破壊する女 another one ※以前有志の方が書かれた 「破壊する女」のその後の展開を独自の妄想に従って書いたものです。 ※救いはありません。多数キャラが激しくいじめられます、残酷描写、グロ注意。ネチョ少々。あくまでもEDのひとつの可能性としてお読みいただけましたら幸いです。 ━━━ 紅魔館は私の代で終わり、か。 『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』の持ち主、フランドール・スカーレット。 彼女は物だけでなく、これからスカーレット家の血筋を絶やそうとしている。 ━━━ 違いない。 私は、全てを破壊してしまったわけだ。   平和も。   日常も。   親友も。   使用人も。   実の姉も。   …そして、これから『紅魔館』も。  スカーレット家最後の当主、フランドール・スカーレットは、自嘲気味に笑った。 1. Case フランドール・スカーレット  「フランドールお嬢様。ご命令を」  目を開けるとそこには美鈴が凛とした表情で、指示を仰いでいた。  そう。お姉様も、咲夜も、小悪魔もパチュリーも、もういない。  だが眼前のこの人は、私と共に戦ってくれるという。  救いなどないのに。破滅が目に見えているのに、それでもだ。      命ある限り、家族を壊した奴等に、復讐を――  その一念を持って私のために…いや、自分のためにも私達家族の恨みを晴らそうとしている。もちろん私とて同じ気持ちだ。メイドたちも揃って頷く。そう、分かったわ。あなた達の命、私が預かる。  そして誓おう。  私たちは奴等を許さない。一人残らず、破壊してやる。  「ええ。じゃあ――」  私は家臣達に命令を課す。 ――八雲紫を、探し出せ。 2. Case 八雲紫  「……」  ここはとある場所にある八雲の屋敷。自室にて八雲紫は思考を巡らせていた。  邪魔な紅魔館当主は殺した。メイドは殺した。七曜の魔女は殺した。取るに足らない小悪魔も殺した。  精神が不安定な悪魔の妹と門番は取り逃がしたが、所詮は子供と雑魚。今更徒党を組まれたところで恐れることはない。 いくら破壊の力が恐ろしいとはいえ、力を使う側が幼稚でその力を最大限に使いこなすだけの器量と頭脳がなければ大した事はないのだ。  「…それに」  この屋敷は誰も居場所を知らない。幻想郷の中には存在しない。つまり、誰一人としてここに攻めてくることはできない。八雲紫は己の安全は完全なものと今一度確認する。  誰も、私を、倒せない。  私の幻想郷は傷つけさせない。  くくっ…くくく…  何を笑っているのだ。自分は淑女だ。その自分がこのような下品な笑いをするとは不躾な…そうとは分かりつつも、あまりの完全勝利に笑いを堪えられない。 「あーっはっはっはっはっは!!!!」  一人きりの屋敷で高らかに笑う。しかし外界と隔絶された彼女の屋敷は誰にも来られない。笑い声は誰にも届かない。紫はそれがまた愉快であった。 3.Case 八雲藍・橙  ――場面は変わり、マヨイガ近くの森。    「よし、だいぶ上達してきたな。さすがは私の式だ。」 「あ、ありがとうございますっ、藍様!」  八雲紫の式の藍と、さらにその式の橙。二人はここで橙の術の訓練をしていた。紫に言いつけられた結界の点検の帰りに時間があったので小一時間ほど橙の訓練に付き合っていたのである。  結果は上々。橙はまだ拙いながらも、藍の指示通りに式神を操作し藍を驚かせた。  最近成長が著しいな。とても頼もしく、だが少し寂しくもある、かな。    消耗し息も絶え絶えだが、とてもまぶしい笑顔で橙は術式を終えた。このまま行けば近い未来、尾の数も増えて行くだろう。  いずれは私の手を離れて、この子は自分の式を持つ。ふふ……子が親の手を離れて、更に成長して行く様を見守るのはこういうものなのか。親というのはこのような複雑な気持ちをどう乗り越えて行くのだろうか。    おっといかんいかん。最近しんみりしてしまっていけない。そうだ、そろそろ帰らなければいけない時間だと藍は気がついた。  「すごかったぞ。今度ご褒美に橙の好きなものを食べさせてあげるから、時間のあるときに屋敷に来なさい。紫様もきっと歓迎してくれるよ」  「わぁ、ホントですか!えへへ、うれしいです!」  わしゃわしゃと少し無造作に橙の頭をなでる。彼女は本当に気持ちよさそうに、うれしそうに目を細めた。    「では私はそろそろ行くが、夜だからといってあまり出歩かないようにな。」  「はぁい!藍様もお気をつけて!」  とびきりいい返事をもらったので、大丈夫だろうと表情を崩す。  「ではな、橙」  そういうと私はその場から飛び去り、八雲の屋敷を目指した。    ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ・  ――「……見つけました。標的は人里近くの上空を飛行中です」  「分かったわ。ありがとう美鈴」  美鈴は幻想郷中に気を張り巡らし、二人の標的を追っていた。  一人は八雲紫の式、八雲藍。  八雲紫は神出鬼没だ。そして彼女の住処は誰一人として知らない。もちろん神社の巫女も例外ではない。  つまりこちらから八雲紫の住処に攻め込むことは不可能であると判断した。