>>327読んでくれた方ありがとうございます。 また変態永遠亭を書いてしまいました。 今回はб1とб2の前半後半に分かれており、 б1はのほほん系ですが、б2はちょびっと暗いです。 苦手な方はお気をつけください。 б1 「ふぁー。」 空も随分と高くなり、気温もだいぶ下がり肌寒くなった秋の夜長、いかがお過ごしだろうか。 私?私はいま座椅子にもたれてこたつに脚を突っ込んでお茶をすすっている。 昨日師匠にねだって出してもらったのだ。 ずずっ…… みかんがほしいな。 師匠はありませんって言ってたけど。 せめてこたつに入ってるちょっとの間くらいは、最高の贅沢を味あわせてくれていいと思う。 ぬくぬく。 こたつって大好き。 なかなかやるじゃん、地上人。 コトコト 「ん?」 あ、てゐだ。 てゐが障子に隠れてこっちを見ている。 寒そうに手足をこすってあっためていた。 羨ましそうな視線をこたつに向けている。 ふう、そんなにこたつに入りたいなら入ってくればいいのに。 最近てゐが私を避けるようになった。 前みたいに私の部屋に遊びに来なくなったし、廊下ですれ違うときも無視されるし、 ご飯もひとりでとっとと食べてすぐどっか行っちゃう。 つまんない。そろそろ仲直りしてもいいかな。 「てゐ。」 私はてゐに呼びかけると、てゐはぴくっと反応した。 ひょっとしてばれてないとでも思ったのか。 「はいっといでよ。」 私は手招きする。 「………いいの?」 ふふっ。 私はちょっと吹き出す。 自分ちなのに遠慮してるなんててゐらしくないなぁ。 いたずらばっか元気いっぱいのてゐもかわいいけど、小さくなったてゐもかわいいな。 「こたつはいりたいんでしょ?ホラホラ!」 「う、うん!」 てゐはすすっと部屋に入り、とてとてとこたつを目指す。 「ほら、私の膝の上おいで。」 「え?」 「いいからいいから!」 戸惑うてゐの手を引いて寄せる。 胡坐をかいた私の上にてゐを座らせる。 「んしょ。」 ふふ!んしょ。だって。 わざわざ口に出して言うんだもん。かわいいなぁ。 寒かったでしょ?と私はてゐの手をこたつの中ですりすりとあっためる。 てゐの手はひんやりと冷えていた。 「あったかいね!てゐ。」 「うん!」 だんだんてゐの手が暖かくなってくる。 寒くて止まっていた血が解けてまた流れてる感じがする。 私は外の寒い世界からこの楽園に足を踏み入れたてゐの冷えた身体を、 私の身体で温めてやる。 なんかこう、ちっちゃいからてゐを包み込む感じになるんだけど、その感覚が好きだ。 暖かいうさぎを抱っこするのも好き。 冬はよくほっかいろ代わりに抱いている。 とくとくと熱くて苦いお茶を注いでやる。 舌がしびれるくらい苦いお茶が好き。 ずずっ 「………………。」 ゆっくりとした時間が流れる。 外ではもう鈴虫がりーんりーんと鳴いている。 秋風が障子をかたかたを揺らす。 いとおかし。 ぽかぽかしてきて熱くなったのか、てゐは両手をこたつの中から出して、 机の上に手をくっつけてひんやりとした感じを楽しんでいる。 そういえば私もちょっと熱くなってきたかな。 また少し時間が経つと、てゐがもそもそしはじめる。 こたつから足を出そうとくいくいと足を伸ばす。 「…………。」 私の中には二人の私が住んでいる。 一人はてゐのことが大好きなお姉さんの私。 もう一人は、てゐのことがもっと大好きなイジワルな私。 てゐが、なになにしたそうにしているのを見ると、 とたんに私の中のイジワルな方が眼を覚ます。 「もっとあったまろうよ、てゐ。」 私は手足を器用に使って、てゐの手足をすっぽりと、こたつの中に仕舞い込む。 