384 :名前が無い程度の能力:2008/04/01(火) 08:02:26 ID:Esrk5qW2O
椛「初めまして。犬走椛と申します。
妖夢さん、あなたは冥界随一の剣の使い手だと伺いました。
もし、よろしければ私に稽古をつけては頂けないでしょうか?」
妖夢「別に今は暇なので構いませんよ、向上心があるのは良いことです。
では少しお相手して差し上げましょう」
椛「ありがとうございます!よろしくお願いするっス!」


そのころの妖怪の山
文「え?椛が余りにも使えないからって西行寺家に修行に出したんですか?
あの子、弾幕こそ苦手ですけど
せっこうの任務で相当な数の修羅場を潜ってますし
千里眼を持ってるぐらいですから動態視力もめちゃくちゃいいんですよ?
本人には自覚がありませんが、剣術だけでなら、この山で上位に食い込むほどの隠れた腕前の持ち主なんですが・・・・・
もし幻想郷が未だにスペルカードルールの無い実力主義の世界だったら
今頃は下っ端なんてやってませんよ
なのにそのことに対して不平不満一つこぼさないで危険な最前線に立ち続けてるんですから、感心しますよ」


どうなる、みょん!?

384のSS化↓





(何故だ・・・・・・・)


木刀での稽古を始めて半刻
このとき、西行寺家剣術指南兼庭師の魂魄妖夢は困惑していた
初めて挨拶を交わした時、相手は己よりも格下であると直感した
しかし、稽古を始めてみればどうだ
如何なる攻撃。上段、下段、刺突、打突・・・・・・全て頭上の羽虫を払うかの如く捌かれる


(何故だ!)

魂魄妖夢が一本を取ろうと、木剣を振り上げる
しかしその動作の間に、椛は喉、腹、脛と三撃打ち込んだ。いづれも全て寸止めである
この瞬間こそ両者の実力の差が如実に顕れたものだった


本来ならこの時点で、西行寺家御抱えの魂魄家の地位は地に落ちたことになる



だが、ここで予想外の言葉を椛は発する

「今日は打ち込み稽古に付き合って下さいまして。ありがとう御座いました」
蹲踞し、納刀し深々と礼をする椛
息一つ乱さずに頭を下げそう言う椛を見て、妖夢は唖然とする
打ち込み稽古とは、片方が守りに徹し、もう片方が一方的に打ち込むという剣道の稽古の一つである
椛はこれはその稽古だと途中から勘違いしていた


椛の言葉を聞いた妖夢の中を様々な思惑が廻る
しばらく椛は西行寺家に修行で滞在する
今回は悟られなかったが、何れ己との差を知られるときが来る
それだけは何としても避けなければならない

故に魂魄妖夢が自然と開口したのは必然である

「・・・では、今度は私の番ですね?」
「え?」
「打ち込み稽古です。今度は私が打ち込む番です。ただし今度はお互いの得物でやりましょう」
「真剣ですか!?し、しかしそれでは・・・」
「そのほうが身も引き締まり自然と体も動きます。その点でこれは非常に有効な方法なのです」
「お考えはわかりますが、私が妖夢さんの一撃を防げるとは・・・・・・・」
「大丈夫です。手加減はします」

無論、手加減する気など庭師には無い
稽古中に負傷、修行の続行は不可能と判断し山に返した。そう主人に報告すれば御家の名を落とすことはない
頭中で絵図面をひく

魂魄妖夢にも当然、後ろめたいものはあった
だが今は御家を守るのが優先であった。主人を失望を懼れた
何よりいくら能力を使わないからとはいえ、三流の妖怪に遅れを取ってしまうことを己の誇りが良しとはしなかった

お互いに普段から愛用する得物を手に取り稽古は始められた


(そのような貧相な剣と鉄の板で白桜剣と楼観剣が防げると思うな・・・・)


