いぢめスレ提供

・微細ではありますがグロ表現があります
・キャラクターの性格に書き手の主観が入っています
・この話は咲夜の視点〈咲夜―View―〉と客観的な視点〈Othre―View―〉で進んでいます



〈咲夜―View―〉
夜、紅魔館の門の前で門番をする美鈴に差し入れを持ってきた

「夜勤ご苦労様、はいこれ」
「ああ、咲夜さん。毎回ありがとうございます」

差し入れといってもパンと水筒に入れたスープという質素なものだ
カップは2人分あり、美鈴と私のぶん
お嬢様が宴会に出かけている夜、これはいつの間にか私たちのあいだで恒例になっていた
スープを飲みながら2人で雑談をする
「良いんですか咲夜さん?明日も朝早いんじゃないですか?」
「それは美鈴も同じことでしょ」
「私なら2~3日寝なくったって大丈夫ですよ、頑丈にできていますから」
「その割にはいつも昼寝してるじゃない」
「あははは」
「誤魔化さないで」

話題は今日の出来事に移る
「今日また白黒の進入を許したの?」
「うう・・・・面目ありません。咲夜さん」
「昼寝ばっかりしてるから、対応が遅れるのよ?」
「寝る子は育つって言いますし」
反省の色が無い、もう少し気を引き締めてもらいたいものだ

「もしもの時どうするの?紅魔館の安全はあなたに懸かっているのよ?」

注意を喚起するつもりで言ったつもりだった
しかし美鈴は自信満々に答えてきた

「私がここにいる限り『もしも』なんてことは絶対ありません。本当に危険なものは全力で排除します。それこそ命に代えても・・・・」

その顔は頼もしいことこの上なかった

「あなたの熱意はわかったから。ほどほどにしなさいよ?門番の代えなんてそうそう居ないんだから」
「そうはいきません・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ここには守りたいものが沢山、沢山あるんですから・・・・」

その顔は決意と覚悟に満ちていた
きっと私がここにやってくるずっと前から誓い固めていたものなのだろう
何十年、あるいは何百年も前から

「////////////」

しかし美鈴が最後のところを照れながら言うものだから、こちらまで恥ずかしくなってきた
そういえばスープが残り少ない
私がこれ以上スープを飲むと、美鈴が後で飲む分が無くなってしまう
そろそろ中に戻ろう

「じゃあ、そろそろ私は戻るわ」
「はい、お疲れ様です」

私は玄関に向かい歩き出す

「おやすみなさい。でもあなたは寝ちゃだめよ?」
「わかっています。咲夜さんはちゃんと寝てくださいよ?しっかり寝ないと大きくなりませんから」

いつもの美鈴の冗談だ
私が小さいのではなく、美鈴が大き過ぎるのだ
この主張は譲れない

私は彼女の冗談にいつも通りナイフを投擲して答える
こちらに背中を向けている彼女に向かって






















おどかすつもりだった

ナイフは彼女の顔スレスレを通り、向こうの地面に落ちるはずだった

この私が手元を狂わせるなど絶対にあり得ないと自惚れていた



私の放ったナイフは
美鈴の首の真後ろに突き刺さった

殺気が乗らなかったから反応出来なかったのか
私が投げるからと信頼していてくれたのかはわからない

最初はこの程度の怪我、彼女ならどうってこと無いと思った。いや思いたかった

「-----------!!」
全身を強張らせてガクガクと痙攣する美鈴
受身も取らず、そのまま前に倒れこむ
「美鈴!?」
慌てて駆け寄り美鈴の体を起こす
口と鼻から、おびただしい量の血が湧き水のようにゴボゴボあふれていた
「何かの冗談でしょ!?ねえ美鈴!!」
美鈴を気遣う言葉より、先にこの言葉が出てきた

今の現実を受け入れたくなかった



「め・・・・・美鈴?」
しばらくして彼女は動かなくなってしまった
心臓も脈も完全に止まっていた

美鈴が痙攣している間
私は医者を呼ぼうともせず、ただ彼女に話しかけ続けた
私がしたのはそれだけだった



「ああ、あああああああ!!」
美鈴の体を抱え、今度は私の体が震え始めた
殺してしまった

本当に他愛も無いことで

無意味に

何の罪も無い美鈴を

このとき、私の頭には
最も最低な、しかし私がこれからも平穏に暮らせる方法が浮かんでいた

隠そう・・・美鈴の死体を・・・・・・・

私がここに来て美鈴が死ぬまで、まだ少しの時間しか経っていない。だれにも見られていない
お嬢様は私抜きで宴会に行く時は、神社に泊まることが多い。それに期待しよう


方法を考える
まず血を洗い流す。ここは風通しが良い、においも明日には消えているはずだ
念のため、もしお嬢様が美鈴の血のにおいを嗅ぎ取った時に何か良い言い訳を考えておこう
あとはすぐそこの湖に死体を沈めてしまえば良い
そして美鈴の筆跡を真似て辞表なり、旅に出ますなり書けば終わりだ
簡単じゃないか


思い立ったら早かった

血の掃除など日常茶飯事だ、すぐに済んだ。これならにおいも跡も残らない
あとは死体を引きずって・・・・・・・

「咲夜さん?」
「ッ!!」

声のほうを振り向くと、美鈴がむくりと起き上がっていた
「頑丈に出来てるって言ったじゃないですか?・・・あの程度で私が死ぬわけないじゃないですか」
美鈴は生きていた