だが、まったくもって手詰まりではない。        何もしなくても、連れて行ってくれる親切な奴がいるじゃないか。  そう考えた私は、美鈴に八雲紫の部下の気を探らせ、メイドたちにその捜索を命じた。もちろんメイドたちにあの九尾をどうにかできるとは思っていないし、無駄に部下達の命を散らせたくない。  狙うのは、更にその下の存在…!  「……二つ目の標的の存在を確認。妖怪の山の麓です。進行方向からどうやら紅魔館近くの湖を目指しているものと思われます」  「了解よ。それじゃあ、そっちはメイドたちに任せて、私達は人里に向かいましょう」  「かしこまりました。フランドールお嬢様」  一礼をする美鈴を伴って、私達は八雲藍を捕縛すべく彼女の行方を追った。メイドたちには標的を捕縛後、わざと体内の気を乱して美鈴を呼ぶように指示を飛ばしてある。  「美鈴」  「はい」  飛行しながら私は美鈴を呼ぶ。  「…貴女の本気を、私に頂戴」  「…分かりました。必ずや期待に添えられるよう、この紅美鈴、全力を以って作戦に臨みます」  長いこと地下にいた私は彼女の本気を知らない。だが、目の前のこの部下からは、その言葉が嘘ではない事、そしてその覚悟がにじみ出ていた。家族のために彼女もまた、怒っているのだ。私はそれが、とても、うれしかった。  「……?」  人里上空を飛んでいると突如周りの空気が変わった。おかしい。いつもの幻想郷の空じゃない。この不安を掻き立てられるようなざわつきは、一体なんだ…?  前進する力を緩め、その場に滞空する。周りを見渡すが、人影はない。だが……  「殺気…か…?」  ――私に向けられている…?八雲に仇成す者か。  愚かな。紫様の手を煩わせるまでもない。私自ら片付けてやる。  「隠れても無駄だ!出て来い!」    私は気配を探るため目を閉じ、そして声を張る。殺意には屈していないことを相手に知らしめるために。そして口内で術の詠唱を始める。まず防護…  ――「おっと。」  「!?」  いつの間に背後に!?  私は両腕を拘束され、術を封じられた。おかしい…。  手が使えない程度では術は唱えられるはず!!…なのになぜだ!?  「知りたいですか?」  こ、この声は紅魔館の…!!  美鈴は藍を背後から拘束したのだ。気配を探って位置を知ろうとした藍は、目を閉じ目視確認を怠った。それが仇となり美鈴の接近に気づくことができなかったのだ。美鈴は気を操る妖怪。気配を消すなど朝飯前なのだ。そして飛行していれば足音も聞こえない。完全に藍の失策だった。 気を送り込まれ、術式を封じられた。これでもう術を唱えることはできない。  「なまじ貴女は術に長けすぎているから、すぐ術(それ)に頼ろうとする。そこを利用させてもらったわけですよ、藍さん」  「門番の娘か!ふざけた真似はやめて拘束を解けッ!」  「お断りします。」  美鈴は感情を伴わぬ口調で即、言い放った。  「主の命令なもので、その要求は呑めません。」  言うと同時に藍に気を送り込む。  「ぐぅっ!?」  ガコッ!ガコンッ!!    「…両腕両足の関節を外しました。あなたの治癒能力が並外れていることは知っていますが、治った瞬間またはずすことができるので抵抗しても無駄ですよ。」    美鈴はなおも無感情に藍の身体を縄で縛る。どんなに暴れても、決して解けない結びで何重にも縛った。  「…私を、殺すのか」  観念したように、悔しそうに藍は言う。  両手両足はおろか、術式さえ封じられた自分は今、達磨と同じだ。  ――術に頼りすぎると泣きを見るわよ、藍  紫様は、このような事態を見越していたというのか…すみません紫様。私はまだまだ未熟者です――。  かつて戒められた言葉通りの結末に、藍は自嘲せざるを得なかった。  そして、死を覚悟した。  「いいえ。殺しません。殺すわけがありません」  その予想外の言葉に、藍は言葉を詰まらせた。  「…どういうことだ。私はあの方の式神。さぞかし憎いだろう、殺したいほどに憎いのだろう」  藍は美鈴の言葉が虚言でないかと疑ってしまう。  憎いなら殺す。好きなら愛す。愛憎とはそういうものではないのか?  「さ、お嬢様」    ――…お嬢様、だと…?  「ありがとう美鈴」  その声を聞いて、藍はハッとする。  その姿を見て、藍は絶句する。  自分が見知る"紅魔館のお嬢様"は、青い髪に黒き翼であったはずだ。 それがどうだ。目の前の"こいつ"は…  月に照らされる金色の髪、更に輝くはいびつな翼に生えた7色の羽。  そして、自分が見知るあいつ(紅い悪魔)に重なるこのまなざし…!  気高き誇りに裏付けられた、鉄をも射抜く意思力。真紅の瞳はまぎれもない、"私が知るスカーレット"だったのだ。  「お前は…フランドール…!?」  そう。確かにフランドール・スカーレット。あの吸血鬼の妹だ。それは間違いない。  だが待て。待て待て。待て待て待て待て! 私が知るあの悪魔の妹はこんな目をしていたか?こんな人を射殺すほどの殺気を帯びた瞳を、私は見たことがあったか? これほどまでに悲しみを秘めた、絶望を見知った表情をする彼女を、一度でも見たことがあったか!?  ない、ない。あるはずがない。  動揺が動揺を呼ぶ。