白蓮が幽香と戦い始めた頃、東門では一輪が狐面の女を追い詰める。
高速で飛び交い、様々な角度から襲いかかるチャクラム。
それは狐面の女の体力を、徐々に奪っていった。

「普通の人間だったら、とっくにバラバラになっていたわね」
「な、何故このような……」

嘗めていた相手に圧倒され、狐面の女は信じられないといった様子で立ち尽くす。
だがそれでも狐面の女は、刀を構え一輪に向かって行く。
その様子に一輪は溜め息を吐くと、再びチャクラムを飛ばし攻撃した。

「くっ!」

一輪の攻撃は刀に防がれ、当人には当たらない。
しかしその一撃はすでに何回も攻撃に堪えて来た、楼観剣と白楼剣にひびを入れた。

「ば、馬鹿なっ!」
「………姐さんは血生臭い話を嫌う。今、逃げるなら許してあげるけど……どうする?」

いくら悪党と言えど止めを刺したとなれば、白蓮は大層悲しむだろう。
白蓮を傷つけたくない、そう思い一輪は情けをかけてやろうと撤退を提案する。
だが狐面の女は仮面の隙間からキッと睨み付け、一輪に刀を突き付けた。

「私に勝ったつもりですか!? 貴方達のくだらぬ思想などが、我らが神の理想に及ぶ筈がなのです!」
「……ん?」

その言葉に眉をピクっと動かす一輪。
訝しげな表情を浮かべながらも、気丈に振る舞おうと冷静に聞き返す。

「私達の思想がくだらないってのは、一体何を見て判断してるの?」
「ふん、私達は知っているのです。貴方達があの僧に連れ従い、平等などと謳っている事を。
 全くもってくだらない! 私達、神に仕える神官のみが理想郷での自由を許されるのです!
 貴方達妖怪に、ましてや罪人たる人間に自由などありません。神の為に奴隷として働く事が、貴方達の運命なのです。
 それなのに平等などとは嘆かわしい。自分達が如何に穢れた身か理解していない、愚か者の考えですよ!」
「おい、黙れよ」

すると一輪は、恐ろしい形相で狐面の女を睨み付けた。

「姐さんが愚か者? あんた達に何が分かる。姐さんがどれだけ周りを想い、大切にしてくれてるかを!
 私だって何も皆が皆、姐さんの理想を理解出来るとは思ってない。でもねぇ!
 あんたみたいな自惚れた輩に、姐さんの思想にケチをつける資格はない! 雲山! 捻り潰すわよ!」

一輪はそう言うと、チャクラムを右腕に引っ掛け雲山をそこに集め出す。
そのままどんどん集めていくと、一輪の右手は高密度の雲に覆われ巨大な拳となった。
巨大な拳は雲故の軽さと、入道故の馬鹿力を備え持っている。
見た目にはアンバランスながらも、その強大な拳が放つプレッシャーは尋常ではなかった。

「姐さんを馬鹿にした事、たっぷり後悔させてやるッ!」

その巨大な拳を振りかざし、一輪は狐面の女に向かって行く。
圧倒的威圧感、そして揺れ動く大気が恐怖となり狐面の女に襲いかかった。

「こんな……事が……」
「吹き飛べえええぇぇぇぇぇ!!」
「ざ、罪人めが!」

最早、余裕などありはしない。
狐面の女は無我夢中で刀を振るう。
しかし巨大な雲の拳相手に、ひびの入った刀では敵う筈がない。
拳は刀を叩き折ると、その勢いのまま狐面の女を空高く殴り飛ばした。
更に一輪は宙を舞う狐面の女の真下に立ち、拳を豪快に振り上げる。
その拳はもの凄いスピードで何十発もの拳を繰り出しながら、落ちて来る狐面の女に向かって行った。

「ぐっ、妖怪……なんぞにいいぃぃぃ!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァ!!」

無数の拳が無防備な狐面の女を、容赦なく殴り続ける。
徐々にその体は骨が砕け内臓が飛び出し、ぐちゃぐちゃになっていく。
やがて一輪が拳を振り終えると、ただの肉塊となった女が地面に落ち四散した。

「……あ……ぁぁ…」

その凄まじい光景に、離れた場所で見守っていた慧音は開いた口が塞がらない。

「慧音ー!」

そこへ飛んで来る妹紅。
慧音の無事を確認すると、肉塊を見て一輪に話しかける。

「……助けてもらっておいてこんな事言うのもなんだが、お前達は殺生を認めないんじゃなかったのか?」

すると一輪は返り血で真っ赤に染まった顔を向けて、にっこりと笑ってみせた。

「確かに命蓮寺は殺しはしない主義よ。でも命どころか魂もない人間を倒す事は、果たして殺しと言うのかしら?」





一方、西門での戦いは空中戦へと舞台を移していた。

「さあ呼っべ~♪ その名を呼っべ~♪ ああ~ぼく~ら~のキャプテン・ムラサ~♪」

陽気に錨を振り回し、村紗は貴族面の女に殴りかかる。
だが貴族面の女は、ギリギリのところで攻撃をかわし続けていた。

「まったく乱暴な妖怪は嫌いですわ! もっと美しく魅せるような攻撃は出来ないんですの!?」
「錨の曲線美が分からないか?」
「分かりたくも、ありませんわ!」

そう言って何処かへ飛んで行ってしまう貴族面の女。
まさか逃げるつもりなのだろうか。
残された村紗は追いかけようとするも、そのスピードには付いていけない。
そうこうしている間に、貴族面の女の姿は見えなくなってしまった。

