※このSSには独自の設定やキャラの崩壊、グロテスクな表現が含まれています。そういった展開が苦手な方はご注意ください。
※先に今までの話を読んでおく事をお勧めします。


































昔々ある所に、とても小さな村がありました。
村は土地が痩せ細っているので、野菜を作る事が出来ません。
なので村の人達は、いつもお腹を空かせていました。
そんなある日の事でした。
真っ白な羽を6枚つけた可愛らしい女の子が村にやって来たのです。
女の子は自分を天使と名乗り、村の人にこう言いました。
自分が村を豊かにするので、代わりに仲良くしてほしいと。
村の人達は、そんな事出来る訳がないと言いました。
ところが女の子が不思議な魔法を使うと、見る見るうちに村では野菜が育ち始めました。
すると村の人は大喜び。
女の子は天使様と呼ばれ、村の人達にとても大切にされました。
天使様はそれにとても喜び、村に次々と恵みを与えます。
その度に村の人達は天使様に感謝しました。
ところがそんなある日、天使様が自分の世界へ帰らなければならない日がやって来ます。
天使様は村の人達に別れを告げると、自分の世界に帰ろうとしました。
しかし村の人達は、もう天使様のお力を貰えなくなると焦りました。
それどころか今ある天使様の与えた恵みも、なくなってしまうかもしれません。
すると村の人達は、帰ろうとする天使様に襲いかかりました。
そして天使様に酷い事をすると、暗い倉庫に閉じ込めてしまったのです。
天使様は余程ショックだったのか、人形のように動かなくなってしまいました。
しかし村の人達は出してほしかったら魔法の使い方を教えろと言い、天使様に何度も酷い事をしたのです。
そんなある日、突然天使様は泣き出しました。
泣いていたのですが、笑っていました。
何日も何日も泣きながら笑っていました。
これには村の人達も、困り果てます。
天使様が何も言わなければ、魔法の使い方は分かりません。
これでは天使様を閉じ込めた意味がないのです。
すると村の人達は、天使様の中に魔法の源があるのではと考えました。
そして天使様をバラバラにして、その中にある魔法の源を手に入れようとしたのです。





その後、天使様がどうなったのかは分かりません。
ただその村は次の日の朝、人も家も木も何もかも消えてしまっていたそうです。













「………う~ん…」

その日も博麗神社の巫女、博麗 霊夢は朝早く目を覚ました。
今日も境内の掃除から一日が始まる。
まずは着替えをし朝食を取ると、霊夢は箒を持って神社から飛び出して来た。

「…………え?」

しかし外の景色を見て、霊夢は唖然とする。
なんとそこには、奇妙に3つに分かれた空が広がっていたのだ。
一つは里の方を中心に広がる、蒼い月が浮かぶ星空。
一つは太陽の畑の方を中心に広がる、金色に輝く皆既日食。
そしてもう一つは妖怪の山を中心に広がる、真っ赤に染まった黄昏空だった。

「……またどこぞの馬鹿が異変を起こしているのね」

博麗の巫女として、異変が起きているなら解決しなければならない。
それが博麗の巫女の務めというものだ。
霊夢は深い溜め息を吐き、箒を戻しに神社へ入る。
戻した箒の代わりに祓い棒と陰陽玉を取ると、まずは里へと向かって行った。

「……!!」

だがいざ空に飛び出してみると、凄まじい気が空を覆い尽くしている事に気付く。
それこそ3つに分かれた空の正体、溢れ出た気による錯覚だ。
明らかに今までのどんな妖怪よりも、膨大かつ強大な気。
さすがの霊夢も、思わず身震いをしてしまった。

「今回の異変の主は、とんでもなさそうね……」

やがて暫く飛び続けると、里の様子が見えて来る。
星空なので真っ暗かと思いきや、意外と月の光が強く里は昼間のように明るい。
霊夢は気の主は何者なのかと考えつつ、門の前に立ち見張りに声をかけた。

「博麗 霊夢よ。里周辺の空の様子がおかしいから見に来たんだけど」
「ああ、どうぞ。今、開けますよ。でもあれは天使様の影響なんです」
「天使様?」
「詳しい事は里に入って、直接お会いした方が分かりやすいかと」

そう言って見張りは門を開ける。
するとそこには、冬の田園風景が広がっていた。
その中を霊夢は歩いて移動する。
やがて里の中心に辿り着くと、何やら講演のようなものが行われていた。

「いいですか、里の皆さん。貴方達は今、恐ろしい悪しき者の脅威に晒されています。
 私は皆さんを導く為に、こうして遥々幻想郷にやって来たのです」

講演の舞台には、里の人間が大勢集まっている。
その大衆の奥からは、女性の声が聞こえて来ていた。
しかし此処からでは姿は見えない。
霊夢は近くにいる人に話しかけ、状況を確認する事にした。

