フランドールはいつも通り地下室で目を覚ました

「?」

部屋がやけに暗い、そう思った

地下室は普段から暗いが、今は全くと言っていいほど何も見えなかった


本当に何も見えなかった




紅魔館のメイド長十六夜咲夜は、地下室に幽閉されている主人の妹フランドール・スカーレットに食事を運んでいた
本来この役目は他のメイドが行うはずなのだが、最近は皆が怖がってやりたくないと拒否したため、やむをえず咲夜がやっている

「失礼します・・・・」
そう言って地下室の扉を開ける
「咲夜?」
地下室はいつも通りフランドールがいた
「お食事をお持ちしました、ここに置いておきますね」
「ここってどこ?わからないんだけど?」
咲夜は怪訝な顔をした。食事のトレイはフランドールの目の前に置いてある
フランドールはそれに気付かず、周りをキョロキョロ見回す
「妹様の目の前ですが?」
「そうなの?よく『こんな暗いのに』ここまで持って来られたね」
咲夜は不思議に思った
(暗い?地下室はいつも通りの明るさのはずだけれど・・・・・)
最初この子は自分をからかっているのかと思った
だがフランドールはいたって真面目な顔をしている
(まさか・・・・・・・)
「妹様、失礼します」
嫌な予感がして咲夜はフランドールに詰め寄って顔を両手で挟んで固定する
「え?なに?」
わけが分からずフランドールは混乱する
咲夜はフランドールの目を覗き込み、近くにあった蝋燭を火を彼女に目に近づける
普通なら眼球の焦点が火に合うはずである
しかしフランドールの目は火の明かりに何の反応もしなかった


フランドールはいつの間にか失明していた


咲夜はそのことを直ちに自分の主、レミリア・スカーレットに報告した
報告を聞いたレミリアは急いで永遠亭の薬師八意永琳を呼びつけた

永琳の診察でフランドールの失明の原因は視神経が切断していたためだと判明した
その日のうちに紅魔館でフランドールに手術が施された



「フランの目は治ったの?」
たった今、手術が終了し部屋から出てきた永琳にレミリアが尋ねる
「まったく、厄介な患者よ・・・切開した瞬間から傷が閉じ始めるのよ。さすが吸血鬼。やりにくいったらありゃしないわ・・・・・」
悪態をつきながら、手術着から普段着に着替える
後ろから助手の鈴仙が手術道具一式を持って部屋から出てくる
「そう、ご苦労様。感謝するわ、報酬なんだけれど・・・・」
「いらないわ」
だが永琳に断られた

「だって、あの子の目は治っていないもの」
「なんですって?」
予想外の返答に驚く、てっきり手術は成功だと思った
「視神経は元通りに繋げたわ。でも繋いだ瞬間、視神経がずれ始めたのよ・・・・おそらく体が『視神経が離れた状態が正常な状態』だと勘違いして治してしまうのよ」
「なぜ?そんなこと有り得ないわ」
「きっと長い年月をかけて徐々に徐々に視神経がずれていったのでしょうね。外的要因で負傷したわけじゃなから、体は怪我と認識せずに治さなかったのよ」
「じゃあ、あの子、一生このままってこと?」
「それだけじゃないわ」

永琳がさらに追い討ちをかける

「切開して分かったわ、あの子聴覚もいかれ始めてる・・・このままだとあの子ヘレンケラーと同じ状態になるわよ・・・」
レミリアがわずかに動揺したのが永琳にはわかった
「私だってこんな中途半端なところで患者から手を引きたくないわ。治療法は必ず見つけるわ、だからしばらく時間をくれないかしら」
幻想郷で彼女以上の医者はいない
レミリアは永琳に治療法の発見を任せた


そして、その時レミリアは思った。
これは妹を教育するいい機会ではないか、と




次の日の夜
フランドールは盲目の人間が使う白い杖を持ち、その棒で足元を探りながら紅魔館の廊下を歩いていた
飛ぼうと思ったが聴覚にも障害があるため思うように飛べずなかったためやめた


昨日、手術が失敗して、自分が失明したままだと知らされ落ち込んだ
その落ち込んだフランドールに姉のレミリアが紅魔館内を自由に出歩いてもかまわないと許可を出した
『ものを破壊する目』が失明し見えなくなったため、館内の物を壊す心配が格段に下がったためなのがその理由だと姉は言った

