「ねえ、魔理沙」
「どうしたんだ霊夢改まって」
「最近私のプレイヤーがメディ子メディ子うるさいのよね」
「ああ……そんな奴もいたな。正直空気だから気にしなくてもいいんじゃないか?」
「いいえ、気に入らないわ。ちょっと現実というものをわからせてあげないとダメだわ」
「なんかアグレッシブだな」
「別にメディレイの絡みを書く練習とかじゃなくて、ただ単に私がむかついてるだけよ」
「そ、そうか……」

*************************************

ということで、私たちはメディスンを呼び出すことにした。
私と魔理沙だけだと怯えてこない可能性があるので、手ごろな所で妖夢もいるって伝えておいた。もちろん誘ってなどいない。
こういう時にあの天然を装って狙ってる子が、役に立つとは思わなかった。

「なあ霊夢、本当に一人だけでくると思うか?」
「そうね……」

正直あの小さなおまけつきで来るだろうと予想している。
その時は一人で来いって言ったのに~ってことで文句つける材料になる。
どう転んでも来た時点で未来はきまっているのだ。

「あ、あのー」
「お客様の登場よ。魔理沙出てきて」
「自分の家なんだから自分で行けよな」
「いいから、ほら」
「ちぇ……今度お茶もらうからな」
「あら、いつもの事じゃない」

さてと、「特製」お茶の準備でもしようかしら。

「適当に座っていいんだぜ」
「わかった」

魔理沙が連れてきたようね。しっかりとおもてなししてあげないと。

「いらっしゃい、メディスン」
「今日はなんで呼んだの?」
「別に理由なんてないわよ。理由をつけるなら、私があなたとお茶したかったからだと思うわ」
「花以外で接点ないし、その花の接点ですら薄かったから仲良くなることはいいことだぜ」
「そうね。ちょっと疑ってたわ」

「まあお茶でも飲みながらゆっくりしましょ」

「特製」のお茶を出す。

(霊夢、なんだこのお茶は。においがすごいんだぜ)
(葉巻の抽出液よ)
(ちょっとそれは洒落にならないだろ)
(いいのよ別に)

「私、お茶って飲んだことないんだ」
「いつも一人だものね。あ、別に悪い意味じゃないんだけど」
「ほとんど畑から出ないから」
「それなら今日が初めてお茶を飲む記念日ね」
「じゃあ、いただきます」

小さな唇が陶器に触れる。少しずつ傾いていく湯飲み。

(さあ、早くっ……)

ゆっくりとだが、喉が動いたのを確認できた。

(飲んだ! ゆっくりしんでいってね!!)
(れ、霊夢殺すつもりだったのか)
(冗談よ。軽く倒れてもらうくらいが丁度いいわ)

「あ……」
「どうかしら? 私の特製茶は」
「すごくおいしい。お茶ってこんなに美味しいものだったんだ」

え?

(ちょっと魔理沙どういうことよ)
(知らないんだぜ。準備したの霊夢じゃないか)
(うるさいわね、なんであんな平気な顔で飲めるのよ)
(なあ霊夢、メディスンって毒人形だろ? 毒は好物なんじゃないか)
(そ、その可能性はあるわね。ちょっと体にいいもの持ってくるわ)
(どこ行くんだよ)
(因幡しばいてくる。メディスンと話でもして時間稼いでおいて)
(そんな無茶な)

「そうだ、それなら甘いお菓子も用意してあげるわ。どうせ初めてなんでしょ?」
「聞いたことはあるけど、食べたことは無い」
「ちょっとまっててね、今から作っちゃうわ」
「別に今からならいいよ」
「いいの、ほらまっててね。魔理沙頼んだわよ」
「はいはい、色んな意味で頼まれたぜ」


************************************

霊夢が部屋から飛び出していった。
部屋に取り残されたのは私とメディスン。
私はメディスンに恨みなどまったく無い。というよりも、この子のことを何も知らない。
どうせ霊夢の奴は空回りして終わるだろうし、色々話をしてみることにした。

