「ほう、頑張っておるのう。その調子でサリエルめの計画を打ち砕くがよい」

幻想郷の空を舞台にした、船体同士の砲撃戦。
その光景を菊理は、地獄から見物していた。

「しかし……相変わらず乱暴な奴よ、魅魔め。あれでは里の人間に被害が及ぶやもしれんかろうて」

そうぶつぶつ不満を口にしながらも、菊理は映像を食い入るように見つめる。
そこへ何やら三途の川から、爆発音が響いて来た。

「…………また侵入者か……」

どうやら今度の客は、あまり友好的ではないようだ。
自身の体の入った月を操り、三途の川へと瞬間移動する菊理。
するとそこには三人の妖怪を前にして、ぐったりと倒れる映姫と小町の姿があった。
その様子に菊理は呆れた表情を浮かべる。

「お主等は昼寝が好きよのう。…………で、まさか此処が地獄の入口と知らぬ訳ではあるまいな?」

そう言うと菊理は冷たい目で、三人の妖怪を睨み付けた。
同時に指をパチンと鳴らし、映姫と小町の傍に小型の月を出現させる。
その月は二人を中に取り込むと、裁判所へと飛んで行った。
だが三人のうち二人は、にやりと笑って菊理に余裕を見せつける。

「知っておるのじゃー! 知った上でこうしておるのじゃー!」

一人は水色の着物を身に纏った少女、左城宮 則紗。

「あたし等はあんたじゃなくて、地獄の中に用があるんだよ!」

もう一人は逆立った髪と鉢巻きが印象的な女性、鈴木山 蝶子だ。
二人は背後で一人沈黙を守り続ける、河城 みとりを余所に不敵な笑みを浮かべる。
それに菊理は、露骨に不快そうな顔をした。

「妾が黙って通すと思うておるのか?」
「力づくで通してもらうのじゃー!」
「………身の程を知らぬ戯け共が」
「思い知るのは、あんたの方かも知れないよ?」

菊理に対して、強気な姿勢を崩さない二人。
そして一気に菊理目掛けて、走り出していった。

「鈴木山ー! 妾に続くのじゃー!」
「合点承知ぃいい!!」

その言葉と共に、則紗はピッチフォークを取り出しぶんぶんと振り回す。
途端にその影が菊理の傍まで伸びて行き、実体化し直接襲いかかって来た。
影は則紗の動きに合わせて、ピッチフォークを連続で突き刺して来る。

「遅いわ!」

しかし菊理は瞬間移動をし、影による攻撃をかわし切った。
そこへ鈴木山はチェーンソーを振り、菊理に斬りかかっていく。

「もらったぁああ!!」
「ええい、騒がしい!」

それも瞬間移動で菊理はかわした。
不意を狙った一撃をかわされ、鈴木山は舌打ちをする。
そんな事はお構いなしに、菊理はそのまま瞬間移動で空中に出現すると何やら両手を向かい合わせ始めた。
途端に両手の間で、真っ白な光が煌き出す。
徐々にその光は強くなっていき菊理の手の中で光球となると、その手を放し光球を宙に解き放った。
すると光球は瞬く間に破裂し、辺りに強烈な閃光を炸裂させる。

「うおあー!?」
「くあっ!」

その凄まじい霊力の閃光に、則紗と鈴木山は吹き飛ばされていった。

「帰れ妖怪め。お主等に負ける程、年老いてはおらぬわ!」
「……うぐ…」

全く攻撃の当たらない菊理を前に、たじろぐ則紗と鈴木山。

「………何をしている」

そんな二人の許へこれまで微動だにしなかった、みとりが歩いてやって来た。
みとりは真っ赤な瞳を冷たく光らせ、地に這い蹲る二人を見下ろす。
その態度に則紗と鈴木山は、揃って文句を口にし始めた。

「五月蝿いなぁ! じゃああんたが戦えよ!」
「そうじゃそうじゃー!」
「……………使えない奴らめ」

そう言うとみとりは、道路標識を2本手に取る。
そしてその標識を、あろう事か則紗と鈴木山に突き刺した。
二人は信じられないといった様子で、みとりを睨む。

「な………何を……!」
「………どういう……つもりだ……!」
「…………………」

だがみとりは黙ったまま、突き刺した標識を強引に引き抜きしまう。
途端に傷口からは、夥しい量の血が流れ出す。
程無くして二人は傷口からの出血による失血で絶命した。

「………………」

やがて二人の魂は体から抜け出し、三途の川を彷徨い出す。
それをみとりは捕まえると、思いっきり齧り付き呑み込んでしまった。
菊理はその行動に、訝しげな表情を浮かべる。

「………お主の仲間ではなかったのか?」
「……………私に仲間などいない。今も昔も、これからも」

しかしみとりは臆する事無く、標識を菊理に向け戦闘意思を明らかにした。
だが菊理は表情を崩さずに、じっとみとりを睨み続ける。
その何処までも冷静な眼差しは、みとりから感じる異様な気を真っ直ぐ見据えていた。

