※秋枝姉妹は出てきません。※









            ―1―



 秋の収穫祭。
広場の地面に、円を描くように並べられた食べ物や酒と、その前に座る人々。
円周上の上座にあたる場所には、この日のために用意された、紅葉した落ち葉で彩られた特別な椅子と
その秋一番に収穫されたばかりの作物が、これまた特別な器に盛られて供えられている。
そう、神のために用意された席があったのだ。

 祭り自体は、一見すると例年通りにぎやかに行われているように見えるものの
酒の席に参加している人々は、どこかうかない顔をしている。
酒を飲んでわいわいと騒ぐ声もほとんど聞こえてこず
彼らが時折笑う声にも、祭りの中心部で度々披露される歌や踊りや芸のどれにも張りがない。
皆がしんみりと酒を飲み交わす、この手の祭としては異様な光景。

 主賓であり祭りの主役でもある秋の神は、当然のことながらその理由を知っていた。
その年は、ここ数十年の間でも稀なほどの凶作だったのである。



「おかしいなあ。私の神力をもってすれば
 食べきれずに余らせちゃうくらいに作物を実らせることだって、わけもないことなのに。」

 豊穣神としてまつられている彼女は、作物をたわわに実らせることによって信仰をあつめ
その信仰でもって神としての力を発揮し、また次の秋に作物をたっぷりと実らせる。
神の力は信仰の力。神と人、持ちつ持たれつの、ある種の理想的な関係。

 しかし、何故か今年は事が上手く運ばなかった。
例年通り適度な豊作となるように「した」はずだったが、蓋を開けてみれば久しく見たことがないほどの大凶作。
もちろん、あらゆる作物が秋に実るわけではないので、とりあえず食料面で彼らが苦しむことはないはずだが。

 食欲の秋、とはよくいったもので
米しかり、芋しかり、葡萄しかり。果物や穀物といった大地の恵みが一番おいしい時期であるだけに
彼らが落胆するのも、穣子にはすごくよくわかる。



 例年ならば、椅子に座ると向こう側が見えなくなってしまうほど高々と積み上げられた供え物を見て優越感に浸ったあと
姉といっしょに、これはどう食べよう、あれはこうして食べようなどとあれこれ楽しく話しながら
二人がかりでも持ち帰るのが大変なほど大量の作物をひいこら言いながら持ち帰るのだが
目の前に供えられた作物の量からして、今年の凶作ぶりは相当なもののようだ。

 祭りの中心で歌を歌う者の姿も、穣子のちょうど反対側に座っている人の姿も
全身がはっきり見えてしまうほど、供え物の山の量は少なかった。
高さにして、例年の半分ほどしか盛られていない。
用意された食事の量も、穣子たちの分だけはいつもどおりたっぷりと盛られていたが
参加した人々の分は、どことなく寂しさすら漂うような少なさであった。



「まあ、たまにはこういうこともあるわよ、穣子。」

 隣に座っていた姉の静葉からありふれた形のフォローを受けた穣子だが、どうにも気になったので席を立ち
一番近くに座っていた人間に話しかける。

「ねえちょっと、今年ってずいぶん不作だったみたいね。何かあったの?」

 いきなり神に話しかけられたその人間は、ひどく驚いた顔で彼女に答える。

「も、申し訳ありません…。おっしゃる通り、今年は凶作。それも
 もう何十年も覚えがないほどの出来の悪さでして…。
 食料の消費を見積もった計画も、前年からの蓄えを切り崩す形になっておりまして。
 お供え物も用意したぶんを捻出するだけで、私どもとしましても精一杯でございまして…。」

「いや、私は税を絞りに来た領主じゃないんだし、そんなにへーこらしなくてもいいのに。
 そうじゃなくて、何があったのかな、なんて、ちょっと気になっただけ。」

「いえ、実は…収穫を目前に控えた作物が次々と、枯れていったのです。
 今年は特別寒かったというわけでもないので、寒さに負けて枯れたわけでもなさそうですし
 病気が流行った痕跡も見つからず、どうして枯れてしまったのかと皆が頭を抱えている有様でございまして。」



 穣子が人間の話を聞いていると、そこにやってきた静葉が言った。

「あの、私たちばかり食べるのも悪いですし、私たちの分も皆さんで分けてください。」

 な、何を勝手に…と一瞬ムッとした穣子だったが
たしかに姉の言うとおり、自分たちだけバクバク食べても面白くない。
ところが、それを聞いた人間は先ほどよりさらに驚いた表情でこう答えた。

