248 名前:名前が無い程度の能力[sage] 投稿日:2007/05/14(月) 23:03:11 ID:1PabBphQ0
訪れる度にパチュリーの具合が悪くなっていくのです

「なぁ、小悪魔。パチュリーはどうしたんだ?」
おずおずと尋ねると
「寝込んでおられますゆえ」
冷淡な声が返ってきました

魔理沙はお見舞いにいきます

なぁ大丈夫かパチュリー、これ私が調合した薬なんだ。よかったら使ってくれよ
あ、こんなときにお前を実験台にしたりなんか考えないぜ、私でもう実験済みなんだ
安心してくれ
                 なぁ
返事してくれよ

「もうお帰りになられるのですか。その本は」
「全部医学薬学の本だ。パチュリーは私が治す、治してやる、待ってろ」


結局パチュリーは助かりませんでした
気が付いたらベッドから消えていました

「なぜなんだ」
主のいなくなった大図書館で魔理沙は途方に暮れました
「まだお解りになりませんか」
小悪魔は冷淡でした
ただその視線で大図書館の書棚を見渡して溜息をつくのでした
その図書館はといえば、あちこち蔵書が足りず隙間だらけなのでした
借りては返さない者がいたためです
魔理沙は悟り、絶句しました

「まさか」
「ええ、あの方は図書館の知識の具現、図書館の化身だったのですよ」

255 名前:名前が無い程度の能力[sage] 投稿日:2007/05/16(水) 00:42:08 ID:QL6pdVAU0
248 に幻視力をお借りして、救済を。


「なぜ教えてくれなかった!」
魔理沙は小悪魔の襟首をつかんで、さけびました。

「あの方に口止めされていたからです。
おろかな人間。おろかな人間。失ってからはじめてその大切さに気づく。
あなたたちは、いつも同じことをくりかえしてばかり」

そう言って、小悪魔はやっぱり冷たい目で魔理沙をにらみました。
その声には、おさえこんでいる怒りの色がにじみだしていました。
魔理沙はその瞳を見ていると、なにも言えなくなってきました。
ちいさなちいさな悪魔が泣いているのがわかったからです。
彼女は涙を流さずに泣いていたのでした。
彼女は主が消えたことを誰よりも悲しんでいたのでした。

「……これをあの方からあずかっています」
そういって、小悪魔は魔理沙に一通の封筒を差し出しました。
魔理沙はそれを受け取ると、震える手でその封を破り、中に入っていた便せんを読みました。

『拝啓、霧雨魔理沙様。
この手紙をあなたが読んでいるということは、私はもうこの世にいないということでしょう。
私は図書館に宿る精霊でした。図書館の蔵書は、私の命そのものだったのです。
でも、どうか私がいなくなったことについて悲しんだり、自分を責めたりしないでほしい。
ねえ、魔理沙。いちばん悲しい図書館というのはどんなところかしら。それは人の訪れない図書館。
日の目を見ないまま、埋もれていく知識の山を積み上げていくだけの場所。
私は嬉しかった。あなたに出会えて、生まれてからの百年間で一番。
あなたは私にとって、暗い闇の底に差し込んだ一条の光でした。
あなたがこの図書館にやってきて以来、わたしは毎日朝が明けるのが待ち遠しかった。
あなたとお話をしているときだけ、生きていると実感できた。わたしはあなたが来てくれなくなることを、
なによりも恐れたのです。だから持ってかないで、とはいったものの、あなたに本を返してくれるよう強く言って、
嫌われることが怖かったのです。
ともだちからは、ばかじゃないかと言われました。私のしもべとして仕えてくれていた悪魔にも言われました。
あなたに全部打ち明けて、本を返してもらえばいいじゃないかと何度も言われました。
でも、私にはそれがどうしてもできなかった。
私はあなたに、自分が肉体を持たないただの精霊でしかないこと知られるのが怖かったのです。
私はなたと同じ魔法使いでいたかった。私はあなたと同じ種族という事実を共有していたかったのです』


256 名前:名前が無い程度の能力[sage] 投稿日:2007/05/16(水) 00:44:04 ID:QL6pdVAU0


魔理沙は急いで自分の持ち去った本を図書館に戻しました。
それでも、パチュリーがよみがえることはありませんでした。
一度失われてしまった精霊がもう一度図書館に宿るには、また長い歳月が必要なのです。
魔理沙はうちひしがれて、暗い図書館の冷たい床にへたりこんで涙を流すだけでした。
魔理沙はずっとそうしていました。
友達を殺してしまったことを後悔しつづけました。

……日が変るころに、あるじを失いまもなく消えるばかりの悪魔が、彼女に話しかけました。

「おろかな人間。
あの方との契約に縛られていた私も、間もなく消えて、魔界に戻ります。
でもその前に、私の悪魔としての力を使って、あなたにひとつの選択肢をあげるわ。
この約束に縛られれば、あなたは尽きることのない命を得る。
その命で、あなたはこの図書館のさきもりとなることができる。
そうすれば、犯した罪を償う機会が得られるかもしれない」

おろかな魔法使いはその申出を受け入れたのでした。


257 名前:名前が無い程度の能力[sage] 投稿日:2007/05/16(水) 00:45:14 ID:QL6pdVAU0


 *

 その封印されていた遺跡の一室を訪れた私は、部屋の中に広がる光景に驚いた。
 眼前にはどこまでも果てしなく続く、高い高い書架の群れがあった。
 壁という壁にはすべて本棚が続いている。
 ここがこの世のすべての知識が収められているという、ヴワル図書館に違いない。

 私はしばらく探索した後、自分が興味を持っている古代魔法学の蔵書がある個所に落ち着き、
夢中で本の内容を確認した。
 そしてめぼしいものを一冊見つけて、書架から取って自分の雑嚢にしまおうとした。
 その時、どこからか甲高い子供の声が聞こえた。

「もっちぇかないで!」
 足元を見ると、ぶかぶかのナイトキャップが見えた。
 ネグリジェを着て、胸に本を抱えているとても幼い少女が私を見上げていた。
 紫色の長い髪を二つに分けて編んでいる。

「パチュリーや、どこにいったんだい」
「まりちゃー! このひとがごほんをもっていこうとするのー」

 しわがれた年老いた女性の声がした。
 奥のほうから明かりが動いているのが見えた。
 目を凝らすと、とんがり帽子をかぶったまるで魔女のような姿の老婆がこちらに近づいてくるのが見えた。
 その少女はわたしのもとからとことこと走って行き、老婆に抱きついた。
 老婆が少女の手を引いてこちらへ歩いてくる。しわのある顔が見えた。

「おや、お客様ですかな。これは、珍しい。歓迎いたしますよ、お茶でもいかがですか? ……ええと、
一度その本を棚に戻していただけませんか。もしお借りになりたい本がありましたら、
またあらためて貸出の手続きについてご案内しますから。さあ、こちらへどうぞ」

 そう言って、老婆は私を奥の部屋へと案内してくれた。