※このSSには独自の設定やキャラの崩壊、グロテスクな表現が含まれています。そういった展開が苦手な方はご注意ください。



































その日、幻想郷では大規模な宴会が開かれていた。
幻想郷中の妖怪が集まり、酒や料理を楽しむ宴。
その中には幻想郷有数の実力者達も顔を揃えていた。
濃霧の吸血鬼に月の姫君、山の神に地霊殿の主。そして妖怪の賢者。
いずれも負けず劣らずの強豪揃いである。
周囲の喧騒から距離を置いた場所で杯を交わす彼女達。
しかしどうやら穏やかに宴を楽しんでいるという訳ではないようだ。

「結局、私が一番強くて美しいのよね~!」

始まりは八雲 紫の一言。
周囲を憚る事無く叩いた大口だ。
だがその一言に、すぐに反論する者が現れる。

「おいおい、そいつは何の冗談だい? 妖怪が神に敵う筈ないだろ」

軍神、八坂 神奈子だ。
神という立場に喧嘩っ早い性格もあって、紫の発言に逸早く突っ掛かる。
しかしそうなると紫も黙っちゃいない。

「あ~ら、私の力はすでに神の域に達しているわ。貴方に負ける所なんて気の短さぐらいよ」
「何だって? そんなに言うならこの場で試してみるか?」
「上等じゃない。幻想郷最強が誰か思い知らせてあげるわ!」

お互い臨戦態勢をとる紫と神奈子。
まさに一触即発の状況だ。
ところが、そんな二人を蔑むかのように鼻で笑う者がいる。

「弱い犬ほどよく吠えるとは言ったものね」
「あら、貴方もやる気?」
「こんな品性のない者が幻想郷の王じゃ、住人達が可哀想でしょ?」

その者の名はレミリア・スカーレット、紅魔館の吸血鬼だ。
日傘の取り付けられた椅子に陣取り、血の注がれたワイングラスを片手に見下した態度で二人を眺めている。
更にそれまで黙っていた、古明地 さとりも口を開く。

「そもそもどうして貴方達のどちらかが最強みたいに話してるの? 私達を抜いたら最強なんて決まらないわ」
「ほう、あんたが私等に勝てる気とはねぇ」
「覚りをあまり嘗めないでほしいわね」
「面白くなって来たじゃない。私も混ぜてもらえる?」

そこに蓬莱山 輝夜も加わり、その場にいる全員が戦闘意思を見せた。
幻想郷屈指の実力者同士の睨み合い、その圧倒的威圧感に緊迫した空気が流れ出す。
ところがそのプレッシャーを物ともせず、一人の白い羽のついた少女が割って入って来た。
少女は真っ赤なリボンを揺らし、まるで日食のような怪しげな瞳を光らせて話しかける。

「何やら盛り上がってるみたいだけど、どうせやるのは弾幕ごっこでしょ? ちょっと白けちゃうわよね~」
「………貴方誰? 見ない顔ね」
「私の事はどうでもいいの。それよりやるんだったら本気でやりましょうよ! 本気の………殺し合いをさぁ」
「な、何を言って…」
「怖いの~? いいわよ~、ビビりさんはやらなくて~。でも勇猛な王なら逃げたりしない……わよね? じゃあね~」

少女はそれだけ言うと、何処かへ行ってしまった。
残された幻想郷の実力者達は、その場に唖然と立ち尽くしている。
すると止まった空気を動かすように、紫がぼそりと呟いた。

「…………いいかもしれないわね」
「なっ!」
「紫、貴方正気!?」
「何も本当に殺し合う訳じゃないわ。でもそれに近い状況が作れれば、真に優れた者が誰なのかはっきりするんじゃない?」
「………まさか…」
「ふふふ……幻想郷カリスマ戦争、勃発よ!」

かくして紫により幻想郷最強に相応しいのは誰かを決める戦いが行われる事となった。
ルールは至って単純、本気で戦って最後まで生き残った者が勝ちというバトルロイヤルである。
しかし本当に殺し合っては、お互いタダでは済まない。
そこで紫の能力により特殊な空間を創り出し、その中で戦う事になった。
空間内での死亡は現実には一切影響はなく、リタイアという形で処理される。
これで真剣な戦闘による、本当の実力が分かるという訳だ。
更に紫の提案で自軍となる仲間を5人選ぶ事になった。
仲間は幻想郷の住人の中から選び、直接本人を呼び寄せる。
更に呼び出された仲間には自分がどのチームに属しているかと、戦争が行われる事だけしか伝えられておらず
この空間での死亡が擬似的な物だとは知らされていない。
これにより戦闘による実力のみならず、危機的状況でのリーダーとしてのカリスマ性も試そうというのだ。
つまり5チーム6人、計30人によるバトルロイヤル。
最後まで生き残ったリーダーが勝ちの戦争で、幻想郷最強を決める事となったのだった。













