24

勢いよく振り下ろされる幽香の腕。
それをお互いに逆方向にかわし、エリーとくるみは幽香を斬り付ける。
だが硬い角質化した肌は、斬撃を全く通さない。
狙うなら変化こそしているものの角質化していない体の前面か、頬で角質化の止まっている顔しかないのだが
体は前屈みな体制のせいで狙えず、顔を狙うのはどうしても躊躇ってしまう。
しかし幽香は二人の迷いなど気にする事なく、次々と攻撃を仕掛けて来る。

「グギュアアアアアアアア!!」
「……うぅ…どうしたら…」
「何か、何か突破口がある筈よ……」

くるみは真っ赤な目で足下を睨み、地面から幽香の腹目掛けて弾幕を放つ。
だが幽香は全く怯まない。どうやら弾幕の威力では殆どダメージを与えられないようだ。

「………ダメ、やっぱり鎌か爪じゃないと…」
「でもあれじゃあ……」

攻撃が通らず困り果てる二人。
すると幽香は再び熱線を放とうと、口に妖力を蓄え始めた。

「ま、まずいわ。あれに当たったら……」

熱線に巻き込まれれば即死は免れない。
急いで止めようと、エリーは幽香の許へ走り出す。
ところが途中で躓き転んでしまう。

「…何よ、こんな時に………ッ!!」

エリーが振り向き躓いた原因を確かめてみると、それはなんと頭蓋骨。
今まで生い茂る草に隠れて見えなかったが、どうやら庭園中に転がっているようだ。

「……これ全部、幽香ちゃんが……?」

庭園には食べ物はたくさんある為、餓死したとは考えられない。
ならば死因は外傷、恐らく幽香は庭園の番人をさせられているのだろう。

「…幽香ちゃんをそんな事に……!」

まるで犬のような扱いに、エリーは怒りを露わにする。
そこへ突然大きな声が聞こえて来た。

「エリー逃げてええぇぇ!」

くるみの声に、はっと我に返るエリー。
気付けば、もう熱線は発射される直前だ。
今から走っても間に合わないが、此処は軌道の丁度下。
このままいても危ないと考えたエリーは、咄嗟に仰向けに寝転んだ。

「…………うっ!」

直後にエリーの上を飛んで行く熱線。
熱線は帽子のつばと胸元のフリルを掠って消えていった。

「……ぁ……ああぁ……」

目の前で飛んで行った熱線に、放心状態になるエリー。
だがエリーの身に更なる危機が訪れる。

「エリー起きて!」
「えっ………あぐっ!」

一瞬何が起こったのか分からなかった。
だがすぐに襲って来た痛みがエリーに事実を知らしめる。
エリーは横になっている隙に向かって来た幽香により、腹を斬り付けられたのだ。
腹には三本の爪痕がくっきりと残っており、エリーの体を赤く染め上げる。

「……あああ……痛い、痛いよぉくるみ…」
「エリー!」

慌てて駆け寄ろうとするくるみ。
しかし幽香は無慈悲に止めを刺そうと、大きく腕を振り上げた。

「…ぁぁ……嫌……待って……」
「やめてえええぇぇぇ!!」

※サイコロを四回振り、出た数エリーのMGを減らす。






25

「行っけええぇぇ!」

吊るされた鎖に巻き付くさとり目掛けて、くるみの弾幕が炸裂する。
だがさとりは宣言通り、弾幕が飛んで来る前に別の鎖に渡ってかわす。
まさにくるみの心を読み、被弾位置を先に知っているからこそ出来るかわし方だ。

「ようやく分かってくれたみたいね。私を撃ち落とす事は出来ないって」
「!! そんな筈ないでしょ!」
「心にも思ってない事を喋るのね。本当は心の中は不安と動揺で満たされているというのに。
 諦めなさい、貴方に勝ち目はないわ。私には隠し事は一切出来ないのだから」
「ぐっ…!」

悔しいがさとりの言う通り、くるみにも自分の心が読まれている事が薄々分かる。
だからこそ虚勢を張り、絶望しないよう自身を奮い立たせているのだ。

「そんな強がり、いつまでも続くものじゃない。本当は分かっているでしょう?」
「五月蠅い!」

必死に弾幕を張って、さとりの言葉を聞かないようにするくるみ。
そこへエリーの鎌がくるくる回って通り過ぎ、さとりを狙って飛んで行く。
くるみが驚き振り返ると、そこには回復したエリーが立っていた。

