※オリジナル設定に注意!



「マスター……スパァーーーークッ!!!」

少女の手から――正確には手に持った八卦炉から――放たれたレーザーが、夜空を一閃した。
目の前にいたもう一人の少女は回避行動をとりつつ、反撃の準備にかかっていた。
ここは博麗神社、幻想郷の最東端に建っている。
その社の前で、普通の魔法使いと神社の巫女が熾烈な戦闘を繰り広げていた。

「イリュージョンスター!」
「封魔陣!」

「スターライトタイフーン!」
「夢想妙珠!」

魔理沙が攻撃しては霊夢が防ぎ、霊夢の攻撃を相殺するように魔理沙が進撃する。
本来なら防ぐ霊夢に疲れが溜まるはずだが、霊夢は全力を出して戦っていないので疲れが少ない。
使用しているスペルカードがその証拠だ。

「おい霊夢ー、もう少し強いの撃ってくれないと魔理沙さんが退屈しちゃうぜー!?」

イベントホライズンを撃ちながら魔理沙が煽る。

「うるさい、疲れたくないの!二重弾幕結界!」

「なら私が勝っちまうぜ?ドラゴンメテオ!!!」

魔理沙は割と本気で攻撃する。
友人故に無意識の手加減はあったが、人里に向けて撃てば半分は殲滅するような攻撃だ。

「面倒なの撃ってきたわね……お望みの物よ!八方龍殺陣!」

これまでの軽い弾幕では防ぎ切れないと悟った霊夢は、かなり強めの一撃を放った。
友人故に無意識の手加減はあったが、人里に向けて撃てば人口をゼロに出来るような攻撃だ。






かくして、勝負は決した。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……疲れたくないって言ってるのに……」

鳥居の影の先端に霊夢は降り立つ。

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……やっぱり、お前は、強いな……」

御社の入口付近に疲れ果てて座り込んだ魔理沙を見据えて、

「ん、ふはぁ~……最近なんで夜中にも来るわけ?」

欠伸をしながら霊夢は訊く。
実はここの所、子の刻を過ぎてから魔理沙がやって来ることが増えていた。
今日もそうだった。
箒の風切り音が聞こえる度霊夢は起こされ、まともに眠れないでいた。
それでも完全に追い払わなかったのには理由がある。
巫女として生きていく中で初めて出来た親友を失いたくないという思いが、「追い払う」という選択肢を排除していたのだ。

「なんでって……都合が合わないんだよ、忙しいし」

はあー、と霊夢は大きく溜め息をつく。

「私も眠いの。都合の合う時でいいから、朝か昼にしなさい」

命令口調ではあるが、魔理沙はちゃんとその真意を読み取った。

「ずっと私の事を待っててくれるってことか。そいつは有り難いな」

「そ、そういうことじゃなくてね……」

予想通り、霊夢の顔がどんどん紅くなっていく。
湖畔の館くらいまで紅くなった頃、魔理沙は箒に跨った。

「それじゃな、霊夢。明日も来てやるぜー!」

「夜には来ないでよー!」

霊夢にとってこれが最上級の見送りである事を、魔理沙は熟知していた。












翌朝。
霧雨魔法店の扉から魔理沙は出てきた。
普段の格好とは違って、今はクリーム色の寝巻を着ている。

(どうやったらいいんだろうか)

日の出前の薄暗い空を一直線に進む。
やがて、その直線状にモダンな家が見えてきた。
箒から降り、窓から中を覗き込む。
カーテン越しでよく見えないが、どうやら起きて間もないようだ。
玄関まで歩き、ドアノブに手をかける。
何の抵抗もなくドアは開き、招かれざる客は侵入に成功した。
そしてそのまま迷うことなく寝室へ歩みを進める。
ドアを1回ノックして開け、中の少女に声をかける。

「アリス―、邪魔してるぞー」

「ん……魔理沙、邪魔するならあのドアから帰るのをお勧めするわ」

「勧めてもらって悪いが、生憎私はそういう趣味じゃないからな。」

「はいはい。で、また訊きに来たわけ?」

何とも気怠そうにアリスが尋ねる。
実はここの所、日の出前に魔理沙がやって来ることが増えていた。
今日もそうだった。
枕元で声を掛けられる度アリスは起こされ、まともに眠れないでいた。
それでも完全に追い払わなかったのには理由がある。
魔女として生きていく中で初めて出会った魔女志望の少女と打ち解けたいという思いが、「追い払う」という選択肢を排除していたのだ。