てゐは、あっ…、と困った声を出したが、日ごろの教育の成果かおとなしく私に従った。 私はこたつの掛け布団をこっぽりとてゐに掛ける。 さっきまで私がひざ掛け代わりに使っていた毛布を私の肩に掛けると、てゐの前にまわす。 なんかダルマになったみたいだ。 外はすごく寒いのに中はすごい暖かいって好きだ。 なんだかわくわくする。 てゐはいつも素足なので、私の脚と触れているのが熱かったのか、 すすっと脚を離そうとする。 私の好きなことのひとつが、相手の自由を奪うこと。 相手が自由を求めてあがくほどいい。 荒縄を使って縄が食い込むほど全身をぎっちぎちに縛り上げるのも好きだが、 一番は自分自身の身体で相手を縛ることだ。 手を握る。足を絡める。抱きしめる。口を塞ぐ。 優しく、強く。 「あつい……」 てゐがぽつりとつぶやく。 こたつから出させてほしいことに気づいてもらいたいのだろう。 でも出たいならちゃんと口で言ってくれないとわかんないよ。 てゐの頬が紅潮し、首筋が汗ばみ、髪の毛がぴたっとくっ付く。 「ねぇレイセン、そろそろ出ようよ。あついよ。」 ついにてゐが言う。 我慢できなくなったのか。 「ダメ。」 私はてゐの申し出を却下する。 実を言うと私もかなり熱いのだ。 さっきからもうずっとこたつに入りっぱなしだし、さらにてゐを抱いている。 でも私はイジワルだ。 私はさらに強くてゐを抱きしめる。 もっともっと熱くしちゃえ。 私はてゐと一緒に感覚を共有する。 私もちょっと汗かいてきちゃった。 「えー……」 とてゐは困った声を出す。 てゐの困った顔は、イジワルな私の大好物。 ああ、だめ、なんだかムラムラしてきちゃった。 「わっ!!」 私はいきなりてゐをこたつの中に押し込む。 顔だけ仰向きに出させて、戸惑っているてゐの首に脚をかける。 ちょうどてゐの首を間に挟んであぐらをかいた状態だ。 これでてゐは起き上がれないし、身体がすっぽりこたつに入ってしまっていて上手く動けない。 てゐはいきなりのことでビックリしたのか、状況を把握するのに一瞬考えると、 自分が身動き取れない状態にあるのが分かったのか、身体をひねって動く。 てゐが動くたび、てゐの頭がぐりぐりと私の下腹部を刺激する。 ふわふわした耳が腿の内側をなぞるので、こそばいけど気持ちいい。 「レイセン……?」 てゐが不安そうな顔で私を見上げる。 今日はいじわるしないよね、ね?とでもいいたげな顔。 どきどき。 もう私の中にはイジワルな私しかいない。 受け答えなど面倒だ、エサは黙って強者に捕食されればいい。 私はこれが答えだとでも言わんばかりに、無表情でてゐを見下ろす。 てゐは一瞬あきらめたように下唇を噛んだが、 やっぱり逃げようとして、机をカタカタ揺らして暴れる。 ああ、いい、気持ちいい。 てゐが頭を必死に動かす、けど私がそれをさせない。 てゐが何かしたいのに、私のせいで出来ないというシチュエーションが、快感。 私はてゐが暴れるたび脚でてゐの首をきゅうっとゆっくり締め付けていく。 てゐはそれに気づき私のソックスを引っ張って私の脚をはがそうとするが、 てゐの力なんてたかが知れている。 万策尽きたのかてゐは悔しそうにおとなしくなって、少し涙ぐんだ。 イジワルな私はよだれを垂らす。 ふふ、その顔、すっごい可愛いよてゐ。 これから楽しいことしようね。 私はてゐの耳で自分の腿の内側をさわさわと撫でる。 ふっかふかの毛布みたいに気持ちよくて、ちょっと暖かい。 私はてゐの耳でてゐの顔をパタパタとはたく。 ほっぺただったり眼だったり、てゐはちょっと鬱陶しそうな顔をした。 