この文章は門板「幻想郷の女の子を虐めるスレ」用に製造されました

<警告>

別離ものです。レイマリです。
魔理沙が酷い目に遭います。
この小説で語られることは、公式設定ではなく
ファン間のコンセンサスがあるものでもありません。
使い古されたネタを使用しています。







 ・・・
 ・・
 ・


蝉の数もめっきり減り、もう暑いとはいえない日が続いていた。
夕方、博霊神社の縁側には、いつものように魔理沙がいて、談話にも疲れた彼女は
よく磨かれた縁側の板張りに仰向けになり、夢の中だった。
時折寝返りをうったり、寝言を言う。それを眺める霊夢があり、彼女は何もしていないのだが
どうやらそれが暇というわけではなさそうである。
「う・・ん・・・」
魔理沙が寝苦しそうな声を漏らす。またか。霊夢は経験からそう判断した。
「ん・・・ぅ・・・うーっ・・・」
それはだんだんと呻き声に近くなり、表情もまた苦しげになっていく。
ここ数週間の通りであるとすれば、魔理沙は、このあととび起きてこう言うのだ。
「霊夢、私は霧雨魔理沙だよな?」

一体彼女がどんな悪夢にうなされているのか、霊夢にはわからないが
それが何週間も続くというのは尋常なことではない。
医者にでもつれていくべきだろうか。そう考えて月の頭脳に連絡を取ったが
あいにく精神科・心療外科は専門外とのこと。
魔理沙の呻きはいよいよ大きくなり、まるで病人にしか思えない。
起こそう。
そう考えて、陰陽玉を投げた。
魔理沙のそばに落ちてバウンドし、大きな音を立てた。

「んぅーっ・・・んっ・・・ぅ・・・うわっ!?」

その音で魔理沙が飛び起きた。
上体を肘で起こして、忙しく左右に首をふり、状況確認に余念がない。
「ゆ・・・夢?ぁ・・・霊夢、霊夢!」
立ち上がるのと方向転換を同時にやったものだから足がもつれて倒れかける。
いきおい柱に頭をぶつけ、おでこを抑えながら、あーとかうーとか言いつつ霊夢のいる
ちゃぶ台へ歩み寄ってきた。
「霊夢ぅ・・・うー・・・」
霊夢はすかさず言った。
「何よ、霧雨魔理沙」
あえてフルネームを使う。その呼び方に魔理沙はハっとした様子で、おでこから手を離して
「霊夢、私は―」
「霧雨魔理沙よ。決まってるじゃない」
「よ、よかった・・・!」
魔理沙、ヒザをついてうなだれる。
霊夢は、もう一口茶を啜ると、視線もあわせず、さりげなくサラリと、
「最近変よ。一体どうしたの」
「悪い、大したことじゃないんだ」
魔理沙は即答。霊夢の目が細められ、チラリと魔理沙を向く。
「・・・いいの?」
「あぁ・・・」
「ふん」
せめて夢の中で何があったのか教えてくれれば助言の余地もあるのだが。
霊夢はそう考えながら立ち上がり、台所へ向かった。

 ・・・

「***」
誰かが自分を呼んでいる。
おかしいことに、自分が呼ばれていると解るにも関わらず、その名前は自分のものではないのだ。
「もう聞こえていないかもしれないわね、***」
ちがう、それは私の名前ではない。私は魔理沙だ、霧雨魔理沙だ。

視界に、おぼろげな情景が浮かび上がる。
周囲には液体があって、自分はその中に沈んでいるようだ。
下からはゴボゴボと泡が浮かんでくるが、呼吸はできず苦しかった。
もがき、水からあがろうとするが、どうやら自分のいるところは密閉されているらしく
液体の外へ出ることができない。
くるしい。たすけて。
口が開きそうになる。ダメだ。今息を吐いたら水を吸い込んでおぼれる。
目頭が熱くなった。でも涙が出ているかどうかはわからない。

「***、もうすぐ終わるわ。貴方と魔理沙の―」
バカな、ちがう。私が魔理沙のはずだ。魔理沙は私以外には存在し得ない。
何か根本的に間違っている。
にも関わらず、その名前はなんでこうもしっくりくるんだ?
「***」で、正しい気がしてしまう。クセで、返事をしそうになる。
おかしい。でも何がおかしいんだ?