「無意識のつもり? 軌道が完全に頭に浮かんで………違う、貴方の狙いは私じゃなくて……」

そう言うと慌てて鎖から離れようとするさとり。
すると鎌は鎖の一つに絡まり、放電し始めた。

「ぎゃあああああああああああああああ!!」

巻き付いていた触手を外すのに手間取っていたさとりは、鎖から流れた電気で感電する。
やがて香ばしい匂いを辺りに振り撒くと、さとりは水中に落ちていった。
ところが放電をやめ鎖から外れた鎌が、落ちていくさとりを巻き込み岸まで飛んで行く。
そしてエリーはさとりの胸座を乱暴に掴むと、一階層上まで引き摺って行った。

「くるみは先に上、探しておいて」
「分かったわ」
「な、何を………ッ!! 待って! そんな事して何になるって言うの!?」

エリーの心を読んだのか、突然喚き出すさとり。
するとエリーは無表情で振り返ると、さとりに向かって話しかける。

「とりあえず貴方に後ろから襲われる事はなくなるわ」
「待ってって言ってるでしょ! 貴方まともじゃない、おかしいわ!」
「挑発してるの? 命乞いしてるの? 私には貴方がよく分からないわね」

やがてエリーは、ある物の前で足を止める。
それは鉄で出来た大きな像のような拷問器具だった。
像の正面は観音開きになっており、中には長い針がついている。

「これなら私にも使えそうね」

エリーはそう言って、さとりを強引に押し込んだ。

「待ってよ……お願い、後生だから……」
「貴方の能力は厄介なのよ、二回も三回も戦いたくないわ」
「分かったから……もう邪魔しないから……だから助け……」

そのままエリーは、さとりの言葉を最後まで聞かずに蓋を閉める。
像は余程分厚く作られているのか、途端にさとりの声は聞こえなくなった。
代わりに像の下の溝を、真っ赤な血が流れ出していく。

