13

エリーとくるみは黄色のパトランプの光る換気口を進んで行く。
やがて換気口が何かの部屋へと繋がっている部分まで辿り着いた。
辺りを警戒しながら蓋を開け、部屋の中に入る二人。
するとそこには、まるで手術室のような場所が広がっていた。
手術台と思わしき物には血がべっとりとこべりついたまま乾いており、この部屋が長らく使われてない事を表している。
並んだ棚には頭蓋や内臓の模型が入れられ、壁には解剖図のポスターが貼られていた。

「……あまり気分のいい場所じゃないわね」
「早く探しちゃいましょう」

早速探索に入るエリーとくるみ。
だがそれらしき物は何も出て来ない。

「……ねぇくるみ、何もないみたいだし帰らない?」

エリーはそう提案を持ちかける。
ところがくるみは、ある棚をじっと睨んだまま動かない。

「くるみ?」
「………此処、扉があるわ」

くるみは振り返ると赤から金に瞳の色を変え、そうエリーに伝えた。
エリーは少しの間頭を抱えると、妖力を使い棚を慎重に動かす。
するとくるみが言った通り、やたら頑丈な扉が姿を現した。

「なんか開けちゃいけなさそうな感じが、ありありと感じられるんだけど……」
「私達の探している者も、連中にとっては開けられたくない秘密かもしれないわ」
「うぅ……くるみって結構度胸あるのね」
「………むしろなんで妖怪がこんな物に怖がってるのよ」
「仕方ないじゃない……なんか嫌な空気が漂ってるんだもん…」

エリーの言葉にくるみは小さく溜め息を吐くと、扉に手をかけ思いっきり引っ張る。
扉はぎぃぃと音を立てて開くと、中から冷気を流し始めた。
そのまま扉の中へ入って行くくるみ。
その後を追いかけたエリーが見てみると、そこは冷凍室のような部屋になっていた。

「……寒い」
「元々は臓器や血液を冷凍保存してた部屋なのかも。仮に血液が見つかっても飲みたいとは思わないけど」
「………寒い」
「早く入ってエリーも探して」
「うぅ…」

それから二人は暫くの間探索を続けたが、幽香に繋がりそうな物は見つからない。
やがて我慢の限界が来たエリーは、こっそりと部屋を抜け出そうとした。ところが、

「ッ!!」

エリーの服をくるみががっちり掴む。
そのまま床に投げつけるとマウントポジションを取り、何度も顔を殴りつけた。

「ご、ごめんぐりゅっ! 待って、ちゃんとざがずっ! から本当にびゃべっ! は、反省じでっ! まずがりゃっ!」
「ち、違うのエリー! 体が勝手に……」

すると今度は立ち上がり、奇妙な踊りを始める。

「………あの、それはどういった抗議で?」
「だから違うんだって!」

次に自分で自分の体をくすぐりだした。

「あはははは! やめ、やめてええぇぇ! あははははは! く、苦し…助けてエリー! あっはははは!」
「…………」

暫くすると、くるみは突然ぐったりと倒れる。
そして地に手を着き体を持ち上げ、四つん這いになって震え出した。

「……なんか……もの凄く消耗した気がする…」
「………そうよね。幽香ちゃんがいなくなって辛いのは、くるみも一緒だもんね。
 でも私、不器用だから…抱き締めてあげるくらいしか出来ないんだ」
「…エリー、怒るわよ? …………ごめん、怒らないからその可哀相な子をみるような目はやめて…」
「つまんないわ。普通こういう時は同士討ちしたり、仲間を助ける為に必死になるものよ」

突然部屋に響いた声に、驚き振り返る二人。
するとそこには二人もよく知る人物が立っていた。

「……アリス…」
「どうして貴方が……」

アリス。かつて幽香が魔界で戦い、その後夢幻館に乗り込んで来た相手。
それが今、異形の者達の巣に乗り込んだ二人の前に姿を現した。
あの時は幽香がいたが今はいない、自然と緊張感が走る。
なんせ向こうは、こちらを恨んでいてもおかしくない仕打ちを受けているのだ。

「…………なんで私の名前を知っているの? 貴方達、誰?」

しかし返って来たのは意外な反応。
予想外の返事に、つい二人はきょとんとしてしまう。
だがエリーはくすりと笑うと、アリスに向かって武器を構えた。

「忘れたと言うなら、思い出させてあげる! 私は夢幻館を守る番人の一人、エリー!
 もう一度、夢幻館の力の前に泣き喚くといいわ!」
「……忘れた? ああ、なるほど。貴方達は私の過去を知っているのね! いいわ、遊ぶのはやめ。
 私の事、洗い浚い全部全てスリッとまるっとどこまでもエブリシング話してもらうわ!」