「ならば何故、幻月に従う。お主等からは、あの女の魔力を感じるぞ」
「……私達は別の平行世界から呼ばれて来た。私達の存在する幻想郷、そこで幻月の理想に惹かれてついて行く事を決めた」
「あの悪魔の理想が、か?」
「………幻月は幻想郷を滅ぼそうとしている。その先にあるのは自分達の理想郷を創るという壮大な夢。
 私は……幻月の創る理想郷が、どのようなものなのか興味がある。そして私も自分の理想郷を創り出す。
 干渉される事のない、私だけの誰にも邪魔されず自由で独り静かで豊かな理想郷を……」
「ならば辺境にでも籠っておれ。地獄をお主の勝手な理由で踏み荒らす事は、妾がさせぬ」
「…………邪魔をするなら貴方を倒して、私は私の理想郷を目指す事にする」

するとメキメキと音を立てて、みとりの姿が変わっていく。
背中からは蝙蝠のような翼が生え、腕は新たに4本生えて来る。
更に肌は真っ白に染まり、瞳はその紅をより深く禍々しく光らせていた。
その現象に菊理は心当たりがある。
本来は魔界人が魂を喰らった際に起こる現象。
そもそも魔界人以外は、魂を取り込む方法自体知らない筈のもの。
言ってしまえば禁術。魔界と言う深淵の中でのみ、伝えられる罪深き魔法。
だからこそ、この状況は幻月が干渉した事で起きたイレギュラーな事態と言えるだろう。
故に菊理は自分の知る、その現象の名を口にした。

「……悪堕ちか……」
「すでにこの身は穢れた身、今更堕ちる事など恐るるに足らず」
「……………愚か者め」

みとりは菊理の言葉に無表情で応えると、6本の腕を使って標識を6本持つ。
そのうちの4本の標識を地面に突き刺すと、同時に辺りに強大な妖力が広がっていった。
妖力は菊理をも呑み込み、そのまま三途の川中を覆い尽くす。
みとりはそれを確認すると、じっと菊理を睨み付けた。

「上下左右、前後に空間移動。あらゆる移動を私は禁止する」
「………そうか。なるほど、厄介な能力よ」

菊理は先程から、ぴくりとも動かない月を見てそう呟く。
こいつの能力は相手の行動制限。
それが魂を喰らった事で、神をも縛るほどに強化されたのだろう。
そんな考えを巡らす菊理に、みとりは突き刺していない2本の標識で襲いかかる。
しかし菊理は、自身の上半身を月の中に入れ防御体勢を取り出した。

「そんな守りで防ぎ切れるものか」

そこへ思いっきり2本の標識を投げ付けるみとり。
標識は菊理目掛けて真っ直ぐ飛んでいき、月に深々と突き刺さった。
途端にぴしりと音を立ててひびが入り、徐々にその範囲を広げていく。
やがて月全体にひびが走ると、月は音を立てて崩壊し始めた。
同時に中から菊理が飛び出して来る。

「…………よもや……この姿を他者に見せる日が来ようとは……」

その姿は車椅子に腰かけた、病弱そうな女性のものだった。

「………まさか、歩けなかったとはね」
「生まれた時からこの身だと、不便に感じる事もない。お主にどうこう言われるほど、悲観すべき状況ではないわ」
「……………同情する気はない。邪魔者はすべて叩き潰す」
「望むところよ。やれるものならやってみい!」

菊理の言葉に、みとりは月と共に落ちて来た2本の標識を拾って向かって行く。

「同じ手が何度も通用すると思うな、戯けがっ!」

だが菊理は目を見開き、その瞳から真っ赤なレーザーを撃ち出した。

「ッ!!」

真っ直ぐ高速で突き進む2本のレーザー。
それはみとりの6本の腕を消し飛ばし、そのまま地面に刺さる標識をも破壊する。
途端に標識によるみとりの能力が途絶え、菊理は自由の身となった。
同時に菊理は扇子を開き、その先に紫の炎を灯す。

「地獄の炎は狂瀾怒濤、立ち昇る火柱は容貌魁偉。跳梁跋扈なお主の思想、屍山血河に消してくれる!」

そして炎にふっと息を吹きかけると、炎は凄まじい業火となりみとりに襲いかかっていった。

「ぐっ……がああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

そのまま迫って来た業火に呑まれ、みとりの体は炎に包まれる。
肉を焼き尽くし骨を溶かし、それでも尚燃え盛る業火。
仕舞いにはみとりの魂すら燃やし、その存在を完全に焼失させた。

「……………愚か者め。地獄の力は抜山蓋世、お主の理想の踏み台には役不足よ」

燃え盛る炎を背に、菊理はそう呟き車椅子を動かす。
やがて菊理が去った事で治まる炎。
そこにはまるで最初から何もなかったかのように、ただ茶色い地面だけが広がっていた。







一方で聖輦船の甲板では、慧音達が命蓮寺のメンバー達を押さえつけている。
すでに一部のメンバーはまともに喋れない程、侵食は進んでいた。
何か解決策はないかと考えてはいるものの、妙案は全く浮かんで来ない。
そうしている間にも症状は悪化するばかりで、慧音達はどうしたものかと途方に暮れていた。