「ちょっといい?」
「あ、霊夢さん」
「あれは何をしているの?」
「何でも里に危機が迫っているから、すぐに逃げろって言うんですよ。確かに空もおかしくなってますからね。
 でも里の周りの蒼い月は、天使様が作り出してるそうです。天使様が言うには、あの日食が危ないとか」
「里の反応は?」
「話を信じてる奴は大体半分ぐらい。残りは今のところ実害もないし、すぐには動けないといった感じですね」
「そう、ありがとう」

どうやら蒼い月の気の主は、今演説をしている女性のようだ。
里にいながら避難を呼び掛けるだけなところを見ると、特別害はなさそうに思える。
だが里から人を追い出し、乗っ取ろうとしている妖怪かもしれない。
霊夢は宙に浮かび上がると、声の主の許へと飛んで行った。

「……ですから今すぐにでも私の言う通りに……あら?」
「…………貴方は……」
「お久しぶりですね、霊夢」

霊夢の視界に映り込む声の主。
それは霊夢も一度、手合わせした事のある相手だった。

「サリエル……」

蒼い服と髪。
白い6枚の翼。
奇妙な紋様の刻まれた杖。
まさに霊夢が魔界に行った時に立ち塞がった天使、サリエルの姿そのものだ。

「どうして……貴方が此処に……」
「里の人間に脅威を知らせる為です」

サリエルと霊夢が出会ったのは、まだ霊夢が修行中の頃まで遡る。
その頃の霊夢は相手の力を計れる程、霊力を使いこなせていなかった。
だからこそ今、霊夢は驚いている。
サリエルという天使が、これ程までの力を持っていた事に。

「……………………」

明らかにレミリアや神奈子以上。
いや、紫すら越えるだろう凄まじい魔力が感じ取れた。
昔の自分は当時の実力で、こんな相手に勝負を挑んでいたのかと思うとゾッとする。
あの時は間違いなく手加減されていたのだろう。

「……サリエル様? 何故、貴方が此処に!?」

そこへやって来たサリエルを知る、もう一人の人物。
幻想郷縁起の著者である、稗田 阿求だ。
阿求はサリエルの姿を見ると、その場にがっくりと座り込んでしまう。

「まさか……こんな日が訪れるなんて……遂に動き出すのね、三幻想が……」
「三幻想? 何よ、それ」

聞き慣れない言葉に、霊夢は思わず聞き返す。
すると阿求は、はっとして霊夢から目を背けた。

「………私からは何も言えないわ。口止めされてるの、妖怪の賢者に」
「………………」
「じゃあ、あたしが代わりに答えてあげちゃおっか?」

そう言って民衆を掻き分け、姿を現す真っ赤なスカートの女性。
それは霊夢にとって、またしても懐かしい者との再会だった。

「ち~っす。霊夢、久しぶり~」
「貴方、神玉?」

かつて魔界と地獄に向かおうとした霊夢に襲いかかった妖怪、神玉。
数年ぶりに出会った彼女は、昔と変わらない姿で霊夢の前に姿を現した。

「覚えててくれたんだ~。マジ感激~」
「ええ……ある意味、個性的だったから…」
「あたし~、これからサリエルさんに言われて命蓮寺? てとこに説明しに行くんだよね。
 霊夢も詳しい事、聞きたかったら来ればいいんじゃない? みたいな」

それだけ言うと、神玉は命蓮寺に向かって歩いていく。

「…………三幻想、か」

後に残された霊夢は、阿求の言葉を思い出していた。
三幻想。今まで聞いた事もない呼び名。
そして妖怪の賢者が、態々口止めする程の何か。
どうも今回の異変は今までとは違う、ただならぬものを感じる。
一旦、情報を集めてから動くのが得策かもしれない。
そう考えると、霊夢は神玉の後に付いて行こうとする。
しかしある事に気付くと、サリエルの方に振り返り一つ尋ねた。

「ねぇ、貴方それどうしたの?」
「……それ、ですか?」
「それよ、それ。頬のシップ」

霊夢はツンツンと、サリエルの左頬を指差す。
するとサリエルはにやりと笑って、こう答えた。

「…………ただの…怪我ですよ」
「!! ………そ、そう」

普通に考えれば何事もない、ただの返答。
だが霊夢には、その赤い瞳の奥に妙な光が灯ったのが見えた。
サリエルはこちらに何か隠しているのかもしれない。
しかし博麗の勘が、それ以上入り込んではいけないと言っている気がして霊夢に追及を思い止まらせた。

「………………」

阿求の言っていた三幻想。
突如、里にやって来たサリエルの真の狙い。
そして空を覆う気の主の正体。
まだこちらには分からない事だらけだ。
兎に角、今は情報がほしい。
霊夢は再び歩き出すと、神玉の後を追いかけて行った。