私はもう、正常な思考ができなくなっているのだろうか。  そんな私をよそに、目の前の悪魔――フランドールは目を細めて口元に笑みを浮かべている。  「アイツの式神さん。さっき貴女は私達が憎いから殺すのかって聞いていたけれど」  「…そうではないというのか」  この娘も門番と同じ考えだと言うのか。いや、そもそも彼女が門番に命令をしたと言うことなのか。  皮肉なことにまだ頭は回るらしい。だが、この状況を打開できるような手は、まだない。おとなしく彼女の言葉に耳を傾ける以外になかった。  「ええ。すぐに殺してしまうのはもったいないわ。」  フランドールはそういうと、くるりと背を向けた。私には彼女が口を不気味なまでに吊り上げるのが見えた。  「利用させてもらうのよ」  「お嬢様、メイド達の気の乱れをキャッチしました。"合図"です」  「分かったわ。それじゃあ式神さん、そろそろ行きましょうか」  美鈴に支えられて、私はフランドールの後を着いて行く。  「…どこに向かっているのだ」  「今に分かるわよ」  ――アジトか何かか。そこで私をリンチにでもするというのだろう。だが私は折れない。もとよりあの方に仕える身だ。この身に何が起ころうとも決して屈せぬと、覚悟を決めたではないか!  今や四肢の自由利かぬこの身だが、どんな目に遭っても負けない。そう一人気合を入れなおすと、フランドールが降下を始めた。続いて美鈴と彼女に拘束されている私も高度を下げる。急な方向転換に外された関節が慣性に引っ張られ痛む。だが、痛みなど覚悟があれば乗り越えられる…!!私は再び気合を入れなおした。  「着いたわ。美鈴、式神さんをここに」  「かしこまりました」  地面に着地すると、美鈴はすぐさま足の関節が不自由になり支えられない私を羽交い絞めにし、膝立ちのまま動けないようにする。  痛む関節に顔をゆがめていると、何人かのメイド妖精がフランドールの周りに集まってきた。どの子も服がところどころ破れ、汚れ、怪我をしていた。  「よくやったわ貴方達。」  「はい!ありがとうございます!」  「美鈴さんのアドバイスどおり"水"をかけたら簡単に捕縛できました!」  ――"水"…?  「ご苦労様でした。ではこちらにつれてきてください。」  美鈴はメイドたちをねぎらい、手招きする。  ――まて、何を、何を言ってる…?"水をかけた"だと…?  まさか――――    「ら…藍様…」  「さすが、勘がいいわね。大当たり」  ――なぜ。なぜお前がここにいる?さっきマヨイガで別れたばかりじゃないか  そこには橙がいた。しかも着衣のままずぶ濡れで、両手を縛り上げられて。  「ショックで口が開けないようね。それじゃあ教えてあげましょうか。」  「この子は妖怪の山近くの森でうちのメイドたちが捕まえたの。」  ――家でおとなしくしていろといったじゃないか  「メイドが言うには、術の訓練をしていたと言うわ。すごい張り切りようだったから、きっとうまくいって舞い上がっちゃってたんじゃないかって」  ――そんな…私が、私があんなに褒めたからなのか…?だが、でも…  「それでね。近くに川があったからそこで汲んだ水をこの子の死角からぶっかけてあげたそうよ。確か、式って水がかかると解けちゃうのよね?」  ――ああ、橙、あんなにずぶぬれで…このままだと風邪を引いてしまうじゃないか  「可愛そうよね。私もこの子には恨みがないのだけど。」  ――そう思うならはなしてやってくれ!私はどうなってもいい!だから橙だけは…!!  「あなた…今自分はどうなってもいいって考えたでしょう?」  「え」  気がつくとフランドールは眼前にいた。その怪しい目を細めながら。  「でもダメよ。」  淡々とした口調で私に告げる。  「彼女と、交換条件よ」  ――な、何を…  フランドールはこれ以上ないくらい口をゆがめて言い放った。  「八雲紫の屋敷の場所まで、私達を連れて行きなさい。」  「だ、ダメだ!できるわけがないだろう!?」  瞬時に私は拒絶する。そんなこと、口が裂けてもいえない。  「…そ。」  フランドールは抑揚のない声で橙のほうに振り返る。橙はフランドールの瞳を恐怖のあまり直視できず、目をそらした。  「美鈴」  そして淡々と門番の名前を呼ぶ。門番は返事もせずにメイドたちに藍を任せ、そして――  ボギィッ!!  「ぎぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあぁッッ!!!!」  「な…!?」  橙の左腕を破壊した。手加減のない全力の蹴りは、式神とはいえまだ未熟な彼女の肉体に深いダメージを与えた。  骨は一瞬で砕け、その破片が体内の神経に当たり、脳が激痛を呼び起こす。  言葉にならない悲鳴を上げて、橙はその場に崩れ落ち――なかった。  メイド妖精が木の枝に固くつないだ縄のせいで、ぶら下がりはすれど倒れることはできない。  「い…ぁぁぁぁああぁぁっ…!!」  「橙!!!」  痛みに涙が止まらない。そんな橙を見ていられなかった。たまらず私は叫ぶ。だが四肢の動かぬこの身では、脆弱なメイド妖精の拘束にすら、抗えなかった。  「教える気になった?」  だがその叫びもフランドールの抑揚のない声に阻まれた。  