「敵前逃亡? 困ったなぁ。……そう言えばぬえの水飴、まだ残ってるかなぁ」

すでに戦いの事は忘れ、違う事を考え出し村紗は涎を垂らす。
ところがそこへ遥か彼方から飛んで来る一筋の光。
それは逃げた筈の貴族面の女が放った、一直線に村紗を狙ったレーザーだった。

「へ? 何の音…うぐっ!?」

レーザーは村紗の不意を突き、その心臓を綺麗に射抜く。
大ダメージを受け、力無く地面に落ちて行く村紗。
その体は落下中に液体に変わると、服と錨だけを残して消えてしまった。

「うふ、うふふふふふふふ! 最後に勝つのは神の御加護のある私、それは最初から決まっていた事なのですわ!」

そこへ貴族面の女が飛んで来て、高らかに勝利宣言をする。
村紗は消滅した。もう邪魔者はいない。
あとは里を襲撃し、人間共を滅ぼすだけだ。
仮面の口元に手を当て、貴族面の女はくすくす笑う。
しかしそんな彼女の耳に、何処からともなく陽気だが不気味さを感じさせる声が聞こえて来た。

「舟幽霊がこんなにあっさり死ぬと御思いで? 舟幽霊の本場は海、一度転覆してからが本当の船旅でございます。
 さぁ地獄への愉快な船旅、此処からは海底目指して一直線です!」

すると突然、貴族面の女を取り囲むように発生する水の壁。
それはドーム状に広がって、貴族面の女の頭上を覆う。
そのまま下側にも伸びていくと、出口を塞ぎ閉じ込める。
明らかに普通じゃない水の動きに、貴族面の女は動揺を露わにした。

「な、何ですの……これ」

慌てて貴族面の女は、ミニ八卦炉から熱線を放つ。
だが相手は液体。熱線を放出した瞬間は穴が開くものの、すぐに塞がり水の牢獄を作り続ける。
どう考えても何者かの意思で動いている水、その正体に貴族面の女はふと気が付いた。

「まさか…!」

上を見る貴族面の女、その視界に映り込んだのは液状化した村紗の上半身だった。
何を隠そう、この水すべてが村紗本人だったのだ。
液体となった村紗の体は透き通っており、ゆらゆら揺れながら背景の夜空をその身に映し出す。
更に下半身は海月の傘のように変化していて、貴族面の女を閉じ込める水の檻を作り出していた。
液体の体は弾幕も熱線もすり抜ける。
まさに対弾幕使い用の牢獄という訳だ。

「お客様ー! 当船は途中下船は受け付けておりません! 大人しく海底への旅をお楽しみくださいませ!」

そう言って村紗は、傘の中に水を流し込んで来る。
下方が塞がっている為、水は傘の中に溜まっていく一方だ。
忽ち傘は水でいっぱいになり、中にいた貴族面の女は水中に放り出された。

「……私を溺死させるおつもりで? お生憎様! 私に水責めは通用しませんことよ!?」

しかし貴族面の女は何ともなさそうに、水を掻き分け脱出を試みる。
それは仮面の者達が、呼吸を行っていないが故の行動。
ところが泳ぎ続ける貴族面の女は、段々妙な重圧を感じ始める。
同時に何故だか前になかなか進まなくなって来た。

「どういう……事ですの…?」
「あー、お客様。それは水圧でございます。時期に当船は海底へ、人体も潰れる強水圧の世界へ参ります。
 衝撃に備えてお待ちくださいませー!」
「!!」

海底の水圧ともなれば、生身の体など一溜まりもない。
村紗の言葉に、急いで貴族面の女は脱出しようと慌て出す。
だが今更焦っても、もう手遅れ。
少しづつ強くなる水圧が、その肉体をじわじわと押し潰していった。
やがて村紗の旅も終わりを告げる。

「……………間も無く当船は港に到着いたします。足下にご注意のうえ、お降り下さい」

その言葉と同時に、傘の中身を水ごと空中に解き放つ村紗。
赤黒く染まった水の中で揺れるかつて人だったものは、そのまま地面に叩きつけられ原形を留めない程ぐちゃぐちゃになった。

「ご乗船、ありがとうございましたー!」





四つの門で行われた戦いは、南門でも決着に向け動いて行く。
ぬえはにやにやと不敵に笑いながら、畑道を道化面の女目掛けて走り出していた。

「奇跡ッ!」

しかしただでやらせてくれる程、相手も生易しくはない。
道化面の女は向かって来た、ぬえの足下を狙って霊力の爆発を起こした。

「うにゃー!」

不意の一撃に対処出来ず、ぬえは派手に転んでしまう。
そのままゴロゴロと、ぬえは畑道を転がっていく。
その隙を狙って、道化面の女は弾幕を仕掛けて来た。
ところがぬえはそれを見るや否や、翼を地面に突き刺し急停止する。
そして弾幕をかわし道化面の女に足を向けると、足を蛇に変化させて襲いかかっていった。