此処は紫が創り出した仮想空間。
今回の戦争にあわせて設計された特別な舞台だ。
戦争の開始に伴い、参加者はこの世界のそれぞれの陣地に送り込まれる。
その中の一人、レミリアが目を覚ました。

「………………ん……此処は…」

レミリアに与えられた陣地は、外の世界の都市を彷彿させる摩天楼。
高層建築が建ち並び、運転手のいない車が走り続ける奇妙な大都会だ。
また高層建築の道路を挟んだ反対側にはマンションが建っており、何やら人の気配もする。
更に道路を進むと巨大な湖が広がり、近くには倉庫が幾つも並んでいた。

「……………ふん…」

それらの中でレミリアがもっとも気にしたのは高層建築だ。
他の飛ぶ生き物にとっては、ただの邪魔にしかならないだろう。
しかし吸血鬼にとっては非常にありがたい存在となる。
何故なら天高く伸びた鉄の柱により、この陣地全体に日陰が出来やすくなっているからだ。
これのおかげで昼間でもある程度の戦闘が行える。
同時に昼間だからと安易に攻め込もうとする者への圧力にもなってくれるだろう。

「紫の奴、味な真似を……」

誰に見せるでもなく、ふっと笑うレミリア。
そこへレミリアが選んだ精鋭達がやって来た。
レミリアチームのメンバーは以下の通り

「話は聞いているわね」

チームリーダー 永遠に紅い幼き月 レミリア・スカーレット

「ええ、面倒な事になったわね」

知識と日陰の少女 パチュリー・ノーレッジ

「私達は何があっても、お嬢様についていきますわ」

完全で瀟洒な従者 十六夜 咲夜

「皆で一緒に頑張りましょう!」

華人小娘 紅 美鈴

「私はパチュリー様にお仕えするだけです」

大図書館の司書 小悪魔

「ねぇねぇ、お姉様。今日は自由に遊んでいいの?」

悪魔の妹 フランドール・スカーレット
以上6名である。

「そうよ、フラン。好きなだけ暴れて構わないわ。でもまだ早い。私達の時間は夜、それからでも遅くはないでしょ」

そう言ってフランを制止するレミリア。
その発言も尤もな話だ。
何せ戦いが始まった現時刻は早朝、今から動いてもすぐ夜が明けてしまう。
だがレミリアにとって、今動けない事は大きな障害ではない。
日が昇り再び沈めば吸血鬼の時間が始まる。
それまでの間に攻め込むには、この世界を詳しく知っておかなければ不可能だ。
そして今の自分の状況を考える限り、殆どの参加者がまだ情報のない状態に違いない。
ならば襲撃があるとすれば紫とその配下に限られる。
しかしあの紫がリスクを負ってまで攻め込んで来るだろうか。

「………ないわ。それならこんな場所に私をよこさない」

そう考えれば余程の事がない限り、日没までに大きく動く者はいない。
日が暮れてさえしまえば、こちらの攻める番だ。
それまでにする事は大体決まっている。

「咲夜、この世界の地理を調べろ。今は情報収集が優先だ」
「承知しました」

レミリアが指示を出すと、咲夜はすぐに姿を消す。
冷静沈着かつ時間を止められる咲夜なら、万が一の時にも柔軟に対応出来るだろうとの算段だ。
恐らく他のチームも地理の把握を優先してくるだろう。
ならばこちらも周りに合わせて行動すればいい。
こっちが待っているのは夜なのだから。

「まだ戦いは始まったばかりよ。慌てずこの宴を楽しもうじゃない」





「う~ん、いい朝日ねぇ」

一方こちらは輝夜率いる永遠亭のチーム。
リーダーである輝夜は呑気に風景を楽しんでいる。
輝夜に与えられた陣地は、平安時代の都のような風情溢れる町。
鳥居や大仏がそこかしこにある奇妙な旧都市だ。
町では舞妓や老人が生活しており、まるで本物の町の中にいるように感じられる。
また中央街道を外れると異国の名所を集めた広場があって、万博を彷彿させる作りになっていた。