液体と外界を隔てるガラスの向こう側に、何か赤いものがゆらめいている。
どうやらそれは人影のようだった。誰だっけ―
自分はあれを知っている気がする。自分の近しい誰かだったような気もする。
そんなことを考えていると、意識が薄らいできて、目の前がだんだん暗くなり
「(うぐ・・・息ができないよ・・・苦しいよ・・・助けて、誰か、霊夢っ・・・)」
ついにはすべての外部からの情報が途絶えた。
視界が真っ暗になり、感覚が失われ、思考が蒸発する。

ああ、私は死んだのか。
いやな死に方だったな。なんでこんな・・・

「魔理沙さん、起きてください」

誰か別の声が聞こえる。
その声の主もまた、赤い誰かだった気がしてきた

 ・・・

「う・・・ん・・・」
妙に体がガクガクと揺れる。
気づくと魔理沙は机に突っ伏したまま眠っていた。
揺れる原因を探ろうと周囲に集中力を向けると、聞き覚えのある声が飛びこんできた。
「魔理沙さん、魔理沙さん!しっかりしてください!」
視界に、赤い髪。もうわかった。ここはパチュリーの魔法図書館、そしてこの半泣きの声は
「あ・・・ぁ・・、小悪魔か・・・?」
「よ、よかった!咲夜さーん、魔理沙さんが気づきました!」
そうか。やはり、博霊神社の縁側のときと同じように、うなされていたのだ。
パチュリーは横で怪しげな薬草をごりごりとしており、咲夜はタオル片手に既に傍にいる。
「気づいたのね、いきなり唸りだして、起こそうにも起きないから何事かと思ったわよ」
咲夜がそのように言った。メイド長の仕事を放り出して、来てくれたらしい。
「あぁ・・・咲夜、ありがとう・・・ごめん、情けないところを見せた。もう大丈夫だ」
パチュリーが無言で魔理沙のおでこに手をやる。熱は無いわね。
それだけ言うと薬を片付けはじめた。彼女だけ、いつもどおりだった。

「本当に大丈夫なの?お嬢様に血を吸われた人間でも、そこまで酷い顔しないわよ」
咲夜から受け取ったタオルで顔を拭くと、凄い量の汗が拭い取られた。
窓の無い図書館は寒く、服にこびりついた汗の冷却が促進され、冷たかった。
そのうえ、体の芯から、泥でも塗りたくったような疲労が沸いていて、頭もふらついていた。
眠りたい。眠り足りない。
あぁ、たぶん気のせいではないだろう。
眠れていないのが、あの悪夢のせいだというのは。

「みんな・・・ありがとな、今日は疲れているらしい。はやく帰ってちゃんと寝たほうがよさそうだ」
ベッドくらい用意するわよ、咲夜が気をきかせるが、魔理沙は断る。
「気持ちはありがたいけど、寝覚めがおかしいんだ。自分の布団でちゃんと寝てみたい」
咲夜はそれを聞くと、その表情に、一瞬だけ怪訝なものを浮かべたが、すぐにいつもの瀟洒な彼女に戻り
「そう、解ったわ。でも、やつれてうなされる魔理沙なんて、らしくないわよ」
そう言って、図書館のドアを出て行った。
あの咲夜がこうまで気を使ってくれる。
自分はそんなに酷い有様だったのだろうか。

「一人で帰れますか」
小悪魔は不安げな眼で魔理沙を見ていた。
「ああ、家まで飛ぶくらいなら大丈夫さ」
強がってみるが、今自分がどんな顔をしているか知る術はなかった。
今日は持ち帰りの本など一冊もない。パチュリーも口を挟まない。
だが魔理沙はひとつばかり、どうしてもパチュリーに聞いておきたいことがあった。

「なぁ、パチュリー」
パチュリーは相変わらず本に向かっている。
彼女にしては珍しく、魔理沙の問いかけに本を置いて、視線をこちらへ向けてきた。
「ひとつ聞かせて欲しいことがあるんだ。・・・その、私は―」
「あなたは霧雨魔理沙ではないわ」
「・・・・・・・え?」

嘘だろ?
なんで私が聞きたいことを知っているんだ?しかも―

頭の中が真っ白になり、言いようの無い恐怖が襲ってきて、足がガクガクと震えはじめた。
魔理沙は安心したかったのだ。「貴方は霧雨魔理沙だ」と言ってもらうことによって、
あの悪夢から解放され、現実世界にいるのだと、そう認識したかったのだ。
だがパチュリーは、その願望をあっさり踏みにじった。