この時レミリアはフランドールに永琳が治療法を探していることを『あえて』話さなかった


カッカッカと杖で叩く音が廊下に響く
フランドールは杖で足元を慎重に確認しながら広い紅魔館の廊下を歩いていた
「?」
何かが杖の先に当たる、障害物だとわかった。迂回して通ろうとする
「?」
また障害物に当たった。そのとなりにも障害物、またそのとなりにも障害物があるのがわかった
どうやら障害物はバリケードのように横一列に並べられて道を塞いでいるらしい
「邪魔だなあ・・・・」
そう言って自分の前にある障害物を思いっきり蹴り飛ばした
目が見えないからといって力が弱まったわけではない、蹴ったものは粉々に砕けて破片が廊下の向こうまで飛び散ったのがわかった
しかしバランスが上手く取れずよろけた
「よし、進もう」
そう言って一歩踏み出すと
「待ちなさい、フラン」
突然レミリアに呼び止められフランドールはビクリと体が震え、硬直した
どうやら一連の出来事を見られていたらしい
「なに、お姉様?」
なんとか平静を装って返事をする
レミリアは妹の動揺を感じ取り、それを鼻で笑い、話の本題に入る
「あなたが何も壊さないと思ったから館内を出歩くことを許可したのよ?なのに椅子を蹴り壊すなんて、なにごと?」
この時フランドールは自分が今蹴ったものは椅子なのだと初めてわかった
「でも、道いっぱいに広がっていて邪魔だったから・・・・・」
消え入りそうな声で弁解する
「言い訳しないで。そんなものは乗り越えるか横にどけて進みなさい。今度また何か壊したら太陽の下に一分間放り出すわよ」
そう冷たく言い放つとその場から去っていった

普段のフランドールなら間違いなくここでレミリアに飛び掛っている
しかし、今は自分のほうが遥かに分が悪い
そんな相手に挑むほど彼女は無謀では無かった
姉なら本当に自分を太陽の下に放り出すだろう
今の状態で太陽に下に放り出されるのは通常の何十倍の恐怖だった
これからのフランドールはものを壊さずにして進む以外、この紅魔館で生きる道は無いと悟った


ちなみに廊下の椅子は妖精メイド達が置いたものである
普段フランドールに怖い思いをさせられているため、そのささやかな復讐らしい
紅魔館の廊下にはいたるところにその障害物が設置されている
もちろんレミリアはそのことを知っている
知っていてメイド達の嫌がらせを黙認した



レミリアはフランドールを叱ったあとパチュリーのいる図書館にやってきた


「それで、妹様の目は治るの?」
「ええ、そう遠くない未来。あの薬師が治療法を見つけて。その手術であの子の目と耳は完治するわ」
レミリアにはこれから先の出来事が見えていた
「運命を操るっていうのは、本当に便利ね。でも、なぜそのことを教えてあげないの?」
「あの子のためを思ってよ」
「妹様のために・・・・・ですか?」
紅茶を運んできた小悪魔がレミリアに尋ねる
「そうよ、いくら強い力を持っていても目と耳に障害がある、今なら多分あなたでも勝てるわ」
「私が妹様に挑むなんてそんな・・・・」
手を前に突き出して否定する
「今回はあの子を教育する上で絶好の機会なのよ」
「絶好の機会?」
「そうよパチェ。今まであの子は自分より弱いものに対しても全くと言っていいほど容赦しなかった
 今のフランは紅魔館で最も立場が弱い。目が治るまでの間、辛いことばかり経験するでしょうね
 でも力の無い者の身を実際に経験すれば、目が治ってから少しは相手に優しくなれるんじゃないかしら?」
「メイドからの嫌がらせも受けてるそうじゃない?」
「フランには今までのツケが回って来ただけのことよ。だからメイドの嫌がらせについても今回は目を瞑るわ。咲夜にもそう言ってある」
「助けてあげないんですか?」
小悪魔がおずおずと尋ねる
「あの子の態度しだいね。泣いてお願いしたら助けてあげなくも無いわ。あの子最近、私の言う事全然聞かないで少し反抗的だから」
「妹様をいじめて楽しい?」
「いじめてなんかいないは、あの子には成長してほしいだけよ」
少しムッとなって反論した
「それにものを壊さないで生活するのにいい機会なのよ」
もう用件は無いらしく、立ち上がり図書館を出て行った。