「何してたのエリー」

そこへ上層階の探索を終えた、くるみがやって来た。

「何でもないわ」

エリーはにっこりと笑うと、くるみの方へ振り返る。

「上には手掛かりになりそうな物はなかったわ。でも此処で何かあったのは間違いないわね」
「そう………幽香ちゃんが無事だといいけど」

幽香の身を案じ不安になる二人。
改めて一刻も早く幽香を助け出さなくては決意を固めると、二人は換気口の中へと入っていった。

※『水符』を取得






26

鈴仙の呼び掛けに応じて、何処からか鉄の武器が飛んで来る。

「そう! ちゃく!」

そして鈴仙の背中に翼、右腕にミサイルランチャーと左腕にバズーカ砲を取り付け合体した。

「おつきみせんしプリティーレイセン、ただいますいさ~ん!」
「…………」
「…………」

ノリノリな鈴仙の姿に呆気に取られる二人。
だがその重装備っぷりは、明らかに戦闘に特化した姿だ。

「それじゃ、さっそく」
「!!」

そう言って鈴仙は、くるみを狙って誘導ミサイルを撃つ。
飛んで来た無数の弾幕に、慌てて飛び上がるくるみ。
だが誘導ミサイルは軌道を変え、くるみを追いかけて来た。

「う、嘘!?」
「追尾弾幕よ、逃げて!」

エリーはくるみに呼び掛けると、鈴仙の方へ向って行く。
そして思いっきり鎌を投げつけた。

「そう、かんたんにはいかないよ!」

ところが鈴仙は翼から炎を噴き出し、宙に浮かび鎌をかわす。
更に地上にいるエリー目掛けて、バズーカを発射した。

「ちょ、ちょっと!」

慌てて椅子の裏に隠れるエリー。
しかし着弾したバズーカは、爆風で椅子諸共エリーを吹き飛ばした。

「……うぅ…」

吹き飛ばされ壁際に蹲るエリー、その目に絶望的な状況が映り込む。

「部品ノ破損ヲ確認。自動修復ぷろぐらむ起動」

なんと機械音声と共に、バズーカの弾が再生し始めているではないか。
砲筒の中に再び現れ、エリーの方へ向けられるバズーカ弾。
最早これまでかと思ったその時、

「……へ?」

鈴仙の目の前をくるみが通り過ぎて行った。
振り返るとそこには、くるみを追い掛けて来た誘導ミサイルの姿が。

「あ、あれ? …………うぎゃああああ!!」

直後、鈴仙に着弾したミサイルが爆発を起こす。
やがて爆煙の中からボロボロの鈴仙が飛び出し落ちていった。
くるみは引き返し、落下した鈴仙の様子を確める。

「…………気を失ってる………ってエリー!」

そして思い出したように、エリーの許へと飛んで行った。

「大丈夫?」
「ええ、でも今私の事忘れてなかった?」
「………そ~れ~は~まず敵が襲って来るかどうかの安全確認を優先しただけよ」
「……本当に?」
「本当本当」

何にせよ、もう邪魔者はいない。
エリーとくるみは他に誰もいないか確認すると、換気口の中へと入っていった。

※『音符』を取得






27

動力室の中を高速で飛び回り、空から逃げるくるみ。
だがさすがに隠れる場所もないこの部屋では、高速弾幕から逃げ続けるのも限界がある。

「くるみ!」

そこへ聞こえて来るエリーの声。
くるみは藁に縋る思いで声を張り上げた。

「何、エリー!?」
「換気扇を止めたわ! 全部じゃないけど幾つかは逃げ道に使える筈よ!」
「分かった!」

すぐに近くにあった通路に逃げ込むくるみ、その後を空が追いかける。
しかし通路は元々熱を逃がす為の物。中は狭く鉄の翼の空は、上手く飛ぶ事が出来ない。

「この調子なら……あ、あれは!」

優勢にあるくるみ、その前に停止中のプロペラが姿を現す。

「どうやらこの道で正解だったみたいね」

心の中でエリーに感謝しつつ、くるみは巧みにプロペラをかわして進んだ。
一方で空はプロペラに突っ込んで壊しながら進んで行く。
やがて飛び続けていると、くるみは通路を抜け大きな縦穴に辿り着いた。
縦穴は丁度動力室の真上の巨大プロペラの上にあたり、上下をプロペラに挟まれている。
しかも他の通路は中が一直線で始まっており、後ろから簡単に狙い撃ち出来るようになっていた。

「………どうしよう…」

何処か隠れるところはないかと、くるみは縦穴内を必死に見渡す。
するとある物が視界に入り込んで来た。
それは運ばれていく、型に入れられたガラス液。

「……一応、最終手段に……」

くるみは型の一つを手に取り、遅れて現れた空に振り返った。
そして瞳を真っ赤に光らせて弾幕を放出する。
しかしくるみの放った弾幕は、くるみ自身からは出て来ない。
赤い目の視線の先、縦穴の壁から出て来て空の頭を狙い撃った。

「これで倒れてくれれば、いいんだけどねぇ……」

くるみとしては結構本気でぶつけたつもりだ。
だが空は怯むどころか逆に変形し始めた。
今度は頭を胴体に回し、新しく出て来た鳥の頭部に胸の赤い目をつける。
更に左腕を三本目の脚にし、右腕を頭部の中に入れ口から弾幕を放出する機械鴉になった。

「こ、これは奥の手を使うしか……」

空の赤い一つ目がくるみをじっと睨みつける。
そして翼から勢いよく炎を噴きだし、一直線に向かって来た。






28

「くっ…!」

エリーは上に跳び、蓮子の一撃をかわす。
そして鎌を振りかざし反撃に移ろうとした。

「そう簡単にはいかないわよ!」

ところがエリーの攻撃は蓮子の両腕に防がれてしまった。
鱗の生えた腕は鎌の斬撃を通さず、受け止める。
そこに帯電する腕から電流が流れ始めた。

「まず…ぎゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」

危険を察知し鎌から手を放そうとするエリーだったが、一足早く電撃が貫く。
やがて電流が治まると、エリーは力無くその場に倒れた。

「ううぅ……」

全身を流れた電撃のダメージは大きく、すぐには起き上れそうにない。
くるみも電磁波の影響で戦える状態になさそうだ。

「このままじゃ……」

なんとか打開策を見つけなくては。
エリーが必死に考えていると、部屋の隅で光る何かが視界に入った。
それは一枚の鱗、時々帯電しているのか青く光っている。
先程までは全く見えもしなかったのに何故、と考えるエリーの頭にある可能性がよぎる。

「妖力を分散して使うのが苦手…?」

もしあの鱗が見えるようになったのが、戦闘により電磁波を操る事に集中出来なくなったせいだとしたら。
そうだとすれば何故あの鱗を隠す必要があったのか。

「……あれが電磁波の発生源!?」

あれさえ壊せば戦況は一気に変わる。
そう判断したエリーは、鱗目掛けて思いっきり鎌を投げつけた。

「させない!」

その前に立ち塞がる蓮子。腕を振り上げ鎌を叩き落とそうとする。ところが、

「ぶっ!」

後ろから飛んで来た椅子が蓮子の頭に直撃した。
そうして怯んでいるうちに鎌は鱗を砕き電磁波を打ち消す。
蓮子が体勢を整えた頃には、エリーはダメージから回復した体を起こし立ち上がっていた。

「次は貴方よ、蓮子」

壁に刺さっていた鎌が勝手に抜け、エリーの手に戻っていく。
蓮子はそれを見ると一気に距離を離して、指先から天井に向かって電撃を放出した。
すると真っ黒な雷雲が現れゴロゴロと唸り出す。