「貴方は、正確には貴方の半分は、霧雨魔理沙ではないわ」
パチュリーは、いつものようにクールな表情と、冷たい声で言い放った。
「な、なんでだよ?どういうことなんだ、なんで私の夢を―」
声がうわずる。
「あなた、図書館に入って、眠るまでの記憶は残っているかしら?」
唐突にそんなことを言われて、魔理沙は混乱しながらも記憶の糸をたどってみた。
無い。
それどころか、魔理沙の最新の記憶は、きのう博霊神社から帰り、自分の家の
自分のベッドの上で横になるところまでで途切れていたのだ。
「・・・わ、解らない・・・?変だぞ、ちょっと昼寝したくらいで忘れるか!頭でも打ったのかな・・」
混乱して頭を抱える魔理沙に、パチュリーは、相変わらずの調子で続けた。
「貴方は、ここに入るや、『うふふふふふ、本が一杯あるわ~』と言って、私と小悪魔を驚かせ、
小悪魔との弾幕戦で『ライズレーザー』なんていう見たこともないスペルカードを使ったのよ?
それも覚えていないでしょう。ムリもないわ。だって―」
そこまで言うとパチュリー、急に口ごもる。
「いえ、いいの。だって今の貴方は私の知っている霧雨魔理沙だから」
出てきたのはそんな言葉。パチュリー独特の、遠まわしに主題をかするような言い回しだ。
回りくどい言い回しには慣れているつもりの魔理沙だったが、今回ばかりは耐え切れず
机をドンと両手で叩き、パチュリーに顔を寄せて、凄んだ。
「さっきと矛盾してるぜ・・・どっちが正しいんだよ。私は魔理沙なのか、それ以外なのか?」
パチュリーは小さく溜息を吐き、立ち上がった。
両手を突き出し、魔理沙の両の頬を掌で包むようにする。その顔は少し微笑んでいたかもしれない。
パチュリーは、驚いて呆気にとられる魔理沙に構うことなく
「いい、魔理沙。貴方の中に別の誰かがいたって、あるいは、その二人が相互に作用しあって、
今のあなたがあったとしても、それは何も驚くことではないわ。
重要なのは、とらわれすぎないこと。そうでないと、貴方」
一呼吸おいて
「アイデンティティを喪失して、崩壊するわ」

 ・・・

やめてくれ、いくらなんでもあんまりだ
拘束された私は、ちっぽけなクレーンで吊られ、ゆっくりと水槽の中に沈められていった。
液体は熱かった。いや、逆だ。あまりにも冷たくて低音火傷を起こしているのだ。
そんな中に入れられて無事で済むわけがない。
いやだいやだ、まだ死にたくない。私は私のままでいたい。実験台なんてごめんだ。
「***」
またあの声だ。あの名前で私を呼んでいる。
もうやめて、その名前で私を呼ばないで。おかしくなっちゃう。
「大丈夫、貴方の主体は失われないようにするから。貴方は貴方のまま生まれ変わるわ」
信用できない。現に私は頭のてっぺんまで液体に漬かってしまっている。それどころではない。
目は霞み、全身に刺すような痛みが走る。息が出来ないのが苦しくて仕方がない。
「大丈夫よ。この合成処理が終われば、貴方はもっと強力な魔法使いになれるんだから」
ああ、上で機械音がする。ハッチが閉じているのだ。もう外に出られない。
いやだ、私は私のままでまだ沢山やりたいことがあるのに
まだあれもこれもやってないのに
別人と合成されるなんて
おねがい
だれか
たすけて