「と、とんでもないことでございます。神様の食べ物を、私たち人間で分けてしまうなど。
 どうか、私たちのことはお気になさらず。」



「うーん、なーんか調子狂うなあ。」

 たしかに自分は神様だけど、これだけ一方的に持ち上げられるとどうにも落ち着かない。
栗ご飯を食べてみたが、とってもおいしいはずなのに、なぜか満たされない。
言われたとおり、自分たちの分として用意された食事は全て平らげたものの
お供え物の作物は半分ほど置いて帰ってしまった。



 凶作は、その年だけでは終わらず、その後何年にもわたって続いた。
次の年も同じくらいの酷い凶作。
その次の年は前二年に比べればマシなものの、相変わらず出来は悪く。
人間たちにも余裕がどんどん無くなってきたのか、お供え物の量も、祭りの参加人数も、年々減少していった。



            ―2―



 凶作の連続が始まってから何度目かの、黄昏時の幻想郷。

「ただいまー。穣子、調子はどう?」

 神様とて皆が皆、御立派な神殿を持ち、そこに住んでいるわけではない。
のどかで静かな森の中の一軒家、ここが秋の姉妹の住処だった。
外から帰ってきた姉の静葉が、中にいた穣子に声をかける。

「あ、おかえり。」

 布団の上に座った穣子が、帰ってきたばかりの静葉に問う。

「それで、今年の様子はどう?」

 開口一番その言葉を口にするとは、よっぽど気になっていたんだろうな。と
少し驚きつつも、静葉は答える。

「うーん、やっぱり今年も出来はよくなさそう、かな。」

「そう……。」

 がっくりと肩を落とす穣子に、静葉が言った。

「今日はさ、とれたてのサツマイモを手に入れてきたんだよ。お芋の炊き込みご飯にするの。
 穣子、おいしいもの食べて、元気出そうよ。」



 神の力は信仰の力。
力の源たる信仰を失ってしまえば、その神は力をも失ってしまう。
凶作続きで徐々に人々の心が離れていくにつれ、穣子はだんだんと弱っていった。
そして、静葉が見てきた限りでは今年の収穫とそれを祝う祭りにも期待はできないだろう。



 静葉の励ましの言葉に対して、少しの間をあけた後、穣子が言った。

「ねぇ、静葉。」

 穣子の視線は、窓の外。

「紅葉、すごくきれいだね。絶好調だね。」

「穣子……。」

 どこか含みのあるような口調の穣子に対し、何も言い返せない静葉。

 お姉ちゃんは絶好調だね。私と違って。

 静葉にはそう聞こえた。

 秋真っ盛りを地で行く鮮やかな紅葉は、夕日に照らされ
何にも換えがたい秋の美しさの頂点を誇っていた。

「私はちょっと寝たいから、夕ご飯ができたら起こしてくれる?」

 そう言って穣子は布団に包まり、眠ってしまった。



 日が沈み、あたりが一日で最も暗くなる宵の内。
そろそろ芋ご飯を炊こうかと、かまどの支度を静葉が始めたところで
玄関の戸を叩く音がした。

 何かを叩く音で目を覚ました穣子は、やがて何かを叩く音とともに
自分の名前が呼ばれていることに気づく。

 何かを叩く音の正体がわかった。自分を呼んでいる者が、玄関にいる。
穣子は布団から起き上がると、ふらふらと少しおぼつかぬ足取りで玄関へと向かっていった。



 戸を開けると、そこには一人の人間がいた。傍らにはとても大きな壷がある。
あれ、この人間、前にもどこかで会ったような。
穣子はすぐに、その人間が誰なのかを思い出した。

「ああ、あの時の……。」

 ここ数年続いている凶作の、始まりの年。
何かあったのかと、穣子が事情を聞いた人間だ。



 あの時は“神様だから”といった程度に恐縮した口調で話していたその人間は
それとはまるで違う、どこか怯えたような口調で穣子に向かって言った。

「み、穣子様。こんな夜分遅くに申し訳ございません。
 お供え物を、お、お持ちしました。」

 彼女はそう言って、壷の口にかけられていた布切れを取り去る。
穣子が覗き込むと、壷の中には口に布をかまされ、両腕を後ろ手に縛られた少女が座り込んでいた。
家の中からのわずかな明かりでしか見ることができなかったが、怪我でもしているのか
少女の顔や衣服にはあちこちに血がついている。

「何よ、これ……。」

 少女の痛々しい姿に絶句する穣子。
“お供え物”を持ってきた人間は、さらに続けて言った。

「穣子様、私どもは自分達のことを考えるばかりで、神である貴女様をないがしろにしすぎたと
 深く反省しております。
 豊穣神に対する供物は、生きた人間が、生贄がふさわしいと、お聞きしました。
 ここ数年のご無礼、どうかお許しください。」

 人身御供。
震える手でその人間が差し出したのは、白鞘に収められた一振りの短刀。
壷の中の少女は、まだ息はあるもののかなり弱っているようだ。
私にこれで止めを刺せというのか。そのためにこの子をあらかじめ傷めつけてきたというのか。
そしてそれを……?



