「これが私達の新しい家です。暫くはここを拠点に生活しましょう」

火災から5日後、フランと美鈴が退院した。
それに伴い、病室で寝泊りしていたレミリアも新居に引っ越すことになった。
それは人里の外れの、小さな小屋。
勿論、紅魔館とは比べ物にならない程、質素で粗末な住居だ。
咲夜の能力でようやく5人が寝泊り出来るだけのスペースが確保されていた。

「そしてこれが・・・私達の全財産です」
咲夜が床板を一つ剥がすと、床下に壺が隠されていた。
中には結構な金が入っている。

「これは・・・?」
「魔理沙です。今まであいつから盗まれた物を、全て返して貰いました」
「盗まれて助かったなんて、皮肉ね」
「パチュリー様の本も返して貰いましたが・・・こちらはいかがなさいますか?」
「・・・売らないでおきましょう。パチェが起きたら、少しは喜んで貰えるかも」
「そうですね」

あの火災から、咲夜は本当に良く働いてくれた。
まず、知人を片っ端から訪ねて金策に走った。
この小屋だって、あちこちを散々探した結果見つけた、超格安物件だ。
更に咲夜自身は既に人里での仕事を見つけ、働いているのだとか。
ある厨房の仕事で、料理の腕を高く評価されたお陰で給料もそこそこ良いらしい。

火の中へ飛び込んで行かなくても、お前はこうやって役に立ってくれている。
レミリアにそう言ってくれたことが、咲夜にはとても嬉しかった。






「えーと、お名前を教えてください」
「レミリア=スカーレットよ。あなた、そんなことも知らないの?」
「・・・レミリアさんは仕事をお探しとのことですが、どのような仕事を?」
「そうね、給料が高くて、待遇が良いに越した事はないわ」
「では、あなたは何が出来ますか? 特技とかは?」
「幻想郷で1,2を争うパワーとスピード、それに強大な魔力と溢れ出すカリスマってとこかしら?」
「それでしたら、この宅配便の仕事などは・・・」
「ああ、駄目よ。私、昼間は働けないから。ごめんなさい」
「昼は駄目、ですか・・・でしたらこの運搬の仕事などは?」
「運搬? 夜の仕事なんでしょうね?」
「はい。夜中のうちに荷物を川の向こうへと・・・」
「あ、無理。私、流水は渡れないから」
「これも駄目ですか?」
「それと、雨も駄目だから。野外の仕事はちょっとね・・・」
「はぁ・・・屋内の仕事ですか」
「直射日光さえ当たらなければ、昼間でもいいんだけど」
「今まで接客の経験などはありますか?」
「無いわ」
「前歴の『紅魔館当主』と言うのは、どういったお仕事で・・・」
「お茶を飲んだり、神社に遊びに行ったりするの。素敵でしょ?」
「・・・・・・」
「ちょっと、黙らないでよ。どんな仕事があるの?」
「今、探してますよ! あ、この仕事なんかは・・・」
「えーと、『農家のお手伝い、休憩付き』?」
「はい。夜から早朝のお仕事ですし、ハウス栽培ですから雨も怖くありません」
「この際、しょうがないわね・・・これにするわ」
「分かりました。では今すぐ連絡を」
「ところで、何の農家?」
「ニンニクです」
「絶対に無理ッッ!!!」
「これも駄目なんですか・・・」
「本当、碌な仕事がないわね」
「無茶言わないで下さい。ただでさえ、最近は就職難でして・・・」
「いいから、早く次の仕事を出しなさいよ」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・まだなの?」
「ええ、ちょっと・・・お、あった!」
「本当? どんなの!?」
「調理の仕事ですよ」
「私、今まであまり料理は・・・」
「簡単ですよ。肉まんの上の方をちょっと捻るだけです」
「ふざけんな」
捨て台詞を吐いて、レミリアは幻想郷職業安定所を後にした。



「全く、どうして夜の王と言われた私がそんな単純労働しなきゃいけないのよ」
愚痴を溢しながら家路に着いた。

紅魔館を失ってから既に一週間。レミリアの職探しはかなり難航している。
いつまでも咲夜の給料に頼っては生きていけない。
そこで手っ取り早く金を稼げる仕事を探していたが、当然そんなものは滅多にない。
今日も何の収穫も無く一日が過ぎてしまった。

「どこか、貴族を募集しているところは無いかしらね・・・?」
きっと明日こそは、見付かるだろう。
とりあえず今日はもう、ご飯の時間だ。


「あれ? お嬢様もお帰りですか?」
「美鈴?」
家まであと数百メートルの所で、美鈴とバッタリ出くわした。

「今日もお仕事を探していたのですか?」
「まあね。だけど、碌な仕事がありゃしない」
「じっくり探せばいいんですよ。あまり変な仕事に就いてもいけないですし」
「ありがとう。ところで、あなたはリハビリか何か?」
「いえ、仕事の帰りです」
「仕事!? いつの間に始めたのよ?」
「はい。今朝見つけて、今日から早速始めたんです」
「でもあなた、まだ傷が・・・」
「いえ、これくらい何でもないですよ」

美鈴は笑って見せた。
だが退院後も暫くは安静にしておけと、永琳に言われている。
どう考えても彼女の傷は、まだまだ完治には程遠い。

「無理しないでよ。一体、どんな仕事なの?」
「はい。採掘現場のお仕事です」
「馬鹿! よりによってそんな肉体労働選ぶなんて!」
「でも力自慢の私にはピッタリだと思いますよ」
「確かにそうだけど、怪我が治ってからでいいじゃない。何も今やらなくても・・・」
「ですが、早くしないと他の人に取られちゃうかも知れませんし」
「美鈴・・・」
「それにお嬢様や咲夜さんが頑張っているのですから。私だっていつまでも寝ていられませんよ」
「・・・・・・・・・」