「……ッ!!」  「…そ。」  「美鈴」  ボグウゥウッッ!!!!  「ぐげぇぇぇぇっっ!!」  びちゃびちゃびちゃ…  またも命令から刹那、迷いなき胃への強烈な拳打に、橙は激しく身を震わせ、白目をむいて吐瀉物を吐き散らす。吐いた物に血も混じっていることからどうやら胃が破れたようだ。  「やめろ!!やめてくれフランドール!!」  必死に私は叫ぶ。やめてもらうように。少しでも自分に矛先が向くように。  「う…ら、ら、んさま…」    橙はあまりの苦しみに、意識が朦朧としている。はやく、助けなければ…!でも、どうやって?  「教える気になった?」   だが、やはり同じ口調でフランドールは尋問を続ける。だが言うわけには行かない。  「こ、断る…!!」  「そ。」  「美鈴」  バギイイイイィッッ!!!  「ぐあぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁッッ!!!!!」  今度は脚を折られた。ああ…膝が逆方向に曲がっている…。  「教える気になった?」  「……っ」  「そ。美鈴」  ズドオオオォォオッ!!!!!  「ぐぷッッ!!」  次は顔面。鼻血が噴水のように流れ出る。  「や…やめ…」  「美鈴」  ドスウウウゥゥゥウッッ!!!!!!  「ぐえぇぇぇぇええぇぇっ!!!!!!!!」  「や、やめて…」  「美鈴」  ブヂイイイイイイィイイイィッッ!!!!  「いぎゃぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁあああああッッッ!!!!!!!」  尻尾を、ちぎられた。  ――ああ、せっかく3本目が生えてくると思ったのに。お前の成長が、とても楽しみだったのに…。    「めいり…」  「もうっ!もうやめてくれぇぇぇぇえええッッ!!!!屋敷に案内するッ!だからッ!!!これいじょう、ちぇんに、ひどいことしないで……ッッ!!!」  もう私は、耐えられなかった。  情けなく涙と鼻水を垂れ流し、許しを乞うた。橙への暴力が止まるよう願った…。  「ら、ん、さ、…」  橙はそこで意識を失った。左腕右ひざは砕け、腹部への甚大なダメージ。顔面陥没におそらく頭蓋骨も骨折しているだろう。脳への影響は大丈夫なのか?そして、彼女のトレードマークである耳と尻尾は、根元から引きちぎられていた。  かわいそうにかわいそうに、私の愛しい式神。こんな姿になるまで救えなかった愚かな私を、許しておくれ。情けない私を、許しておくれ。    そして私はフランドールに、屈した。愛する式神を盾にする卑劣なやり方に、私は屈したのだ。  私は四肢を拘束されたまま八雲の屋敷へ彼女達を引き連れた。それが、橙にこれ以上手を加えないという条件だったから。 ぼろぼろの橙には美鈴が最小限の応急処置を施し、その場においてきた。回復の術だけはかける許しが出たので全力を持って私にできる最高の治癒術をかけてあげた。彼女の命が失われることがないよう、祈りながら。 術を唱え終わったあと。再び術が使えぬよう、気で拘束をされた。だが、いいんだ。攻撃の意思は私にはもうない。  ごめんなさい、ちぇん。すべてが終わったら、きっと迎えに来るから。                    そして、  ごめんなさいゆかりさま。らんは、らんはうらぎりものです。  藍は心の中で何度も何度も、懺悔の言葉を口にした。しかしその声は、誰にも、聞こえることはなかった。 4. Case 八雲紫  「…?」  空間のゆがみを感じる。藍が帰ったのだろうか。それにしてはいつもと気の流れが違う。  違和感に立ち上がり、様子を見に玄関を出る。  ただならぬ気のゆがみ。ありえるはずのない現象。  「藍、藍!いるんでしょう?」  戻っているであろう式神を呼ぶ。彼女でなければこの場所はたどり着けない。  ゆえに外部のものが来れるはずがない。  「藍!どこにいるの!?来ているのは分かっているのよ!」  なんだ…。この胸騒ぎは。  おかしい。  何かおかしい。  「ゆ…紫、さ、ま…」  藍の声がした。その方向へ行ってみる。  「藍!かくれんぼに興じるほど、私は暇じゃなくってよ!早く出てきなさい!」  ふざけているのだろうか?このような不快な空気の中遊びに付き合ってやれるほど私は呑気ではない。   早く出てきなさい。そして説教してやる。  だが。  がさ…  「ら、藍…!」  そこには確かに藍がいた。だが、そこにいたのは全身に"気"を打ち込まれ、関節を外され、そして両の眼をつぶされた見るも無残な式神だったのだ。眼球がないのだろう。陥没が起こり、そこからはどす黒い血が流れ出ている。まるで涙のように。  そして…  「お久しぶりね。幻想郷の賢者」  人影は紅い瞳を細めて、上機嫌なまま言葉を吐いた。  「なっ…!?」  絶句する私。  ――なぜだ。なぜおまえがここにいる。  「なぜかしらね。たどり着けないはずの賢者の屋敷」  ――誰も来られないはずなのに。    私の前には「あの」フランドール・スカーレットがいた。先日血祭りに上げた悪魔の血を分けた妹。取るに足らないはずの子供。それがなぜここにいる。    