364 名前:名前が無い程度の能力 投稿日:2006/09/21(木) 11:47:23 [ jfprOy1Y ]
チルノからカエルを奪いたい。
失って初めて、カエルが大好きだった事に気づき、欲求不満に壊れるチルノ。

<注> 物語の一部に、作者による勝手な妄想設定が含まれております

   お読みになる際には御注意下さい 

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 春。
 紅魔湖の畔。
 満開の花畑の中心に二人の妖精が座っていた。
「できたっ♪」
 普段は大人しい大妖精も、春の陽気にあてられたせいか、いつもより活き活きとしていた。
 花や草で編み物を作っている。

 それとは対照的に、傍らに座っている氷精には、いつもの溢れんばかりの元気が無かった。
 ピンと六方へ伸びているはずの背中の羽根も、今は力無く垂れている。

「~♪」
 首飾り、腕輪、バスケット。
 大妖精は慣れた手付きで色々な物を編み上げていく。
「はい、チルノちゃんにあげるー」
 作った花冠を友人の頭にそっと被せてあげる。
 しかし、氷精の少女は俯いたままで反応が無い。
 下げた視線の先、花畑の一点をぼんやりと見つめている。

「……」
 その様子に、少しだけ寂しい眼をした大妖精。
 だが、気を取り直すかのように、再び何かを編み始める。
 草蔓をヘアバンドの形に編み、そこに白い花びらを並べるように挟んでいく。
 紅い館で働くメイド達が頭部につける、ホワイトプリムを模した物ができあがる。
 でき上がったそれを自らかぶり、立ち上がる。
「ほら、紅魔のメイド長っ」
 びしっと彼方の方向へ、ナイフを突きつける動作の真似をしてみせる。

 それでも、やはりチルノは上の空。
 友人を元気付ける事に失敗し、大妖精はしゅん、としおれる様に座り込んだ。
 心配そうにチルノの顔を覗き込む。
「……やっぱり、蛙がいなくなったから…?」
 その言葉に、チルノはハッとして顔を上げ、
「べ、別にそんなんじゃないのよ? 蛙で遊べなくて、落ち込んでる訳じゃないんだからっ」
 慌てるように否定の意を現した。

「でも…」
 呟いて、大妖精はチルノの手元に視線を落とす。
 その手には小さな氷の塊があった。
 内部には草蔓で編まれた、不器用な形の、蛙を模したらしい物体が入っていた。
「あ、こ、これは違うの、何でもないのっ」
 彼方へ氷塊を投げ捨て、わたわたと手を振る。
 どうやらチルノは全く無意識の内に、草で蛙の小物を作り、それを凍らせていたようであった。

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365 名前:名前が無い程度の能力 投稿日:2006/09/21(木) 11:57:44 [ jfprOy1Y ]
 夜桜の宴は、たけなわに差し掛かっていた。
 神社の境内に集まった大勢の人妖達が、思い思いに騒いでいる。
 篝火に照らされて、幾つもの影が石畳の上に伸び、揺らめいていた。
 その喧騒の中心から少し離れた場所に、チルノはぽつりと座っていた。
 あれから一週間。
 異変――というのも大仰であろうか――は、一向に解決の兆しを見せない。
 蛙の声も、姿も、まったく消えたままであった。
 巫女の勘も、空回り。
 しかし、特に害も無ければ、誰かが困っている訳でもなかった。
 生態系バランスへの影響も懸念されたが、それ以前に、蛙を消して何の得があるというのだろうか。
 誰もそれがわからない。
 チルノ自身も方々を飛び回ってはみたが、事態はまるで好転しなかった。

「……」
 手の中の草餅を、ひとくちかじる。
 口中に広がる餡子の甘味も、チルノを幸せな気持ちにさせてはくれなかった。
 ただ、柔らかくて、冷たい、緑色の、カエルのあの感触を思い出す。
 食べ物だけではない。
 今では、どんな遊びもチルノを満たしてはくれなかった。
 自分がこんなにもカエルに執心していた事に、チルノは戸惑いすら感じていた。

 のっぺりとした愛嬌のある顔と、鳴き声。
 手のひらに乗る、ほど良い小ささ。
 ぷにぷにとした柔らかな触感。
 力を入れて握ると、潰れてしまいそうになる脆さ。
 それを凍らせ、水につけて、生き返らせる。
 自身に何が起きたのかも判らない、弱く、小さな命。
 それを掌握し、支配する。
 そこに湧き上がる、ほんの小さな優越感、ほのかな嗜虐心。
 そして、蘇生に失敗して蛙が砕け散った時に胸の奥にジワリと生まれる、何とも言い現せないあの気持ち。

