霧雨魔理沙の家は魔法の森の奥深くにある。
店を営んでいると自称はするが普段は訪れる者などまずいなく、顔見知りの人妖がたまにやってくる程度であった。
ある日の夕暮れ時その近所付き合いに薄い霧雨亭に複数の影が近づいていた。
紅魔館のメイド長十六夜咲夜と、地下大図書館の主パチュリーである。

「パチュリー様、そろそろ到着です」
「そうね、準備はいい?」
「抜かりはありません……魔理沙の在宅も確認できました」
「じゃあ、始めるわ」

二人は霧雨亭が目視できるあたりで足を止めた。
パチュリーは霧雨亭をその位置と形を頭に刻み込もうかというようにじっと無表情で見つめ、咲夜もその左に立ちやや緊張した顔をしながら同じように霧雨亭を見つめている。
パチュリーはしばらく睨み付けた後、目を閉じて小さい身振りと共に歌うように詠唱を始めた。
咲夜はその間周囲を警戒しつつ霧雨亭の様子を伺っていたが、パチュリーの詠唱が終盤を迎えたのを確認すると足音一つ立てずに回り込みながら霧雨亭へと歩き出した。


「よし、今日はここまで! 我ながら今日もよく働いたぜ」

うーんと声を出しながら魔理沙は椅子から立ち上がって背伸びをした。
ここ最近の魔理沙は一日中作業机に噛り付いてミニ八卦炉の応用について研究をしていた。
週一で寄っていた図書館にもいかず、霊夢にも忙しくなるからしばらく寄れないぜと断ったほどの気合の入れようである。
その成果が今魔理沙の目の前にある紙に集約されていた。
そこに記されているのがミニ八卦炉に関する応用理論である。

魔理沙は背筋を伸ばし肩を回すなどしてしばらく固まった体をほぐしていたが、長時間の集中が解け喉の渇きを思い出しお茶でも飲もうかと台所へ足を向けた。
やかんに水をいれ火をつけようとした時、窓から差し込んできた光が顔に当たり魔理沙は目を細める。
昼でも暗い魔法の森に夕暮れの太陽の光が差し込むことは非常に珍しい。
魔理沙は何日も家にこもりっきりでそろそろ太陽が恋しくなってきたころであり、これは吉兆のように感じられた。

「珍しいな、うちに夕日が差し込むなんて」

パチュリーの詠唱が完成すると巨大な魔法陣が空中に七つ現れる。
それぞれが一色ずつの眩い光を直線状に放射しており途中で七つが合わさって白い光を霧雨亭にぶつけている。
光が間違いなく霧雨亭にぶつかっているのを確認し、大きく息を吸い込むと魔法による念波で咲夜に指示を送る。

「咲夜、配置についた?」
「準備は完了してますわ、いつでもどうぞ」
「じゃあ、3……2……1……全砲台発射」


「変だぞ! これが夕日なもんか!」

白色光の洪水と化した台所で目を押さえて地面を転がりながら魔理沙が叫ぶ。
避難しようとはしているが、強烈な光で視覚だけでなく五感全てがやられてしまい最早床を這いずる事しかできない。
床に落ちたヤカンから零れた水が魔理沙の服をぬらしているのだがそれを気にする余裕すら魔理沙にはなかった。
そして衝撃が訪れた。


パチュリーの魔法によって咲夜にもパチュリーのカウントダウンは聞こえていた。
だから、ちゃんとタイミングを合わせて目を閉じたはずだった。
更に光は霧雨亭に向かって収束しているため直線上にいなければ被害は少ないはずだった。

「やっぱり強烈ね、動けないほどじゃないけど」

しかし、パチュリーから放たれたであろう魔力砲が霧雨亭のバリアにぶつかり押し破った際に撒き散らした光と衝撃波は咲夜を十分に襲っていた。
まだチカチカする視界とくらくらする頭を抑えながら咲夜は潜んでいた場所から霧雨亭へと歩み寄る。
あれだけの魔力がぶつかれば普通の家なら間違いなく中にいた人間ごと砕け散る。
初めパチュリーから計画を聞かされたとき、正直それでは目的が達せられないのではないかとも内心思った。
しかし霧雨亭はその半分が跡形もなくなり、残りの半分も十分にボロボロであったがまだ形は残していた。

