※ 暴力表現含む



















 パァン!

 と、辺りに小気味の良い音が響いた。
 俺がこの調子付いた薬売りに、一発ビンタを張ってやったからだ。

「…………え?」

 何が何だか分からない、といった表情で呆然とする薬売り。
 彼女の名前は『鈴仙・優曇華院・イナバ』。月の兎という触れ込みで、人里でも多少名前は売れている。
 その肌は確かに兎ながらの白さだが、彼女が手で押さえている自身の左頬は、
 すでに先程の痛みで鈍い赤色へと変わり始めていた。

「ねぇ、なんで叩かれたか分かる?」

 そう言葉を投げかけると、鈴仙は力なくふるふると首を振った。
 それほど親しくも無い男に脈絡も無く叩かれた彼女の心中では、
 様々な負の感情が渦巻いていることだろう。

「君さ、ウザいんだよ」
「……ウザ……い?」
「よく薬を売りに来るけどさ。いつも言ってるだろ、いらないって」

 この薬売りときたら、酷い時は毎日家まで押しかけてくるので、面倒な事この上無い。

「……で、でも、お薬が無いと、病気の時に……」
「薬くらい人里でも調達できるから。それも何回も言ったよね?」

 身に覚えはあるらしく、気まずそうにする鈴仙。
 それでも1回や2回なら俺もここまでしない。分かっていて何度も来るからタチが悪いのだ。

「ご、ごめんなさい……」
「謝られてもねぇ。つーか、そのでかい耳は飾り? 使わないなら取ってやろうか」
「ひ……っ!」

 俺が彼女の長い耳に手を伸ばすと、彼女は脅えた表情で俺から距離をとった。

「おいおい、人の親切を無下にするもんじゃないよ?」
「け……結構ですっ……」

 鈴仙の体が震えているのが目に見えて分かる。兎は臆病な生物であり、精神面は相当に脆い。
 俺に暴力を振るわれた上、自らの落ち度をこうまで攻められたのでは、
 兎である彼女の心は俺に対する恐怖心で満ち溢れていることだろう。

「じゃあ、なんで俺が薬を持ってるって知ってて、今日も俺のトコに来ちゃったの?」
「そ、それは……」

 びくびくしながら懸命に言葉を絞り出そうとする彼女の姿は、なかなかサマになっている。
 小動物系と言われる兎の性格を忠実に体で表現していて、俺の中の良くないモノが目覚めそうだ。

「それは……この薬が、私の師匠の作ったものだから、です……」
「……それは、つまり……君の師匠の薬は、俺が普段使ってる薬より出来が良いってこと?」
「そ、そうなります、ね……?」

 またパンッ!と音が響いた。左頬は彼女が押さえていたので、今度は右頬を叩いてやった。
 ぺたんと尻餅をついた鈴仙の表情が、みるみると泣き出しそうなものに変わっていく。

「言ったらこうなるって、分かってただろ?」
「……で、でも……師匠は、月の賢者で……」
「そういうの、傲慢って言うんだよ。月の賢者サマがどれだけ凄いのか知らないけど、
 俺らのことバカにし過ぎじゃね? 地上の人間なんて、とか言って見下してるんだろ?」
「そ、そんなことはありません!」

 口ではどうとでも言える。実際俺だって、自分より数段劣ったヤツが目の前にいたら、
 見下したり、手を差し伸べて救世主気分になったりするだろう。それを隠すのがより気に食わない。

「そうやって体裁を取り繕うのが月のやり方なんだ、へぇ~」
「ち、違います……ほ、本当に」
「まぁホントに君らの薬の出来が良いなら、バカ売れしてるんだろうね。実際、売れてんの?」
「え……そ、それは……」

 分かっていたことだが、売れている訳が無い。月から来たというだけでも眉唾モノなのに、
 そんな人間や兎が作った薬が、人里に受け入れられるとでも思っていたのだろうか。

「ま、そんなことだろうと思ったけど? 月の方々の頭はあまりよろしくないのかね」
「……でも、買ってくれる人もいます」

 当たり前だ。全く売れない状態が続いてたら、どんな阿呆でも流石に止めるだろうし。

「……それは本当に、薬目当てなのかなぁ」
「え……?」
「女よりはむしろ男に売れてるんだろ、薬」
「……ど、どうして、分かるんですか……?」

 未だ尻餅をついたままの鈴仙の姿を、上から下までじっと舐め回すように見つめてみる。
 願ってもいないのに、すらりと伸びた脚の隙間から縞模様の下着が拝見できた。

「君が、里の男にとっては魅力的だから」
「…………?」
「端正な顔立ち、綺麗な生足、極め付けはでかい乳。その格好も、わざとやってるんだろ?」
「!? な、な……!」

 途端に真っ赤になる鈴仙。どうやら無自覚だったらしい。
 それともこれで天然を装っているのだろうか。だとしたら相当な策士だ。

「明らかに誘うのが目的だろ、その風貌は。薬じゃなくて別のモノを売ってるんじゃないのか?」
「ひ、ひどい……私、そんなつもりじゃない!」
「君の意思はどうあれ、男達はそう見てる。薬なんて、君の気を惹く口実だ」

