キャラ崩壊しています。
お嬢様のカリスマも危ないです。







ピクン
「お嬢様が今、大変な危機に直面しているような気がする。」



「またそれなの?咲夜。」


「だって確かに今、お嬢様の悲鳴が聞こえたような・・・ほら、リーチ。」
「ちょっと、いい加減にしてよ。折角の旅行じゃないの。あ、その一萬ポン。」
「そうよ、たまには仕事のことは忘れて羽伸ばそうって言ったじゃない。チー。」
「と言うか、殆どあんたの為に企画した旅行なんだから・・・カン。」
「そうそう、この面子で真面目に働いてる奴なんて、あんたくらいなんだし。」

「だけど、私はやっぱりお嬢様のことが・・・あ、それロンよ。」
「え!これが?」
「リーチ、チートイツ。裏ドラは・・・なしね。」
「チートイか・・・流石に読めなかったよ。」


ここは地底の温泉宿。
咲夜、霊夢、萃香、アリスの4人が泊まりに来ていた。
7泊8日の地底巡りツアーの真っ最中だ。
他の者はともかく、多忙のはずの咲夜がこんな長期の旅行をしているのには訳がある。

「くぅ・・・3連続ラス・・・」
「萃香、あなた麻雀弱いわね。真っ直ぐすぎ。」
「それにしても、魔理沙も誘えば良かったわね。」
「まあ、あいつも好きで研究に没頭してるんだから、いいんでしょ。」









3日ほど前・・・

「フラン!我侭言うんじゃないの!!いい加減にしないと・・・」
「お姉様のバカ!!!」
バチーン!



「今日の姉妹喧嘩は酷かったわね。」
「本当、我侭な妹を持つと姉は大変よ。」
レミリアが腫れた右頬を押さえながら言った。

「でもお嬢様、妹様にもそれなりの言い分はあるのですから・・・」
「咲夜、あなたがそうやって甘やかすから良くないのよ。」

「私は咲夜の言うことにも一理あると思うけど。」
「ちょっと!パチェまで何言い出すのよ!!」
「だって我侭とか、甘やかすなとか、あなたが言えた立場じゃないでしょ?」

「ぐっ・・・」
「後で自分からフランに謝っておきなさい。それが仲直りの第一歩。」
「謝るなんて嫌よ!別に私が悪いわけじゃないもの。」

そう言ってレミリアは部屋を飛び出してしまった。
「あ、お嬢様!」


「やれやれ、レミィの我侭にもウンザリね。」
「でもパチュリー様、お嬢様にもそれなりの言い分はあるのですから・・・」
「咲夜、あなたがそうやって甘やかすから良くないのよ。」



「・・・でも、お嬢様と妹様を仲直りさせる良い方法って無いのでしょうか?
 お二人ともいつも喧嘩ばかりで、私としては・・・」

「フランにとって、500年近く監禁されていた恨みは根深いしね。
 まあ、それも時間が解決してくれるんじゃないの?」


「・・・」

『時間が解決してくれる』という言葉を聞いた咲夜は、とても悲しそうな目をしていた。
「パチュリー様、やっぱり相当な時間が必要なのでしょうか?」


「・・・そうか、あなたは人間だから・・・」

「この咲夜、生きている間にお二人が和解するところを見たいです。」



「・・・だったら、二人の為に特別プログラムを組むのはどうかしら?」
「特別プログラム?」
「いい?まずはね・・・」



それは実際にアメリカで行われている、近親者との関係修復の為のプログラムだった。
内容を簡単に言えば、二人きりで共同生活をさせること。

例えば、仲の悪い親子がいたとする。
その親子を2週間ほど、荒野で二人きりのキャンプをさせるのだ。
お互いに協力し、助け合う。
その中で、今まで見えてなかった肉親の本音も見えてくる。
相手がどれだけ大事な存在かを再認識させるのだ。