「なんとまあ、あのボロ屋が随分と頑丈なこと」

呆れた声を漏らしながら咲夜は霧雨亭の残骸に近づいていった。




ん……んん……

「しかし頑丈でしたね、見た目には唯の家にしか見えなかったですわ」
「咲夜のナイフは表面はよく切れるけど、咲夜自身はもっと中身を見るようにしないと駄目ね」
「精進しますわ」

うっ……何だ……

「あら、気づいたようです」
「咲夜、よろしくね」
「はい」

聞き覚えのある声が近くで何かを話しているのが聞こえた。
それを聞き取ろうと魔理沙がぼやけた頭で耳を傾けたとき冷たい感触が全身を襲った。
その冷たさに魔理沙の意識が急激に晴れ、目がうっすらと開く。

「う……な、何だ」
「ようやくお目覚めね、魔理沙。私のことわかるかしら」
「パ……パチュリーと咲夜か」
「まだ頭が回ってないようね、咲夜もう一杯」
「はい」

魔理沙の顔に堅い感触のものがぶつかり、開いていた口の中に流れ込んでくる。

「ゴホッ、ゴホッ、カハッ!!」
「どう、目は覚めた? 何ならもう一杯どう?」

咳き込みながら魔理沙が薄目を開けるとそこには水がたっぷりと入ったバケツをもった咲夜が無表情で魔理沙を見ていた。

「い、いや。結構だぜ」
「まあ、そういうならそれでもいいわ」

ようやく落ち着いてきて感覚が戻ってきたのか魔理沙がびしょぬれになった自分の体を寒そうに抱きしめる。
そして残骸と化した自宅を見回して呆然としながらもパチュリーの方を向いて口を開くがそこからは何も出てこない。

「随分と綺麗になったわね、これくらい普段から綺麗にしていたらどう?」
「パチュリー、これはお前が……?」
「ちょっと賃貸料を取りに来たついでにお掃除してあげたのよ、感謝してもいいんじゃない?」
「おまっ!」

パチュリーの言葉に掴みかかろうとする魔理沙を咲夜が捕まえ、その首元にナイフを突きつける。

「動かない方がいいわ、咲夜のナイフは表面だけはよく切れるから」
「ぐっ、何だよ、一体何が目的なんだよ!」
「さっきも言ったでしょ、賃貸料よ。うちの本は結構高いのよ」

喉で感じるナイフの冷たい感触が魔理沙を動けなくさせる。
その魔理沙の胸にパチュリーが右手を置き、濡れた服の上をごそごそと動かしながらやがて心臓の上で右手を止める。

「ま、まさか、パチュリー?」
「安心しなさい、命は取らないわ。だって、貴女の価値は魔力だけだから」
「なっ!!」

パチュリーの言葉に反論しようとするがナイフの更に食い込む感覚が魔理沙の口を縛る。
その間にパチュリーは小声で詠唱を完成させる。
すると魔理沙の胸の上におかれたパチュリーの右手が緑色に鈍く光りだした。
そしてそのまま右腕がズボズボと魔理沙の胸に吸い込まれていった。
恐怖に凍る魔理沙は意に介さずパチュリーは右手を動かし、やがて握り締められた右手を抜き出す。
パチュリーの右手の中には青く光る石があり、それを見てパチュリーは笑った。

「さあ、咲夜。用事は終わったわ、帰りましょう」
「わかりました」

咲夜が魔理沙を離すと、支える力を失った魔理沙は床に崩れ落ちる。
そんな魔理沙を見ようともせずにパチュリーは咲夜を従えて歩いていくが、元玄関のところで立ち止まり、足元を見つめる。
そこには焦げてひびが入ったミニ八卦炉が落ちていた。


「ま、待て。パチュリーお前私に一体何をしたんだ」
「……そうね、賃貸料を貰ったんだから教えてあげましょうか」

パチュリーはしゃがんでミニ八卦炉を拾い上げる。
そして、それを持って座り込む魔理沙のところまで歩いていき魔理沙に渡しながら、

「貰ったのは魔理沙、貴女の魔力の素。魔法を使う能力の大本よ。貴女に持っていかれた本も焼けてしまったけどそれを補って余りある物だから、持って言った物は返さなくてもいいわ」
「魔力の……素?」
「そうよ、魔力の素。私にもレミィにも咲夜にもあるわ。これがあるから魔法とか幻術とかが使えるの」
「じゃ、じゃあ私の魔法は……」
「回復するまで全く使えないわ。不便かもしれないけど貴女の賃貸料だから諦めることね」