「んー!」 てゐは不機嫌そうな声を出す。 あれ?てゐ怒っちゃった? ふふ、やめてあげなーい。 それそれ。 私はてゐの耳でまたてゐの顔をぱたぱたはたく。 15分くらいたったかな。 てゐが汗だくになり始めた。 私は面白くなっててゐの顔に毛布をかぶせる。 「やめてよー!」 てゐはいらいらした声を出す。 なに、てゐ、私にむかって怒る気なの? てゐは今そんなこと出来る立場じゃないよね。 だっててゐは私のエサなんだからさ。 まだそのこと分かってないんなら、今からまた思い出させてあげなくちゃね。 私は机の上に置いてあった急須を手に取るとてゐの顔の上に持ってくる。 あっつーいお茶のなみなみ入った急須だ。 「てゐー。」 私はてゐに呼びかける。 てゐはうっすら眼を開けると、自分の目の前に何があるのか分かったのか、ばたばたと暴れる。 その拍子でちょっと中身がこぼれてゐの顔にかかる。 「きゃ!!」 てゐは手で急いで自分の顔にかかったお茶をぬぐうと、 私の手から急須をとろうと手を伸ばす。 私は急須をいったん机の上に置くと、てゐの両腕をすばやく掴み、 後ろにまわしててゐの手を私のお尻の下にしいた。 てゐの手がなんだかむずむずする。 なんだかてゐはいやそうな顔をした。 でもてゐはこれで本当に手も足も動かせなくなったわけだ。 ふふ。 どうやっていじめてあげようかな。 私はごくりと唾を飲み込む。 あれがいいかな、これがいいかな? 至福の時だ。ついつい口元がいやらしく歪む。 それを見て怯えるてゐ。 今てゐは何考えてるんだろう? ああ、レイセンのこと怒らせちゃったかな。 最初からおとなしくしてたらよかったかな。 そんなこと思ってるのかな?ふふ、かわいそうだね、てゐはなーんにも悪くないのにね。 うふふ!悪いのは私なのにね。 何も出来ないてゐの鼻をつまんで口を手で押さえ、息をできなくする。 「ん、……んくっ!」 てゐが苦しそうに身体をよじる。 あは。 苦しいねぇ、てゐ!息したいよねぇ! どう?反省した?てゐ。 うん、その眼は反省してる眼だ。 でもやめてあげないよ。 もっと私をゾクゾクさせてよ。 今日はもうちょっとながく苦しんでみようか。 酸素がなくなってきたのか、 てゐが苦しみ始める。 「んん!んんんーーー!!!」 てゐはがたがたと脚を痙攣させる。 「んんん!!!んんんん!!!!!」 そろそろ限界かな。 私は手をぱっと離してやる。 「ぷあっ!!ハアッ!ハアッ!ハアッ!!」 てゐは一生懸命酸素を肺におくる。 そんなてゐを見ていると体の奥がなんだか疼いて来る。 うふふ、いままた息止められたら、きっと苦しいんだろうなぁ。 私はまたてゐの鼻をつまむ。 てゐは怯えながらイヤイヤと首を振る。 すぐには口を塞がない。 じわりじわりと、てゐに口を塞がれるまでの恐怖を堪能させてあげるためだ。 「やだ、ハァハァ!……やめてよぉ!」 てゐは涙目で懇願する。 お願い、もうやめて。やめてよ。と、 必死で私にうったえる。 私に助けを求める。 ゾクゾクッ 私の背筋に電気が流れる。 やだ、てゐ。 そんな顔されたら、 もっと酷いことしたくなっちゃう。 私は興奮に耐え、手を伸ばして熱湯の入った急須を掴む。 「喉かわいちゃったね、てゐ。」 「え、やだ!やだ!!」 てゐは危険を察知して必死に逃げようと首を振る。 てゐの頭が私の敏感になった皮膚をこすって刺激を与える。 はあ、はあ。 私は急須の注ぎ口をてゐの口にあてがう。 ほらほらてゐ、てゐ熱いのキライだよね。 今からいーっぱい熱いのてゐのお口の中に流し込んであげる。 