レミリアは自分の胸がキュウと痛くなるのを感じた。
気が付けば、また元の方向へ戻り始めていた。

「お嬢様、どこへ行くのですか?」
「ああ、ごめん。ちょっと私、やり残したことがあるから。咲夜が戻ったらそう伝えておいて!」




-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-




「おぉぉ・・・くぅぅぅ・・・ふぅぅん・・・やぁ!」
美鈴が半トンはある巨石を運び終えた。

「やっぱ凄いな。本当に助かるよ」
「ありがとうございます。監督」


今の生活が始まってからもうすぐ1ヶ月。今日も美鈴は必死に働いている。
美鈴だけではない。咲夜も、レミリアだってそうだ。
3人とも毎日クタクタになって帰ってくる。
フランも働きたいと言っているが、レミリアが反対した。
情緒不安定な彼女には仕事は無理だと判断したからだ。
一人だけ何も出来ないでいる事を気にしているようだったが、それは仕方が無い。
それでも働き手が3人もいるので、貯金出来るくらいに生活の余裕はありそうだ。
勿論、紅魔館再建までの道程は遠いが。

パチュリーは・・・いまだに眠ったままだった。
毎日誰かが永遠亭まで様子を見に行ってるが、予想以上に症状は重いらしい。
図書館を無くしてしまった精神的ショックが余りに大きすぎたのだとか。
彼女が目を覚まし5人での生活が始まった時、本当の意味での再スタートになる。
誰もがそう考えていた。


「ふぅ。流石に素手だと手が痛いなぁ。軍手とか付けようかな?」
「あややややや、美鈴さーん」
「・・・また来たか」
職場にまでやってくるとは、実に無遠慮な鴉天狗だ。
美鈴はとても嫌そうな顔をした。

「どうも! 清く正しい射命丸です!」
「・・・何の用?」
「いやいや、分かっている癖に! あなた達の記事、とっても反響があるんですよ」
「それは良かったですね・・・」
「はい。おかげ様で!」

「・・・で、見ての通り私は今、仕事中なんだけど」
「ええ。お仕事の邪魔はいたしません。少し質問に答えていただければ」
「それが邪魔だって言うのよ」

「単刀直入に言います! ズバリ、今の生活は苦しくないのですか!?」
「・・・別に?」
「そうですか? 生活の変化に戸惑っているのでは?」
「私は別に、気にしてないし」

「うーん、美鈴さんはそうかもしれませんね。でもレミリアさんはどうですか?」
「お嬢様が・・・何よ?」
「はい。何の不自由も無い豪邸暮らしから、急にあんな粗末な小屋に住むことになって・・・」
「あなたねぇ・・・!」
「ああ、怒らないで下さいよ。私はただ、真実が知りたいだけですから」
「何が真実よ?」

「それと、先日知ったのですが・・・レミリアさん、最近製パン工場で働いているそうですね?」
「それが何か?」
「ええ、あの『夜の王』とまで言われたレミリアさんが、今やブルーカラーの低所得労働者だなんて・・・」
「・・・・・・」
「しかもよりによって人間にこき使われているとは、ショックです」
「・・・・・・」
「ああ、本当に時の流れとは恐ろしいものです。祇園精舎の鐘の音、あさきゆめみしゑひもせす」
「あなた! いい加減にしなさ・・・」

「おーい、妖怪の姉ちゃーん」
「!!? あ、はい! 何ですか?」
「ちょっとここの岩盤、手刀で割ってくれねぇかな? 硬すぎて俺らには無理だわ」

「はい! 今すぐ手刀で粉砕しますね!

 ・・・もう来ないでよ」
ボソリと射命丸に呟いて、美鈴は去って行った。

勿論、これで本当に来なくなるような射命丸ではない。それどころか、逆にこう考えていた。

―もう来るなって? 来ない訳が無いだろう。
 新参者の癖に我が物顔で踏ん反り返っていた、あのレミリア=スカーレットが没落したのだ。
 こんなに愉快なことは無い。
 私が記事にして楽しい。天狗のみんなも、私の書いた記事を読んで楽しい。
 これに一体、何の問題がある?―






「レミリア・・・?」
「久しぶりね、霊夢」
製パン工場の仕事は夜から。ある日の昼、レミリアは神社にやって来た。
2人が出会うのは、あの火災以来だ。

「まあ、とにかくいらっしゃい。何か用?」
霊夢は平静を装いつつも、持っていた新聞を慌てて隠した。
チラリと『紅魔館』『肉まん』の文字が見えた。

「それで・・・最近、どうなの?」
「ボチボチ・・・ね」
「でも、その・・・色々と大変なんでしょ?」

(なるほど、新聞の中の私はよっぽど困窮しているらしい)
レミリアはすぐにそれが分かった。

「別に何てこと無いわよ。咲夜や美鈴が頑張ってくれているから」
「あなたも・・・働いてるんでしょ?」
「まあね。紅魔館再建の為の小さな努力って奴よ」
「紅魔館再建? お金とかは、大丈夫なの?」
「ああ、心配してくれるのは有難いけどね、世間が思っているより私は貧乏じゃないのよ」
「なんだ、心配して損した」
「少なくとも、まだあなたよりはお金持ちよ」
「何よ、それ!?」

