450 名前が無い程度の能力 [sage] 2012/08/05(日) 21:24:03 ID:zj70YNqUO

とある場所の会員制倶楽部…。

「本日のショーターイム!“博麗の巫女”!」

喧騒のなか、耳障りな音楽と共に、博麗霊夢がステージに現れた。
眼がくらむ、けばけばしい照明の下、精一杯の作り笑いをする。
薄暗い客席は満席だが、さほど反応はない。

巫女の舞を始める。
それは博麗の誇り、聖なる舞…しかし、観客は下卑た笑い声と罵声を巫女に浴びせかけた。

汚れた空気に満ちた空間で、裸に近い衣装をまとわされ、それでも霊夢は舞を続けた。

心の中で祈りを忘れなかった。

次に護符をあやつり、退魔針を使った演武をみせる。
しなやかな身体の動き。
妖怪退治の技に感嘆の声かあがる。
“…見せ物じゃない!”
必死に自分を抑える。
責めるように身体に力が入る。黒髪が躍り、むき出した肌に汗が光る。

と、そこに“妖怪”たちが現れた。
仮装した店の女の子たちだ。
どっ、と笑い声。
巫女は真剣に身構える。
体術を極めた霊夢にとって負ける相手ではない。
しかし
負けなければならなかった…。
取り囲まれ、一方的に叩きのめされると、歓声があがった。
四肢に縄が掛けられ引かれた。倒れてもがく。
引きずり廻されて、ステージに吊るされる。
衣装が引きちぎれ、身体が痛む。
手首に食い込んだ縄の激痛。
汗で目が滲みて見えない。

「かくして博麗巫女は敗北しました~!」

司会の声に笑いと拍手。
終わった。

「やあっ、お疲れさん!」
楽屋裏でマネージャーが報酬を手渡す。
「………」
約束の額より少ない。しかし黙って受け取った。
“妖怪”の女の子達はさっさと着替え、謝りもせず客席に戻ってゆく。

“…帰ろう”
裏口から外へ出た。

路地裏の一軒、そっと戸を開ける。
「おかえり霊夢…」
「紫!…起きてたの?」
「今日は調子が良いの」
灯りが点り、お茶が入る。
「みて、お金が入ったわ。明日は仕事を休んで何か買ってくるから」
「霊夢…私は…」
「久しぶりお酒でも飲もうよ、紫…だから元気になって…」

狭くて暗い部屋の中、二つの影が重なった。


引退して数年。

かつての幻想郷と呼ばれたこの土地に、もう巫女は居なかった。



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