本当によかった

そして同時に、自分が考えていた恐ろしいことを気取られないようにしなければと考えた
美鈴は首をこきこきと動かし体の具合を確認していた

「本当に大丈夫なのね?」
「だから大丈夫ですよ。咲夜さんがそんなに心配するなんて珍しいですね?」
美鈴がそういうのなら本当に大丈夫なのだろう
「じゃあ、戻るわね」
「はい、おやすみなさい」
美鈴はこちらに背を向け、小さく伸びをして門番の仕事に戻った
私は今度こそ、玄関に向かって歩き出した




〈Othre―View―〉

このとき十六夜咲夜は気づかなかった
美鈴の指先が細かく震えていたことに






次の日の昼
魔理沙は今日も紅魔館に向かって飛んでいた
「お!今日もいるな。そして相変わらずシエスタしてやがるぜ」
大きな門の前で居眠りするいつもの門番を見つけた
普段彼女は立ったまま眠るという器用なサボリ方をしている
しかしなぜか今日は椅子に座っているが、特に気にはならなかった
「お目覚めの時間だぜ、中国」
ミニ八卦炉を取り出し美鈴に向ける
そして、いつも通りマスタースパークで吹き飛ばした

しかし、ここからがいつも通りではなかった

瓦礫の中から美鈴の姿が現れなかった
いつもなら早々に復活して、挑んでくるはずだ
他のメイドが瓦礫に埋もれた美鈴の元に駆け寄った
美鈴を瓦礫から引っ張り出して、唖然とする
「だれか!!医者を!!パチュリー様を呼んで来てきて!!」
そう大声で叫んだ
「な・・・なんなんだよ・・・」
魔理沙は状況が飲み込めなかった
自分はいつも通りのことをしたつもりだ、それなのに美鈴が只ならぬ状態になったことが信じられなかった




〈咲夜―View―〉
美鈴は自分のベッドで横になっている
「脊椎が損傷している。これでは半身麻痺ね・・・・・あと手にも障害が出ているわ」
その美鈴にパチュリー様が残念そうに仰った
瓦礫に埋もれた時、背骨に大きな衝撃を受けてしまったのが原因らしい
私は魔理沙が許せなかった
「まったく!なんてことをしてくれるのあなたは!!」
「彼女を責めないであげてください。弾幕ごっこである程度の事故は覚悟しなければなりません。居眠りしていた私にも責任はあります」
それを聞いた魔理沙は帽子を深く被り顔を隠した
後悔と申し訳なさでいっぱいなのだろう
「美鈴はもうこのままなのか?」
魔理沙が心配そうにたずねた。そのことは正直私も気になったところだ
「うちの門番を舐めないで・・・・・人間ならともかく妖怪なら時間はかかるけどそのくらい治るわ。人間が骨折するのと変わらないわ」
お嬢様が答えた
私も魔理沙もそれを聞いて歓喜する
「美鈴が動けるようになるまでの間・・・・・・・・1ヶ月でいいわ、あなたが門番をしなさい。それで水に流してあげるわ。それでいいわね美鈴?」
「はい、私はそれで構いません。今後、門を一番破壊するのが大人しくなるのでしたら、このくらい安い買い物です。1ヶ月あればある程度動けるようになりますし」
魔理沙は本当にすまなそうな顔をして、その申し出を引き受けた


魔理沙は明日から門番をすることになり、荷物を家に取りに帰った
部屋には私と美鈴だけになった
「よかった・・・・・いつかは復帰できるのね」
「そうです、心配しないでください。時間は少しかかりますが」
「しかしお嬢様は魔理沙に甘いわね・・・・1ヶ月は短過ぎやしないかしら?」
「人間の寿命は短いんです。その短い時間を門番に費やすのは酷だとお考えになったのでしょう。そんな、怒らないであげてください。別に私が死んだってわけじゃないんですから」
確かに、昨晩のこともあり少し神経質になりすぎたのかもしれない
「しばらくの間、寝たきりになりそうですけど・・・・・」
「それくらい、私が面倒見てあげるわよ」
「いいんですか?」
なんだかんだと今まで彼女には世話になっている、昨日の罪滅ぼしもかねて恩を返しておこう



美鈴の部屋から出て廊下を歩いていると妹様が向こうからやってきた
館から出してもらえないこの子は、ほとんど地下室で過ごしているはずなのだが。見舞いだろうか?
正直、私はこの子は苦手だ
なにを考えているかわからない
霊夢も魔理沙もこの子とあまり関わろうとしない
今のように、ごく稀に館内で見かけることがあるが
子供のように無邪気に微笑んでいるときもあれば
葬式の参列者のように暗い表情でいるときもある
情緒不安定といわれている所以はそれなのだろうか?
この子は常に一人だ
お嬢様も極力避けているような感じがする

「メーリンの部屋はどこ?」
あれこれ考えていたら話しかけられた
「はい、あちらです。お見舞いですか?」
「うん。大変なことになってるって聞いたから」
今日はにこにこしている。機嫌が良いのだろうか?
「そうですか。美鈴もきっと喜びますよ」
私はドアを指さして教える
「ありがとう」
可愛らしく微笑んで去っていった
「咲夜?」
と思ったら呼びかけられた
「なんでしょう?」
振り向くと妹様が指でピストルの形を作って人さし指をこちら向けていた
「!!」
攻撃されると思い、全身の筋肉が強張る
「ばーーーん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・驚いた?」
特になにも出なかった、どうやらからかわれたらしい
「じゃあね」
そう言うと今度こそ、美鈴の部屋に向かっていった
やはりこの子は苦手だ





〈Othre―View―〉
「メーリン。お見舞いに来たよ」
ノックを2回して美鈴の部屋に入ってくる
「ああ、妹様。わざわざ、ありがとうございます」
フランはベッドの横にある椅子に腰を下ろす

