マヨヒガ、猫たちの集まる里にして廃屋だけのその里…私はそこを拠点の一つにしていた。

橙「藍様、ご飯が炊けましたよ~」
藍「ああ、ありがとう、橙。じゃあよそって持ってきてくれ」

私は妖怪猫の橙、私の主人である。八雲藍様と一緒に食事の支度をしていた。。
たまたま藍様が仕事のため近くを通り…せっかくなので、私と一緒に食事をしようと言うことになったのだ。

橙「藍様、おかずはなんですか?」
藍「ふふ、聞いて喜べ、なんと秋刀魚だ」
橙「わあ! 海のお魚なんて久しぶりです!」

焼いた秋刀魚に、油揚げの味噌汁、白いご飯。
質素ながらとても美味しい夕食だ。
それを食べながら、私は藍様に前々から考えていたことを聞いてみた。

橙「藍様…いつになったら、私は八雲を名乗れるんですか?」
藍「ん…まあその内にな。もっと橙が成長したら、私から紫様に進言してみよう」
橙「もっとって、どのくらいですか?」
藍「それは…まあ、そうだな……」

藍様は言いよどむ。正直なところ、私の能力はさまざまな面でまだ未熟である。
まして幻想郷の管理者たる、八雲の姓を名乗らせるわけには行かないのだろうけど…
それでも私は、八雲を名乗れれば何かが変わる気がした。たとえ名乗れなくとも、
何が足りないか位は知れると思った。何より、八雲を名乗れれば、私も紫様の家に住める。
今回みたいに会えるのを待つのではなく、藍様と一緒に生活できるんだ。
いつ会えるかわからず、寂しい思いをすることはもう無くなる。

藍「いいか橙、八雲を名乗るには試験を受ける必要があるんだ。私の見立てでは、橙が挑戦しても…」
橙「じゃあ受けます! やらせてください!」
藍「いや、しかしだな…」
橙「お願いします!」
藍「紫様がうんと言わないと…」
橙「じゃあ、受けたいって伝えてください!」
藍「…わかった、伝えてみるが…あくまで紫様次第だからな?」
橙「はい!」

その日は、その話題はそこまで…後は、仕事の話や、私の野望の話など、
他愛のない話をして楽しんだ。

そして、数日がたったある日…

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今日も私は、マヨヒガで猫たちを手なずけようとしていた。
けどそこにいつもと違う影が一人、立っている。

紫「こんにちは、橙?」
橙「紫様!?」

道士服に身を包み、日傘をもった妖怪…私の主人の主人、
幻想郷の管理者である、八雲紫様がそこに居た。
紫様の方から出向くなんて、滅多にないことなんだけど…

紫「ふふ、どうしたの驚いて? あなたが私に用があるんでしょ?」
橙「よ、用ですか…?」
紫「そう、あなた、私の試験を受けたいんでしょ?」
橙「え、は、はい!」

どうやら藍様はきちんと伝えてくれたらしい。
八雲の姓を得るための試験…一体どんなものなんだろう?

紫「よろしい。じゃあ試験の内容を伝えるわ。よく聞きなさい?」
橙「はい…!」
紫「今から人里に行き、ある荷物を受け取ること。そしてそれをここまで持って帰りなさい」
橙「…」
紫「地図はこれね。それと荷物の中身は決して見ないこと。他人にも見られないこと。妨害には自力で対処すること。以上よ」
橙「…あれ、それだけですか?」
紫「そう、それだけ。できるかしら?」
橙「は、はい、それじゃあいってきます!」
紫「はいはい、いってらっしゃい」

正直なところ、もっと難しいものを想像していたけど、
何のことはない、ただのお使いだ。
もっとも、妨害と言っていたし、何かあるのだろうけど…
とにかく私はマヨヒガを飛び出し、人里へと向かった。

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「ああ、例のあれね。ほら、こいつだ」

荷物はあっさり手に入った。途中妖精に邪魔はされたけど、
あんなもの妨害のうちにも入らない。
荷物は風呂敷に包まれて、重箱ほどの大きさでズシリと重く、何が入っているのかはわからない…
中身は気になるけれど、絶対に見るなと言われている。
私はそれを背負って、マヨヒガへの道を急いで戻り始め…
そして森の中で、妨害と遭遇した。

魔理沙「おお、誰かと思えば紫のとこの猫じゃないか? そんなに急いでどこへ行く?」
橙「あ、白黒! 今日は大事な用事があるの。構ってる暇はないのよね」
魔理沙「何、大事な用事? ははーん、その風呂敷だな?」
橙「ど、どうでもいいでしょそんなこと!」
魔理沙「慌てるってことは図星か。一体中身は何だ?」
橙「知らないよ。紫様から見るなって言われてるんだもん」
魔理沙「何、紫が? なるほど、それはますます中身が気になるな…なあ橙、ちょっとだけ開けてみようぜ?」
橙「だ、駄目だよ、絶対!」
魔理沙「そうかそうか、でも私は見たいんだ。と言うわけで、ころしてでもうばいとる、ぜ? 弾幕勝負だ!」
橙「くっ…!」