うふ、ふふ、きっと熱くて熱くて耐えられないよ!? どうなっちゃうんだろうねーぇ! あははははは! 「ん!んんー!」 てゐは必死に首を振って最後の抵抗を見せる。 てゐの恐怖を味わってる暇なんて無かった。 今すぐ、今すぐこの熱湯を嫌と言うほどてゐの口の中に流し込んで、 てゐがどんな反応するのか、どんなふうに叫ぶのか どんなふうに苦しむのか、どんなふうに熱さに耐え切れずあがくのか、 今すぐ見たかった。 私はためらうことなくちりちりに熱いお湯をてゐの口に流し込んで口を手で塞ぐ。 「ん!んぐ!!んんんんんーーー!!!!」 てゐがこたつの足をがんがんと蹴る。 アハハハハハ!!!! 熱い??ねぇ熱い!?苦しい!?ねぇてゐ!! 私は容赦なくてゐの口を押さえつづける。 てゐは、吐き出すことも出来ない熱湯を飲み込むしかなく、 熱湯はてゐの食道を焼き、胃をひりつかせる。 「っんんっ!!!!んんんーーーっ!!!!」 あはは!苦しいねぇ!熱いねぇ!! 私が興奮で果ててしまいそうになったとき、 耳元で、声がした。 「フフ、楽しそうね。イナバ。」 私は興奮状態から一気に引き落とされると、全身の血の気が音を立てて引くのが分かった。 私のすぐ後ろで、 くすくすと囁くように言った声の主は、 永遠亭の主、蓬莱山輝夜だった。 б2 ひ、姫……!? しまった……!! 「何やってたのかしら?」 姫は私にすっと近づくと、くすくすと手を伸ばし私のあごをさする。 ふっと、きつい麝香のいおいが鼻をかすめる。 しまった………。やばい。 ……怒られちゃう……。 どうしよう………。 私が固まっているうちにこたつから抜け出し、呆然としているてゐに、姫は言葉を掛ける。 「ねぇ。」 びくっとてゐは反応する。 「来て。」 姫はてゐに手招きすると、 てゐは恐る恐る姫に近づく。 「何されたの?」 姫はてゐの頬にすっと手を入れると、 てゐの眼から溢れていた涙を親指でぬぐってやる。 「ひどいことされたのよね?」 姫はてゐの口元の火傷のあとを指でなぞる。 「言ってみなさい。」 てゐは震える声でなにか言おうとする。 「う、………わ…………。」 や、やめてよてゐ? ……わ、私なんにもいじめてなんか無いわよね? 私たち、………友だち同士だもんね?? てゐ、てゐ! 「……………い、………………グスッ」 「い?」 てゐは涙を流して言う。 「ウッ、…………い、いやだって………グスン!いやだって、………言ったのに、………!」 「うん。」 「………うぅ、……ングッ!……うぁ、うわあああぁぁぁぁぁん!!!!!」 てゐは耐え切れなくなったのか、大粒の涙を流しながらわあわあと泣き始めた。 「そう。可哀想にね。」 姫はてゐを抱きしめると頭を撫でる。 そして、真っ青になった私の顔を見て冷たく言い放つ。 「お仕置きしなきゃね。」 ドキン…… え………、お仕置き………!? 私は全身の血の気が音を立てて引いていくのを感じる。 そ、そんなっ!てゐ、てゐっ!どうして、嘘だって言ってよ! 私、私てゐのことあんなに大好きだったんだよ?? やだよ、私お仕置きなんて………助けてよ、ねぇ、てゐ! てゐは私と眼も合わそうとせず、ひたすらにあふれ出す涙をぬぐっては、 姫の高そうな着物のそでをべたべたにしている。 姫は私を見ると、また冷たく言い放つ。 「可哀想。」 「うゎ、うわああぁぁぁぁん!!!!」 てゐがまたうるさく泣く。 姫は泣きじゃくるてゐの手をとると、私を指して、 信じられないことを言った。 「首を締めなさい。」 え……? てゐがしんと泣き止む。 姫………?いま、いまなんて………? 「聞こえなかった?イナバの首を絞めるの。」 