フランはテーブルの上のティーポットに手を伸ばし、2人分のお茶を入れようとする
「あ」
その時、机の隅にあったスプーンを落としてしまった
美鈴がそれをキャッチしようと手を動かす
彼女の頭の中では、完全にスプーンを掴んでいた
しかし現実はスプーンが床に落ちて転がっていた
「・・・・・・・」
美鈴は小さく歯噛みした
手が思うように動かない
「大変だね?体が動かないの?」
「はい・・・お恥ずかしながら」
「私と今のメーリン。どっちが不自由なのかな?」
んーと唸り首をかしげながら考える
「そんなことを聞いてどうするんですか?」
「ずっと前に本でね。『一番の不幸とは周りから不幸に思われていても本人にその自覚がないこと』なんだって・・・・メーリンは今自分のこと不幸だと思ってる?」
美鈴はしばらく考える
「私は・・・・・・・・・・不幸じゃないと思います。こうして気にかけてくれる方たちがいますから」
その返事にフランはどこか満足気だった
「じゃあ、メーリンは私が不幸だと思う?」
「・・・・・・そのことに関しては私の口からは何も言うことができません」
黙秘という名の肯定
不幸じゃないと即答できないことから、美鈴は少なからずフランのことを不幸だと感じているのだろう
「不思議だね、この部屋の中に一番不幸なのが2人もいる・・・・・矛盾してるね?」
「ふふ、そうですね。矛盾してますね。一番が2人もいたらおかしいですもんね」
自分はこの子の目に不幸に映るらしい
それは当たっているのかもしれない

この子のことはよくわからないと美鈴は思った
貝のように黙ってなにも話さないときもあれば
話せても会話が成立しないときもあり
すごく饒舌なときもある
美鈴も咲夜と同様にこの子は何を考えているのかわからないと思っていた
しかし、咲夜のような嫌悪感は一切抱いてはいない
これがフランドールに対して二人が持つ感情の唯一の相違点だった

その後、特にこれと言った会話は無く。フランは部屋から出て行った






〈咲夜―View―〉
今日から魔理沙が門番を勤めた
そして私の美鈴の介護が始まる
美鈴は手は動かせるといっても、絶対安静である。へたに動いて背骨を傷めては元も子もない
だが、彼女はしきりに指を動かしリハビリに励んでいた
絶対安静だからといって止めさせようとするが、私が目を離すとすぐに再開してしまう
そしてお世辞にも指の動きは滑らかとはいえなかった

次の日も美鈴は指の運動を止めなかった
指程度なら背骨には支障はないと考え、私はもう止めなかった

その次の日
部屋の戸を開けて驚いた
美鈴が床に這いつくばっていた
「どうしたの美鈴!?」
慌てて駆け寄り、ベットに体を運ぼうとするも自分ひとりでは力が足りなかった
「大丈夫です、腕の力だけで戻れますから」
歩こうとして失敗したのだということが、倒れた椅子から推測できた
これはパチュリー様から伺ったことだが飛ぼうとしても足に力が入らないためそれもできないらしい
「お願いだから無茶はしないで。余計にひどくなったらどうするつもり?」
「すみません、気をつけます」

しかし、次の日その次も、また次も美鈴は同じ姿で私を出迎えた
結局、毎日美鈴はリハビリに専念し続けていた
なぜそんなに焦る必要があるのか、私にはわからなかった


それからさらにその日から一週間が過ぎ
魔理沙が門番を勤めるようになってちょうど2週間が経過した
今、美鈴は車椅子で生活をしている

ほとんど自力でタイヤを回すが、たまに妹様がその美鈴の乗った車椅子を押して館内を歩いているのを見かける
妹様にとってそれは良い遊び道具なのかもしれない
周囲は微笑ましいことだと評価していたが、私にはその光景は正直不愉快だった
妹様が美鈴の怪我で遊んでいる気がしてイライラした
無論あの子にそんな気がないのはわかっているが、この感情を抱かずにはいられなかった
そしてあの子がいつ気まぐれに美鈴を壊してしまうかと考えたら、怖くてしかたがなかった



〈Othre―View―〉
フランが鼻歌交じりで美鈴の乗った車椅子を押す
正面から見ると彼女が完全に隠れてしまい、車椅子がひとりでに進んでいるように見える
押してもらっている間、美鈴は指の運動をしていた
「ねえ、メーリン」
フランに声をかけられ美鈴は運動を中断する
「なんでしょうか?」
「自分の行きたい所に行けないのはつらい?」
「ええ、辛いです。」
なぜこの子はこんなことを聞くのか美鈴にはまたわからなかった
「私はつらくないよ」
「なぜです?」
「ここが私にとっての全てだから」
「全て?」
やはりこの子の言う事は少しわからない
「私の世界は紅魔館で完結してるの。だからこれ以上必要ないの」
「でも、それじゃあ物足りなくな・・・」
「メーリンは夢を見る?」
美鈴の言葉にかぶせるように早口でフランが言った
「・・・・夢・・・・・・ですか?最近見ていないですね」
見たのかもしれないが、いちいち覚えていない
「夢の中にはいろんなものがあふれている。何をするのも自由、だれにも縛られない。その中でならどんな姿にもなれる」
「いいですね、それならだれにも迷惑もかかりませんし」
「でしょ?鳥になって日光を気にせず飛ぶことも、魚になって川を泳ぐことも、獣になって野山を駆け回ることも、虫になって草を掻き分けることも、他の妖怪になって暴れることも、たくさん体験できる」
夢について話す彼女はとても楽しそうだった。まるで自分のコレクションを自慢する子供のように
ほとんどが本で得た知識なのだろう、もしかしたら一つも実物を見たことがないのかもしれない
美鈴はフランの想像力に脱帽した
「でも、1つだけなれないものがあるの」
だが、表情が急に暗くなる
「それはなんですか?」
「・・・・人間」
この子は霊夢や魔理沙に会うまで人間を食べ物でしか認識できなかったからイメージが持てないのだろうかと美鈴は予想した
「・・・・・・・・・・・・・怖いの」
「怖い?」
「人間は何を考えているかわからない・・・・・」
美鈴はなんと返してよいものか考えあぐねていた
2人の間に長い沈黙が流れる
「でね、話を戻すけど」
「?」
やはり微妙に会話が成立しない
「今のを踏まえて誰が一番ここで不幸だと思う?」
以前、自分の部屋で話した内容を思い出した
美鈴は考えてみる
フランより美鈴のほうが不幸だと遠まわしに言っているのか
それともやっぱり、姉にも相手にされず、夢という妄想でしか楽しみを得られないフラン自身のことを言っているのか
そしてなぜ、人間という言葉を出したのかが気になった。これも話に関係があるのだろうかとあれこれ考える
「降参?」
「はい、降参です。教えて頂けないでしょうか?」
フランは勝ち誇ったように笑う
「答えはね・・・・・」
「美鈴、食事を持ってきたわよ」
フランの答えは咲夜の呼び声にかき消された