そう言うとパチュリーは元玄関のところで立っている咲夜のところに歩いていき、一言じゃあね、と言い残して咲夜と二人で飛んでいった。

後に残されたのは元の姿の見る影もない霧雨亭と、ところどころ服が破けびしょぬれになった魔法の使えない魔理沙だけだった。





どれくらい放心していたんだろう。
魔理沙が考える力を取り戻したのは辺りがすっかり暗くなってからだった。
頭が痛いし体が熱い。
風邪を引いたのかもしれない、体を拭いて着替えないと。
魔理沙はゆらりと立ち上がって箪笥の置いてある方を向くがそこには焦げた木片と焼けた繊維らしきものがいくらか転がっているだけであった。
全壊を免れた部分に目を向ける、そこは魔理沙の寝室だった。
家全体のバリアでは防ぎきれなかったが、寝室にかけられた二つ目のバリアが全壊からは守ってくれたようであった。
足が宙に浮いているような、世界が揺れているような感覚で何度か転びながら魔理沙は寝室を目指す。
とりあえず眠りたいと思っていた時に聞こえてきたのは耳障りな鳴き声であった。

「何だよ……。ああ、そうかバリアもなくなってしまったもんな」

聞こえてくるのは低級な妖怪の鳴き声である。
妖怪といってもルーミアやリグルなどと比べることもできないほどの低級妖怪、そこいらの獣の方が危険かもしれない程度である。
先ほどの光をみて好奇心が刺激された近寄ってきたのであろう。
普段なら魔理沙の家の結界によって近寄ることもできない連中であるが、高熱に襲われ魔法も使えない魔理沙には抗いようのない敵であることに間違いはなかった。

いつの間にか魔理沙の目の前に熊を一回り小さくしたような妖怪が立っていた。
そしてその妖怪は大きく腕を振り上げ、呆然と立ちすくむ魔理沙に振り下ろした。

数分間妖怪は魔理沙を殴り続け、トドメとばかりに魔理沙を壁に叩きつけた。
ぐったりとして動けない魔理沙を見てもう食べ時だと判断したのであろう、今までと違って涎をたらしながら魔理沙にゆっくりと手を伸ばしてくる。
魔理沙は悲鳴を上げながらも、どこかその手を受け入れるように目を瞑った。

「何をやってるの」

怯え震える魔理沙が旧知の仲の声を聞き、恐る恐る目を開けるとそこには人形の剣で貫かれ断末魔の声も上げれずに絶命した妖怪とアリスの姿があった。

「あああああああ、あああああ」
「どうしたのよ、落ち着きなさいよ」
「あ、アリス! 助けてくれ!」

これ以上はないというほど取り乱したボロボロの姿の魔理沙にいきなりしがみつかれてアリスは困惑の表情を浮かべる。

「これは一体どうしたことかしらね」

霧雨亭はほぼ全壊、魔理沙はボロボロでただただ助けてを繰り返すだけ。
アリスはどうしたらいいかというように周りを見回して抱きついて震えている魔理沙を見る。
すると、訝しげなアリスの顔が更に訝しげなものになる。

「魔理沙、貴女……魔法は?」
「くっぅ!! うわぁぁあぁああああああああああんんん!!」

それを聞いた魔理沙は大声で泣き叫びながら地面にうずくまって耳を塞ぐ。
そんな魔理沙をアリスは先ほどとは違う冷めた目で見下ろしていた。

「そう、魔理沙は魔力の素を奪われたのね」

しばらくの間、魔理沙の泣き声が響く中アリスは霧雨亭の壊れ具合を検分していた。
といってもほとんど壊れており、屋根や壁がわずかでも残っている部分は精々魔理沙の寝室くらいである。
見回って魔理沙のところに戻ってきたアリスは膝を抱えて座り込んでいる魔理沙に向かって話しかける。