「・・・と、まあ。確かこんな感じだったと思うけど。」
「いいじゃないですか、それ!きっと上手く行きますよ。」

……きっと上手く行く!
そう確信した咲夜とパチュリーは早速レミリアに提案してみたが・・・

「・・・嫌よ、面倒臭い。」


「お嬢様!そんな・・・」

「だってそうじゃないの。何も無いところにテント張ってキャンプですって?
 私はそんな原始人みたいな真似はゴメンよ。」

「これもレミィとフランの為なのよ?」

「お断り。だってお風呂もトイレも無いんでしょ?
 私みたいな箱入り娘がそんなとこ行ったら、死んじゃうわよ。」

「お嬢様がそれくらいで死ぬ訳が・・・いや、確かにそうかも・・・」


「と言うことで、私はキャンプなんて嫌。行くならパチェが代わりに行ってよ。」

「・・・筋金入りの我侭ね。でもあなたがそう言うなら、こっちにも考えがある。」

「考え?」

「レミィは一人じゃキャンプも出来ないって、フランに言うのよ。」

「ちょっと!何よそれ!!」

「あら、自分でそう言ったじゃない。
 フランはあなたのこと、どう思うかしらね?
 普段のあなたって、全部咲夜に任せて我侭し放題。
 一人じゃ何も出来ないんじゃないかって思われていたりして。」

「・・・それはフランも一緒でしょ。」

「だから、キャンプであなたがフランを導いてあげるのよ。
 頼れる姉をアピールして、あの子の信頼を勝ち取るのよ。」



「・・・」
レミリアは暫くの間、考え込んでしまった。
そして出した結論は・・・



「いいわ。あなた達の提案、半分だけ乗ってあげる。」

「半分?」

「暫くの間、私とフランで二人っきりで生活する。ただし、ここで。」



つまりはこういうことだ。
2週間、姉妹を除く紅魔館の全住人に暇を出す。
ただし休暇中は旅行に行くなり、帰省するなりして館から離れること。
残された二人は、自分で料理や掃除をして生活をしていくのだ。
それが、レミリアが出来る最大の譲歩だった。









そして初日の早朝・・・

「それでは行って参ります。」
「ああ、楽しんでおいで。」

咲夜は霊夢達と地底旅行、その後は友人の家に泊めて貰うことにした。
パチュリーと小悪魔は2週間分の書物を持って、静かな山奥で魔法実験。
美鈴は久々に実家へ。
その他、妖精メイド達は適当なところで適当に遊んで過ごすことにした。


「食料は山ほど保存していますけど・・・本当に大丈夫ですか?」
「うるさいわね。2週間くらい、何とかなるわよ。」
「オーブンの使い方は分かりますか?ちゃんと寝る前には歯を磨いて・・・」
「ああもう、分かってるって。心配しないでよ、咲夜。」


「でも、フランに内緒でこんなこと始めて本当に良かったのかしら?」
「パチェ、どうせあの我侭なフランのことよ。
 前もって言ってたら、『私も旅行行きたい!』とか言ってたに違いないわ。」

「よく分かってるじゃない・・・」
「私はあの子のお姉さんだからね。これくらい分かって当然よ。」
「我侭は我侭を知るってことね・・・」


「あ、そうだ。レミィ、あなたの言っていたあれ、設置しといたわよ。」
「ふふ、ありがとう。あの子が逃げ出したら、元も子も無いからね。」
「ただし対吸血鬼用だから、あなたも逃げ出せないけど・・・」



「それではお元気で、お嬢様。また2週間後に会いましょう。」
遂に咲夜達は出て行った。
まだ夜が明けて間もない。
その時間帯に紅魔館の住人の殆どが出て行くのは、ある意味で異常な光景だった。



「さて、それじゃそろそろフランを起こしますか。」
いよいよフランとの共同生活が始まるのであった。









「フラン、起きなさい、フラン・・・ねえ、フランってば・・・」
「ん?う~ん・・・」

「おはよう、フラン。朝よ。」
「あれ・・・お姉様・・・?」

その朝はいつもの朝と違った。
いつもなら咲夜がフランを起こす筈なのに、今朝はレミリアに起こされた。


「なんで・・・お姉様なの・・・?」
「あら?私がここにいたらおかしい?」

「だっていつもは咲夜が起こしに来るじゃない。
 お姉様も咲夜に起こされたんでしょ?」

「ああ、咲夜はね・・・今朝はいないのよ。」




「え・・・?咲夜が・・・いない?」

咲夜が・・・いない・・・?
咲夜は・・・もう・・・いない・・・?
いないって・・・あの・・・咲夜が・・・?