「おい! しっかりしろ! 気を確かに持て!」
「ぐぎぎ……が、ぎあアアぁァぁ!」
「何も…出来ないのか!」

もう殆ど正気を失いかけている村紗を見て、慧音はそう嘆く。
自身の能力で歴史を喰えば、一時的に進行を止める事は出来るだろう。
しかし肝心の原因となっている歴史が、どれなのかが分からなくては手の施しようがない。
ただ必死に、暴れる村紗を押さえる事しか出来ない慧音。
そんな慧音達を見て、ナズーリンは蝕まれつつある思考を一生懸命巡らした。

「………………………」

原因は恐らく仮面の者達との戦闘。
それぞれ何らかの形で、あの者達の持つ何かに触れてしまったのだろう。
ナズーリンは今更ながら、自身の軽率な行動を後悔する。
ところがその時、ある言葉が脳裏を過ぎった。
最初は悪意ある一言としか思えなかったあの言葉。
だが今ならはっきりと分かる。
あの言葉は、こうなる事を予想していたからの言葉だったのだと。

『もし聖を殺したくなったら、こいつを使いな』
「リグル………私のポケットに……ビンが入っている………。そいつを使え!」
「わ、分かった!」

ナズーリンの決死の一言に、リグルは大きく頷き蟲達に合図を送る。
その指令を受けて、蟲達はナズーリンのポケットからビンを取り出して来た。
それを受け取るとリグルは、ナズーリンに問い掛ける。

「それで……これをどうすればいいの!」
「お、恐らくは………あははははは! だ、ダメだ! もう……限界が………ゲェアハハハハハハハ!」
「そんな……」

ところがナズーリンは症状の進行により、正気を失ってしまう。
最早、理性を持たずに薙刀を滅茶苦茶に振り回すナズーリン。
その様子にリグルが困り果てていると、一輪に追いかけられながらもメディスンが駆け寄って来た。

「リグル! 私に任せて!」
「……分かった! お願い!」

もしかしたら毒物に詳しいメディスンなら、これが何でどうすればいいのかも分かるかもしれない。
そう考えてリグルはビンを持った手を、開いた足の間に下げる。
それをメディスンはスライディングでくぐりながら、すれ違い様にビンを受け取った。
ビンを渡すと、リグルは向かって来た一輪を思いっきり蹴り倒す。
その隙にメディスンは中の液体を飲み込み、頭をぐるぐると回し始めた。

「!! ……そういう事か。皆! 一旦、船の中へ!」

そこでリグルは大声で、慧音達に呼び掛ける。

「何か、いい手が見つかったのか!?」
「……上手くいくかは分からない。けど此処はメディスンに任せて、私達は避難を!」

その言葉に慧音達は、押さえていた命蓮寺のメンバー達を放し走り出した。
解放された事で、逃げて行く慧音達に襲いかかる命蓮寺のメンバー達。
その前に、メディスンが一人勇敢に立ち塞がった。
徐々に迫って来るナズーリン達の刃。
しかしメディスンは恐れずに、じっと待ち構える。
やがて攻撃がメディスンのすぐ傍まで迫ったその瞬間、

「キヒアーッ!」

メディスンは口を開き真っ赤な霧を放出した。





その頃、白蓮はイビルアイΣと戦闘中。
強大な破壊力を持つイビルアイΣの弾幕の数々に、白蓮は苦戦していた。

「……はぁ……はぁ……」
「随分と頑張るようですが、それもここまでなのです! 空間隔離装置、起動なのですー!」
「なっ!」

するとイビルアイΣの運転手である里香の言葉と同時に、白蓮の周りに透明な壁が出現する。
透明な壁は白蓮が触れようとすると反発し、弾幕を当てると打ち消されてしまう。
周囲を囲まれ逃げ場を失う白蓮。
そこへイビルアイΣの弾幕が、空間をすり抜け襲いかかって来た。

「行け行けなのですー!」

無数の弾幕が、逃げ場のない白蓮を襲う。
だが白蓮は強い魔力を手に集めて、必死に弾幕を払い除け身を守った。

「なかなかやるのです。でもあたいのイビルアイΣの力は、こんなものではないのでーす!」

しかし里香は更に出力を上げ、白蓮を狙って攻撃し続ける。
襲いかかる弾幕の雨霰。
その猛攻に次第に白蓮も消耗していき、遂にイビルアイΣの弾幕を喰らってしまった。
途端に周囲を包んだ煙の中から、白蓮はボロボロの姿を覗かせる。
それでも白蓮は必死に立ち向かおうと、血を流しながらもイビルアイΣに身構えた。

「……う………あ……」

だが受けたダメージは非常に大きい。

「なんと! イビルアイΣの攻撃を受けて、まだ息があるとは! これは教授が欲しがる訳なのです!」

それを見た里香は空間隔離装置を解除し、イビルアイΣの瞳にエネルギーを集め出す。

「でもでも! あんたはあたいが、消し炭にしてやるのですー! 超亜空間爆撃砲、射出!」

そしてエネルギーを一気に放出すると、凄まじい爆発が蛇のように白蓮を目指して起こり始めた。

「!!」

爆発は連続で発生し、徐々に白蓮へと近付いて来る。
普通に飛んだのでは逃げ切れない。
かといって相殺するのは、攻撃が攻撃だけに不可能だ。
最早、残された手は一つしかない。
そう判断した白蓮は、そっと目を閉じ息を吸い込む。
しかしそこへ迫る連鎖する爆発。
それに向かってカッと目を開くと、白蓮は膨大な魔力を放ち輝き始めた。

