―――それから、彼女は再び、罪の意識を抱きながら生活するようになった。







昼下がりの永遠亭。
屋敷と野菜畑を繋ぐ敷地内の道を、鈴仙が幼い因幡の子の手を引いて、歩いている。
この新入りの因幡の子に、鈴仙は永遠亭の各所を回りながら、一通りの仕事の説明をし終えた所であった。
今は昼の休憩の為に、畑から屋敷に戻る方向へと歩いている。

鈴仙に手を引かれて歩いている因幡の子が、心配そうな顔で、鈴仙の顔を見上げる。
鈴仙の仕事の説明は分かり易く、丁寧であったが、
しかしその鈴仙の表情や声色が終始、どこか疲れた様な暗さを含んでいたからである。
そして今も、鈴仙は因幡の子の気遣う様な視線に気づく事も無いままに、
やや俯き加減で地面を見つめながら歩みを進めていた。

道向かいから、お喋りの喧騒と共に、農具を手にした農耕当番の因幡達が、仕事に出る為に歩いて来た。
彼女達は鈴仙に気付いて挨拶をすると、再び忙しくお喋りに花を咲かせながら擦れ違っていく。
鈴仙は、その挨拶の声すらも聞こえなかった様で、やはりぼうっとしたまま歩み続けていた。
因幡の子は、遠くへ離れていく農耕因幡達の姿を何とも無しに見やりながら考える。
鈴仙様が何を思い悩んでいるのかは判らなけれど、何かお話をして差し上げて、気分を和らげて欲しい、と。

何か良い話題を思い付いたのか、唐突に明るい顔になった因幡の子が鈴仙の方へ振り返った。
繋いでいる手を少し引きながら、努めて明るい声で鈴仙に話かける。

「ねぇねぇ、れいせんさま!」
その因幡の子の声で、鈴仙はハッとして物思いから醒めた様であった。

「ん……何かしら?」
因幡の子の方を向いてそう答える鈴仙の表情は、
暗さを押さえ込み、無理に明るく振舞おうとしているぎこちなさが見て取れる。

「えと、れいせんさまのおみみは、どうしてほかのうさぎたちとちがうんですか?」

その言葉を聴いた途端、鈴仙の歩みが止まった。

「どこか、べつのところからきた……んです…か」
因幡の子の声は、尻すぼみに小さくなっていった。
鈴仙の体が小さく震えて硬直したのが、握っている手を介して因幡の子にも伝わったからだ。
鈴仙は、因幡の子から視線を逸らし、怯えた様に見開いた瞳を足元の地に彷徨わせている。
微かに開いた唇が、何か言葉を紡ごうとして震え、しかし何も言葉を発しないまま、きつく閉じられた。

「え…? あの、れいせんさま…?」
鈴仙の足元に零れ落ちた幾粒かの水滴に、因幡の子が立ち尽くしたまま動揺する。
「え、あの、ごめんなさい……、わたし、なにか、あの………」

昼下がりの竹林の中。
因幡の子の酷く困惑した声の後半に、
喉奥から絞り出すような鈴仙の嗚咽が重なった。













  • はい? -- 名無しさん (2014-10-30 16:05:27)
  • うーん -- 名無しさん (2014-10-30 16:06:30)
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