そして二人は声を上げて笑った。
友人との何気ないやりとり、妙に懐かしい感じがしていい気晴らしになった。
しかし、今日ここに来たのはその為ではない。

「だけど、ちょっとあなた痩せたよね? 少し顔色も悪いし」
「・・・ああ。今日はそのことについて、八雲紫に用があるのよ」
「紫に・・・?」
「うん。霊夢、あなた八雲紫の居場所知ってる?」
「ごめんなさい。あいつ、本当に神出鬼没だから。でも、どうして?」
「実はね・・・」


「私をお呼びですか?」
「・・・!?」
突然、何も無い空間に亀裂が生じた。
そして亀裂は左右に開き、中からロングヘアーの女性が現れた。

「お久しぶりです。霊夢、それと吸血鬼のお嬢様」
「八雲・・・紫」

「それで・・・この私に何の用でしょうか?」
「と、とぼけるな! お前の人間供給についてだ」
「はて? それがどうかしましたか?」
「約束の日を10日も過ぎているのに、全く音沙汰が無い」

なるほど、と霊夢は思った。
普通の料理も食べるとは言え、吸血鬼の主食は人間の血液。
こればかりは紫に頼らないと手に入らない。

「いえ、ちゃんと送っておきましたよ? 何かの間違いでは?」
「嘘を付くな。何度もみんなに確認したんだ」
「本当です。確かに、送りましたよ」
「だったら、誰に、何時、どこで引き渡したんだ? 言ってみろ」

「はい。約束の日に、紅魔館の厨房へスキマを使って・・・」

「何だって・・・!」
「確か、あそこってまだ・・・」

かつて紅魔館があった場所は、今は灼熱地獄と化している。
紫の話が本当なら、配給された人間達は瞬く間に燃え尽きて灰になったのだろう。
当然、血液の調達など出来る訳がない。

「ふざけるな! お前、わざとやって・・・」
「あら? 私はいつも通り、人間を配給したつもりですよ。何か文句でも?」
「貴様・・・殺してやる!」
「今まで殺す殺すと言われて、本当に殺された試しがありません」

「・・・・・・」
霊夢は何も言わなかった。
中立を求められる博麗の巫女として、彼女達に口出しは出来ない。
しかし、流石にレミリアへの同情の念を抱いたことは否めなかった。

「あ~ん、どうしたの? 霊夢、そんなに怖い顔して~」
「ちょっと! 紫!!」
そんな霊夢の心情を察したのか、紫はいきなり彼女に抱きついた。

「怒っちゃいやよ~。でも、怒った霊夢もス・テ・キ!」
「いい加減にしなさい! 離れなさいよ!」
霊夢の顰蹙を買ってもなお、痴れ者の振りを続ける紫。
しかしこの人を食ったような態度こそ、老獪なる大妖怪の真骨頂と言えよう。
現に、このやり取りを見たレミリアは腸煮えくり返る思いになっていた。


「ああ、それと・・・レミリア=スカーレット?」
「何よ?」
「と言うことで、私達の契約はまだ有効ですから」
「何が言いたい?」
「私は、キチンと人間を配給している。だからあなたも、私との約束を守るべきよ」
「約束だと・・・!?」
「ええ、もしも幻想郷の人間を襲ったりしたら・・・」

そう言って紫は霊夢に視線を送った。
やられた、とレミリアは思った。
博麗の巫女としての定めに、霊夢は逆らえない。
幻想郷の秩序を乱す者は、例え友人であろうと退治しなくてはならない。
紫の罠に嵌められ、完全に追い詰められていることを実感した。

「では私の正当性は十分に証明されたようなので、これで失礼します」
「あっ! こら、待て!!」
再び生じた空間のスキマに吸い込まれ、紫は消えてしまった。


「レミリア、あなた・・・」
「心配するな、私も無茶はしないさ。お前に迷惑は掛けないさ」
不安げな表情をした霊夢に、とりあえずはそう言ってやった。






「あの古狸め。全く、忌々しい・・・」
敗北感を胸一杯に詰めて、レミリアが帰っていく。

今の生活でも何とかやっていけそうだと思っていたが、血液が手に入らないとなると話は別だ。
早急に、新しい供給ラインを確保しなければ。
どうやって?
例えば、どこかの妖怪と交換する。
何と?
今、私達が安定して得ている物は、金だ。
金か? 金は駄目だ。
今の私と違い、多くの低級妖怪達はそんなもの、欲しがらない。
かと言って、大妖怪と呼ばれる者達が協力してくれるとも思えない。
連中にとって、私達の窮地は喜ばしい事なのだから。
では妖怪相手に略奪すればいいのかと言うと、そうも行かない。
無闇に敵を増やしてしまっては、紅魔館再建は更に遠くなる。
それなら、どうすればいい?
どうすれば平和的に血液が手に入る?

