CRIMETHINK Minitrue mark SS doubleplusungood crimethink. Miniluv remake goodthink fullwise. ・警告 1)椛虐めネタです。痛覚的に過激な表現があります。ご注意ください。 2)オチは投げっぱなしです。そこから後は自分で想像してください。 3)椛と文の仲が非常に良いという設定になっています。  椛は見張り役には自信があった。 千里の先を見通す眼、鋭い嗅覚、そして俊敏な運動性。 それら斥候に必要とされる要素を高次元で備えた椛は、優秀な見張り役であった。  椛にとって最大の屈辱は、自らが敗北することではない。 敵よりもはやく味方、天狗の本営まで情報を伝えることが仕事の椛には 敗北などという概念は存在し得なかった。  様子を見た後は、ただ尻尾を巻いて逃げればいいだけ。 負け犬、弱い犬などと揶揄されようが知ったことではない。 それが椛の役割であり、仕事であり、椛はそれを誇りにしていたし 皆からも認められていた。 したがって、椛にとって最大の屈辱とは  椛は今、滝がごうごうとなだれ落ちてゆく崖の中腹にある小さな洞穴で 侵入者によって身動きが取れない状態にされてしまっていた。  そいつは音もなく来た。姿を見せず来た。匂いさえ消して来た。 ただ滝の裏で河童と将棋に明け暮れていたところで、椛は、その河童と共に 突然殴り倒された。河童は一撃でダウンしたが、椛は体勢を立て直そうと 壁を蹴って身軽にくるりと立ち上がったところで、今度は背中を蹴られて 壁に叩きつけられ、倒れたところで腹部を踏みつけられ、そこで意識を失った。  気づいてみればこの有様だ。椛は渾身の力を振り絞ってもがいたが 身体を縛っている細い紐は、動けば動くほど椛の身体に食い込んだ。 目隠しをされていても、自分の腕や脚が裂け、そこから血が伝うのが、 激痛と皮膚の表面を液体が伝う感触で理解できた。 よほど細くて強靭な紐、いや、糸らしいが、一体何なのか見当もつかない。 「そう、もがけばもがくほど貴方の身体は切り刻まれる」  異変を感じてから初めて聞く声だった。目隠しの向こうにいるそいつは言ってのけた。 「死にたくなかったらそこで全てが終わるまで大人しくしてなさい」  冷たい、声だった。どこか同じ幻想郷のものとは思えないところがあった。 誰よ、誰なの? 椛はそう問いたかったが、口に嵌められた猿轡がそれを阻害した。 冷たい声は、うーうーと唸る椛の頭を、足蹴にして、そしてこう述べた。 「さて、早期警戒網は潰したわけで、天狗さん達は目と耳を失ったことになるわね」  椛ははっとした。そうだ、侵入者だ。これを天狗の長に伝えなければならない。 そうしなければ奇襲を許すことになる。 あまりにも敵対的なこいつが、無警戒な天狗の皆に奇襲的に襲い掛かる。 一人一匹であればたいしたことはないだろう、天狗は強い。  だが椛には解った。最初に敵の警戒網を潰すのは戦の常套手段だ。 こいつは絶対一人じゃない。大変だ。皆に知らせなければ。 椛はうめき声を上げ、目隠しの下から涙を滲ませて、身をよじった。 だが、糸はもがくほどに椛の身体に食い込んだ。指が、腕が、首が胸が大腿が足首が 刃物のようなそれに食い込まれて血を流し、そのたび椛は猿轡を噛み締めて吼えた。 「ものわかりの悪い奴ね、あんまり無茶して死なれても後味悪いし、仕方ないわ」  椛は冷たい声の主が自分の腕に触れるのを感じた。 やめろ、触るな、汚らわしい! だが、椛の声はただの咆哮にしかならず、腕をねめまわすように触るそいつの手に 抗議することはかなわない。  ほどなくして、そいつの手は椛の腕の一部を指圧し、それとは別に何か針のようなものが 椛の腕に突き刺された。 「ぅぐっ!?」  椛はそれがなんだかわからなかったが、痛覚と同時に何か未知の不快感を感じ取った。 何かが自分の中に注入されていく感覚が伝わってくる。 