「どうしたの早苗、真っ青じゃない」

麓の神社に遊びに行っていた早苗が真っ青になって帰ってきたのは
深夜になろうかという時間帯であった。

「ご飯奢ってもらったんでしょ、どう、博麗のご飯はおいしかった?」

そう訪ねる、しかし早苗はその言葉にびくっと体を震わせると目をきゅっと瞑って押し黙ってしまう。

「元気ないわね、おいしくなかったの?」

段々と心配になってくる。最近鬱になっているような気がする。
元気がないし、人に会うのを怖がって怯えている。
最初は原因は神奈子だと思った。
早苗を目の敵にして陰湿ないぢめをするようになったから。
だから気を利かせてなるべく会うことの無いように調節した。
その結果、また少しは以前のように笑うようにもなってきていたのだ。

「早苗?」
「・・・・・」

押し黙ったまま。震えているのも変わらない。
本当、どうしたんだろう。何かまだあるんだろうか。
何かあるにしてもそれを自分に教えてくれないのはちょっと寂しい。
アテにされていないようで悔しい。
何とかしてあげたいのに、私は早苗の笑顔が見たいのに。

「ねえ、何かあったのなら一人で抱え込まないで相談してくれないかな
 そしたら一緒に考えてあげられるし、気も少しは晴れるよ?」

顔をのぞき込んで言う。膝の上で手を握りしめ、下を向いて口をぱくぱくしている。
ほら、何か言って、舌付いてるでしょ

頭を撫でて言葉を促す。少し安心してくれたのか震えがとまり力が抜ける。

「あ・・・・の」
「ん?どうしたの?」

話しかけてくれた、ほらもう一言、がんばれ。

「諏訪子さまは・・・・」
「うんうん」

「何を・・食べていらっしゃるのですか?」
「お?」

食べ物の話題かい?いいねぇ、盛り上がりそうだねぇ
流れに乗った、そう思って笑顔で返事をする。

「イナゴの佃煮だよ。いやぁ今日村に行ったら
 村人にどうですかって言われて少しわけてもらったんだよ。
 なかなかおいしいよ、早苗もどう?」
「・・・・・の」

    • ?どうしたの?早苗?
まただ、早苗はまたびくんと硬直し、震え始めた。
え?私何かまずいこと言った?今の地雷?

「うらぎりもの・・・」
「さな・・え・・・?」
「裏切り者!諏訪子様の裏切り者ぉーっ!!」

そう叫んだと思うと手を振りほどき外に駆けだしていく。
ど、どうしたの早苗!?
吃驚して反応が遅れてしまう。
はっとして私も少し遅れて外に駆け出す。


春の夜、静かな境内。
そのときには、早苗の姿はどこにも見えなくなってしまっていた…。



  §



守矢神社を飛び出し、竹林でこんがり肉Gを食い損ねた早苗さん
空腹絶頂にして意識朦朧のさなか、こーりん堂に辿り着いた。

「すみません……
 突然お邪魔した上に、至極厚かましい申し出ではあるのですが…
 何か、食べ物を分けては頂けないでしょうか……」

酷く顔色の悪い早苗の様子は痛々しさに塗れており、
その悲痛な申し出を無下に断る方が困難であると言えた。
店主は困惑しつつも、早苗の申し出を承諾し、すぐに奥の間へと入っていった。


―――しかし。
ここでも未だ、早苗の胸裡には不安と疑念がわだかまっていた。
食物乞いをしている立場からでは、とても言えた事では無いが
もし、また、ここでも出された食べ物が―――だったら…

だが、そのような早苗の怯えにも似た心持ちは、
戻って来た店主の持つ盆を見て、すぐに晴れた。

「今は炊事時ではないから、これくらいのものしか無いのだけれど、いいかい?」

盆の上に乗っていたのは、皿に盛られた三本の串団子であった。
白い餅に、三色の調味。
その三種は、味噌と、塩と、醤油のようであった。
大丈夫。
どこを、どう見ても、早苗が欲していた『普通の』食べ物である。

あ…
よかった…
私でも食べられそうなもので、よかった…

早苗の頬が、安堵に緩む。
思わず目尻から涙が、口の端から唾液が、
それぞれ零れそうになるのを、早苗は慌てて堪えた。

「有難う御座います、頂きますっ」
はしたないとは思いつつも、早苗は礼も早々に団子の串の一本を手に取った。
早苗の勢いに、やや驚いている様子の店主の目も気に留めず。
無心に団子を頬張り、目尻の涙を拭い、咀嚼し、鼻を啜り上げ、飲み込んだ。
味など判らなかった。
ただただ、胃袋が食べ物を求めた。








「おっ、珍しいな。山の巫女じゃないか」

店の玄関から快活な声がした。
振り向いて見やれば、白黒の魔法使い。
小さい網袋を幾つか抱えて歩んでくる。
その袋の中身を目にして、早苗は自分の顔から血の気が引くのを感じた。
つい今しがた食べた物を、戻しそうになるのを危うい所で堪えた。