「さて、朝ご飯は何処で食べようかしら」

娯楽主義の輝夜にとって、陣地が持つ戦闘機能にはあまり興味がない。
それよりも戦争中の時間を、如何に退屈せずに過ごせるかが問題であった。
そんな彼女には、この奇妙な町は格好の遊び場となるだろう。
ある意味輝夜に適した陣地と考えられる。

「ちょっと姫様、作戦は立てなくていいんですか?」
「えー」

そこへ投げかけられるのはマイペースな彼女を諭す声。
不満そうに輝夜が振り返ると、そこには輝夜が選んだ精鋭達の姿があった。
輝夜チームのメンバーは以下の通り

「腹が減っては戦は出来ぬって言うじゃない。まずはご飯よ、ごーはーんー」

チームリーダー 永遠と須臾の罪人 蓬莱山 輝夜

「姫様のおっしゃる事も尤もよ。体力が持たなければ、どんな作戦も成しえないもの」

月の頭脳 八意 永琳

「そういう……事なんですか?」

狂気の月の兎 鈴仙・優曇華院・イナバ

「そういう事なんじゃない? 鈴仙は若いからねぇ」

幸運の素兎 因幡 てゐ

「それより輝夜! 戦争ってどういう事だ!」

蓬莱の人の形 藤原 妹紅

「私も説明がほしい。里を危険に晒す事はしてほしくないのでな」

知識と歴史の半獣 上白沢 慧音
以上6名である。

「紫と神奈子が喧嘩して、いろいろあって戦争になった。以上」
「おい! 全然分かんないだろ、それ!」
「五月蝿いー、死ねー。妹紅死ねー。鼻毛が絡まって窒息死しろー」
「そっちこそ死ね! 輝夜死ね! リンボーダンスしてる最中にギックリ腰になって死ね!」
「二人とも、やめないか!」
「ああ、あと此処じゃあんた普通に死ぬから」
「はぁ!?」

実はこの戦争には仕様上もう一つの特殊ルールが存在する。
それは蓬莱人は復活しないという事だ。
そもそもバトルロイヤルで死なないのは反則なので当然と言えば当然なのだが
死亡時にリタイアとなる為、再生能力が適応されない。
それにより結果的に蓬莱人は復活しないというルールが存在するのだ。
蓬莱人にとっては、この仕様は大きなデメリットになる。
しかし即死しなければ再生能力は問題なく機能する為、普通の人間より丈夫な事に変わりない。
蓬莱人は戦い方を変える必要があるという事だ。

「どういう事だよ! 死ぬって……本当に死ぬのかよ!」
「そうよー、紫が何かしたって事。じゃあ朝ご飯、食べに行きましょうか」
「姫様、あちらに丁度よさそうな小料理屋が」
「いいわねー。何食べるー? 私ビビンバ食べたい!」
「おい! ちゃんと説明しろよ!」
「五月蝿いー、死ねー。サイコガン尻から発射して死ねー」
「そっちこそ死ね! 2段ジャンプしようとして失敗して心中しろ!」

相変わらず喧嘩を続ける輝夜と妹紅。
そんな中、永琳はてゐをこっそり呼び寄せる。
何事かとてゐが近寄ると、そっと耳元で話しかけある物を手渡す永琳。
するとてゐはコクリと頷くと、一目散に町の外へと走っていった。

「…………てゐ?」

その様子を不思議そうに眺める鈴仙。
そこへ永琳がやって来て、てゐ同様耳元で話しかける。

「後で貴方にもやってもらう事があるわ、優曇華院」

それだけ伝えられると鈴仙は永琳に連れられ、残りのメンバーの輪の中へと加わっていった。





鬱蒼と茂った森の中、此処を陣地とするチームがいる。

「随分と妙な場所を割り当てられたもんだねぇ」

それは神奈子率いる山の神のチームだ。
神奈子に与えられた陣地は、森の中に存在する大広間。
一見すると普通の広場のようだが、中央には巨大な穴が開いている奇妙な広場だ。
また広場には洞窟があり、中には何故か土俵がある。
更に奥には何処まで続くか分からない長い通路が続いていた。

「………私に使いこなせるか試しているつもりかい?」

大穴は活動拠点として考えれば、デメリットになるだろう。
だが逆に攻め込まれた時は予想外のトラップとして機能する。
上手く侵入者を誘導し大穴に落とす事が出来れば、一気に反撃のチャンスとなる筈だ。
洞窟も通路を調べておけば、逃走と奇襲の両方に使える。
作戦によって様々な使い方が出来る、主次第の陣地と言えるだろう。