 ・・・

起きるとそこはいつもの縁側。
視界に真っ先に入ってきたのは霊夢の顔だった。

霊夢はもう呆れるのにも飽きたか、本気で心配なのか、魔理沙に膝枕をして
おでこへ、水に濡らした手ぬぐいを当ててくれていたのだ。傍らには水の入った洗面器。
「また怖い夢?」
「れ、れいむ?・・・ああ、またこれか・・・もう、私はどうしちまったんだろうな・・・」
魔理沙は憔悴しきった顔で力なく笑った。あの元気一杯の魔理沙の面影はどこへやら。
むごたらしかった。一体何が原因だというのだ。
「れいむ・・・?」
霊夢は魔理沙の頭をやさしく撫でる。怯える妹でもあやすかのように。
「魔理沙、いい子だから私にも悩みを聞かせて。貴方が壊れていくのを見るのは―」
その言葉に、魔理沙は
「う・・」
自然と嗚咽が漏れた。胸の奥から何かがこみあげてきて、漏れ出した。
「れ・・」
ダメだ、泣く
顔が歪んで、泣き顔になっていくのがわかる。涙がぼろぼろとこぼれ落ちるのがわかった。
「れいむ、霊夢っ!ぅ、う、うわあぁぁあん!!」
叫んだ。
「怖かったよ、怖い夢見たよ!死んじゃう夢だったよ!」
霊夢にすがりついて、泣きじゃくった。
ひたすらに、日が沈んでなお、疲れ果てるまで。

 ・・・

疲れたでしょ、***。そろそろお茶にしましょう。
いい紅茶を買ってきたから、たまには労ってあげないとね。
いつも頑張ってくれてるんだから。
遠慮しなくていいのよ、***。
たまには私だって

 ・・・

「なるほどね。自分の名前ではない何かで呼ばれるの」
二人は、もう布団の中だった。
いつものように二つ敷いたのだが、霊夢がおいでと言うと、魔理沙は素直に甘えた。
抱いてもらい、背中をさすってもらう。霊夢の手は温かくて心地よかった。
抱擁された魔理沙は、落ち着いた様子で、これまでのことをゆっくりと、霊夢に話していく。
「うん。でも、その名前のほうが正しい気がするんだ。それで、変になりそうで・・・」
「なんていう名前?」
「それが・・・目が覚めてみると、よく思い出せないんだ。三文字、だった気がする」
「『まりさ』も三文字だしねぇ」
霊夢が苦笑した。魔理沙は続ける。
「それから、何か妙な液体の中に沈められるんだ。実験用の大きな水槽があって・・・」
「魔理沙がいつもやってる実験では、そんな道具を使う?」
「ううん、私はあんな大きなものは持ってないし、動物を水の中に浸けたりもしない」
「そう・・・それで、どうなるの?」
「あの声が言うんだ。『貴方と魔理沙の合成がもうすぐ終わるから』って」
魔理沙の背中をさすっていた、霊夢の手が止まった。
「貴方は、その夢の中では、魔理沙以外の誰かなの?」
「うん、そうみたい・・・」
「それで、魔理沙と合成、される?」
「うん」

魔理沙は気づかなかったが、霊夢の手には薄く汗が滲み出していた。
心当たりがあった。それが、昔倒した女だったとすると、つじつまが合うような、そんな気が。

「もしかして、その声、赤い服の女?」
「!?」

魔理沙の受けたショックは、パチュリーに示唆された時より酷かった。
普段の魔理沙の面影は完全に消えうせ、怯える少女の涙声で、魔理沙は言った。

「な・・・んで?なんで霊夢も私のゆめのなかわかるの?なんで?」

魔理沙は限界だった。自分はわからなくて苦しんでいるのに、自分の周囲の、それも
近しい者ばかり、夢の中身を知っている。
なのに、自分だけ解らないなんて。

「もうやだよ、おかしくなっちゃうよ、れいむまでやめて、れいむ」

涙声になった魔理沙を見て、霊夢は少し慌てた様子で、魔理沙を強めに抱きしめ直す。
「だ、大丈夫よ。思い当たる節があっただけだから。当たっちゃってた?」
「うん・・・赤いのが私のこと変な名前で呼ぶよ、赤いやつ・・・」
「赤いやつ・・・」

少し沈黙があった。

口を開いたのは霊夢。
「魔理沙、その、赤い服の女の名前、聞きたい?私の当て推量になるけど・・・」

更に長い沈黙があって、ようやく魔理沙が返答した。
「・・・聞きたい。おしえて」

 ・・・

灰皿が飛び、コップが壁に叩き付けられた。
教授がまた荒れているのだ。
また発表が総スカンを食らい、一笑に伏されて帰ってきたのだから憤慨するのは当たり前だろうが、
それももう何度目かはわからない。
彼女の研究がデタラメなどということはない。突飛すぎるというだけなのだが
この世界の住人は、誰もそれを真面目に受け取ろうとしない。