※サイコロを二回振り、出た数くるみのMGを減らす。






14

鎌を投げ飛ばし、鈴仙とミスチーを狙うエリー。
だがこの視界では、とても当てる事なんて出来はしない。

「こっちだよ~」
「………くっ!」

暗闇の中に鈴仙の挑発だけが響き渡る。
ところがエリーは落ち着いて、自分の鎌に妖力を纏わせ始めた。

「直接狙ってダメなら、別の方法で倒すまでよ」

そう言ってエリーは鎌を投げ飛ばす。
すると回転する鎌の周りに竜巻が発生し、そのまま鈴仙とミスチーを呑み込んでいった。

「な、なんとか『きょうきのひとみ』でかぜを…」
「ヂュインヂュイーン!!」
「やっぱりダメ~! あ~れ~……」

そのまま吹っ飛んでいく鈴仙とミスチーの気配。
やがて完全に気配が遠くに消えると、暗闇も消え元通りの景色が広がっていった。

「……何しに来たのかしら」
「さぁ、兎に角手掛かりを探しましょう」

そう言ってくるみは、エリーを部屋に入るよう促す。
それから暫くの間、近くの部屋などを調べる二人。
すると、とある部屋でエリーは手掛かりになりそうな物を見つけ出した。

「……ちょっと、くるみ」
「…………何それ?」
「日記帳みたい。幽香ちゃんの事、何か書いてあるかも」

そう言ってエリーは日記帳をパラパラと捲り出す。
そしてあるページで止めると、内容に目を通し始めた。

『○月×日
 今日、井戸から妖怪が入って来たという報告を受けた。
 だから換気口には鉄格子を付けておいた方がいいと言ったのに。
 これもDEN-06が換気口に頻繁に入り込むせいだ。
 あいつ私の事嫌いなんじゃないかってくらい、よく私といる時暴れる気がする。
 仕方ないので井戸にセンサーをつけて対応する事にした。
 これで一先ず安心出来るだろう。

 ○月△日
 井戸から入って来る妖怪が後を絶たないので、換気口にパトランプを付けてみた。
 これで侵入者が何処を移動中か一目瞭然だ。我ながらいい仕事したと思う。
 ついでに換気口から行ける場所に警備担当を決める事にした。
 どうせ合成妖怪達は一日中のほほんとしているのだ。
 こんな時ぐらい、お師匠様が与えた力を活用してもらわなくてば。

 追記
 今日うっかり本人にDEN-01と言いかけてしまった。
 これは私とお師匠様しか知らない合成妖怪の仮称。
 日記には悪口も書いているので、見られてもバレない為の最終防衛ラインにしている。
 幸い、すぐ言い直したので気付かなかったようだが危ないところだった。
 なんか頭がくらくらしてきたので、今日はもう薬打って寝る事にする』

「どうやら私達が忍び込んでた事は、筒抜けだったみたいよ」
「それですぐ襲って来たのね」

その後も二人は日記帳を読み進める。
しかし何処までいっても、幽香の幽の字も出て来なかった。

「……仕方ないわ。もうこの辺りには何もないし、連中の戦力が少し分かっただけでも収獲よ」
「どうする? 換気口は見張られてるんでしょ?」
「でも向こうから攻めて来ないところを見ると、中は安全と考えてもいいんじゃない?」
「………確かに確実に一人づつ相手に出来るなら、下手に囲まれるよりはマシよね」
「じゃあ戻りましょ」

部屋を後にし換気口の方へ戻っていく二人。
その前に見覚えのある妖怪が姿を現した。

「ふっか~つ!」
「貴方さっきの…」

それは先程襲って来た鈴仙だった。

「さっきはしてやられたけど、ミスチーのかたきはわたしがとるよ! もちろんミスチーは、げんきだよ。のびてるけど」
「今度は一人でいいの?」
「へへ~ん、わたしのなかまはミスチーだけじゃないも~ん」

そう言って鈴仙は指を天井に向け、声を張り上げる。

「カモ~ン、うっつほー!」






15

尾を振り回し、早苗はエリーを狙って次々と攻撃を仕掛けて来る。
だが時にかわし時に鎌で受け止め、エリーは迫りくる攻撃を防いでいた。

「何回やったって無駄よ、そんな攻撃じゃ私は傷つけられない」
「ああぁぁ……」

頭を抱え小刻みに震える早苗。
すると突然、早苗は部屋中を這い回り出した。

「………面倒な事を…」

蛇腹で動き回る早苗は音を立てず気配もない為、何処から襲って来るのか予測出来ない。
必死に目で追っても意外と素早いので、完全に捕捉するには無理があった。
攻撃が来るまで反応出来ないのか、そう考えていたエリーの頭にある作戦が浮かんで来る。

「くるみ、さっきこいつの気配は微弱だって言ったわよね?」
「ええ、ましてや動き回ってたら追うのは無理よ」
「………あいつが攻撃して来る一瞬だけ、どっちから来るかだけでも分からない?」
「…………やってみる」

そう言うと、くるみはエリーと背中を合わせ目を閉じた。
周囲をぐるぐると動き回る気配が、途切れ途切れに感じる。
そして一瞬強い気配が放たれ、こちら目掛けて振りかぶられた。