「さて、下準備が必要だ。あんた達、分かってるかい?」

そう言って視線を自分が選んだ精鋭達に向ける神奈子。
それに応えるように、精鋭達も神奈子の前に集まって来た。
神奈子チームのメンバーは以下の通り

「まずはこの大穴を上手く隠さなきゃいけないよ」

チームリーダー 山坂と湖の権化 八坂 神奈子

「うんうん、本格的だね。往年の血が騒ぐよ」

土着神の頂点 洩矢 諏訪子

「大丈夫です! 神奈子様と諏訪子様がいらっしゃれば負ける筈がありません!」

祀られる風の人間 東風谷 早苗

「幻想郷最強決定戦の独占取材! これは確実に売れるわよ!」

最も里に近い天狗 射命丸 文

「今日は仕事で来てるんですけど」

山のテレグノシス 犬走 椛

「うわー、なんかぬるぬるしてきたー。…じゃなかった、ドキドキしてきたー」

超妖怪弾頭 河城 にとり
以上6名である。

「しかし………なんであんた達なんかねぇ…」
「な、なんですか……」

戦いが始まって早々だが、神奈子には一つ気にいらない事があった。
それは天魔との交渉の話である。
神奈子は今回の戦いにおいて、優秀な天狗を貸すよう天魔に話をした。
だがやって来たのは神奈子の予想を大きく下回る者。
大天狗やそれに匹敵する上位天狗を期待していた身としては、鴉天狗と白狼天狗では不満しか湧いて来ないのだ。

「私も嘗められたもんだねぇ」
「いえいえ、私だって凄いですよ? 最速だし! 幻想郷最速だし!」
「ああ、そうだっけ?」
「露骨に興味なさそー……」

しかし今更、兎や角言ったところでどうしようもない。
神奈子は頭を掻くと、億劫そうに文を指差した。

「ああー、じゃあその最速で地図でも作ってきな。残りは大穴のカモフラージュに使えそうな枝とか探して来るんだ」
「なんか……投げ遣りな感じですね」
「土地には詳しい方が有利だろ。分かったら早く行って来い」
「……何故こんな扱い…」
「文様ー、頑張れー」
「………椛、あんた馬鹿にしてるでしょ」
「してますが、それが何か?」
「……………」

渋々と紙とペンを手に、森の外へと飛んで行く文。
その後ろ姿を見届けると、神奈子は小さく溜め息を吐き枝の回収を始めた。

「………1対1なら負ける気はしないが……この戦力でどう攻略するかねぇ…」





様々な世界観が広がる仮想空間。
その中でも特に浮世離れしたこの地を、さとりは自分の陣地としていた。

「……………」

さとりに与えられた陣地は、おもちゃ箱をひっくり返したかのようなコミカルな世界。
派手な色彩のタイルの地面に、絵本の世界のような城が建つ奇妙な世界だ。
また城の周りには線路が敷かれており、時折正面に顔が描かれた汽車が走っている。
更に小さな兵隊が歩き回っていて、まるでおもちゃの世界の王国のように感じられた。

「……………………」

はっきりいって兵隊が戦力になるとは思えない。
だが不定期に走る汽車や、曲がりなりにも城が建っている事を考えれば襲撃には強いように思える。
そして何よりさとりにとって、この世界観は自分の趣味に合う理想の陣地だ。
それだけでこの陣地は、さとりには当たりとなっていた。

「………皆いる?」

一通り辺りを散策して戻って来たさとりを、さとり自身が選んだ精鋭達が出迎える。
自分の戦闘能力の低さをカバー出来る、最強の布陣だ。
さとりチームのメンバーは以下の通り

「皆で勝利を手にしましょう」

チームリーダー 怨霊も恐れ怯む少女 古明地 さとり

「さとり様のサポートは、あたいに任せて!」

地獄の輪禍 火焔猫 燐

「負ける気はしない!」

熱かい悩む神の火 霊烏路 空

「ふふ~ん♪ なんか面白い事になってるね」

閉じた恋の瞳 古明地 こいし

「祭りと知っちゃあ、参加しない訳にはいかないでしょ」

語られる怪力乱神 星熊 勇儀

「要するに妬ましい奴等を倒せばいいんでしょ?」

地殻の下の嫉妬心 水橋 パルスィ
以上6名である。

「私達が力を合わせれば誰にも負けないわ。地底の力を地上の妖怪に見せてやりましょ」

自信満々に意気込んでいるさとり。
だが彼女には一つだけ不安要素がある。
それは考えの読めないメンバーがいる事だ。
今回のメンバーは戦力強化を図り、戦闘能力の低いペットをおいて代わりに旧都の妖怪を連れて来ている。
本当はあまり旧都の妖怪とは関わりがない。
しかし人型になれない動物や妖獣では、幻想郷の妖怪達には敵わないのだ。
同時に考えの読めないこいしも怖い。
だが地底の妖怪として徒党を組んでいれば、とりあえず言う事を聞いてくれる筈だ。
少なくてもさとりは、そう思っている。