 ――冗談じゃない。



「いらないわよ、こんなの!」

 静まり返った夜の森に響き渡るような、怒りのこめられた大声で
穣子はその贈り物を拒絶した。

「そんな…お気に召しませんでしたか?申し訳御座いません、すぐに代わりのものを」

「そんなこと、言ってない!
 私がいつ、こんなものが、生贄が欲しいなんて言ったのよ。
 生贄なんていらない、その子はいったい誰の子なの?」

「お、恐れながら、私の娘にご、ございます。
 どうか穣子様、御機嫌をお直しください、どうか!」

 穣子はなおもしつこく迫ってくる人間の手から短刀を取り上げると、その人間に投げつける。

「馬鹿じゃないの?さっさと医者につれてくなり何なりしないと、その子死ぬわよ?
 あんた、親の癖に自分の子供を生贄に持ってくるって、何考えてるの?
 ここからああいってここをこう行けば腕のいい医者がいるから、さっさとそこにでも診てもらいに行きなさい!」

 怒りにまかせて戸を閉め、振り返ると、静葉が心配そうな顔をして立っていた。

「穣子、大丈夫?お芋のご飯、もうすぐ炊けるよ。」



 不愉快な来客があった年はやはり凶作だったものの
その次の年から、年々少しずつ、作物は以前の実りを取り戻しはじめていた。
だが、穣子の調子は戻らず、ゆっくりとだがさらに弱っていった。



            ―3―



 その日は、待ちに待った収穫祭の日。
今年もまた、去年よりさらに収穫量の増加が期待できそうだとのこと。
お祭りも、にぎやかなものになりそうだ。
収穫量の水準は、凶作続きが始まる前とほぼ同水準にまで回復していた。

 だが、もうすぐ祭りが始まる時間だというのに、主賓となるべき彼女は起きてくる気配を見せない。



「穣子、そろそろ行かないと、もうすぐお祭りが始まっちゃうわよ?」
静葉が穣子を呼ぶと、彼女は布団から起き上がることなく
顔だけを静葉のほうに向けて返事をする。

「ごめん、ちょっとキツいかな。お姉ちゃん、一人で行ってきてよ。
 収穫祭に神様がいないんじゃ、お祭りとしては寂しすぎるでしょ。」

「でも……。」

「私なら大丈夫、食べ物は後でも食べられるし。ね、ほら、行った行った!」



 いつにも増して賑やかな、収穫と豊作を祝う祭り。
うまい飯とうまい酒、山盛りのお供え物とはずむ話。歌に踊りに音楽。

 だがそこには、この祭りの主役であるはずの、一柱の神の姿が欠けていた。



「ただいまー。
 穣子、調子はどう?今日はたくさん、食べ物を貰っちゃったわよ。
 あなたの好きな芋も、葡萄もたっぷり。
 私だけじゃ持てなくて、人間に手伝いを頼んじゃったくらい、たくさんあるんだから。」

 穣子に陽気に語りかける静葉。しかし、穣子からの返事はない。

「穣子……寝てるの?
 穣子、穣子?
 ねぇちょっと、穣子ってば。」



 時は既に、草木も眠る丑三つ時。
夜が明けるまで呼び続けた静葉だったが、穣子が返事をすることはついになかった。



            ―4―


 いつからだっただろう。
穣子様はもう駄目なのかもしれない、力を失ってしまったのかもしれない、と。
それに比べて静葉様は。見よ、あの見事な紅葉を。限りなく勢いあふれる力を誇っている、と。
里の人間たちの間で囁かれるようになったのは。



 木々が黄金の輝きを放つ秋の山に、大きなかごを背負った一人の女の姿があった。
少しでも食料の足しになればと、木の実を探しに山へと入ってきた彼女だが
朝から日が傾くまで探しても、片手で持てるほどの量しか見つからず、途方にくれていた。

 凶作続きが始まって3年程になるが、作物のみならず、自然の森になる木の実までもがとれないとは。
ここまで食糧問題が深刻化してくると、これはもはや幻想郷に暮らす人間全体の死活問題である。