白桜剣と楼観剣、この二振りの刀こそ幻想郷最強の刀
この前では椛の持つ剣など桜の枝にも劣るなまくら



魂魄家の剣技は人妖問わず切り伏せることを目的としたものである
あらゆる状況、武器を持った相手を想定し練り上げたこの流派に死角は無い
はずであった
椛と対峙するまでは

(盾など和紙を斬るより容易い)

武士に『盾』という概念は無い
仮に対峙したとしても『守りに徹する輩』に負けることなどないというのが代々の通念である


否、断じて否


盾を軽視し、否定した武士は失念していた
日本の歴史には無い盾本来の使われ方を




広い庭に金属音が響く
妖夢は無呼吸でひたすら、白桜剣と楼観剣を振り下ろす
椛は全ての攻撃を盾の表面、側面を器用に使い凌ぐ
己の持つ剣では白桜剣と楼観剣が両断されると判断して、盾だけで二刀と立ち振る舞う


犬走椛の盾は、盾であって盾に非ず
敵の攻撃を防ぐだけが能ではない
ひとたび握りを変えれば怖気を誘う禍々しき凶器へと変貌する
その一振りは骨をへし折り、武器を砕き、頭蓋を軽々と粉砕する
さらに、鋼の盾で日本刀の一撃を防がれるという武士にとってこれ以上に恐ろしいことはない
それは刃こぼれを引き起こすだけでなく、手に帰る反動も尋常ではない

胸高直径が一、五尺しかない立木でさえ、日本刀で断ち切るのは不可能に近い
緩やかな隆起を持つ肉厚の盾を片手で絶つのはひどく困難であった
その盾を椛が扱うのであれば尚更である


妖夢は焦燥感に駆り立てられた
殺す気で打ち込む渾身の一振りが悉く弾かれ、いなされ、避けられ続ける
次第に握力は失われ、刀の疲労も軽んずることができなくなってきた
(盾があると、こうもやりづらいとは・・・)
心中で「盾を使う者が剣士を名乗るなどおこがましい」と罵る
言い訳することで己の不甲斐無さを誤魔化し、心を平静に保った


否、犬走椛は剣士に非ず

山の警邏の任の中に斥候というものがある
斥候とは敵を察知し仲間に知らせ。必要なら本隊が到着するまでの時間稼ぎを行う、いわば当て馬
常に死と隣り合わせの任務。盾を持つのは必然である
その任の中で彼女は未熟ながらも数々の死線を潜り、盾を武器へ昇華させた
させねば弾幕の不得手な駄犬が生き残ることなどできなかった
使えぬ白狼天狗が居場所を得ることなどできなかった
剣術“しか”彼女には無かった
故に愚直に今日まで剣と盾を振るい続けた

盾を持つ彼女を臆病者と、愚図と罵倒し笑う山の仲間は多い
それでも尚、椛は斥候を行い剣を振るい続ける

全ては自分を罵倒する仲間を守るために


犬走椛は剣士であって剣士に非ず
犬走椛の盾は、盾であって盾に非ず
盾とは犬走椛自身也
傷つき皹が入れば捨てられる、只の盾。それが犬走椛也









半刻もの間、妖夢はひたすら守りに徹する椛に打ち続けた
が、椛に手傷一つ負わせること叶わず

稽古が終わり、無様に膝をつき、地面に家宝の刀をつきたて息を荒げる妖夢を見て椛は僅かばかりの不審感を覚える
剣の達人がこの程度で呼吸を乱すのか?と
椛が疑問を感じた時

「あら?二人ともご苦労様」
現れたのは冥界を統治する西行寺家当主、西行寺幽々子
椛は背筋を伸ばし、背裏に手を回し剣を隠して抜き身の剣がここの主人の目に映らぬよう配慮してから一礼する
一方の妖夢は先ほどと同じ顔を伏せ膝をついたままの姿勢で動こうとしない
ただし体は小刻みに震えており、瞳孔は猫のように開ききっていた
(見られた、全部。幽々子様は見ていらした・・・・・)
背中から脂汗がジワリと滲んでくるのを感じた
「ごめんなさいね、椛ちゃん」
「?」
「!!」
椛は首をかしげ
妖夢の顔が青さを増す


