743 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/10/28(日) 23:11:44 ID:P0OdWzF.0
復活した神子と布都と過ごす日々の中で屠自古は思った

(布都ってこんな奴だっけ?)

人の話を聞かない(聞けてない)子だったり、
勝手に他人を推量する癖があったりと変わらない点はあったが、
それにしても頭が悪い。悪すぎる
かつての彼女は表面上は暢気に見えてその実、とても頭が回る女だったはず
権謀術数渦巻く時代、あの糞蛆共が橋梁跋扈する政の界隈で神子と共に
色々と企んでいた頃の彼女の姿は今ではほとんど見受けられない。
この間も大妖精を見て「ああ見えて妖精の中でも高位の存在に違いない。油断ならぬ」と
漏らしていた。単に大きい妖精と言うだけだと思う。色々な意味で大きかったし…

とにかく、布都を不審に思った彼女は青娥に相談してみることにした
布都と同じく復活した身である神子にこんなことを相談して余計な心配をさせたくないし、
青娥もかつての布都を知っているからには、何か知っていてもおかしくない…と思ったのだ

思い立ったらすぐ行動、が屠自古の主義だ。その日の夜のうちに、彼女は青娥の部屋を訪れた
そして率直に自分が布都に抱いている疑惑について話した
すると…「やはり気付かれてしまいましたか」という反応
嫌な予感がしたが、仙女の表情は真摯なものであった
「実はあの物部様は、かつて貴女たちと共に在った物部布都ではないのです」
「なん…だと…」
やはり。戦慄する屠自古に、青娥はいつもの怪しい笑みを全く見せず、静かに話し始めた

「かつて太子様に先んじて術を行使し、眠りについた物部様…」
「しかし、彼女の用いた術は…実は不完全なものでした。彼女はあの時、死を迎えたのです」
ここで屠自古は衝撃を受けた様子だったが、青娥は構わずに続ける
「私がそれに気付いたのは少し経ってからでした。異変に気付き、私は術を見直しました」
「そのお陰で…というのも変ですが、太子様の術は無事に成功したのです」
「ですから、今いる太子様は間違いなく私達の知る豊聡耳神子様です。そこはお間違え無き様…」

ここで青娥は一旦話を区切った。それは屠自古が問うことを待っているかのようだった
「……では。では今いる布都とは誰だ?」
屠自古は青娥が思い描いた問いを発した。「偽者なのか?」という続きは屠自古の喉までで止めた。
青娥は、これから言うべき事を整理するために深呼吸を一度し、口を開いた。

「あの物部様は…夢なのです」

「―――は?」
屠自古は思わず間抜けな声を漏らした。呆気に取られた表情で青娥を見る。
「そう、夢。物部様が描いた夢のカタチ。それが今の物部布都という少女なのです」
訳が分からなかった。屠自古は口を間抜けな半開き状態にして話を聴いていた。
「あの頃、太子様や物部様が政に忙殺されながら、眠りを経て後の世に蘇るという希望を
 抱いていたはるか昔、物部様が密かに想い描いておられた姿が彼女なのです」
青娥は哀れみと自愛を湛えた顔で述懐する。まるで昔を振り返るように
「私は物部様が死したこと、しかし違う存在が芽吹き、生まれ出でたことを同時に知りました」
「…ならどうして教えてくれなかった?」
「知りながらも言えなかったのです。浅ましき私は、自身が関わった術の失敗が元で貴女達から
 かけがえのないものを奪ってしまった事実を責められることが耐え難かった…」
そう言いきると、何と青娥の蒼い瞳に涙が浮かんだ。屠自古が見たことのないものだった。
「勿論今だって辛いんです。けれど、気付いてしまったからには、誤魔化せません」
よよよ、という音が聴こえてきそうなくらい小さくなる青娥娘々
彼女は最後に「御免なさい」と付け加え、とうとう泣き始めてしまった



744 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/10/28(日) 23:12:16 ID:P0OdWzF.0 [2/3]