「私の攻撃が肉弾戦だけだと思ったら大間違いよ!」

※サイコロを二回振り、出た数エリーのMGを減らす。






29

エリーとくるみは黄緑色のパトランプの光る換気口を進んで行く。
やがて換気口が何かの部屋へと繋がっている部分まで辿り着いた。
辺りを警戒しながら蓋を開け、部屋の中に入る二人。
するとそこには、薄暗い倉庫のような場所が広がっていた。
倉庫の中は所々蛍光灯が切れており、灯りを点けても部屋の全貌は分からない。
部屋中に置かれた棚には、薬の材料と思われる植物や妖怪の一部がしまわれていた。

「……何か……嫌な感じがするわ」
「……………」

部屋の中は暗く、誰かが潜んでいても分からない状況にある。
だからか分からないが、何故かもの凄く気分が悪い。

「くるみも何か感じない?」
「……………」

一方でくるみは、ぼーっとしたまま立ち尽くしている。
最初は疲れているのかとも思ったが、どうも様子がおかしい。

「ねぇくるみ? どうかし………」

心配してくるみの手を握ったエリー、その手は尋常じゃなく汗が噴き出していた。
汗だけじゃない、体も小刻みに震え何かに酷く怯えている。

「……どうしたの……何がいたの!」

くるみがここまで怖れる者が近くにいる、そう考えたエリーはくるみを問い質した。
もしそんなのがいるなら、早く対処しないと手遅れになる。
くるみには酷かもしれないが、目の前にいるかもしれない脅威を無視は出来ないのだ。

「………か……」
「か?」
「か、壁……それに……天…井……」
「そこにいるのね!」

早速攻撃と言いたいところだが敵の位置が分かったなら、まずはくるみを落ち着かせる事が先決。
強敵なら二人で戦った方がいいし、何か見えたのなら少しでも情報があった方が安全だからだ。
エリーはくるみを連れて壁際から離れると、近くに壁のない場所で落ち着かせる。
するとまだ動揺しているながらも、徐々に会話が出来る程度には冷静になって来た。

「くるみ、そろそろ何が見えたのか教えてくれない?」
「………ええ…………敵は……親玉が一体。……………後………無数に子分が……いるわ…」
「子分?」
「……そう…………壁と……………天井にびっしりと……」
「……………」

その光景を想像してエリーはぞっとする。
壁や天井にはそれらしき者はいなかったので、相手は壁の隙間に入れる小動物か蟲の使い手という事だろう。
くるみは妖力の反応から、それが這いまわる所が見えてしまいショックを受けてしまったようだ。

「どうする? 休んでる?」
「………何処で、休めって言うのよ。………壁も天井もあいつらが………ヒィッ!!」

突然悲鳴を上げ後退りするくるみ。
視線の先にあるのは途方もない暗闇、エリーには何も見えない。

「……ねぇ、せめて相手が何者かくらい教え…」
「来る!!」

くるみの言葉に反応するように、闇の中から現れた気配に鎌を振り下ろすエリー。
すると鎌が突き刺したのは一匹の小蜘蛛だった。
だがすぐに感じた無数の気配にエリーは戦慄する。

「……………」

気配の主は、ほぼ間違いなく小蜘蛛。いるのは天井、数は数え切れないほど。
見てはいけない、想像してもいけない。今出来るのは、くるみを連れて逃げる事。

「くるみぃぃ!!」

エリーはくるみの手を掴むと全速力で走り出した。
ただひたすら気配が感じられない場所まで。
時々足下でぷちっという音と共に嫌な感触がするが、必死に考えないようにして走る。
やがて大量の気配が闇の中に消え感じられなくなると、エリーはくるみと共に棚の影に隠れた。

「……はぁ……はぁ……さすがに……追って来ないようね……」
「え、エリー……。蜘蛛が、蜘蛛が蜘蛛が蜘蛛が………ふふふ…」
「………くるみ……」

どうやらくるみは気付いてしまったらしい。
最初に蜘蛛の存在に気付いたのも、くるみなのだから当然と言えば当然だろう。
だがこの状態は非常にまずい。すでに正気を失いつつある。
急いで此処から出ないと、帰って来れなくなるかもしれない。
そう考えなんとか蜘蛛に会わずに脱出しようと、エリーが辺りの気配を探っていると
何か蜘蛛とは違う人ほどの大きな気配が忍び寄って来た。