「魔理沙、貴女はこれからどうするつもり?」
「……たすけてくれ、アリス」

魔理沙は俯いたまま声を絞り出すかのように小声で言う。
すでに泣き止んではいたがもう声もガラガラの酷い状態だった。

「お断りよ、今の貴女に何が残ってるというの?」
「……アリスも私の価値は魔力だけだと言うのか」

アリスの冷たい声と魔理沙のガラガラ声が会話を続けていく。

「見たところ、貴女の蒐集品も殆どが失われたみたいだし。貴女自身の魔力も失われた。貴女に何が残ってるというの?」
「……何でもします、だから助けてください」
「何でも?」
「はい」

体温の感じられない魔理沙の言葉に心が動かされたのか、アリスが腕組みをしてふむと唸る。
魔理沙は先ほどから俯いたままピクリとも動いていなかった。

「いいわ、とりあえず助けてあげる」

その言葉を聞いてほっと安心したのか魔理沙はそのまま姿勢で意識を手放した。

次に魔理沙が目覚めたのは暖かいベッドの中だった。
ぼやけた頭で部屋を見回す。

「ここはアリスの家か」

アリスの家の客室には何度か泊まったこともある。
ずいぶんと眠っていたのであろう、痛むところも多いが体を動かそうという気力は戻っていた。
魔理沙が着せられている白い服の中を見てみると手当てを受けたあとがあった。
ベッドから抜け出そうとして、バランスを崩し体勢を直すこともできずに床に落ちる。
受身も取れず床に直撃したためか、かなり大きな音が響いた。
その音を聞きつけたのか廊下を歩いてくる音が魔理沙に聞こえた。
足音の主はドアの前まで来るとコンコンッとノックをしながら扉を開けた。

「魔理沙、起きたのね。具合はどうかしら?」
「ああ、かなり痛むぜ」

床に転がったまま魔理沙はアリスを見上げて返事をする。
そんな魔理沙をじろじろと見てアリスは、

「まだ歩けないみたいね。まあすぐに動けるようになるわよ」
「怪我が治れば手当ての礼をしないといけないな」
「とりあえず、一昨日の妖怪から助けてあげた分はもう貰ったからそれは心配はいらないわ」
「えっ?」

魔理沙はアリスの言葉の意味がわからずポカンとした顔をする。
アリスは魔理沙の頭を見ながら言った。

「貴女の髪をもらったわ。その様子だと気づいてなかったみたいね」

「そ、そ、そんな……」

魔理沙は両手を頭の上にやって、髪が一本も生えていないことを何度も確かめる。
滑りの良くなった頭を撫でるという不毛な行為を何度も繰り返した後、あの豊かな金髪が全て失われたことを理解したのか両手を頭から下ろす。

「喜んで、魔理沙。貴女の髪には随分の魔力が蓄えられていたわ。それにちゃんと手入れをしてたみたいね、滑らかで申し分のない材料になるわ。あんまりに良い品だから手当ての分に数日分の看病代も付け加えてあげる」

アリスは床に倒れている魔理沙をやさしく抱き起こしベットに横たわらせて毛布をその上からかけた。
その間、魔理沙は呆然とした顔でされるがままになっていた。
アリスがベットの脇の椅子に座ってりんごを剥き、フォークで刺して魔理沙の口の前に持っていったところでようやく魔理沙は口を開いた。

「なぁ、アリス」
「何?」
「私の……髪はまた生えてくるのか?」
「髪の根ごと取ったからもう生えてこないわ」

それを聞いて魔理沙は深く息を吐き、アリスの差し出したリンゴを口にした。


その後、アリスは様々な手の行き届いた世話を魔理沙に時間をかけておこなった。
アリスの作業はまるで大切な物を扱うかのようなものであり、魔理沙は久しぶりに体温を感じたような気がしていた。
その為か日も暮れたころには魔理沙も小さくではあるが笑みも浮かべられるようになっていた。
夕食の後、二人は魔理沙の研究内容について話し合った。
魔理沙にとっても研究者としての自分を表に出すことで弱った自分を隠し、癒すこともできるため積極的に会話を行えた。
しばらく話した後アリスが椅子から立ち上がって言った。