屠自古は、実は途中まで"青娥は私をからかっているのではないか"と疑っていたのだが、
予想もしない青娥の姿を前にしてその疑念を拭わざるを得なくなっていた
彼女がこんな嘘をつく理由もないし、自分に涙まで見せる理由もないはずだ
いや、得るものが無かろうと愉悦のために悪戯を行うことも、彼女ならあり得る
彼女は…邪仙なのだから。しかし、今は猜疑心を抱いている場合では無い

「アレが、布都の想い描いていた夢と言ったな?あの馬鹿が布都の望んだ姿だと?」
屠自古は歯に衣を着せなかった。言いたいことを誤魔化すのは苦手だからだ
「そう。物部様は来るべき復活の時、かつてのしがらみを脱し、自由の中で貴女や太子様と
 明るく楽しく暮らそうと思っていた彼女の想いが顕著に出たのがあの姿なのだと思います」
「…顕著とは便利な言葉を選んだな」
「ええ。でもそうとしか言い表せません。まさか私もあそこまで残念な子とは思いませんでした」
青娥に少し笑顔が戻った。屠自古も釣られて苦笑いを返す
「けれど勘違いしてはいけませんわ。あの方は紛れも無く、物部布都なのですから」
その言葉に「どういう意味だ?」と屠自古が顔を上げるとそこには母性を感じさせる青娥の
安らかな表情があった。まるで菩薩…あり得ない。彼女は邪仙のはずなのに――
「証拠に…彼女は貴女の事も太子様の事も、そして私の事も忘れてはいなかったでしょう?」
「それは彼女にとって貴女達が大切な存在ということが、たとえ夢の中であろうと変わらなかった
 からなのですよ?」
あまりにも優しすぎる声音。屠自古はその言葉にハッとなった
確かに復活した布都と話していても、違和感や齟齬が起きたことはほとんど無かった
あったとしても、それはかつての彼女からは考えられない天真爛漫な振る舞いがあったことだけ…
それも今の青娥の話からなら理由は想像に難くない
かつての世では、布都はとても硬い表情で接してくることが多かった
今のように阿呆っぽい顔で話しかけてくることなど、一度もなかったのだ

(そうか…お前はずっとそんなことを願っていたのか)

ふと、頬が生暖かいことに気付いた。指先で触れてみると湿ったものが当たる
知らず知らずのうちに、屠自古の頬を涙が伝っていたのだ
「…布都」
屠自古は先ほどの青娥の話と、今の布都の振る舞いを頭の中で合わせて考えた
物部布都は既に死んでいる。青娥から告げられたこの事実は衝撃的なものだ
しかし今自分達と暮らしている物部布都もまた、布都から生まれた布都であるらしい
眠りに就いた当時の目論見とは外れたとはいえ…この平和な幻想郷の中で自分達は
家族同然の様相で有り触れた生活を送っている
神子がいて、自分がいて、布都がいて、ついでに青娥たちがいる
その中にあって布都は、自分が想い描いたものから出でたであろう、あのちょっと馬鹿っぽい
性格をフルに活用して道場を飛び出して幻想郷を闊歩している
そこに何の不満があるだろう。屠自古は彼女に疑念を抱いたことを恥じすらした
時を経て互いに姿形こそ変わりはしたが、それでも皆が共にいる。それは何と得難い事か…
「………青娥殿。このことは神子様には?」
「いいえ。いいえ。蘇我様。このことを明かしたのは、貴女が初めてです」
青娥の声はどこまでも優しい。胸の中にしまっていたものを明かし、彼女も幾らか救われている
のかも知れない。屠自古にはそう見えた
「では、このことは…」
「はい。私からは明かしません。もしも明かすとすれば、それは…」
「神子様が御自分で聞きに来られた時」
「ですね。しかし太子様なら薄々気付かれているかもしれません」
「あり得る。何故なら、あの方は人の欲を視られるからな」
「そうですわね。それではこのことは…」
「ああ、二人だけの秘密だ」
屠自古はそこでふわりと浮かび上がった
「どちらへ?」
「…顔を洗ってくるのさ。濡れそぼった顔をあの二人に見られたら、何を言われるか分からん」
早口でそう返すと、屠自古は障子を閉めた