思考の袋小路に迷い込んだレミリアは、いつの間にか我が家に着いていた。
今、起きたことをみんなに説明しなければ・・・

「ただいま・・・あのさ・・・ん?」

小屋のドアを開けると、何やら様子がおかしい。
中には咲夜もフランもいない。
魂を抜かれたような美鈴が一人だけ、佇んでいた。

「お帰りなさいませ、お嬢様」
「う、うん。何か・・・あったの・・・?」
「あの、落ち着いて聞いてくださいね」
「・・・?」

「パチュリー様が、死にました」

「え・・・」

「つい先程、魔理沙から連絡がありました。妹様と咲夜さんが既に永遠亭へ向かっています」

「・・・・・・・・・嘘・・・」



嘘ではなかった。
美鈴と共に永遠亭に着くと、そこには確かにフランと咲夜と魔理沙がいた。
そして、パチュリーが死んでいた。

「お姉様! パチェが! パチェが死んじゃったよ!!」
「私より、こいつの方が先に死ぬなんて・・・考えても見なかったぜ」
フランも咲夜も、魔理沙も泣いていた。
レミリアの後ろからも、泣き声が聞こえ始めた。
振り返ると、美鈴まで泣き出している。

「今日の昼過ぎに・・・急に容態が悪くなったそうです・・・」
「永琳も、延命治療を施してくれたそうですが・・・私と妹様が着いた時にはもう・・・」

レミリアはパチュリーの手を握った。
それは冷たく、青白く、一片の生気すら感じさせない。

「こんなこと・・・こんなことって・・・ある?
 だってパチェは・・・あれから一度も目覚めてない。
 こんな訳の分からない、さよならなんて・・・
 友達だったのに、何も言えないまま・・・さよならなんて・・・
 ・・・・・・・・・
 こんなことがあるか!!!?」



翌日、パチュリーの葬儀が営まれた。
決して派手なものではなかったが、今のレミリア達に出来る精一杯のものだった。

「パチェ・・・あなたの本、全部帰ってきたわよ。向こうで読んでね」
魔理沙から盗まれた本は、全て彼女と一緒に埋められることになった。
売ればかなりの金になるだろうが・・・誰一人としてそれに反対する者はいなかった。

「本当は私が先に死んで、生きているお前に返すつもりだったんだが・・・」
魔理沙は墓の前で懺悔した。
彼女にとって、パチュリーは友人であり、同時に大いなる憧れであった。

それは、レミリアやフラン、咲夜や美鈴にとっても同じだ。

そしてパチュリーを入れた棺が、土に埋められていく。
パチュリーが、去っていく。
友人達が、それを見守っていた。

稀代の大魔法使いに、敬意を表して。

「さようなら、パチェ」



「あの・・・この度はご愁傷様でした・・・」
葬儀が終わる頃、永遠亭の兎達がやって来た。
優曇華院が数匹の兎と共にレミリアに挨拶をする。

「ああ、ありがとう。あなた達には、本当に感謝しているわ」
「ええ・・・そのことについてですが・・・」
「・・・?」

ここで優曇華院は言葉に詰まった。
実にばつの悪そうな顔をしている。

「どうしたの?」
「その・・・あの・・・」

優曇華院の脇腹を、横の兎が肘でちょんちょんと突いた。
そうして促された彼女は、まるで貧乏くじでも引かされた、といった感じだ。

「こんな時に言うのも何ですが、パチュリーさんの入院費・・・宜しくお願いします」
「あ・・・・・・」




-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-




全ては振り出しに戻った。
パチュリーの入院費を払い終わった時、貯金は殆ど無くなっていた。
また一から貯め直さないといけない。
いや、魔理沙から返して貰った分もあったので、実際には振り出しよりも更に前にいる。
そしてもう一つ、障害が増えていた。

「咲夜! どうだった?」
「買えましたよ。予想よりお金が掛かってしまいましたが」
この日、買出しから帰ってきた咲夜は、ある物を買って帰っていた。

「これ位の量があれば、いいでしょうか?」
「ええ、私は小食だからね」
「うん、私も我慢するよ」

それは血液の入った、2本の注射器。
妖怪から買えないなら、人間を襲うのが駄目なら、人間から買えばいい。
幸いなことに、金に困っている奴なら幾らでもいる。
そういった人間を見つけ出し、金と引き換えに献血して貰うのだ。
これなら両者合意の上、平和的なやり取りだ。
紫や里の守護者にも、文句を言われる筋合いは無いだろう。
ただ・・・金で買うと言うことは、当然それだけ貯金は困難になる。

「このままだと、あまり残らないね」
レミリアがソロバンを弾いた。
収入と支出は大して変わらない。
辛うじて幾らかの金は残るものの、紅魔館再建はより一層遠いものとなった。

「今はしょうがないですよ。転機を待ちましょう」
「そうですよ。その内スキマ妖怪の気も変わりますって」
それでも咲夜と美鈴はあくまでレミリアを励ましてくれる。

「それじゃ、私はそろそろ仕事だから・・・」
「はい。行ってらっしゃいませ、お嬢様」






―『行ってらっしゃいませ、お嬢様』か。
 果たしてお嬢様が、こんな仕事をするだろうか?―


今夜も肉まんの上の方を捻る仕事が始まる。

ベルトコンベアに乗って、奴らはやって来た。
数え切れぬ程の肉まん、肉まん、肉まん、肉まん、肉まん、肉まん、肉まん、肉まん、肉まん・・・
一つ手にとっては、捻り、また一つ手にとって、捻り、更に次の一つを手にとって・・・
一体、こいつらは何なんだ?
こんなに私が頑張っていると言うのに、一向に減る素振りを見せないではないか。

そろそろ休憩時間か?
そう思って時計を見た。
見なければ良かった。
本当に、見なければ良かった。
まだ1時間も経っていない。

目の前には相変わらず、見渡す限りの白、白、白。
一定の規則性を持ちながらも、どこか纏まりを欠いた原始の平野。
まるで白夜だ。
これは永遠に続くのか?