「じゃあ、そろそろ私は戻るわね」
「ああ。……禿げの魔法使いもなかなか渋くていいと思わないか?」
「そうかもね、私の趣味じゃないけど。お休み」


それから数日間アリスの丁寧な看病は続き、魔理沙の表情もだんだんと明るくなってきた。
そして四日後、いつものようにアリスが魔理沙の部屋にやってきた。
具合は大分良いほうへと向かってはいたが、魔理沙はまだ十分には自分で歩くこともできなかった。
魔理沙が横たわるベッドの脇のところまで歩いてきたアリスが魔理沙を見下ろしながら言う。

「ねえ、魔理沙。昨日で髪の分は切れたわ」
「あ……ああ、手当ての代金か」
「次はどこにする? その綺麗な右目なんてどうかしら?」

普段のすました顔で言った台詞を魔理沙は理解できなかった。
冗談か聞き間違いかとアリスの顔を見つめるが、そこにはいつもの顔しかなかった。

「どうしたの、まだ決められない?」
「あー、アリス。どういうことだ?」
「どういうことって、今の魔理沙が私に払える報酬は魔理沙の体くらいしかないじゃない。まあ今日中に決めてくれればいいわ」
「ふ、ふざけるな! 出て行けばいいんだろ、私は出て行くぞ!」

魔理沙は体を起こし、ベットから降りようとしたところで初日と同じように床へと落下した。
アリスは顔をしかめて呻く魔理沙を優しく抱き起こしてベットに横たわらせた。

「ね、まだ一人じゃ動けないでしょ」
「…………」
「じゃあ、今日の手当ての準備をしてくるわね」

アリスは静かに出て行き、ベットの上で眼を瞑る魔理沙だけが残された。
その一週間後、魔法の森の魔女アリスの家から出て行く姿があった。
体のところどころに包帯を巻き、森の中へと向かおうとしていた。
まだ怪我は治っていないのであろうよろめいた歩き方で、頭を隠すように黒い頭巾を巻き、右目を隠すように包帯が巻かれた状態で森へと向かっていた。
一歩歩くごとにその振動が伝わって傷が疼き、苦痛の声を漏らす。
それでも魔理沙は必死に歩き続けた。
まるで呪詛を口にするかのように呟きながら歩き続けていた。

「くそっ、これ以上取られてたまるか。霊夢、香霖、霊夢、香霖、霊夢、香霖……」

言葉を口にすることで意識を保っていようとするかのように呟きながら歩いていたが次第にその頭は前に垂れ始める。
地面に落ちていた木の枝を杖にしてそれに体重を預けて歩き出すが大振りになっていく歩きが傷の痛みを増していく。

「痛い、痛い、痛い、痛い、霊夢、香霖助けてくれ、痛い、痛いよ、痛いよ……」

そんな魔理沙には最早前方は見えておらず、舌なめずりをしている妖怪も眼に入らなかった。


魔理沙が出発してから数時間後の魔法の森の中。
血を流して絶命した妖怪数匹と地面に倒れて呻き声を漏らし続ける魔理沙といつもの顔のアリスがそこにいた。
アリスは妖怪の血がついた魔理沙を人形数体に持たせたタンカに乗せて、その苦痛にゆがむ顔を優しく見つめながらなだめるような声で言った。

「魔理沙はまた怪我を増やしちゃったわね。治療もやり直しね」



博麗神社。
春の陽気に包まれる神社の縁側で霊夢はお茶を飲んでいた。

魔理沙の姿がなくなってから半年が過ぎた。
いつもはうるさい邪魔なやつと思ってたけど、いなくなってみると寂しい物ね。
境内の掃除中に休憩をとっている霊夢がお茶を飲んでいるという普通の風景。
半年前はここによく魔理沙が加わっていたものだった。
研究が忙しくなるからしばらく来れないと言ってからは本当に来なくなって、それである日噂を聞いて魔理沙の家を見に行ったらそこにはほぼ全壊の家があるだけで。
あれから魔理沙を見たという話を聞かない。
探すには狭い幻想郷、幻想郷中に散らばる妖怪達が誰も見ていないということはもういないということだろう。
博麗大結界を越えて幻想郷から出て行ったのか、それとも死んでしまったのか。