「超人『聖白蓮』!」

青白いオーラを身に纏い、じっと襲い来る弾幕に身構える白蓮。
その弾幕がぶつかる手前まで来た次の瞬間、白蓮は一瞬でイビルアイΣの前から姿を消した。

「なっ! ワープした!?」

里香は慌てて白蓮の姿を探そうと、イビルアイΣを旋回させる。

「まさか生身でワープなんて…うぎゃあ!?」

ところが突然、強烈な一撃がイビルアイΣに撃ち込まれた。

「い、いつの間に………ぎゃああ!」

更に続けて二発三発と、正体の見えない攻撃は続く。
恐らくはワープを繰り返して、死角から襲って来ているのだろう。
里香はそう考えると、レーダーの電源を点け白蓮の現在位置を調べ出した。

「もう不意打ちは喰らわないので……え、えええぇぇぇー!?」

だがレーダーに映し出されたのは、とんでもないスピードで動き回る敵の表示。
それはレーダー画面内を縦横無尽に飛び回り、数秒の間に何十回もイビルアイΣに接触している。
そのスピードは天狗よりも更に速く、明らかに普通の人間の出せる限界を越えていた。

「そ、そんな馬鹿なー!」

こんなにも高速で動き回る相手には、空間隔離装置も超亜空間爆撃砲も当たらない。
里香が手出し出来ずにいる間に、白蓮は次々と攻撃を叩き込んでいった。
やがて画面に表示される、機体損傷率が50%を越えた事を知らせる警告文。
止むを得ず里香は緊急脱出装置のボタンを押し、イビルアイΣから離脱した。

「覚えていやがれーなのですー!」

そのまま可能性空間移動船へと飛んで行く里香を、白蓮は見届ける。
そして運転手のいなくなったイビルアイΣに近付くと、手を振り上げ手刀を繰り出した。

「いざ、南無三――!」

途端に真っ二つになるイビルアイΣ。
白蓮がその場から飛び去ると、空中で大爆発を起こし吹き飛んだ。
しかしそんなものには目もくれず、一目散に白蓮は聖輦船へ向かって行く。

「お願いです……どうか無事でいてください……」

頭に浮かぶのは命蓮寺のメンバー達の姿。
大丈夫だとは思うが、万が一何かあっては一大事だ。
そう考え慌てて戻って来た白蓮が、聖輦船へと辿り着く。
そこにはぐったりと倒れる命蓮寺のメンバー達の姿があった。

「そんな…………星! 村紗! 一輪! 雲山! ナズーリン! ぬえ! ………こんな事って……」

まさかこれ以上は持ち堪えられないと判断され、殺されてしまったのだろうか。
横たわる命蓮寺のメンバー達に、慌てて駆け寄り抱きかかえる白蓮。
その瞳には涙が溢れ、ボロボロと流れ落ちていく。
涙は星に滴り落ち、その頬をすーっと濡らす。
すると星の眉がぴくんと動き、ゆっくりと目を開き出した。

「星!!」
「……………すみません。……もう、大丈夫です」

その言葉を聞くや否や、白蓮はぎゅっと星を抱き締める。

「よかった……本当によかった!」

そのままわんわんと泣き出す白蓮に、残りのメンバー達も次々に目を覚ました。

「………どうやら……あの女に助けられたようだ……」

起き上がりながらナズーリンは、そう呟き頭を掻く。
相変わらずあの女、エリスの目的は分からない。
だがエリスの渡した液体のおかげで、正気に戻って来れたのも事実だ。
しかし今は、そんな事を考えている場合ではない。
何せまだ危険は去っていないのだ。

「……………さて、私達も……遅れを取り戻さないとね!」

そう言ってナズーリンは、ふらつきながらも立ち上がる。
それに応えるように、残りのメンバー達も白蓮の心配を余所に起き上がり砲台のトリガーを引き始めた。





そんな聖輦船とは対照的に、可能性空間移動船では夢美の怒号が飛び交う。

「里香! 負けるのが早過ぎよ!」
「だって~」
「だっても弱点武器もないわ! まったく……貴方が勝ってれば大人しく投降させる事も出来たのに!」

夢美は大声で文句を言いながら、地団太を踏んでいた。
そのまま中央の椅子へと向かって歩いて行く。
そして何処からか取り出したマントを羽織ると、椅子に不機嫌そうに座ってちゆりに指示を出した。

「もういいわ、私が直接叩く。ちゆり! 脱出用ゲートを開きなさい!」
「OK! グッドラック御主人様!」

ちゆりがご機嫌にボタンを押すと、夢美の真上に穴が開く。
そこへ椅子ごと勢いよく吸い込まれていくと、夢美は甲板へと飛び出した。
すると夢美はマントの裏に隠しておいたロケットエンジンを、体にしっかりと固定する。
それがキチンと装着されたのを確認すると、エンジンに点火し明るい夜空へと飛び立って行った。

