三途の川原に説教が響く。
小うるさくて、おせっかいな上にすぐ殴る。
そんなあたいの上司、四季映姫・ヤマザナドゥの声だ。

映姫「小町! 一体いつになったらサボり癖が治るのですか! 今日はまだ二人しか運んでいないでしょう!」
小町「うるさいな~、いいじゃないですか、そのほうがそっちも仕事が減って楽でしょう?」

もう日常のようになったこのやり取り。私の上司であるこの閻魔は、どうにも真面目すぎる。
そもそも私は自分のペースで仕事ができるから渡し守をしているというのに、
何でこうこの人…いや、元地蔵は五月蝿いんだろうか。

映姫「楽とかそういう問題ではありません! いいですか? 今地獄の財政は逼迫しているのです。
   そもそも渡されるのを待っている魂を放置するなどと…」
小町「はいはい、わかりましたわかりました~」

映姫「…本当にわかったのでしょうね?」
小町「ええそりゃもう、たっぷりと」
映姫「まったく、あなたのせいで私が上から怒られるのですよ。少しは私の身にもなって欲しいものです」
小町「は~いはいっと」
映姫「…」

映姫様は憮然としながらも仕事に戻っていった…さて、もう一眠りとしようか。
大体、生粋の死神の私が、何で石の塊だった奴の下で働かなきゃいけないんだ。
たかが雇われ中間管理職の癖に。下に威張り散らしていればいいんだから気楽なもんだ。
たまたま募集があって合格したからって、大きい顔をしないで欲しい。

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小町「あ~、よく寝た…」

あれからどのくらい経っただろうか、そろそろ終業時間のはずだけど。
今がちょうど終業時間、もう過ぎた、まだ過ぎてない…
うん、三つに二つだ、確率の高いほうをとろう。
さっさと帰るとしようか。




小町「さ~てと、適当に日誌でも書いて…うん…?」

地獄の建物を歩いていると、あの閻魔がどんよりした顔で歩いているのが見えた。
大方上司に怒られたか、今から怒られるかのどちらかなんだろう。
少しは怒られる側の身になってもらおう、うん。

それにしても、あの閻魔が怒られるときどんな顔をするのか、見ものだ。
ボロボロ泣いちゃったりしてたらいいのだけれど。そしたら今度うるさく言ってきたとき、
それをネタに散々からかってやれるというものだ。
そうと決まれば、後をつけるしかない。あたいは、映姫の後についていった…

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小町「あっれ~、おかしいな…見失ったか…」

地獄の建物はどうにも複雑だ。しかも管轄外のところには、死神の私も
立ち入ることは少ない。要するに、迷ってしまった。

小町「困ったな、これじゃああいつのほえ面が…」

「…はい、私の…不行き届きで…」

小町「お…?」

独り言を言っていると、どこからとも無く話し声が聞こえてきた。
それはあのえらそうな閻魔の声。どうやら今怒られている最中らしい。
早速その声のする方向に行くと、そこには両開きの扉があった。
話し声はそこからする…何かが煮立つような音もするが、まあそれはいい。
さっそく扉に顔をつけ、薄く開いて中を見てみる…

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上司「なんていうかね~、困るんだよ。もっとてきぱき処理してくれないとさ~」
映姫「は、はい…私も最大限の努力はしているのですが…」
上司「まあねえ、がんばるのはいいよ? でも結果が伴わないとね」
映姫「申し訳ありません…全ては私の責任です…」
上司「で、責任を取るためにどうするの?」
映姫「はい、小町にも良く言い聞かせて…」
上司「小町ね…君が望むなら、もうちょっとましな死神と入れ替えてもいいんだよ?」
映姫「いえ、それは不要です」
上司「ん~。君がそういうならいいんだけどね、替えたほうがいいと思うよ、正直足引っ張られてるでしょ?」
映姫「それは…まあ、確かにそうかもしれません…ですが彼女もいずれわかってくれると思います」
上司「はあ…どうしてそこまであの死神を庇うのかね?」
映姫「…部下一人庇ってやれないで、どうして見知らぬ人が説教に耳を傾けるでしょう?」
上司「それはそうかもしれないがね…」
映姫「それに部下は道具ではありません。長く付き合い、信頼を築く物です。入れ替えるなどと言わないでください」
上司「あ~、部下思いだね。じゃあまあ、それでいいけど。いつものようにね?」
映姫「はい…」


