352 名前:名前が無い程度の能力 投稿日:2006/09/19(火) 21:10:07 [ V76gV4aE ]
注意:人格改変要素有り

幻想郷中から全ての酒が消え、新たに酒を造ることもできなくなる、という『異変』が起きる
→萃香の瓢箪からも酒が出なくなる
→酒が飲めなくて壊れる萃香

―――――――――――――――――

萃香は激怒していた。
あれから『異変』は解決しなていない。
酒だけが消えるという自然現象など有り得ない。
ならば必然的に、何者かの手による仕業という事になる。
その何者かに、してやられた、という気持ちがした。
古来より、好物や生贄を奪われた妖怪は怒り狂うものだが、それはこの子鬼の少女とて例外では無かった。
その怒りを拳に溜めて震わせる。
「ふざけ……るなッ………」
見えない何者かにぶつける代わりに、振り上げた拳を地面に叩きつける。

幻想郷が、揺れた。
やや遅れて、地の底が唸るような不気味な音が鳴り響く。
円形に陥没した地面、というより、たった今造られたばかりの広大な「盆地」の中心。
舞い上がる土煙の中に、禍々しい二つの眼光。
「この私を怒らせたこと……必ず後悔させてやる!」

  *

酒を奪った奴は、この幻想郷のどこかに居るはず。
奪われた酒も、この幻想郷のどこかに有るはず。
それならば―――
「私の目から逃れられると思うな…」
これまでに無い程に、萃香は<<広がった>>。
ノミの子一匹すら見逃さない気概で<<広がって>>いった。
激しい怒気を含んだ霧が、幻想郷の隅々にまで満ちていく。

―――神社の巫女が、掃き掃除の手を止めた。
―――魔法の森の人形使いが、人形を縫う手を止めた。
―――湖の氷精が竦み上がり、氷付けの蛙を手から落とした。
―――人里では、余りに強い「鬼気」に当てられて、何人もの人間が倒れた。

幻想郷と外の世界を隔てる、最端の結界らしきものに触れるまで萃香は<<広がりきった>>。
今、萃香は幻想郷その物になっていた。そこに在る全ての事物を把握していた。
だというのに――
「どこだっ… どこに居るっ…!」
酒は、見当たらない。 奪った奴も、見つからない。
「ぐ…く……」
やり場の無い怒りだけが募る。


ふと、広がった萃香の霧が、里の人間の会話を拾った。
―――本当に困った事だ…
―――酒という酒を隠しちまうなんて…
―――悪戯好きの妖怪の仕業に違いない…
―――それにしても悪質だ。今ある分を奪うだけならまだしも…
―――新しく酒を造る事もできなくなるなんて…
―――味噌や醤油は造れるのに不思議な事だ…

そうだ。無いのならば、造ればいい。
だが、それができないとはどういう事か。
同じ発酵の過程を経る物なのに、どうして酒だけが造れなくなっているのか。

萃香は霧から元の形に戻り、神社へ駆け込んだ。
「あっ、萃香、さっきのアレは何なの…」
険しい表情で言葉をかける巫女に答えず、神社の蔵から酒造用の壷を勝手に幾つか持ち出す。
「ちょっと、人の話を聞いてるの!?」
構わずに、萃香は自身の能力を振るう。
蜂蜜、穀物、果実、乳製品、知りうる限りの酒の原材料を萃める。
萃まったそれらを壷の中に入れ、通常の酒造りと同様の処理を施す。
そして、萃香は自身を霧よりも小さな粒状に変える。
モノを構成している粒と同じくらいに小さくなって、壷の中の変化を観察する。

それから、どのくらいの時間が経ったのかわからないが、その変化が訪れる。
その瞬間を萃香は見た。
小さな小さな生き物達の能力によって、小さな「米の粒」が、小さな「酒の粒」に作り変えられるのを。
しかし、「米」が「酒」に生まれ変わった瞬間。
両者の境界を踏み越えたその瞬間に、酒の粒は、消えていた。

「…どう…してッ!!」
酒は、酒となったその瞬間に、この世から消え失せているらしい。
「きょう…かい…、 境界………!」
そうだ。こんな事ができるのは、アイツしかいない。

  *


353 名前:名前が無い程度の能力 投稿日:2006/09/19(火) 21:11:13 [ V76gV4aE ]
「こんな悪戯ができるのは紫ッ! あんたしかいないじゃないの! 出てきなさいよッ!」
文字通り、鬼気迫る形相で迷い家に怒鳴り込む萃香。
「紫様は今、眠っておられます。申し訳有りませんが、お引取り願えないでしょうか…」
困惑気味に対応する藍。その腰にしがみ付いて怯える橙。
だが、主の友人とあらば、無碍な対応をする事もできない。
「ああ、そうかい。だんまりを決め込もうって腹づもりかいッ。
 それなら…自慢の式どもを痛めつけてやれば、主も起き出してくるかもしれないねぇ!」

そこで、無用の争いを避ける為に迷い家ごとスッポリとスキマに避難させる紫。

―――酷い妄想ね。私は知らないわよ。
   ところで、貴方に良い話をしてあげる。
   人間が患う慢性アルコール中毒というものは、攻撃的、自己中心的な人格変化を引き起こす。
   様々な事件や事故・問題を引き起こしたりして他人に迷惑をかけ、信頼関係に亀裂を生じさせ、
   社会的・人間的信用を失わせるって話。 貴方、今の自分の顔を鏡で見てみたらどうかしら?