レミリアが出て行ったあと



「くくく・・・・・・あはははははははは」
急に小悪魔が腹を抱えて笑い出した
突然のことに驚くパチュリー
「なにっ!?急にどうしたの!?」
突然小悪魔が壊れてしまい驚く
「あははははは・・・・・だってお嬢様が・・・・ククククあははははははははははははははははははは」
「わかるように話しなさい。怒るわよ?」
友人を笑われていることにイラだちを隠しきれず脅すように言う
それが利いたのか、ひとしきり笑い落ち着きを取り戻した小悪魔が口を開く
「失礼しました。だって可笑しくないですか?妹様が弱者の気持ちを理解できないのも、ものを破壊するのも、言う事を聞かないのも
 紅魔館で孤立してるのも。全てお嬢様が妹様を地下室に閉じ込めてから今まで何もしなかったからじゃないですか?
 お嬢様の言い方だとまるで『フランが勝手に悪い子に育った』っていう言い方をするんですよ?
 それで厳しく接するのは愛情だって主張するんですから。もう可笑しくって可笑しくって・・・・・・・フフフ」

再び小悪魔は狂ったように笑い始めた
パチュリーにはいつもと様子が違う小悪魔をただただ不気味に感じて、咎めることが出来なかった
長い時間、図書館に小悪魔の笑い声が響いた



朝、咲夜が朝食の準備をするために厨房に続く廊下を進んでいるとフランドールを見かけた

ちょうどメイドの設置した椅子の列を乗り越えようとしているところだった
平衡感覚が狂っているため、乗り越えられず椅子ごと倒れこむ
その拍子に落とした杖が床に転がる
倒れた痛みを堪えながら、転がった杖を手探りで必死に探す
杖は椅子の反対側に行ってしまったため拾うことができない
そのことに気付かず見当違いな場所をなんども探している

咲夜は拾って手渡したかったが昨日の昼レミリアから『妹に手を貸すな』『メイドの嫌がらせを黙認しろ』という指示を受けたためそれは出来なかった

「ねーーー誰かーーーーー、杖さがすのてつだってーーーーーーーーーーーーー」
フランドールが大声で周囲に助けを求めた
もちろん手を貸すものは居なかった

「ねーーー誰かーーーーー、杖さがすのてつだってーーーーーーーーーーーーー」
先ほどより大きな声で訴える
咲夜は耳を塞ぎながら厨房へのルートを変更した
途中、フランドールの様子を見てクスクス笑っているメイドのグループを咲夜は発見した
それも黙殺するしかなかった




フランドールが視力を失ってさらに数日が経った

その日、紅魔館の門番、紅美鈴は門番の業務の定期報告のため珍しく館内を歩いていた
そのときフランドールの姿を見つけた

美鈴のいる廊下は南側つまり日の光が入る場所である
当然、換気をするための窓がいくつもある
フランドールはその窓と窓の間の壁にへばりついていた
窓からの日光が彼女を閉じ込めるように両側から差し込んでいる
どうやら夜のうちにそこに迷い込んでしまい、日が出てきてその場所から動けなくなってしまったようだ
つまり朝からずっとその場所でじっとしていることになる

助けだそうとフランドールに歩み寄ろうとすると
「待ちなさい」
いつのまにそこに居たのか、咲夜が美鈴を呼び止める
「咲夜さん!」
突然のことに思わず声を上げてしまう
「馬鹿、声が大きい」
フランドールが2人に気付いて顔を上げる
「美鈴?咲夜?・・・地下室までの道が分からないの・・・・教えてくれない」

咲夜が美鈴の服を掴み、小声で言う
「さっさと行くわよ美鈴」
「そんな、いくらなんでも・・・・・・・このまま放っておくなんて・・・・」
「お嬢様の命令よ、それにこれは妹様のためでもあるのよ」
そこで2人は会話を止め、音を立てないようにその場から離れた