「んなっ!」

唐突に向かって来る二匹の蛇に、対応が間に合わず道化面の女は喰らい付かれる。
するとぬえは足を空高く振り上げ、道化面の女を持ち上げ出した。
蛇に噛まれた患部を引っ張られ、痛みから抵抗出来ない道化面の女。
そんな彼女を一気に振り降ろして、ぬえは勢いよく地面に叩きつけた。

「にひひ! にひひひひ!」
「な、何者なんだよぉ! 君はぁ!」
「今も昔も、これからもずっと正体不明よ!」

そう言うとぬえは足を元に戻し、ぴょんと跳ねて立ち上がり三叉槍を舌で舐める。

「うん、甘い! やっぱり水飴を塗っておいて正解だったわ!」

その三叉槍をくるくると回しながら道化面の女に近付くと、にやにやしながら突き付けた。

「にひひひひ! どうするどうする~? 正体不明と、どうやり合う~?」
「ううぅ………斯くなる上は!」

道化面の女はその言葉と同時に、竜巻を起こして空中に舞い上がる。
空高く聳える塔のような竜巻。
その上に浮かび上がると、道化面の女はぬえを狙って弾幕を放って来た。

「奇跡ッ! 奇跡奇跡奇跡ッ!!」
「ああ~、さすがに飛ぶには風が強いか~」

ぬえは弾幕をかわしながら、そう呟く。
如何せん、この暴風の中では空を飛んで上を目指すのはきついだろう。
だからと言って上空の相手に、弾幕で対抗するのは分が悪い。
相手に空を飛ばさせず、自分は上から攻撃出来る。
まさに空間を支配した無敵の戦術、の筈だった。
だがぬえは弾幕をかわし切ると、堂々と竜巻に突っ込んでいく。
その様子に一瞬ビクッとした道化面の女だったが、すぐに余裕に満ちた声色でぬえを馬鹿にし出した。

「無駄だよ、無駄! 飛ばされておしまいさ!」

確かに普通に向かって行けば、風に吹き飛ばされてるところだっただろう。
しかしぬえは地面に翼を突き刺すと、体を固定して少しづつ竜巻の中に入っていった。

「なっ……そんな!」

あれなら飛ばされずに、竜巻に近付く事が出来る。
このままでは竜巻の中心に入られてしまう。
慌てて弾幕を放ち、道化面の女はぬえを止めようとする。
だが突き刺していない翼を巧みに操り、ぬえは弾幕を弾き飛ばした。
そして遂にぬえは、暴風の中心の無風空間に辿り着く。
すると真上の道化面の女を指差し、いつものにやにや笑いをして飛び上がった。

「う、うわあああぁぁぁ! く、来るなああぁぁ!」

無風空間の中ならば、外の竜巻などお構いなしに自由に飛べる。
徐々に、にやにや笑いながら迫るぬえ。
それに道化面の女は必死に弾幕を放って、ぬえを撃ち落とそうとして来た。
しかし先程と同じように、翼ですべて弾かれてしまう。
やがてぬえは道化面の女のすぐ傍まで近付く。
同時に手を虎に変えると、飛び上がった勢いのまま道化面の女に突き刺した。

「ぐがあっ!?」

腹に食い込んだ一撃は、仮面の隙間から血を滴らせる。
だがぬえは更に追撃と言わんばかりに、6枚の翼を蛇に変えて来た。

「ま、待って! 命だけは助けて!」

その様子に、慌てて命乞いをする道化面の女。

「命って………貴方達、もう死んでるじゃない」

しかしぬえはきょとんとしてそう言うと、蛇を道化面の女の体内に潜り込ませ内側から喰い破った。
途端に消え去る竜巻の塔。
ぬえは動かなくなった道化面の女を放り捨てると、三叉槍を舐めてまたにやにや笑い出した。

「はい、おしまーい。じゃあご褒美を貰いに行きましょっと! にひひひひ!」





各門で行われた防衛線。
それも残るは此処、北門だけとなった。

「……何故だ! 何故当たらない!」

儀式面の女は大量のナイフを投げ、ナズーリンと星を攻撃する。
だがその攻撃は、すべて軌道がずれてかわされ続けていた。

「…………分からないのかい?」

その状況に焦る儀式面の女に、見下した態度でナズーリンは声をかける。
儀式面の女は強い殺気を放ち睨み付けるが、全く気にする事無くナズーリンは星の方を見た。

「星には財宝を集める力があってねぇ……本来はその通りの能力なんだけど、何とかと鋏は使いようと言うだろう。
 この能力を応用すれば、財宝になり得る貴金属を好きな場所に吸い寄せる事が出来るんだ。
 君のナイフも銀だろう? なら何百本投げようとも私達には当たらないさ」
「ナズーリン、貴方さりげなく私の事を馬…」
「言葉の綾だよ、星」