もしかしたら、本当にそうかもしれない。
定時になれば今夜は帰れるだろう。
しかし帰って食って寝て、起きて暫くしたら明日もまた、この仕事が始まるのだ。
そして明日が終わっても、またその明日。
それが終わっても、休日挟んでまた仕事。
私は、本当にいつかは紅魔館に帰れるのだろうか?

そもそも私が今やっている事に、何の意味がある?
こんなことを続けていて、紅魔館を再建出来るのか?
たかが肉まんの上が捻られているくらいで、誰が得をするのだろう?

今のペースでは軽く計算しただけでも、目標の貯蓄に達するまで百年以上は掛かる。
百年経つ前に咲夜は死んでしまうだろう。
そうしたら更に時間が掛かってしまう。
実は無駄なんじゃないか?
私がやっていることなんて・・・

レミリアの頭の中を、そんな考えが支配する。
この作業は、仕事と言うより禅問答に近い。
拷問には、もっと近い。
1個100円にも満たぬ肉まんが、無敵の筈の彼女を苦しめていた。


しかし仕事開始から3時間ほど経った頃、彼女は埒の明かぬ考えを打ち切ることにした。
そしてもっと明るい、希望に満ち溢れた未来を想像し始める。
それはとても簡単だ。
かつて彼女がいた紅魔館、それを空想の中で再現すればいいのだから。


まずは・・・やはり湖畔になければならない。
それは紅で彩られた、大きくて立派な建物だ。
日差しの差し込まないテラスのテーブル。
見下ろせば、薔薇が咲き誇る庭園。
それを管理している美鈴の姿。
横を見れば、可愛い妹と親友の姿。
パチェはもういないのだから・・・霊夢にしよう。
彼女達との会話も弾む。
すると咲夜がやってきてカップに紅茶を淹れてくれる。
お菓子でもつまみながら、それを一口。
芳醇な茶葉と血の香りが口一杯に広がる。

今のレミリアは、製パン工場なんかにはいない。
過去を映し出して創られた、未来の紅魔館にいる。


しかし過去はもう、ここには無い。未来はまだ、産まれてもいない。
今、目の前にある肉まんの、凄まじい存在感、圧倒的な絶望、そしてリアリティ。
それらを前にして、空想は余りに無力すぎた。

現実のレミリアが、肉まんを一つ捻る。
すると薔薇の手入れをしている筈の美鈴が、蒸し器で肉まんを蒸し出した。
また一つ、肉まんを捻る。
フランと霊夢が、肉まんを捻り出した。
もう一つ、捻る。
中庭が、テラスが、製パン工場へと変わった。
捻る。
目の前に肉まんがあった。

「咲夜! 私は肉まんなんて欲しくない! お茶とお菓子を頂戴!」

たまらずにレミリアはそう叫んだ。
すぐに咲夜がやって来た。
しかしその手にあったのは・・・やはり肉まんだ。
そして咲夜はこう言った。

「ちょっと! ここ、破れてるよ!!」


「ひぃ!? ごめんなさい、主任!」
「全く、何度も言わせないでよ。レミリアさん」
「・・・次からは注意します」
「いい? あんたが一人ヘマすると、ライン全部止まるんだからね」
「分かりました・・・」


こうして空想の紅魔館は瓦解した。
その主も、もういない。
今あるのは薄暗い製パン工場で、そこにいるのは人間なんぞに扱き使われる憐れな妖怪だけ。

でも本当は、彼女は幻想郷を恐怖に陥れるだけの力を持っている。
嘘じゃない。
昔、実際に全ての妖怪を支配しかけたことがあった。
紅い霧の異変を起こし、巫女まで動かしたこともあった。
幻想郷で彼女の名を知らぬ者など、いなかった。

それもその筈。
彼女はあらゆる種族の上に立つ、吸血鬼なのだから。
パワーは鬼に匹敵、スピードは天狗に匹敵、秘めた魔力は底知れず。
千の悪魔を率いて夜を支配する恐怖の化身。
太陽さえ恐れぬ不遜な暴君。
運命すら従える暴虐のカリスマ・・・

 ・・・が、肉まんを捻っている。

彼女はこのまま終わってしまうのか?
強大な力を持ちながら、朽木の如く立ち枯れてしまうのか?
いつかは誇りも忘れ、肉まん妖怪として死んでいくのだろうか?
彼女は二度と・・・

「もう・・・嫌・・・」
バタリ



「いい加減にしてよ! 全然、捻ってないじゃない。
 これじゃ仕事終わらな・・・
 ・・・・・・・・・
 ちょっと! レミリアさん!? あんた、大丈夫か!?」






「お姉様!!!」
真夜中、レミリアが倒れたという報せを受け、フラン達は永遠亭に駆け付けた。

「お嬢様は!? お嬢様は助かるんですか!?」
「お、落ち着いて! レミリアさんは今、治療を受けてますから!」

優曇華院に詰め寄るフラン達。
しかし、彼女達を手術室に入れる訳には行かない。
3人は待合室にて待たされることになった。
時刻は午前1時を回っている。
当然、そこには他に誰もいない。
薄暗い待合室では、3人の吐息の音だけが聞こえた。

「お姉様が・・・死んじゃったらどうしよう?」
ふと、フランが力なく呟いた。

「妹様・・・」
咲夜と美鈴は暫く俯き・・・やがて美鈴がこう答えた。

「心配いりませんよ。お嬢様が死ぬ訳が無いじゃないですか」
これが、今の彼女に言える精一杯の励ましである。

「だけど・・・パチェの時も、同じこと言ってたじゃない?」
「はい・・・」
「もしも、もしもだよ? お姉様もパチェみたいになっちゃったら・・・」
「・・・・・・」
「もしも・・・お姉様も、パチェみたく帰ってこなかったら・・・!?」