私は教授を必死でなだめる。最近の私の仕事といったらこれだった。
泣き喚く教授の涙が私の服を濡らす。構わない。
だいじょうぶだ、もっとデータを取って、また発表しようぜ。
いつか見返してやればいいだけだ。いつか―

 ・・・

「夢美。岡崎夢美」
「ゆめ・・・み?」
「そう。遺跡の最奥で私と貴方が倒した相手」
「ゆめみ・・・教授・・・」

 ・・・

「うふふふふ、遊びにきたわ~」
客間には、魔理沙がいた。
どうやら彼女もまた、自分と同じように呼ばれて、お茶をしにきたようだった。
あの、無謀な魔法探索行のあと、三人は友人になり、たまにこうして食事や茶会をする仲だったので
私は別に、何かおかしいとか、そんなことは考えもしなかったのだ。

先に反応を示したのは魔理沙だった。
彼女は小さく呻いたかと思うと、そのまま床に倒れこんだ。
「魔理沙・・・魔理沙!?どうしたんだ!」
驚いてカップを落とし、割れ、カーペットを汚したが、それも気にならなかった。
だって、友人が突然倒れてもがきだしたのだ。あの天真爛漫で底なしに健常な魔理沙が。
心配しないほうがどうかしている。
私は魔理沙に駆け寄り、彼女を抱き起こした。顔は青く、呼吸は弱弱しかった。
「まずい、このままじゃ・・・救急車を―」
視界がぐらつき、急激に霞んだ。私は、抱き起こしたはずの魔理沙に重なるように、そのまま・・・

 ・・・

「霊夢」
「なに、魔理沙」
「私は霧雨魔理沙だよな」
「大丈夫よ、そうに決まってる」

全部思い出した。あの時夢美は

いくら観測結果と実験結果を示しても認められることがなかった夢美は
いつしか、以前に"最強の魔法使いを捕獲する計画"が失敗したのが原因であるという妄想にとりつかれ
自分に従順な魔法使いを得ようと計画しはじめたのだ。

私はそれに気づくことができなかった。
気づいたときはもう手遅れだった。
紅茶に毒を盛られた私と魔理沙は
人間合成装置によって、魔理沙の能力と、
私の主観と性格を切り貼りした一人の人間に合成されて
今の霧雨魔理沙が生み出されたのだ。

だが魔理沙は消えなかった。
私が魔法図書館にいる間に顔を出したのはオリジナルの霧雨魔理沙だった。

"貴方は霧雨魔理沙ではないわ"

パチュリーが言っていたのはそういうことだったのか。
よく解った。だが、それは・・・


「嘘・・・だ・・・」
自我を完全否定された魔理沙の目には、もう光がなく、その声は消えそうなほど小さかった。
「私が北白河ちゆりだったなんて、私の中に別人格で本物の魔理沙がいるなんて、そんなの、そんなの」
霊夢は相変わらず魔理沙を強く抱きしめていて
「貴方は霧雨魔理沙。私の友人の霧雨魔理沙よ。他の何だっていうの」

で、でも・・・前の魔理沙だって霊夢の友達だったんだろ?私はその魔理沙じゃないよ、別人なんだよ!」
「気にしない」
霊夢は魔理沙の唇を自分の同じ部分で塞いだ。
もしかすると舌を突っ込んだかもしれない。しばらく間があって、魔理沙はおとなしくなった。
「んっ・・・むぁっ、れいむ・・・」
絡みつく舌が離れると唾液が糸を引き、互いの荒い吐息が漏れた。
「貴方だって同じように私の友人なんだから」
同じことがもう一度繰り返された
「そんなことを怖がったら駄目」

"重要なのは、とらわれすぎないこと"

これでいいのか、パチュリー?