そう言ってナズーリンは、得意気に儀式面の女を見る。
儀式面の女は怒りで腕を震わせながらも、押し殺したような低い声で呟いた。

「……最初から……こちらの手を読んでいたのか」
「あっははは! 馬鹿みたいだねぇ、君は!」

途端に大声で嘲り笑うナズーリン。
そしてにやりと笑って、儀式面の女の問いに答えた。

「君達は門を壊して里に入って来る時に、最低でも一回は攻撃を繰り出している。
 その攻撃の放つ気から本人がどれ程の力で放っているか、またどれ程の余力を残しているか。
 最高出力及び能力の系統を調べる事は、さほど難しくはない」
「馬鹿なっ! 一発の攻撃だけで、しかも直接見ずにそこまで調べる事など…」
「出来るさ。気の波長から相手の能力を導き出す事など、子鼠達を介してでも造作もない事さ。
 そして調べた結果、君達の能力は私達の誰かとそれぞれ相性が悪い事が判明した。
 それさえ分かれば簡単さ。もっとも相性のいい相手をぶつけて、完封してやればいい。
 気付かなかったかい? 刀に対し、明確な実体のなく斬れない雲の拳。
 熱線に対し、爆発や熱源に強い水で出来た檻。奇跡に対し、不意を突きにくい正体不明。
 すべて私の算段通りと言う訳だ。それからこれは、こちらの事情によるものだが君達の正体も調べさせてもらったよ。
 本体は仮面、宿主はすでに死んでいる。仮面の主が裏で手を引き、死体を操っている。こんなところだね。
 だがそれさえ分かれば十分さ。おかげでこちらは『殺し』をせずに君達を全力で叩き潰せる」
「あ、ありえん……」
「君は私を誰だと思っているんだ? 賢将の名は伊達じゃないぞ?」

そこまで話すと、ナズーリンは星に合図を送る。
するとそれまで黙っていた星は、凄まじい妖力を放ち始めた。
その妖力はジジジと音を立て、周囲の小石もカタカタと震え出す。
やがて星自信もバチバチと音を立て光り出し、そのまま光に包まれていった。

「……何を…」
「見てれば分かるさ」

光はどんどん大きくなり、輝きそのものも強くなっていく。
そして突然弾け光が治まると、そこにはバチバチと毛を逆立てる猛獣が鎮座していた。

「………ぁぁ……」
「ところで賢将が賢い将軍の事なのは知っているかい?」

そう言うとナズーリンは猛獣の上に飛び乗る。
途端に猛獣の背中から流れ出す霊力。
それはナズーリンに纏わりつくと鎧と兜へと変化した。
その鎧と兜が固定されてるか、キチンと確認するナズーリン。
確認が終わり問題がない事が分かると、高らかに薙刀を振り上げ大声を出した。

「さぁ、星! そして同胞達よ! 聖と聖の守りたい者の為に、共に戦おうじゃないかぁ!」

その言葉に賛同するように、何処に潜んでいたのやら次々と鼠の群れが現れる。
鼠達はナズーリンを囲むように陣を組むと、振られた薙刀を合図に一斉に儀式面の女に襲いかかっていった。

「くっ…! 鼠などに!」

そうは言っても、これだけの数の鼠に群がられれば一溜まりもない。
何とか動きを止めようと、儀式面の女は襲い来る鼠にナイフを投げる。

「星!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォ!!」

しかし猛獣、星が咆哮を上げるとナイフは近くの瓦礫に張り付いてしまった。
そこへ向かって来る鼠の大群。

「……ま、まだだ!」

だが儀式面の女は瞬間移動して、鼠の群れの突進を回避した。

「そう、君の能力は時間を止め移動する事だったな」

そのまま瞬間移動を繰り返し、儀式面の女は鼠をかわしつつナズーリンに迫っていく。
そして遂に星の足下まで、鼠に捕まる事無く辿り着いた。

「だが生憎、私に探し当てられないものは……ないっ!」

そう言って突如、薙刀を振り下ろすナズーリン。
そこには瞬間移動で現れたばかりの儀式面の女が立っていた。

「があっ! ば、馬鹿な……!」

不意を狙ったつもりが、逆に薙刀の一撃を喰らい怯む儀式面の女。
今の攻撃は明らかに、出た瞬間を狙って来た。
あんな一瞬で反応するのは、こちらの動きを読んでなければ不可能。
いや、そんな筈がない。
もしかしたら、たまたま適当に振り下ろしただけかもしれない。
そう考え儀式面の女は時間を止め、別方向から攻撃しようとした。
しかしナズーリンの薙刀は、今度も儀式面の女が出た瞬間に振り下ろされる。
偶然が二度も続くなど、そうそうある事じゃない。
相手は完全に、こちらの一手先を読んでいる。
読心術か、はたまた未来予知か。
いずれにせよ今の自分に勝てる相手ではない。
最早、儀式面の女には一旦逃げるしか手がなかった。

「逃がすか!」

だがナズーリンは追撃に走り出す。
勢いよく星の前に飛び降りるナズーリンに、咆哮を上げ能力を使う星。
その力を受けてナズーリンは、一気に加速し儀式面の女に迫っていった。