〈咲夜―View―〉
「美鈴、食事を持ってきたわよ」
2人が楽しそうに話しているのがなぜか癪で、つい怒鳴り気味に声をかけてしまった
「部屋に戻って食べましょう」
「咲夜、私の分は~?」
2人が一緒にいるのは知っていたが、私はあえて美鈴の分だけ持ってきた
「申し訳ございません。これは美鈴の分だけです。妹様もお部屋に御戻りになられましたら、他のメイドがお運びになられますよ」
この子を遠ざけたかった
なるべく嫌味に聞こえないように言うことができただろうか
「そうなんだ・・・・じゃあね、美鈴」
「はい、ありがとうございました」
妹様はそのことに特に気にすることなく、そう言って去っていった
その姿が見えなくなるまで見送ってから
「さあ、私たちも戻りましょうか」
「そうですね」
私たちも移動を開始した
食事を持って片手で車椅子を押すのは大変だからと言って、美鈴は部屋まで戻るあいだ私の手を一切借りなかった

部屋に戻り美鈴はテーブルで食事をする
まだ、手は満足に動かないのに美鈴はあえて箸を使い食べるようにしている。リハビリのつもりなのだろう
掴んでは落として、掴んでは落としてを繰り返しているので量が一向に減らない
私はただその姿を見守っていた
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様」
かなりの時間が掛かったが、ようやく食べ終わった
食器の乗った盆を片付けようと、立ち上がる
すると
「もう・・・・門番はできないかもしれません・・・・・・・・」
突然、そんな言葉をもらした
「えっ?」
突然のことで間抜けな返事しか出来なかった
そしてその言葉の意味に衝撃を受け、わずかに狼狽する
「で、でも今みたいにリハビリすれば・・・」
「確かに1ヶ月で生活に支障がないくらいにはなります・・・・・・・でも、必ず治ってからも後遺症が残って思うように体が動かせません
 神経もズタズタなのでもう気も上手く使えませんし・・・・何年かして復帰できたとしてもブランクが長すぎたのでどのみち戦力になりません」

この幻想郷は強い力を持った者達であふれている
その猛者たちの中で、今の美鈴のハンディキャップは致命的だ
それでは門番など致命的だ

「あははははは、困りました・・・・・・・・新しい就職先を探さなきゃなりません・・・」
冗談で言ったつもりなのだろうが、力なく笑うその姿はなんとも痛ましかった
その顔をそれ以上見るのが辛くて、お盆を持ってそそくさと部屋を出てしまった

廊下でお盆を運びながら考えた
もう門に立つ美鈴は二度と見られないのだと知った
ただその事実がショックだった
もうあの下で雑談が出来ないと思うと悲しかった
あそこでする他愛の無い話が好きだった
私が一生を終えるまで、それは変わらない風景なのだと信じきっていた
そして美鈴自身がどれだけ悔しい思いをしているのかと考えると胸が張り裂けそうだった
怪我をする前夜、美鈴が話してくれた小さな決意を聞いたからなおさらだ
「?」
美鈴の首にナイフを突き刺してしまったことも思いだした
「あれは・・・関係ないわよね・・・・・その後も普通に体を動かしていたし」
関係無いに違いない、もしあの怪我も原因だとしたら私はとっくに美鈴に嫌われている
「門を破った魔理沙が・・・・・・全部悪いのよ・・・・・」
そう思うことにした




そして後日、意を決してお嬢様に美鈴の今後について掛け合った
「別に門番として使えないからってクビにして追い出したりなんかしないわよ。今まで安月給でこき使ってたんだから。元門番くらい養ってあげるわよ。労災ってこともあるし」
どうやら使えないからと追い出す気にはならないらしい。それを聞いて安心した、さすがはお嬢様だ、心が広い
「歩けるようになれば、メイドとして再雇用は可能よ。まだまだ引退させないわ」
それは良い、美鈴もメイドをしてくれたら仕事も楽になるし。きっと楽しいだろう
メイド姿の美鈴と一緒に仕事をするのを思い浮かべ、自然と頬が緩む