「ああ。魔法の強化ってどうすれば手っ取り早く出来るんだ?」

「そんな事知らないわよ。そうね、触媒を変えてみたらどうかしら?」

軽い提案ではあるが、魔理沙はその姿勢を快く思った。

「孤独を愛する奴が人の悩みを真剣に考えてくれるんだな、嬉しいぜ」

「ち、違うってば……」

予想通り、アリスが手で顔を隠してどんどん俯いていく。
彼女のカチューシャと垣間見える肌の色が等しくなった頃、魔理沙は箒に跨った。

「それじゃな、アリス。明日くらいにもう一度来るかもだぜ」

「言っておくけど違うんだからね!」

アリスにとってこれが最上級の照れ隠しであることを、魔理沙は熟知していた。












その日、魔理沙は久々に人里に赴いた。
蓄えの食糧が無くなってきたので、その補充のためにだ。
いくら茸が好物と雖も、栄養価が偏らないようにインターバルが必要だった。
ついでにアリスの提案である新しい触媒を探すことにした。
とはいえ、最初はメインの食べ物屋。
まず米屋に行った。

「おーい、店長、米無いかー?」

「ないわけねぇだろ嬢ちゃん、しっかり売ってるよ……ってあれ?」

そばに行ってオーダーを伝えようとしていたが、遮られた。

「嬢ちゃん、もしかして霧雨魔理沙か?」

おかしい。
特に何もしていなかったのにもかかわらず、何故か警戒を込めてフルネームで呼ばれた。
心に妙なくすぐったさを覚えながら質問に答える。

「ああ、私は魔理沙だけど」

その瞬間。


店長の両手が魔理沙の肩を強く押し叩いた。
思い切り押されたのでバランスを崩して尻餅をつき、さらに軽く頭を打つ。
持っていた箒がカランと乾いた音を立てて倒れる。
魔理沙が眼を開けると、店長は出刃包丁を持って後ずさりしていた。

「いったぁ……なんだよ店長、客人を押し倒すサービスなんていらないぜ」

異常な店長の状態に気付きつつも立ち上がる。

「殺し屋……殺し屋……」

「え、殺し屋?私がか?でも私は誰も殺してなんかいな」

「うそをつくなッ」

「ヒィッ」

恐ろしい剣幕で怒鳴ってきたので、少したじろいだ。
その隙にと、店長は怒鳴り続ける。

「俺の子を返せ!お前が殺したんだろうが!
俺はしっかり見てたんだぞ!手を繋いでいた息子がお前のその光線で焼かれたのを!
その光線で息子だけじゃない、皆を焼いているのを!!!」

「ち、違う、私は、そんなことしてない!
大体いつなんだよ!人里に来ること自体久しぶりだって言うのに!」

「昨日の夜、一昨日の夜、一昨々日の夜もだ!
夜祭りの楽しみを、息子を奪って、許されると思ってんじゃねぇぞ!!!」

「それなら違う!その時、私は霊夢と勝負してたから……」






あれ?
勝負?






魔理沙は、勝負の時の記憶を探った。
はじめは境内裏に霊夢を誘った。それから互いに弾幕を撃ち合った。
やがて霊夢の弾幕がやんで、こちらが主導権を握った。
社のカベを蹴り加速をつけ、真正面にいる霊夢に八卦炉を向けた。
そして、マスタースパークを3連発。全てギリギリで外れたが、打ち終えたときの満足感はいいものだった。
そこからは鳥居の前に移動し、改めて撃ち合った。
たったそれだけ。どこもおかしくない。






本当にそうだろうか?






博麗神社の鳥居は幻想郷の外を向いている。
という事は、境内裏は西にある――即ち、人里の方角。
狙いがたとえ霊夢だったとしても、マスタースパークはレーザー。
高い指向性を持っている故に霧散するにはかなりの距離が必要だ。






もし、それだけの距離を人里が持ち合わせていなければ。

もし、自分の最大の得意技が人里に届いてしまったのならば。

もし、その軌道上に人がいたのならば。






「……あっ……」

そこまで考えて魔理沙はやっと気付いた。
しかし時は既に余りに遅く。

「もう観念したか?」

目の前には憤怒を具現化したような店長が立っている。
魔理沙は座り込んでしまった。
左手の先に箒の柄が当たる。

「二度と顔を見せるな!里から出ていけ!」

店長の罵声が魔理沙の鼓膜を傷め付ける。
もう限界だった。

「……はい、もう……里には……来ません……ごめんなさい……」

喉から声を絞り出す。
言い終えてから手元の箒に乗り、全力で飛び立つ。
風圧で帽子が飛んで行ったが、気にする程の余裕はなかった。
魔理沙はずっと直進していたが、瞳に映る景色は不規則に曲がりくねっていた。