「はぁ、掃除しましょうか」

やりかけの掃除の続きをしようと霊夢が湯のみを置き、箒を持って立ち上がる。
桜は綺麗だけど散った花は掃除しないとすぐに汚れてしまう、面倒ねぇ。
そんなことを考えながら霊夢は鳥居の方へと歩いていった。
その途中でひときわ大きな桜が霊夢の目に止まった。
今年も春は春はで花見酒と神社で妖怪が連日酒盛りをした。
去年まではそこに魔理沙も加わっていたけど、今年はいなかった。
妖怪は長い記憶を持つというけど忘れるのも早い。
魔理沙のことを話題にしても、あーそういえばいたわねという反応をしなかったのは私と……

「こんにちは、霊夢。今日もお掃除が仕事かしら」

アリスくらいだった。
アリスが神社にやってくるのは珍しい。
最近は人里で人形劇を披露する頻度も減らさないといけないほど実験に忙しいとこの前の宴会で言っていた。

「珍しいわね、今日も巫女の仕事よ」
「巫女の仕事は掃除することだったのね」
「あと、お茶を飲むことよ。で、何の用?」
「ちょっと珍しい物を見せたくて、こっち来なさい」

アリスが階段の下のほうに向かって手招きをして、こっちよと呼んでいる。
そんな霊夢の前に階段を上って現れたのは青を基調とした服の金髪の女の子だった。

「ま……魔理沙なの?」
「違うわ、霊夢」

箒を手からすべり落として口をポカンとあける霊夢にアリスは笑いながら言った。

「これは私が作った人形、ここ最近の努力の結晶よ」
「そうなんだ。……でも魔理沙に似てるわね。この髪といい、眼といい」
「これは私が長い間作りたかった自律型の人形よ。ほら、挨拶して」
「こ、こん、こんにちは。いいお天気ですね」
「こんにちは、ちょっと暑いくらいだけどね。 って喋った!!」
「隅から隅まで私の持てる技術全てをつぎ込んだ最高傑作よ」

すごいすごいとはしゃぐ霊夢は人形にあれこれと話しかけては怯えさせ、人形は時々アリスの方に救いを求める眼を向けてくる。

その日アリスは神社に泊まらせられて、人形は一日中霊夢の遊び相手にさせられた。
霊夢は皮膚を触っては柔らかいと驚き、髪を梳いては滑らかと驚く。
一体材料は何を使っているのかと聞かれたアリスは笑いながら答えた。


「全身どれも最高級の材料よ」















  • 霊夢捜したれよw -- 名無しさん (2008-11-24 12:40:45)
  • 髪が無いだけに不毛な行為なんですね、分かります -- 名無しさん (2008-11-26 01:02:40)
  • 皮膚・・・だと・・・? -- 名無しさん (2008-11-28 00:31:30)
  • この調子じゃあホネからモツまで魔理沙のモノが使われてるな。
    使われてないのは・・・味噌か。 -- 名無しさん (2008-12-04 23:14:18)
  • 唐突に「フランケンふらん」を思い出した。 -- 名無しさん (2008-12-05 19:20:28)
  • 普通のSS見た後とかだと凹むなぁ・・・
    一応魔女達に理屈(本だとか手当て代だとか)
    つけられてる所が逆に怖いな。
    つーかアリスそれじゃ自律人形として
    いいのか? -- 名無しさん (2009-01-10 12:38:42)
  • 部品取り・・・ -- 名無しさん (2009-02-14 12:53:24)
  • アリスは馬鹿だなぁ
    魔理沙の髪の毛を残しておけばまた採取することができたというのに
    自分から高価な宝石を根絶やしにしてしまうとは
    髪の毛以外にも人体には再生可能な箇所がいくつもあるわけで
    皮膚や筋肉や骨なんかはちょっと削ったりする程度じゃ再生する
    そういうところから材料を調達し続ければいいのに -- 名無しさん (2009-02-22 17:54:56)
  • 禿げ魔理沙なんて初めて聞いたぜ -- 名無しさん (2009-03-12 22:53:35)
  • 毛根が欲しかったんだよ、アリスは。

    自立人形というより、魔理沙の出来の悪いコピーみたいだな。
    話はディモールト ベネ。 -- 名無しさん (2009-08-23 03:13:49)
  • 魔法陣ツルツルってか -- 名無しさん (2010-11-01 20:20:43)
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