「……………」

気配はすぐ近くに感じる。だが姿は見えない。

「そこで何をしてるの?」

すると突然上から何者かの声がする。
エリーが慌てて上を見ると、そこには茶色い目隠しをした妖怪が天井にぶら下がっていた。
よく見るとその妖怪の脚は黒く八本あり、まるで蜘蛛の脚のような形をしている。

「貴方が蜘蛛達を操ってた親玉ね。目的は何? 私達を狙っている理由は?」
「随分酷い言われようね。私は水橋 パルスィ、言っておくけど私達は何もしてないわ。
 ただ勝手に倉庫に入って来た奴がいるから蜘蛛達に見張らせてただけ、むしろ仲間を殺されたこっちが被害者よ。
 そうやって貴方達地上の生き物はいつも蜘蛛を目の仇にする。だからヤマメも姿を現さなくなったのよ」

何を言っているのか分からないが、どうやら襲う気がある訳ではないようだ。
もしかしたら話し合いで上手く逃げられるかもしれない。
エリーが話しかけようと思った次の瞬間、突然何かがパルスィ目掛けて突っ込んで行った。
それは錯乱状態にあるくるみ、そのまま爪でパルスィを斬り裂こうとする。
ところがパルスィはそれを作り出した結晶で防ぐと、床に飛び降り戦闘態勢を取り出した。

「待って! 今くるみは正気じゃないの! ここは穏便に…」
「あら、何を言ってるの? 私は確かに見張らせてただけとは言ったけど、強盗をただで帰すとは言ってないわよ?
 貴方達は勝手に倉庫に入り蜘蛛を殺した、私には貴方達を始末する理由があるの。分かった?」
「……やるのね。なら私も手加減しないわ」
「手加減してたら死ぬわよ?」

※サイコロを一回振り、出た数エリーのMGを減らし
 サイコロを三回振り、出た数くるみのMGを減らす。






30

アリスはグリモワールをペラペラ捲り、あるページで止め何かを唱え始める。

「みのむしぶらりんしゃん美味そにみえる、なんぼ美味そでも喰ろてはならぬ。
 喰ろたら一生生き地獄。召術『ヘルズバグ・マンディブル』!!」

その言葉に反応するかのように、魔法陣は一ヶ所に集まり大きくなる。そして、

「!!」

中から巨大な蟲の大顎が飛び出し、二人に喰らい付こうとして来た。
咄嗟に転がりかわすエリーと、空を飛んでかわしアリスの方へ向かうくるみ。
アリスはくるみに狙いを定めると、光の弾を放った。

「くっ!」

放たれた弾幕は弧を描き、くるみを追って軌道を変える。
一気に加速し弧の内側に入ってかわしてみるも、光の弾は更に曲がり追跡の手を緩めない。
止むを得ず壁にぶつけ弾幕を消すべく、壁際に移動するくるみ。
その隙にアリスはグリモワールを捲り新たな攻撃の準備をし始めた。

「金と愛情秤にかけりゃ、君の心もゆらゆらチン。召術『ジャッジメント・チェーン』!!」

次いで魔法陣から出て来たのは大量の鎖、エリーとくるみを狙い何処までも伸びる。
弾幕を消す為、壁際にいたくるみは同じ要領で鎖を壁にぶつけて難を逃れたが
何もない部屋の中央にいたエリーはそうもいかない。

「しまっ………うっ……ああっ!」

四肢と胴体を鎖に絡み取られ、徐々に魔法陣の中に引き寄せられるエリー。
魔法陣の中には不気味な光が灯り、見慣れない景色が広がっている。
恐らく召喚された怪物の住んでいる世界なのだろう。
このままではエリーは異世界に引き摺り込まれてしまう。
だがアリスもこの隙にと言わんばかりに、何やら長い呪文を唱え始めている。

「エリー!!」

そうは言ってもエリーを見捨てる事なんて出来る筈がない。
急いで弾幕を放ち、鎖を砕くくるみ。
しかしその間にアリスの詠唱は完成してしまった。
魔法陣から流れ出す強大な魔力に身構える二人。
その様子にアリスは、にやりと不気味に笑う。

「終わりよ。召術『ペトラ・ファイアー』!!」

アリスの言葉に応え、魔法陣の中に浮かび上がる真っ赤な瞳。
その正体に気付き、慌てて物陰に隠れようとする二人だったが時すでに遅し。
瞳から放たれた光が二人を貫くと、エリーとくるみは物言わぬ石像になってしまった。

「ふふふ、残念だったわね。そうそう、意識はあるだろうから教えてあげる。貴方達はこれから石像として生き続けるの。
 何カ月…いえ、何年も喋れず動けぬまま苦しみ続けるの。そして貴方達の精神が限界になった、その時また会いましょう。
 今度はちゃんと私の過去の事、素直に話すよう肝に銘じておく事ね」