「さあ、私の科学魔法の力を思い知るがいい!」

そう言うと夢美は空を飛びながら、ある装置のスイッチを入れる。
途端に辺りに広がっていく奇妙な魔力。
その影響は、すぐに目に見える形で現れ出した。

「!!」

突如ガクンと揺れ、ゆっくりと下降し始める聖輦船。
何事かと慌てる乗組員を余所に、どんどん高度を落としていく。

「ちょ、ちょっと私見て来る!」

急いで村紗は状況を確認する為、運転席に戻ろうとする。
だが更に強い魔力が流れて来ると、村紗達は一斉に床に押さえつけられた。

「な、何!?」
「体が……重い…!」

全身が鉛のように重くなり、自由に身動き出来なくなる白蓮達。
そこへロケットエンジンで飛んで来た夢美が、ゆっくりと着地して聖輦船に乗り込んで来た。

「どう? 私の科学魔法の威力は」
「ぐっ……」

どうやらこの異常な現象は、目の前の女によるものらしい。
這い蹲りながらもキッと睨み付ける村紗達を、夢美はにやりと笑って見下ろす。
そんな夢美に攻撃を仕掛ける命蓮寺のメンバー達だったが、放った弾幕はすぐに床に落ち夢美には一発も届かない。
それを見ていた夢美は、突如奇妙な光る剣を取り出す。
その剣を白蓮の首筋に近付けると、他のメンバー達を眺めながら口を開いた。

「本来なら生け捕りにしたかったけど………貴方達が悪いのよ? 大人しく投降しないから、こういう事になるの。
 まぁ、でも一人ぐらいなら早めの解剖だと思って楽しませてもらう事にするわ」

そのまま夢美は光る剣を、白蓮の首に当たるギリギリまで近付ける。
するとバチバチと音を立て、剣は白蓮の首筋をじわじわと焼き始めた。
途端に騒ぎ始める命蓮寺のメンバー達。
その危機的状況に、白蓮本人も恐怖し冷や汗をだらだら流す。
そんな白蓮の心は死の急接近に、動揺しきって冷静さを失っていた。

「……や、やめて…………死にたくない……助けて……」
「後悔はあの世でしなさい」

必死の命乞いも聞き届けられず、夢美は無慈悲に剣を振り上げ白蓮の首を狙う。

「やめろー!」

ところがそこへ一人の妖怪が飛び込み、夢美を思いっきり押し倒した。

「なっ!」
「聖を虐めるなー!」

その妖怪とは何故かこの状況でも自由に動き回れている、ぬえだった。
ぬえは夢美を取り押さえようと、羽を操り襲いかかる。
しかし光る剣を振りかぶると、

「邪魔よ!」
「うぐあっ…!」

夢美はぬえを真っ二つに斬り裂いてしまった。

「ぬ、ぬえ? …………ぬえぇぇー!!」

白蓮は上半身と下半身に分かれてしまったぬえを見て、大声で泣き叫ぶ。
他のメンバー達も信じられないといった表情で、その惨状を茫然と見つめていた。
だがそんな白蓮達などお構いなしに、夢美は光る剣を振り白蓮の前に立つ。
その姿は白蓮達からは、恐ろしい無慈悲な悪魔のように見えた。

「予定とは違うけど、まぁいいわ。これで私に逆らうと、どうなるか分かったでしょ。
 大人しく投降しなさい。さもなくば全員此処で標本になるわよ」

直接攻撃は自由に動けない為、無謀に近い。
だからと言って、弾幕も真っ直ぐ飛ばずに落ちてしまう。
最早、何も出来ないのだろうか。
白蓮達の中に絶望が広がっていく。
するとそこへ何処からともなく、氷の塊が夢美目掛けて飛んで来た。

「誰?」

それを苦もなく弾き飛ばす夢美。
その視線の先には、自信満々で笑う妖精の姿があった。

「あたい!」
『ち、チルノだー!?』

妖精の正体、それこそ氷精チルノ。
助っ人としては、あまりにも頼りなさすぎる存在だ。
何故どうやって此処まで飛んで来たのか、多くの者が疑問を浮かべる。
一方でチルノの友達のリグルは、その姿を見て声を上げた。

「今まで何してたの! 何処にもいないから、心配してたんだよ!」
「えへへ……なんか凄い事になってるって聞いたから、あたいも認める最強を呼びに行ってたんだ!」

その時、突然大きく揺れる聖輦船。
見れば下に、氷のレールが敷かれているではないか。
下降を続けていた聖輦船は、そのままレールに乗り滑り出す。
同時にチルノはにっと笑うと、高らかに声を張り上げた。

「あたい最強ー!」
「嘗めた真似を……!」

その光景に夢美は歯軋りをし、明らかに苛立った様子を見せる。
これでは折角あと一歩まで追い詰めたのに、全部台無しではないか。
夢美は光る剣を手にチルノをキッと睨み付けると、邪魔者を始末するべく飛び立って行った。
しかしチルノは楽しそうに、船の裏へと飛び去っていく。
それを追い掛けて、夢美も甲板を後にした。

