天界に住む比那名居天子。冥界にいると聞いた剣士を思い出す。いちどスペルカードバトルで闘ったことのある相手。
 緋想の剣を持ち出して遊ぶも、彼女はどこか不満であった。そして剣の相手として相応しい者と対戦したいと思いつき、冥界へ出かけた。
「半人半霊はいる? 私と遊んで欲しいんだけれども」
「あなたは……この前の。天人がそんな易々と冥界に来ていいの?」
「いいのよ、いいの。私がいいからいいの。で、どうなの?」
「私だって暇じゃないのよ」
 二人のやりとりを嗅ぎつけた幽々子は妖夢に手合わせやるよう命じた。
「幽々子様に言われたのなら、仕方ないわね」
「そうこなくっちゃ。今日は弾幕ごっこじゃないの、チャンバラごっこをしにきたのよ」
 そう言って彼女の宝具ともいえる緋想の剣を見せた。
「私と……剣の試合をしろと?」
「そういうことね。じゃあいくわよ」
 天子は自身満々であった。何せ彼女は天人。ただの人間よりも肉体面では遥かに上をいくものであった。
 剣を扱う術をあまり知らなくてもどうにでもなると思っていたのだ。また、その上で妖夢を倒せればそれを自慢しようと思っていたのだ。
「妖夢~こんな天人に剣で負けたら承知しないわよ~」
「負けませんよ」
 遠くで二人を見つめる幽々子は微笑みを扇子で隠した。幽々子にはこの勝負の決着がどうなるかわかっていた。
 どちらかが合図するまでもなく、勝負は始まる。そしてその勝負は一瞬で決まった。
 妖夢の、目で追うことが出来ない程素早い抜刀術により、天子は斬られたのだ。そのダメージに腹を押さえ、ゆっくり体を沈める天子。
 彼女は剣を振るう暇さえないままされたのだ。
「う……そ? 剣を振ったのは見えたのに……剣で返せないなんて……」
「剣を振る稽古をしていないとでも言うの? あなたはそんなので何十年も修行してきた私に勝負をしようと持ちかけたの?」
「……」
「随分と舐められたものね」
「うるさい……。もう一度よ、もう一度やるわよ!」
 彼女はやぶれかぶれな気持ちで妖夢に喰ってかかった。しかし天子は剣に関して素人。
 その素人の太刀筋など妖夢にとっては目を瞑っても見える程度。妖夢に緋想の剣は掠りもしない。
「なんで……どうして当たらないの?」
「どうして? あなたが下手糞だからよ」
 妖夢の一言に腹を立てて天子が剣を大振りに構えた。ここぞとばかりに妖夢は峰打ちを見舞う。またしても崩れる天子だった。
「天人の剣の腕前なんてこんなものなのね。これじゃあ剣の稽古にすらならないわ。帰って頂戴」
「うそよ……天人の私が負けるわけない……比那名居の子がこんな半人半霊なんて半端な者に負けるなんて……大恥だわ」
「その重たい尊厳、捨てたらどうです?」
「黙りなさい!」
 再度妖夢へ斬りかかるも、攻撃は当たらない。緋想の剣が空を切り、天子がその場に倒れる。
 妖夢は白玉楼の庭へ消えた。幽々子も屋敷のどこかへ消えていく。悔し涙を流す天子はそこから動けずにいた。
「そんな……私が負けるわけ、ない……こんなの、嫌……」
 そこへ衣玖が現れる。空を覆う雲から現れ、天子の側へ舞い降りた。
「ここに居ましたか、総領娘様。さあ天界へ戻りましょう」
「……」
「総領娘様?」
「……いやよ。あの娘を泣かすまで帰らない」
「は? 何を仰っているのか……」
 そこへ怒った顔をして現れる妖夢。両手に刀を持つ、二刀流の構え。
「いい加減天界へ帰ったらどうなの? 掃除の邪魔なのよ」
「うるさい。生きているのか、死んでいるのかわからない小娘ごときに……比那名居の子が負けるはず……ないのよ!」
 天女を一瞥した妖夢。永江衣玖は妖夢に会釈する。妖夢も釣られて頭を下げた。その隙を突こうと天子が駆け出した。
「お前だけは……何としてで負かせてやる!」