31

動力室を飛び回る、くるみと空。
その下ではエリーが車両を伝って動力炉を目指していた。

「エリィィィィー!!」

そこへ飛んで来るくるみ、エリーの前を通り過ぎながら話しかける。

「一瞬でいいから、あいつの視界を塞いで!」

その言葉を聞くとエリーは溜め息を吐き、

「まったく……注文が多いわねぇ!」

そう言って妖力を込めたビンを空に投げつけた。
ビンは空の弾幕により粉々に砕け散る。
だが飛び散った破片は真っ直ぐ空に向かい、瞳に突き刺さり視界を潰した。

「……めいんかめらニ異常発生。さーもぐらふぃニ切リ替エマス」

しかし空の瞳が赤く光ると、何事もなかったようにくるみを襲う。

「ダメよ! 効いてない!」
「直接見られなければ十分よ!」

くるみは突然壁にしがみ付くと、羽を自身を守るように覆いかぶせた。
すると羽の表面に真っ赤な結晶が生まれ、まるで鏡のように周りの景色を映し出す。
そこへ空が迷わず弾幕を叩きこみ、くるみの羽にぶつかる。その瞬間、弾幕は真っ直ぐ空に跳ね返っていった。
跳ね返った弾幕は空を貫き、体に穴を開ける。すると、

「……しすてむえらー発生…ぷろぐらむヲ……再起…動……シ………マ…」

空は凄まじい轟音を立てて大爆発した。
バラバラになった部品が飛び散り、線路の上に転がり落ちる。
くるみはそれを確認すると、エリーの許へ飛んで行った。

「終わった?」
「パスワード設定がされてるから動力炉を止めるのは無理ね。でも換気扇とか一部の機能は止めておいたわ」
「……出来れば電気より生き物を止めたいわね。蜘蛛とか」
「そうね……この屋敷は気味の悪い生き物が多すぎるわ。蜘蛛とか」

二人は車両を線路に戻すと、エリーの妖力で走らせ動力室を後にする。
やがて出て来た換気口の場所まで戻って来ると、換気口の中へと入っていった。

※『炎符』と『換気扇停止フラグ』を取得






32

咄嗟に幽香の背中を斬り付けるくるみ。
攻撃が効かないのは分かってるつもりだが、どうにかして止めようと思いつい焦って斬り付けたのだ。

「グギャアアアアアアアア!!」

ところが幽香は怯み攻撃を止める、くるみの手にも確かに手応えがある。
何故と思いくるみが見てみると、斬撃により破れた服の下に一部角質化していない肌が見えた。
それはまるで模様のように背中にあり、そこだけ赤く爛れている。
目に涙を浮かべてくるみの方に振り返る幽香、だがエリーはその隙を見逃さなかった。

「ごめん幽香ちゃん!」
「!! ゴギャグガアアアアアアアアアアアア!!」

鎌を勢いよく振り、幽香の腹を斬り付けるエリー。
攻撃は決まり、夥しい量の血が流れ出す。

「あああ………幽香ちゃん……」
「今行っちゃダメ!」

慌てて駆け寄ろうとするエリーだったが、くるみが腕を掴み止める。
すると幽香の傷口はみるみるうちに塞がっていくではないか。

「どういう事…?」
「幽香ちゃんは………もう私達の知ってる妖怪じゃないのかも…」
「そんな!」
「………ウゥ……エリー……くるみ…」
「!!」

突然話しかけて来た幽香に反応する二人。
幽香は二人がやって来た方に腕を向けると、途切れ途切れながらも言葉を紡ぎ出した。

「分カッタ…デショ……私ハ……モウ手遅レナノ……ダカラ…私ノ事ハ……イイカラ………早ク…此処カラ逃ゲテ…」
「嫌よ! 幽香ちゃんを助けるまで帰らない!」
「………オ願イ……私ハ…貴方達ヲ殺シタクナイ……」

そう言うと幽香は、背中に四枚の翼を生やし飛び去ってしまう。
後に残されたエリーとくるみは、幽香が飛んで行った方向をずっと眺めていた。

「………これからどうしよう…」
「……何か、幽香ちゃんを救う方法がある筈よ」

エリーはくるみにそう言うと、換気口のあった場所まで戻っていく。
くるみはその後について行くと、エリーと共に換気口の中へと入っていった。

※『花符』を取得






33

部屋を動き回る早苗をこちらから狙うのはほぼ不可能。
ならば向こうから攻めて来た瞬間を狙うしか倒す方法はない。
だが相手は見えず聞こえず感じ取れない幻のような妖怪。
襲って来た瞬間を見切るのは簡単な事ではない。
しかしやらなければ、こちらがやられるだけ。
迷っている暇はないと、エリーとくるみは全神経を集中させる。