私もてゐも分からないといった顔をする。 姫は今なんと言ったの? 私の、首を……? てゐは、どうしていいか分からず、涙を拭きながらおろおろとする。 「はやく。」 姫が低い声でそう言うと、てゐはびくっと震える。 てゐはゆっくりと私に近づくと、 そろそろと私の首に戸惑いながら手をかける。 てゐの手が私の首に触れた瞬間、ゾクリとした嫌な感覚が体中を走り抜ける。 「いいって言うまで締めるの。」 姫は私の後ろにぴたりとくっついて私を羽交い絞めにすると、 すっと白いきめ細かな頬を私の頬にぴたりとくっ付ける。 てゐはおろおろと迷っている。 てゐの手は、震えていた。 「はやく。」 姫は少し声を強め、てゐにそう言う。 てゐはまた震えて、だんだんと、ゆっくり手に力を込める。 私は、怖くなって言う。 「や、やだ………やめてよ………。」 てゐの指が、じわじわと私の首にめり込む。 「ん、んっ!!………………や、ケホッ!ごほっ!!」 私が苦しむと、てゐがぱっと手を離す。 私はむせ返る。 姫は冷たい声で、咎める様に言う。 「どうして止めたの。」 「…………。」 てゐは何も答えず俯く。 姫は言う。 「答えなさい?」 「………だって…………!」 「だって?」 てゐが顔を上げ、大きな声を出す。 「だってレイセン苦しそうじゃん!………ひどいよ!!」 「………。」 …………てゐ? 「レイセンは、レイセンはあたしの友だちなの……グスッ、……だからっ、」 てゐは嗚咽に途切れながら声を絞り出す。 「やだよ、こんなの、………こんなのゼッタイおかしいよ!!」 ドキン てゐの言葉に、私は後頭部を殴られたような衝撃を受ける。 てゐ…………… 私は今すぐにてゐに頭を下げて謝りたかった。 嫌われてると思ってた、もっと私のことなんか死んじゃえばいいと思ってて、 本気で首締められるのかと思ってた………!! ごめんね………!! ごめんねてゐ……………っ!!!! 私は涙を流した。 てゐ、ごめんね。もう、ぜったいてゐの嫌がることしないからね! てゐは、大丈夫?と心配そうに私の顔を覗き込む。 私は、必死に嗚咽を抑えながら、うん、うん、ごめんね。 と、呟き続けた。 だが、次の姫の言葉は、私の心を一気に凍らせる。 姫は私の耳元でまたくすくすと笑うと、言った。 「そう、じゃあ私が代わりにやってあげる。」 「え……?」 「あなたの大好きな大好きなイナバ、あなたのせいでどれだけ苦しむのか、よく見てなさいね。」 私の首に、ひやりとした指が絡みつく。 ゾクッと、背筋に寒気が走る。 姫は、一気に手に力を込める。 ぐううううっっ!! 「んがっ!!………………は!!!」 てゐと違い、姫の細く繊細な指は、いっきに私の首元に食い込む。 てゐはうろたえる。 「や、やめてよ!お願い!」 てゐが泣きながら姫の手を私の首から引き剥がそうとする。 でも、姫の手は容赦なく、 私の喉を押しつぶす。 「んふふ!ほらほらぁ、早くしないと死んじゃうわよ?あなたの大好きなイナバが!」 姫がくすくすと笑うたび、姫の熱い息が私の耳にかかる。 く、苦しいよ………!い、いき………!できな………っ!! 「んく!………がは………………!!」 「やめてよ!やめてぇぇぇ!!」 てゐが必死で叫ぶ。 姫は嬉しそうにふふふと笑うと、 片手で、自分の手を剥そうとするてゐの手を掴み、 私の首にあて、もう片方の手も同じようにする。 そして、てゐの手の上から、さらに力を入れて締め付ける。 「んぎっ……………!!!」 「ほうら、感じる?イナバの首、細くて柔らかくて、すぐ潰れちゃいそうでしょう?」 姫は嬉しそうに、泣きながらガタガタと震えるてゐに言う。 