異変解決に動いているのは、何も霊夢だけではない。
日食の闇に包まれた太陽の畑に、禍々しく建つ不気味な塔。
その中で異変調査にやって来た霧雨 魔理沙と東風谷 早苗は、風見 幽香と弾幕勝負を繰り広げていた。
だが戦況は、圧倒的に幽香の優勢。
二人はボロボロになりながらも、余裕すら感じさせる幽香と戦っていた。

「威勢良く向かって来た割には、大した事ないわね」
「おいおい、まだ勝負は始まったばかりだぜ? ラスボスにあっさり勝っちゃ、面白くないだろ」
「私達はまだ全力を出してはいません! これが本気だと思わない事です!」
「口先だけは達者ね」

しかし二人共、まだまだ気持ちでは負けていない。
すると幽香は傘を開き、二人に向かって熱線弾幕を放とうとする。
そこへ階下から新たに二人やって来ると、弾幕を放ち幽香に応戦した。

「断迷剣『迷津慈航斬』!」
「傷魂『ソウルスカルプチュア』」
「お、お前達は……」

現れたのは魂魄 妖夢と十六夜 咲夜。
それぞれ主の命令で、異変の調査にやって来たのだ。
そのまま妖夢が襲いかかる熱線弾幕を打ち消すと、咲夜がナイフを投げ幽香に反撃をする。

「ぐっ!」

あまりにも唐突に現れたその増援に、幽香は不意を突かれ被弾した。
だが幽香は傘を閉じると、接近戦に切り替えて向かって来る。
それを四人は、じっと身構え迎え撃とうとした。

「!!」

ところがその瞬間、突如音を立て崩れ出す天井。
天井は大量の瓦礫となって床に落ち、砂埃を巻き起こす。
同時に上から飛び出して来る二つの影。
その二つの影は、一つは床に降り立ちもう一つは幽香を踏み付け着地した。
やがて崩壊と砂埃は治まり、影の正体が明らかになる。
しかしそれは四人が見た事もない者だった。

「こ~ら、幽香~。見張りはあんたの仕事でしょ? 上になんか汚物みたいな天狗が入って来たわよ?
 当然、処分しといたけどさぁ……ああいう雑魚はあんたが片付けるべきでしょ? 分かってるの、クズ」

胸元の大きな赤いリボン。
同じく赤いリボンでポニーテールに結ばれた金髪の髪。
真っ白な一対の翼。
それはまるで天使のような姿をした少女だった。

「で、何? あんた、やられてるの? だっさ! 使えない上に弱いとか最低。あんたゴミね、ゴミ」

だがその瞳と言動は、とても天使とは思えない程禍々しい。
特に瞳は日食のように怪しげに光り、見る者に異様な不気味さを感じさせる。
そこへやって来る、もう一つの影の主。
それはメイド服を着た少女だった。

「姉さん、それぐらいにしておいたら?」

そう言ってメイドの格好の少女は、天使のような少女を止める。
すると天使のような少女は頬を膨らませて、不快そうな表情を浮かべた。

「何よ、あんた幽香を庇うの? あんまり調子に乗んなよ、クソビッチ!」
「そうじゃなくて、お客さん」
「え?」

その言葉に天使のような少女は、きょとんとして魔理沙達の方へ振り向く。
途端に禍々しい気が、魔理沙達の方へと向かって来た。

「うぐっ!」

その凄まじさに、思わず四人は口を押さえる。
こいつは普通の妖怪じゃない。
明らかにもっと恐ろしい何かを秘めている。
そのおぞましく禍々しい気に思わずたじろぐ四人。
しかしそんな事はお構いなしに、天使のような少女はにこにこ笑って近寄って来た。

「人間! 人間じゃない! 凄い凄い、よく来たわね! ようこそ、私の夢幻塔へ!
 建てたばかりで、まだ何もないけど寛いでいってね! ああ、私は幻月。この夢幻塔の主よ。
 で、こっちが夢月。私の双子の妹。………え~と、お客さんが来た時ってどうすればいいんだっけ?」
「お茶でもよそったらどう?」
「そうね! さすがは私の妹、冴えてるわ! お茶………幽香の首でも浸ければいいのかな? お茶っぽいし」
「ダメよ姉さん、お客さんに出す物にゴミなんか入れちゃ。そこはハーブとかにしましょう」
「そ、そっか……。ああ、待たせちゃってゴメンね! おら! 幽香さっさとハーブ出せ!」

そう言うと天使のような少女、幻月は倒れる幽香を蹴り飛ばす。
そのまま転がりぐったりと横になる幽香を、何度も何度も蹴り続けた。

「……がっ! ………あぐっ! …………!」

幽香は必死に抵抗しようとするが、幻月の攻撃の前に成す術もなくやられ続ける。
次第に弱っていき抵抗らしい抵抗も出来なくなっていく。
だがそれでも幻月は攻撃を止めようとしない。
遂に大量の血を吐くと幽香はぴくりとも動かなくなるが、それでも尚幻月は幽香を蹴り続けた。