「来る! 私の正面よ!」
「分かったわ!」

エリーは声に応じ、真正面に勢いよく鎌を投げ飛ばす。
すると鎌は弧を描いて飛んで行き、くるみの前に迫っていた早苗の尾を斬り落とした。

「ぎゃああああぁぁぁぁ!」

早苗は悲鳴を上げて苦しみ動きを止める。
その隙にエリーは妖力で操り鎌を引き戻すと、思いっきり跳びかかり早苗を斬り付けた。

「……ああぁ……血が…血が血が血が血が血が血が血が血がぁぁぁぁ……!」

流れ出す血液に声を荒げ取り乱す早苗。
すると突然、早苗は頭を抱え苦しみ出した。

「……あ、頭が……痛い……」
「えっ?」

エリーが斬り付けたのは胴体であり頭ではない。頭が痛いというのは少しおかしい。
ところが様子を窺う二人の目の前で、早苗の体が変化し始めた。
歯は牙のように尖り爪は鋭く伸び、攻撃的な姿になっていく。

「あああああぁぁぁぁ! やめて、苦しい! だ、誰か助…け……」

しかしどうやら早苗自身の意志とは無関係に変化しているらしく、早苗はもがき苦しんでいる。
やがて全身の鱗が鋭く尖っていくと、早苗の体中から血が流れ出した。
そして最後に髪の中から大きな二本の角が現れると変化は終わる。

「……はぁ……はぁ……」

だが早苗自身の消耗は大きかったようで、荒い呼吸を繰り返しその場に手をついた。
ところが二人の気配に反応したのか、手をついたまま血に染まった顔をこちらに向ける。
その目は真っ赤に充血しており、先程までとは別人のように殺気が満ちていた。

「……な、何よ…」
「………ズルい」
「…は?」
「ズルいですよ……人の私がこんな姿になっているのに……妖怪なのに人の形をした貴方が…妬ましい…」
「……何を言って…」
「私も人に戻って何もかもやり直したい。もう一度、もう一度あの頃に戻りたい! 神社で暮らしていたあの頃に!
 その為には人の形が必要なんです! 貴方のその脚が! その皮が! だから………よこせえぇぇ!!」

殺気を放ち一直線に突っ込んで来る早苗。
二人はそれを跳んでかわし振り返る、そして早苗の姿を見て驚愕する。
なんと血が怪しく光ったと思うと、完全に姿が消えてしまったのだ。

「くるみ!」
「……………ダメ! 全く気配がしないわ!」

音も立てず気配も発せず、挙句姿さえ見えない妖怪。
最早いるかどうかも分からないような相手に二人は息を呑む。
だが時折壁や天井に刻み込まれる斬撃の痕が、部屋の中にいる脅威の存在を知らしめていた。

「……このままじゃ…殺される!」

※サイコロを二回振り、出た数くるみのMGを減らす。






16

咄嗟に幽香の腕にしがみ付くくるみ。
力じゃ敵わないのは分かってるつもりだが、どうにかして止めようと思いつい焦ってしがみ付いたのだ。

「やめてよ幽香ちゃん! 私達の事分からないの!?」

くるみは必死に呼び掛け、幽香を正気に引き戻そうとする。
すると徐々に幽香の腕の力が抜けていく。

「幽香ちゃん……」

どうやら声が届いたようだ。
そうくるみが安心した次の瞬間、幽香のもう片方の腕がエリーの腹を貫いた。

「うぐえっ!」

凄まじい量の吐血をするエリー、それは明らかに生命に関わる程の量だ。

「エリィィィー!!」

泣き叫ぶくるみを余所に、幽香は突き刺した爪を引き抜く。
途端に爪が刺さっていた穴から、夥しい量の血液が流れ出していった。

「嫌…エリーが死んじゃう………嫌あぁ………」

次々と流れ出て止まらない血液に、パニックを起こし頭を抱えるくるみ。
一方で幽香はエリーの腹へと顔を近づけていく。そして、

「え…………な、何をしてっ!」

思いっきり喰らい付くとそのまま噛み千切った。
腹の肉がごっそり無くなった事で、エリーの内臓が血液に乗って飛び出して来る。
幽香はそれらも口に入れ噛み、血を撒き散らせながら飲み込んでいった。

「やめて……やめてよ……それ、エリーよ? 食べ物じゃないのよ? どうして……」

凄惨な光景に、くるみは目を閉じ震え出す。
だがピチャピチャと血が跳ねる音と咀嚼音が、くるみの頭の中におぞましい映像を映し出していった。
やがて音が止むと幽香の気配が少しづつ近付いて来る。
くるみが恐る恐る振り返ると、そこには顔を真っ赤に染めた幽香が立っていた。