その瞬間の魔理沙は不安も恐怖も感じていなくて、満たされた気分にあった。
ああ、もう、自分がちゆりでもなんでもいいや。
霊夢が認めてくれるなら。
そう思えるほど。

 ・・・

魔理沙は死ななかった
今度はちゆりが死ぬ番だ

 ・・・

目が覚めた。天井は自分の家の寝室のものだ。
今日は悪夢を見ないで済んだらしい。ほっと溜息を吐き出す。
気分のいい朝だった。小鳥が囀り、カラスの声も聞こえる。
湿気を含んだ大気は充分に冷たく、寝起きの妨げはまったく無い。
「ぅ・・・ん・・・」
魔理沙は思い切り伸びをしてから、立ち上がり、洗面所へ向かった。
顔を洗い、歯を磨いていたら、夕べの霊夢との行為を思い出して顔が赤くなった。
鏡の中にいる赤くなった顔に"てへ"と照れ笑いを返してみる。
今日の自分は、魔理沙が自分で言うのもなんだが、やけに魅力的だった。

いつものように食事を用意する。魔理沙は和食派なので、米の他には味噌汁に漬物と質素だった。
漬物の壷を開けたとき、やけに残量が少ない気がしたが、気にしなかった。

空腹も収まったあたりで、蝉が鳴いていることに気がついた。
ほう、今更鳴く蝉もいるんだな。昨日はあんなに寒かったのに。

着替えも終え、今日の行動計画を立てる。
まぁ、何はともあれ博霊神社だろう。
霊夢に昨日の礼をしようと、紅魔館からかっぱらってきた玄米茶を持っていくことにした。

だが、戸棚を開けると、そこに目的のものは見当たらなかった。
茶筒自体はあったのだが、デザインが異なっているし、入っているのは紅茶だった。
「おかしいな?」
もっとおかしいことに、買ったり盗んできた覚えもないティーパックが出てくる。
それでも魔理沙はあまり気にしなかった。どうせ、蒐集品に紛れ込んでいたのが出てきたのだろう。
棚から牡丹餅というではないか。

家を出ようと、玄関まで来た時だった。
「やけに暑い・・・」
昨日は涼しかった。半月も前からそんな具合だったから、魔理沙は服装もそれに合わせていた。
久しぶりに残暑日和がやってきたかな?着替えて行ったほうがよさそうだ。

―そう思ったところで、違和感に気づいた。
着ている服の生地が、薄かった。
そうだ。
自分が今着ているのは夏服も夏服ではないか。
クローゼットの夏服はもうすべて片付けた後だというのに!

魔理沙は驚いてクローゼットまで走った。力任せに開く。
中にかけられていたのは夏服、夏服、これも夏服か!ええい!
秋物は奥に仕舞われていた。もう暫く使わないとでもいうように。
自分が一ヶ月前にそこから引き出したときのように。

不安になった魔理沙は、箒だけを掴んで家を飛び出た。
ドアを開けた瞬間、特有の蒸し暑さが草の臭いと共に鼻腔を満たす。
魔理沙は異常を前に立ち尽くした。

蝉が鳴いていた。
先ほど鳴いていたやつだけではない。これは蝉の大合唱だ。
たまたま暑い日だったから、まだ眠っていた蝉が顔を出した?とんでもない!
ではこの不快指数はなんだ?
蒸し暑さは残暑などというものではない、これは・・・
「真夏だ」
刻一刻と気温が上がっていくような錯覚を覚える。
陽光が夏の日差しを魔理沙の金髪へ投影していた。
「夏は終わったんじゃなかったのか!?」
箒にまたがった魔理沙は、最大の加速で上昇した。

 ・・・

最初は異変かと思い、アリスのところへ駆け込んだ。

「おい、アリス、起きろ!異変だ!」
窓を割って入った魔理沙は、ネグリジェのアリスの肩を揺さぶって起こし、セクハラだとビンタを受けた。

着替えたアリスが、魔理沙を客間に通した。
人形たちがお茶を淹れてくれたが、魔理沙はとても飲む気になれなかった。

魔理沙は、アリスが「久しぶりじゃない、よく眠れた?」などと言ってきたのに違和感を覚えたが
問題の核心に迫るのが重要だったので、それを放置する。
会話の内容は以下のようなものだった。

「貴方、何言ってるのよ。夏になれば蝉が鳴いて暑い、普通じゃない」
「でも、昨日までは―」
「昨日も暑かったじゃない」

魔理沙は我が耳を疑い、その後アリスの正気を疑った。

「な、何を言っているんだ、昨日は―」
「そうね、貴方は久しぶりだから知らないんだわ」

「え?」

 ・・・

つまり丸一年経っていたのだ。
魔理沙は丸一年、季節が一周するまで、ずっと寝ていたのだ。
鏡の中の自分が少し女らしくなっていたことも、茶葉が消えうせて新しくなっていたことも、
着替えが夏服になっていたことも、漬物の残量も、すべては年月の経過によるものだったのだ。

