• 勝てない相手










1、
十六夜咲夜が倒れた。
よりによって、偶々白玉楼の2人が、お茶を飲みに来ていた時にだ。
理由? 過労に決まっていよう。
よくもまぁ一人であんなに大きい館を切り盛りしていて、今まで無事だったものだ。



「レミリアの慌てっぷりが可愛かったわ~」



永遠亭、ある病室の扉の前で。
呑気に話す幽々子を隣にし、妖夢は気が気でなかった。
傍らでは鈴仙が、勘弁してくれといった表情で経過を見守っている。

「……」

突き刺すような視線で幽々子を見つめるレミリアが、目の前にいるからだ。

「そんなに怒らないでよ。 お見舞いに来たんだから」

幽々子はそういうと、妖夢に目配せする。
妖夢は頷くと、花束をレミリアに差し出した。

「……は? なんでアンタ達が、咲夜の見舞いを?」

怪訝な表情を浮かべたレミリアに、妖夢は若干幽々子を非難するような仕草を見せつつ、返答した。

「あの時偶然場に居合わせたから、と言うこともあるけど。
 ……それなりに長い付き合いになるので、このくらいの礼儀は有ってもいいかなと思った次第です」
「ふーん……」

幽々子と違い、冗談半分のからかいの様相は全く見せない妖夢。
そんなことが出来るほど度胸もなければ、本心でからかえるほど腐ってもいない。

「ま、分かったわ。 良かったら入りなさいよ」

自分の大切な従者を見舞ってくれるのなら、悪い気はしない。
機嫌を取り戻したレミリアは、直接渡したら?といった感じで病室の扉をノックもせずに開けた。
若干慌てた様子を見せた妖夢と鈴仙だったが、なんてことはない。

「あら、直接渡しに来てくれたのね? 嬉しいわ」

既に半身を起こし、扉の方を向いている咲夜。
会話を聞いていたのか、既に出迎える準備が出来ていたようだ。

「しっかりしてるのねぇ」

扇子を口元にあて、クスクスと笑う幽々子は、暗に妖夢と鈴仙の慌てっぷりを小馬鹿にしたような雰囲気があった。
先頃からのレミリアの様子から、咲夜の容態が全く危険なものではないという事を、彼女は理解しきっていたのだ。
そして咲夜が現在起きていて、外の様子など分かりきっていることも。

「だからアンタは甘いのよ。 うちの咲夜は、アンタが考えているより、ずーっとしっかりしている」

じゃなきゃ私の従者は勤まらないと言いながら、レミリアは妖夢を咲夜の前に促した。
若干落ち着かなそうにおずおずと咲夜の前に着く妖夢が、やはりおずおずと咲夜に花を差し出した。

「……」
「ん? これは、何?」
「え? いや、その、お見舞いの……」
「フフ、分かってるわよ。 ありがとう」

少々のからかいもさて置いて、咲夜は妖夢から花束を受け取った。

「……」
「……キレイ、ね」

穏やかな笑みを浮かべ、花を受け取る咲夜。

「……」
「……? 何、どうかした?」
「……いえ、何も」

妖夢の知っている咲夜からはこれまで絶対見られなかった、優しい笑みだった。
何事も完璧にこなす優秀な従者は、このような優しい表情をすることも出来る人間だったのだ。

「そう? あ、鈴仙。 これ、悪いけど」
「ああ、はいはい」

咲夜は顔を元の表情に戻し、鈴仙に花を渡した。
鈴仙はそれを花瓶に入れるのだろう、一旦病室から出て行った。

「大分良くなったわね。 咲夜のそんな表情、久しぶりに見たけど」

レミリアは一つ溜息をつくと、ベッドの傍らにある椅子に腰掛けた。

「申し訳ありません、お嬢様。 お屋敷に戻ったら、直ぐに全室掃除を行いますので……」
「そうね、お願いしたいわ。 一日で終わらせなさい」

それを聞いた妖夢が若干レミリアに非難するような視線を向けたが、完全にそれを無視する形で、レミリアが続けた。

「その代わり、その次の日は休日よ。 これからは週に一回、休む事を義務にする」
「え、し、しかし……」
「しかしも案山子もないわ。 何、私の命令が聞けないの?」

少々強めに言わないと聞かない頑固者である事は、レミリアも長い付き合いで承知しているのだ。
咲夜は有能だが、同時に非常に身体面で打たれ弱い人間。
休ませるべきときは休ませなければならない事を、レミリアはこの件で痛いほど分かったのだ。