「お、おい……」
「そもそも、あんたみたいなゴミクズを誰が拾ってやったと思ってんのよ。あ~あ、こんなに使えないなんて。
 これならあの時、ビービー泣いてる雑魚妖怪に力なんか与えなきゃよかった」
「……やめろよ……幽香、死んじまうぞ……」
「昔のあんたはまだよかったわ。花を苛める連中に復讐してやる~って、意気込んでたもの。
 でも今のあんたは何? 自分の苗床を守る事に必死で、入って来た奴を適当に襲って逃がすだけ。
 貧弱になったものねぇ。今のあんたには魅力を感じないわ。もういい、あんたなんかいらない。死ぬなら死ねば?」
「おい! やめろよ!」
「………ん?」

普段の幻想郷ではありえないような惨い仕打ちに、堪え切れなくなり声を張り上げる魔理沙。
その声に反応して幻月は何事かと振り返る。
そして魔理沙達を見ると、はっとして慌て出した。

「もしかしてハーブティー嫌いだった? ゴメンね、そこまで気が回らなくて」
「………………」
「………ところで、私達は空がおかしくなった原因について調査してるの。何か知らないかしら?」
「空?」

すると幻月は手を顎に当て考え出す。
そこへメイドの格好の少女、夢月がやって来てぼそりと呟いた。

「もしかして日食の事じゃない?」
「ああ、あれ? あれは私の気が漏れ出してるだけよ」
「……そう。つまりこの異変は貴方を倒せば治まるのね」

途端に咲夜は幻月にナイフを向ける。
その様子に、他の三人はビクっとして一歩下がった。
何せ今まさに目の前で、幽香を殺そうとするような相手だ。
怒らせれば何をして来るか、分かったもんじゃない。
しかし異変の元凶ならば、倒すのが自分達のするべき事。
三人は警戒しながらも、恐る恐る武器を構えた。
だが幻月はナイフをじっと見たまま動かない。
やがてゆっくりと魔理沙達の方を見ると、気味の悪い笑みを浮かべ出した。

「私と……やろうって言うの? ………………ヒヒ……イッヒヒヒ! ヒヒヒヒャヒャヒャッ! いいじゃない!
 やろう! やりましょう! 私も貴方達と遊びたくて、態々こんな所に塔を建てたのよ!」

幻月は楽しそうにくるくると回りながら、四人と距離を取りポケットに手を突っ込む。
すると中から出て来たのは、真っ黒な26枚のスペルカード。
それを手に取ると、幻月はそのうちの一枚を四人に突き付けた。

「見て! 凄いでしょ! 幻想郷ではスペアカード……だっけ?」
「スペルカードよ、姉さん」
「そうそう、それよ。そのスペルカードで戦うって言うから、こうして作って来たの!
 ねぇ、貴方達は平行世界って知ってる?」
「……平行………世界?」
「そう、この世界には様々な可能性が満ち溢れているの。一人の人間にしたって別の世界では別のその人が別の人生を送る。
 貴方達も別の平行世界では、今とは違った暮らしをしているのよ」
「…………何が言いたいの?」
「ヒヒヒッ! そう焦らないで。私にはその平行世界を覗く力がある。
 だから貴方達が別の世界で、どんな生活をしてるかも知ってるの。……知りたい?」
「………………」
「興味なさそうね。でも私のスペルカードが模すのは、その平行世界の幻想郷の住人。
 直接、私が戦うと人間は簡単に死んじゃうから手加減って訳よ」
「…………嘗められたものね」
「ヒャッハハハッ! そうじゃなきゃ面白くないわ! ビビりさんに興味はない! 強気に向かって来る人間を
 ボッコボコにしてやるのが、ゾクゾクするのよ! 俗従『ザ・フール』!」

宣言と同時に、幻月はスペルカードを上に放り投げる。
途端にスペルカードは禍々しく光り、凄まじい量の邪気を放ち始めた。
邪気は質量を持つ程に濃く、どす黒い粘液となって部屋中に飛び散っていく。
それはやがて一ヶ所に集まると、人の形へと変化し始めた。

「…………あのシルエットは……」
「どうやら、私がよく知っている者のようね」

集まった邪気は、頭と腰に計4枚の蝙蝠のような翼を持つ姿へとなる。
その邪気で作られた妖怪は、魔理沙達目掛けて勢いよく突っ込んでいった。

「なっ!」
「速い!」

慌ててかわそうとする四人だったが、思った以上に邪気の妖怪は素早い。
そのまま邪気の妖怪は逃げ惑う四人に突っ込むと、逃げ遅れた魔理沙を掴み上げる。
そして突っ込んで来た勢いのまま飛び上がると、邪気を銃の形に変化させたものを魔理沙のこめかみに突き付けた。