「……………」

部屋に響くのは時々起こる壁を削る音のみ。
だが僅かに流れる大気の動きが、高速で動く妖怪の存在を表していた。
やがて大気の流れは、こちらに一直線に向かって来る者の気配を知らせてくれる。
その知らせを信じ、エリーは思いっきり鎌を振り上げた。

「……そこぉ!」

綺麗に振られた鎌は確かに何かに突き刺さり、エリーに手応えを感じさせる。
しかし目の前には何もなく、鎌の刃が途中で不自然に消えているだけ。
ところが鎌の刃が徐々に赤く染まっていくと、突然早苗が姿を現す。
だが現れたのは早苗の尾だけ、体は完全にエリーの死角に入っていた。

「そんな………ぐあっ!」

直後に背中に激痛が走る。
そのまま何かが背中を裂いて入り込んで来た。

「ぎっ…ぎゃああああああああああああぁぁぁぁ!!」
「ど、どうしたのエリー!」

しかしくるみが話しかけると、エリーは力無くその場に立ち尽くす。
そして鎌を落とし自分の顔の前に手をかざすと、嬉しそうに笑い出した。

「あ、あはは……やった………鱗がない…人の手だ………ふふふ……あはははは!」
「エリー!? ねぇ、どうしちゃったのエリー!」

だがエリーはくるみの問い掛けに答えず、はしゃぎ回っている。
そして突然転んでしまい、頭を擦りながら体を起こす。

「いたた……何が…………ッ!!」

するとエリーの脚は、まるで軟体生物のようにぐにゃぐにゃになっていた。
そのあまりの光景に二人は固まってしまう。

「……ぁ……ああ…」
「嘘………嫌! やっと、やっと戻って来たのに! 私は人になるの! こんな事、こんな事って…」

そう泣き叫ぶエリー。
ところが次の瞬間、エリーの体は内側から飛び出した鱗に全身を貫かれ針鼠のようになってしまった。

「………嫌ああああああぁぁぁぁあぁあぁあぁぁああぁぁぁぁぁ!!」

悲惨なその光景に、くるみは正気を失い爪を立てる。
そして自分の喉に何度も突き刺し、自分の血に塗れて死んでいった。

「……死んじゃった………どうして? なんでこんな……そんなに私を追い詰めたいんですか!? 酷い!
 いつも私ばっかりこんな目に遭わせて! 私の鞄、返してくださいよ! どこへやったんですか!?
 あ、今日は私が当番なんでした。早く帰らないと神奈子様と諏訪子様が、お腹空かせちゃいます。
 それに好きなドラマの再放送がああああああはははははははは!」






34

アリス目掛けて勢いよく鎌を投げるエリー。
だが何処かから飛び出した人形達により、鎌は打ち返される。
更に背後から襲いかかる気配に、エリーは振り返り鎌を振った。

「………えっ」

ところがそこにいたのはくるみ。
くるみは鎌をかわすと、爪でエリーを斬りつけて来る。

「そんな……くるみ、どうして…」
「ふふふ、今の彼女は私の操り人形。さぁ、どうする? 自分の身惜しさに仲間を傷つける?」
「そうだったのね。私はてっきり、くるみがおかしくなっちゃったのかと…」
「……エリー、後で覚えときなさい………」

エリーはくるみに苦笑いをすると、少し距離を取り暫く考え込む。
やがて決心がついたのか、鎌を置きその場に立ち止まった。

「そう! 仲間の安全を優先するのね! いいわ、ボコボコにしてあげる!」

徐々に狭まって行く二人の距離、次第にそれはくるみの爪が届く程の距離になる。
そしてくるみの爪がエリー目掛けて振り下ろされると、エリーはそれを自身の体で受け止めた。

「な、何してんのエリー!!」
「……ぐっ……言ったでしょ……私、不器用だから抱き締めてあげるくらいしか出来ないって…」

そう言って言葉通り、くるみを抱き締めるエリー。
するとアリスの指にバチッと衝撃が走る。
同時に今まで何もなかった場所に、切れた糸が姿を現した。

「早苗の髪を使った操り糸が………何をしたの!?」
「くるみの体に私の妖力を流し込んだの。貴方が操り人形って言ってたから、何処かで繋がってるんじゃないかと思って。
 糸さえ分かれば、こっちのものよ。妖力を逆流させて少しながら反撃させてもらったわ」

エリーは、くるみの体についている糸を引き抜き投げ捨てる。
そして置いた鎌を妖力で飛ばし受け取ると、アリスに向かって身構えた。
一方でアリスは訝しげな表情を浮かべている。