「ぐっ! おのれ! 裏切り者があぁ!」

そのまま逃げる儀式面の女に追い付くと、ナズーリンは薙刀を振る。
しかし儀式面の女は手に持ったナイフで薙刀の攻撃を弾き返した。
お互い両手を使い、相殺に終わったかのように見えた攻撃。
だがナズーリンは牙を剥くと、儀式面の女の腕に喰らい付き噛み千切る。

「ぐがああああぁぁ! あ、ありえん……この私が……」

更にそこへ後ろから走って来た星の牙が、儀式面の女に喰らい付こうとしていた。

「は、ははは……はーっはっはっは! 幻月様、万歳!!」

程なくして辺りに響く骨の砕ける音。
その音のすぐ傍でナズーリンは鎧を脱ぎ、じっと月の光る空を見つめていた。

「……この気……この禍々しい力……こいつらの主は私達が敵う相手じゃないと言う事か……」





里の中央広場、元々は避難場所だった地。
そこでは今、白蓮と幽香が激闘を繰り広げている。
幽香が拳を振るえば、白蓮はそれを華麗に受け流す。
熱線を放出すれば、手刀を振り真っ二つに切り裂いてみせた。

「………………」

そんな白蓮を、幽香は不快そうに睨み付ける。
別に攻撃が通らないから、機嫌が悪い訳ではない。
それより先程から白蓮が一度も攻撃して来ない事が、幽香にとっては不愉快なのだ。
妖怪なら未だしも人間に嘗められるなど、幽香のプライドが許さない。
幽香は白蓮をじっと睨みながら静かに、しかし強い殺気を放って口を開いた。

「なんでやり返さないの? 手加減のつもり?」

白蓮はそんな幽香の問い掛けに、そっと目を閉じる。
やがてゆっくり瞳を開くと、幽香をじっと見てこう答えた。

「ならば何故、貴方はそんなに辛そうな目をしているのですか? 貴方も本当はこんな事、望んでいないのではないですか?」
「!!」

その言葉に幽香は、わなわなと腕を振るわせる。
そして白蓮に向けて熱線を放出する構えを取ると、感情を露わにして大声を張り上げた。

「貴方に何が分かるって言うの! 何も知らないくせに勝手な事言わないで!」

途端に膨大なエネルギーが、白蓮目掛けて飛んで行く。
それを白蓮は手刀で切り捨て、幽香に真剣な眼差しで語りかけた。

「確かに私は何も知りません。だからこそ事情があるなら話してほしいのです!
 何故戦わなければならないのか、お互いに話し合えば争いは避けられる筈なのです!」

幽香を説得しようと、一生懸命訴えかける白蓮。
だが幽香は歯を噛み締めると、近くの家に熱線を放とうと構え出した。
そこにいたのは逃げ遅れた小さな子供、恐らく騒動で親と逸れたのだろう。
子供は怪我をしたのか、頬を押さえながら怯えた目で幽香を見る。
このままでは無関係な子供が巻き込まれてしまう。
焦る白蓮に幽香は大声で怒鳴り付けた。

「何もかも綺麗事で済ませられると思ったら大間違いよ! 力がなければ、戦わなければ何も守れない!
 貴方が私と戦おうとしなければ、里の人間が死ぬ事になるのよ!」

恐怖に怯え、子供はその場に座り込んでしまう。
間も無く熱線は放出される。迷っている時間はない。
白蓮は咄嗟に幽香の右腕を払い熱線の軌道を逸らすと、右手で腹目掛けて貫手突きを繰り出した。

「うぐっ!」

幽香の柔らかい腹に、深々と突き刺さる白蓮の右手。
堪らず幽香は口と腹を押さえて後退りする。
しかし尻もちを突くと、その場で咳き込み白蓮を睨み付けた。

「……何よ………出来るじゃない……」
「だ、大丈夫ですか? ………どうして戦わなければいけないのですか。
 もっと他の方法でも守りたいものを守る事は出来る筈です」
「………甘いのよ、貴方。どんな理屈も圧倒的な暴力の前では意味を成さない。
 貴方の力では、あの悪魔を止める事なんて出来やしないのよ」
「……三幻想が……絡んでいるのですね……」
「…………私はあの悪魔のおかげで強くなれた。だからあの悪魔には誰も敵わない事を誰よりも知ってる。
 あの悪魔を、幻月を止められるのは三幻想だけよ。貴方達が足掻いたところで、どうにもならない。
 従うしか………他に方法がないのよ………」
「………大丈夫です。私達には三幻想の一人、サリエル様が付いています。ですから貴方も…」

そう言って白蓮は幽香に手を差し伸べようとする。
だが幽香はふっと鼻で笑うと、真剣な眼差しで白蓮を見た。

「貴方は何も分かっていない。サリエルが味方? 違うわ、根本から間違ってる。あの女は、いえ三幻想は…」
「喋り過ぎよ、幽香」

ところがそこへ突如飛び込んで来る淡々とした声。
その声の主を探そうと、白蓮は辺りをキョロキョロとする。

「うぐあぁぁ!」

しかし悲鳴に驚き前を向くと、そこには巨大な鋏に腹を貫かれた幽香の姿があった。
鋏は大地にいつの間にか流れ出した、邪気の中から飛び出している。
その思わぬ事態に、口を手で覆う白蓮。
だが幽香は貫かれながらも、自身の後ろへと視線を向けた。