そうか、これは注射か! 「しばらく寝てて貰うわ。起きた時は全て終わってるから」  冷たい声は、少し弾んだ声でそう告げた。それを聞き終わると同時に、 椛は形容しがたい猛烈な眠気に襲われた。 しばらう寝てて貰う・・・睡眠薬か何かだろう。 椛はしだいにあいまいになっていく意識でそう推測した。 そして、その瞬間、今までに自分が受けた仕打ちから、こいつが何者なのか、 どこから来たのか、理解できたのだが、椛の意識はそこまででホワイトアウトしてしまった。 ・・・  鈴仙・優曇華院・イナバは奇襲が成功したことに上機嫌であった。 可視光と赤外線を操って姿を消し、音波を操って気配を消し、 臭気の原因である化学物質は、適当な放射線を当てて原子核崩壊させる。 あまりにも無茶な芸当だが、波動を操る月兎はそれをやってのけた。 まさにフルステルスである。この状態の鈴仙を発見できる者は、幻想郷でも限られるだろう。 「よろしい、これで第一段階は終了。第二段階は・・・」  再び姿を消した鈴仙は、洞穴を出て、山の上を目指して進み始めた。 あの、外の世界からやってきたという神社の現人神、巫女を拉致するために。 外の世界の情報を知っておく、ただそれだけのために。  鈴仙はそれに迷うことなどなかった。博麗大結界の中が安全だと解っていても 地上人がどうなったのか、月人がどうなったのか、それは解らないし、もしかしたら 月人が勝利してまた強力な結界を破る術をもって地上にやってこないとも限らないのだから。 月人どもは、いまだに、やはりどこか疑心暗鬼に陥っていた。 ・・・  椛が発見されたのは、守矢神社の巫女が消えてから丸一日後だった。 まず最初に、椛と将棋をしていた河童が伸びているのが発見され、 椛が居ないということになり、河童と天狗たちが探し回った結果、河童のうち一匹に発見された。 「単分子ワイヤー・・・」  にとりは、それを見るなり唖然とした。自分でも製造に成功したためしのない高度技術の結晶 椛はそれで体を縛られ、食い込んだワイヤーが椛の皮膚を切り刻んでいる。 理論は知っていたが見るのは初めて、普段なら狂喜乱舞するにとりだろうが、目の前の 惨状はそれを圧倒する悲惨なものであった。  にとりはバッグからワイヤーカッターを取り出し、切断を試みたが、強靭なワイヤはなかなか 切れず、逆にカッターをぼろぼろにしてしまった。 やむなく、にとりは椛をかついで連れて行くことにした。椛の体温は出血と冬の寒さ、そして 洞窟の岩肌に触れていたことにより、異常に低下しており、まごまごしてはいられなかった。 ・・・  椛は布団の中で意識を取り戻した。 頭がガンガンして、何があったのかよく思い出せなかった。 しばらく天井を見上げているうちに、匂いから、ここが文の家であることに気づき 自分が侵入者に鎧袖一触で倒され、縛り上げられていたことを思い出した。 そうだ、知らせにいかなきゃいけなかったんだ。 椛は起き上がろうとして激痛に襲われ、再び布団の上に倒れた。 見れば体中、包帯まみれだった。ワイヤーの感触はもうないが、腕も脚も腰も、動かすと 猛烈な痛みに襲われ、ただうめくことしかできない。  襖が開いた。 「椛、気が付いた?」  文が部屋に入ってきた。椛の呻き声が伝わったのだろう。 久しぶりに見る仲間の顔に、椛は安堵した。すくなくとも文様は無事だったらしい。 自分が個室で介抱されているのを見るに、おそらく他の大勢も無事だろう、そう思った。 「まだ痛む?身体」  椛は首が痛むので口だけではいと答えた。文は微笑んでいるのか悲しんでいるのか よくわからない目をして、椛の布団の隣に腰をおろし、唯一傷ついていない頭に手をやり、撫でた。 椛はたまらなくなって問いかけた。文様・・・他の皆は? 「大丈夫。天狗は誰もやられなかった。椛以外」  椛は安堵の溜息を漏らした。どうやら大攻勢があるという予測は杞憂だったようだ。 よかった。