何も無くなった平原に取り残された萃香に、紫の声だけが響いていた。

  *

神社に戻って来た萃香。
その顔に、かつての愛らしい少女の面影は一片も残っていなかった。
凄まじい形相。荒い呼吸と共に殺気を撒き散らすその様子に、霊夢は息を呑む。
その霊夢の姿を視界に捕らえると、不意に、すぅっと萃香の凶面が穏やかなものなった。
ふらふらと近づいて来る。
「……そうだ、れいむ。そとのせかいになら、おさけ、まだ、あるかもしれないよね…?」
強張った表情の霊夢の両肩を、がしっと掴む萃香。
「ね、そと…いかせて? すこし、だけ…、すこしだけだから、さ…。 おさけ、みつけたら…すぐもどってくるから、ね?」
今は、何とも表現できぬ泣き笑いの表情で、そう嘆願する
「………ごめん、それは、できないの…」
複雑な面持ちで告げる霊夢。
「今も…他のみんなが異変の主犯を探している所だから…私も少し休んだら、また調査をしに行くから…
 だから、それまでもう少しだけ我慢して…ね?」
がっくりと、萃香が俯く。
「なん…で…」
霊夢の肩を掴んだまま、震えている。
「なんで…だめなのっ…。 ねえぇッ、そとっ、だしてよォ! おさけっ、いま、のみたいのォ! 」
「っ! …痛っ!」
巫女装束の肩口に、萃香の五爪が食い込み、白い上袖に赤が滲む。
泣き笑いの顔が一転、凄惨な怒りの形相へと変わっていた。
カッと一杯に開かれた両目は焦点が定まっていない。
「だしてっ! そとっ! だしてよ! おねがいだからっ! なんでもいうこときくからァ!」
かひゅ、というかすれた呼吸音と共に、口の端に泡を吹きながら絶叫する。
鋭過ぎる犬歯――鬼の牙が剥き出しになっている。
「ちょ…っ、萃香、離し……てッ!!」
霊夢は咄嗟に軽い霊撃を放って自分と萃香の身体を引き離す。
弾かれて石畳の上に倒れた萃香が、今度は肩を小さく上下させて笑い出した。
「くくっ…そ…か…。 れいむの、じんじゃ…、くははっ、おさいせん、ないから…」
「!?」
幽鬼のように、ふらりと立ち上がる。
「だから、おさけ、かくして、わたしを、おかしくして、たいじ、したいんだね…?」
「なっ、そんな事…! 萃香、何を言ってるの!?」
途端に、吐き気を催すような殺気の塊が膨れ上がり、絶叫と共に霊夢の全身に吹き付けられる。
「なら、いいよッ!! わたしはあんたをころしてちからづくでも、そとに、でるッ!!!」
「……!!」

  *


354 名前:名前が無い程度の能力 投稿日:2006/09/19(火) 21:15:48 [ V76gV4aE ]
萃香の手から、とてつもなく巨大な気弾が一発、高速で打ち出される。
殺す為の弾であった。
どう見ても避けられないその巨弾を、霊夢は結界で受け止める。
あまりの威力に、結界ごと空中へ押し上げられる。
結界が、みしりと悲鳴を上げる。
巨弾の威力を八方へ散らせてやり過ごした霊夢はすぐに、
――すぐに、そのまま結界で自身の周囲を包んだ。
次の瞬間、立方体の結界内部は真っ暗になり、何も見えなくなる。
結界の外側の表面には、<<蟻の様に細かくなった萃香>>が無数に、びっしりと、張り付いていた。
ソレらが陽の光を完全に遮っているのだ。
狙いは恐らく、霊夢の体内に入り込み、内部からそのまま――。

幾千幾万の萃香だったモノの怨声が、暗く狭い結界内に反響する。
ソレらの押し潰そうとする圧力に耐えかねて、みしっ、と結界が軋む。
霊夢の額に一筋、汗が伝う。
表面を蠢く無数の黒いものに覆われた立方体が、また軋み音を上げて小さく縮む。

突然、萃香に覆われた結界の、更に外側の周囲が、立方体の形に<<ズレ>>る。
霊夢を包んだ小さな結界を、二重に包み込む形で、もう一つの大きな立方体の結界が現れていた。
「内」と「外」。 二重に張られた結界の隙間に、萃香の群体は挟まれる形となった。
何の前触れも無く空間に裂け目が生まれ、そこから霊夢が石畳の上に降り立つ。
次の瞬間には、先程まで霊夢の入っていた内側の結界が押し潰されて割れる音が響いた。

霊夢は額の汗を拭い、中に萃香を捕らえたままの結界を縮小させながらゆっくりと地面に降ろす。
元の形に戻った萃香は結界の内壁に両手の爪を立て、中から霊夢を睨み上げていた。
「だせっ! ここからっ だせ! ころしてやるっ ころしてやるっ!」
結界の壁を引っ掻き、叩く。 それを霊夢は、色の無い目でただ見つめていた。
「だせぇ! だしてっ おねがい、だか…らっ だして…ください……」
やがて怒号が嘆願に変わり。
「ねぇ、お”ねが…ぃ…だから、お”さけ、のま”…せて、よ…」
嘆願は嗚咽に変わる。涙を流しながら、力なく言葉を吐く萃香。
霊夢は何も言わない。表情も無い。
「ぅっ…ぐ、 ざ、け…かひゅ…の”ま”…せ”…て」
そして、萃香は結界の内壁にもたれたまま、ぐったりとして動かなくなった。
それでも唇だけは微かに動いて、何かを呟いていた。