「たどり着けないなら、たどり着ける奴に連れてきてもらえば、ホラこのとおり」  悪魔の妹はさも楽しそうに、両手を広げて演説をするように言葉を発した。  「ら、藍…!!貴女、まさか…」  「そうその まさか よ。」   フランドールはにんまりと哂い、私の意図を肯定する。  「この式神さんにはここまで案内してもらったわ。目の前で捕まえた化け猫に危害を加えたら、最後の最後で要求を呑んでくれたわ」  「…!!」  バカな。たったそれだけのために幼い橙に手を上げたというの!?  「ゆ、紫様…橙は…腕を砕かれ、顔をつぶされ、尾をちぎられ、それはかわいそうな姿にされてしまいました…」  「な…」  すでにない眼球の奥で、もう出ないはずの涙を出す代わりに血を流し、嗚咽を漏らしながら、藍は言葉を続けた。  「私は、何もできない目の前で、橙がそのような目に遭うことに、耐えることができませんでした…私は、式神失格です…」  藍の言葉は嘘偽りなく真実なのだろう。あの藍が、私が認めた完璧なる式が、ここまでに狼狽し、後悔し、嗚咽に溺れる様を、私はこの1000年見たことがあっただろうか?  もう見えぬ目で、こちらを向く藍。その表情は痛々しく、懺悔の心に満ちていた。  「私はどうなってもかまいません…ですが橙は…橙だけはどうか…」  「そう…」  橙への仕打ちは分かった。確かにかわいそうなことをした。  だが私は目の前の式に失望した。主よりも部下を重んじたその精神が、許せなかった。決して明かしてはならぬ聖域へ、招かれざる客を連れてきてしまった。なんと愚かな。 罵倒してしまいたかった。 酌量の余地はなかった。 "この役立たず!!"そう私は口を開こうとし――  「はいストップ。」  バガァァァァァアアアアアァァンッッ!!!!!  「!?」  口を開く前に背後から爆音が響いた。  思わず振り向くと、屋敷が爆発するのが見え、そして衝撃波が私を襲った。  たまらず隙間を開き、身を隠そうとしたそのとき――  ――ツ カ マ エ タ 。  ぎゅッ!!  「なッ!?」  フランドールはその場で右手を握った。その瞬間隙間に入ろうとした私は、"隙間を開けず"衝撃波をその身に受けることになった。爆風が私を吹き飛ばし、十数メートル遠くで地面に強く打ちつけられた。  「ぐ…ッううっ!!」  何とか身を起こそうと手を付いたが、そこに人影が来るのが見えた。  ひたっ、ひたっ、ひたっ  少女の靴音が、静かな音を奏でこっちに向かってくる。  いけない。早く身を起こさなくては。  「いいざまね、八雲紫」  だがそれより早く、フランドールは紫の眼前に立っていた。これっぽっちの慈悲も持たない、紅くて冷たい目をしながら。  「ぐ…調子に…のっ…!!!」   ぶんっ!  腕を振って隙間を展開――――できなかった。  「…!?」  くすくすくすくす。 嘲り笑う声が聞こえる。  「貴女の力は、たった今"壊した"。もう二度と使えないわ。残念だったわね」  "壊した"…だと?  「種明かしをしましょうか」  フランドールはにたりと笑った。  その恐ろしい表情を見た私は恐怖のあまり、耳を傾けることしかできなくなったのだ。    「まず、貴女の力について。ただでさえ出し惜しみをして直接手を下すことが少ない貴女は表だって力を使うことが少ない。だから隙間の力を無理やり使わせる必要があった。無理やりなら使う力をタイミングもつかみやすい」    「次にその方法。貴女は身の危険を感じると、まず隙間を展開して逃げ込む。貴女にしかいけない空間だし、他の誰も干渉できないからあなたが知る中でもっとも安全な避難場所であるはず。」  「じゃあこの問題をどうするか?答えはこれよ」  そう言って私の背後を指差すフランドール。私の屋敷は轟々と炎を上げて燃えていた。    「あえて貴女を危険にさらして、隙間を展開させる瞬間を作ってやればいい。そして展開しようとした隙間を、"能力ごと私の力で破壊した"。」  それを聞いた私は耳を疑った。  "能力を破壊しただと?そんなバカな…!!"  「信じられない?でも私の力は万物を破壊する力。その効能を恐れて、お姉様は私をずっと地下に幽閉していたのね。私が使い方を誤れば、文字通り全てを壊してしまう。その気になれば咲夜も、パチュリーもお姉様の運命を操る力さえも、みんなみんな、壊してしまうことができたから!」  フランドールは握った右手を静かに開いた。  「だけど、私はそんなことには使いたくなかった。みんなと楽しく生きていられれば、それだけでよかった。」  ――バカな。バカなバカなバカな!!!  そしてゆっくりと、指を折って行く。  「だから私は、甘んじて幽閉を受け入れた。誰も不幸にしないように。皆が楽しく暮らせるように。」  親指、人差し指、中指、薬指。  「お姉様は私に対して最後まで心を痛めていたことも知ってる。だから、私は外に出ようとは思っていなかった。それでよかった。皆が笑顔でいてくれるなら、それで、よかった。」  そして小指を折り拳を固めたところで、  ――"力"が、疾走(はしっ)た。  バグオオオオオォォオオンッッ!!!!  「あぁぁぁぁああぁぁぁぁっ!!?」  刹那右腕が、吹き飛んだ。  そう、付け根から、一気に。骨すら残らないほどに。