『そうあれかしと云われても、と少女は言ふ』 某作品の大総統の名言から衝動的に書いた何か

「貴女で――人目よ」

誰かの声が聞こえて、意識が覚醒する。先ほどまで眠らされていたらしい。
気付けば寝台の上。そこに裸で横たえられている。まな板の上の何とやらだ。

「貴女は次の――の巫―足りえるかしら?」

女の声が聞こえる。中途半端に聞き取れて何か分からなかった。
声の主の姿は見えない。気配もしない。そばには誰もいない。
分けの分からない文様が彼方此方に…自分の周囲に浮かんでいるだけだ。
それらはしきりに明滅している。少なくと読める字は一つもない。意味も分かるわけがない。
ただ、これから何かが行われるのだろう…という事だけは漠然とだが感じ取れた。

四肢は動かない。拘束されている。言葉を発せない。術で封ぜられている。
しかし視線だけは自由だった。することがないので、仕方なく眼を脇に向ける。

そこでは、自分と同じくらいの年の少女の死体が、折り重なっていた。

これから行われる何かに失敗すれば、自分もあの上に重なるのだ。死んで積まれるのだ。
そしてこういった気持ちはあの中の子たちも抱いてきたに違いない。抱いて逝ったのだ。

―――――博麗の巫女。そういう存在になるために私は、私たちは拾われた。

それまで何処に住んでいたのか。何をしていたのか。何時を生きていたのか。
何から産まれたのか。誰に育てられたのか。誰がいたのか。友はいたのか。恋はしたのか。
何も、何も思い出せない。そういったものは全て消されてしまった。
彼女たちが求める「何者にも縛られぬ自由な巫女」となるために、私たちのそれは不要なのだろう。


……。結果を言えば、その何かは成功した。
自分は博麗となった。名を与えられた。住処を与えられた。そして、役目を、与えられた。
事が終わると、部屋の隅の死体の山は片付けられ、自分の後に控えていたであろう少女たちは消えた。
すっかり空っぽになった巫女は、ふわりと飛んで夢の空を舞った。

『なにものにも縛られぬ、どこまでも自由な、楽園の素敵な巫女』

何かの最後に女が言ったその言葉に、

「ちがう。わたしがほしかったものはこんなものじゃない」

そう言い返そうとした少女の言葉は、音になることなく消えた。



…ごっこ遊びに付き合いきれなくなったのはいつからだろう。

きっと、"これ"を思い出してしまったからなのだろう。

それから考えた事は単純だった。

彼女たちが不要として自分のこれまでを捨て去ったように、
自分も不要だと思ったものを捨て去ろうと。そう思った。そう行動する事にした。

そして、すぐに実行する事にした。ごっこの戒めを解けば容易い事だ。

八雲紫を殺し、八雲藍を殺し、天魔を殺し、大天狗を殺し、幽々子を殺し、西行妖を殺し、
閻魔を殺し、神奈子を殺し、諏訪子を殺し、空を殺し、白蓮を殺し、さとりを殺し、
……幻想郷に住まう大妖・神霊の尽くを殺しに殺した。

要らない。いらない。全て不要だ。

そうして、歯向かう者を全て討ってきた。
残りは幻想郷と言う箱庭で飼われた塵芥ばかりだった。

誰も自分に及ばない。誰も自分に辿り着けない。誰も自分と対等足りえない。

当然だ。己はそういうものとして作られた。そういうものを求められた。
そうあろうと努めたつもりはなかったが、そうあった。そうだった。

何日も。何週間も。何ヶ月も。何年も。ただ殺し続ける日々が続いた。

そうして……どうしてそんなことをしようとしたのかと考えるようになった頃。
知っているもので生きている顔を思い出すのが難しくなった頃。

自分の前に一人の人間の少女がいる。

自分を討つために、彼女はここまで足掻いてきた。
その性能は、これまでで一番自分に近い領域にあると思う。

血が滴り落ちている。久しぶりに見るものだ。
少女の弾が首を掠めたのだ。いい位置だ。彼女の本気が垣間見える。

だのに、その少女。名前はなんだったか。思い出せない――は辛そうな顔をしている。情けない。

血が滴り落ちている。生命が、零れ落ちていく。生が薄まり、死が、近づいてくる。

ああ、そうか。

「こうして死に直面するというのはいいものね」

少女が怪訝な顔をする。ああ、名前を思い出した。しかし、まぁ…どうでもいい。

「純粋に『死ぬまで撃ち続けてやろう』という気持ちしか湧いてこないわ」

血が滴り落ちている。あまり時間は無駄にできない。しかし言葉が止まらない。

「"博麗の巫女"という地位も、過去も、出自も、本当の名も、何も要らない。
 何にも縛られず、誰のためでもなく、ただ…ただ戦う。
 それが心地良い」

不思議だ。考えていたことが口を突いて出た。

目の前の少女は少し驚いている。

「嗚呼…やっと辿りついた…」

…そうだ、やっと此処に来れた。



「ねえ、―――ちゃん。貴女は、どうしてあんな所に一人でいたの?」

女の声に、私は答えなかった。


『納得の行く死に場所が見つからなかったから』


そんなことが、なんだか格好悪くて言えなかったのだ。




「やっと、来られた―――」


己が身を焼く魔砲の中、少女は最期にそう呟いた。

                                     ~終~



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