「な………」
「ぐっ………む、夢月……」

途端にその言葉に反応するかのように、幽香の背後に集まり出す邪気。
それは徐々に深い闇を作り出すと、その闇の中から白い仮面が姿を現した。
白い仮面は幽香の方を向くと、先程の淡々とした声で喋り出す。

「所詮は姉さんに捨てられたゴミクズね。まさか人一人殺す事も出来ないなんて。姉さんが失望するのも分かるわ」
「……くっ!」
「……………………」

しかし白蓮は、その仮面が何処か悲しそうな表情をしている事が気になっていた。
笑っているようで泣いている。
不気味だが同時に持ち主の心を現しているかのような仮面。
きっとこの仮面の主も、何処かで苦しんでいるのだろう。
白蓮はそんな事を思いながら、幽香の無事を心配している。
すると幽香に夢月と呼ばれた仮面の主は、大きな溜め息を吐いて呟いた。

「もういい。私の配下に雑魚は必要ない。貴方みたいなゴミクズは不用品よ」
「ま、待って! エリーは!? くるみは無事なんでしょうね!?」

そんな夢月に幽香は縋り付くように叫ぶ。

「…………………貴方、何を言っているの?」
「えっ」

だが帰って来た答えは、無情なものだった。

「私は貴方に命令を下しただけ。誰も従えば二人を助けるなんて言ってないわ」
「………そ、それじゃあ…」
「すぐに同じ所へ送ってあげる」
「………………む、夢月うううウゥぅぅぅううウウウううゥぅぅゥゥぅぅゥウううウうぅぅゥゥぅ!!」

夢月の言葉に、この世のものとは思えない凄まじい叫び声を上げる幽香。
その瞳からは真っ赤な涙が流れ出していた。
しかし夢月は淡々とした口調を崩さない。

「耳障りよ。少しは姉さんを楽しませてから死になさい」

そして鋏から大量の邪気を噴き出させると、幽香の体内に流し込んでいった。

「が、あぐっ……ぎ………ギやあアアァァぁああぁァぁぁァあアアアあアアぁァァァ!!」

夥しい量の邪気に体を侵食され、幽香は悲鳴を上げ苦しみ悶える。
だが夢月はそんな事はお構いなしに、どんどん邪気を流し込んでいった。
次第に邪気は体中に溜まり、内側から透けて幽香の肌をどす黒く染める。
更に行き場を失った邪気は幽香の体を乗っ取り、強制的に巨大化させていった。

「……………これは……」

止めどなく溢れる大量の邪気は、幽香をどんどん巨大化させていく。
それは家よりも門よりも高くなっても、尚治まる気配を見せない。
やがてようやく巨大化が止まると、幽香は四つん這いになって白蓮を睨み付ける。
その姿は数百mはありそうな、どす黒い巨人と化していた。

「それだけの質量があれば、雑魚でも少しは戦えるでしょ? 花らしく最期くらいは姉さんを魅せなさいよ」

そう言い残して消えて行く白い仮面。
残された白蓮は、巨大な幽香を前に茫然としていた。

「さすがに……私もどうしたらいいのやら………あの、幽香さ…」
「グガアアアアアアアアァァァァァァァァァァ!!」

邪気に乗っ取られた幽香に、もうまともな会話は成立しない。
ただ内側から、邪気の思うがままに操られ暴れ狂うのみ。
最早戦って倒すしかないが、この大きさの相手にどう立ち向かうべきか。
しかし幽香はそんな立ち尽くす白蓮に、一切の躊躇なく手を振り下ろして来た。

「!!」

あんな巨大な一撃を受ければ、簡単に潰されてしまう。
白蓮はすんでのところで攻撃をかわし無事、事無きを得る。
だが地面を叩いた衝撃で地響きが起こり、同時に襲いかかった突風が白蓮を吹き飛ばしてしまった。

「あ~れ~」
「聖!」

そこへ飛んで来て、白蓮を受け止める村紗とぬえ。

「姐さん! こっちは終わったわ! 里の人達も慧音達が集め直してる!」
「どうやらあとは、こいつだけみたいだ。で、これは何がどうなってるんだ?」

更に一輪と星とナズーリンも合流し、命蓮寺のメンバーが一ヶ所に集まった。

「それが……夢月という方が幽香さんをあんな姿に……」
「これはまた……近くで見ると尚更デカい」
「そして黒いです」
「で、エロい」
「君達は何を言ってるんだ」
「さすがに雲山も、あれに対抗出来るような大きさと密度になるのはちょっと……」
「さて、どうしたものかねぇ」
「あーあ、もう帰って飴舐めたい。……ってあれまずいんじゃない!?」
「へ?」