 天子は怒りに任せて剣を振るう。妖夢は避けるまでもないと思い、剣で受け止めた。そして妖夢は刀を操り、天子の手から剣を飛ばしてそれを捨てさせた。
 枯山水の砂利に突き刺さる緋想の剣。衣玖は無言で剣が地面に刺さる音を聞いた。
「え……?」
「もっとしっかり剣を握ったらどうです?」
 剣を失った天子を見つめる妖夢は剣を取るよう指示した。妖夢はあくまで剣で勝負してやろうと言っているのだ。
 だが天子は得意の要石を持ち出した。
「もうこの最プライドは抜きよ! 何がなんでも勝ってやる!」
「……哀れね。持ち主がそんなのでは、その剣が泣くわよ」
 熱い感情に任せた天子では何をしても意味を成さなかった。どれだけ岩を落とそうが地形を操る攻撃をしようが妖夢には届かない。
「頭を冷やしたらどうなの?」
 妖夢が天子の視界から消える。次の瞬間、妖夢十八番のスペルカード攻撃を叩き込まれた天子。全身はボロボロになり、彼女のプライドも崩壊した瞬間。
 倒れて起き上がる力をなくした天子を衣玖が抱きえ上げた。
「総領娘様が大変なご迷惑をおかけしまして、申し訳ありません」
「しっかりと面倒を見て欲しいものね」
「すみませんでした。それでは失礼します」
 衣玖の対応を微かに聞く天子は衣玖の言葉にも腹を立てていた。そんな格下の相手に敬語なんて使う必要ない、と呟く。
 闘う意思はあるものの体の動けない天子は歯軋りして悔しさをアピールするしかなかった。
「離して、衣玖。話なさい。あの女を……」
「あら? 懲りていないんですか?」
「え?」
「あの冥界の剣士のところへ向かったところを私は見ていました。そして、剣の勝負を挑むのだろうと予想していました」
「……」
「もしかして、とは思いましたが負けてしまわれましたね。私はそれで総領娘様が他人の見下す癖を少しでも正すと思っていたのですが」
「……衣玖、覚えておきなさいよ」
「おお、恐いですね。総領娘様が本気になってしまわれては」
 竜宮の仕いに腹を立てている天子は滑稽であった。天子は膨大な余暇時間を潰すためにまた顕界へ降りようと思っていた。
 今度は半獣半人のハクタクというものの所へ遊びに行こうと考える。
 意地でも自分の実力を他人に認めさせようとしていた。その姿勢に衣玖はため息をつく。
 もっと冷静に物事を見ればいいのに、と思うがそれは口にしない衣玖であった。















  • 作者さん、ちょっと気になったので衣玖の部分を少し修正。 -- 名無しさん (2009-04-07 18:19:50)
  • 天子に火星のレイヴンが乗り移ったようだ -- 名無しさん (2009-04-15 17:25:48)
  • おぉ、やはり同じ事を考えた人がいたか
    ザルトホックは何でか印象に残ってるんだよな -- 名無しさん (2009-04-16 10:05:04)
  • 慧音先生に喧嘩売って妹紅にのされるんだな
    で、また別のやつに喧嘩売ってのされてエンドレス -- 名無しさん (2009-08-08 12:18:10)
  • 次に妖夢に喧嘩売るときは「貴様、前のようには行かんぞ」ですねわかります -- 名無しさん (2009-08-10 00:53:40)
  • 数日後、冥界で妖夢に稽古をつけて貰っている天子の姿が!! -- 名無しさん (2009-11-07 14:22:43)
  • ↑ないないwww -- 名無しさん (2011-03-22 14:37:25)
  • 衣玖さん実は楽しんでない? -- 名無しさん (2016-10-04 18:46:31)
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最終更新:2016年10月04日 18:46