「お、おい……弾幕勝負って……」
「魔理沙ッ!」

このままでは魔理沙が危ない。
急いで飛び上がり、三人は上空の魔理沙を助けに向かった。
三人は邪気の妖怪の周りを取り囲むように、三方向から同時に弾幕を放つ。

「『三魂七魄』!」
「『殺人ドール』!」
「『サモンタケミナカタ』!」

すると弾幕は邪気の妖怪に命中し、爆発を起こしてぐちゃぐちゃに吹き飛ばした。
邪気の妖怪が倒された事で解放される魔理沙。
ところが突然放された為に、床に尻から落ちてしまう。
それに魔理沙は目に涙を浮かべて、尻を擦りながらぶつぶつと文句を言い出した。

「……いたた……助けるなら最後までやってくれよ……」
「すみません。手一杯だったので」
「…………ていうか私に当たったら、どうするんだよ!」
「大丈夫よ。当たらないように撃ったから」
「お前等なぁ…」
「静かにして。まだ終わってないわ」

そう言って咲夜は前方を指差す。
そこには再び形を成そうと、吹き飛んだ邪気が集まり出していた。
時期に邪気は、また四枚羽の姿へとなるだろう。
それは結構な威力で攻撃を撃ち出したつもりの三人には、予想外な出来事だった。

「……あれでまだ、倒されないなんて……」
「凄い凄い! 私のスペルカードを撃ち破るなんて貴方達、強い人間なのね!」

しかし幻月は拍手をしながらやって来ると、再生しようとした邪気を踏み潰す。
途端に邪気は蒸発し始め、残った僅かな邪気はスペルカードへと姿を変えた。

「貴方達、私が戦った人間の中で3番目に強いわ! キヒヒヒヒッ! 楽しくなってきたわ! どんどん次、行きましょ!」

幻月はそのまま別のスペルカードを手に持ち、四人の前に立ち塞がる。
その様子に魔理沙は、慌てて意義を唱え出した。

「ちょっと待てよ! お前、弾幕勝負のルール知ってんのか!?」
「え? 手加減して直接殴らなければいいんでしょ? やってるじゃない」
「……お前……」
「イッヒヒ! ましてや私が使っているのは、貴方達を模した夢幻妖怪! 私自身は弾幕すら放っていないわ!
 それでも強いって言うなら、貴方達が弱すぎるのよ! キヒヒッ!」

馬鹿にしたような態度で、幻月は歯を見せてにやにや笑う。
それに歯軋りを立てる魔理沙の肩を、ポンと咲夜は優しく叩いた。

「相手のペースに呑まれちゃダメよ。……向こうは本気でかかって来てほしいそうじゃない。
 ならこちらはいつも通り、冷静に相手の攻撃を撃ち破って行きましょう。……本気でね」
「あ、ああ。そうだな」
「キヒャヒャヒャヒャッ! 嬉しいわ、人間! もっと私を楽しませて! もっと無様に足掻いてみせて!
 貴方はどんな表情で死ぬのかしら!? 貴方はどんな言葉を最期に残すのかしら!?
 さぁ、惨たらしく苦しみ絶望して死んで! 怠熊『ジ・エンプレス』!」

すると再びスペルカードを放つ幻月。
今度は赤子の集合体のような姿に邪気は変化した。

「な、なんだありゃ!?」
「あれも平行世界の妖怪…なの?」

そんな事を言っている間に、赤子の中から本体と思わしき部分が飛び出て来る。
その本体は凄まじい冷気を放って、四人に襲いかかって来た。

「なっ……こいつっ!」
「ううぅ………これでは……近付けません!」

四人を襲う猛吹雪のような冷気。
それは寒さで四人の体力を、どんどん奪っていく。
飛び道具は冷気に流されてしまい、接近戦はとても出来そうにない。
窮地に追い込まれた四人。
そこへ壁を突き破り、鎌が夢幻妖怪を狙って飛んで来た。
そのまま夢幻妖怪に突き刺さり、冷気を止めさせる鎌。
その後に続くように、鎌が開けた穴から二人の妖怪が飛び込んで来た。

「幽香ちゃん!」
「助けに来たわよ!」
「……エリー……くるみ……」

穴から現れたのは2m近くありそうな大女と、小柄で蝙蝠のような翼を生やした少女。
二人に名前を呼ばれると、幽香は力無く反応する。
その姿を見ると大女のエリーと、小柄な少女のくるみは幻月を睨み付けた。