「なあ、いつも一人って言ってたけど何をしているんだ?」
「鈴蘭畑でまわったり、スーさんと遊んだりしてる」
「そうなのか。今日はよく来たな、人間嫌いなんだろ?」
「人間は嫌い。でも、外に出ないとダメだって言われたから」
「一応言っておくけど、人間にも色々な奴がいる。善良な心を持つ私みたいな人がね」
「善良ね……こそ泥のようにしか見えないけど」
「人は見た目じゃないってことさ。人だけじゃないさ、妖怪や鬼でも見た目じゃないんだ」
「まだ霊夢の方が巫女やってる分善良な感じだけど」
「善良……ねぇ。そういえばメディスンは本って読んだことある?」
「無いわ。鈴蘭畑に本なんて似合わないわ」
「残念だな、せっかくだし霊夢が来るまで何か簡単なのを読んであげよう」
「どうせ暇だし、聞いてみることにする」

私は一冊の本を読み上げることにした。

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天使と悪魔

天使は天国に住む、とてもとても美しい羽を持つものたちです。
地上の人はその美しい姿を崇拝し、とてもいとおしく思っていました。
ある時、戦争が起きました。
戦争はとても悲しい事です。人と人が争って、命を奪い合うのです。
天国の人たちはとても戦争が嫌いです。
いつも戦争がおこる度に悲しんでいました。

今回の戦争もとても長いものでした。
始まって1年が経ち、10年が経ちました。
さすがに見てられなくなった大天使様はこういいました。

「誰か勇敢な者は地上の戦争をとめてきてくれないか」と。

勇敢な若い天使の一人が、地上に降り立ち戦争の仲介に入ります。
だけど、人間は言う事を聞きません。
それもそうです。10年間もやっている戦争ですから、勝たないと意味が無いのです。
それでも必死に若い天使は戦争を止めようとしました。

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「ただいまー」

ああっと!
いい所で霊夢が帰ってきたみたいだ。

「途中までだったけど、どうだった?」
「先が気になる……」
「そうだな、甘いお菓子でも食べ終わったら続きを読んであげよう」
「ありがとう魔理沙」
「お、初めて名前で呼んでくれたな」
「な、別にそれくらい自由でしょ」

もしかしたらメディスンはただ純粋なだけで、とてもいい子なのかもしれない。

「じゃーん、ケーキよケーキ」
「こりゃすごいな。どこから持ってきたんだ?」
「ちょっと因幡しばいて手伝ってもらったの」
「可愛そうに」
「でも、これでばっちりよ。さ、食べましょ」

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それほど大きいケーキではないので、3等分することにした。
このケーキには秘密がある。
葉巻の逆。つまり、とても健康にいいケーキなのである。
師匠曰く、企業秘密ということらしいのだが、彼女が言っているなら本物だろう。

「どうぞ召し上がれ」
「いただくんだぜ」
「いただきます」

3人が一斉に食べ始める。
これ本当に体にいいのかわからないくらい美味しい。
きっとこの甘さが魔法みたいなもので、何か特別なものを隠しているに違いない。
料理は魔法だと本当に思う。

「みんなどう?」
「おいしいぜ。こりゃ毎日食べても飽きないな」
「すごく美味しい。こんなの食べたことないよ」
「そう? それなら私の分も半分あげるわ。喜んでもらえる子に食べてもらう方がいいし」
「え、いいの? ありがとう」

どうぞ。いくらでも食べてください。
そうすればそうするほど、健康成分が体を駆け巡るのだから。
半刻もしないうちにケーキは無くなった。
魔理沙とメディスンは色々仲良さげに会話していたが、私はいつ効果が現れるのかだけを考えていた。