ぬえの言葉に、幽香の方へ振り向く命蓮寺のメンバー達。
そこには白蓮達を狙って、幽香が熱線の放出準備を始めていた。
あの巨体から熱線が放たれれば、自分達はおろか里も一瞬で吹き飛んでしまう。
何とか放出前に止められないかと、命蓮寺のメンバー達は慌て出した。

「と、兎に角攻撃だ! 何か怯ませられるような攻撃を…」
「ダメ! 全然効いてない!」
「錨、沈める!? 船なら止まるわよ!?」
「船止めてどうするんだ! 攻撃を止めるんだよ、攻撃を! ぶつけろ!」
「うっしゃー! イヤッッホォォォオオォオウ!! ………効いてない……」
「じゃあ私は攻撃を正体不明にする!」
「分からなくしてどうするのよ!」
「ううー! 一輪が殴ったー!」
「そんな事してる場合か!」
「ナズーリン、熱線が………」
「えっ? ………あ」

しかし健闘虚しく放たれる熱線。
その凄まじい閃光が、白蓮達に襲いかかって来た。

『う、うわぁー!』
「ギャーギャー五月蝿いわね……おちおち寝てもいられないわ」

ところがそんな面々を、冷たい風が吹き付ける。
同時に白蓮達の前に、突如現れる真っ赤なカーテン。
それは膨大なエネルギーの熱線を、いとも容易く防ぎ切る。
そしてバラバラに飛び散ると、その影にいた女性の姿を露わにした。

「あ、貴方は……」
「まったく……この時期はナーバスになってるのに……」

その女性とは秋 静葉、八百万の神の一柱にして紅葉の神。
真っ赤なカーテンの正体は、静葉が巻き起こした落ち葉の壁だったのだ。
静葉は白蓮達に背中を向けたまま、囁くように話しかける。

「それで……私はあの騒がしいのを、どうにかしたいんだけど……問題ないでしょ?」
「いや、そりゃやってくれるなら嬉しいけど…」
「なら問題ないわ」

そう言うと静葉は幽香に向かって飛んで行った。

「姉さん、ファイトー!」

その後ろ姿を妹の秋 穣子は、張り切って応援して送り出す。
そんな穣子の応援に、静葉はそっと親指を立てた。

「貴方は戦わないのね……」

そのまま幽香の頭目指して、どんどん静葉は飛び上がっていく。

「グギャアアアアアアアァァァァァァァ!!」

だが幽香もただでは近付かせてくれない。
腕を大きく振りかぶると、静葉を薙ぎ払おうと一気に手を振りかざして来た。

「あ、危ない!」
「鬱陶しいわねぇ……邪魔よ」

しかし静葉は動揺する事無く、大量の落ち葉を自分の周りに集め出す。
それを突き破る幽香の手。
だがそこには静葉はおらず、落ち葉だけが風に乗ってひらひらと舞い出した。
では肝心の静葉は何処へ行ったのか。
その答えはなんと、振り終えた幽香の手の上だった。
静葉は足場代わりの手を思いっきり蹴り、再び空中に飛び出していく。
そして一気に飛び上がると、遂に幽香の額へと辿り着いた。
しかし静葉は幽香の眉間を人差し指で突いただけで、降りて来てしまう。
だが静葉が地面に降り立つと、幽香の体に異変が起こり始める。

「グ……ガ………アアア……」

なんと静葉に突かれた部分が、木の幹のように木質化していたのだ。
木質化は徐々にその範囲を広げていき、全身に広がっていく。
すると静葉は戦闘で散らばった落ち葉を集め、空高く巻き上げ始めた。
まるで真っ赤な龍のようになり、空に運ばれていく無数の落ち葉。
それはやがて霊力による制御を失い、空中で四散する。
その落ち葉は風に揺れてひらひらと舞いながら、ゆっくりと鮮やかに地面に落ちていった。

「終焉こそ我が喜び、散りゆく花こそ美しい。さぁ、降り注ぐ紅の雨の中で眠るがいい」

そう言うと静葉は一枚だけ手に持った落ち葉を放し、穣子達の許へと歩いて行く。
その後ろでは全身に木質化の広がった幽香が、何枚もの落ち葉に包まれ物言わぬ樹木と化していた。

「カッコいい! カッコいいよ、姉さん!」

目をキラキラさせながら、穣子は静葉を出迎える。
里を襲って来た者達は全員倒された。
それに星もほっと胸を撫で下ろし、穏やかな表情を浮かべて白蓮に話しかける。

「とりあえず脅威は去ったみたいですね………あら?」

しかし白蓮は悲しそうに、そっと幽香に手を合わせていた。

「……出来る事なら話し合いで解決したかったです。どうか安らかにお眠りください」

襲って来た相手の為に手を合わせるなんて、おかしな奴だと言う者もいるかもしれない。
だがそれが、白蓮が様々な人や妖怪に好かれる所以でもあるのだ。

「別に死んだ訳じゃ…………ん?」

そこへ何処からか聞こえて来る拍手の音。
その場にいた全員が、音の主を探し始める。
すると半壊した家屋の屋根の上に、エリスが腰かけて手を叩いていた。

「いや、お見事。いいライヴだったよ。ただ私の趣味じゃあないけどね」
「エリスさん………貴方、今まで何処に…」
「ただの野暮用さ」

白蓮の質問をはぐらかし、エリスは家屋から飛び降り白蓮達の前に降り立つ。
そこへやって来る慧音と妹紅。
二人はその場にいる者達の顔を見ると、走って来て荒くなった呼吸を落ち着かせて口を開いた。