「……まぁ、お嬢様がそう言うのなら」
「それから。 自分でやろうとするより、もっと妖精メイドを使いなさい。
 言う事を聞かないようなら、私が叩きのめすから」

会話を続けるレミリアと咲夜。
自分達は邪魔だろうと感じたのだろう、幽々子が妖夢に目配せし、外に出るよう促した。

「……」

妖夢は黙って。 しかし歯軋りしながら、病室から出て行った。



















2、
従者と呼ばれる存在、或いはそれに近い存在は、妖夢の知る限りでも片手では入らないほど居る。

主のつながりで定期的に交流のある藍を始めとし、鈴仙、小町、早苗、衣玖。
他にも地霊殿や星蓮船にも2,3人居る事を知っている。

そして、今日見舞った十六夜咲夜。

「(ホント、よくできた従者だこと)」

流石に藍は別格としても、咲夜は仕事の出来る人間だと、前々から妖夢は感じていた。

戦闘の腕は立つ。
料理は上手い。
気は回る。
仕事は何をやらせても早く、正確で、美しい。
美しいのは仕事内容だけではなく、顔やスタイルにまで及んでいる。
あそこの門番も大層な美人だが、咲夜の美しさはまた別系統の物といえる。

よきライバルといえる弾幕勝負を除いて考えると、妖夢の勝てる面は殆どなかった。
寿命や体力? 単なる種族の差ではないか。
彼女は人間、自分は半人半霊。
身体能力で上回っているのは、単に自分が完全な人間ではなかったから、に過ぎない。

妖夢は咲夜に対し、ある種の畏敬の念を抱いていた。
彼女の見舞いに行こうと言い出したのは妖夢なのだが、実際はそれが第一の理由だったかもしれない。

しかし……

「……行かなきゃ、よかった、かな……。 いや、行って、よかったのかな……?」

数少ない勝っていたと思われた、『人間らしさ』。
同族である人間を平気で調理する冷酷さを持つ事から、血も涙もない生きる機械かと思ったこともあった相手だったのに。

「……」
「妖夢~」

あんな顔で、笑えるとは。
この先絶対負けることが無いと思われた面ですら負けたような気がして、妖夢は酷く落ち込んでいた。

謎の多い咲夜だが、生きてきた期間は妖夢とそれ程変わらないか、或いはずっと短いはずだ。
なのに何故、このような差がついてしまっているのか?
資質と言われればそれまでだが、それでは咲夜に一生頭が上がらないことを認めるのと同じだ。

「妖夢~?」

人間であり、この先長くないであろう一生を終える。 いや、衰えて来る前に、彼女に並び、越えたい。
その為には、色々な努力が必要になってくるだろう。

「妖夢? さっきから呼んでいるんだけど?」
「!! ゆ、幽々子様!」

考え事に没頭していたせいで、主の呼び声に気づかなかったようだ。

「どうしたのかしら?」
「い、いえ。 何でも……」
「何でも? そう。 ならいいけど」
「申し訳ありません……」

もう、この辺からして違う。
咲夜なら、主からの呼び声を聞き逃す事はしないだろうし、ましてや心配事などさせないはずだ。
だからこそ、本当に倒れるまで誰も気がつかなかったのだろう。

