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「グギアガアアアアアアアアアアアア!!」

走って来るエリーとくるみを狙って、幽香は口に妖力を集め始める。
かわそうとする二人だったが、生憎そこまで部屋は広くなかった。

「どうするエリー!」
「真正面から突っ込んで止めるわ!」

かわせないのなら、止めるしかない。
そう判断したエリーは、一気に幽香の許へと加速していった。
徐々に狭まっていく二人と幽香の距離。
幸い先程の戦いから回復しきれてないのか、熱線の放出には時間がかかっていた。

「これなら間に合う…!」

急いで駆け寄る二人、ところが誰もが予想しなかった出来事が起こる。

「……しまっ!」

なんと幽香は四枚の翼を生やし、飛び立とうとし始めたのだ。
外に逃げられれば動きを封じるのは難しい。
更に部屋を狙って熱線を吐かれたら、回避する間もなくやられてしまう。

「何か方法は……」

走りながら必死に考えるエリー。
くるみも弾幕を放つが、幽香を止める事には威力が足りない。
最早これまでか。そう諦めがよぎった二人の視界に、突然糸が飛び込んで来た。

「!!」

その糸は幽香と足下の畳に絡み付き、飛び立とうとするのを妨害する。
慌てて二人が糸の飛んで来た方を見ると、そこにはパルスィの姿があった。

「貴方さっき戦った……どうして?」
「仲間が苦しんでるのに、ただ見てるだけなんて出来ないわ」

だが幽香は腕を大きく振り上げ、糸を切ろうとしてくる。
すると左腕を早苗と蓮子、右腕をさとりと空が押さえつけた。

「貴方達……」
「私達にとっても幽香さんは大切な仲間なんです!」
「仲間を助けるのは、人でも妖怪でも当然の事!」
「幽香も貴方達を傷つけたくないと思ってる、なら私達は手を貸すだけよ!」
「最優先スルベキハ幽香ノ救出、貴方方ヲ同ジ志ヲ持ツ仲間ト認識シマス」
「皆……」

妖怪達の加勢に心を打たれる二人。
皆の想いを無駄にしてなるものかと、二人も幽香目掛けて駆け出していく。
ところが幽香は種のような弾を飛ばし、二人を攻撃してくる。
しかし巨大な氷の立方体が現れ弾を防ぎきった。

「この妖力……いえ、魔力は……」
「……アリス!」

二人が名前を呼んだ途端、砕けた氷の中から現れるアリス。
そして二人を流し目で見ると、目を逸らして口を開いた。

「勘違いしないでよね! 私達は幽香を助けたいだけ、その為にあんた達を利用するだけよ!」

そう言って人形達を、二人の周りに飛ばせる。
人形達は飛んで来る弾を打ち消し、二人を守ってくれた。

「行きなさい! 幽香を止めるには幽香と長い時間一緒にいた、貴方達の攻撃が一番効くはずよ!」

最早邪魔するものは何もない。
輝夜と鈴仙も妖気を使ってサポートしてくれている。
後はただ一直線に幽香の許へ走るのみ。
この一撃で終わらせる。
そしてこの一撃で始めよう。
もう一度、幽香と暮らせるあの日々を。

「私達の想いよ!」
「幽香ちゃんに届け!」
『強くて気高い幽香ちゃんに届けええぇぇぇ!!』





意識を失い横になる幽香、その周りでは他の妖怪達もぐったりしている。
幽香の後ろではルーミアが、酷く疲れ切った様子で立っていた。

「さすがは私を退けた妖怪達………よくぞ幽香を救ってくれた。合成妖怪を代表して礼を言う、本当にありがとう」
「そんな、私達は……」
「皆が手を貸してくれたからよ」
「………いや、お前達の想いの力があったからこその結果だ。だがまだ終わりじゃない。私が話した事、覚えているな?」

そう言ってルーミアは両手を広げる。
そこには片手に一つづつ、どす黒い謎の球体が握られていた。

「……これは…?」
「私が切り離した幽香の闘争本能だ。このまま時間が経てば、幽香の中に戻ってしまう」
「それじゃあ………どうしたら…」
「呑み込め」
「……えっ?」
「こいつを呑み込むんだ。そうすれば闘争本能は三人の体に分けられ、もう幽香が暴走する事もなくなる」