自分達の名前を必死に何度も呼ぶ声を振り払いながら進む足取りは、ものすごく重かった



またある日
フランドールは図書館の前にたどり着いた
「ここはどこ?」
「図書館ですよ、フランドール様」
応対したのは小悪魔だった
「お疲れでしょう、紅茶でも飲んでいきませんか?」
「いいの?実はのどがカラカラだったの・・・・」
小悪魔はフランドールを図書館に招き入れた
図書館にはパチュリーと小悪魔、遊びに来た魔理沙がいた
魔理沙もフランドールの事情は聞かされている
小悪魔がフランドールをテーブルまで誘導し紅茶を出す
「どうぞ」
「ありがとう・・・・・・・・・あっ!」
フランドールは誤ってティーカップを倒してしまった
こぼれた紅茶がテーブルの上に広がる
「ごめんなさい・・・・・」
「気にするなフラン、なんなら私のカップ使うか?」
「そうよ、気にしないで。小悪魔、今度はちゃんと取っ手を持たせてあげるなさい」
「かしこまりました、妹様ここを持って下さい」
新しく入れなおした紅茶を今度は、一度カップの取っての部分をフランドールに触らせてから手渡した
「ありがとう」
そういって紅茶を飲もうとする

久しぶりにだれかとお話ができる
それがフランドールには堪らなくうれしかった


だが
「あら?目の見えない子が図書館なんかで、何をしているのかしら?」
ちょうどレミリアがやってきた
その一言で紅茶を飲もうとするフランドールの手がピタリと止まる
「まさか、点字の本でも借りにきたの?殊勝な心がけね。勉強熱心な妹を持ってお姉さんうれしわ」
「帰る、ご馳走様」
「おい!フラン待てよ」
魔理沙が呼び止めるがそのまま杖を持って立ち上がる。慎重に足元を確認しながら図書館をあとにする
結局、紅茶に口をつけることは無かった
レミリアはフランドールとのすれ違いざまに
「フラン、辛かったらいつでも言いなさい。すぐに『助けて』あげるから」
嘲笑するようにそう言った

姉を無視して、ゆっくりとした足取りで、けれども図書館から少しでも離れようと急ぐ

フランドールが居なくなってしばらくの静寂
静寂を破ったのは魔理沙だった
「おい!!レミリア!お前どういうつもりだ!!」
魔理沙がレミリアを睨みつける
このまま弾幕ごっこが始まりそうな雰囲気だった
「言ったでしょう?フランには弱者の気持ちを知る必要があるって」
「あれは言いいすぎだろ!!ただのいじめじゃないか!!」
「あの子は弱ってる時しか話を聞かないのよ。あれぐらいがちょうど良いのよ」
さも当然というようにレミリアは言い放つ
「ああそうかい!」
魔理沙は荷物をまとめ始めた
「不愉快だからもう帰らせてもらう」
「ええそうしてくれると助かるわ。今はフランにとって大事な時期だから部外者にはあまり干渉して欲しくはないの」
「頼まれたって来ないぜ!・・・・・・・・じゃあな!!」
魔理沙は本を借りるのも忘れて箒に跨り廊下の窓から出て行った

姉妹のやり取りを見ていた小悪魔の口もとが大きく吊りあがったのをパチュリーは目撃した
そのあまりの不気味な笑顔は、魔理沙と一緒にレミリアを糾弾するのを忘れてしまうほど邪悪なものだった




さらに数日が経つ
ようやく永琳が紅魔館に訪れた
「見つかったの治療法は?」
「ええ、この方法なら上手くいくはずよ」

永琳の提案する治療法は移植手術だった
フランドールの視神経を全て取り除いて、再生が始まると同時にその部分にレミリアから取り出した視神経を絡ませて無理矢理つなげて同化させるという
吸血鬼同士だから出来るなんとも強引な手段だった。しかもこの方法なら失敗してもお互い再生するので何度でも挑戦できる
同様の方法で聴覚も治せるとのことだ
「姉妹じゃなきゃ移植できないのよ。適合しなければ神経は同化しないから」
「やっぱり私のを移植するのね」
「怖いの?」
「かわいい妹のためよ、しょうがないわ」
「成功する可能性は。適合しなかったリスクを考えても98%ってところね」
「いいえ、永琳。100%よ・・・・手術をすれば確実にあの子は目は元に戻るわ」
目を閉じてレミリアは自信たっぷりに答えた
「運命を操る程度の能力ってやつかしら?なんなら道具は持ってきているあるから今すぐに出来るわよ?」
今すぐできる、つまりフランドールは今すぐ治るということである
少し思案するレミリア
まだフランドールの目を治すのは早いと思った
「悪いけど1週間後にしてもらえないかしら?」
「そっちの都合に任せるわ・・・・・・・・治せる患者をすぐに治療できないのは残念だけど・・・・・・・・」
「そのかわり一回で成功させなさい。失敗したからもう一度なんて嫌よ」