「…………もういい……もういいわ」

そう言うと、くるみは幽香の許へふらふらと向かって行く。
そのまま幽香に押し倒され腹に喰らい付かれると、無抵抗のまま目を閉じた。

「…また…皆で一つになれる…なら……いっそ……こん…な……か……た…ち………で…………も………」

やがて静けさを取り戻した庭園に残されたのは、殆ど骨だけになった骸。
そして血塗れで立ち尽くす、一匹の獣だけだった。

「………エリー? ……くるみ? ………嫌アアアアアアアァァアアアアアアァアアアアアアアァァアアアアアアアァァ!!」






17

鎌を手に攻撃に備えるエリー。
するとゆっくりとこちらに近付いて来る気配を感じる。

「………くるみ?」

気配の主はくるみ、すぐ傍まで来ると暗闇の中でもはっきり姿が見えるようになった。

「無事だったのね、よかった」
「エリー、妖力を追うのは私の方が得意よ。だから私を信じて言う通りに動いてくれない?」
「……分かったわ」
「ありがとう」

そう言うと、くるみはエリーの背中にしがみ付く。
そして耳元で静かに囁き出した。

「そこから五度右………そう、そしたら鎌を振り上げて……あとは合図するから待ってて」
「本当に大丈夫なの? 相手の気配は動き回ってるみたいなんだけど…」
「………私を信じて」

一方で鈴仙はそんな二人を見て、くすくすと笑っている。

「あんなことしたって、わたしたちのチームワークにはかなわないのにね~ミスチー」
「チュイーン!!」
「それじゃあそろそろ、やっつけちゃおっか!」
「チュインチュイーン!!」

そのまま鈴仙はミスチーに指示を出し、二人の方へ向って行った。
徐々に狭まっていくお互いの距離。

「今よ!」

その瞬間、くるみは大きな声を出しエリーに指示を出す。
大声に驚きながらも、鎌を振り下ろすエリー。すると、

「ヂュイーン!!」

手応えと同時にミスチーの鳴き声が聞こえて来た。

「だ、だいじょぶミスチー!」
「ヂュイーン!!」
「え? ちょっと、どこいくのー!? あ~れ~……」

そのまま去っていく鈴仙とミスチーの気配。
やがて完全に気配が遠くに消えると、暗闇も消え元通りの景色が広がっていった。

「……何だったのかしら」
「さぁ、兎に角手掛かりを探しましょう」

それから暫くの間、近くの部屋などを調べる二人。
すると、とある部屋でエリーは手掛かりになりそうな物を見つけ出した。

「……ちょっと、くるみ」
「…………何それ?」
「日記帳みたい。幽香ちゃんの事、何か書いてあるかも」

そう言ってエリーは日記帳をパラパラと捲り出す。
そしてあるページで止めると、内容に目を通し始めた。

『○月×日
 今日、井戸から妖怪が入って来たという報告を受けた。
 だから換気口には鉄格子を付けておいた方がいいと言ったのに。
 これもDEN-06が換気口に頻繁に入り込むせいだ。
 あいつ私の事嫌いなんじゃないかってくらい、よく私といる時暴れる気がする。
 仕方ないので井戸にセンサーをつけて対応する事にした。
 これで一先ず安心出来るだろう。

 ○月△日
 井戸から入って来る妖怪が後を絶たないので、換気口にパトランプを付けてみた。
 これで侵入者が何処を移動中か一目瞭然だ。我ながらいい仕事したと思う。
 ついでに換気口から行ける場所に警備担当を決める事にした。
 どうせ合成妖怪達は一日中のほほんとしているのだ。
 こんな時ぐらい、お師匠様が与えた力を活用してもらわなくてば。

 追記
 今日うっかり本人にDEN-01と言いかけてしまった。
 これは私とお師匠様しか知らない合成妖怪の仮称。
 日記には悪口も書いているので、見られてもバレない為の最終防衛ラインにしている。
 幸い、すぐ言い直したので気付かなかったようだが危ないところだった。
 なんか頭がくらくらしてきたので、今日はもう薬打って寝る事にする』

「どうやら私達が忍び込んでた事は、筒抜けだったみたいよ」
「それですぐ襲って来たのね」

その後も二人は日記帳を読み進める。
しかし何処までいっても、幽香の幽の字も出て来なかった。

「……仕方ないわ。もうこの辺りには何もないし、連中の戦力が少し分かっただけでも収獲よ」
「どうする? 換気口は見張られてるんでしょ?」
「でも向こうから攻めて来ないところを見ると、中は安全と考えてもいいんじゃない?」
「………確かに確実に一人づつ相手に出来るなら、下手に囲まれるよりはマシよね」
「じゃあ戻りましょ」

部屋を後にし換気口の方へ戻っていく二人。
その前に見覚えのある妖怪が姿を現した。

「ふっか~つ!」
「貴方さっきの…」

それは先程襲って来た鈴仙だった。

「さっきはしてやられたけど、ミスチーのかたきはわたしがとるよ! もちろんミスチーは、げんきだけどね!」
「今度は一人でいいの?」
「へへ~ん、わたしのなかまはミスチーだけじゃないも~ん」

そう言って鈴仙は指を天井に向け、声を張り上げる。

「カモ~ン、うっつほー!」






18

「行けええええぇぇぇぇ!!」

空の口から飛び出す無数の弾幕。
それらをかわしながら、くるみは迫る空に向かって行った。

「これで! 終わりよ!」

すれ違い様に空の口に型を投げ入れ、そのまま通路の一つに逃げ込むくるみ。
当然それを追って、空は通路の入口まで来て弾幕を放とうとする。
その瞬間、型に塞がれた銃口が暴発し空の鴉頭は吹き飛んだ。
次いで襲うのは型から流れ出すガラス液、超高温の液体が破損した箇所から中の機材に入り込む。