「ただあなたが生きているうちは無理よ。これから数十年は足を引きずることになるでしょうね、飛ぶことも出来ないわ」
しかし、その幻想は一瞬で砕かれた
「数十年といっても人間の時間にしたらせいぜい半年程度よ、そんなに悲観することじゃないわ」
仮に歩けたとしても、彼女はもう門番は出来ない
しかも私はそれを見ることすら出来ない
お嬢様の思い描く未来に私はいない
私も人外の存在になればいいのだろうが?
だが私にそんな気はさらさら無かった

お嬢様の元から離れメイドの仕事に戻る

いつのまにか私の怒りの先は魔理沙に向けられた
彼女がしたことは門番を殺したのに等しい
来週には門番から開放されて、また門を破壊して中に侵入してくるであろうと考えるとだんだん憎くらしく感じられた

魔理沙があんなことをしなかったら・・・・・






〈Othre―View―〉
咲夜が魔理沙に小さな殺意を抱いたこの日の夜
フランは美鈴の部屋に見舞いに来ていた
「ねえ、メーリン」
美鈴はベッドで横になっている
椅子に座り足を振り子のように前後させてフランはたずねた
「なんですか?」
「もう、門番が出来なくなってつらい?」
「はい、つらいです・・・・・・・・・・・・すごく。それに自分がものすごく不甲斐無く思います、悔しい限りです」
フランには早い段階で自分がもう門番を出来ないことは話していた
かろうじて動く手でフランの頭を撫でる
「あなた達姉妹が仲良く過ごす日常を・・・・・・私は見てみたかった・・・・・」
そういう美鈴の目には涙が浮かんでいた
「私はいつでも受け入れる準備は出来てるんだけどね。あいつが心を開いてくれないんだよ?」
本心でそう思っているのか、美鈴のために嘘を言っているのかわからない
この現状が美鈴はとても辛いことに変わりは無い
「楽にしてあげようか?私なら痛みも感じる間もなく壊せるよ?」
彼女なりの優しさなのだろうか、それとも彼女の気まぐれか
やはり美鈴にはこの子の考えがわからない
「いえ・・・・・せっかくの申し出ですが。謹んでお断りします。その役目は他の方にお願いしようと思います」
「そうなんだ」

2人の会話はそこで途切れ部屋を静寂が包んだ

「うっ・・・・クッ・・・・・・・・・」
フランの前であってもお構い無しに美鈴は泣き出した
彼女の前だからこそ泣けたのかもしれない
それは悔し涙であり悲し涙だった

あの時、咲夜のナイフさえ刺さらなければこんなことにはならなかった
ナイフが刺さった場所が悪かった
神経の集中している頚椎近くに刺さったため多少損傷した、血が鬱血したこともあり体の感覚がおかしくなった、
放っておけば治る程度のものだった、回復の早さには定評がある
しかし、次の日の魔理沙が破壊した門の瓦礫によって取り返しのつかない体になってしまった
前日の夜は宴会だから魔理沙は来ないだろうと思った
来ないと思ったから、体に鞭打って門番をした。この日は休もうと思えば休めた

自分の運の悪さを嘆いた
彼女の言うとおり、自分が一番不幸なのかもしれない

「答え・・・・言ってなかったよね?」
「?」
フランが涙ぐむ美鈴に問いかける
「ここでだれが一番不幸かって答え」
「ああ、そうでしたね」
咲夜に邪魔されて聞きそびれていたことを思い出す。実はひそかに気になっていた
「それはね・・・・・・」
「それは?」
フランが勿体ぶるように、言葉をためる

「あいつだよ」
「あいつ?」

あいつとは姉のレミリアのことを言っているのだろう
「仮に不幸だとしたらなぜそう思うのですか?」
レミリアが出てきたのは以外だった、美鈴にはとてもそうは思えなかった
「あいつはね、なんでもかんでも『運命』って言葉を使わなきゃ動けないんだよ?少し先のことが少しだけわかるから。まあどうせ判った振りしてるんだろうけど」
「あはははは」
ここでいったん話を切る
『レミリアは運命が見える』ということを前提にフランは話を続ける

「どんな結果でもそれが変えられない運命だって、あいつははじめから決め付けてそれより上を望もうとしない。やったとしても都合の悪いことを修正するだけ
 その方法ならテストで100点満点は取れるかもしれない、
 でも、もしかしたらそのテストはがんばれば120点取ることが出来るテストかもしれない。でもあいつは決してそこに到達できない
 操るはずの運命に縛られてがんじがらめになって、それ以上の発想が思い浮かばない。気づきさえしない

 先のことが少しだけわかっているのなら、それは究極の退屈。推理小説でいきなり最後を読んで犯人がわかってしまったらつまらないでしょ?

 なのにあいつは皆を上から見下し、全てを知った気になって優越感に浸っている
 でも実際は運命という牢獄の中からみえる『結果』という景色がこの世全てだと勘違いしているだけ

 あいつがどこへでも行ける代わりに、自分でも気づかないうちに思考を制限されている

 だからいつまでも飽きっぽくてワガママ
 これはおもしろい、でも飽きたから次、これも面白い、でも飽きたから次、次、次、次、次、次・・・

 あいつは永遠に乾き続ける。飽きっぽいのは強い力を持った吸血鬼だからじゃない。あいつだから

 『予定と運命』はイコールでも『未来と運命』はイコールじゃない
 あいつが見ているのは運命。私が見ているのは未来
 だから私は自由、どんな夢だって見ることが出来るし。最善の結果を望むことも祈ることもできる
 あいつはできない、そのことに気づきさえしない 」