フランの頭の中に嫌な空想が湧き上がった。




「そう。咲夜はね・・・旅行に出かけたの。」
「・・・本当?」
「本当に決まってるじゃない。どうして嘘付かないといけないのよ?」

「・・・うん。」
姉の言葉を信じ、さっきのは自分の取り越し苦労だと安心した。

「さ、朝ごはん食べに行きましょう。」
レミリアは、フランの手を引いて食堂へと向かった。



しかしレミリアに連れられながら、館の様子がおかしいに気が付いた。
いつもだったら、掃除している振りしている妖精メイド達があちこちにいるはずだ。
なのに、廊下もガラリと静まり返って誰一人いない。

窓越しに中庭の様子を見てみる。
門の前か花壇の前にいるはずの美鈴がいない。
昼寝はしても丈夫さが売りの彼女が病気だとも考えられない。

再び、あの嫌な予感が頭をもたげる。
フランの背中を、嫌な汗が伝って落ちた。


二人は食堂に着いた。
ここにも誰もいない。
……つまり、当然一緒に朝食を取るものだと思っていたパチュリーがいない。



「さあ、フラン。何食べようか?」
レミリアが食パン片手に聞いて来た。

「そうね、チーズトーストなんてどうかしら?それとも、ジャムとか塗って・・・」

「・・・お姉様?」

「ん?何?」

「パチェとか・・・美鈴とか・・・他の皆はどこ?

「ああ・・・みんな出掛けちゃったよ。」

「え・・・みんな・・・?」

「そうよ。今、館には私たちしかいないの。フランとお姉様の二人きりよ。」




「みんな・・・いなく・・・なっちゃった・・・」

いつかこんなことになるとは思っていたけど・・・
とうとう・・・この日が来ちゃったんだ・・・
もうみんなとは・・・会えないんだ・・・
ううん、分かるよ・・・みんなの気持ち・・・
でも・・・私に内緒で出て行くなんて・・・酷いよ!


母親のように、姉のように面倒を見てくれた優しい咲夜。
面白いお話を聞かせてくれたり、勉強を教えてくれた賢いパチェ。
よく遊び相手になってくれて、楽しかった美鈴。
なんか頭にも羽が生えてた小悪魔。
お姉様は役立たずだって言ってたけど、仕草が可愛かった妖精達。

もう、誰もいない。
突然崩れ去った、いつもの情景。




「ねぇ、お姉様・・・どうして誰もいなくなっちゃったの?」

「うん。皆、旅行に行ったり、ちょっと家に帰ってたりしてるのよ。」


「・・・本当の事を言って。私達以外が全員いなくなるなんて・・・おかしいよ。」


そう、絶対におかしい。
元々休みが殆ど無い紅魔館。
一人二人ならともかく、全員が同時に休暇を取るなんてありえない。
例え偶然、全員が休みたいと言っても、レミリアがそんなことは許さないはずだ。



「ああ、バレちゃった?実はね、私が一斉にみんなに暇を出したのよ。」

「・・・やっぱり・・・そうなんだ・・・」

「まあ、暫く不便だとは思うけどね。代わりにお姉様に思いっきり甘えなさ・・・」



ズドン!!
レミリアの右頬を、フランの投げつけたフォークがかすめた。

「え?フラン・・・?」


「お姉さまの・・・バカぁぁぁぁぁ!!!」

そう言ってフランは食堂から飛び出した。


「待って、フラン!一体なんなのよ!?」

「バカ!バカ!お姉様のバカ!!!
 うわぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!」



そのままフランは、部屋に閉じこもってしまった。

「グスッ・・・ヒック・・・
 何よお姉様、見栄張っちゃって・・・!
 本当は見捨てられた癖に・・・!
 うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!!」