 がっくりと肩を落とし、地面に座り込んでうなだれていると。

「女よ。
 汝は、何を求めて我が山を彷徨う?」



 静かで重く暗い、女の声がどこからともなく聞こえてきた。
あたりを見回したが、人の姿はおろか、動物や妖怪の姿すらも見えない。
女が正体のつかめない声に驚いてあたりをぐるぐると見回していると
まるで彼女の心の中を読んだかのごとく、声は続けた。

「凶作続きで作物がとれず、里の人間が飢えに苦しんでいる、と。
 ふむ……。
 お前たちは毎年、豊穣の神をその
 神に対する忠誠心と言うものが、足りていないのではないか?
 傲慢な『人』は、神という絶対の存在への畏敬の念を、すぐに忘れ去ってしまうものだ。
 近年の凶作続きは、神を怒らせたことへの報いなのだろう。」

 なぜ、そこまで里の事情を詳しく知っているのか。声の主は誰なのか。
そんな些細な疑問は、もはや女の頭からは吹き飛んでしまっていた。

「そんな……で、では、私どもはどうすればよいのでしょう?」

 より一層重苦しい調子で、声は答えた。

「はるか神話の時代、遠く離れた西の果ての国の豊穣神は、豊穣の約束の代償として生贄を要求したという。
 生贄こそ、神への畏れを、畏敬の念を、忠誠心を、服従の証を
 最もわかりやすく、最も強く訴えるものだ。
 そうだな、捧げるのは若い女がいいだろう。憶えておくが良い。
 これが私から人間にしてやれる、精一杯の手助けだ。」

 それっきり、その声は聞こえなくなってしまった。

 里にその体験を持ち帰り、会合の結果
凶作の始まりの年の祭りで話しかけられていたからという身も蓋もない理由で
『豊穣神を怒らせたに違いない』とあらぬ疑いをかけられた彼女が
自らの一人娘を生贄として穣子のところへ差し出しに行くことになる、ほんの少し前の話である。



            ―5―



「穣子、調子はどうかしら。」

 もう何ヶ月も目を覚ます気配を見せない妹の傍らに座り、枕元に置かれた愛用の帽子を手にとって
くるくると回しながら、静葉は言った。

「収穫祭には私たち二人が呼ばれていたけど、あくまでその主役はあなた。
 私は言うなれば、姉だからという理由だけでかろうじて呼んでもらえただけの
 あなたの“おまけ”に過ぎなかった。」

「私たちは元々二人ともが、秋の神。
 それなのに、姉である私を差し置いて、妹のあなただけが主役になれる場所があることが、許されると思う?
 『妹』の分際で。『姉』の私を。冗談じゃないわ。」



「全てにおいて、何よりもまず妹の上に立つべき姉を、踏みつけて、踏み躙って。
 生まれながらにして姉の下の存在であるはずの妹が、あろうことか主役になるなど。」

「おこがましい。身の程を知れ。」



 穣子は全く聞いている素振りも見せずに眠り続けているが、静葉はさらに独白を続けた。



「収穫祭の席で、あなたはいつも誇らしげに、楽しそうに笑っていたわね。
 そりゃそうでしょう。
 祭りという世界の頂点から、この私を下々の者達と一緒くたの存在として見下す祭りの時間は
 さぞかしいい気分だったでしょうね。愉快だったでしょうね。」



「さっきも言ったわね、私たちは元々二人ともが秋の神だと。
 それなら、姉であるこの私が『秋の豊穣』を司る力を持っていてもよいではないですか。
 妹に許されて姉には許されないなんてことが、あってたまりますか。」



 そういうと静葉は、手にとった穣子の帽子についている葡萄の飾りに食らいつき、噛みちぎった。
神の身に付ける衣服は、それ自身が神の力の具現、神の血肉の一部。
咀嚼し、口の中に広がるのは、これ以上なく強烈な葡萄の甘みと、むせ返るほどに濃厚な
穣子の血と肉の味、香り。

 混じり合ったそれらの風味は、静葉にとって
嗅覚と味覚を激しく刺激する極上の味となった。



「いつだったか、あなたのところに生贄を持ってきた女がいたでしょう?
 あれ、そうするように仕向けたの、私なのよ。
 山で見かけた人間に、そっと入れ知恵をしてあげたの。
 あなたが力を失ったのかもしれない。そう噂する人間も少なくなかったわよね。
 あれも、一番最初の噂の発端は、それを流したのは、私。」