「大丈夫。皆、分かってくれるわ」

今回の戦いはチーム戦だ。
作戦の方向性から対立したとしても、仲間割れは損しかしない。
もし意見が分かれたなら、話し合い皆で決めるべきだ。
問題点はない、そう思いたい。

「………それじゃあ、まずは偵察役を決めましょう。誰かやりたい子はいる?」

とりあえず今は戦いに集中しよう。
さとりは自分に言い聞かせると、メンバー達に意見を求めた。
皆お互いの顔を見て、誰が行くべきかと考えている。
やがてやはり自分しかいないか、と言わんばかりに燐が手を上げた。
ところが他に手を上げた者が、もう一人いる。

「別に私がやってもいいんでしょ?」

パルスィだ。
さとりもこれには驚いた。
正直まだ不安要素の残っていた相手だけに、自分から動いてくれる事に感銘を受けたのだ。
態々名乗り出てくれたのならここは任せようと、さとりはそっと頷く。

「お願いするわ」
「任せなさい」

しかしどうにもこのパルスィという妖怪は、人の困る様を好むところがあるらしい。
偵察役に志願したのも、自分の目で周りの連中の慌てふためく様子を見たいからのようだ。
はっきり言って動機は不純だが味方として動いてくれるなら目的はこの際どうでもいい。
さとりにとって大切なのは、お互いが仲間と思って行動出来るかどうかなのだ。

「いい仲間になれる事を心から祈ってるわ」





この仮想空間はメインとなる大平原と、その各場所に存在する5つの陣地に分けられる。
その中でも大平原の中央に位置し、周囲を断崖に守られている場所に彼女はいた。

「そろそろ全員動き出した頃ね」

この仮想空間を創り出した張本人、紫はバーで酒を飲みながら余裕の笑みを浮かべている。
それもその筈、他の陣営が必死に集めている情報を紫は最初からすべて持っているのだ。
誰が何処にいるのか分かりきっている為、探索などする必要がない。
更にメンバー構成も把握しているので、どんな妖怪が敵になるかも知り尽くしているのだ。

「今頃、私の創ったギミックに皆びっくりしているかしら」

そんな紫が支配する陣地は、4階建ての集合住宅。
ガレージのように解放された1階では、1頭身のマスターがバーを経営している奇妙な家屋だ。
家の中には他にも、おかしな部屋が幾つも用意されている。
また一部の部屋には何故か住人もいるという、何の為なのかよく分からない仕掛けが施されていた。

「さ~て、それじゃあ私達も動こうかしら」

バーでの一時を終え、庭へと出て行く紫。
そこには紫が選んだ精鋭達が待機していた。
紫チームのメンバーは以下の通り

「お待たせ~」

チームリーダー 神隠しの主犯 八雲 紫

「それで紫様、どのような戦術をお立で?」

策士の九尾 八雲 藍

「もう~、待ったわよ~」

幽冥楼閣の亡霊少女 西行寺 幽々子

「幽々子様、あまりはしゃがないでください」

半分幻の庭師 魂魄 妖夢

「まったく遅いわね! 私は貴方みたいに暇じゃないのよ!?」

非想非非想天の娘 比那名居 天子

「まあまあ総領娘様」

美しき緋の衣 永江 衣玖
以上6名である。

「あら、私は別に待っててなんて言ってないわよ? それとも一人で動くのは怖いのかしら?」
「なっ! ……いいわよ! 勝手に行ってやろうじゃない! 有能な私を邪見に扱った事、後悔すればいいわ!」