「………………そうか。羽のある奴には効かないのか」

飛び去る二人を見ながら、ナズーリンはそう呟く。
その耳に悲痛な叫び声が飛び込んで来ると、そっと声の主である白蓮の方へ振り返った。

「ぬえ! しっかりしてください! ぬえぇ!」

瀕死のぬえを抱きかかえようと、動かない体を必死に伸ばす白蓮。
その懸命な呼び掛けも虚しく、ぬえはどんどん弱っていく。
他のメンバー達も一生懸命声をかけるが、最早ぬえの命は風前の灯火だった。

「死んじゃ嫌だ! 皆で魔界に行くんだ! ………誰が欠けても……ダメなんだよぉ……」
「……あんた、よく姐さんを守って………立派だったわ」
「せめて……せめて自由に動けたら抱きかかえてあげられたのに………」

少しづつ近付く仲間の死に、涙を流し悲しむ命蓮寺のメンバー達。
するとぬえは、ぼそりと何かを呟き始めた。

「………ずっと……皆に言いたかった事………あるの……」
「!! 何ですか!?」
「……………こんな私でも……仲間って言ってくれて………ありがとう………。
 ……本当は………とても嬉しかったのに………今まで…………素直に言えなくて………………ごめ………ん………」

それだけ言うと、ぬえはにっこりと笑い眠りにつく。

「…………ぬえ………」

その最期に命蓮寺のメンバー達は、ボロボロと涙を流し続けていた。





甲板でそんな事が起こっていたその頃、聖輦船の下では夢美がチルノを追いかけ回している。

「ちっ! ちょこまかと!」

氷のレールの柱の間を、華麗にすり抜け飛び続けるチルノ。
それを夢美は光る剣を振り回し、柱を壊しながら追いかけていた。
如何せん此処は相手の作り出したフィールド。
地の利は当然チルノにある。
結果距離は縮まらないどころか、どんどん開いていくのだった。

「くっ……埒が明かないわねぇ……」

ただでさえ無数の柱のせいで見通しが悪い。
その上こちらが柱を砕く際には、チルノの姿は完全に見えなくなる。
かと言って柱の間を飛ぶのは、ロケットエンジンの旋回能力では難しい。
次第に苛立ちも募っていく。
これ以上、相手の鬼ごっこに付き合ってやる理由もない。
そう考え夢美は急停止すると、エネルギー砲をチルノの飛んでいる方へ向けて構えた。

「纏めて消し飛ばしてやるわ!」

そう言って夢美は、徐々にエネルギーを溜めて行く。
チャージが終われば強大な弾幕で、妖精など一撃で終わりだ。
妖精に負ける要因など、万に一つもない。
だがそんな夢美の驕りは、一人の妖精により脆くも崩れ去る。

「……ぐっ!」

突如、背後から飛んで来た苦無弾幕。
それは夢美の背中の反幻想重力装置に、綺麗に突き刺さり停止させる。
途端に辺りに広がっていた魔力は途絶え、再び浮かび始める聖輦船。
夢美は計画を邪魔された怒りと溜めていたエネルギーを、苦無弾幕の主にぶつけようと振り返った。

「!!」

しかしそこには誰もいない。
いや、いないだけならまだよかった。
振り返った後の夢美の背後、その背中が当たりそうな程の至近距離で鎖のじゃらりという音がしたのだ。
敵は真後ろにいる。
だが振り返る事は出来ない。
何故なら首筋に当てられた刃が、こちらの行動を制限しているからだ。
そこへ刃の主の、小さく消え入りそうな声が静かに響く。

「動かないで。間違えて首を落としてしまう」

ぼそりと呟いたその言葉の直後、刃の主は夢美のロケットエンジンのエネルギータンクに一撃を叩き込んだ。

「しまっ!」

刃の主の一撃により、徐々に下がり始めるエネルギーメーター。
このままではエネルギーがなくなり時期に墜落してしまう。
さすがにこんなところで、死ぬつもりはない。
夢美は慌てて可能性空間移動船へと、逃げ帰っていった。

「あれ~? あいつ、何処行っちゃったんだろ~」

そこへ夢美が追って来ない事に気付き、引き返して来たチルノがやって来る。
そんなチルノに夢美を追い払った妖精は、にっこりと微笑みかけた。

「どうしたの、チルノちゃん」
「あれ? 大ちゃん、来てたの? さっき赤い人がいたんだけどさぁ……大ちゃん知らない?」
「その人なら帰っちゃったよ」
「なーんだ、あたいのスピードにびびっちゃったのか!」
「そうなのかなぁ」
「それより一緒に行こ! これから凄い事になるよ!」





外での激戦とは裏腹に、その女性は可能性空間移動船の中で静かに待機している。

「しかし………退屈だな」

刀を手に持つ男装の女性、明羅は弾幕戦が不得意な為船内で侵入者を迎え撃つ事にしていた。
しかし待てど暮らせど、侵入者は現れない。
向こうに乗り込んで来る気はないのだろうか。
そんな事を考え明羅が欠伸をしていると、船内にカランコロンという音が響いて来た。

「ようやくお出ましか」

可能性空間移動船の乗組員に、下駄を履いている者はいない。
ならば音の主は侵入者に間違いないだろう。
待ち侘びたその気配に、不敵な笑みを浮かべ刀を抜く明羅。
そして自信満々に、音のする方へ向かって走っていった。

