの再確認だった。
研究所を襲ったのは風弾の射手(アイオロス)と呼ばれるFHエージェントでマスクズセルの構成員だ。最悪なことにこいつは夏常さんの弟だ。
夏常さんは元々FHで研究員をしていたが、自分の研究が悪用されている現実を知って数年前に裏切ってUGNに来た。だが、まだFHには彼の一族がたくさん残っていると言っていた。不幸なことに1年前に裏切ってFHに行った谷島も彼の同僚であり、そのために疑いの目を向けられていた。そして昨日襲ったのは彼の弟だ。肩身の狭い思いをしているに違いない。
『それでも俺は弟を殺さないと駄目なら弟を殺す。』
その決意を籠めた言葉を聞けば少しは疑いが晴れるのではないかなと思う。でも、一度疑うとなかなかその枠を取り外すことはできないよね。
そういえば、無垢なる凶鳥の話は出してこなかった。個人的な依頼だから隠しているのだろうか。
あまり遅くなってしまうと鍋パーティーができなくなってしまうので早めに帰らせてもらうことにした。
その帰り道、美亜から電話があった。無垢なる凶鳥についての情報だ。
それはUGN研究所に隔離されたオーヴァードである。二重人格で、不運なことに片方の性格がジャーム化している。最初はそれを判別する方法を確立するためのサンプルとして扱われていた。ただ、オルクス/キュマイラのその戦闘能力はサンプルにしてはもったいないレベルのものだったので何とかして複製体(デュプリケイト)ができないか、当時はその研究にいた谷島を中心に開発プロジェクトを進めていたが、思う通りに行かなかったみたいだ。
その情報を知って心の中に揺らぎを感じた。さっき、龍之介君が理樹の言葉を聞いてUGNが正しい組織かどうか少し迷った時に「こういう泥臭いことをやっていると正義だとは言い切れないけど、FHがテロ行為など明確な悪を示している以上、UGNは正義でなければいけない。そのための少々の犠牲はしょうがないわ。」と言って彼を説いていた。
でも、こういう現実を聞くとそれが正しいのか迷ってしまう時がある。私にとってUGNは正義の組織だ。生まれた時からいて、ローザ様やその他諸々にUGNはレネゲイド関連の事件を解決するためにある組織だと教えられている。
でも、悩んでもしょうがない。どんなに頑張ってもこういうことはあるんだ。それを無くすように努めるのが私たちの仕事だ。前を向いて歩こう。そう、この道の先には鍋パーティーが待っているんだ♪
「それじゃ学園祭の成功を願って、」
「「「かんぱーいっ☆★」」」
特に遅延することもなく雫と零とコップで乾杯した。当然、中はジュースだ。
「これから準備が忙しくなるけど、頑張ろう♪」
お酒が入っているわけでないのにやけにハイテンションだった。私、こういう状況に、慣れてない?