「実はね。 用事があって呼んでいたのよ」

幽々子は口元を扇子で隠し、にんまりと笑った。

「は、はぁ……」

普段表情を崩さない主人がこのような表情をするのはどういう時か?
鈍い妖夢も、長い付き合いで流石にそれを見切っていた。

「秋の味覚を、堪能したいのだけど」

食べ物のお話。 懲りない主だ。



















「……それでなんで、僕に着いて行くという結論に至るのかな」
「着いて行くだけですから! 迷惑かけないようにしますよ!」
「……」
「な、なんでそういう顔するんですか?!」

無縁塚にゴミ拾い? に向かう霖之助に、妖夢は着いて行く事にした。

「秋の味覚、か。 里に行って何か手に入れるか、或いは秋の神に会いに行けば終わりじゃないのかい?」
「それでは他人任せじゃないですか! 私は自分の手で『秋の味覚』を見つけて、自分の手で料理し、幽々子様に味わっていただきたいんです!」

霖之助について行っていいか? と聞いて着いて行く時点で、他人任せな面がある気がするのだが……
妖夢なりに真剣に考えているようなので、霖之助も突っ込まない事にした。

「しかし、都合よく外の世界の食べ物が流れていたりするかわからないよ?
 いや、確率はかなり低いと思ってもらっていい。 主人の狙いは、新鮮な秋の味覚だろう?」

勿論季節が季節だから流れている可能性はあるが、流れてくるものを提供するくらいなら、端から幻想郷の味覚を用意するべきだと思うのだが。
外の世界のものを手に入れたいという妖夢の考えに、霖之助はあまり賛成ではなかった。

「いえ、食べ物でもいいのですが、それ以外のものでもいいんです」
「と、言うと?」
「私にはまず、『秋の味覚』に関する情報が足りていません。 店主さんのように本を沢山読むわけでもなければ、魔理沙のように幻想郷中を飛び回っているわけでもない」
「今からそのような事をしても間に合わない。 そこで発想を転換し、僕は兎も角魔理沙などは知りがたい、外の世界の情報に目をつけたわけか」
「そういうことです。 話が早くて助かります」

成程、一理ある。
霖之助は外の世界の知識をそこそこ知っていたり(つもり?)するが、彼は特殊だ。
大半を冥界でのみ過ごしている幽々子にとって、それは未知の部分も多いはず。 幾ら紫が親友としているとしてもだ。

「悪くない発想だね」
「そ、そうですかね?」

珍しく霖之助に褒められた妖夢は、嬉しさもあり、やる気が俄然みなぎってきた。







「では好きなように探してくれ。 僕は僕で探すから」
「はい、ありがとうございます」

埋葬を手伝い、共に手を合わせた後。
霖之助の収集ポイントに案内してもらった妖夢は、腕まくりをして周辺を見渡した。

「うーん、色々あるけど……」

所謂ゴミの類が多い。
臭いし、兎に角汚い。

店主はこんな所から宝を発掘しているのか。
根気が要る作業だなぁと思いながら、霖之助から借りた手袋を装備し、妖夢は作業を開始した。






10分後。
めぼしいものは無いかと捜索している妖夢の目に、ある本が留まった。

「ん……? きのこ図鑑?」

ページ数の割りに、やけに重い本だった。 
1988年版?とか書かれている。 良く分からないが、少々古そうなのはわかった。

「……あ!」

キノコといえば、立派な秋の味覚である。
思い立った妖夢は本を開くと、目次に目をやった。


『はじめに:P3』


こういう所には、大抵どうでもいいことばかり書かれている。 これは知っていた。


『数々のきのこにまつわる迷信について:P5』


迷信? いまはそんなことはどうでもいい。 知りたいのは、


『日本の代表的な食用キノコ:P12』


これだ。

12と書かれているページに飛び、そこからはゆっくりとページを捲っていく妖夢。
目に映るのは、典型的なキノコといった感じのものから、一見食用に出来なそうなものもあった。