そして、そのときが来た。

「うーん……なんか眠くなってきたかも」
「慣れない外で疲れちゃったのかもね」
「そうかも。そろそろ帰ろうかな」
「ちょっと休んでいけばいいわ。炬燵で寝るのは幸せの1つなのよ」
「それならそうしようかな」
「ぜひぜひ。ゆっくり休んでね(もう目覚めないくらい)」
「それじゃあ起きたらさっきの続きでも読んであげよう」
「ありがとう。それじゃ……ちょっと……休むね」



「なあ、霊夢は本当にこれでよかったのか? どうせ起きるとは思うが」
「ふふん、成功よ成功。この子はもう目を覚まさない。そして、プレイヤーはまた私のところに戻ってくる」
「なんだかなぁ……私もちょっと休ませてもらうんだぜ」
「私も疲れた。因幡の奴らが融通聞かなくてね」
「それじゃ、おやすみなんだぜ」
「はい、おやすみ」

**************************************

「ん、んん……」

ああ、そういえば炬燵で寝てたんだったな。
もう外は真っ暗じゃないか。どんだけ寝ていたんだ。
部屋は暗く、風の音くらいしか聞こえない。

そして、寝息は1つ。
霊夢の物。

ああ、霊夢の奴成功してしまったのか。
とても悲しい気分になってしまったので、荷物を整理することにした。

「いたっ……小指ぶつけてしまったぜ」

ああ、これはさっきの本。
パラパラと紙をめくってみると、栞が挟まっているページで止まった。
そうだったな、読んであげる約束したんだよな。

私は静かな声で目を覚まさない少女に語りかけることにした。

****************************************

若い天使はがんばってがんばって、戦争を止めようとしました。
しかし戦争は終わるどころか勢いを増すばかりです。
心が折れそうになりつつも、若い天使はあきらめませんでした。
しかし、その頑張りは人間には届きませんでした。

若い天使は捕まってしまったのです。
人々によって崇拝されていた天使。でも今ははりつけにされている天使。
天使は小さな言葉で問い掛けました。

「世の中で、正しいことは一体何なのでしょうか?」

人々が恐れる悪魔。
それは人間自身だったのかもしれません。

****************************************

流れる涙が止まりません。

「皮肉な話だったな……」

私にとって霊夢は大切だし、目の前の少女もきっと大切な人になれたはずだった。
一緒に本を読み、散歩し、図書館で迷惑をかける。
この感情がわからない。
霊夢は大切だけど憎い。

だめだ、今日はもう帰ろう。
そして、明日はいつものように生きよう。
この動かなくなってしまった少女の分まで強く。

さようなら、純粋なお人形さん。
こんにちは、罪を背負った人生。




おわり。





  • イイハナシダナー -- 名無しさん (2010-07-31 00:30:53)
  • れいむしね -- 名無しさん (2010-08-01 17:26:31)
  • 案外鈴蘭畑に行ったら再起動しそうな気もする
    そして今度は霊夢をですね 毒でですね -- 名無しさん (2010-08-02 21:46:56)
  • サカタハルミジャン! -- 名無しさん (2010-08-02 22:59:58)
  • 魔理沙・・・ -- 名無しさん (2010-08-13 16:26:00)
  • 久々に読んでみたら前より一段と泣けたぞい···
    世間では空気でも、俺には結構好きなキャラなんだがな···でも、むしろ不人気の方が占領感があるんだよなぁw
    俺は昔から花映塚の使用している自機はメディスンだからかな。いや、好きだから使ってやってるんだろうな。
    メディスンもそうだが、好きなキャラは妄想してシチュエーションいつも考えちゃうよなぁ···こんな年頃じゃねえのに、情けねえぜ。
    感想を書く所で自分の事を長々と書いちゃったな。まじ悪かった。許してくれ。 -- 七な名無し (2011-01-14 19:07:47)
  • ↑絶対に許すん! -- 名無しさん (2011-01-14 21:44:29)
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最終更新:2011年01月14日 21:44