▼原点〈Origin〉
それはまだ恒典を名乗っていた頃。
教育係であった希典の縁で、幼き日の迪宮裕仁親王に拝した時の事。
「其方は己の慾を知りなさい。
父とは違う道を、その瞳に見出しなさい」
顔を見るなりの言葉に、恒典は心の臓を握られた思いがした。
生来左目の視力を持たなかったことから、どこか空虚ささえ感じていた砌。
希典の模倣でしかなかった心根を透徹に射貫かれ、生まれて初めての感情を得た。
――理を越えた、畏れ。国を背負う器を秘めた皇族への、崇敬の念である。
以降、恒典はその勅に従い、迪を求め始める。
己だけの道。戦う理由。生きる意味。欠損した心腑を埋める路。
それは――。
▼設定〈Setting〉
児玉・紘佑――本名、乃木・恒典。
乃木大将の末子。兄姉は全て故人。
乃木希典は明治天皇に殉じたため、乃木の親友であった児玉源太郎の家に養子に出された。
幼少の頃に迪宮様の威に触れ、実父や養父とは異なる海軍士官となることを選ぶ。
成績優良であり、在学中に英国への留学経験あり。欧州列強の国力を目の当たりにするも、大いに学んだ。
江田島を次席で卒業後、生来持っていた鬼道とは異なる能を求められてか、西村機関への出向となった。
そして諸々在り、喫茶ふぉぅちゅんへの配属となり現在に至る。
▼外見・性格〈Image & Character〉
黒髪を短く切り揃えた端正な青年だが、生来見えぬ左眼を隠すための革眼帯が僅かに瑕疵となっている。
また、左側髪に金属調に変質してしまっている房があり、髪染めの類かと咎められることもしばしば。
半分しか表情は覗けないものの、溌剌と陽気な態度が目立ち、笑顔が印象的である。
当時においては長身の部類で、江田島の軍学校で鍛え上げた躰は逞しく精気に溢れたもの。
剛健な胸板には、うっすらと繊月型の痣があるが、これも左目同様生来のものであり古傷の類ではない。
家庭、軍学校での教育もあり、模範的な軍人らしく振る舞う。
質実剛健、公正明大、破邪顕正。どれも紘佑を形容するに値する言葉である。
が、その根底は積極的な自己虚無主義者である。
彼の振る舞いの総ては己の「欠けた現実感を埋めるための負荷」であり、人たらんとする努力の結果なのだ。
▼異能〈Baroque〉
恒典には生来、ふたつの人ならざる力が宿っていた。
ひとつは胸――心の上、繊月の痣――が光る時に発現する、離れた物さえ自在に動かす“見えざる手”。
(極稀に、光の中に人馬のような影を見た、という者もいる)
ひとつは瞳――生来見えぬ、左の眼――に時折映る、見知らぬ異界の幻像知覚。
(知らぬ世界の様が見え、聞こえ、触れたようにさえ感じる事もある)
恒典に何故、そのような力があるのかは定かではない。
鬼道や獣憑きとも違う――言うなれば、神通力とも呼べる力。
或る巫覡によれば恒典は「この仔は人ならざる者。鬼を殺す鬼。竜を喰う竜。虚を呑む虚。尋常ならざる尋常であるが故」そうだが、その巫覡はそう告げた晩に怪死しており、その真偽は不明なままである。
(恒典は装置である。世界に害なすものを排するべく生まれた抗体なのだ)
(だが、しかし、世界とは――どの?)
また、英国留学時、日本とは異なる側面からの学術研究で己の力の正体を探れないかと、紘佑は魔術にも触れている。
主に大英博物館遺物管理室に親しく、超自然、超科学的な出土物を媒介にした術式を学んだ。
残念ながらそこまでの才がなかったようで、懐中時計型の遺物を用いた雷の生成程度しか行使はできない。
(厳密には、遺物に宿った意志、精霊、神の威を引き出しているのだ。)
(紘佑が錆繊月を操れるのも、同様の現象かもしれないと西村機関では推測されている)
▼ガーディアン外見〈Guardian Image〉
騎馬と一体化した異国の甲冑騎士、というような風体の半人半馬型。
全身錆色、錆の浮いた未知の金属装甲で、本来の色調は不明。
胸甲部にて薄碧に発光する繊月、同じ輝きを放つ両眼部のみが唯一の色彩。
▼ガーディアン設定〈Guardian Setting〉
大日本帝国海軍技術廠と西村機関が共同で開発した特号歩行戦車試作型。
(通常の二脚型とは異なる四脚型ということで特号であり、その試作型である。実験機であり、発展性未定のため型番は与えられていない)
可動式兵装懸架機構と強襲突撃機構を合一させた馬型下半身は戦場を選ばす、あらゆる状況において迫撃戦を可能とする。
――という情報が各所には公式発表として伝わっているが、これは真実ではない。
錆繊月は技術廠と西村機関の開発によるものではなく、「ある遺跡」より発掘された素体を基本骨子にしている。
いつの年代のものとも知れぬ錆びた装甲――しかし、この機体は生きていた。
瑕を付けられても、代謝するように自己修復を行い、意志持つが如くに頑なに搭乗を拒絶する。
そのため発掘時より幾度も起動実験は繰り返されていたが、長らく誰も成功には至らなかった。
しかし、士官学校在籍中の紘佑が研修で工廠に訪れ触れた際、錆に塗れた機体が俄かに息を吹き返した。
その胸に、紘佑と同じく繊月の光を宿して。
<またその時、コンソールにはこの世界のものとは異なる文字で、LUNA-DESESPERACIONという言葉が浮かび上がった。この機体の、かつての名前であろうか>
以来、紘佑を専属の搭乗士とし、様々な分析・研究を行うべく稼働実験が繰り返されている。
また、機体の霊的な核は紘佑と結合しているようであり、彼の異能を起動鍵に随時召喚が可能となっている。
(その際、金属粒子が帯、幕のように溢れ、一度繭を形成――その中より機神が割り顕れる)
(周囲に存在する金属類を変質させての“存在の再構築”である、と専門家は語る)
主に変質の種となるのは紘佑の愛車であるスワロー社製の四輪車であり、合わせて操縦系統は車両のものが流用される。
機神の操縦自体はひとりで充分に制御可能なものではあるが、紘佑自身が単独での操縦を拒否している。
尋常の兵器に比して強大である力を、「正義」のない己がそれを扱うのはいけない、と自縛しているのだ。
故に、紘佑は同乗者を求める。背負って守るべき、己が持たぬ代わりの「正義」として。
(勿論、個人としての生命保障など、緊急時の自衛の際はその限りではない)
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