「止めて下さい!!!」
「「・・・!?」」
咲夜が言った。いや、叫んだ。

「グスッ お願いですから・・・言わないで ヒック・・・下さいよ。お嬢様が グスッ・・・死ぬなんて」
泣いていた。3人の中で、一番強くて気丈だと思われていた彼女が。
体中を震わせて。

「ごめん。咲夜、ごめんなさい・・・」



「終わりましたよ」
明け方も近くなってきた頃、優曇華院がそう言った。
全員、急いで手術室へと向かう。

「それで! お嬢様は助かったんですか!?」
「一命は取り留めました。ただ・・・」
「ただ・・・?」
「とにかく、見て下さい」

優曇華院が手術室のドアを開いた。
そこにいたのは・・・永琳。
そして手術台の上のレミリアだった。

「お姉様!!」
思わずフランが叫んだ。
しかしレミリアはその呼び掛けに全く反応しない。
その代わりに、彼女はこう呟いていた。

「肉まん・・・肉まんがないよ・・・?
 肉まん捻らないと・・・主任に怒られる・・・
 肉まんは・・・肉まんはどこ・・・?」

「な、何言ってるの!? ここは永遠亭だよ?」

「肉まん・・・肉まん・・・」

「原因は、過度のストレスよ」
永琳が説明を始めた。

「きっと館を失ってからの新生活で相当気が滅入っていたのよ。
 それに、あの仕事。誰だって嫌になるわ
 特に妖怪にとっては精神的ダメージは命取りだから」


「お嬢様・・・私が、止めていれば・・・あんな仕事、反対するべきだった・・・」
咲夜はその場にへたり込んでしまった。

「肉まん・・・ないよ・・・どこ?」
そんな咲夜にも気付かずに、レミリアのうわ言は続いていた。




-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-




「ごめんなさい。みんなに迷惑かけちゃったよね」
「いえ、手遅れにならなくて本当に良かったです」
「だけど、これからどうするか考えないと・・・」

その日の夕方になり、レミリアは正気を取り戻すことが出来た。
だが、全てが元通りと言う訳ではない。
レミリアが受けた心のダメージは、彼女の身体までをも蝕んでいた。
眩暈がする。凄まじい熱がある。身体が勝手に痙攣する。満足に動くことすら、ままならない。
それはストレス性の重い病だった。

「本当に情けない・・・当主の私が一番しっかりしていないといけないのに・・・」
「あまり自分を責めないで下さい。後悔しても病気は治りませんよ」

入院はしなくていいらしいが、永琳からは絶対安静を言い渡されていた。
自宅にて投薬治療を続けるのだ。
言うまでもなくストレスは禁物であり、その為には周りも十分配慮することが必要だ。
これ以上、病が進行すれば・・・命が危ないとさえ言われていた。

「なるべく早く良くなるからね」
「急がずにじっくり、確実に治すようにしましょうよ」


こうしてレミリア達は、また新しい不幸に見舞われた。
しかし今の彼女達の場合、不幸は悲しいだけでは終わらない。
必ずそこに現実的な問題が付随してくる。
例えば館を火災で焼けた時は、全財産を失っている。
パチュリーの死に関してもその入院費は馬鹿にならなかった。
そしてやはり今回も、金の問題は付いてきた。

まず給料は少なかったとは言え、レミリアはもう働けない。
その上、定期的に彼女の薬を買わなくてはいけない。
勿論、それは決して安くはない。
それにプラス・・・レミリアの看護をする必要があった。
周りの者によるメンタル面での支えこそが一番大事だからだ。
今、咲夜も美鈴も昼間に働いているが、フランだけでは何かあった時に対応できない恐れがある。
どちらかが仕事を夜のものに変えることが望ましい。

そして更に絶望的なことは、レミリアの病気は簡単に治るようなものではないこと。
ストレスの根本の原因となっている問題が解決しない限り、完治は遠いと永琳は言っていた。
つまり病気を治すためには、紅魔館を再建しろと言うのだ。
そんな無茶な話があるか?
レミリアの病のせいで紅魔館再建は絶望的な状況になっているのだ。
まるで缶詰を開けるための缶切りが、缶詰の中に入っているような・・・実に馬鹿げた話ではないか。


「・・・・・・」
咲夜達は悲しそうな顔をした。
レミリアが小声で「ちくしょう」と洩らしたのが聞こえてしまったのだろう。

それからとても長い間4人は沈黙していたが、やがて咲夜がこう言った。
「今回は・・・私が何とかします。もっとお給料のいいお仕事さえ見付かれば・・・」

この時、咲夜はとても思い詰めた顔をしていたが、誰もそれには気が付かなかった。
しかし仮に気が付いていたとしても、何が変わっていただろう?