そして姫は私の耳に、そっと囁く。 「ふふふ、イナバはね、こうやって首を絞められるのが大好きなのよね。」 ……だめ、………もう…………しんじゃう、…………!! 姫はすっと手を緩める。 「ぷはあッ!!!ゲホ!げほげほ、ガホッ!!!」 私はげほげほと咳き込み、ぜぇぜぇと息をする。 姫はてゐに向かっていたずらっ子のように笑って言う。 「あらあら、あなたがあんなに強く締めちゃうもんだから。フフフ!」 「ゲホゲホッ!!!…………ぜぇ、……ぜぇ、……」 てゐは私の元に駆け寄る。 「ごめん、ごめんねレイセン!苦しかった……!?」 てゐは必死に、涙を流して私に謝った。 姫はてゐの頭を撫でると、優しく言った。 「あなたはもう部屋に戻っていいわ。」 「え……?で、でも……」 「なあに?もう一度やりたいのかしら?」 姫は細く長い人差し指で、すうっと私の首をなぞる。 私はビクッ!っと震える。 てゐは涙をぐっと拭くと、 きっと姫を睨みつけて、急いで部屋から逃げ出した。 б 「ふふ、かわいいわね。あの子のこと大好きなんでしょう?イナバ。」 私はガタガタと震えていた。 嫌な予感がしたのだ。 え?なんで? なんでてゐだけ帰しちゃうの? 今のでお仕置き終わりだよね? 「イナバ。」 びくっ! 「これ、なんだか分かるかしら。」 姫は懐から何かを取り出し、かちゃりと机の上に置く。 錆び付いてぼろぼろになった、活け花用の刃の太い、鋏。 え、や、ヤダ!! なんで、なんでハサミなんか…… え…?え……?? やだ、やだよぉ!怖いよぉ……!!! 震えが止まらない。 体中からは不快な脂汗が噴き出す。 これ、なんに使うんだろう。 これから、なにをされるんだろう。 何を想像しても、悪寒しかしなかった。 「永琳には内緒ね。あなたをいじめたってばれたら、今度は私がお仕置きされるの。」 ふふっと姫は笑うと、私の震える手を握る。 部屋は暑いのに、姫の手は冷たくて、私の芯まで凍ってしまいそう……。 私の手を左手で掴み、右手で机の上の鋏に手を伸ばす。 私はびくっと反射的に手を引っ込めるが、姫は私の手を離さない。 「永琳はね、」 姫が愛しい人を想う様に私の耳元で囁く。 「こうやってね、私の指の間の肉を順番に切っていくの。」 ゾク 私は背筋が凍りつく。 え……、切るって? その……ハサミで……? 想像しただけで体中がピリピリしびれるくらいの悪寒がする。 姫は私の手を広げると、私の手を切る真似をする。 鋏が手に触れているわけではないのに、私は指の間に、ぞわぞわとした不快感を感じる。 「最初は人差し指と中指の間。ぱちん、ぱちん。うふふ。」 私はがたがたと震える。 なんで……?なんでそんなことするの?? ねぇ、なんで……!? なんで、なんでいまそんな話するの…………!? 今すぐ逃げ出したい。 部屋に帰りたい。 鍵をかけて布団にもぐりこみたい。 姫はうっとりとした表情で私の前で鋏をちょきちょきと動かす。 「すっごく痛いのよ。気絶しちゃうくらい。」 やだ……こんな話もう止めてよ…。 もう聞きたくないよ……! ハサミどっか置いてよ!怖いよぉ……!! 「フフ、でもね、私が泣いても、大声でイヤだって叫んでも、気絶しても、永琳はやめてくれないの。」 姫は楽しそうに話す。 「でもね、とってもとっても痛いんだけれど、怖くないの。」 姫はちょっとだけ残念そうな表情をする。 「死なないって分かってるからでしょうね。」 私は息が苦しくなって、はぁはぁと口で息をする。 「そう、何も怖くない。だから痛くても痛くても、ただ退屈なだけ。」 