そう言うと天子は、腹を立てて何処かへ行ってしまった。

「ああ、待ってください総領娘様」

すると慌てて、衣玖も天子を追いかけて出て行ってしまう。
いきなりメンバー二人が、別行動を始めてしまった紫チーム。
しかし紫の表情は余裕の笑みを保っている。

「よろしいのですか、紫様」
「最初から、あの二人には自由行動してもらうつもりだったの。それより幽々子、言った通りやってくれた?」

先程の二人の事などなかったかのように、次の行動へ移る紫。
その関心の先にいる幽々子は、嬉しそうに笑顔を浮かべて返事をした。

「ええ、バッチリや…」

ところが幽々子が喋りきる前に、突如空に死蝶が群れを成す。
壮大な光景と何が起こったのか分からない事で、呆然とする藍と妖夢。
そのすぐ隣で紫はくすくすと笑う。

「早速、愚かな記者が死蝶の巣に入り込んで来たわね」

紫が笑う視線の先、そこには突然死蝶に囲まれ慌てふためく文の姿があった。













戦いが始まってから数時間後、日も昇り始めた頃。
神奈子チームは大穴のカモフラージュを終え、一息吐いているところだった。

「まったく……あいつは何時まで、ほっつき歩いてるんだい」

だが調査に出かけた文は未だに帰って来ないでいる。
この世界がどれ程の広さか分かっていないので、調査時間として考えれば妥当なのかもしれない。
しかし最速を謳っておきながら帰還が遅れている現状は、神奈子を苛立たせるには十分だった。

「そんなにカリカリしたって何も変わらないよ。それより作戦はちゃんと立てたの?」

そこへ諏訪子が話題を変えようと、神奈子の隣にちょこんと座る。
神奈子はそんな諏訪子の気持ちを知ってか知らずか、腕を組み自身の計画を語りだした。

「今回の戦いはバトルロイヤルだ、撃墜数を増やす意味は特にない。
 なら私等がやる事は、弱小チームは無視して脅威となるチームを先に潰す事だ」
「やられる前にやるって訳だね」
「そう、奇襲されるのが一番おっかないからねぇ。それで狙う相手だけど、さとりは無視していいな。
 どうせ出て来るのは空辺りだろう。あと輝夜も気にしなくていい。強そうには見えないし、弱体化もしてるからねぇ。
 問題はレミリアと紫だな。あの二人は本気で来るだろうからねぇ」
「それでどっちを攻める?」
「そいつが難しいところなんだよ。紫を攻めれば夜が来た時、レミリアの攻撃を止められなくなる。
 かといってレミリアとやりあえば、ここぞとばかりに紫が攻めて来るだろう。
 トラップで部下を一掃出来たとしても、あの二人と連戦になるのは避けたいねぇ」
「やっぱり1日目は様子見?」
「だけどそいつもねぇ……出来れば連中が動き出す前に、一発仕掛けてこっちのペースにしたいし…」

真剣に戦術を考える二柱。
するとそこへ調査に出かけていた文が帰って来た。

「ははは、遅くなりました~」
「まったく本当だよ。幻想郷最速が聞いて呆れるね」
「いえいえ、代わりにいい情報は仕入れましたよ? ささ、こちらへ」

そう言うと文はメンバー全員を洞窟の方へ呼び寄せる。
何事かと思いながらも、素直に中に入っていくメンバー達。
そして文は全員、中にいる事を確認すると洞窟の出口に向かって歩きながら

「……『幻想風靡』」

一気に洞窟内の柱を叩き折った。

「なっ!」

当然の如く、支えを失った洞窟は倒壊を始める。
慌てて倒壊していない奥の通路に逃げ込む神奈子達。
ほどなくして洞窟の入口は完全に崩れ、跡には岩の山だけが残った。

「………これで、いいんですね?」

唯一広場に残った文、彼女は空を見上げそう呟く。
すると何処からともなく、幽々子が姿を現した。

「お疲れ様、もういいわよ」

紫チームが仕掛けた死蝶のトラップ、それは偵察部隊を生け捕りにする仕掛けだった。
罠にまんまと引っ掛かった文は、その場で死ぬか自分の陣地を襲うかの二択を迫られる。
これが咲夜等忠義の厚い者なら死ぬ方を選んだだろう。
だが文は命を投げ売ってまで、神奈子に忠誠を誓っている訳ではない。
最後に惜しいのは我が身、回答はご覧の通りだ。

「そ、それで私はこれからどうしたら……」
「そうね~、私の部下として使ってあげてもいいんだけど~…」

そこまで言って幽々子は、扇子を文の胸に突き付ける。
意味が分からず、ぽかんとしている文。すると

「!!」

突如扇子の先から飛び出した死蝶が、文の体を貫いた。

「がっ……そん…な……!」

死蝶に貫かれた文の心臓は、ゆっくりと活動を止める。
よろめき崩れ落ちそうになった体を、ここで死んで堪るかと必死に踏ん張る文。
しかし踏ん張る為に足をかけた場所は、神奈子達がカモフラージュした大穴の上だった。
そのまま足を踏み外し、文は真っ逆さまに穴に落ちていく。
やがて闇の中に消えて行くその姿を見届けると、幽々子はそっとその場をあとにした。