 思いも寄らない事実を突きつけられた鈴仙は、真っ赤な顔を蒼白に変色させていった。
 俺としても、月の兎を貶めるのがこうまで容易いというのは新しい発見だったが。

「だから、とっとと諦めて別の商売でもすれば? 売女になれば、君ならボロ儲けできるだろう」
「………………」
「それと薬を売り続けるなら、次からは俺の家には来ないで欲しいね。信用できないし。
 もっとも女を売るにしても、俺は君に興味が無いからやっぱり来て欲しくないが」

 これは見栄だ。こいつらの薬を飲まなければ死ぬというなら、俺は喜んでその薬を買うだろう。
 それに鈴仙という女を見ても、腹立たしいことに割と可愛いので、男衆の気持ちが分からんでもない。
 ただこれくらい言わないと、こいつは俺に叩かれると知っていても、またやって来るような気がしたのだ。

「もう、絶対来るなよ。いいか、絶対だぞ。来たら今度こそ役立たずな耳を引っこ抜くからな」
「……分かりました。今まで、ご迷惑をおかけしました」
「ああ迷惑だ、帰れ帰れ」








 ――翌日。

 あれだけ言ったにもかかわらず、鈴仙はあの出で立ちで里に下りてきた。
 俺の言ったことを意識するのが癪に触るのか、それともあの服しか持ってないのか。

 何にせよ、あの調子ではそうそう売れるまい。
 しかし鈴仙は報われなくても、ああやって無駄な努力を続けていくのだろう。

 ……だから、夕刻になっていよいよ鈴仙が俺の家に来た時も、左程驚きはしなかった。

「……こ、こん、ばんは……」
「約束通り、引っこ抜くぞ」
「っ……!」

 俺は勢いよく鈴仙の顔に手を伸ばすと、思いっきり左の頬をつねってやった。
 別に変な慈悲をかけたわけじゃなく、ただ血が出たら後始末が面倒だと思っただけだ。

「い、いふぁい! いふぁいれふ!」
「薬は売れたんですかねぇ、月の兎サマ?」

 これでは満足に話せないだろうと手を放してやると、
 美しい白さを取り戻していた鈴仙の肌が、つねった箇所だけまた赤みを帯びていた。

「いたた……ひ、一つも売れなかったです……」
「だから言っただろ。そもそも薬は毎日買うものじゃない」
「で、でも今日はなぜか、いつも買ってくれてる人が買ってくれなくて……」
「それは君の気を惹こうとしてたけど、予算が尽きたか、諦めた男だ」

 単刀直入な俺の物言いに、鈴仙は「そんなぁ」と言うと、耳を垂れ下げて落ち込んでしまった。
 人の家で愚痴を言った挙句、本当の事を言われて勝手に落ち込むとは、まったく迷惑な兎だ。
 まあ現実問題としても、売り上げ無しで家に帰るのは、彼女としては避けたいところだろうが。

「ほら、これ買ってやるからさっさと帰れ。邪魔なんだよ」
「……え? あ、ありがとうございます……」
「月では邪魔だと言われたら礼を言うのか。本当に頭悪いな」

 昨日から、彼女の行動や発言には苛々させられる。もしかして、特別出来が悪い兎なのだろうか。
 出来が悪いあまり、月から逃げてきたとかだったら笑えるのだが。

「あ……でも昨日、私達のお薬は信用できないって……」
「ああ、耳は飾りじゃなかったのか。俺には不要だし、君にやるよ」

 今しがた買ったばかりの、痛み止めの塗り薬を鈴仙に投げつける。

「わっ! っと、っと……お、お邪魔しました……」

 薬を受け取り、そそくさと帰っていく鈴仙。俺が「出て行け」という雰囲気を醸していたからだろう。
 しかし厄介ごとが去ったというのに、あんな女でもいなくなると少し寂しいような気がする。