「侵入者はどうなったんだ?」
「私達が全員倒しちゃったよー」
「そうか、こっちも何とか全員無事だ。怪我人はいたが、死者は出ていない」
「そいつはよかったねぇ! 大団円じゃないか!」

そう言って楽しそうに、エリスは星のステッキをくるくる回す。
そんなエリスに、命蓮寺のメンバー達は次々と不満を口にし出した。

「貴方、里が危ないって時に野暮用って…」
「それで誰か死んだの? 今、誰も死んでないって言ってたじゃないか。私が出る幕はなかったって事だよ」
「結果論じゃない? それ」
「あんた達から見たらね。私は最初から、あんた達ならやれるって思ってたよ?」
「聞こえはいいですが、要するに助ける気など最初からなかったと」
「やだなぁ、そんな事どうだっていいじゃん。終わりよければすべてよしだよ。あんた達、真面目すぎ。クラシックだよ」
「………クラシック?」
「そう、お上品なクラシック。いい演奏だ。感動的だな。だが綺麗過ぎる。もっとロックに行けないかなぁ。
 私だったら幽香が攻撃して来た段階で、殺すよ」
「なっ!」
「だって敵だよ? 何を躊躇う必要がある。それとも敵を殺すのに、特別な理由が必要なのかい?」
「……あんた…」
「考え方の違いって奴だよ。私は私のロックを貫く。だから私のやり方が気にいらないなら、私に頼らないようにしな」

するとエリスはステッキをしまい、何処かへと歩いて行く。
その途中ナズーリンの傍を通る瞬間、そっとナズーリンのポケットにある物を入れ耳元で囁いた。

「あんたは何処となく他の連中とは違う、ジャズなソウルを感じるよ。
 だからこいつは私からのプレゼント。もし聖を殺したくなったら、こいつを使いな」
「!!」

その言葉に殺気を放って、ナズーリンは振り返る。
しかしエリスは何事もなかったかのように、別れの挨拶代わりに片手を上げて歩いて行ってしまった。
それを見て慌ててポケットの中身を確認するナズーリン。
そこには小さなビンに入れられた、真っ赤な液体が入っていた。

「………………」

ナズーリンは歯を食い縛り、ビンを投げ捨てようとする。
だがもし空気感染する細菌だったりしたら、不用意に開けるのは危険だろう。
それに毒なら他の活用法もあるかもしれない。
そう考えナズーリンは、そっとビンをポケットに戻した。

「あの女……一体、何が狙いなんだ?」





里へ襲いかかって来た仮面の者達。
その裏で手を引いていた夢月は、夢幻塔の最上階で白い仮面を介して戦況を確認していた。
やがて被っていた白い仮面を外すと、幻月の方へと振り向く。
その幻月は退屈そうにロッキングチェアに座って、ゼンマイ式の蟲の玩具で遊んでいた。

「幽香が負けたわ」
「窓から見りゃ分かる。それにあんなゴミクズに殺られる人間じゃないでしょ」

夢月の報告に、幻月は興味なさげにロッキングチェアを揺らす。
そこへ一羽の小鳥が窓から入り込み、幻月のすぐ傍でさえずり始めた。

「ピーチクパーチクうぜえんだよ!」

そんな小鳥に、幻月は高速の弾幕を放つ。
弾幕は見事に命中すると、小鳥を跡形もなく消し飛ばしてしまった。

「鳥は嫌いなのよ」

そう言って幻月は、蟲の玩具をポケットにしまい立ち上がる。
そのまま部屋の出口へ向かって行く幻月に、夢月は相変わらずの無表情で話しかけた。

「姉さん、何処へ?」
「決まってるでしょ~? 里に遊びに行くのよ」

すると幻月はそっと手を上げ、三人の妖怪を呼び出す。
途端に現れた三人の妖怪は、幻月の前に跪いた。

「あんた達は矜羯羅の所行って、喧嘩吹っ掛けて来なさい。どうせそうでもしないと動かないでしょうからねぇ。
 ただし博麗の巫女がいない時にするのよ。あいつは私が直々に、じわじわ時間をかけて嬲り殺す!」

幻月の言葉を受け、三人の妖怪は一斉に飛び出していく。
その後に続くように、幻月は気味の悪い笑みを浮かべて部屋から出て行った。

「さぁ夢月、行きましょ。本当に面白くなるのは、これからよ。キッヒヒヒッ!」









  • 4人の仮面の女ってマリサたちだったのか… -- 名無しさん (2011-04-24 12:44:45)
  • さーな。普通に考えるなら魔理沙と妖夢と咲夜と早苗。
    いずれにせよ人間だね。 -- 名無しさん (2011-06-07 22:49:42)
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