魔理沙は呆然とし、すぐ矛盾に気がついて、アリスに迫った。
「じゃ・・・じゃあ、私が寝ている間、なんで私の家が管理されているんだ?服まで交換されて―」
そこまで喋って、魔理沙はそれがどういうことなのか気付き、絶句した。

誰かが代わりにやっていたのだ。

「そう、貴方のかわりに誰かがやっていたのよ」
アリスは、少し寂しげに視線をそらすと、カップを戻し、上海の頭を撫でた。
「私の、かわりに、誰か・・??」
魔理沙は、本当はもう気づいていた。
だが、あまりに恐ろしすぎて、それを口にすることはできなかった。

「私にとってはね、魔理沙。どっちも魔理沙よ。私の友達の魔理沙。私は昔から居るもの」
アリスの言葉はやけにドライだったが
「あと、ブラジャーくらいしなさい。もう小さくないんだから」
もう魔理沙の耳には届いていなかった。

打ちのめされた魔理沙は、重い足取りで博霊神社へ向かった。

 ・・・

違う。私は北白河ちゆりじゃない。
私は霧雨魔理沙だ。霧雨魔理沙だ。
そうだろ?
紅魔館の霧の異変だって、春が来なかった時だって、月が狂った時だって
霊夢と一緒に異変を解決してきたのは私なんだぜ。
みんな私を魔理沙と呼んでくれたし、好いてくれたり、嫌われたりしたけど
私が魔理沙であることはみんな認めてくれていたもの。
私が魔理沙だよ。そうだよね?一年間別人だったからって
私が私じゃなくなることなんて
そうでしょ?
お願い
そうだと
言って

 ・・・

魔理沙の飛行がふらついていたのは、猛烈な陽光のためばかりではない。
ようやく博霊神社にたどりついた魔理沙は、一年前に自分が寝転がっていた縁側に降り立ち
障子を開けて霊夢の名を呼んだ。

霊夢もやっぱり、少し成長していた。
より女らしくなり、綺麗になっていた。
でも、それは、自分がこの一年を毎日一緒にしていたら気づかない変化だったかもしれない。

霊夢は魔理沙を見て、少し目を丸くし、次いで一瞬目を伏せた後で、こう言った。

「久しぶりね」

それは悲しそうな顔だった。
こっちが何を考えているのか、全てお見通しらしい。
やめてくれ、そんな顔をしないでくれよ。

「ああ・・・久しぶりだ」

自分の声が震えているのが解った。
そうか、きっと今とんでもない顔をしているんだろう。見透かされて当然か。
なのに、私の喉からは、消えそうな声しか出てこない。

「霊夢・・・どうしよう、私消え・・・」

それを遮るように、霊夢はこう言った。

「おかえり。待ってた」

魔理沙は霊夢に飛びついた。




霊夢の腕の中は、一年前のあの時と同じように心が安らいだ。
さっきまでは、一年前を昨日だと勘違いしていたのに、事実を告げられてから
霊夢とのあの行為が、ひどく過去のものであるように感じた。
「なぁ、霊夢」
魔理沙が口を開いた。
「何、魔理沙」
「・・・ん・・・なんでもない」
「そう」
そんな会話ばかり何度も続いた。
霊夢も文句など言わなかった。
二人とも、もう、それ以上何かを必要だとも、何かできるとも思っていなかった。

魔理沙はもう泣くこともしなかった。
泣く間も惜しかった。
今はただ、霊夢と一緒にいたかった。
これが最後かもしれない。
この次は、無いかもしれない。
眠りについたら、もう、永久に自分以外の魔理沙になってしまうかもしれない。
怖かった。
そうなる前に、一秒でも長く、霊夢とこうしていたかった。
自分の大切な親友と。

 ・・・

「霊夢、お願いしていい?」
「なぁに?」

私は消えるのか?

「忘れないで」
「解ってる」

消えていなくなるのか?

「絶対だぞ」
「絶対よ」

北白河ちゆりは、霧雨魔理沙にはなれなかったのか?