「貴方……幽香ちゃんに何をしたの!」
「別に? ただ蹴っただけだけど?」
「……よくも幽香ちゃんに酷い事を……」
「酷い? まだ酷い事なんてしてないわよ?」
「!! …兎に角、貴方を倒して幽香ちゃんを助けるわ!」
「私を倒す? 雑魚のくせに生意気な。あんた達には、これで十分よ! 色蜥『コイン』!」

そう言って幻月は先程の夢幻妖怪をスペルカードに戻し、他のスペルカードを発動させる。
出て来たのは頭にキノコの生えた帽子を被った、何やら小さな球体が繋がっている夢幻妖怪だった。
夢幻妖怪は口を開くと、やたらと長い舌を伸ばす。
その舌はエリーに向かって伸び、腹部に深々と突き刺さった。

「うぐっ…!」
「エリー!」
「……大丈夫よ! こんなものぉ!」

ところがエリーは怯むどころか、舌を掴み思いっきり振り回す。
途端に夢幻妖怪は勢いよく、空中に浮かび上がった。

「くるみ!」

そしてくるみに声をかけると、掴んでいた舌から手を放す。
その勢いでエリーの体から舌が抜け、夢幻妖怪は宙に投げ出された。

「任せて!」

声に応えるとくるみは全身を羽で覆い、まるで弾丸のような姿になる。
そのまま回転し空中の夢幻妖怪に突っ込むと、その体をぐちゃぐちゃにし吹き飛ばした。

「どんなもんよ!」
「あの程度の相手に勝っても、大した自慢にはならないわよ~! 次はちょっと強めにいくわ。蝕蛸『ザ・ラヴァーズ』!」

だが幻月は次々とスペルカードを切り替えていく。
次に出て来たのは、再び小さな球体が繋がっているが今度は8本の触手を持つ夢幻妖怪だ。
夢幻妖怪は右腕と右脚の触手でくるみに、左腕と左脚の触手でエリーに襲いかかる。

「なっ! ちょっと!」
「は、放しなさい!」

途端に触手は見る見るうちに二人に絡み付き、四肢を引っ張り動けなくしてしまった。
更に触手は二人の腕と脚から、どんどん体の方に伸びていく。

「ど、何処触ってんのよ! や、やめ……」
「嫌ああぁぁ! 放して! あ、あああぁぁ!」
「あ~、こらこら。あんた、すぐそういう事する。私が命令した事以外やるなって。ぶっ殺すぞ!? あぁ!?」

しかし幻月が威圧すると、夢幻妖怪は大人しく二人を拘束するだけにした。
それを確認すると、幻月は二人を放置したまま魔理沙達の方へ向かって行く。
そこへそれまで無表情で立ち続けていただけの夢月が、幻月に近付いていき問い掛けた。

「姉さん、あの二人はどうするの?」
「ああ、幽香共々用済みね。本当、あいつらには失望したわ。まさかここまで使えないとはねぇ~。
 こないだもっといい玩具見つけたし、殺しちゃってもいいかなぁ~。……………そうだ。夢月、あんたにあげるわ」
「私に?」
「ほ~ら。こないだあんたのペット、うっかり逃がしちゃったじゃない? 何だっけ? あの気持ち悪い……蝦?」
「蟹よ。それにペットじゃない。あれは私が作った妖怪の試作品。上手く出来てたけど、もう特に用はなかったわ。
 第一うっかりじゃなくて、姉さんが気持ち悪いって言って放り投げたんじゃない」
「そうだっけ? まぁ、いいわ。兎に角、代わりにあげる。あの蛸出しっ放しにしとくから、バラすなり好きにしたら?」
「分かったわ」
「さ~て。待たせたわね、人間!」

夢月との話が終わり、幻月は魔理沙達に向かって大声を出す。
冷気のダメージにより凍り付き、思うように動けずただ見ているだけだった魔理沙達。
彼女達は突如投げ掛けられた、その声にビクっとして振り返った。

「私、そろそろ貴方達が絶望するところが見たいの。いいでしょ? いいよね! 双霊『ソード』!」

すると幻月は更にスペルカードを発動させてくる。
今回出て来たのは、二つの頭と楽器を持つ夢幻妖怪。
その夢幻妖怪は、トランペットとキーボードで演奏をし始めた。

「!!」

だが演奏されるのは凄まじい不協和音。
おぞましい旋律に、魔理沙達は思わず耳を塞ぐ。
しかし精神を掻き乱す夢幻妖怪の演奏は、耳を塞いでも聞こえて来る。
次第に魔理沙達は冷静さを失い、まともな判断が出来ない状態に追い込まれていった。