姫がニタリと微笑むと、 声を、上ずらせて、 興奮に震えた声で、言う。 「だから見てみたいの………。あなたが、あなたがどれだけ怖がるのか………!!」 突然、口に何か巻かれる。 キュッ、と後ろで紐を結ぶ音が聞こえる。 猿ぐつわされたのだと気づくと、 おぞましいほどの寒気が、 体中を走り回る。 「んんっ!!!」 「痛くて叫んじゃうといけないから。」 え……!?やだやだやだ!!! もしかして今から!?? いやだいやだ、いやだよ!!イヤイヤイヤぁ!!!! 「んーっ!!んんんーーーっっっ!!!」 ガッターン!! 私はこたつを蹴っ飛ばす。弾みで部屋の明かりがふっと消える。 真っ暗になるが、月の明かりがすぐに部屋の中をぼんやりと照らす。 私は狂ったように暴れたが、姫に羽交い絞めにされ、脚を絡められ、 どうにも身動きが取れない。 怖くて怖くて涙がつぎつぎとあふれる。 肩が脚が、全身がガクガクと震える。 全身の毛が逆立ち、 私に、逃げろ!逃げろ!!と命令する。 「フフフ、そんなに怖い?やっぱり止めましょうか??」 私はガクガクと頭を振る。 助けて!止めて!お願いお願いおねがいおねがい!!! 私は狂ったように懇願する。 「んふふ、だーめ。」 私は絶望する。 身体の奥がガタガタと震え、おさまらない。 全身の間接が、はずれてしまうくらい。 やだやだやだやだ!!!!!! やだよ!!いやだよ!!!助けて、てゐ、師匠!! 誰でもいいから!!! 怖いのヤダ……!!痛いのいやだよぉ!!! 姫は私の手に鋏をあてがう。 「そーれ。」 ぶちん 「ん゛あ゛あ゛アアアァァァァーーーーーっっ!!!!!!!!」 私は激痛に耐え切れず叫び声をあげる。 脚をばたばたと畳にこすり付ける。 右手で太ももを掻きむしる。 私の血がぼたぼたと、姫の袖を染める。 姫は楽しそうに笑い声を上げる。 「あははは!ほらイナバ、もう一度。準備はいいかしら?」 「んや、やあっ!!!!ひゃめて………!」 ぶちんっ 中指と薬指の間の肉が音を立てて切れる。 「あ゛あ゛あ゛あァァァーーーーーーーっっ!!!んぐっ!!!んぐうううっっ!!」 いたい!!いたい!!!! いたいいたいいたいいたいいたいよぉーーーっ!!!!!! あまりの激痛に私はガクガクと腰を痙攣させる。 指の間からはぼたぼたと血があふれ落ちる。 恐怖と激痛で、私の頭は真っ白になって、気絶しそうになる。 「あははははは!!ほら痛い!?怖い!?イナバ!!」 「んむーーっ!!!んんんんーーーーーっっ!!!!!!」 私は必死で抵抗する。 心臓はおかしくなるほどガクガクと振動し、 息をするたび全身の血管を切れそうになるくらいバクバクと揺らし、 ひどい頭痛がする。 胃液が食道を駆け上がる。 「う、うぐ、……………………うげぇっ!!!」 私は畳の上に嘔吐してしまう。 「ごはっ!!ごほっ!!!」 「あらあら、もどしちゃったの?」 姫は私の手をとって傷口を舐め、すっと立ち上がる。 朦朧とする意識の中、 私は絶望的な言葉を聴く。 「続きはまた明日にしましょう。」 あ、あした!?やだ!やだよやだよやだよおおおっ!!!! もうおしおきうけたよ!!??すっごい痛かったんだよぉっ!!!??? もうやだ!やだよ!!いやだよぉぉーーーっ!!! 姫は私の頭をすっと抱きしめると、自分の胸に押し付ける。 「永琳に告げ口したり、逃げたりして御覧なさい。今度は指を切り落として上げる。」 姫はクスクスと笑うと、おやすみなさい。と部屋を出た。 私は絶望で頭がおかしくなってしまいそうだった。 その日は一晩中、ズキズキと疼く右手の手首を握り締め、がたがたと震え続けた。    fin