『マツタケ』
『ムキタケ』
『ブナシメジ』

言葉だけでピンと来るキノコも多かった。
里に売られているのを見たことがあるキノコも、相当数あったのだ。

「うん。 これで決まりね」

図鑑をパタッと閉じると、妖夢はすくっと立ち上がり。

「店主さーん!! 欲しいものが見つかりました!!」

声をあげ、霖之助を呼んだ。

「ふむ。 何を見つけたんだい?」

数秒後、妖夢の声に反応した霖之助が、妖夢の元にやってくる。
しかし妖夢は、図鑑を背後に隠した。

「内緒です。 見せてしまったら、店主さんから何かアドバイスを頂いてしまうかもしれませんから」
「む。 言わなければいいのだろう?」
「黙れといわれて、黙れる人ではないじゃないですか」
「……」

言い返す妖夢に、言い返せない霖之助。
仮に知識を試されるものだとしたら、彼女の言うとおり、正直黙っていられる自信が無い。

「まぁ、構わないよ。 見つかったのならそれで結構だ」
「ええ、おかげさまでいいものが手に入りました。 ありがとうございます」

ぺこっと妖夢は頭を下げ、ふわりと宙に浮かんだ。

「本当は店まで運搬のお手伝いをするべきなんでしょうが、急ぎですので。 
 この件のお礼は、何れ必ずします」
「ああ、行くといい。 願わくば、後日客として何か買ってくれるとうれしいね」
「ええ、お金を工面してから顔を出します。 それでは」

背後に隠していた本を腹に抱えなおすと、妖夢は高速で飛んで帰っていった。
鴉天狗ほどではないが、やはりスピードは中々早い。 
みるみるうちに小さくなる妖夢の姿を見届けた霖之助は、

「さて」

作業に戻った。 妖夢に負けないお宝を手に入れるために。



















3、
「うーん、なんか。 なんというか……」

どれも同じ物に見える。
キノコの世界は、実に奥が深い。

妖夢は図鑑を片手に、四苦八苦していた。


霖之助と分かれてから2時間後。
妖夢は里から少し離れたところにある山林にて、キノコ狩りをしていた。
しかし、中々捗らない。

「重いよ、これ……」

片手に図鑑を持ちながら、上下左右を見渡さなければならないのだ。
しかもド素人の妖夢にとっては、色々と未知の世界過ぎる。
やはり一人で秋の味覚を手に入れたいからと言って、無謀だったか?

若干後悔しつつあった妖夢だが、そこでふと咲夜の事が頭に浮かんだ。

「……」

彼女なら、十六夜咲夜なら。
こんな苦労はせず、とっくに全てを終わらせているのではないだろうか?
キノコの収集はおろか、調理も完璧に行い、主や客人を喜ばせる事だろう。
仮に褒められても、心の中では『当然だ』と思いながら。
瀟洒に、完璧な笑顔を見せるだろう。

「負ける、もんか……!」

負けてたまるか。
いつか彼女に並び、追い越すのだ。
この程度の事で、くじけていてどうする。
妖夢は再び気を取り直すと、ふと手近の木の幹を見てみた。

「あ」

キノコだ。
しかしちょっと待て? 何だろう、この違和感は。

「あ、そうだ、これって……!!」

丁度図鑑を開いていたページ。
載っているきのこは食用キノコで、名を『センボンイチメガサ』というらしい。

「……まさに、これじゃない」

やや小型で、茶色? 肌色? の中間みたいな色をしている。
群生していて、そのキノコが多数で密集している。

「うん。 多分そうだ!」

妖夢はそのキノコをそーっと掴むと、懐に2,3本程度入れ込んだ。

「よし、まずはこれで色々試してみようか……な?」

図鑑を閉じようとした妖夢の目に、嫌な記述が留まった。


『本菌は毒性を持つコレラタケと形状が似ているので、注意する事』


「う……」

これもか。
妖夢は若干ウンザリしながら、睨みつけるように図鑑を見た。

実はこれまでも幾つか食用キノコっぽい外見のものを見つけていたのだが、その度に「この菌には食用でない類似キノコが存在していて」なんていう事が追記されていたのだった。
先程ムキタケに似たキノコを見かけたのだが、あわせて毒キノコとして紹介されていたツキヨタケと区別がつかず、結局放置してきた経緯がある。