『そうね。』
と、鍋を挟んだ向こう側で零は静かに頷いた。
零について説明してなかった。
如月零。神山高校生徒会副会長。外見からは静かなイメージしか伝わってこないけど、自由奔放に動き回って楽しんでいる。感情を表に出さないけど、おそらくこの学園祭が始まることを1番に楽しんでいる人物だろう。
「そういえば、衣装決めた?」
ハロウィンコスプレ喫茶なんだから、当然コスプレしなければならない。
「私のは決まっているんだ。」
そう言って、タンスの中を探した。たしか、アレがあったはず・・・。
がさごそ。(購入判定で“世界制服”を購入しようとしたが失敗。)
「こんなのはどうかな?」
私が出したのは転校前(といってもいつだか忘れたけど)の時に着ていた制服だ。アニメっぽくてカワイイと自分では思う。雫達も『カワイイ』とか『似合ってる』とか褒めてくれた。
そういえば、零はどういう衣装を着るのだろう。提案したくらいなのだから相当凄い衣装なのだろう。思い切って零に聞いて見た。
『私の衣装、見たいの?』
いじらしい笑顔を浮かべながら零は聞き返してきた。そういえば、零の座っているところに大きい荷物がある。零は荷物の中身を取り出して、こちらに背を向けて着替えだした。透き通る白い肌がこちらを覗いている。
『どうかな?』
零はジャコウランタンをすっぽり頭に被せてマントを羽織っていた。細身のマント姿であるジャコウランタンがこちらに愛くるしい視線を送ってくる。
「すっごい、超カワイイ!!」
『かわいいし、よくできてるわね。さすが零!』
『そ、そうかな?』
マスク越し、いや、カボチャ越しだから表情がわからないが、褒められて照れているようだ。
「あのさ、雫はどんな衣装を考えているの?」
話はまだ服を見せていない雫の方に向かった。
『私?私はまだ決めていないんだ。』
「ふーん・・・。だったら、水着なんてどう?」
『水着?水着はちょっとやだなぁ。』
「なんで?お肉がついちゃったの?」
そこは寒いから?だろ!!!と誰も突っ込むことは無かった。奥でジャコウランタンがケタケタ笑いながら、
『雫は巨乳なのにむかつくくらい腹の肉がないのよ。』
と囁いた。そんなこと無いよと雫が言うけど、気になってしょうがない。
___数分後。
「えっ、嘘!?超細い!!」
『こんなに細いと、嫉妬しちゃうよね♪』
翌朝。
雫と零は学園祭の準備のために朝早く出て行ってしまった。私はするべきことがあったので、先に行ってもらうことにした。
何の用事?もちろん仕事に関して。もう報告すべきだけど、私の中ではまだ聞かなきゃいけないことがある気がした。だから私はラーメン屋に入った。
「ということで無垢なる凶鳥についてある程度知っていませんか?」
そこで私はある人物と話をしていた。
「うーん。俺も研究所にそんなものがあるなんて知らなかったなぁ。」
その人物、夏常さんは困ったような笑みを浮かべながらラーメンを食べていた。すでに彼の卓には大量のどんぶりが重ねられていた。
「そうですよね。支部長も私も知らなかった情報ですし、もしかしたら知ってるかなと思っただけです。」
あの戦闘以来、夏常さんにはいろいろとお世話になっている。彼のことは疑うまでもなく明白だ。私がローザ様の子飼いで理樹に対して疑いを持っていることも彼には打ち明けている。
「そういえば、夏常さんって谷島と一緒に働いていましたよね。そのときの谷島ってどんな人だったのですか?」
谷島が狙っているものはわかる。だが、彼がなぜ狙うのかはわからない。盗まれた無垢なる凶鳥も元々は彼が研究していたものだ。彼のことについてよく知らない。
「そうだなぁ・・・。
あいつは俺の見る限りではまじめでいい奴だった。今みたいにあんなことをするなんて考えられなかったな。」
「そのときの写真とか持っていませんか?」
私がそう言うと、彼は写真を渡してくれた。数人の白衣を着た青年たちが笑顔で写っている。これだよと夏常さんが指さした人物はその中でも一際美形で爽やかな笑顔だった。
ドクン。
どうしたのだろう。笑顔で写っている彼の顔を見た瞬間に胸が高鳴った。頭の中で何かが引っかかっている。
「ありがとうございます。」
「いや、こちらこそあんまり力になれなくてすまない。」
「弟さんとうまくいけばいいですね。」
「あぁ。あいつもこっちにくればいいのだが。」
弟さんとうまくいけばいい。弟さんは何かの目的があってFHにいるのだと思う。でも、自分の研究が悪いことに使われていることを知れば、そうすれば自分はどうなのか、FHにいていいのか考えてくれるだろう。
学校では学園祭の準備が始まっていた。
「できた!!これ、どうかな?」
私は壁絵を描いていた。絵はそこそこ自信がある。
「うん、いいよ。」
教室の中は慌ただしかった。雫が、零が、竜之介君が、それぞれの作業をやっていた。
中島が倒れていた。
帰り道。私は悠里に報告することを忘れて家路についていた。
そして、公園で立ち止まった。

目の前に、私がいた。

(後半へ続く)
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