「さ~て、そろそろ頃合いね。どいつから殺してあげよっかな~。イヒヒッ! そうだ! 夢月、アレ出しなさいよ!」
「分かったわ」

夢月は幻月の言葉に小さく頷くと両手に邪気を集め、それを仮面の形に変化させる。
やがて仮面を全部で4つ作ると、幻月に手渡した。
その禍々しい仮面に嫌なものを感じ、魔理沙達は表情を強張らせる。
幻月はそんな魔理沙達を見て、とても嬉しそうにした。

「な、何だよそれ……」
「知りたい!? これはねぇ、あんた達をじわじわ嬲り殺す為の道具よ」
「!!」
「キヒッ! ただねぇ!? ただ、もの凄~く苦しめながら時間をかけて殺すの~!
 頭を砕いて目玉を抉り出して舌を引き千切りって鼻を削げ落として爪を剥がして指を潰して臓物を引き摺り出して
 そんでその傷口に塩とか砂とかまぶしてそれよりもっともっともっとぐちゃぐちゃのぐちゃぐちゃでイッヒヒヒッ!
 …………ねぇ、鬼ごっこしましょ! 私が鬼ね! 捕まえたら、こいつを被せてあげるから……精々必死に逃げ続けな!」

そう言って幻月は、気味の悪い笑みを浮かべて魔理沙達に向かって行く。

「え? ちょ、ちょっと待って…」
「何してるの、早苗! 逃げるわよ!」
「あ、はい!」

冷静さを失い恐怖に支配された魔理沙達には、兎に角逃げる事しか出来ない。
魔理沙達は慌てて階段まで走り出すと、急いで階下に逃げ出していった。
そんな魔理沙達を追い掛けて、幻月も階段を下りていく。

「ヒャハハハハッ! 逃げろ逃げろ~! つっかまえちゃうぞ~!」

そのまま走り去る幻月を見送ると、夢月はエリーとくるみの方へと振り返った。

「さて、貴方達はどうしようかしら」
「…………うぅ……」

身動き出来ず、夢月をじっと睨み付ける事しか出来ない二人。
その瞳には、うっすらと悔し涙が浮かんでいる。
そこへボロボロの幽香が、床を這いながら夢月の許へにじり寄って来た。

「……待って……エリーとくるみを……殺さないで……」
「………幽香ちゃん……」

やがて夢月の足下まで辿り着くと、幽香は必死に頼み込む。
その様子を、夢月は相変わらず無表情で見下ろしていた。
すると何やら考え込んだ後、ぼそりと一言呟く。

「………………幽香、貴方に命令を下すわ」
「!! ………分かったわ」

それがどんな命令であれ、幽香には従うしか他に選択肢がなかった。

「……幽香ちゃん……私達の為に………」













その頃、霊夢は神玉を追って命蓮寺にやって来ていた。
中では聖 白蓮を始めとする、命蓮寺のメンバーが顔を揃えている。
そんな白蓮達の前に、ゆっくりと座る霊夢と神玉。
それを見届けると白蓮は、一息吐いて言葉を紡ぎ出した。

「それで、お話というのは…」
「ああ、それそれ。実はさぁ~、里の人間を避難させる為に聖輦船を貸してほしいだよね~」
「聖輦船を……ですか」
「ほら、この寺って元々船だったんでしょ? それを使って一気に魔界に行けないかなってさ」
「………それはいいのですが、まず何が起こっているのか詳しく説明してくれませんか?」
「ああ、え~と……何処から話しゃいいのかな~」

白蓮の問い掛けに、回答に困り果て神玉は腕を組む。
するとそこへ、一人の女性が命蓮寺にやって来た。

「じゃあここからは私が説明するよ」
「貴方は…」
「先輩!」

その姿を見るや否や、一気に表情が明るくなる神玉。
頬に星型のタトゥーを入れたその女性は、神玉の隣に座ると霊夢の方へ振り向いた。

「久しぶりじゃん。あれから暫くだけど、随分ロックになったねぇ」
「エリス、貴方まで来ていたのね」
「私がいなくて誰が会場を盛り上げるのさ」

大きな蝙蝠のような翼の少女、エリスはそう言って霊夢に笑いかける。
そして白蓮達を見ると、顎に手を当てながら話を始めた。

「さて、幻想郷で説明するなら最初に三幻想の話をしないとねぇ」
「そうよ。そもそも三幻想って何なのよ」
「……幻想郷は幻想の者達の世界ってのは知ってるよね? ただ直接、幻想郷には存在しない幻想存在もいる訳さ。
 幻想郷には隣接した世界が幾つかある。そこに三幻想は住んでいるのさ」
「天子や衣玖みたいなものね」
「でも三幻想はそこらへんの妖怪とは訳が違う。その昔、幻想郷が出来た時に三幻想は語る事を禁じられた存在なんだよ」
「………何故?」
「強すぎたのさ。折角、幻想郷を創っても畏怖がすべて奪われては妖怪達には堪ったもんじゃない。
 だから幻想郷では、その存在を秘密にされたんだ。閻魔や天人どころの強さじゃないからね」
「……………」
「私達、魔界の住人にとっては普通に知っている存在さ。だから三幻想は幻想郷だけの呼び名。
 そしてそれを知る妖怪も、殆どいない。幻想にして幻想に忘れられた存在、だから三幻想」
「……今回の異変には、その三幻想が絡んでいるのね」
「そう、そして私達のリーダーであるサリエル様もその一人。
 空がおかしくなったのは強すぎる三幻想の気が、幻想郷に流れ込んでいるからさ。別に実害があるものじゃないよ」