「そして……

 『もう穣子様は駄目かもしれない、今もなお力の隆盛を誇っておられる静葉様に
  作物の豊穣をお願いする方が良いかもしれない。』

 こういう噂を流したのも、私なのよ。」

 愉快でたまらないといった、弾むような口調で、静葉は穣子に語った。



「それでね、その年から、“枯らす”作物の量を少しづつ減らしてみたの。
 大凶作から普通の収穫量に戻っただけだっていうのにね、人間たちはなんて言ったと思う?
 『やっぱり穣子様はもう駄目らしい、これからは静葉様にお願いしよう。』
 ですって。
 ふふふ、笑っちゃうわよね。人間って、本当に愚かで、可愛いわ。」



 手に持った穣子の帽子をゆっくりと元の場所に戻し、静葉は続ける。



「紅葉の力は、枯れゆく植物の力。
 実りかけた糧を枯らすことなど、紅葉を司る私にとっては造作も無いこと。」

「そうして凶作が続けば、人間のあなたへの信仰は減る一方。当然、貴方の力は少しづつ弱っていく。
 凶作続きであなたが力を失ったように見えれば、あなたに対して人間は疑いの念を持つ。
 そこにさらにテコを入れてやれば、あっという間にあなたへの信仰は地に落ちる。」



 穣子は、力を失ってゆき、意識を保ち続けていられた最後の時まで
飢えに苦しむ人間たちのことを気にかけ続けていた。

 力が及ばず申し訳ない。可哀想。苦しいだろう。大丈夫だろうか。子どもたちは飢えてはいないだろうか。
来年こそは、来年こそは。お腹いっぱい、美味しいものを食べさせてあげたい。
起き上がることすら困難なその身体で、涙ながらに姉に語ることも多かった。

 その妹に、静葉はとびきりの笑顔で優しく語りかける。

「大丈夫よ。信仰の対象があなたから私に移ることで、豊穣神としての力をこの私が手に入れた今となっては
 豊穣の約束にあなたの力などもはや不要。
 人々が飢えで苦しまないように、これからは私がちゃんと彼らを『見守って』あげるから。」



 気の狂いそうなほどの永い年月、隠し通してきた妹への悪意。

妹の前でもそれ以外でも、常に柔らかな優しい表情を絶やさなかった顔に

その顔が鬼神のごとく歪んでしまうほど、その悪意をむき出しにして彼女は言った。



       「安心してお眠りなさい、『わが愛しの妹』よ。」





  • 果たして静葉姉さんの能力をどれだけの人が覚えていただろうか?
    いや否、誰も覚えてはいなかっただろう。 -- 名無しさん (2010-03-14 13:41:03)
  • こういうのって、一度なにか起きたら
    信仰が減る→神の力が衰えてもっと悪い方向に→信仰が
    のループでそのまま終わってしまいそうで怖い。
    東方の神様たちは傾きかけた天秤よりも不安定なところにいる気がする -- 名無しさん (2010-03-14 19:04:15)
  • 姉よりすぐれた妹なぞ存在しねぇ!! -- 名無しさん (2010-03-14 20:44:37)
  • こいつが噂の、静HARD!! -- 名無しさん (2010-03-15 22:47:00)
  • 「分かるぜ、あんたの気持ちが••••俺も、あんたと似た境遇にあったからな•••」 -- 弟に顔をズタズタにされた男 (2010-08-09 15:30:33)
  • ↑消防はおかえり -- 名無しさん (2010-08-09 19:59:41)
  • 俺ちょっと生贄として秋姉妹の家に行ってくるわ -- 名無しさん (2010-08-09 22:47:57)
  • ↑↑↑
    ここはお前のキモイ妄想書く所じゃねえんだ
    チラシの裏にでも書いてろ。 な! -- 名無しさん (2010-08-10 23:32:01)
  • ↑↑待て俺が逝く -- 名無しさん (2010-08-11 17:24:37)
  • ↑悪いな。この秋姉妹は二人用なんだ -- 名無しさん (2010-08-11 17:41:12)
  • ↑中古でいいから譲ってくれないか? -- 名無しさん (2010-08-18 02:46:43)
  • 秋姉妹と秋枝姉妹って何? -- 名無しさん (2010-08-18 03:29:35)
  • ↑おまえの目は節穴か?一番上みろよ -- 名無しさん (2010-08-19 01:23:30)
  • 顔をズタズタにされた男って北斗のジャギ様の事じゃなかったっけ?
    -- 名無しさん (2012-10-18 15:48:38)
  • 消防だとかキモい妄想がどうとか騒いでる奴らには
    北斗の拳ネタが分からなかったみたいだな -- 名無しさん (2017-02-23 01:57:14)
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最終更新:2017年02月23日 01:57