弾幕勝負では、私より白黒のほうが強い。紫様とも渡り合える相手だ、私じゃ不利すぎる。
だったら、私が取るべき道は一つしかない。

橙「そんなの、お断りよ!」

弾幕勝負は拒否するのも自由だ。だったら、何も応じる必要はない。
全力で地を駆け、白黒から逃げる。

魔理沙「お、そうくるか。じゃあこっちは弾幕勝負じゃなく、本気でいくぜ?」

白黒の声がして、背後が強烈に光った。
危険を感じ、とっさに横へ飛ぶが…真っ白い炎が私のすぐそばを通り、
その熱が私の半身を焼いた。

橙「うあああああ!? 熱い!! 熱いよおお!!」

受身も取れず、ゴロゴロと地面を転がって。
熱さとも痛みともつかない感覚が襲い、芋虫のように体を丸めるしかできない。

魔理沙「おーっと、少し火力が強すぎたか? 弾幕以外で攻撃するのは久々だから加減がわからんな…
    ま、荷物は焼けてないみたいだしよしとするか」

白黒はこともなげに、こっちに近寄ってくる。
このままじゃ、荷物を取られてしまう。逃げないと。少しでも早く…
私はまだ動く片手で、荷物を持ち…

魔理沙「ん、まだ動けるのか。いい加減あきらめろって」

白黒の光弾が、その手を打ち抜き。私の手は意思と無関係にダラリと下がる。

橙「あ”あ”あ”あ”!!」
魔理沙「えーい、やかましい。後で永遠亭に連れてってやるからそう騒ぐな」

傷が痛い、焼けて、血が出て。
でもそれより、荷物を取られるのが悔しくて、
折角紫様に進言してくれた藍様の期待に応えれないのが申し訳なくて、私は泣いた。
けど泣いたからって、白黒は考えを改めたりしない。誰も助けてくれやしない。

だから、私は。痛む体に鞭を打って。足の力で跳ねて。

白黒の喉に牙を立てた。

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橙「フウッ…フウ…」

あまりにもあっけなく、けりはついた。
油断していたのだろうか。人間である白黒の体はあまりに脆かった。
私は荷物を奪い返し、口に咥えて、マヨヒガへの道を進んでいた。
その重さで、牙に痛みが走るけど、もうすぐ着く。
体の傷も、そのうち癒えるだろう。そして私は、八雲橙を名乗って…

橙「う…?」

マヨヒガが目の前にあると言うのに、空から三人の人影が降り立った。
一人は紅白、幻想郷で知らないものは居ない、博麗霊夢。
二人目は、前に紫様に呼び出されたときに見たことがある。紅魔館の魔女、パチュリー・ノーレッジ。
三人目は、人形を従えた魔法使い、アリス・マーガトロイド。

霊夢「こいつ?」
パチュリー「ええ、間違いない」
アリス「そう、だったら早くしましょう」

三人は短く言葉を発すると、私に弾幕を放ってきた。
避けることもできず、私は吹き飛ばされ、地面を転がる。

橙「なっ、なん、で…」
霊夢「何で? それはあんたが一番よく知ってるんじゃない?」
アリス「何も殺すことはなかったわよね」
パチュリー「仇、取らせてもらうわ」

ああ、そうか。こいつらは白黒の仇を討ちに来たんだ。
理不尽だ、酷く理不尽だ。私が先にやられたのに。
こんなにボロボロになってるのに、それでも私が悪いのか。

橙「…しは…」
霊夢「何、辞世の句でも読もうっての?」
橙「私は悪くない!」
アリス「へえ?」
橙「先に手を出したのはあっちなのよ!? この怪我も全部あいつのせい!」
パチュリー「だから?」
橙「だから? って…」
アリス「ぶっちゃけ、私はあんたに何の感情も抱いていないの。いや訂正、抱いていなかったわ。魔理沙を殺されるまで」
霊夢「先に手を出したのがどっちかなんてどうでもいいわ。あんたは私の友達を殺した、そして人間を殺した妖怪、それだけで充分」
パチュリー「無駄話はそのくらいにしましょう。…消えなさい」

駄目だ、やっぱり話してわかるような相手じゃない。
しかも多勢に無勢、敵うわけがない。
だったら、一刻でも早く、この荷物を届けるしかない。
そうすれば紫様がきっと間に入ってくれる。
ずっと時間をかければ、いつかほとぼりだって冷める。
だから今はひたすら逃げるんだ。何のことはない、後ほんの数百mだ。

その距離を、荷物を加えて必死に走る。護符が、人形が、魔法が、私を転ばし、刺し、傷つける。
派手に吹き飛ばされて、荷物の重さで牙が折れて。もう体は血や泥で汚れていない部分のほうが少ない。
もう体の感覚も殆どなくなったけど、それでも私はひたすら、紫様の所へ走った。