文字通りばらばらに。  「いた…痛い…!!」  痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!  焼けるような痛みが、全身を襲う。大量の血が噴出し、私の周りを赤く染めて行く。  「それを!!お前が!!!全て奪ったんだ!!!!!」  間髪いれず再び拳を握る。  ギュッ!  バガァァァァァァァァァンッッ!!!!  「ぎ…ぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁああッッ!!!!!!」  今度は左腕が、吹き飛んだ。  痛みに体勢を崩した。だが私を支える両腕は、もうない。情けなく顔から地面に倒れこむ。  痛い。顔をしたたかに地面に打ち付けてしまった。口の中に何かある。歯が折れたのかもしれない。    だがなおも、フランドールは拳を握る。  「お前が!!お前のせいで!!咲夜が!!!」  ギュッ!!  ドゴオオオオォォォォォオオオォォッッ!!!!!!  「うぁぁぁぁああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁッッ!!!!!」  右足が、吹き飛んだ。いったい出血量はどれほどのものなのだろう。そんな考えが頭をよぎった。  「パチュリーが!!!小悪魔が!!!!!」  ギュッ!!!  ドカァァァァァァアアァァァァンッッッ!!!!!!!!  「ぎぇぇぁぁぁぁぁァああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁッッ!!!」  左足が、ちぎれ飛んだ。四肢を失った私は、想像を絶する痛みにもがきたくとも、もはやどうすることもできない。  ああ…血なんてどうでもいい…  今私は、壊されている。眼前のこの小娘に、破壊されているのだ。  取るに足らぬと侮っていた、矮小だと軽んじていた、悪魔の妹に逆襲され、破壊されているのだ。  悔しい。だが、どうにもできない。  力が使えない。  手がないから抵抗できない。  足がないから踏ん張れない。  「お姉様が死んだんだ!!!お前が殺したんだ!!!!お前のエゴで!!!お前のッッ!!!」  フランドールは達磨になった私に馬乗りになって、何度も顔面を殴打した。  「お前は絶対に許さない!!ころしてやる!!殺してやる!!!コロシテヤル!!!」   ドガッ!!!ドガッ!!!ボギィッ!!!グシャァァッッ!!!   唇は切れ、鼻は折れ、頬は破れ、目は潰され、耳は引きちぎられ、髪は燃やされ、  ブチィィッ!!!ボグッ!!!ズボッ!!!!!ビチャァァァァッッ!!! 顎は砕かれ、首は折れ、胸はちぎられ、腹は穴が開き、  「死ねッ!!!死ねッ!!!!死ねェェェェェェエエエェェェェエエッッ!!!!!!!!!!!!!!!」 ギチッ!!! フランドールが、渾身の力をこめて握った拳は、  ――わタ  し      ヲ   、  バ   RA    ば らニ HI き     裂 イ      タ 。――  ――……  ――………  「お嬢様」  復讐を果たし、達成感と興奮からふーふーと息を荒げるフランドールに、後ろから優しく声がかかる。美鈴だ。どうやら押さえつけていた藍も事切れたらしい。後でわかったのだが、あの後化け猫が絶命したのを気で感じ取ったあと、罪悪感からか、自らも舌を噛んで自害したそうだ。  八雲は、消滅した。  「お手は大丈夫ですか?」  言われてみると、指が全て折れていた。強く握りすぎて自分の手を握りつぶしてしまったらしい。 壊れた私の手を優しく両手でつつみこむ、美鈴のやさしさがうれしかった。  「うん。痛いけど、すぐ治るから。ごめんね美鈴」  「いいえ。フランドール様は使命を果たされた。この紅美鈴が、しかと見届けました。これでレミリアお嬢様たちも浮かば―――」  「まだよ。」  私は言葉をさえぎる。  「まだ勢力は残ってる。八雲が死んだと分かれば、巫女も動き出すでしょうね。そして永遠亭やそのほかの勢力も…」  「はい!最後まで、どこまででもお供します。主よ…次なるご命令を」  美鈴は跪き、頭を垂れた。 ――…… 5.破壊するもの  私はそのあとも幻想郷の勢力を相手に破壊の力を行使した。 八雲紫が作ったこの世界など壊してやる。その想いを胸に、私は幽閉され力を行使できなかった年月を取り返すように"力"を使って、使って、使いまくった。  襲われたあるものは抵抗をし、あるものは同調したが、どちらも迷わず壊した。私達に味方はこれ以上いらない。今は仲間でも最後まで仲間とは限らない。私が信じられるのは、"家族"だけ。  鼠、寅、山彦、入道使いの四人はあっけなく破壊できた。所詮は有象無象。毘沙門天の使いも、力を破壊してしまえばただの獣に成り下がった。  正体不明の妖怪は、その不明瞭さを"破壊"して明るみに出してやった。パニックになって逃げ惑ところを羽根を壊した。はいずるところで頭を握りつぶした。住職は身体強化の魔法で抵抗してきたけれど、所詮は元人間。どれだけ強かろうと吸血鬼の腕力にはかなわない。少々の抵抗のあと圧倒的な膂力の差に絶望し、経を唱えているところを縦に真っ二つに引き裂いてやった。  