「貴方、物に妖力を送り込んで操れるのね」
「思い出した? 私達の力を!」
「いいえ、でもそれならなんでわざわざ抱き締めたりしたの? 他の人形に襲われる可能性は考えなかったの?」
「!!」
「………もしかして物には簡単に送り込めるけど、生き物にはああしないと送り込めないとか?」
「………………ま、まさか~。そ、そそそんな筈ないだろ~」
「図星なのね、分かりやすい奴。……ああ、それで『私、不器用だから』」
「………仕方ないじゃない………」
「……茶番は終わりよ」

エリーを振り払うとその言葉の主、くるみは真っ赤な目を光らせてアリスを睨みつけた。
その視線から何か危険なものを感じたアリスは、すぐに人形達に弾幕の準備を始めさせる。
人形達の口には無数の氷弾が出来ていき、後数秒もすれば高密度の冷凍弾幕が完成するところだ。

「よくも恥ずかしい真似、させてくれたわねぇ!」

ところが突然、人形達の足下から火柱のように弾幕が巻き起こる。
それにより人形達は一体も残らず巻き込まれ、粉々になって消えた。
その光景に茫然とするアリス。
だがその眼前に爪が向けられると、我に返りキッとくるみを睨んだ。

「やってくれるわね」
「当然よ。本気で来なさい、あの時はもっと強かった筈よ」
「あの、なんで私を見ないの? 眼中にないって事? もしも~し」

その言葉を聞くとアリスはにやりと笑う。
そして手に持ったグリモワールを広げると、五色の魔法陣を展開し宙に浮かび始めた。

「なら見せてあげる。私の知り得る究極の魔法、異世界の怪物の力を従える召喚術を!」
「ねぇちょっと! 勝手に話を進めないで!」

※サイコロを二回振り、出た数エリーのMGを減らす。






35

鈴仙の呼び掛けに応じて、何処からか鉄の武器が飛んで来る。

「そう! ちゃく!」

そして鈴仙の背中に翼、右腕にミサイルランチャーと左腕にバズーカ砲を取り付け合体した。

「おつきみせんしプリティーレイセン、ただいますいさ~ん!」
「…………」
「…………」

ノリノリな鈴仙の姿に呆気に取られる二人。
だがその重装備っぷりは、明らかに戦闘に特化した姿だ。

「それじゃ、さっそく」
「!!」

そう言って鈴仙は、くるみを狙って誘導ミサイルを撃つ。
飛んで来た無数の弾幕に、慌てて飛び上がるくるみ。
だが誘導ミサイルは軌道を変え、くるみを追いかけて来た。

「う、嘘!?」
「追尾弾幕よ、逃げて!」
「そんな無茶な…ぎゃああああああああ!!」
「くるみいいぃぃぃ!!」

そのまま誘導ミサイルは、くるみにぶつかり爆発する。
やがて爆煙の中からボロボロのくるみが飛び出し落ちていった。
エリーはその光景を見ると、鬼のような形相で鈴仙の方へ向って行く。
そして思いっきり鎌を投げつけた。

「そう、かんたんにはいかないよ!」

ところが鈴仙は翼から炎を噴き出し、宙に浮かび鎌をかわす。
更に地上にいるエリー目掛けて、バズーカを発射した。

「ちっ!」

慌てて椅子の裏に隠れるエリー。
しかし着弾したバズーカは、爆風で椅子諸共エリーを吹き飛ばした。

「このまま…やられて堪るかぁぁ!!」

吹き飛ばされながらも、エリーは再び鎌を投げる。
すると鈴仙の持つバズーカ砲の砲筒の中に入り込んでしまった。

「……へ?」
「しすてむえらー発生! しすてむえらー発生! 異物ガ混入シテオリマス。ぷろぐらむハコノ問題ヲ解決出来マセン」

途端に機械音声と共に、バズーカ砲から煙が出始める。そして、

「あ、あれ? …………うぎゃああああ!!」

バズーカ砲は大爆発を起こした。
そのまま真っ黒になった鈴仙が落下して来る。
しかしそれに目もくれずに、エリーはくるみの許へ駆け寄っていった。

「大丈夫!? しっかりして!」
「いたたた……ええ、平気よ。吸血鬼はそんなに柔じゃないわ」
「本当に?」
「本当本当」

くるみの無事に、ほっと胸を撫で下ろすエリー。
何にせよ、もう邪魔者はいない。
エリーとくるみは他に誰もいないか確認すると、換気口の中へと入っていった。

※サイコロを二回振り、出た数くるみのMGを減らす。
※『音符』を取得






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