「ほい、材料取ってきたぜ」
「ああ、助かるよ。でもちょっと量が多いんじゃないか」



―――え? 材料って、なに…



早苗の背筋を悪寒が這い登った。
店のカウンター卓に置かれた三つの編み袋。
その中には、早苗が最も見たくない物が入っていた。
思わず、早苗は目を背ける。
ぎっしりと網袋に詰まってたのは、
イナゴと、白い蛆(ウジ)と、蜂の子であった。



―――それって、まさか



「なんだか流行りらしいからな、私も食べてみたいし。
 原料の保存もきくから、次の宴会にでも持って行こうと思って多めに、な」

そこまで言って、魔理沙は早苗の口元に、味噌のタレが付いているのを見つけた。
ぷっ、と小さく吹いてから、魔理沙は口を開いた。

「おお、もう試食したのか?






 ウジの塩風味粉末と、イナゴ味噌と、蜂の子のすり身醤油の団子―――」


ぐぶ

という嘔吐の声と同時に、両手で口を押さえた早苗が店の床に膝をついた。

びちゃ
びちゃり
ぐちゅ

次に、溶けかけのみぞれ雪が床に当たるような音が響く。

およそ少女らしからぬ、凄絶な呻き声を上げながら、早苗は胃の中の物を店の床に吐き散らした。

「お、おい… どうし……」

普段の清楚な早苗からは到底想像し難い醜態に、店主は驚愕し、魔理沙までもが困惑した。

「がほっ! ごぼっ!」

胃の中の物を全て吐き出して尚、早苗の嘔吐は止まらなかった。
獣の様に四つんばいのまま、目から大量の涙を流しながら、
薄黄色の胃液を吐き出し続けた。

「あぐっ、も… ぃゃ…… かはっ」

嘔吐を続ける早苗の上体が、ふらついた。
極度の空腹と、精神的な疲弊から、早苗の意識は朦朧となっていた。

唖然として立ち尽くす店主と魔理沙の目の前で、
早苗は己が撒き散らした吐瀉物の上に、右の頬から、べしゃりと倒れ込んだ。
早苗は、汚物に塗れたまま失神していた。


















  • まぁ、現代の若い人間にはにはきついよなぁ・・・
    自分も初めてイナゴの佃煮食ったときは最初の一口は辛かったし -- 名無しさん (2008-12-12 01:42:06)
  • イナゴって食えるんだな。知らなかった
    -- 藤田 龍一 (2008-12-12 21:43:03)
  • 早苗さんのゲロは俺がおいしくいただきました。 -- 名無しさん (2008-12-12 23:04:29)
  • 俺はイナゴのつくだ煮好きだな
    長野のばあちゃんの家いくとよく食べる -- 名無しさん (2009-01-27 23:14:28)
  • 蜂の子ってすんごい甘くて病み付きになるんだぜ -- 名無しさん (2009-02-04 01:24:56)
  • 早苗ちんは現代に生きるJKなのかー -- 名無しさん (2009-02-04 18:36:24)
  • イナゴの佃煮・・・懐かしいなぁ。 -- 名無しさん (2009-02-14 02:18:32)
  • ウジ以外は割と普通じゃね?
    てか早苗さんの故郷だとザザ虫とか食べてそうなんだが…… -- 名無しさん (2009-03-15 06:44:59)
  • 楽勝だなぁ。いやでも女の子にはキツいか...
    霊夢は金使わないで暮らしてるみたいだから普通に虫とか食ってそうだよなw
    -- 名無しさん (2009-06-15 18:41:25)
  • 蟲は最初の一口が現代っ子にはきつい。
    最初さえ過ぎれば意外とおk
    と、田舎へ来た東京の親戚のガキンチョ見て思った -- 名無しさん (2009-06-16 21:08:36)
  • イナゴは普通に食べられるけど、芋虫系は結構きつそう -- 名無しさん (2010-06-19 22:12:09)
  • 虫って栄養あるんだな。
    よい子のみんなは好き嫌いしないで、なんでも食べようぜ!変態お兄さんとの約束だよ! -- 名無しさん (2010-06-20 09:51:52)
  • イナゴはいいよな。正直焼き魚なんかよりよっぽどうまい。
    -- 名無しさん (2010-11-02 04:10:48)
  • くそwイチゴの佃煮かとおもっちまったじゃねぇかww
    -- マルゲリータピーザ (2013-06-12 23:41:21)
  • いざ食べることになると戸惑う
    -- 名無しさん (2013-07-09 06:27:08)
  • イナゴって写真とかで見るとグロいけど実物は意外と小さくて
    全然いける -- 名無しさん (2016-07-22 11:51:44)
  • 高級食材ばっかじゃねーか! -- 醤油 (2016-07-24 09:28:25)
  • ↑HENTAIお兄さんいたぞww -- 醤油 (2016-07-24 09:30:12)
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最終更新:2016年07月24日 09:30