「でもそんな事言ってたら、何時まで経っても採れないもん……」

全てが『毒キノコと似ている。 怖いから採らない』と見切っていったら、最悪成果無しで山林を去ることになる。 
既に1時間以上、捜索を行っているのだ。 そんな事態になるのは、妖夢はイヤだった。

「……ちょっとくらいなら、平気だよ、ね?」

仮に採ったものがセンボンイチメガサの類似毒キノコだったとしても、まさか死にはしないだろう。 食べたら死ぬといった記述もないし。
自分は半霊だから人間より丈夫なはずだし、1,2本程度の毒見なら問題ないはずだ。 少々腹を下す程度だろう。
何よりこのセンボンイチメガサというキノコ、先頃のムキタケとは違い、里で売られているのを見たことがない。
このような一般には売られていない、認知されがたいキノコを使って『秋の味覚』を完成させることが出来れば、幽々子を満足させることは勿論、咲夜にもおいそれと出来ないであろうことをやり切れるわけだ。

「よし、まずは2,3本食べてみよう」

まずはこれが、毒でないことを確かめる必要がある。
どのような形態、色、生える場所、生え方なのか? と言うことは図鑑と経験から学んだ。
次に山林を訪れてもこの場所を覚えているか自信が無いが、特に問題にはならないだろう。

妖夢は図鑑を閉じると、それを左手に持つ。

「……どうしようかな。 まずは炒めてみようかな? やっぱり」

そして、今後の計画を立てつつ、家路につくこととした。



















4、
翌日、正午前後。

妖夢は渋い顔をしながら、再び山林に向かっていた。


昨日、帰宅してから採取したキノコを調理した。
茹でるか炒めるか生のままいくかで少々迷ったが、結局炒める事にした。
ただ食してみたはいいのだが、毒キノコかもしれないというビビリが味覚を麻痺させ、加えて持ち帰ったキノコがあまりに少量だった為、よく味が分からないまま終わってしまったのだ。

毒があるかもしれないと多少ビクビクしてはいたが、半日はとっくに経ったにも拘らず、妖夢はこの通りピンピンしている。
それが反って、妖夢は非常に悔しかった。

「もっと持ち帰って置けばよかった……」

可食ならそのまま別の調理方法で調理すればいいし、毒だったら毒で始末してしまえばよかったのだ。
少し考えれば分かった事なのに、どうして昨日はそこまで頭が回らなかったのだろうか?

「咲夜さん、だったら……」

こんなヘマはやらないだろう。
毒かどうかの同定も、おそらく自分ではない何者かにやらせるだろう。
そして何の気兼ねもなく調理し、味見し、それを食事として提供するだろう。
レミリアはそれを食べながら、笑顔を浮かべ……

「……腹立たしい!!」

妖夢は舌打ちすると、昨日キノコを採取した場所に向かって行った。










行ける訳無いのだ。

滅多に立ち入らない土地に。
何も目印を残さず。
しかも相手は立て札等ではなく、キノコと言う生きた存在なのだ。
一日変われば気候、生態系などは十分変わりうる。

そして昨日の捜索ルートを全て記憶するといった事は、当然妖夢はしていなかった。
道のない部分も多く歩いたので、道なりに歩いてたどり着けるような事もない。

もう、何もかもが空回りである。

「ああ、もう!! どこなのよ、昨日のキノコは!?」

妖夢はイライラを隠そうともせず、ずんずん山林の中を進んで行く。
毒性があるとして有名なベニテングタケを見かけたとき、腹いせにそれを蹴飛ばしたりもした。





「……!!」

捜索から30分後。
イライラが頂点に達しかけた時、それはみつかった。
憤怒に満ちた顔は、一瞬でやんわりとした少女らしい顔になった。 実に分かりやすい。

「……はぁ。 これね、うん」

やはりやや小型で、茶色? 肌色? の中間みたいな色をしている。
やはり群生していて、そのキノコが多数で密集している。
図鑑は一応持ってきてはいたが、もう形状や特徴は覚えている。
改めて見る必要も無いだろう。