「簡単に仲間を裏切る部下は、いらないのよね~」

神奈子チーム 射命丸 文
リタイア





一方崩れた洞窟の奥、細長い通路の中で神奈子達は倒壊をやり過ごしていた。

「文の奴……次会ったらただじゃおかないよ!」

文の裏切りに怒りで頭に血が上りきっている神奈子。
その後ろで諏訪子達は作戦会議を開いていた。

「どうもこの壁、普通の壁じゃないみたい。だから一緒に崩れなかったのかもね」
「奥の方から風が流れてます。どうやら通り抜けられそうです」
「うん、じゃあとりあえず奥に進んでみよっか。でも纏まって行くべきか、それとも手分けして行くべきか」
「大勢で動くといざという時、回避に手間取る危険性があります。二人ぐらいで動くのが得策かと」
「では私は諏訪子様と一緒に行きます」
「じゃあ私は椛と行く」
「神奈子ー、神奈子はどうするー?」
「ん? なんだい」

突然話を振られて、内容を把握出来ずに訊き返す神奈子。
諏訪子は、やれやれといった感じで話の説明をした。

「…で、どうする?」
「私はあんた等が洞窟から出たら、この岩を吹き飛ばして外に出る。誰かが私等の陣地に居座ってるかもしれないからねぇ」
「そう、分かった。早苗の事は任せといて」
「頼んだよ」

話が終わると二柱は、お互いに親指を立てて無事を祈り合った。
そして残りのメンバーに指示を出すと、諏訪子は脱出の準備を始める。
やがて用意が出来ると、諏訪子達は洞窟の奥へと進んで行った。
神奈子チームで起きたこの一連の騒動。
実はその様子を森の茂みの中から、ずっと観察していた妖怪がいた。

「まさか……こんな事になっているとはねぇ~。これはさとりなんかに付いてる場合じゃないわ」





この世界では誰の陣地にもなっていない場所は大平原となっている。
平原の中には砂漠があり川があり、断崖まで存在する広大さだ。
そんな大平原の中で、人一人を探している妖怪がいる。

「総領娘様ー、何処まで行ったんですかー」

その妖怪とは天子を追い掛けて出て行った衣玖だ。
追いかけて行ったはいいものの、途中で見失いご覧の有様である。
何せ無駄に広大な大平原、一度逸れると簡単には見つからない。
天子の目的地も分からないので、衣玖は平原の中で途方に暮れてしまっていた。

「はぁ、総領娘様は今頃何処へ………あら?」

ふと衣玖が物音に反応して振り向くと、地面に開いた大きな穴から何かが出て来ている。
もしや敵かと身構える衣玖。
ところが穴から出て来たのは巨大なロケット。
ロケットはそのまま空高く飛び去ってしまった。

「……………」

何だったのか分からず、衣玖はその場に茫然と立ち尽くす。

「そんなに隙だらけで立ってて、いいのかしら?」
「!!」

すると何者かが声をかけて来た。
慌てて声の主を探し、距離をとる衣玖。
その様子に声をかけた本人、咲夜はくすくすと笑う。

「此処は戦場よ。もう少し緊張感を持って行動するべきだと思うわ」
「貴方は………確かあの時の…」
「お久しぶりですわ。私、紅魔館のメイド長を勤める十六夜 咲夜と申します」

そう言って咲夜はスカートの裾を持ち上げ、お辞儀をした。
つられて衣玖も挨拶をする。
咲夜はそれに満足した笑みを浮かべると、ナイフを取り出し戦闘態勢をとった。

「さて、今度は私が忠告する番。早々に立ち去りなさい。此処から先はお嬢様の陣地ですわ」
「そうは行きません。私は総領娘様を探さなくてはならないのです」
「ならするべき事は分かっているわね?」
「今度は本気でいきますよ」
「それはお互い様。礼儀作法に理解ある妖怪は嫌いじゃないから………残念よ」

それだけ言うと、咲夜は大量のナイフを投げ飛ばした。
無数のナイフが宙を舞い、衣玖目掛けて襲いかかる。
しかし衣玖は動揺せず、電流を帯びた羽衣を振りナイフを弾き飛ばした。