「…ギ…ギギ……重大ナえらーガ発生シマシタ。空ヲしゃっとだうんシマシマシマママママママママママママ」

そして起こる大爆発、立ち昇る爆煙から空の残骸が現れ落ちていく。
そのまま下のプロペラに突っ込むと何かが砕け割れる音を出し、それっきり動かなくなった。

「……倒した、の?」

くるみはそっと通路から顔を覗かせる。
そこにはまるで壊れた変形玩具のようになって、半壊したプロペラに引っ掛かっている空の姿があった。

「………やった……あはは…」

ぐったりと座り込み力無く笑うくるみ。
出来れば早くエリーの許へ行きたいところだが、緊張の糸が切れたせいか体に力が入らない。
仕方ないので暫く休んだ後、くるみはエリーのいる動力室へ降りて行った。

「どう、止められた?」
「………えっと…」
「……………」
「仕方ないじゃない! 仕方ないじゃない! パスワード設定がされてるんだもん!
 でも換気扇とか一部の機能は止めておいたわ、それでいいでしょ?」
「……車両、戻しといて。あれで帰りましょう」
「くるみぃぃ~」

なんやかんやありつつも、二人は車両を線路に戻すとエリーの妖力で走らせ動力室を後にする。
やがて出て来た換気口の場所まで戻って来ると、換気口の中へと入っていった。

※『炎符』と『換気扇停止フラグ』を取得






19

「ああああああああああああああああああ!!」

錯乱し滅茶苦茶に暴れるくるみ。
一方のパルスィは冷静に結晶を使い、攻撃を防いでいた。
更に隙あらば結晶を飛ばし、攻撃に転じて来る。
だがくるみは飛んで来る結晶をかわすと、再び斬撃を繰り出していた。

「……………」

その様子をエリーはじっと見ている。
パルスィには、あの結晶をどうにかしない限り攻撃は通らない。
突破口を見つけるにはパルスィの注意がくるみに向いている今の内に、結晶の弱点を見つけなくてはいけないのだ。
すると結晶が出現する際、毎回ある法則がある事に気付く。

「……一つしか出さない…?」

パルスィが結晶を出すのは、いつも一つづつなのだ。
くるみの攻撃が連続で放ったものでも、一発目を防いだ結晶で二発目も防ぐ。
もしかしたら一つづつしか結晶は出せないのかもしれない。
そう考えたエリーは鎌を投げると、大声を張り上げた。

「パルスィ!」

声に気付きこちらに反応するパルスィ。
そして結晶を出し鎌を弾き返した。
しかしその後ろには、くるみの攻撃が迫っている。
これで攻撃は防げない、そう思ったエリーだったが事態は思わぬ方向に進む。

「……えっ」

なんとあっさり、もう一つの結晶を出しパルスィは攻撃を防ぐ。
しかも鎌を防ぐのに使った結晶を、エリー目掛けて飛ばして来た。

「くっ!」

咄嗟に後ろに跳んでかわすエリー、ところが跳んだ先は暗闇の中。
足下が見えず足を滑らせ尻もちをついてしまう。すると

「……ひ、ヒィィッ!」

何かを潰した感覚と服が湿っていく感覚に、エリーは思わず声をあげてしまった。
考えないようにしても、つい潰れた小蜘蛛と服に染み込んで行く体液を想像してしまう。

「うああああああん! 嫌、嫌あああああああ!」

するとエリーは人目も憚らず泣き出してしまった。
その声に反応し、正気を取り戻すくるみ。
くるみはその目を赤く光らせると、パルスィの足下を見る。
次の瞬間、床から弾幕が放たれパルスィに襲いかかっていった。

「なっ……うぎゃあ!!」

そのまま吹っ飛んで行くパルスィ。
そして勢いよく近くの棚にぶつかると、大きな音を立てて崩れ落ちていく。
やがて棚から落ちた物が転がる音が消えると、辺りは静寂に包まれた。

「……大丈夫?」
「……うっく……えっぐ……なんとか…」

泣き続けるエリーを宥めるくるみ。
やがて落ち着き泣き止むと、二人はほっと一息吐く。ところが、

「うう…ああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

崩れた棚の方から凄まじい悲鳴と共にパキポキと骨が鳴る音が響き渡る。
その音が止むと突然巨大な鎌が現れ、棚を切り刻んだ。

「…ぁ……あああ…!」

棚を壊し二人の前に姿を現した者、それは姿を変えたパルスィだった。
目隠しは取れ、空洞となった目が不気味に二人の方へ向けられる。
両腕はカマキリの鎌のようになり、刃には先程の結晶と同じ物が使われているようだ。
更に脚だけだった下半身の蜘蛛は完全に蜘蛛の形になっていて、真っ赤なたくさんの瞳が怪しく輝く。
その姿は化け蜘蛛の背中に人型のパルスィがくっついているような状態だった。