手術は1週間後と決まり、永琳は帰っていった




その日レミリアは夜中にふと目を覚ました
部屋から出てすぐそこにフランドールが横たわり眠っていた
「フラン、起きなさい」
妹の頬を軽く叩く
眠そうな顔でフランドールがムクリと起き上がる
「んーー?お姉様?」
「そうよ。なんで私の部屋の前の廊下であなたが寝ているの?」
「えっ?ここがそうなの?知らなかった」
「どうして地下室で寝ないの?」
「どこにあるか分からない・・・・・・・」
「あれから一度も地下室に帰ってないの?」
「うん」

あれからずっとフランドールは地下室を目指し障害物だらけの館内を彷徨い、疲れたらその場で横になって眠るという生活を送っていた
何度か朝になった時、日光で火傷したそうだ
フランドールの体を見回すと服は所々汚れていた
地下室にしか着替えがないためその服を着たまま今日まで過ごしていた
少し体も臭った



「案内してあげるから来なさい」
「ありがとう、お姉様・・・・・・・」
衛生管理ぐらいはちゃんとしなければならない。そう思い
レミリアはフランドールを背負い、地下室に運ぼうとした

 クー

背負った時、フランドールのお腹が鳴った
「もうずっとご飯食べてない・・・・・・」
「まったく呆れるわ」
「ごめんなさい・・・・・」

地下室の前に行くと、沢山の椅子で厳重にバリケードが作られていた
(確かにこれじゃ、辿りつけないわね・・・・・)
もしかしたらフランドールはここを何度か通ったかもしれない
レミリアは妹が地下室に戻れない理由に納得した
だが飛べば何の問題もなく超えられる障害である
(盲目で飛べなきゃ、さすがにこれはどうしようもないわ・・・・・)
妹を背負い、椅子の山も見下ろしながらそう思った

地下室の扉を開ける
ちゃんとベットメイキングされており
食事もちゃんとあった
毎日咲夜が律儀に運んでいたらしい

レミリアはフランドールを着替えさせる
着替えたフランドールの前に食事のトレイを置く
「食事ここに置いておくから、自分で食べなさい。それくらい出来るでしょう?」
「はい・・・」

そういって部屋を出て行こうとする

突然後ろからクチャクチャと音がした
振り返りフランドールを見ると料理を素手で掴んで食べていた
その様子は『貪る』という言葉がピッタリだった
食器の下のスプーンやフォークに気付けないのか、気付いたが上手く扱えず使用するのを放棄したのかはわからない
もしかしたら空腹でそんなものを使う余裕が無かったのかもしれない
「もっと上品に食べられないの?」
食べるのに必死でその声は届いていなかった

たとえ届いたとしてもフランドールの弱った聴覚では、レミリアが何と言ったか聞き取ることはできない




地下室を出るとレミリアは図書館に向かった

レミリアはパチュリーに手術が決まったことを話した
「そう、それは良かったわね」
「で、それとは別にパチェにお願いしたいことがあるんだけど・・・・」
「私に?」
「正確には小悪魔になんだけど」
「え?私にですか?」
本を整理していた小悪魔が突然の名指しに驚く
「あなたにフランの生活の補助をお願いしたいのよ、食事と着替えのときだけでいいわ。咲夜も美鈴も忙しいから他に頼めるのが居ないのよ」
今日のフランドールの様子を見る限りでは、介護が必要であるのは明らかだった
「私は別に構いませんが」
「そう助かるわ」
「それぐらいならレミィがしてあげてもいいんじゃない?」
パチュリーが横槍を入れる
「フランだけに構ってあげられるほど私は暇じゃないの」
「神社に遊びに行ったり、ガラクタ屋に買い物に行くだけでしょう」
「やけに噛み付くわね、小悪魔を使われるのがそんなに嫌なの?」