狸はやれ生まれはどうだの自分が何年生きているだのわけの分からないことをがあがあとわめくだけでちっとも戦おうとしないので口上を垂れている間に喉を破壊してしゃべれなくしてから頭を握りつぶした。  道士は三位一体の連携がうざったかったので、身につけてる道具ごと破壊したら動かなくなった。どうやら道具が本体だったらしい。あっけなかったが、様子を見に来た邪仙と遭遇するも、こちらも盾にしたキョンシーごと胴体を真っ二つにしてやった。  小人は踏みつけたら頭が吹き飛んだ。九十九神の姉妹は仲良くしているのが気に入らなかったので理性を破壊して同士討ちをさせた。狼と人魚は最後までおびえていたが、見逃すと後々恨みを買い面倒になると思ったので、その場で殺した。  天邪鬼は「お前なんか怖くない!私がぶっ潰してやる!命乞いをするなら今のうちだぞ!」と強がりを言っていたので、手足を順に吹き飛ばしてやった。達磨になったところで「死ぬのなんか…こ、ごわく…ない…」と言っていたので「そう」と返し頭を引き裂いた。  妖怪の山の奴等は、まず天狗の頭取の住処をブン屋をふん捕まえて場所を吐かせた。羽根と右手をバラバラに破壊したら、泣き叫びながら情報を提供してきた。普段ネタのためには他人のプライベートなどもお構いなしが信条の彼女も、自分の命は惜しいらしい。聞いたとおりの場所に乗り込み、天狗の首領を一撃でばらばらにした。上が消えれば、下はあれやこれやの大混乱。指揮系統が崩れた組織は、こちらが手を下さなくともやがて自壊する。再び勢力として台頭するなら今回と同じことをしてやるまでだ。もちろんそのあとに地べたを無様にはいつくばっているブン屋も命乞いに耳を貸さずf胴体を破裂させ、転がった頭を踏み潰した。  河童はこちらを恐れてなかなか姿を現さなかったので、住処の周辺を手当たり次第破壊してみたら白旗を上げてきた。おべっかを使って助けを乞うてきたが、誰一人助けることなく爆殺した。  厄神と秋の神はこちらに敵対する意思はないようだった。だがいつ寝首をかかれるとも限らなかったので、その場で細切れにした。  頂上の神二柱は、そのままでは破壊の力が効かなかったので、巫女を人質に取り、こちらに手を出せなくなったところで奴らが持つ信仰を"破壊"した。それによって奴らは形を保てなくなりこの世から消滅した。巫女はその場で殺してもよかったのだが、はぐれ里に置いて放置した。あれだけの美人だ。きっと里の男共の慰み者になり何度も犯されていることだろう。孕んだことが分かってから、おなかの子供ごと爆破してやろう。  ウサギ共は一匹一匹探し出すのが面倒だったので、竹林を全て焼き払って、殺した。月のウサギも抵抗してきたが、彼女の力は今の私には効果がなかった。どうやらすでに狂気に染まっていると狂わされてもなんともないらしい。そこで自分が狂ってしまっているんだと再認識した。なんだ。気が触れているという阿礼乙女の書き記した本そのまんまになってしまったではないか。 それがとてもおかしかったので、紫髪のウサギを爆殺したその場でげらげらと笑った。 薬師と姫は不死身で何度殺してもその場で蘇って来るので、殺しては目の前で生き返るのを待ち、目を開けてはすぐに内臓爆破を果てしなく繰り返した。数日経ち殺害回数が数百回になる頃には、姫はもちろん、あの普段凛然とした薬師でさえ 「もう…許して…ゆるひて、くだひゃい……っ、も、痛いの、やぁぁ……っ…ううっ……いだい…おなか、いだいよぉ…ゆるひて…ゆる…、ひ……」 と美しい顔を涙と鼻水と涎で不細工に塗りたてて、謝罪の言葉を繰り返すようになった。しかし、それを見ても私の怒りはまだ治まらなかったので、かまわず内臓を破裂させ続けた。時折気が変わって破壊する場所を顔面に変えたり、髪に変えたり、脳に変えたり、子宮に変えたりして薬師の泣き叫び、苦しみもがく様を見て悦に浸った。正直に言うが、そのときはおなかの奥がきゅんと熱くなったものだ。 更に数日経ち殺害回数が4桁に到達する頃には、繰り返す痛みに心のほうが耐えられず壊れてしまったようだった。目が虚ろになり、着衣の上から涎、糞尿を垂れ流し開いたままの口からえへ、えへへへ、と情けない笑い声を上げ続けていた。そこで気が済んだので動かなくなった姫共々そのままそこに放置した。 帰りの途中で白髪の蓬莱人にも出会ったので同じ方法で廃人にした。二人のところに引きずっていき、三人とも顔をあわせながらエヘエヘと涎を垂れ流しながら笑っているのを確認してからその場を後にした。永遠亭の地下で発見した里の教師は、すでに薬師に廃人にされ非常に衰弱していたので、気の毒に思い美鈴にお願いして安楽死させてやった。  白玉楼の亡霊は、元々死んでいることもあって、正直手こずった。しかし戦っていた場所の大きな木を破壊したら、いつの間にか亡霊も消滅していた。関係があったということなのだろうか。  主の異変を感じ取った庭師も、怒りの形相で襲い掛かってきたが、吸血鬼の目にかかれば彼女の太刀筋はあくびが出るほど遅かった。刀を破壊し、戦意を失わせたところで美鈴に犯させた。破瓜と強姦の痛みに最後まで泣き叫び続けていたが、こういう手合いはすぐ殺すよりこちらのほうがよっぽど屈辱になっただろう。数時間後、目から光が消えたことを確認してから、かけら一つ残さず爆殺した。