「私の妖刀の錆になるがいい!」

やがて見えて来る赤と青の瞳の光。
明羅はその光の主の妖怪に向かって、自慢の刀で斬りかかった。
ところが謎の妖怪は跳び上がり、明羅の斬撃を華麗にかわす。
そのままふわりと、振り終えた明羅の刀の上に舞い降りた。

「何っ!?」
「…………………」

すると謎の妖怪は無言で右手を振り、刀の上を走り出す。
その先にいる明羅の頭を踏み付けると、思いっきり蹴り倒して船内を飛んでいってしまった。

「ぐっ……お、おのれ……逃げるのか!」

そんな妖怪を追いかけようと明羅は立ち上がる。
だがその背後で突如、凄まじい轟音が鳴り響いた。

「な、何!?」

音に反応して振り返った明羅の視界に入ったもの。
それは真っ二つに斬れ、夜空を覗かせた船の廊下の姿だった。

「馬鹿な………」

原因は明羅の斬撃ではない。
そもそも明羅の刀は、船には当たっていない筈だ。
しかしこうして船は斬れている。
ならば原因は一つしかない。
先程の妖怪が、こちらに一切妖気を感じさせる事無く斬り捨てたのだ。

「……………………」

だが刀身など全く見えなかった。
可能性があるとすれば、あの右手を振った動作。
しかしあんな一瞬で、こんな一撃を叩き込めるものなのだろうか。
もしかしたらあの妖怪は、凄腕の剣士なのかもしれない。
謎の妖怪の正体を考え、明羅は顎を擦る。
だが轟音を立てて船が傾き出すと、それどころではないと明羅は慌てて走り出した。

「夢美ー! 大変だ夢美ー!」

可能性空間移動船の廊下を、大急ぎで走る明羅。
そのまま明羅は勢いよく、運転席へと飛びこんでいく。
そこでは夢美とちゆりと里香が、モニターを真剣に覗き込んでいた。

「夢美、今…」
「分かってる! 分かってるから少し黙って! ………ちゆり、どう?」
「ダメダメ! 動力部を斬り落とされた! 今は非常電源でもってるけど、もう長くはもたな…」

更にそこへ追い打ちをかけるように、凄まじい揺れが夢美達を襲う。
途端に爆発するモニター。
もう船内からの状況確認は出来そうにない。
夢美達はこの一大事の原因を調べるべく、甲板へと飛び出していった。

「………な、何これ……」

そんな夢美達の前に広がる光景。
それは巨大な穴を開け金属片をばら撒きながら飛ぶ、可能性空間移動船の姿だった。
穴の向く先には、ぐるぐると回りながら飛ぶ一つ目の紫色の妖怪が見える。
恐らくは明羅を退け、可能性空間移動船に致命傷を与えた犯人だろう。
しかし追おうにも、最早これ以上の飛行が不可能なのは誰が見てもすぐに分かる。
止むを得ず夢美は新しいロケットエンジンを体につけ、ちゆりに大声で指示を出した。

「ええい、もうやけくそよ! ちゆり! 総員に脱出命令! 私は最後に一発、お見舞いしてやるわ!」
「ええ!?」

そう言って夢美は勢いよく飛び出していく。
残されたちゆり達は、とりあえず甲板の向こうで戦闘中のカナ達の許へと走っていった。

「見てなさい……コケにされたまま、引き下がれるものか」

夜空を全速力で飛び、夢美は空高く舞い上がる。
やがて聖輦船の遥か上空まで上がると、一つのビットを飛ばし何かの装置を動かし始めた。

「反物質制御装置、起動!」

夢美が力強く装置のボタンを押すと、ビットの周囲に奇妙なラインが現れる。
それは少しづつ形を成していき、暫くすると空中に巨大な十字架を作り上げた。
十字架は周囲を舞う塵に触れると、一瞬で塵を分解する。
夢美は装置を動かして、その十字架を聖輦船に向けて真っ直ぐ突き落とした。

「私の物にならないのなら、この場で何もかも消し飛んでしまえぇぇぇー!」

聖輦船目掛けて一気に落ちて来る十字架。
その姿を見た聖輦船の乗組員達は、十字架が放つ凄まじいエネルギーに危機感を覚えていた。

「これは……直撃したら船が消し飛ぶ程のエネルギーです! 何か手を打たなくては……」
「そんな事は分かってる!」
「だから今も弾幕、撃ってるんでしょ!」
「………だけど効いてるようには思えないんだよねぇ……」

十字架の放つ強大なエネルギーには、星達の攻撃も効果がない。
いくら弾幕を飛ばそうとも、十字架に触れた途端消滅してしまうのだ。
その間にも、どんどん迫って来る十字架弾幕。
そこへカナ達の攻撃が収まった事で、弾幕を防いでいた四人も帰って来た。

「『火の鳥 -鳳翼天翔-』!」
「『狂いの落葉』!」
「『夜雀の歌』!」
「『ナイトバード』!」

四人は十字架に弾幕を放ちながら、聖輦船へと着地する。
だが十字架は全くの無傷で、怯む事無く聖輦船との距離をどんどん縮めて来た。
もう他に打つ手がない。
誰もが諦めかけたその時、聖輦船の下からひょっこりとチルノと大妖精と多々良 小傘が飛び出して来た。