「・・・何が悪かったのかしら?
 もしかして、私と二人きりがそんなに嫌・・・?そんな、まさかね・・・」
フランが部屋から出てきたのは、その日の夕方のことだった。









「お姉様・・・」
「あ、フラン。もう落ち着いたの?」
「うん・・・いつまでも泣いていてもしょうがないし・・・」
「???まあ、取り合えずお茶にしましょう。」


「えーと、茶葉は確かここら辺に・・・うん?どこだっけ?」

「・・・ちょっと待ってね、今探してるから・・・」

「・・・あれ?咲夜はいつもここら辺から・・・」

「・・・本当、どこだっけ?見付からない・・・」

「・・・ここかな?いや、違うか。だったらここ・・・」



「・・・お姉様。お茶はいいから、お腹空いたよ。ご飯にしよう。」
「そ、そうだね。あなた朝から何も食べてないんだよね。」
まだ5時だったが、二人は早めの夕食を取ることにした。


「そうね、今日のおかずは・・・これなんてどうかしら?」
茶葉を探すのには手こずったレミリアだったが、食材探しはスムースに行ったらしい。

「牛肉・・・?」
「そう。これの岩塩の包み焼きに、血のソースかけて食べるの。美味しそうでしょ?」
「うん。でも、お姉様って料理出来るの?」
「ふふ、任せなさい。お姉様特製のご馳走なんて、滅多に食べられないわよ。」


前に何度か、咲夜が作っているのを見たことがある。
レシピは分かっているつもりだ。
ソースは、咲夜が前日に保存してくれた血液を元に作ればいい。

まずオーブンに火を付けて・・・
コショウとタイムを肉にこすり付けて・・・
アルミホイルの上で、肉を岩塩の中に閉じ込めて・・・
オーブンで焼く。
暫くすると、何やら美味しそうな匂いがしてきた。

ビネガーとオリーブオイルを血に混ぜてソースの出来上がり。
うん。我ながら、よく出来ているじゃないの。



「しょっぱいよ・・・」
「しょっぱいわね・・・」

何をどう間違ったのだろう?
出来上がった料理は、塩辛くて食べられたものでは無かった。


「う・・・ごほっ!ごほっ!」
フランがむせ返り、水を喉に流し込んだ。

「お姉様、これ残していい?」
「だ・・・駄目よ。勿体無いじゃな・・・うぇっほ!!」


結局、半分も食べ切れなかった。
それでも空腹に耐えかねたフランは、バナナを腹に入れた。






「ねぇフラン、お風呂に行きましょう。」
「お風呂・・・?」
「たまにはいいでしょ?姉妹水入らずってのも。」

普段は一緒に入ることは無い。
いつも咲夜に体を洗って貰っていた。


「いやー。フランと一緒にお風呂なんて、何十年ぶりかしら。」

流水の駄目な姉妹は、シャワーを使えない。
石鹸で洗った後、湯で濡れたタオルで拭き取るのだ。
湯船には普通に浸かれるのだが。


「お姉様・・・私達だけで、本当に大丈夫なのかな?」

互いの体を洗い合っている時、フランが心配そうに聞いて来た。
従者達に頼りきりだった姉妹がいきなり自立を迫られたのだ。
無理も無い。


「大丈夫よ。お姉様が付いてるじゃないの。」

「え・・・?うん・・・」
レミリアは妹を励ましたが、それでも不安そうだった。

「ほら、元気出しなさい。
 そんなんじゃ、パチェや咲夜に笑われちゃうわよ?」

「・・・そっか、そうだよね。」

「うん、その調子よ。二人で頑張りましょう。」

フランも少しは元気を取り戻せたらしい。



「それじゃ、石鹸落とすから背中向けてね。」
そう言いながらレミリアは洗面器を湯で満たそうと、蛇口に手をかけたが・・・


「お姉様!そっちはシャワー!!」
「え!?」

シャーーーーーーー
間違えてシャワーの方のハンドルをひねってしまった。
水流が容赦なく姉妹を襲う。

「いやぁぁぁぁぁ、流水が・・・流水が・・・」
「た、助けて!!パチェ!咲夜!美鈴!!」


急いでシャワーの雨から逃れようとするが、力が抜けて思うように体が動かない。
「ごめん!ごめん!!フラン!」
「バカ!バカ!お姉さまのバカ!!」


「こ、こうなったらシャワーを壊して・・・」
「待って!それだけは駄・・・」

シャワーを壊せば水が止まると思ったフランが、自らの能力を使う。

「壊れろ!!」
バキィッ!!!