「……な……」
「…貴方達ね」
「………えっ?」
「貴方達がヤマメを閉じ込めてたのね! 許さない、絶対に許さない! バラバラにしてやる……病気で苦しめてやる。
 じわじわと嬲り殺しにしてヤマメに手を出した事、地獄で後悔させてやるぅ!!」

突然身に覚えのない事で怒り狂うパルスィ。
その鎌が問答無用と言わんばかりに、二人に向かって振り下ろされた。

※サイコロを四回振り、出た数エリーのMGを減らす。






20

エリーは触手を斬り落とすと、一気に逆方向に走り出す。

「ちょっと! なんで逃げるのよ! やるだけやっといてズルいわ!」
「心が読めるなら分かってるでしょ! 今の貴方、なんか気持ち悪いのよ!」

そのままくるみを抱え、どんどん階段を昇っていくエリー。
その後ろを、さとりの触手がぬるぬると追い掛けて来た。

「ふふふ、今の貴方は私を恐れている。得体の知れない触手、訳の分からない言動。
 全てが貴方を追い詰め、震え上がらせる。ふふふ、あっははは! いいわ、ゾクゾクする!」
「………いい加減に、しろっ!」

迫り来る触手をエリーは次々と斬り落としていく。
だが斬った傍から再生する触手には、あまり効果がない。
必死に逃げるエリー、その前に換気口のあった階層が見えて来る。
あと少しで逃げ切れる。そう思った瞬間、触手の一本がエリーの脚に絡み付き引き倒した。
同時に頭の中に、さとりの声が響き渡る。

『貴方のトラウマ、見せてあげる』
「なっ…………ひっ! 何!? 何なの!?」

すると突然、異様な光景が広がっていく。
そこは暗い遺跡の中、見覚えのある景色だ。
そこへ後ろから、屈強な男達が追い掛けて来る。
男達の目的はエリーの持つ財宝の鍵だ。
だがこれを捨てる事は出来ない。
何故ならエリーは財宝を守る妖怪だから。
そうこうしてるうちに行き止まりへと追い込まれるエリー。
そして男達は剣や槍を構えると…

「嫌ああああああぁぁぁぁぁ!! 助けて! 助けてよぉ!」

頭を抱え、泣き叫び出すエリー。
その姿をさとりは、恍惚とした表情で眺めていた。

「そう、これよ! これが見たかったのよ! さぁ、もっと泣き喚いて! 私を興奮させて!」
「………黙れ、変態」

刹那、炸裂した斬撃がさとりの触手を細切れにする。
何事かと振り返ったさとりの視線の先にいたのは、復活したくるみだった。
くるみは蹲るエリーの手を掴むと必死に呼び掛ける。

「落ち着いてエリー。私達は幽香ちゃんを助けに来たんじゃない。そんな幻に負けちゃダメよ」
「……えっ…………あ、くるみ。私は一体……」

するとエリーの目に光が戻り始めた。
そしてさとりの姿を見ると、鎌を手に取り思いっきり投げる。

「そんな物、何回投げても同じ…へっ?」

鎌は螺旋階段の主柱の丁度さとりの上辺りを斬った。
途端にさとりの重みで、螺旋階段は崩れ出す。

「ああっ! そんな、私は……あああああぁぁぁぁぁぁぁ……」

そのまま螺旋階段と一緒に、さとりは階下に落ちて行った。
ほっと一息吐いて、エリーとくるみはその場に座り込む。

「階段壊したから探せなくなっちゃったわね」
「いいの、エリーが無事だったから」
「……くるみ?」
「戻りましょ」
「…そうね」

そして少しの間休むと、二人は換気口の中へと入っていった。

※『水符』を取得






21

エリーとくるみは橙色のパトランプの光る換気口を進んで行く。
やがて換気口が何かの部屋へと繋がっている部分まで辿り着いた。
辺りを警戒しながら蓋を開け、部屋の中に入る二人。
するとそこには、殺風景な長く暗い廊下が広がっていた。
廊下には灯りはなく、奥の方は真っ暗で何も見えない。

「くるみ、何か見えない?」
「ちょっと待って」

妖怪にとっても月明かりも入らない暗闇は厳しい。
だが吸血鬼のくるみなら、少なくてもエリーよりは暗闇に強いだろう。
エリーに言われ暗闇の中を探るくるみ。
すると、くるみは足下に何かあるのを見つける。

「何があるの?」
「………長い…鉄の棒がずーっと……これは線路…?」
「え………ッ!!」

刹那、突然二人を照らす強烈な光。
思わず怯みそうになってしまうエリーだったが、咄嗟にくるみを掴み換気口の傍まで逃げ込む。
エリーはすぐに光の正体に気付き、自分達に迫る危険を察知したのだ。
やがて襲いかかる突風と轟音。それらが過ぎ去るとエリーは光の主、列車を追い始める。