私が務めを果たせなかったせいで誰か死んだりなんかしていたら、 どうしようかと思いました。小さな声で文にそう告げると、文は微妙だった表情を 哀しみへ一層近づけて、目尻に浮かんだ涙を指で拭った。 「よくない。かわいい椛がこんなにされたのよ?私はあの人攫いが憎い」  人攫い? 「そう、犯人は私たちには目もくれなかった。あの新しく引っ越してきた神社、あそこの  巫女を連れ去っていったわ。私は椛も一緒に連れていかれたのかと思って心配で心配で・・」 途中から泣き出してしまった文を、椛は健気にも励ました。 文様、泣かないでください。私はこうして無事ですし、人攫いとなれば博麗の巫女も動きます。 あの青の巫女さんもいずれ見つかるでしょう。  椛は動かせば激痛がはしるはずの腕を両方とも文に差し出し、文の掌を握り締めた。 痛みに少し顔をしかめたが、声には出さない。 「も、椛、無理しちゃ駄目!骨まで食い込んでたのよ!?」  涙をぼろぼろこぼしながら文は椛を嗜める。それでも椛は文へ微笑みかけた。 だいじょうぶですよ、文様、大丈夫だから、泣かないで・・・ ・・・  椛はある程度まで快復したところで、天狗の長のところまで呼び出された。 「怪我人を呼び出すなんて・・・」  文は怒りを露にしたが、椛はまだ不自由な身体を起こして着替えはじめた。 仕方ありませんよ文様。当然の報いです。私は務めを果たせなかったんですから。 それでも微笑を崩さず椛は言ってのけた。 罰を与えられに行く、それが解っているのに、文を気遣って仕方ないと言うのだ。 「何が仕方ないのよ、神様が二人いるとこから巫女を連れ去るようなバケモノよ?  そんなやつを阻止できなかったからって椛に責任を着せるなんて間違ってる、  だいたい他の天狗もみんな気づかなかったじゃない!」 文は泣いた。泣きながら納得いかない心の中をぶちまけた。  椛はそれでも超然としていた。いいんですよ、心配しないでください、文様。 文は椛を抱きしめてすすり泣いた。椛の身体を痛めることのないよう、 優しく包み込むように抱いて、椛の名前を連呼して、涙をこぼして、泣いた。 椛はそれでも文を気遣って、身長差のある文の頭に、つま先で立って手を伸ばし 包帯の巻かれた手で、文の黒く綺麗な髪を撫でるのだった。 <蛇足>  何週間かして、ここ一ヶ月ほどの記憶を失った状態の早苗が人里にて発見された。 直接的には犯人は解らなかったものの、椛を縛る時に使われていたワイヤーの 分析によって、それが永遠亭の仕業である公算が高いことは知れ渡っていた。 さらに早苗の血中から検出された複数の薬物の痕跡がそれを裏付けた。 「まさか地上の妖怪にキャトルミューティレーションがバレるなんてねぇ」  永琳は頭をかきながら鈴仙に向けて嫌味ったらしく言い放った。 「すいません、つい」 「まぁ、解らないでもないわ。貴方は戦争の経験があるものね」  鈴仙は一瞬遠い目をしたが、すぐいつもの凛とした紅い目に戻った。 「徒労でしたね」  永琳は肩をすくめてみせる。 「ええ、月も月でやっぱり結界の中に隠れた、それしか考えられないわ」  永琳の傍らには拘束器具のついたベッド、そしてその脇には各種の拷問器具が 金属の容器に無造作に放り込まれて置いてあった。 何日か前までそれらは血塗れであった。 「ところで私はあの憎たらしい烏天狗に一泡噴かせたであろうことに大変満足なのですが」 「貴方にしては随分と快楽主義的じゃない。私は知らぬ存ぜぬを通したかったのだけどね」 鈴仙はそれを聞いてククッと笑い、永琳の黒い笑顔に応対する。 「師匠が天才だから、私も少しばかり外道な真似ができるのですよ?」 「あら、私が居ないと貴方はカヴァープランも考えられないの?本当に役立たずね。  まぁいいわ、今回の件は私の用件だったのだし。問題はここからね」 「師匠なら簡単に済ませてしまうでしょう」 不適な笑みを崩さず永琳は言った。 「さて、どうかしら」