(「この子、本当はあなたよりも格段に弱いの。なのに見栄なんか這っちゃって・・・」と言うに違いない)
最悪の光景が脳裏に浮かぶ





「この子、体調が悪いのよ」

主の意外な言葉に妖夢は耳を疑った

「この子、今日はアノ日なのよ・・・・・・」
「あの日?・・・・・・・・・っ!!」
幽々子の言葉を理解し、椛の頬は紅葉を散らしたように赤く染まる
それと同時に
「そのようなこととは露知らず、申し訳御座いませんでした!!」
椛は土下座して許しを乞うた

「いいのよ、けれどこの子の体調のことも考えて修行は延期ね。まとまった日が当分取れそうにないから再開はかなり先になるのだけれど良いかしら?」
「はい、かまいません。その時はまたよろしくお願いするッス」

そして、椛は荷物をまとめ山へと戻っていった
こうして魂魄妖夢の名は主の計らいで守られることとなった



庭には普段の二人が残った

幽々子が妖夢を見ることなく、遠くを眺めながら口を開く
「変ねぇ?妖夢の方が素質も才能もあるのに・・・・・・・甘やかして育てた覚えもないのだけれど・・・・・」
「・・・・・・・・」
妖夢は唇を強く噛み、ただ耐える


「やっぱり、実戦に勝る訓練はないのかしら?」
「・・・・・・・・」
「あなたは十分努力していると思うんだけれど・・・・・・・・・・・足場の安定した平地で素振りしてるだけじゃ足りないのかしら?」
「・・・・・・・・」
「私が箱入り娘なら、あなたは温室育ちかしら?いいわねこのフレーズ。こんど紫に教えてあげましょう」
「・・・・・・・・」
「気に病むことは無いわ。剣術以外は全てあの子に勝っているのよ?優秀な“庭師”さん」
「・・・・・・・・」
「あ~あ、どこかに腕のいい剣術指南役はいないのかしら?寺子屋の半身半獣にでも剣を習おうかしら?紅魔館の妹さんに教わろうかしら」
「・・・・・・・・」
「それにしても素直で良い子だったわね~、謙虚だったし。ああいうペットが欲しいわ」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・そんなに悔しいなら、いっそ弾幕ごっこであの子を殺してしまえば良かったのに・・・」
「・・・・・・・・」

この日、幽々子は妖夢をキツく叱ることを一度もしなかった



妖夢が切腹をしくじり、永遠亭に運ばれ一命を取り留めるのはこの次の日の話である

誇りを失い、君主の信頼を失い、自信を失い、自身を失い



失うことから全てが始まる

武士道とは死狂い也

fin






  • 「空気を斬れる様になるには五十年は掛かると言う。
    でも、そこまで掛からないような気がしてきたよ。」
    っていう勝利セリフもあるしみょんって結構若いんだよね。
    数百年以上の時を生きてきた天狗になら負けて当然だし、
    めーりんやえーりんにぼこぼこにされても驚きはしないな。 -- 名無しさん (2008-12-02 16:27:50)
  • こういう才能あるマジメっ子が意外なところで挫折して
    屈辱にまみれるのってたまらん
    この夜のみょんの悶絶ぶりを想像するだけでぞくぞくするよ……!
    って、こういう楽しみ方でいいんだよね? -- 名無しさん (2009-08-21 11:31:43)
  • 続きがあるからそれ読め -- 名無しさん (2009-08-21 14:26:21)
  • 幽々子様の攻めがきついぜ… -- 名無しさん (2010-05-16 12:40:20)
  • 俺もゆゆ様に責められたい -- 名無しさん (2010-05-16 21:29:10)
  • ↑に同意w -- 名無しさん (2010-08-16 13:46:16)

  • 否、断じて否
    ↑どこの変態仮面だよwww -- 名無しさん (2011-04-01 15:01:58)
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