ルーミアは二人に、その球体を手渡す。
球体からは禍々しい妖気が流れ出しており、とてもじゃないが口に出来そうな物ではなかった。
するとルーミアは、苦笑いを浮かべて二人に話しかける。

「安心しろ、代わりにお前達が暴走するような事はない……筈だ。少なくても理性を失う事は絶対にない。
 ただ私は闇の知識に長けた妖怪でな。私の知識は所謂禁術、その力を我が身とする事すなわち罪。
 他者の妖力や闘争本能を吸収するこの術も、一度呑み込めば罪を背負う事になるのだ。
 精神を重視する妖怪が禁術を受ければ、その身は邪に染まり悪へと堕ちる。二度と元には戻れない。
 だから私は最初にお前達の覚悟を確めた。そしてお前達はあると答えた。
 ならば迷わず呑め、それが私の知り得る幽香を救う唯一の方法だ」

二人は改めて球体を見た。
やはり食べられる物にはとても見えない。
しかしこれを呑み込まなければ、幽香を救う事は出来ないのだ。

「………私達じゃなきゃダメなのよね」
「私の知識は私を倒した者のみが受け入れられる。それだけの力を示せなければ、禁術の力で破滅するからだ」
「…………そうよ、私達は幽香ちゃんを助ける為に来たんじゃない。今更こんな事で挫けて堪るもんか!」
「勿論よ、エリー!」

二人は大きく息を吸い、ゆっくりと目を閉じる。
そして一気にその球体を呑み込んだ。





「…………か………ん…」

誰かの声がする。

「……うか……ん…ゆ………ちゃ……」

とても懐かしい声。

「……私は……」

その声に導かれるように、幽香は目を覚ました。
ルーミアが変化したところまでは覚えているのだが、そこから先がはっきりしない。
確か誰かと戦っていたような気が、そこまで考えて幽香はある違和感に気付く。

「………あら?」

今まで四六時中意識を奪おうと襲って来た闘争本能が、今は全く込み上げて来ない。
どうして、と疑問を浮かべる幽香。
すると突然、何かに抱き締められる感覚がして驚き振り返った。

「よかった! 無事だったのね、幽香ちゃん!」
「このまま気がつかなかったら、どうしようって…」
「エリー……くるみ…………ッ!! 貴方達その姿…!」

そこにいたのは幽香を探して永遠亭にやって来ていた、エリーとくるみ。
しかしその姿は禍々しく変化していた。
エリーの肌は紫に染まり、白い文様が全身に広がっている。
更に背中には真っ黒な翼が生えており、足は猫のような形になっていた。
一方でくるみの肌は水色に染まり、赤い文様が全身に広がっている。
更に頭には山羊のような角が生えており、スカートからは悪魔のような尾が伸びていた。
また二人とも白目の部分が黒く染まっていて、それがより不気味な印象を与える。
その禍々しい姿に、幽香は動揺を隠し切れずにいた。

「一体、私が倒れている間に何が……」
「そこの二人は幽香、お前を救う為にその姿になったのだ」

そう言って姿を現したのはルーミア。
ルーミアだけじゃない、他の永遠亭の妖怪達も周りにいた。

「私の……為……」
「そうだ。だがお前がするべき事は謝罪ではない、感謝だ」
「……感謝………そう…よね」

幽香はルーミアの言葉にはっとすると、寄り添う二人の顔を見る。
そして改めて自分の為にここまでしてくれた事に感謝し、目に涙を浮かべて異形の腕で抱き締めた。

「…ありがとう……エリー、くるみ……」
「幽香ちゃん……」

確かに姿こそ変わってしまったが、三人はあの頃と何も変わらない。
そこには仲睦まじい夢幻館の姿がはっきりと浮かび上がっていた。

「幽香ちゃん、私達こんな体になっちゃったけど……好きでいてくれる?」
「当たり前じゃない! 二人とも心の底から愛してるわ」
「じゃ、じゃあ私の気持ちも全身で受け取…」
「そこまでよ!」
「あ、アリス!? はうあっ!」
「うわぁ……痛そう…」