周りを飛んでいた白い幽霊もその瞬間消滅した。    人形遣いは人形を一匹残らず破壊してやってショックで一瞬動きを止めたところを、フルスピードの貫手で心臓を一突きして殺した。吸血鬼に隙を見せてはいけない。  私を止めにきた白黒の泥棒魔法使いは、元々ただの人間なので魔力の元を破壊して術を使えなくしたら後はあっけなかった。しかし散々悪態をついてきて腹が立ったので、髪をつかんで岩場を一時間ほど引きずり回し、顔が血と傷と涙と鼻水でくしゃくしゃになったところを見てからデコピン一発かましたら、首から上が吹っ飛んでしまった。もっと苦しんでる顔を見せて欲しかったのにな。吹き飛んだ首は、振りかぶって思いっきり力を込めて投げた。きれいな軌道を描いて落ちて行くのを、目視で確認してから拳を握って破壊した。思っていたのと違ってとても汚い花火だった。  閻魔も秩序を乱す私に説教を説きにきたが、彼女に戦う覚悟が足りなかったようだ。説教などこちらには聴くつもりがまったくなかったので、口を開いた瞬間口内を爆発させ閻魔がひるんだ隙に、今度は全身を木っ端微塵に破裂させた。チリも残らなかった。  死神も上司の様子を見に来たようだったが、己の命のほうが惜しいらしく、こちらが何をせずとも命乞いをしてきた。しかし、飄々としている態度が馬鹿にされているようで腹が立ったので、頭を粉々に吹き飛ばした。  そして最後に襲ってきた巫女は、私がどんなに即死級の攻撃を繰り出そうと、不可思議な術で攻撃が全て無効化されるので、こちらも向こうの攻撃が当たらないように相手の弾幕の『攻撃力』を"破壊"した。 こっちも倒せないが、向こうもこちらを倒せないので、千日手になった。だがどれだけ強かろうと、巫女は人間。長時間戦えば疲弊する。こちらは美鈴の血を少量吸えば、その何倍も長く戦っていられる。しかも攻める側はこちら。血を吸う時間も十分取れた。何せ相手は私に攻撃ができず、かつ私の攻撃をかわし続けなければ自分が死ぬだけなのだ。もちろん休戦も食事の時間も与えない。そんな隙を見せればその瞬間殺すだけだ。それを持ち前の勘で感じ取ってか、巫女も休まず戦う覚悟を決めたようだった。 一瞬の隙も与えない。何時間もそのまま対峙していると、巫女はやむなく糞尿を垂れ流した。だがその間も、こちらから一切視線は外さなかった。人間は不便なものだと思った。それでも戦う意思を失わない巫女の心意気だけは、評価できた。  数日間のこう着状態の後、巫女は飢餓と疲労によってついに墜落した。衰弱により術が使えないところを、腕力で五体バラバラに引きちぎってやった。  パワーバランスを担う存在をすべからく殺した後はとても簡単だった。残ったのは有象無象。人間や力の弱い妖怪のみ。  私は殺した。殺した。  殺して、  殺して、  殺して、  殺しつくした。  幻想郷のあらゆる場所から火が上がり、私の瞳みたいに真っ赤に燃えている。    愉しかった。  私は笑い声を高らかに上げて、残った命を狩り続けた。  ――そして幻想郷は、消滅した。 6.少女の願いは  「終わりましたね。」  虐殺の夜から一晩空けて、燃え上がっていた火も全て燃やしつくし、残りは灰だけとなった頃、  美鈴が私の肩に優しく手をかけた。  「ええ。後は…」  私は美鈴の手を取り、その場に座らせた。  「ありがとう美鈴。貴女が、あなた達が力を貸してくれたから、ついてきてくれたから、私はやりたいことを成し遂げられた。」    ついてきてくれたメイドたちも、一人、また一人と殺されていき、いまや残るは美鈴一人。妖精は本当の意味では死なないが、生き返ると記憶はリセットされる。私についてきてくれたメイドたちは、その記憶もないままに普通の妖精として次の人生を歩むのだ。  「お嬢様はご立派でした。私達の無念を晴らしてくださいました。感謝してもし尽くせません」  美鈴は笑顔で言葉を返した。  その表情はにこやかだったが、瞳は強く、強く輝いていた。  「では、そろそろ…終わらせてくださいますか」  美鈴はそう言った。私もその意味を汲み取った。  「うん。すぐに追いかけるよ。待ってて」  「ありがとうございます。妹様」  また私をその呼び方で呼んでくれた。うれしい。  私はたまらず美鈴に抱きついた。  ありがとう。こんな私のために、全てを捧げてくれて、ありがとう。  「ありがとう。本当にありがとう。だいすきだよ、めーりん」  膝立ちの彼女の額に、感謝のキッスをして、抱きついた両手を離し、そして、拳を握る。  美鈴は、爆発することなく、安らかな表情のままその場に崩れ落ちた。  絶命の痛みと、生命活動を、"壊した"。  私も美鈴も逝く先はきっと地獄だ。だけどそれも面白いじゃないか。  悪魔は地獄がふるさとだ。お姉様も悪魔の犬の咲夜も、"魔"女のパチュリーも、名前からして悪魔のあの子も、きっとそっち(地獄)にいっていることだろう。      ――私は最後の拳を自分の胸に当てた。最後の最後の力の行使。   「また、あの世で、みんな一緒に暮らそうね。」  ――力の矛先は、自分の"命"  「そして、今度はみんな、幸せに…――  なれると、  いいな。  ――拳を握り、私の意識は、闇へと消えていった……  fin