翌日、咲夜が仕事を見付けて来た。
具体的な内容は何も話してくれなかったが、前よりずっと給料のいい仕事らしい。
しかも夜の仕事なので昼間はレミリアの看護をすることが出来る。

その夜、咲夜は初めてその仕事を・・・






「お嬢様、お食事の時間です」
「うん・・・」
ちょうど母親がほ乳瓶で赤子に授乳するような格好で、咲夜がレミリアを抱え上げた。
レミリアが口を大きく空ける。
そこへ、咲夜が注射器の中の血液を流し込む。
血は一滴残らず、口の中へ納まった。
かつては派手に溢していたレミリアだったが、今はもうそんな真似は出来ない。
その様子をフランが見つめていた。

「ごめんなさい、フラン・・・お腹空いてるよね?」
「う・・・ううん。私は大丈夫だよ」
レミリアはフランの気持ちを察していた。

「申し訳ございません、妹様。ですが、お嬢様のお体の為にはどうしても血が・・・」
「分かってるよ。私のことは気にしないで」

フランは、もう5日は一滴の血も口にしていない。
飲まず食わずという訳ではないが、やはり血を全く摂取しないのは苦しそうだ。

彼女が血を飲めない理由は簡単で、金が無いからだ。
食費、光熱費、切り詰められるところは限界ギリギリまで切り詰めている。
それこそ、本来なら切り詰めてはいけないものまで。
美鈴も雇用主に頼んで仕事の時間を延長して貰った。
採掘の仕事の前の、資材運びが美鈴が担当になったのだ。
そのために彼女は早朝から仕事に行っている。
ここまでやって、ようやく家計はトントンだ。


「そうだ、ご飯探しに行ってくるね」
「あ、それでしたら私もお供します」
「ううん、大丈夫。咲夜はお姉様と一緒にいて?」

最近、フランはよく外へ行く。
野へ山へ行って、そこで食料となるものを探しているのだ。
こんな状況になっても働けない、役立たずな自分に嫌気が差していたのだろう。

「雨や日光には気を付けてね」
そう言ってレミリアは妹を見送った。



今日、フランはある山の麓の森にやって来た。
昨日見つけた場所なのだが、食べられそうなキノコがあちこちに生えていた。
その中には食べられないもの、毒のあるものも多かったが構わない。
どうせ咲夜以外はそんなもので死にはしないのだ。
少しでもみんなの腹の足しになれば、と思っていた。
それなのに・・・

「無いよ!? どこにも無い!!」
森のキノコは消えていた。
散々探して回ったが、昨日まであった筈の美味しそうなキノコはどこにも無い。

その代わり見付かったのは、緑色の傘に白の大きな斑点がグロテスクなキノコ。
後はタマネギが腐ったような臭いの果実が、更に腐ったような臭いのキノコなど。
とてもじゃないが、食べられそうに無い。
一体、食べられるキノコはどこに消えたのか?

まさか場所を間違えたのか?
フランはそう考えて上空から森を眺めてみた。
すると見つけた。キノコが消えてしまった原因を。


「あははは。マツタケ、マツタケ、大漁、大漁」
森の中の広場に一人の少女がいた。
そしてその背には、美味しそうなキノコが沢山入った籠があった。
フランは彼女に悟られないよう、こっそりと近付いた。

(まさか・・・あの人に全部取られちゃったの!?)
そのまさかである。
しかし彼女は山に住む秋の神。
元々、この森のキノコは彼女のものだと言っても良い。

(どうしよう? 頼めば、少しは分けて貰えるかな?)
フランがそう考えていた、その時・・・

「お姉ちゃーん」
少女がもう一人、そこにやって来た。
どうやら彼女達は姉妹の様だ。

「どうだった? そっちは?」
「うん、見てよこれ! 今年は豊作よ」
その少女も背負っていた籠を降ろした。
中にはサツマイモが山ほど入っていた。

「わあ、凄い! これだけあれば今年の冬も越せるよね!」
「やったね! お姉ちゃん」
「「あははははははー」」
その姉妹は手を繋いでその場でくるくると回りだした。

今夜、彼女達は美味しいご馳走をお腹一杯になるまで食べるのだろう。
想像しただけで腹の虫が鳴る。
羨ましい、とフランは思った。

「それじゃ、このキノコとお芋で炊き込みご飯でも・・・あれ?」
「??? どうしたの、お姉ちゃん?」
「ここにあった筈の、お芋がないよ?」



「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
フランは森の中を逃げていた。
怖い。もう負いつかれないくらいに遠くに行った筈だが、それでも怖かった。
そしてその手には、サツマイモが入った例の籠があった。

「どうしよう・・・? 私・・・何てことを・・・」
しかし今更後悔しても遅い。
フランは誘惑に負けたのだ。
名家の次女として生まれ、貴族として生きていた彼女が、盗みを働いた。
一度汚れてしまった品性、魂は、二度と元には戻らない。

「ごめんなさい・・・お姉様」
思い浮かぶのは誇り高い姉の顔。
空腹のあまり、罪人に堕ちてしまった自分を恥ずかしく思った。
何と愚かな娘なのだろう?
出来れば、このまま誰にも会わずに消えてしまいたい。


しかし、そんな彼女への罰だろうか?
往々にして悪事は見破られるものなのだ。

「あやややや、フランさんではないですか」
「・・・え!?」
その一部始終を鴉天狗に見られていた。
フランは驚きと恐怖のあまり、心臓が飛び出してしまうかと思った。

「今日はちょっとインタビューをしたいと思いまして・・・」
「こ、来ないでっ!!」
「おや? 私のこと、覚えていないのですか? 射命丸ですよ、新聞記者の」
「嫌! 来ないでってば!」
フランがパニックになっても、構わず話を続ける射命丸。
会話が成立しているとは言い難かった。

「それにしても、見ましたよ? フランさん」
「な・・・何を・・・?」
「とぼけても無駄ですよ。私の前では、隠し事は出来ません」

射命丸が一枚写真を取り出した。
フランが秋姉妹から、芋を盗んでいる瞬間の写真だった。

「いやぁ、いい写真が撮れました。本当、今日はラッキーです」
「そ、そんな・・・」
「こんなこと、読者のみんなが知ったらどう思うでしょうかねぇ?」
「ま、待って! お願いっ!! 言わないでっっ!!!」
「ですが、真実を伝えるのがジャーナリストの使命ですから・・・」
「おっ、お願いします!! 魔が差しただけなんです! 誰にも内緒にして下さい!」
「さぁて、どうしましょうか?」