そこで話が終わる

今の話はフランの持論なのだろうか?それとも誰かの受け売りか?
本心で話しているのか、冗談で話しているのかさえその表情からは読み取れない

美鈴はやっぱりこの子がわからないと思った
この子はものすごく無知なときもあれば
今のように賢くものを話すときもある
愚者としか思われない愚考、愚行をするときもあれば
皆を欺くほど狡猾なこともある
思考力が一定していない

だからこの子は狂っていると皆は言うのかもしれない


「だから一番不幸なのはあいつ、次がそんな姉を持った私。で最下位がメーリン・・・・・・・・良かったね」
自分を励ますためにこの話をしてくれたのだろうか?それとも彼女なりの事実をただ告げたのか
美鈴にはわからない

言いたいことを全て言い切ったフランは立ち上がる
「じゃあ、私はもう行くね・・・・・・・・・・・・・・・・・今まで門を守ってくれてありがとう。紅美鈴。さようなら」
「はい、お世話になりました・・・・・・・・・・・・・・・・フランドール・スカーレット様。お元気で」

別れの言葉を交わし
フランは一度も振り返ることなく部屋から出て行った




そしてフランは美鈴から知らされていた、これからこの部屋で何が起こるのかを





〈咲夜―View―〉
私はここにくる途中魔理沙を殺してきた
差し入れだといって睡眠薬入りのスープを与えて眠ったところをナイフで刺した
死体は適当に切って湖に沈めた、もう上がってはこないはずだ
魔理沙だから行方不明の理由などいくらでも挙げられる
美鈴をあんな体にして
自業自得だ


美鈴の部屋に向かう途中、また妹様を見つけた。これだけの頻度で見るのは珍しい
もうすでに見舞いに行ってきてその帰りなのかこちらのほうに歩いてきている
今日も機嫌が良いようで鼻歌まじりで歩いている
「今晩は妹様」
「今晩は咲夜」
挨拶を交わしすれ違う

     卑怯者

「え!?」
突然声がした。低いトーンで体の底まで響く非常に不快な声だった
次の瞬間全身がゾクリと震える
寒気がして両手で自分自身を抱きしめて、その場に座り込む
卑怯者とは私のことか?

言われてなぜか体の震えが止まらない

「どうしたの?大丈夫、咲夜?」
妹様が戻ってきて、私の額に手を当てる、その手は頭痛を引きお越しそうなくらいに冷え切っていた
その冷たさに嫌悪感を抱いた
「熱はなさ・・・・・いたっ!」
私は思わず妹様の手を払ってしまった。やってしまってから後悔する
「も、申し訳ありません!!」
殺されるかもしれない、そう思った
「大丈夫?気分が悪いの?」
怒っていない、それどころかまだ私のことを気遣っている
しかし、手を払われてもなお顔色を一切変えないこの子に逆に不気味さを感じた
月明かりに照らされたその顔は陶器のような無機質だった

そういえば、この子が怒ったところを見たことがあるだろうか?
ものを壊したことは何度か見ている、しかしその時の表情で怒ったものは無かった
『自分』という感情が著しく剥離しているのか。情緒不安定のこの子が激怒したところを見たことがない
やはりこの子はどこか狂っているのかもしれない

「もう大丈夫です、お気遣い本当にありがとうございます」
「そう?良かった」
そういうと妹様は立ち去ろうとした
「あの・・・・・すこしお伺いたいのですが・・・・」
今度は私が呼び止めた
「なに?」
「先ほど私とすれ違ったとき、何か聞こえませんでしたか?」
あの声が私の幻聴なのか知りたかった
妹様は腕組をして目を閉じて唸りはじめた。いかにも考えていますという姿勢だ
「うーん、特に聞こえなかったなぁ」
「そうですか・・・・・わざわざお呼び止めてしまいすみません」
私は一礼して、美鈴の部屋に向かった




「美鈴、入るわよ」
ノックをして部屋に入る
「ああ、咲夜さん」
この時間に美鈴の部屋にくるのがもう日課になっている
ベットで横になる美鈴はまるで病院でただ死を待つだけの病弱な少女のように儚く見えた
いや実際に儚いのかもしれない

しばらく雑談をしたら美鈴がなにか言いたげな顔つきになる

「あの、咲夜さん。お願いがあるのですが」
美鈴からこうも改まってお願いされるのは久しぶりだ、ここ最近は何でも自力でやろうとしていたから
「なに、私にできることならやってあげるわよ?」
「大丈夫です、咲夜さんならできますから。すぐ済みます」
なんだろうか?この時間帯にできることは限られている

「私を殺してくれませんか?」

は?・・・・今美鈴は何と言った?
殺してください?
美鈴を?
なぜ?


「もう、門番の出来なくなった私は自分自身に価値を見出せません。競走馬が足を骨折したのと同じです。ただ皆さんに迷惑をかけて生きていくなんて我慢できません」
そんなことできるわけがない、もちろん断る
「馬鹿なこと言わないで!できるわけないでしょ!!」
「自殺するくらいなら、せめて好きな人の手で死にたいんです。私を助けると思って・・・」
何と頼まれようが、絶対に嫌だ
何度も強く拒否した

ようやく美鈴は諦めてくれた


「じゃあ、キスしてもらえませんか?ほっぺじゃなくて唇に」
「はぁ!?」
殺してくださいの次はキスをしろと?今の美鈴はワケがわからない
「キスしてくれれば、今夜は自殺する気は起きないと思うんです」
なるほどそういうことか
「なんなら抱いちゃってもいいですよ?」
私は思わず噴出し咽る
私はあくまでノーマルだ、そんな趣味は無い
「わかったわ、キスしたげるから変な気起こさないでよ?」
「変な気ってなんですか?自殺の方ですか?抱いちゃうほうですか?」
自殺のほうに決まっている
しかし、美鈴がいくらか明るくなったようで良かった