 それが理由なのかは分からないが、気が付けば俺は、
 赤くなった左頬を擦りながら歩く彼女を、その後姿が見えなくなるまで見つめていた。






  • 頑張れうどんげ -- 名無しさん (2009-10-09 07:53:58)
  • これ、俺×キャラものじゃね? -- 名無しさん (2009-10-09 08:28:47)
  • この話結構いいな。 -- 名無しさん (2009-10-09 09:06:10)
  • なんというツンデレ -- 名無しさん (2009-10-09 09:26:32)
  • とりあえず修正しておきました -- 名無しさん (2009-10-09 09:27:48)
  • この男にはツンデレの素質がある。 -- 名無しさん (2009-10-09 10:13:16)
  • 俺の家に来たらくすぐりの刑に処してやるぜ -- 名無しさん (2009-10-09 21:06:53)
  • 俺の家に来たら耳へにょへにょの刑に処してやるぜ -- 名無しさん (2009-10-09 22:41:34)
  • まあ、確かに人によっては数年間まったく使わない可能性もある薬を毎日毎日売りに来られたらいくら優曇華がかわいくても切れる -- 名無しさん (2009-10-09 22:48:39)
  • お前ら常備薬も知らんのか -- 名無しさん (2009-10-10 00:40:50)
  • その常備薬も毎回買うようなもんじゃないだろ -- 名無しさん (2009-10-10 01:09:21)
  • ニヤニヤしたw俺×キャラ最近全然無いからありがてぇw -- 名無しさん (2009-10-10 01:49:27)
  • いいぞ!もっとやれ! -- 名無しさん (2009-10-10 11:04:38)
  • 多分うどんげはまた来るな
    そして少しずつ二人とも離れられなくなるんだな
    とか思う俺超きめえ -- 名無しさん (2009-10-10 20:11:51)
  • 安心しろ、俺もきめえ -- 名無しさん (2009-10-10 21:45:55)
  • 俺も同じ事考えた・・・俺もきめえなぁコレ。 -- 名無しさん (2009-10-10 22:21:19)
  • 勿論俺もさ!優曇華〜!優曇華〜!!
    全裸で、(あ、間違えた)キモくて何が悪い!? -- 名無しさん (2009-10-11 00:04:09)
  • くそっ俺も考えちまった・・・俺きめえww -- 名無しさん (2009-10-11 11:46:34)
  • ずっと待ってるのに俺の家に来ないんだが -- 名無しさん (2009-10-11 16:03:21)
  • 貯蓄してたジキ○ン売ってうどんげ待ってんのに一向に現れない -- 名無しさん (2010-01-16 00:29:02)
  • 早くこねーかなー?
    ウサ耳モフモフしてぇ。 -- 外道 (2010-01-16 08:16:47)
  • ※ただしイケメンに限る -- 名無しさん (2010-01-16 10:10:05)
  • うどんげ「計画通り」 -- 名無しさん (2010-01-16 14:55:24)
  • ツンデレすぎるww -- 名無しさん (2010-03-22 05:44:42)
  • イケメン爆発しろ -- 名無しさん (2010-03-23 19:22:01)
  • ビンタしたのは俺(笑) -- 名無しさん (2010-03-24 16:28:43)
  • 俺の家に来るな。 -- 名無しさん (2010-03-24 20:08:55)
  • くそっ!俺にもっと金があれば! -- 名無しさん (2010-03-24 21:01:59)
  • 俺はビンタでは気がすまないZE -- 天内 (2010-03-24 21:59:42)
  • ↑俺の場合はね、尻餅ついた優曇華に飛び込んで、ミニスカートからはみ出た美しい太ももにビンタしたい。後、尻尾があったら付け根から揉んでみたい。
    (豆知識:尻尾の付け根は動物にとって快感のツボ) -- 外道 (2010-03-25 00:52:31)
  • ビンタより張り手だろjk -- 名無しさん (2010-03-25 17:21:51)
  • なにこれめっちゃ好きw
    可愛すぎてニヤニヤしちゃう -- 名無しさん (2010-10-27 03:06:43)
  • ※ブサメンの家には来ません -- 名無しさん (2010-10-27 07:41:17)
  • じゃあ俺は無理かw -- 名無しさん (2010-10-28 20:00:25)
  • ⇧www -- 名無し (2010-10-28 21:16:25)
  • きめえなお前ら…まぁ俺ほどでもないがなw -- 名無しさん (2010-10-31 10:27:13)
  • なるほど俺がブサメンだからずーっと待ってるのに来ないわけだw -- 名無し (2011-04-03 23:50:47)
  • 置き薬屋は月一ぐらいで来るのが普通だろ
    と思ったが嬲られるとわかっていながらも被虐願望が抑えきれず昨日も来たはずの俺の家についつい立ち寄ってしまううどんげちゃんかわいいよ -- 名無しさん (2011-04-10 09:45:30)
  • ツンデレの話だ -- 名無しさん (2011-04-29 06:01:05)
  • うどん「フフ・・・やっぱり人間ってばかですねww」 -- 変態という名の紳士 (2012-01-21 20:13:07)
  • ↑う…うわぁ…何もかも信じれなくなれる -- 名無しさん (2012-02-09 10:48:29)
  • ↑↑うどんげが怖い…… -- 名無しさん (2012-02-13 22:17:52)
  • うふふふふふふふふふ -- レックス (2012-11-07 11:52:34)
  • 優曇華たんに逆にセクハラしてやりたいよ。
    スカートからこぼれる白いふとともの付け根の部分から膝までをずっとすりすりしてやって、
    それから外側に手を回し、太ももの裏から横にかけてずっとすりすりしたい。 -- 名無しさん (2015-01-31 09:56:08)
  • 久しぶりに読んだがやはりいい。思わずニヤニヤする。 -- 名無しさん (2016-01-07 01:32:02)
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