「約束して」
「そうね、約束」

 ・
 ・・
 ・・・

冬がきて、夏がきた。
更に何度か、それが繰り替えされた。


あの魔理沙は、もう、どこにも居なかった。


パチュリーの推測によればこういうことだった。
"自分が誰なのか気付いてしまったちゆりは、魔理沙たりうることができなかったのだ"
霊夢はそれに納得しなかった。パチュリーも、感情ではそれを否定していた。
あれは、間違いなく魔理沙だったのだから。

魔理沙はあいかわらず「うふふふ」と笑い
皆もそれを当然のように受け止めていた。
それもまた、間違いなく魔理沙だったからだ。

長い長い時を生きる妖怪たちからみれば
2年や3年などほんの一瞬のできごとでしかない。
皆の中にあった、あの魔理沙の記憶は、
新しくそして古い魔理沙との付き合いを重ねる中で
だんだんと風化し、飲み込まれ、消えていった。

 ・・・

夏の終わりが近づき、風が涼しくなってきた。
夜風がそろそろ肌寒く、開いた障子から入り込んでくる。

霊夢は決して縁側の障子を閉めなかった。
いつか、いつも彼女が寝そべっていたこの縁側に
悪戯っぽい笑みを浮かべて
ふらりとあの魔理沙が降りてくるのではないかと
そう感じるのだ。

「なぁ霊夢、私は―」

忘れなどするものか。約束したのだ。

「―霧雨魔理沙だよな?」

ええ、貴方は霧雨魔理沙よ。
決まってるじゃない。

霊夢は、マスタースパークのスペルカード・・・もう古びてボロボロになったスペルカードを
大事そうに手に取り
飽くことなく眺め続けた。











It doesn't continue.










 #
「これがこの可能性世界の魔理沙ね」
これで全て言い訳できる。岡崎教授は偉大である。


最初はただ魔理沙が発狂するようなのを書きたかった。
でも、幺樂団の歴史を聞いていたら気づくとこんなものが出来上がっていた。

霊夢が妙に優しい?
霊夢さんはきっと
魔理沙との別れが避けられないって
途中から知ってたんだよ
漠然と

新作ではキャラが刷新されるらしい。
願わくば、あの愛らしい魔理沙が
別人になってしまうことのありませんように













  • 旧作キャラ最初わかんなかったわ
    この霊夢がいいな、ラストぐっとくるわ -- 名無しさん (2008-06-20 01:26:33)
  • ホラー?

    ギャグ!?(うふふ魔理沙

    百合…だと

    まさかの感動←今ここ -- 名無しさん (2009-01-10 12:07:41)
  • ちなみにすでに突っ込まれてると思うが
    低温火傷の意味と漢字が間違ってます -- 名無しさん (2009-01-10 12:11:17)
  • 指摘感謝。実は2年以上誰からも突っ込まれなかったよ。
    もうこのままにしておいたほうがいいかしら・・・ -- 名無しさん (2009-01-14 04:45:04)
  • 沁みるなあ -- 名無しさん (2009-09-05 12:20:56)
  • 何かが思考回路に来た。
    ヤバいねコレ。 -- 名無しさん (2009-10-14 23:54:16)
  • これはいい -- 名無しさん (2010-04-02 17:23:06)
  • マリアリうふふかと思ったら… -- 名無しさん (2010-04-03 04:32:34)
  • ちゆりと夢美が魔理沙? -- 名無しさん (2010-04-19 16:37:44)
  • 森博嗣っぽくていいなあ。


    透明感があって、
    それでいて白く霧がかかったかのような世界観に惚れ惚れしました。 -- 名無しさん (2010-11-03 00:25:50)
  • 悲しい結末だなぁ。
    ところで教授はどうなったんだろう。 -- 名無しさん (2011-08-31 22:48:31)
  • すごい感動した。 -- 名無しさん (2014-11-01 21:50:12)
  • なんかうるっときた -- まぁこ (2015-11-15 14:38:49)
  • ここまで綺麗にまとまるとは・・・ -- 名無しさん (2015-11-16 00:41:00)
  • 魔理たん!!
    あ、
    博霊じゃなくて
    博麗ですよ! -- 名無しさん (2016-02-26 22:16:03)
  • 真面目なおいどんはツッコミまくりたい話だが、
    内容は良いから黙っておくのぜ -- キング クズ (2016-06-22 03:56:37)
  • 次に起きた時は霊夢はもう既に他界してて自分も老衰で死ぬ寸前で発狂する魔理沙が見たい -- 名無しさん (2017-06-29 09:06:13)
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