745 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/10/28(日) 23:13:11 ID:P0OdWzF.0

屠自古の気配が遠ざかっていってからしばらく時が経った頃、

「―――ちょろい」

青娥…邪仙娘々は悪い笑みを浮かべて舌を出した
「くっくっく…名演技だったぞ青娥殿」
今まで何処に潜んでいたのか。白髪の少女が部屋の隅からひょっこりと顔を出した
話題の中心にいた、物部布都である
「あら物部様」
「何が"あら物部様"だ。ここに潜んでいろと言ったのは青娥殿ではないか」
そう言って、布都は衣服についた汚れを手で払って見せる
「おのれ屠自古め…というかお主もだが…散々人の事を馬鹿だの何だの好き放題」
布都はやや不機嫌だった。屠自古をからかうとはいえ、まさかボロクソに言われるとは
思っていなかったらしい

…そう。全ては布都と青娥による仕込みであったのだ!おお、なんという悪辣!
布都は復活して元気を持て余している自分を屠自古がいぶかしんでいることに気付いていたのだ
そして、青娥に話を持ちかけ、彼女をからかったのだった
企みは見事に成功。あの勝気な屠自古に涙を流させることに成功したのだ
ちょっと良心が痛んだが、貴重なものを見られたという満足感が打ち勝ってしまっていた

「それにしても真に迫った話だったな。我も思わず飛び出しかけたぞ」
布都のその言葉に、青娥はそれまで我慢していた分も含めた飛び切り悪い笑顔をして、言った

「うふふ。それもそうですわ。何せ、事実を元にしたノンフィクションですもの」

「――えっ?」



746 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/10/29(月) 00:10:49 ID:MBHaPXZU0

ぅゎι゛ゃせんこゎぃ



747 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/10/29(月) 13:44:34 ID:mJRv8Rbw0

どっちだ!?いや誰だ!?



748 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/10/29(月) 17:58:40 ID:LlLgc97sO
>>747
すまん。意図が分からんw
教えて下さいな



749 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/10/29(月) 19:11:51 ID:AXvAj05k0

ふっちゃん「とじこをからかうネタはないか?」
せーが「それじゃぁ……」

せーが「>>743-744」
とじこ「ふとのがんぼうが、あのおばかだったなんて……!」


ふっちゃん「さくせんせいこうだ! それにしてもはくしんだったな!」
せーが「そりゃそうだ。じっさいにそうだったんだから」

ふっちゃん「――えっ?」



750 747 [sage] 2012/10/30(火) 15:34:43 ID:Xq2njT4.0

さあどうなんだって思ったんだよね

そのことが、屠自古や神子に起こったのではない、とどうして断言できるのか



751 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/10/30(火) 16:00:17 ID:XhJEmxT.O

>>750
そこに気付くとは…やはり天才か



752 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/10/30(火) 18:40:44 ID:QcYganGQ0

まぁプリズムリバーみたいな例もあるからな
ひょっとしたら屠自古は誰かの妄想の産物かも知れん



753 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/10/31(水) 06:59:25 ID:lFUKfNPcO

>>752
共依存のふとじこ
ふとはとじこの
とじこはふとの
妄想


  • 俺は布都ちゃんは馬子に嫁いだ頃の悪女を復活させるつもりが、屠自古ちゃんへの復活妨害か何かが原因でアホの子になったと思う -- 名無しさん (2014-07-02 15:25:30)
  • あの馬鹿ってwww
    てか「ああ見えて妖精の中でも高位の存在に違いない。油断ならぬ」は合ってるような・・・ -- 名無しさん (2014-08-17 21:43:49)
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最終更新:2014年08月17日 21:43