あと数十m、日傘を差した紫様…それに藍様の姿も見える。あと少し、あと数m、あと一歩…

橙「ひっ…が…ぁ…紫…さま…」
紫「は~い、お疲れ橙。ちゃんと持って帰れたみたいね?」
橙「は…い…藍様…ゲホッ…やりました…これで…私も…」
紫「ではでは、早速結果発表~。今回の試験結果は…残念! ふごうか~く♪」
橙「え…?」

何で。私はちゃんと荷物を届けたのに。中身は見てないし見られてない。
そのためにがんばった。白黒を殺してまで…なのにどうして。

紫「どうして、って顔ね。決まってるじゃない。後ろの三人。すっご~く、橙を憎んでるわよ? 特に霊夢」
藍「八雲は幻想郷の管理者だ。同じく管理者である博麗とは上手くやらないといけない」
紫「つまり~、ケチのついた式なんかに、八雲を名乗らせるわけには行かないってわけ」

頭が真っ白になった。もう、何も思い浮かばない。

霊夢「お別れはすんだの?」
紫「はいはい、煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」

やめて、殺されちゃう。謝るから、一生八雲は名乗れなくていいから。
もっともっとがんばるから。白黒のお墓も建てて、きちんと手入れするから。

藍「いや、まってくれ」
橙「藍様…」

ずい、と藍様が私と霊夢の間に立った。やっぱり藍様は優しい。
藍様はこっちを向いて、私の首を掴んで…?

橙「あ…あ…」
藍「私の式の不始末だ、私が責任を持って処分する」

藍様の目は、これまでに見たことが無いほど冷たかった。
ギリギリと首にかかる力は強まり、息ができなくなる。
でも、いいや。藍様にこんな目で見られるくらいなら、もう死のう。

そう思ったのを最後に、私の首から鈍い音がして、急に意識が遠のいていく。

せめて 最後に 藍様の笑顔を  見たかっ




  • ゆかりんもこういうことするからババアっていわれるんだよなあ・・・ -- J (2010-02-05 07:36:31)
  • このとき藍は涙の一滴でも流したのだろうか?
    それにしてもほんとにくそBBAだな! -- 名無しさん (2011-01-14 01:40:11)
  • いや、どう考えても魔女衆が悪いだろ・・・ -- 名無しさん (2011-04-10 11:24:55)
  • 藍が橙をウザく思っていて、要らないと思ってるのは原作どうりなので2次しか知らない奴はどう思うんだろうか? -- 名無しさん (2011-04-15 22:31:42)
  • ↑あれ公式でそうだったっけ? -- 名無しさん (2011-05-09 12:43:50)
  • 妖霊夢ルートEX -- 名無しさん (2011-05-12 17:57:04)
  • 捉え方の違いだろ -- 名無しさん (2011-05-13 08:07:31)
  • すまん、どういうのだか教えてくれ -- 名無しさん (2011-05-24 12:47:19)
  • うろ覚えだが、「あいつは落ち着きがないからねぇ」とかだったような -- 名無しさん (2011-05-24 17:40:38)
  • 橙に負けろだの
    橙は強くなっただの
    橙が負けたのは病み上がりだからだとか
    橙の仇を取るだのとかそんな事をいってるよ -- 名無しさん (2011-07-10 13:01:10)
  • 公式で、「藍は橙を溺愛している」ってなかったっけ? -- 名無しさん (2011-07-10 13:46:32)
  • 藍→橙を溺愛。そのことを紫に咎められることがある


    橙→藍の言うことを聞かない時もある。二次では「主人思いな素直でいい子」 -- 名無しさん (2011-07-10 15:26:07)
  • 「あいつは落ち着きがないからねぇ」
    と言いつつ2828していたかも -- 名無しさん (2012-06-03 20:40:56)
  • 「あいつは落ち着きがないからねぇ」=ウザイと思っている


    って解釈意味不明だな -- 名無しさん (2013-12-24 17:40:24)
  • みんなすごいな…俺全然わかんね -- Y.T. (2014-06-14 12:16:14)
  • 自分のエゴのために、ほかは知らないというクズ猫橙、殺処分しろ
    -- うざい橙 (2014-06-24 21:29:30)
  • 魔理沙の時はコレ一緒に紫様に届けに言って何が入ってるか見せてもらえるようにお願いしたらどうですか?って言えばワンチャンあった -- 名無しさん (2014-07-01 17:33:12)
  • ↑魔理沙「えー?面倒くせーよ、いいからよこせ!」で終わりそう・・・。 -- 名無しさん (2014-08-24 02:33:16)
  • ↑↑↑オ前要ラヌゾブーメランクズ焼キ殺サレロ -- うざい魏延 (2014-09-01 15:36:38)
  • ↑読みづらい -- 名無しさん (2016-02-02 19:29:28)
  • ↑↑↑↑↑話が逸れるかも知らんが、俺は猫だの犬だのを人間のために殺処分する人間を殺したく思っている。そして最後に自分も死にたいと思っている。
    それと二次創作しか知らんそうな奴等はキャラ叩きすんなバカ -- キング クズ (2016-06-21 01:53:34)
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最終更新:2016年06月21日 01:53