「あ……」
 いつの間にか、手の中にカエルが乗っていた。

 …が、すぐに錯覚である事を理解し、うなだれる。
 チルノはまた無意識に、手の中の緑色の草餅をこねて、蛙を形作ってしまっていた。
「…………。」
 無言で、草餅の蛙と見つめ合う。
 チルノの手に輝く凍気が集まって、草餅の蛙は凍った。


「チルノちゃん、どこ?」
 大妖精はチルノを探して宴会場を歩いていた。
 日ごとに活力を失っていく友を見るのは辛かった。
 そんな時、夜花見の開催を振れ回っていた魔理沙にたまたま出会い、誘いを受けた。
 気分転換をして元気になって欲しい、そう思って、参加を渋るチルノを宴会に連れて来たのだが、その姿が見当たらない。

「どこに、いッ………!?」
 不意に目を落とした先にソレを見て、大妖精は立ち竦んだ。
 茣蓙の上の重箱の中に、緑色の蛙がびっしりと詰まっていた。
 何匹かは重箱の中から茣蓙の上に飛び乗っている。
「……?」
 だが、様子がおかしい。箱の中でひしめく蛙達は、ぴくりとも動かない。
 暗い闇の中、大妖精が目を凝らして重箱を見つめていると、背後から声がした。

「ああ、ここに有りましたわ」
 声は紅魔館の瀟洒な従者のものであった。
 食べ物を調達しに来たのだろう。
「まあ、可愛い。 今回はまた、凝った形の草餅をこしらえたのねえ」
 重箱の中身を見て、一緒に来ていた白玉楼の庭師に問いかける。
 しかし、庭師は困惑の表情を浮かべていた。
「確かにその重箱は白玉楼の物ですが……私は、このような形の草餅をこさえた覚えは…」
 そのやり取りを聞きながら、ふと、大妖精は視界の端に光る物を見つけた。
 近寄り、しゃがみ込んで見る。
 それは氷付けにされた、草餅の蛙だった。
「チルノちゃん…」
 真っ黒な煙が膨れあがるように、不安が、大妖精の心中に広がっていった。


366 名前:名前が無い程度の能力 投稿日:2006/09/21(木) 11:59:02 [ jfprOy1Y ]
 氷を、地面に叩きつけられる音が響く。
「…ダメっ」
 バッタを凍らせてみた。
 カエルと似てて、緑色で、飛び跳ねる。
 でも、だめだった。

 また、氷が砕け散る音。
「……違うっ」
 イモリを凍らせてみた。
 冷たくてぬるぬるしている感触はカエルに似ている。
 でも、違った。

「………っ」
 カマキリを凍らせる。
 また、砕く。

 チョウを花ごと凍らせる。
 これも、砕く。

 ヘビを掴んで凍らせる。
 砕く。

 頭を出したモグラを地面ごと凍らせる。
 踏み砕く。

 ネズミをつまみ上げて凍らせる。
 木に叩きつけて砕く。

 木に止まっているキツツキを凍らせる。
 ツバメを撃ち落して凍らせる。
 逃げるリスを凍らせる。
 タヌキの頭を鷲づかみにして凍らせる。
 湖上のカモを水面ごと凍らせる。
 ヤモリを。
 カッコウを。
 コウモリを。
 アライグマを。
 チドリ。
 ヤマアラシ。
 キツネ。
 ヤマネコ。
 オオカミ。
「…ぅ……ぐっ……!」
 全部、叩きつけて砕く。
 だめ。全部ちがう。
 全然満足できない。
 もうどれくらいの時間が経ったのかもわからない。
 ここがどこなのかもわからない。
 ずっと、カエルの代わりになるモノを探し回っていた。
 でも、見つからない。
「っっあぁあアアァああッ!!!」
 凍らせた野うさぎを持ち上げて、思い切り地面に叩きつけて砕く。
 なんか顔に湿ったモノがついたけど、どうでもいい。
「はあっ……はっ……はぁっ……」
 ぜんぜん見つからない。
 どこ……、どこに………。