「グスッ この通りです・・・ヒック どうか、どうか・・・えぐっ、言わないで・・・」

「ちょっと・・・フランさん?」
射命丸の目の前で、フランは土下座をしていた。
たがだか500年も生きていない少女が、泣きながら必死に額を地に擦り付けている。

「フランさん、何もそこまでしなくても・・・」
「お願いします ヒック どうか グスッ お願いします・・・」
射命丸が何と言っても、フランは顔を上げようとはしない。

(これは、困りましたね・・・)
最高位の悪魔が、自分に土下座をしている。
本来ならこんなに愉快痛快なことは無い。
しかし、このような小さな子を困らせ、泣かせてしまうことは不本意であった。
天狗以外の者の気持ちなど考えた事がない射命丸でも、やはり相手が子供となれば話は別だ。

「そうですね、それではこうしましょう」
「え・・・?」
「このことは誰にも内緒にしておきます。でもその代わり・・・」
「その代わり・・・?」

「話して頂けますか? 今まであなた達に何が起きたのかを」
「・・・・・・」
「どのような生活をしていて、どうやってお金を稼いでいるのか、その辺を特に詳しく・・・」

「・・・分かりました」



全てを話し天狗が去ってからも、暫くフランは動かなかった。
涙が枯れ果てるまで待っていたからだ。
日も落ちかけた頃になって、ようやく家に帰ることが出来た。

「・・・ただいま」
「フラン!? どこ行ってたのよ? 遅かったじゃない!」
「あ・・・うん、ちょっとね・・・」

「!?? って、どうしたの? そのお芋は?」
「こ、これは・・・その・・・」
「・・・フラン、これはどうしたの?」
「あの、実は・・・」
「正直に言え! こんなに沢山のサツマイモ、どこから持って来た?」
「えっと・・・さっき、森で親切なおじさんに会って・・・」

パァァァァン!!!!!

レミリアの張り手が、フランの頬を打った。




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紅魔館炎上www その3:28スレ639へ続く

  • 肉まんって
    れみりゃの中身だからかw

    夜のお仕事…
    何処に行けば咲夜さんを買えますか? -- 名無しさん (2009-10-05 01:30:08)
  • なにこの鬱 -- 名無しさん (2009-10-05 08:20:37)
  • 契約内容の変更とかそういうことを考えようとはしなかったのねおぜうさまw -- 名無しさん (2009-10-05 15:40:39)
  • 貧乏なうえ重い病にかかっているにもかかわらず
    妹の過ち(盗み)を本気で叱るお嬢様。カリスマが溢れております -- 名無しさん (2009-10-05 23:15:05)
  • 最近の紫はどうしようもない屑 -- 名無しさん (2009-10-06 08:12:59)
  • まともなレミリアを描写している話を久々に見た気がする
    まあこれからどうなるかわからんけど… -- 名無しさん (2009-10-06 13:55:46)
  • なんてリアリティにあふれた幻想郷なんだorz -- 名無しさん (2010-01-14 06:07:28)
  • これ、作者の実体験談なんじゃね? -- 名無しさん (2010-01-27 01:43:03)
  • フランが働くとしたらビルかいたいだな。
    -- 名無しさん (2010-10-22 12:52:50)
  • 無駄に文章がうまいのがたまらんwww


    肉まんを憎まんとするあまり、心身を壊してしまうおぜうさまwww -- 名無しさん (2010-11-02 20:39:22)
  • 内職の求人1つも無かったんかい -- 名無しさん (2010-12-08 21:28:18)
  • 紅魔館炎上wwwってノリの話じゃねェな
    フランなら射命丸殺すんじゃないかと思った -- 名無しさん (2010-12-29 19:34:54)
  • 俺が紅魔館のみんなに募金してやるよ! -- 名無しさん (2011-01-09 11:20:45)
  • オレが既に募金済みだぜ! -- 名無しさん (2011-01-11 01:04:24)
  • 昼間はレミリアを看護って…吸血鬼なんだから昼間寝て夜起きてればいいんじゃ…
    -- 名無しさん (2011-03-24 13:14:02)
  • というか紫が送った厨房って埋まってるんだから
    送ったところで存在できるスペース無くね?
    圧縮してんのかな? -- 名無しさん (2011-06-12 22:23:15)
  • 古明地さとりおまえの、ペットだろ、責任(物理的)をとりやがれだろ。 -- 動かぬ探究心 (2013-06-03 20:51:24)
  • キャハハハハハハ面白れーな
    屑の没落はよぉ
    やだなぁ、私はただ他人の不幸が愛おしいだけですよぉ
    貴方がたと同じくね
    クク キヒヒヒヒ -- 名無しさん (2014-06-19 18:05:06)
  • ↑×10 幻想郷にビル~無い~♪(某ちんすうきよおしつ風に) -- 名無しさん (2014-07-02 15:22:41)
  • 文と紫最高やな。ゴミコウモリが我が物ぶってたんだから自業自得だね。
    パチュリー死んで嬉しいな。れみりゃ潰したりゴミリア池沼糞メイド中国豚虐めてやりたいよ。 -- 名無しさん (2014-12-15 03:39:11)
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