「早苗、最近食事で悩んでいると聞いたよ、良いもの食わせてやるからこっちへおいで」

早苗は随分食わず物嫌いなのだと聞いた。
油虫の唐揚げ、イナゴの佃煮、蜂の子ご飯
虫、嫌いな者は嫌いなのだという、美味しいのに。

でも、何時までもそれじゃあやっていけないじゃない?
ここの暮らしは長くなるんだし、そういう物にも慣れないといけないじゃない?

だから、早苗を呼んだ。慣れてもらうために。
最近意地悪が過ぎて懐かれなくなっちゃったから来ないかなとも思ったけど素直に付いてきた。
どんなに意地悪されても離れられないってことかしら、すごく素直で良い性格だわ。さいこう。

部屋に入って席に着き、早苗が期待を込めて私を見る。
まだ私を信頼してくれているなんて…、感動しちゃう。だから、全力でもって答えるわ。

「どうぞ、お食べ」

そういって、早苗の前に紙で包まれた食べ物を差し出す。少し暖かい、それは…

「…ハンバーガー?」
「そうよ、こういうものが恋しいでしょう?」

肉と野菜を軽く調理し、パンの間に挟んだもの。
早苗のような現代っ子が、体に良くないと分かっていても時々無性に食べたくなるもの。

「すごい、どうやって作ったんですか?これ」
「ふふ、手作りだよ。パンから作ったのよ、すごいでしょう」

すごく嬉しそう、やっぱり現代っ子なのね。
自然と私も笑顔になる。準備をしっかりしたことが上手くいくというのはとても気分が良い。
ささっ、おあがり。早苗に食べるよう促す。
早苗が目を細めて両手で掴んだハンバーガーを頬張る。
もぐもぐと、幸せそうにハンバーガーを咀嚼する。…その口が止まる。

そうそう、こうでなくっちゃ。早苗、あなたやっぱり最高よ。さあ、さあ、次は?

「あの、神奈子様?このお肉はなんのお肉ですか?食べたことのない味がしますが…」
「このお肉?」

そう、これ、この質問。本当に早苗ってば最高。震えて来ちゃう。
笑いを堪えきれず、口が吊り上がった状態になる。
早苗が、食べた後で食べたものの正体を知る。
どんな表情をするのだろう、どんな反応を示すのだろう。
さぁっと青ざめてくれるのかしら、びくっと硬直してくれるのかしら、それとも瞬間にはき出そうとするのかしら。
ああ、ああ、想像するだけでもすっごく楽しい。想像している今この時がとても快感。
だから、私は出来るだけこの時間を持続させようとする。感じている幸せを謳歌しようとする。

「神奈子様?」

早苗が不思議そうに首を傾げる。もうこれ以上は無理かしら。
そう思い、仕方なくその想像の味を放棄し、実際に味わう作業に移る。

「河童のお肉よ」
「河童?」

そう、河童。幻想郷に住む、河の妖怪。
元々食べ物と認識していないだろうし、意思疎通が出来る物を食べるというのは
普段鯨さんは賢い動物だから食べてはダメですと言っている早苗にとっては論外だろう。



「…、ふーん。なんだか鶏のササミと似た味がしますね」
「………え?」


天井を見ながら何食わぬ顔で言う早苗。
驚いてこちらが固まってしまう。
だいじょうぶ…なの?
感情が表に出てしまったのだろうか、早苗はこちらに気付くとにっこりと笑った。

「神奈子様、私分かったんです。幻想郷で生きていくってことが」
「・・・?」
「幻想郷って外の世界と違って食べ物が豊富でないんです。種類はもちろん、総量としても。
 だから、ある時に、食べられるときに食べなくちゃいけない。そうしないと生きていけないって」

早苗は何を言っているのか。言っていることは確かに正しい。
でも、それでも、河童を食べてノーリアクションと言うことはないだろう。

「教えてもらったんです。誰だったかな、屋台をやってるっていうスズメの妖怪さんでした。
 分かっちゃったら、後は楽でした。慣れてみようかってその妖怪さんは、お腹の空いていた私に色々な物を勧めてくれました。
 蚕、蜂の子、イナゴといった虫。よく分からない怪しげなキノコ。犬肉。鳩。兎。幽霊。
 他にも色々、初めて聞くような妖怪のお肉もいっぱい食べさせてもらったんです。」