私は美鈴と唇をゆっくりと重ねる



ガリッ


「ッッ!!」

いきなり美鈴が私の上唇に噛み付いた

口にかつて無いほどの激痛が走る
時間を止めるも美鈴の歯はがっちりと私の口に噛み付いており外すことができない
私はパニックを起こし
止められる時間いっぱいまで美鈴の横腹にナイフを差し続けた


ブチッ



時間が動き出しついに上唇を噛み千切られた
その部分から取りとめなく血があふれ、剥き出しになった歯と歯茎を真っ赤に染めて、床の絨毯にボタボタとたれる

美鈴が私の体の一部だったものを美味しそうに咀嚼する音がする
「美味しいですよ咲夜さん!!人の肉なんて何十年ぶりだろう!あなたがいけないんですよ!!あなたがあの時私にナイフなんて投げるから!!」
痛みに耐えながら思い出す、やはりあのナイフが原因だったんだ
もしかしたらとうすうす思っていた
その不安から逃げるために私は魔理沙を殺したのかもしれない
「そのせいで体が動かずに瓦礫の下敷きです!!それだけのことで私はこの様なんですよ!!どうしてくれるんですか!!私にはまだまだやりたいこと、見届けたいことがあったんですよ!!」
どんどん美鈴の声が荒くなった
「鏡でその顔を見るたびに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私の恨みを思い出せ!!」




〈Othre―View―〉
美鈴の大声を聞いてレミリア達が駆けつけた時
部屋には口のところから大量の血を流してうずくまる咲夜と
ベットの上で口から血を流して絶命している美鈴の姿があった
美鈴の死因は咲夜のナイフで横腹を刺されたことでは無く、自らの舌を噛んだことによって出た血による溺死だった




〈咲夜―View―〉
あれから数日が立ち美鈴の葬儀が行われた
行った時間はお嬢様は吸血鬼なので夜だった
美鈴の墓は門の近くに置かれた
彼女の功績をたたえてのものだろう
私は今、口にマスクをして傷を隠しており、治療の真っ最中だ
パチュリー様の魔法を使った治療で痕も残らず元通りに治るらしくその点は心配いらなかった
門番を続けられなかったことによる発狂としてこの件は片付けられた
魔理沙は美鈴が死んだことで責任を感じ逃げ出したのではという噂が流れ、私が殺したことなどだれも想像すらしなかった


私は式には参加せず、遠巻きにそれを見ていた
式が終わっても、美鈴の墓から離れないものがいた。妹様だ。今回特例で庭までの外出を許可されたらしい
「咲夜、わるいけど。フランにもう戻るよう言って来てくれない?」
「かしこまりました」

妹様の所まで向かう
「妹様。このままでは朝になってしまいます。お気持ちはわかりますが。そろそろお戻りください」

   卑怯者

「!!」
またあの声がした。私を卑怯者だという声が
そう、私は卑怯者だ。
美鈴がああなったのは自分のせいでもある
魔理沙に全て押し付けて殺した
自分のせいじゃないかと思っていた。しかし美鈴に怖くて聞けず結局最後まで謝りもしなかった
そんな私だけが日常に戻ってきた

今ならわかるその声が誰なのかが

「どうして私が卑怯者なんですか・・・・・・・・・・妹様?」
ピクリと体を動かし反応し、こちらを振り向く
「私にそれを言わせる気?」
「どこまで知っているんですか?」
「美鈴が全部教えてくれた・・・・・・・それに咲夜が美鈴の死体を埋めようとしたのも窓から見てた。あの日はあいつが出かけてていなかったから、適当にうろついてたら偶然」
「そのことをだれかに?」
「知ってるのは私だけ」
「そうですか・・・・・・・・・」

ならここで殺すしかない

時間を止めれば、うまくいけば殺しきれるかもしれない
失敗しても騒ぎを聞きつけてお嬢様が駆けつける
妹様が脱走しそうになったのを止めたと言えば加勢してくれる
美鈴が死んで完全に狂ってしまったと付け足せば、地下室に永久封印できるかもしれない
この状況は今の私に圧倒的に有利だ

「やっぱり、人間は怖い」
突然なにを言い出すのだこの子は?
「嫌いなのに好きな振りして、欲しいのに欲しくないと言って、やさしい振りして殺そうとしていたり。何を考えているのか全然わからない」
「?」
「本で人間について読んだの。あなた達は個々ではすごく弱いけど。集まると生き残ることの関しては他の種族を圧倒する
 真っ先に空想を否定して、いち早く自然を支配して、自然界に無い毒を簡単に作り出して、一度天敵だと見なせば徹底的に滅ぼす
 些細なことで仲間同士で殺し合い。頭がいいくせに互いを理解しようとしない、恐ろしいことを平気で考え実行する」
「それは外の世界の人間の話よ。ここでの生物ピラミッドではあなた達が頂点よ」
話しながら、私は時間をとめるタイミングをはかる
「同じだった、咲夜は」
「どういう意味かしら?」
「美鈴が死んだと勘違いして隠そうとした時の顔はすごく怖かった、さっきもそう、私をどう殺そうか考えていた顔はどこか怖かった。今もあの時も思い出すだけで震えが止まらない」

ふざけるな、怖いのはこっちだ
お前のほうが人間の何万倍も恐ろしい

「私は言わないよ?誰にも」
「えっ?」
その言葉は以外だった
「本気になった人間に私は勝てない。美鈴のことはちょっぴり残念だけど、そこまで悲しくなかったから平気。これからもよろしくね?咲夜」
突然笑顔でそう言われた
理解出来ない、理解出来ない!理解出来ない!!
この状態は、どちらかが勝つまで収まらない。それとも口外しない代わりに助けてほしいと取引したつもりか?
なんの保証も無く、お互いに信じられるわけが無い
以外に理性的かと思ったら、全然そうじゃない
なんなんだこの子は?気が触れている人間だってもう少しまともな論理構造を持っている
吸血鬼だからか?お嬢様の妹だからか?
あんなおかしな羽を持った吸血鬼が本当に居るのか?あの髪の色は本当にお嬢様の姉妹か?
この生物に該当する存在を私は知らない
こんな狂った思考をもった生き物などどこにもいない


それとも狂っているのは私のほう?