「……ッ! ち、チルノちゃん………っ!!」
 チルノの行方がわからなくなってから、大妖精は幻想郷中を探し回っていた。
 そうしてようやく見つけ出した友人の、変わり果てた後ろ姿を見て叫ぶ。
 その呼びかけに反応して、身体は半身のまま、チルノの頭だけがゆっくりと振り向いた。
 その酷い状態の顔を見て、大妖精は絶句した。
 薄汚れた顔面は蒼白で、何かはわからないが嫌な想像をさせるモノが乾いてこびりついていた。
 恐らく、何日も寝ていないのだろう。眼下は落ち窪み、真っ黒なクマができていた。
 顔をこちらに向けてはいるが、濁った目はどこを見ているのか判らない。
「……だぃよぅせい…?」
 喉の奥から絞り出すように、かすれた声を出した。


367 名前:名前が無い程度の能力 投稿日:2006/09/21(木) 12:00:39 [ jfprOy1Y ]
 大妖精は、どう言葉をかけていいのかわからなかった。
 目の前の友人を想う気持ちと、目の前の友人を怖いと思う気持ちが、ない交ぜになり
 ただ開けたままの口から、言葉を発せずに立ち竦んでいた。

 不意に、チルノの半開きだった口が、奇妙な形に歪んだ。…笑ったらしかった。
 半身だった身体も、のっそりと大妖精の方へ向けた。
 そのまま、おぼつかない足取りで大妖精の方へ歩き出す。
 ごりっ、と足元に散らばった氷片を踏み砕く音がした。

「……ひっ」
 その異様に、身を強張らせて半歩後ずさる大妖精。
 そのまま逃げ出してしまいたかった。
 だが、胸の前で両手を強く握り合わせ、恐怖心を飲み込んで踏み止まる。
「か、帰ろ…? ね、チルノちゃん…」
 うわずった声で、どうにかその言葉だけを絞り出す。
 それが聞こえていないのか、何の反応も示さずにチルノが近づいて来る。
 すぐ近くまで来たチルノは、両手で大妖精の肩を掴んだ。
 大妖精はビクッ、と身体を強張らせる。
 チルノが、息がかかる程に顔を寄せて、囁くようにしゃべる。
「ね…だいよぅせぃ、かえる、しらない?」
 勢いよく首を左右に振る大妖精。
「こういうふうに、みどりいろなの……」
 言いながら、肩を掴んでいた両手を引き上げて、大妖精の髪を撫で上げる。
 大妖精は、身体を硬直させたまま動けない。
「さわるとね、やわらかいの、こんなふうに……」
 髪を撫でていた手が降りてきて、今度は大妖精の両頬に触れた。
「ね、しらない…?」
「…っ、……っ」
 首を振ることもできずに、細かく震える大妖精。
「ちからをいれるとね…へんなこえでね、なくの…」
 頬を包んでいた両手が首にかかり、力を込めて締め上げてくる。
「…ぅ…ご、ぢ…るのぢゃ…や”、め”……げ、ごぉっ…」
「…あ………そうだよ、そう、こんなかんじのこえだよ…」
 チルノから逃れる為に大妖精は暴れ―――暴れようとして、愕然となった。
 いつの間にか両足が地面に「凍りつけられて」いて動けなかい。

「……みどりで、やわらかくて、へんなこえでなくの
 やっと……やっとみつけた……あたいのッ! かえるッ……!!」
 チルノの顔が凄惨な形に歪む。
「ち、ちがっ…わたし、かえるじゃ、ないよッ…!」
 もう遅かった。
 チルノの手が触れている所から、大妖精の体の表面が凍り付いていく。
「ぅ…ぁ…」
 氷が軋む時のあの音が、妙に大きく耳に響く。

「だいじょうぶだよ…こおらせたあと、ちゃんとみずにつけて、もどしてあげるから
 もとにもどったら、またこおらせて…、そうしたらまた、みずにつけて……」


 もう、はなさないよ…だれにもわたさない……

 あたいの かえる…












  • チルノこええ・・・ -- 名無しさん (2009-04-15 23:11:23)
  • これはいい大ちゃんいぢめ -- 名無しさん (2010-11-04 16:09:49)
  • 初期の名作だと思う -- 名無しさん (2010-11-05 04:36:15)
  • 幻想郷中のかえるが・・・
    チルノやり過ぎ。
    -- 名無しさん (2010-11-05 12:04:41)
  • 精神的にぶっ壊れてくのがいいね!! -- 名無しさん (2015-03-26 04:29:13)
  • フロッグマンとか確実にアウトだな


    お〜れは〜両生類〜
    小さい頃は〜エラ呼吸〜
    ブギ〜 -- キング クズ (2016-07-10 06:53:00)
  • これは名作だわ -- 名前が無い程度の能力 (2016-07-24 10:29:53)
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