「びっくりした!?」
「あんた達……」
「チルノ、無事だったんだね!」
「へへ~ん! 皆、安心していいよ! なんてったって、あたいが呼んだ最強が来てくれてるからね!」

そう言って高らかに宣言するチルノ。
その様子を乗組員達は、何を言ってるんだという表情で見る。
するとそこへ急に押し寄せて来た強烈な寒波。
あまりの寒さに乗組員達は、ぶるぶると身を震わせ始めた。

「な、何だ!?」
「最強ー!」

次第に寒波は冷たさを増し、遂には吹雪を巻き起こす。
吹き付ける雪で真っ白に染まる視界。
その中で風上に立つ、何者かの後ろ姿が乗組員達の目に飛び込んで来た。

「お前は……」
「最強! 最強!」

聖輦船の屋根に立ち、純白のマントを棚引かせる。
真っ白な帽子に、薄紫のウェーブのかかった髪。
吹雪を物ともせず立ち続ける彼女を、人はレティ・ホワイトロックと呼んだ。

「ごめんなさい。私が出て来ると寒いでしょ?」
「……いや、来てくれて嬉しい。だがあの弾幕はさすがにどうにも……」
「別に弾幕そのものを止める必要はないわ」
「えっ!?」
「妹紅」

慧音の問い掛けを聞き流し、レティは妹紅に呼び掛ける。
その言葉に妹紅は、何事かと思いながら屋根の上へとやって来た。
そんな妹紅にレティは、聖輦船の後ろに張り付いた巨大な氷塊を指差す。

「あれを吹き飛ばしてくれる? お願いするわ」

それだけ言うと、屋根の上からゆっくりと降りて行った。

「何だか分からないが、思いっきりやればいいんだな!」

妹紅はレティに言われた通りに、氷塊目掛けて爆炎を飛ばす。
そのまま真っ直ぐ飛んでいき、直撃して氷塊を一気に溶かす炎弾。
途端に氷は水蒸気となり、凄まじい熱風を発生させた。
それに吹雪の勢いも合わさり、聖輦船は一気に加速する。
スピードが増した事で、十字架の落下位置から逃げ切る聖輦船。
やがて目標を失い地面に突き刺さる十字架を余所に、風を切り空高く浮かび上がっていった。

「………助かった、のか?」
「やった! やったよ! 助かったんだ!」
「凄い! 凄いわレティ! 貴方のおかげよ!」
「さすがレティ! 頭の良さまで最強ね!」

ピンチを脱した事で、一斉に沸き上がるレティへの絶賛の声。
それにレティは顔を赤らめて、にっこりと穏やかな笑みを浮かべた。

「………私は凄くないわ。妹紅のおかげよ」
「そんな事ないさ。私じゃあんな方法は考え付かなかった。お前の機転と能力があったからこそだ」
「…………そう? ……よかった。私、人間に褒められるのって慣れてないから………その……ありがとう」
「あたい! レティ呼んだの、あたいだからね! あたいも褒めていいよ!」
「おお、偉いぞ」
「えへへ~」
「………もしかしてさっきの氷のレールって、レティさんの力があったから……」
「あ、バレちゃった?」

次第に見えて来る魔界の入口も相まって、和やかに賑わい出す乗組員達。
そんな中ナズーリンは、ただ一人隅で俯く白蓮の許へと歩み寄った。

「………………………」

白蓮はぬえの亡き骸を、ぎゅっと抱きしめている。
このまま無事に魔界に着いても、もうぬえが帰って来る事はないだろう。
それを考えると白蓮は、脱出を手放しで喜ぶ事が出来なかった。

「…………魔界に着いたら立派な墓、建ててあげよう」

その背中を優しく叩くナズーリン。

「………はい」

白蓮はじっと目を瞑り、静かにそう呟いた。





空の月に開く魔界への入口。
その中へと、聖輦船は飛び込んでいく。
同時に魔界から流れ込む膨大な魔力。
それは人のいなくなった里へと吸い込まれていった。

「………やっと来たか」

無人の里でただ一人、里の中心に立ち尽くすエリス。
彼女がにやりと笑い指をパチンと鳴らすと、里に向かって来た魔力は地面に染み込んでいった。
途端に里中の地面が一斉に光り出す。
それは里全体にいつの間にか書き込まれていた、巨大な魔法陣の光だった。

「オープニングアクトの出番は終わりだ。ここからはヘッドライナーのライヴステージ。
 時期にロックな大物アーティストが、ライヴステージにやって来る! 開演時間まで数刻足らず!
 さぁ! これから始まる最高にロックなステージを楽しもうじゃないかぁ!」

そう言ってエリスはステッキで魔法陣を叩き、その光をより強く輝かせる。
蒼く輝く魔法陣は凄まじいエネルギーを放って、エリスの長い髪を美しく棚引かせた。





To Be Continued…







  • 小傘と大妖精強っ!!こいつらガチでは強いのかな? -- 名無しさん (2011-07-27 15:36:44)
  • ぬえ・・・ -- 名無しさん (2014-04-14 00:52:17)
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