「夢って良いよね?」
「夢?」
またワケのわからないことを
「もし今の現実がさ、全部夢で、目が覚めたとき違う別の世界が広がってたらすごいと思わない?」
「・・・・・・・・」
こいつの話にはもう付き合いきれない
「私はどっちの世界も大好き」
「片方が悪夢ならもう片方の世界で楽しく過ごせば良い。もう帰ってくる必要なんてない」
「それは良いわね。私は美鈴がいる世界に行きたいわ」
そんなことが出来れば、どれだけ楽か

「じゃあ、行けば良い。みんなそれができるんだから・・・・・・」

それだけ言うと
そういうと急に振り向き、館に戻って行った

私は言葉の意味を尋ねることもできずに
一人取り残された


頭が冷えて冷静な思考が戻ってくる
妹様の狂気に当てられたのか
私はさっきまで、ケダモノのような考えかたをしていた自分にゾッとした

いや、もしかしたら妹様の言うようにあれが人間の本性なのかもしれない








私は気づいたらこの門に足を運んでいた
魔理沙を殺した場所だ
そしてあの夜、美鈴と門の下で雑談をした場所だ
まだ月はそれなりに高い
あの時もこんな月だった
美鈴と話しているのを思い出した
明るくて、どこか頼りなく、でもやっぱり頼りになる姿を

「うっ・・・・・・・・ううぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん・・なさい・・・・・ごめんなさい美鈴・・・・」

門にもたれると
私は自然と涙があふれてきて、止まらなくなった
そしてようやく、しかしもう手遅れの謝りのことばをつぶやく
この場所にまだ美鈴のぬくもりが残っているような気がした


許してくれなくて構わない
でも、できることならあの時に戻り自分の過ちを取り消したかった

泣きつかれた
今日はもうここで眠ってしまおう









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門の下で目覚める
本当に私はここで眠ってしまったらしい
けれどまだ月は高かった
「いけない。明日も朝が早いのに」
急いで立ち上がった
「あっ、ようやく起きましたか」
突然声をかけられ二重の意味で驚いた


「め、美鈴!!」

目の前にいたのは正真正銘の美鈴だった
「どうしたんですか?お化けを見るような顔をして?」
「えっ!いやだって・・・・・・・・・・・・・・・・・・あら?・・・そういえば私美鈴に差し入れを持ってきてそのまま眠っちゃったのかしら?」
そうだ、今日はお嬢様が宴会に行っていて暇だったから、美鈴と雑談をしに来たのだ
「寝るなら、お部屋で寝たほうがいいですよ?かぜひきますし」
「そうね。じゃあ、そろそろ私は戻るわ」
「はい、お疲れ様です」

私は玄関に向かい歩き出す


「おやすみなさい。でもあなたは寝ちゃだめよ?」
「わかっています。咲夜さんはちゃんと寝てくださいよ?しっかり寝ないと大きくなりませんから」

いつもの美鈴の冗談だ
私が小さいのではなく、美鈴が大き過ぎるのだ
この主張は譲れない

私は彼女の冗談にいつも通りナイフを投擲して答える
こちらに背中を向けている彼女に向かって

「・・・・・・・・・・・・・・・」

ナイフを投げずに懐に戻した
なぜだろう、これで私は正しい選択をしたような気がする


「ところで咲夜さん」
美鈴がこちらに振り向く
「その口、虫に刺されたんですか?」
「え?」
口元に手をやる
「!!」
確かに何か痕がある、だがこの程度ならしばらくしたら消えるだろう
どこでついたのだろうか?思い出せない
「あ!妹様がいますよ!?咲夜さん。ほらあそこ!」
突然、館のほうを指差して、そのほうに美鈴は手を振った
私も妹様を見つけた、館内を出歩くなんて珍しい。私は軽く会釈する

妹様は特に反応するでもなく行ってしまわれた

あの子はよくわからない

「・・・・・・・・・・・・」
何か引っかかる気がして、私は館に戻るのをやめて美鈴の横に戻る
「どうしたんですか?」

「美鈴は最近夢ってみた?」
「夢ですか?特に見てないですね最近は。それが何か?」
「寝ないで、朝までここにいたら。こっちの世界に居られるような気がするの」
「?」
自分でも何を言っているのかわからない


ふと美鈴の手を握ってみる
「えっ!ちょっとなんで!?えっ?えっ?」
「朝まで握っていたい気分なの、良いからこのままでいなさい!」
「・・・・・・・・・・・・・まあ、咲夜さんがそう言うなら・・・・・・・」

美鈴の手が冷え切った私の手を温めるまで、そんなに時間はかからなかった



「そういえば咲夜さん?」
「なに?」
「先ほど妹様が去り際に、笑ったような気がしたんですけど。気のせいでしょうか?」
「あら奇遇ね。私にもそう見えたわ」



fin
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