「昨日と違う場所だけど……。 ま、キノコが同じなら同じよね」

妖夢は無造作にキノコを20本ほど採取すると、手持ちの袋に入れる。

「調理方法は色々あるからね。 炒める、吸い物、炊き込みご飯、煮物。 天ぷらって言う手も一応あるかな?」

丁度今日は、幽々子が夕刻から紫の家に酒を飲みに行くことになっており、彼女にばれずに色々作業を行うには好都合である。

「さて、と! 帰ろう帰ろう。
 頑張って料理しなきゃね!」

先程までの不機嫌さは何処に行ったのか?
妖夢は鼻歌交じりに、空を悠々と飛んで帰っていった。



















「楽しかったわ~、じゃあね」
「はいはい、またね」

翌日の朝方。
上機嫌の幽々子は紫に送られ、白玉楼に帰ってきた。

実に楽しかった。
やはり気の置けない友人が1人居るというのは、人生?の幅を広げるというものだ。
手土産の藍お手製の出し巻き玉子を土産としてもらった。 酒の肴にしながら、置いて来てしまった妖夢と飲むのもいいだろう。

それまでたっぷり寝ておかなければね、と思いながら、その妖夢を呼ぶ。

「妖夢~」

この時間なら起きているだろう。 大声を出しても問題ないはずだ。
朝ご飯はいらない旨を伝えた後、夕刻まで休むとしよう。

「妖夢~。 帰ってきたわよ~?」

返事なし。
声を出しつつ、居間に繋がる障子を開ける幽々子。

「妖夢?」

いない。 では庭か?
幽々子は庭へ歩みを進めた、が。

「妖夢……?」

いない。
ちょっとおかしい。

「……」

では台所か?
幽々子が台所へ歩みを進めた。



















「ゆ、幽々子、さま……」
「ただい、ま? 妖夢? どうしたの?」

台所には、顔色が真っ青な妖夢がいた。
流しに顔を埋めるように、突っ伏している。
見ると台所には様々な調理道具が散乱しており、ちょっと足の踏み場にも困る状況だ。

というより、この臭いは何だ?
別の臭いも多数感じるが、これは明らかに……

「う、え、エエエエエエエエエエエエエエエ!!」

胃液の臭いだ。
どうやら目の前の少女が、何度も吐きまくっているらしい。
床にも1回吐いた後がある。
吐いた後の他にも…… こちらは胃液の臭いでかき消されてしまっているようで、それだけは救いだったようだ。

喋れる余裕があるか分からないが、兎に角状況が分からない。

「どうしたの?」

幽々子は震える手で水を掬い、口を濯ぐ妖夢に話しかけた。

「……大丈夫だった、はずなんです」

数秒後、息を数回肩でついた妖夢が、幽々子に返事をした。
顔色は真っ青のまま。 大分具合が悪いようだ。

「大丈夫だった、はずなのに……」
「大丈夫だったはず? 何が? 食中毒にでもかかったの?」

怪訝な表情を浮かべる幽々子に、妖夢は涙ぐみながら頷く事で返事をした。

「……? このキノコ」
「!! ダメです!!!」

机に無造作に置かれていたキノコを幽々子はつまんだのだが、それを妖夢が無理やり奪う。
そして地面に叩きつけると、それを2,3度踏みつけた。

「……何事よ」
「大丈夫、だったんです! 大丈夫、だったのに……」

妖夢の目から、ポロポロと涙がこぼれ出てきた。

「……」
「ヒック、大丈夫、だ、っだ、のに…… なんで……」

妖夢はついに座り込んでしまった。

「なんで、なんで、なんで……」
「……」
「ゆゆ、こ、さま……」
「……」

話の読めない幽々子は、妖夢の頭を優しく撫でる事しかできなかった。




  • キノコをバカにしたらイカンぜよ -- キング クズ (2016-06-22 03:10:40)
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