シャワーは粉々に砕け散った。
すると・・・


ブシャーーーードバドバドバドバ!!!!
まるで船体に穴が開いた船のように、凄まじい量の水が噴出してきた。


「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


姉妹が命からがら、風呂場から張って脱出したのはおよそ1時間後だった。









「お姉さまのバカ、アホ、ボンクラ・・・」
初日からフランは絶望のどん底に叩き落されていた。

やっぱり二人で生きていくなんて無理なんだ。
だって、私達は自立して生活する術を全く教えられてない。
料理も洗濯も掃除も・・・全部、他の人がやってくれる。
そんなこと覚える必要なんて無かった・・・筈なのに。



もう夜中の3時だ。
レミリアはとっくに眠っているだろう。
しかしフランはこれからのことが心配で眠れなかった。



「そうだ、私もここを出よう・・・」
それを思いついたのは、3時40分頃。

今なら、誰にも覚られずに抜け出せる。
絶望で気が付かなかったが、今こそが外に出る千載一遇のチャンスではないか。


外に出たら・・・朝が来るまでに誰かの家を探そう。
明日の夜まではそこに泊めて貰おう。
そして、咲夜やパチェ達の行き先を尋ねるのだ。

彼女達を何とか説得して帰ってきて貰うか、そうでなければ一緒に住む事にしよう。
いや、魔理沙でもいいか。
きっと私の味方してくれるよね・・・?



フランに迷いは無かった。
レミリアさえ起こさなければいいのだから、脱出はとても簡単だった。
日傘、雨傘、非常用の食料を揃えていざ、出発だ。

空には大きな月が浮かんでいた。
夜の空気はひんやりと気持ちがいい。


「さよなら、お姉様。
 さよなら、紅魔館。」

楽しいことより嫌なことの方が多かった我が家を寂しげに見つめ・・・
それからフランは新しい人生を・・・



ゴス!!
「きゃあ!!」

彼女の新たな門出は正体不明の『壁』に阻まれた。


「何、これ・・・?見えないけど壁があるよ?」
そこには一見、何も無いように見える。
しかし、確かにそこに壁はあった。
なんとも意地悪なそれが、フランが館の外へ出るのを頑なに拒んでいるのだ。


「壊れろ!!壊れろ!!壊れてよっ!!!」
フランは自らの能力でその壁を突破しようとする。
しかし、壁は一向に彼女の前から消え去ろうとはしなかった。

それもその筈。
この壁を作ったのは、フランのことを良く知るパチュリー。
フランを逃がさない壁を作ったのだから、彼女が壊せるものである訳が無い。



「グスッ、酷いよ・・・お姉様。」
姉の方が一枚上手だった。
意地でも私を離さない、一人ぼっちだけは嫌らしい。
今にして思えば、今日の姉は気持ち悪いくらいに優しかった・・・









ピクン
「今度は妹様が泣いている気がしますわ。」



「また例のメイドセンサーか。おっ、ポン!」
「きっと寂しくて泣いているに違いないわ。リーチ。」
「だからね・・・あんたもいい加減に過保護は止めなさいよ。」
「正直、あの姉妹にどうしてそこまで心酔できるか不思議でしょうがない。」
「あなた達にはお嬢様と妹様の魅力が分からないのよ。」
「それって、ただあんたがロリコ・・・あっ、それもポン!」