「どうしたのエリー!」
「今の妖怪だった! 何処かに向かってる、幽香ちゃんと関係あるかも!」

エリーの言うとおり、あの列車が幽香と関係あるかは分からない。
だが此処でじっとしていても何も変わらない事は、くるみにもはっきりと分かった。

「掴まって! 飛び乗るわ!」

そう言って伸ばした手をエリーがしっかり握った事を確認すると、くるみは大きく羽搏き列車に飛び乗った。
列車は殆どが貨物車両で、中には大量の割れたビンが積まれている。
二人は足を切らないよう気をつけながら、先頭車両を目指した。

「………あれが先頭ね」
「……………」

暫く進むと先頭を走る機関車が見えて来る。
しかしそれは機関車にしては、あまりにも小さかった。

「……なんか……貨物と大きさが合ってない気がするんだけど…」
「でも頑張ってるわね。よく分かんないけど元気づけられる」

小さい機関車が走る姿に少し和む二人。
ところが煙の出ていない煙突がエリーの方に向けられた瞬間、状況は一変する。

「ッ!!」

突如響いたダンッという音と同時に、エリーの脇腹を何かが貫く。
それは超高速で射出された弾幕だった。

「あっ……ぐっ……ぁぁ…」

その場に力無く倒れ込むエリー、しかし此処は動く車両の上。
エリーの体は支えを失い転がり落ち、闇の中へと消えて行く。

「エリー!!」

あわやそのまま地面に激突するかと思った次の瞬間、くるみの手がエリーを掴み上昇する。
そして機関車の放つ弾幕を掻い潜り、最後尾の車両に降り立った。

「…何なの、あれ……」
「妖怪よ、間違いないわ」

立ち上がり謎の機関車妖怪に挑もうと、踏み出すエリー。
ところがまるで止めるかのように、その目に再び強烈な光が飛び込んで来る。

「うっ!」
「…………! エリーあれ!」

くるみの言葉に慎重に目を開き、周りの景色を見る。
するとエリーの目に、巨大な動力炉の姿が飛び込んで来た。
動力炉の周りにはグツグツと煮えたぎる液体が溜まっており、吸い出され型に流し込まれると別の部屋に運ばれていく。
更に天井には幾つもプロペラがついていて、液体から出る熱を逃がしていた。

「……あの動力炉、もの凄い量のエネルギーを上に送ってるわ。きっと此処は永遠亭の動力室なのよ」
「それじゃあ此処を止めれば屋敷の機能は止ま…ってあら?」

気付くと列車は、いつの間にか止まっている。
だが機関車は走っている、貨物車両が機関車から切り離されたのだ。
茫然とするエリーとくるみ、だがそんな事はお構いなしに貨物車両は傾き始める。

「え? 何? 嘘………く、くるみ!」
「もしかしてこの液体、溶かしたビンなんじゃないかしら」
「冷静に考えてる場合じゃないって!」

エリーの言葉にはっとし、くるみはエリーを掴み空を飛ぶ。
そこへ先程の機関車が車輪から火を噴き飛んで来た。
機関車は車輪を大きく広げると、翼のように変形させる。
更に煙突は右腕の機関銃に、ヘッドライトは胸の赤い目に移動させると
本体から人の頭が飛び出し完全に人型に変身した。
変形が完了すると、その機関車妖怪はくるみ目掛けて弾幕を放つ。
今のエリーを連れた状態では、とてもかわしきれそうにない。

「エリーごめん!」
「えっ?」

そう判断したくるみは手を離した。

「嘘おぉ!? ちょっと、そこの来て!」

エリーは咄嗟に貨物車両に妖力を流し、自分の方へ吹き飛ばす。
その車両にすれ違い様に鎌を引っ掛け一緒に飛ぶと、壁に突き刺し足場にした。

「いきなり危ないじゃない!」
「ごめん! こいつは私が惹きつけとくから、エリーは動力炉をお願い!」
「……分かったわ」
「それで! 貴方は誰!? なんで私達を狙うの!?」

くるみは逃げながら機関車妖怪に話しかける。
すると機関車妖怪は、口ではない別の場所から機械音声を発した。

「侵入者ノ問イ掛ケヲ確認。霊烏路 空ハ侵入者ヲ排除スルヨウ、ぷろぐらみんぐサレテイマス。
 ヨッテぷろぐらむニ従イ貴方方ヲ排除シマス」
「…くっ!」

※サイコロを二回振り、出た数エリーのMGを減らす。






22

「先手必勝!」

そう言ってエリーが鎌に妖力を送ると、鎌は鞭のように変化する。
そして大きく振り上げると、早苗に向かって振り下ろした。

「きゃああ!!」

鞭はピシャンと音を立て、早苗の体に打ち付けられる。
更に追撃と言わんばかりに、エリーは再び鞭を振るった。

「あうっ! うぎっ! ぎゃあ!」

何度も繰り返し打たれ、早苗の体を覆っていた鱗は砕け痣が広がっていく。
だがエリーは攻撃の手を緩めない。

「お、お願いでずっ! もう許じでっ! た、助けでっ!」
「本当、貴方って腹立たしいわね。偉そうに正義を掲げて犠牲者面する人間みたい」
「……だっで…私、人間だったがら…」
「そう、ますます倒す理由が出来たわ」
「ヒィッ!!」