「電気使いに刃物で挑むのは、少し無謀ではありませんか?」
「ご尤もな意見ですわ。私もあまり時間をかける訳にはいきません」

すると咲夜は懐中時計を取り出し時間を見る。
そして目線だけを衣玖に向けて一言

「なので少しやり方を変えましょう」

そう言った瞬間、咲夜は衣玖の目の前に一瞬で移動した。

「ッ!!」

不意を突かれ驚いた衣玖だが、至近距離からの攻撃は咲夜にとっては不利。
すぐに羽衣を振り、咲夜目掛けて攻撃を繰り出す。
だがその羽衣は咲夜が投げたナイフが刺さり、ナイフの勢いによって思いっきり引っ張られた。
しかし所詮は投げたナイフの勢い、衣玖が腕を振れば再び向きを変える。
ところがなんと羽衣は突然向きを変え、衣玖の後ろに飛んで行くではないか。

「な………」

すると羽衣は衣玖の正面で十字を描く。
その瞬間この時を待っていたと言わんばかりに、咲夜は衣玖の背後に回り伸びた羽衣を一気に引っ張った。

「うぎっ!!」

途端に羽衣の絡み付いていた腕ごと引っ張られ、衣玖の両腕は体の前でクロスしたまま動かせなくなってしまう。
そのまま羽衣をぐるぐる回し、衣玖を雁字搦めにしてしまう咲夜。
やがて最後に残った先端をナイフで地面に固定すると、衣玖はその場から動けなくなってしまった。

「…あ……ぐっ………ぁぁ…」
「これで貴方ご自慢の電撃はもう使えないわね。さて、どう料理しようかしら?」

悪戯っぽい笑みを浮かべ、咲夜は衣玖の様子を窺う。
ところが、ふとある方向を見つめると咲夜は何もせずに飛び去ってしまった。
理由が気になり咲夜が見ていた方向を見る衣玖。
するとそこには二頭のライオンが、こちらに向かって迫って来ていた。

「なああぁぁ!?」

普段なら雷撃で追い払える相手だが、今電撃を使えば自分が痺れてしまう。
ましてや身動きすらとれない状況、一方的に食い殺されるのは目に見えていた。
だが二頭のライオンは躊躇う事無く、衣玖との距離を狭めて来る。
最早その牙が衣玖の体を食い千切るのは、時間の問題だった。

「ちょ、ちょっと待………来ないで……嫌………ああぁぁああ……ああ! あああ! ………ぎゃあああああああああああ!!」

紫チーム 永江 衣玖
リタイア





「………………………」

とある家屋の屋根に乗り、ぼーっと空を眺める妹紅。
その頭の中では、輝夜が言っていた言葉を考えていた。

「……………死、か」

永遠に訪れる事がないと思っていた自らの終焉、それが今すぐ近くにあるという。
別に今すぐ死にたいとか、そう思っている訳ではない。
ただもうないものだと思っていたものが身近にある事に、不思議な感覚を覚えずにはいられないのだ。
本当に自分は死ぬのだろうか。もし死ぬなら、その時自分はどう思うのだろうか。
いろいろ考えてはみるものの頭の中がごちゃごちゃするばかりで、明確な答えは何も浮かんで来ない。

「私は…………死ぬのか……?」
「おーい、妹紅ー」

そこへやって来る慧音。
その姿を見ると、妹紅は自分の考えが馬鹿らしくなって来た。
今は死ぬとかどうとか考えている時ではない。
これから起きる戦いの中で、慧音とこの町の人達を守らなくてはならないのだ。
難しい事をウダウダ考えるのは性に合わない。
ただ襲って来る脅威に立ち向かっていけばそれでいいのだ。

「どうした妹紅」
「いや、何でもない。それより何かあったのか?」
「それがよく分からない人がいるんだ。ちょっと来てくれないか」

早速、慧音について行く妹紅。
こうして共に歩いて行く今が大切なんだ。
もし戦って死ぬのなら、その時そういう運命だったんだと思えばいい。
今はただ前を向いて歩こう。
そう妹紅が思っていたところに、そいつは姿を現した。

「……………………………………」
「………………………………………」
「…………何なんだ、こいつは」
「……………分からん」
「なんで壁にめり込んでるんだ」
「…………分からん」
「なんでやたら顔がデカいんだ」
「………分からん」
「…………………………おい、お前。お前は一体何を…」
「東」
「………………は?」
「…………………………」
「……………………………」
「………………………………」
「………………飛んだ、な」
「……………………顔だけ、だったな」
「………………そういう妖怪だったのかもな」
「……………そうかもしれんな」




  • 最後の何だ? -- 名無しさん (2012-03-24 12:20:56)
  • (∴)一匹余さず 殺しあえよぉ -- 波旬 (2014-08-22 15:04:49)
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