「失礼ね。私の想いは純粋な・・・ツモ!」
「うへぇ・・・」
「はい。リーヅモチートイドラドラで跳ね満。」

「あーあ、折角大物テンパったのに・・・」









共同生活5日目。
「待っててね、フラン。今日こそは美味しいご飯作るから。」

「・・・分かった。念の為、私はサラダ作っておく。」



姉妹の共同生活も5日目に突入したが、レミリアがまともな料理を作ることはなかった。
妹にいいところを見せようとして、難しい料理に挑戦→失敗の連続だ。

その間、フランは食材を切ったり軽く焼くだけの簡単な料理・・・
例えばサンドイッチやハムエッグなどを作っていた。

味はいつも食べていたものとは遠く及ばない。
しかし・・・姉の作る炭塊よりは料理と呼べるものだった。


「さあ、後はオーブンで焼くだけ・・・って、フラン?」
いつの間にか、フランはサラダを作り終えて掃除をしに行っていた。



「全く・・・お姉様って本当に駄目ね。」

フランは慣れない手付きでモップをかけている。
掃除というのが、いかに大変な仕事かを思い知った。
しつこく何度もこすらないと汚れは落ちない。
無駄に広い紅魔館、その全てを綺麗にするのは途方も無い時間が掛かる。

本音を言えば、どうして自分がこんな事をしなくてはいけないのか分からない。
こんな面倒な作業は他人に任せて、自分は楽しく遊んでいたい。
しかし掃除をしてくれていた人はもういない。

この期に及んで見栄を張り続ける姉に任せてもいられない。
綺麗な家に住みたいのなら、自分がやるしかないのだ。


ふと、どうしてこんな事になったかと考えた。
元はと言えば、姉の責任では無かったのか・・・?
あいつが素直に使用人達を引き止めてさえすれば・・・

そう考えると頭がカァーと熱くなって来る。
目の前の物を片っ端から壊してしまいたい衝動に駆られる。

……でも、それは我慢した。
何故なら、その後始末も自分の仕事。
自分で壊して、自分で直して、自分で自分に迷惑をかける。
その馬鹿馬鹿しさは、既に3日目に思い知った。