そう言うと再び鞭を振り上げるエリー。
そこへ、くるみが二人の間に割って入って来た。

「……どういうつもり?」
「別に庇ってる訳じゃないわ。ただ目的を見失ってるんじゃないのって思っ…」
「くるみ退いて、そいつ殺せない」
「えっ?」

くるみを押し退け、エリーは早苗に鞭を振り下ろす。
その表情は怒りや恨みというより、むしろ楽しんでいるかのようだった。
それから数分ほど、エリーはくるみの制止も聞かずに鞭を振り続ける。
結果エリーが鞭を振り終えた頃には、早苗の目は光を失い完全に心が壊れてしまったかのようになってしまった。

「おか~さ~んおかおかおか~さ~んおか~さ~んおかおかおか~さ~んおか~さ~ん…」
「………エリー、貴方どうしちゃったの?」
「何が?」
「ここまでやる必要ないでしょ、あいつはとっくに戦意を失ってたわ」
「無事に帰したら仲間を呼んで来るわ。大勢と戦うより一人づつ潰していく方が安全よ」
「…………エリー、私達の目的は幽香ちゃんの救出な筈よ。……それなのにどうして…」
「目的を果たす為に必要な事よ」

そのまま暫くの間、黙りこくってしまう二人。
やがて何か考えが纏まったのか、くるみは話を切り出した。

「…………まさか、あいつらの妖気に呑まれておかしくなっちゃったの?」
「私は正気よ。だから幽香ちゃんを助ける為に、こうして戦ってるんじゃない」
「……エリー………今の貴方、私を嫌っていた時と同じ目をしてるわ」

徐々に凶暴性を増していくエリーに戦慄するくるみ。
兎に角今は一刻も早く幽香を助け出し脱出する為、エリーと共に換気口の中へと入っていった。

※サイコロを四回振り、出た数くるみのMGを減らす。
※『風符』を取得






23

アリス目掛けて勢いよく鎌を投げるエリー。
だが何処かから飛び出した人形達により、鎌は打ち返される。
更に背後から襲いかかる気配に、エリーは振り返り鎌を振った。

「………えっ」

ところがそこにいたのはくるみ。
くるみは鎌をかわすと、爪でエリーを斬りつけて来る。

「そんな……くるみ、どうして…」
「ふふふ、今の彼女は私の操り人形。さぁ、どうする? 自分の身惜しさに仲間を傷つける?」
「そうだったのね。私はてっきり、くるみがおかしくなっちゃったのかと…」
「……………いい加減にしなさいよ」
「えっ?」

突然凄まじい怒気を孕んだ声を放つくるみ。
その眼光は鋭くエリーとアリスを睨みつける。

「さっきから何? こっちが動けないのをいい事に言いたい放題………特にエリー!
 おかしくなったと思ってたのはまだ許すとして、なんであっさり受け入れちゃうの!?
 なんか私、昔からそういう予兆があったみたいじゃない! おかしいって言われるより、そっちの方が傷つくわ!」
「………ごめん」
「謝らないでええぇぇ!! 余計みじめになる! もう分かんない! 自分でも何言ってるのか分かんない!
 もうやだ帰りたい! ベッドの中に一日中籠ってたい! これもそれも全部あんたのせいよ、アリス!!」
「えええぇぇ!? 私ぃ!?」
「泣いたって許してあげないんだから………覚悟しなさい!!」

そう言うとくるみは大きく息を吸う。
そして口の中に空気を溜めると、

「○▲□×◆▽●#◇▼%&△■!!!」

大音量で凄まじい怪音波を発した。
衝撃で吹き飛ぶ人形達、当然アリスも無傷という訳にはいかない。

「ああああああああああ!! 頭が! 頭が痛い! やめてよ! やめなさいよぉ!」

頭を押さえ苦しむアリス。
それにより糸に送られていた魔力が止まり、くるみは自由になる。
するとくるみは一直線にアリスに向かって行き、

「届け月まで立ち昇れ!!」
「もっこっ!?」

思いっきり蹴り飛ばした。
そのままアリスは吹っ飛び、壁に叩き付けられる。
くるみは乱れた髪を梳かすと、そんなアリスに近付き口を開いた。

「体を操っただけじゃ全てを支配したとは言えないわ。出し惜しみせず最初からグリモワールを出しておくべきだったわね」

だがアリスは気を失っており、くるみの言葉は聞こえていない。
するとくるみは、やれやれと肩をすくめエリーのいる方へ振り返る。

「一応アリスも出してあげましょう。このまま置いといたら凍死す………」

ところがエリーは、その場にぐったりと倒れていた。

「……何してるの?」
「仕方ないじゃない……音はかわせないんだもん」
「……ごめん、エリー。……後、さっきいろいろ言った事も…」

そう言うとくるみはエリーとアリスを連れ出し手術室に戻って来る。
そして二人はアリスをその場に残して、換気口の中へと入っていった。

※『凍符』を取得






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