「妖怪…そういうことかい」

企みが失敗に終わったことよりも、早苗が色々な食べ物への適応を身につけたことが驚きだった。

「そのスズメさんにはお礼を言わないといけないね、今度会わせておくれよ」

観念したように言う。今回は私の負けのようだね、早苗もタフになったもんだ。(妖怪はどうかと思うが…)

「ごめんなさい、それは出来ないんです」
「え?」

思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
会えないって?どうして

「えーっとですね、そのスズメの妖怪さんは声が出なくなってしまっていたんです」
「?」
「あと、物忘れが激しくなっていたと言うことなんです」
「…?それで何で会えないんだい?」
「詩が歌えないし、歌詞すら忘れるような自分にもう存在する意味はない。
 この世に未練はないから最後に自分が存在したことを人に教えて死にたいって」
「…」
「自慢じゃないけど自分の種族は結構美味しいらしいんだ、と。
 食べられるようになるだけじゃ駄目。捌けるようにならないといけない。
 …、包丁を渡されました」



・・・・・・・・・。


言葉が出てこない、この短期間で早苗はなんてたくさんのことを学んできたのだろう。

「さな…
「ああ!湿っぽくなっちゃいましたね。ごめんなさい。
 神奈子様、河童のハンバーガーありがとうございました、美味しかったです。
 それでですね、私からも神奈子様にプレゼントがあるんです。」

何か言おうとしたところを早苗に遮られる。
そのまま立ち上がったかと思うと部屋を出て行く。
部屋に取り残された私は茫然と考える。
良いことなのかもしれない。あとは、妖怪は食べ物じゃないと言うことだけ教えれば良いかな…
すっかり毒気を抜かれ、イタズラ気分が抜ける。

ちょっと落ち着いてきたところに早苗が戻ってくる。

「神奈子様、お待たせしました」

早苗はどこから連れてきたのか小さい人間の女の子を連れていた。
おや、舞でも舞ってくれるのかな?それともお酌してくれるとか。

「最近知ったんですけど、神様って生け贄を捧げられるのが結構もお好きでいらっしゃるんですよね?」

満面の笑み
生け贄?んー、キライではないけど諏訪子の方がそういうのは好きそうよねえ。

「なので、ご用意しました」

早苗はその小さな女の子を前に押し出す。
女の子は何が何だか分からないというようにおろおろしている。

「さてと」

女の子を座らせ、早苗はなにかを取り出した。鈍い光沢を放つ、あれは…

「ほ、包丁!?」
「では、いきますよー」

左手で女の子を押さえ、右手を振り上げる。
ちょ、ちょっと待ちなさい!!!

制止しようと駆け出す。
止めようと手を伸ばす。

でも、その手は――



















  • これ・・・続き在るのか? -- 名無しさん (2008-12-23 02:26:13)
  • いいぞwwwもっとやれwww -- 名無しさん (2008-12-29 12:14:34)
  • 早苗さんってガチ真面目キャラゆえに、吹っ飛んだ時の飛距離は最高だな -- (2009-03-02 04:02:36)
  • 常識にとらわれなくなって良かった・・ね? -- 名無しさん (2010-04-18 23:04:28)
  • これは神奈子いじめだろ…なんてこったい -- 名無しさん (2010-09-07 02:03:41)
  • ち ょ っ と 待 て
    みすちーを食ったのは構わん。本人の意思だし。それよりみすちーに見せられた食材。
    >蚕、蜂の子、イナゴといった虫。よく分からない怪しげなキノコ。
    これはいい。
    >犬肉。鳩。兎。
    これもいい。しかし
    >幽霊。
    幽 霊 だ と ! ?
    どうやって食うんだ!? -- 名無しさん (2010-12-30 20:45:30)
  • ↑スダチと醤油でシンプルに -- 名無しさん (2010-12-31 08:45:55)
  • 飛距離ワロタwww -- 名無しさん (2014-05-16 17:41:01)
  • 怪しげなキノコOKかよwww -- 名無しさん (2017-01-04 17:34:23)
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