…そういうと映姫は、近くにあった壷から、液体を柄杓で掬った。
その手は震え、顔色も青ざめていく。

小町「あれは…なんだ?」

水ではないようだ。透き通っていない…酒や料理の類にも見えないし…
そう考えていると、映姫はその中身を口に流し込んだ。

映姫「ごっ…! お、あがあああ!!」
小町「え…!?」

その途端、映姫の絶叫が響き、ジュウジュウと言う音…まるで焼肉のような音がした。
いや、音だけじゃない。前に料理中、うっかり髪を焦がしたときの臭い…
それを何倍にもきつくした様な臭いが鼻をつく。

映姫「えあっ…ああぁぁぁ…」
上司「駄目駄目、ちゃんと全部飲まないと」
映姫「いっ…う…おごおぉぉ…」

何だ、何を飲んでいるんだ? 映姫はボロボロと涙を流しながら、その柄杓の中身を口に注いでいく。
口からこぼれたその液体は、端正な顔を黒く焦がし、二目と見れぬような爛れた顔にしていく。
あたいは、その光景から、目を離すことができなかった。
やがて永遠とも思える時間をかけてその液体を飲み干し…
すぐに映姫は小刀…こちらからは体の影で見えなかったそれを握り締め…自らの腹を裂いた。
ビチャビチャと真っ赤な血が床を汚し…あろうことか、その裂いた腹に自ら手を突っ込んだ。

映姫「ヒュー・・・ヒュー…」

やがて何かの塊を握り締めた手と、臓物が出てきて…カランという音を立て、塊を床に放る。
そこでようやくあたいは、飲んでいたのが溶けた金属であると気がついた。
きっと口から胃にかけて、完全に焼き尽くされて居るんだろう…映姫は声も無く床に倒れた。

上司「…じゃ、小町のことは不問にしておくから。明日からがんばってね」


それを聞いて、あたいは居てもたっても居られず…その場を逃げ出した。
映姫はサボり魔のあたいのために、あんな拷問に耐えていたというのに…
それに対して自分は何だ? 適当に話を聞き流して、気楽なもんだと蔑んでいた。
あたいがあんな拷問をされたら、きっと部下なんて庇っていられない。
それどころか、閻魔の職すら投げ出すかもしれない。
それをあの閻魔は、自分の身を張って庇ってくれた。あたいは、あたいは…あたいが出来ることは、何だ…?

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映姫「すごいですね小町、今日も成績はトップですよ」
小町「は、はは…それは、よかった…」
映姫「ええ…ですが無理をしていませんか? 顔色も悪いようですし…髪も痛んでいます」
小町「な~に、大丈夫ですって。じゃあもう一働きしてきますから…」
映姫「小町…少しは休んでもいいのよ?」
小町「いやいや、映姫様に比べれば、私の仕事なんて楽なものですよ。それじゃ…」
映姫「最近家に帰っている姿を見ていないとも…あ、小町! 本当に大丈夫なのでしょうね!?」

次の日、映姫様は何事も無かったの用に仕事をしていた。
けどあたいは知っている。あたいのために、彼女が酷い目にあったことを。

あたいに出来ること…それは仕事で示すしかない。
休んでる暇なんてあるものか。たとえ体が壊れようと働いてやる。
…あたいが壊れて動けなくなったら、そのとき休みますから…



映姫「…やれやれ、急に仕事熱心になってしまって…」
同僚「お~い四季~、もう銅飲みの時間だぞ~」
映姫「あ、もうそんな時間?」
同僚「ああ、しかしあれだな~、仕事で人を裁いているのに、おまけに溶けた銅まで飲むって酷い話だな?
   おまけに再利用とか言って、自分で腹から引きずり出せとか」
映姫「仕方ないわよ。それも閻魔の仕事のうちなのだから」
同僚「そうだがな~…ところでお前のところの死神、急に成績上がったよな? 何か秘密でもあるのか?」
映姫「さあ…? 特に変わったことはしていないのだけれど」
同僚「そうか…しかし大変だな、裁いた量が多いと、その分飲む量も増えるんだから」
映姫「まあ、ね…けど部下もがんばっているのだから、それに応えないと。おかげで飲んでる間のお叱りは無くなったし」




映姫様…もう二度と、あんな苦しい思いはさせませんから…







  • 空と燐じゃないのか(困惑) -- 名無しさん (2014-06-17 04:47:26)
  • ↑お前はさとりか!?(何時読まれたし!?) -- 名無しさん (2014-07-01 17:38:02)
  • ↑↑なんださとりか


    にしても深刻なアンジャッシュだな -- 名無しさん (2015-01-18 00:11:17)
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