どうやら今回の異変は、三幻想を倒さない事には解決しないらしい。
だが倒したところで溢れ出した気は、収まるものなのだろうか。
そう考え、霊夢はエリスに問い掛ける。

「……それで三幻想を倒せば、この空は元に戻るの?」
「えっ……………ぷっ! あはははは!」

ところがエリスは突然笑い出してしまう。
神玉以外の者達は、何事かときょとんと眺める。
するとエリスは笑い涙を拭きながら、霊夢を見て話し出した。

「い、いいよ霊夢! 最高にロックだ! ………でもそれだけじゃあダメだ。技術が足りない。
 霊夢は幻想郷最強なのかもしれないけどさぁ、それだけじゃまだ足りないんだよ。
 三幻想は幻想郷のレベルを超越してる。あんたの実力じゃ出会い頭にお陀仏さ」
「な、何よそれ……」
「それだけとんでもない存在なんだ。だから逃げろって言ってるんだよ。勇気と無謀は違う。三幻想には誰も敵わない。
 次元が違うんだ。三幻想同士がぶつかったら、里なんか一瞬で消し飛んじゃうよ」
「……あの、一つよろしいですか?」

そこへ白蓮が手を上げ話に入って来る。

「どうぞ」

エリスはにっこりと笑って、白蓮に手を差し出した。

「三幻想の残りの二人は、何者なのでしょうか。警戒するにしても誰だか分からなければ、しようがありません」
「それはちょっと違う。そもそも三幻想がいるのは魔界、地獄、夢幻世界なんだ。つまり三幻想は各世界最強の存在。
 出会った時点で死んじゃうのさ。……………けど、まぁ知識はあった方がいいよね。分かった、教えてあげる。
 まずサリエル様。サリエル様は魔界の天使、死を司り輪廻転生を操る。故に無限。無限のサリエル。
 次に地獄の矜羯羅。地獄の管理者にして、星を司り亡者を地獄に縛り付ける。故に力。力の矜羯羅。
 でも矜羯羅は滅多に動かないから、会う心配はしなくていいと思うよ。最後に……こいつが一番ヤバい奴さ。
 夢幻世界の幻月。夢幻世界を創り出し、夢を司り人を狂わせる。故に狂気。狂気の幻月。
 幻月に会ったら死を……いや、死より恐ろしい破滅を覚悟した方がいい。あいつはいかれてる」

エリスの話に息を呑む白蓮達。
その様子にエリスは、穏やかな笑みを浮かべて静かに口を開く。

「何も今すぐ襲って来る訳じゃない。ただ時期に幻想郷は戦場になる。だから避難が必要なんだ」
「…………分かりました。聖輦船は用意しておきます。あと私達の方からも、里に避難を呼び掛けてみます」
「よろしく頼むよ」

それだけ言うと、エリスは神玉を連れて立ち上がる。

「!! ………あ、足つった……」

そしてふらふらと足を引き摺りながら、命蓮寺から出て行った。
後に残された霊夢は、エリスの話を考え直す。
三幻想は全員、一度戦った相手だ。
今の話じゃ幻月とは難しいが、せめて矜羯羅とは話が出来るかもしれない。
そう考え、霊夢は地獄に向かってみようと考える。

「ちょっと……調査に行くわ」
「気を付けてくださいね」
「大丈夫よ」

霊夢はそのまま命蓮寺を後にし、地獄を目指して飛んで行った。
その様子を寺の近くの茂みから覗く者がいる。
先程、寺から出たエリスと神玉だ。
二人は飛んで行く霊夢の後ろ姿を確認すると、茂みの中を歩いて行く。

「マジちょろいッスね、先輩」
「これで計画通り上手く進めば、里の人間共は全員魔界に行く。そしたら………私達がステージに立ち、暴れる番さ。
 私はこれから下準備をするから、上手く里の連中を導いてやりなよ? 幽幻魔眼」

エリスはそう神玉と茂みの中の5つの瞳に話すと、そのまま茂みの闇の中に消えて行った。








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    ひゅぺりょん
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    ぅぜぇぅぜぇぅぜぇぅぜぇぅぜぇ
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    たばすこ -- 赤屍奇 (2014-08-16 11:30:32)
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