エリーを思いっきり蹴り上げたアリスは、蹲るエリーを見てくすくすと笑う。
その後ろには、輝夜率いる永遠亭の妖怪達の姿もあった。

「……なんか…寂しくなるわね」
「輝夜……」
「でも貴方達の姿を見てたら、それも仕方ないって思えて来たわ。夢幻館に帰っても元気でね」
「…………」

そう言って別れを惜しみ、悲しそうな顔をする輝夜。
するとエリーとくるみはお互いに顔を見合わせ、不気味な笑みを浮かべ出した。

「……な、何?」
「ねぇ輝夜? 貴方は私達をこんな体にしておいて、何もしないで帰そうって言うの?」
「え? だってそれは貴方達が…」
「きっと私達、外に出たら化け物って蔑まれるんだろうなぁ~」
「……そんな…」
「どう責任とってくれるのかなぁ~、輝夜様?」
「………それは……」
「そうねぇ、せめて三食部屋付きは欲しいわ」
「…………え?」
「後、幽香ちゃんの為に花畑も欲しいところね」
「………それって…」
「私達をこのまま帰すつもり?」
「もう元には戻れないんだから、一生面倒見なさいよね!」
「……エリー…くるみ…」

その言葉に輝夜は嬉しそうに涙を流す。
それに応えるように、エリーとくるみも穏やかに笑った。

「………主従関係というのも悪くないかもしれないな」

そんな様子をルーミアは、少し離れた所で眺めている。
そこへ合成妖怪達が近付いて来た。

「素直じゃないのね、本心では輪に加わりたい癖に」
「貴方だってなれますよ、立派な従者に」
「私達は誰も貴方を拒まないわ。だって貴方は私達の仲間だもの」

ルーミアは合成妖怪達の言葉にぽかんとする。
そして鼻で笑うと、いつもの不敵な笑みを浮かべて呟いた。

「……全くどうしようもない奴ばかりだな、この屋敷は。仕方ない、私が用心棒をしてやろう」
「決まりね!」

そう言って、輝夜は突然ルーミアの前に現れる。
驚き目を丸くするルーミア。その手を握り引っ張ると、輝夜はくるくると回り出した。

「な、何をする! やめ、ひゃめろぉ~…」
「家族が増えるわ! 後でレティにも教えてあげないと!」
「やったね、ひめさま!」

その光景を嬉しそうに見ているエリーとくるみ。
幽香はそんな二人に一つ、気になっている事を問い掛けてみた。

「エリー、くるみ。本当にこれでよかったの?」
「何言ってるの、私達は後悔なんてしていないわ」
「どんな姿だろうとどんな場所だろうと、皆一緒が一番幸せよ」
「………二人とも…」
「さぁ、これからはずっと一緒よ!」
「またあの頃みたいに仲良く暮らしましょ、幽香ちゃん!」
「……ええ!」

そう言って幽香は、にっこりと微笑む。
異形の者達の巣、永遠亭。
そこは今、幻想郷でもっとも幸せが溢れる場所となっていた。





HAPPY END『今昔幻想郷』





最後までご愛読いただき本当にありがとうございました!






  • 9と75にはどうすれば行けるんだ?未だに分からない。 
    -- 名無しさん (2011-06-12 00:39:25)
  • 75は繋がってるみたい
    天使伝説見ると
    まさかあの人この作品からも出ていたなんてねぇ… -- 名無しさん (2011-06-18 13:40:00)
  • ラストで化け物連中が根はいい奴らだと判明して笑ったwww 永遠亭いいとこじゃん。 -- 名無しさん (2011-10-14 16:47:56)

  • それが永遠亭クオリティ -- 名無しさん (2011-12-05 13:54:58)
  • 75は67の幻月にリンクされてる -- 名無しさん (2014-12-17 04:02:45)
  • ごちゃごちゃしてて訳わかめ -- 名無しさん (2016-01-16 17:36:16)
  • いきなりTRPGみたいになっててワロタ -- 名無しさん (2017-08-17 12:58:29)
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