パチュリーは、以前レミリアに対する小悪魔の言動を目の当たりにしている
『小悪魔をこの姉妹に関わらせてはいけない』なんとなくそんな気がした

「だいじょうぶですよ、パチュリー様、こちらの仕事もちゃんとこなしますから」
「そうよ、ちょっと借りるだけだから」
結局、2人に押しきられ小悪魔がフランの世話をすることが決定した




その次の日から小悪魔は盲目のフランドールの世話を行った
着替え、食事、頼まれれば館内の散歩の付き添いをした
手術の話はレミリアが直前になって、直接知らせるとのことで、秘密にしておけとのことだ
そのことはフランドールを除く紅魔館全員に伝令された



その日小悪魔は地下室でフランドールの体を濡れたタオルで拭いていた
首、腕、胸、腹、翼、足と拭いていき、新しいタオルを換えて顔を拭こうとする。
顔を拭こうとして、小悪魔の手が止まる

小悪魔の目は、フランドールの失明した目に釘付けになっていた

「どうしたの?」
突然小悪魔の手が止まり、不思議に思い尋ねる
「フランドール様の目があまりにも綺麗なので、つい見とれてしまいました」
小悪魔が正直に告白する
「一分だけ視力回復させてあげますから、どうです『取引』しませんか?」
小悪魔が冗談半分に提案する
「あげないよ」
フランドールは苦笑しながら答える
「それは残念・・・・・・・」
小悪魔も苦笑する


「いいじゃないですか、もう使いものにならないんですし・・・・」
フランドールの耳に聞こえない小さな声でそう呟いた




そして時間は流れ手術の前日の夜になった
明日フランドールの目と耳は治る
この日も小悪魔はフランドールの散歩の付き添いをしていた

フランドールの報復を恐れ、メイドたちは設置した障害物を全て片付けていた
当の被害者はその事実を知らないため仕返しなど頭の隅にも無かった
余談であるが、この数日後、何人かのメイドが白黒に吹き飛ばされたという報告を咲夜は聞いた


おかげで、紅魔館の廊下は快適に歩けるようになった

フランドールは小悪魔のヒジに掴まり、片方の手で持った杖で足元を叩きながら進む
杖の扱いがだんだん板についてきた、小悪魔はそう思った

「ねえ、小悪魔」
「何ですか、フランドール様?」
「私の目ってもうずっとこのままなの?」
このタイミングでその話題が出たのは全くの偶然だった
フランドールは誰かにこのことをずっと訊きたいを思っていた
「お嬢様がいつか必ず治療法を見つけてくれますよ」
今の小悪魔にはそう答えるのが限界だった
「アイツがそんなことするはずない。私の目が潰れていたほうがアイツにとって都合が良いもの・・・・・」
諦めるようにそう言った
「ではご本人に直接聞いてみてはいかかがですか?」
「?」
廊下の先には偶然なのか運命なのかレミリアがいた
2人はレミリアに近づく

「お姉様」
「なにかしら、フラン?」
「その・・・・私の目って・・・・もうずっとこのまま・・・・・・なの?」
勇気を振り絞って訊いてみた
それをレミリアも十分理解していた
知っていたが
「さあ?もお、ずっとそのままなんじゃない?」
全く関心が無い、そんなニュアンスで返事をした
「他に用が無いなら、もう行くわよ。これから神社で宴会なの」
そう言って去っていった


それを聞きフランドールは落胆してその場に両膝をつき崩れ落ちた
実はひそかに期待していた、姉が自分を助けるために動いてくれているのではないかと
それぐらいはまだ自分のことを気にかけてくれているのではないかと
しかし今の言葉で自分は姉にとって何の価値もないのだとわかった




レミリアは思った。手術の話をするのは明日だ、今言う事じゃない
だがそれ以上に、妹を驚かせてみたいという気持ちのほうが強かった
(明日、どんな顔をするか楽しみね・・・・・・・・)
もちろん神社で宴会などその場で言った口からの出任せだ




「あの・・・だいじょうぶですかフランドール様」
落胆するフランドールを見て小悪魔は声をかける
うつむいているため、今どんな表情をしているか小悪魔にはわからない
それでも悲しい顔をしていることは容易に想像できた

しばらく2人の間に沈黙が流れた

「ねえ、小悪魔・・・・『取引』してあげてもいいよ・・・・・・・」
突然フランドールはそう言った


それを聞いた小悪魔は嬉しそうに口元を吊り上げた