フランは自分が置かれている状況をよく理解し、嫌々ながらもそれを受け入れていた。









「えーと、これが終わったから食事にして、洗濯はお姉様がやってるし・・・」
そう、洗濯はレミリアがやっていたのだ。
確かに二人の衣服を洗っていた。ここまではいい。

フランは何気なく中庭を覗いてみた。

「あれ?なんか、変。」
そして何かがおかしいことに気付いた。


そう、あれだけ大量の洗濯物を洗っていたにもかかわらず、
中庭の物干し竿にはパンツ一枚たりとも掛かっていなかったのだ。



「お姉様!!!!!」
フランが大声でレミリアを呼びつけた。

「ど、どうしたの?フラン。」
「これ見てよ!!」

フランの手にはカビだらけになったドロワがあった。


「お姉様が干さないから、こんなになっちゃったじゃない!」
「あ、しまった。」

「天気良かったのに、どうして干さなかったのよ!!」
「いや、だって天気が良かったから・・・吸血鬼だし・・・」
「曇りの日に干しても意味ないじゃない!!」


「ご、ごめんなさい。フラン。」

「お姉様なんて大嫌いよ!!」

「ご、ごめん・・・」

「いつもいつも偉そうにしてる癖に、身の回りのことも出来ないじゃない!」

「う、うん・・・」

「洗濯物も干せない夜の王なんて、聞いて呆れるわよ!」

「・・・」

「そんなんだから、パチェや咲夜に・・・」

「ごめん・・・なさい・・・フラン・・・」



「お姉様・・・?」

「私が馬鹿だった・・・口だけお姉様で・・・フランにも迷惑かけて・・・
 ごめん・・・ごめんね・・・」

「もういいよ。お姉様・・・それよりご飯にしよう。」

「うん・・・分かった。行きましょう。」


フランはレミリアの後に付いてキッチンに向かう。
姉の背中はいつもよりも少しだけ寂しく感じられた。



「・・・待って、なんか焦げ臭くない?」
キッチンの近くに来たところで、異臭に気が付いた。
おまけに妙に煙たい。
何が起こっているのかは、あまりに明白だった。









「か、火事よ!お姉様!!」
「どうして!?何で燃えてるの?」
「お姉様、もしかしてオーブンの火、付けっぱなしだった!?」
「あああっ、それよ!!」


原因はレミリアの火の不始末。
オーブンから出火した炎は瞬く間に燃え広がっていく。

「ど、どうしよう!?お姉様。」
「落ち着いて!!早く消火を・・・」

二人は急いで桶に水を汲み、火に注ぐ。
しかし、今更そんなことをしても正に焼け石に水。

「き、消えない!もう無理だよ!!」
「フラン!私達を誰だと思ってるの?強力な力を持った吸血鬼じゃない!!」
「そ、そうか・・・つまり・・・」


「破壊消防よ!!!!」



「それっ!!」
「壊れろ!!」

レミリアの作戦は意外と名案だった。
火元に向けて弾幕を打ち込み、吹っ飛ばして消火する。
もちろん建物の損壊は激しいが、全焼を免れるには効果的。


ただ一つ、姉妹にとって不幸なことがあったが。


キッチンの炎も消えかけた頃、火の付いた油の缶が吹っ飛ばされて隅の階段に落ちた。
カラン、カラン、カラン・・・
缶はそのまま下の部屋に落ちて行ったようだ。

ちなみに、その階段の先にあるのは・・・食料庫。

「お姉様、確かあそこには・・・」
「うん。油も一杯保存してあったよね・・・」


ゴワァァァァァァッッッッッ
どうやら、食料庫に保存していた油に引火したらしい。
早速、そこは炎に包まれたようだ。


「お姉様、やっぱりあれも破壊するの?」
「それしかないでしょ?」
「だって、あれって私達のご飯・・・」
「もう、手遅れよ・・・」



火災と吸血鬼姉妹の攻撃の後には、丸焦げのジャガイモ数個しか残っていなかった。
「どうしよう・・・もう食べ物がないよ・・・」

「だ、大丈夫よ。た、食べ物くらい、な、何とかなるから・・・」

「本当?」

「だ、だって・・・私とあなたは誇り高き吸血鬼でしょ。
 二人で力を合わせれば・・・何とかなる・・・はずよ。」

「お姉様・・・」

「と、取り合えず、今から私が調達に行ってくるから・・・」

「・・・そうだね。一緒に頑張ろう!」



しどろもどろだったが、姉の言葉は心強かった。
そしてフランは、姉の気持ちが少し分かった気がした。


(本当はお姉様も、凄く不安なんだね・・・
 突然、二人きりになって。慣れない事ばかりで・・・
 でも、弱気になりたくないんだ。
 見栄を張ってたんじゃない。私の為に精一杯、頑張ってたんだ・・・)


共同生活の中で、初めて姉が頼もしく思えた。
例の見えない壁相手にパントマイムする姿に、一抹の不安を覚えながらも・・・






  • >なんか頭にも羽が生えてた小悪魔
    クソワロタ -- 名無しさん (2010-02-28 10:45:41)
  • これはいいwwwwwwギャグの精度がイチイチ高いwwwww -- 名無しさん (2010-05-31 18:56:15)
  • 美鈴に・・・実家・・・!? -- 名無しさん (2010-07-12 15:37:01)
  • なんかいいなこれ!てかこぁの扱いwwwwww -- 名無しさん (2011-05-06 23:14:26)
  • 詰んだろww -- 名無しさん (2011-06-14 15:25:04)
  • 咲夜さん麻雀強すぎワロタ -- 名無しさん (2014-02-26 10:59:44)
  • 麻雀に能力を使ってはいけないとは誰も言ってない -- 名無しさん (2015-03-24 23:19:06)
  • >なんか頭にも羽が生えてた小悪魔
    こりゃ草生えるわ
    そして想像以上のおぜうカリスマの低さについて -- 名無しさん (2016-02-14 11:57:02)
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最終更新:2016年02月14日 11:57