魔法の森の上空で、ポケットから八卦炉を出した。
手に持ったそれは、数多の人命を奪った凶器だった。
徐々に握る力を弱め、そして離す。
世界中の音が止み、八卦炉の落ちる音だけが聞こえた。
八卦炉の落ちた後を数滴の雫が追って行った。
木々に隠れて見えなくなった頃、魔理沙は再び発進した。






香霖堂にあった正八角形の物体。
魔理沙はその形が気に入り、頼み込んで譲って貰った。
それは自身の魔法を打ち出すとき、大いに貢献した。
指向性、収束性ともに高く、とても気に入った。
この道具でやっと、魔理沙の魔法は普通の魔法使いの水準に達した。
それからは自信を持って弾幕勝負に挑むようになった。
森を出て、霧の湖にいる緑髪の妖精に勝負を挑み、生まれて初めて勝った。
一緒に出てきた水色の妖精にも勝った。
たまたま通りかかった黒い球体(金髪の妖怪)も吹き飛ばした。
こうして、幻想郷で2番目に弾幕勝負の強い者となった。






その思い出に、今、終止符が打たれたのだ。












家に着くころには涙も涸れかけていた。
扉にかけた手は濡れて、陽光に煌めいている。
構わず取っ手を引き、家に駆けこんだ。
何も考えず、ベッドのある寝室に向かう。
とにかくどこか凭れかかるところが欲しかった。
扉をバン、と乱暴に開ける。

「きゃぁあっ!!?」

部屋からなぜかアリスの叫び声が聞こえる。

「……うぐ……何だアリス……何でいるんだよ……」

「それはこっちの台詞よ!何で魔理沙が家に入ってきて……って、何で泣いてんの!?説明お願い!!!」

「どうしてそっちの台詞なん……あ、そうか……」

短いやり取りで、魔理沙は把握した。
と同時に、羞恥の念が体で暴発する。

「……恥ずかしい……自分の家も……ヒグッ……分からないなんて……」

押し寄せた羞恥は涙となり具現化し、見ているアリスの焦燥に拍車をかける。

「待って待って待って!理解と納得が追いつかない!」

「……じゃあな、アリス……」

「あっ、ちょっ、待って……」

制止の声は耳に入らず、箒を持って家から駆け出す。
それと同時に、最高出力で箒を飛ばした。
「本当の」自分の家に帰れない今、せめて「仮の」自分の家に帰ろうと。












それから数日。
人里では平和が訪れていた。
否、それが凄惨過ぎた故に、平和だと感じているのである。

「みんな、いいか?理由が何であろうとも、相手に手を出してはいけないんだ。わかったか?」

「はーい!」

寺子屋からは平穏な授業風景が垣間見えていた。






博麗神社では巫女が境内の掃除をしていた。
ふと、鳥居の笠木を見上げる。

「みんな鳥居をくぐって入ってくるのに、どうしてあなただけはあの笠木を越えてきたのかしら……?」

「そういえば最近見ないわね、家にこもって研究?」

独り言は何にも反響することなく、大気に吸い込まれた。






人形使いの家では魔女が食事を摂っていた。
窓の外は沢山の木々で覆われている。

「……初めて会ったときは窓越しだったのよね」

「研究なら早く終わらせて来てよ、退屈で仕方ないわ……」

そう言い終えると、特に必要ではない食事に耽っていった。






普通の魔法使いの家では一人の少女が布団に包まっていた。
体は何日も食事を摂らなかったためかなり痩せている。

「もう、私って、この世に、必要……ないよな?」

「嫌だよ、早く死にたいんだ……どうして、生きてるんだよ……」

その翌日、人形遣いはその家の周囲に霧散している魔力を感知した。






「……魔理沙?私を越えて、一番の魔法使いになるって言ってたよね?」

人形遣いは一言、そう呟いた。
その目尻に零れそうなほどの涙を浮かべて。


  • マリアリにレイマリに……魔理沙ってすげーなw -- 名無しさん (2015-11-02 19:58:09)
  • 王子まりちゃんが通りますよっと -- 名無しさん (2015-11-03 22:53:27)
  • そしてマリサは考えるのをやめた.... -- 名無しさん (2015-11-06 00:42:52)
  • そして魔理沙は呼吸するのも止めた。 -- キング クズ (2016-06-18 02:59:53)
  • 黒い球体wwwwwwww -- 名無しさん (2017-05-15 21:25:41)
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