私はフランドール・スカーレット。大体500歳くらい。
紅魔館の主、吸血鬼レミリア・スカーレットの妹だ。

ずっと長い間地下室に閉じ込められて、もう姉以外の肉親の顔など覚えていない。
けど最近、ようやく地下から出してもらえるようになった。
姉以外にも、
瀟洒なメイド長の十六夜咲夜、病弱だけど頭のいいパチュリー・ノーレッジ、
いまいち頼りないけど、明るくて優しい紅美鈴など、大勢の家族と共に暮らしている。
そして今日私は、姉に遊んでもらおうと、紅魔館の廊下を歩き、姉の部屋へと向かっていた。


フラン「お姉さまー!」
レミリア「あっ…!? フランか。どうしたの、何か用?」

そう言って部屋に飛び込むと、お姉さまは何かを書いていた…けど、私に気がつくと
すぐに笑顔で返事をしてくれる。書いていた何か…それは手帳みたいだった。

フラン「お姉さま、それ何?」
レミリア「ん、ああこれ? なんでもないわ…ただの日記よ」
フラン「へぇ~、お姉さま、日記なんてつけてるんだ?」
レミリア「うん…それで、どうしたの?
フラン「んっと、遊んでほしいなって…だめ?」
レミリア「ああ…ごめんね? まだやらないといけないことがあるから…美鈴とでも遊んでらっしゃい」

お姉さまはそう言って、頭を撫でてくれる…400年以上私を閉じ込めていた人と、同じ人物とは思えない。
そんなお姉さまを困らせても悪いので、言われたとおり美鈴と遊ぶことにした。

外は夜…私が外に出ても問題は無い。美鈴は秋になって徐々に冷たくなってきた空気をものともせず、門に立っていた。

フラン「美鈴ー! 遊ぼうー!」
美鈴「あ、妹様…私門番の仕事中なんですけど…」
フラン「いいじゃない、私も一緒に番するから~」
美鈴「う~ん、仕方ないですねぇ…」

美鈴は遊びをねだると、困った顔をするのだけれど…結局なんだかんだ言って遊んでくれる。
そして遊び疲れたころになると…大抵ナイフが飛んでくるのだ。今日もその例に漏れず、
銀のナイフが飛んできた。そして飛んできたほうを見ると、怖い笑顔の咲夜が居るのもいつものことだ。

咲夜「美鈴~? お仕事はどうしたのかしら?」
美鈴「げえっ!? 咲夜さん!? いやその、これはですね…」
フラン「私が遊んでって頼んだの! 美鈴は悪くないよ!」
咲夜「もう…妹様、あまり美鈴の邪魔をしないであげてくださいな」
フラン「あぅ…ごめんね、美鈴…」
美鈴「ふふ、いいんですよ。妹様。妹様の笑顔を見てると、私も楽しくなりますから」
フラン「えへ…ありがと、美鈴」
咲夜「はいはい、じゃあ門番も楽しくやってもらおうかしら?」
美鈴「は、は~い…」

そうしておしゃべりしていると、やがて夜明けが近くなる。夜の眷属である私は寝る時間だ。
私があくびを一つすると、咲夜が私を抱えて部屋まで連れて行ってくれる。
そうやって、毎日毎日が楽しく過ぎていく…これからもそうだと、私は信じている。

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次の夜、私は本を読もうと思って、図書館へと赴いた。
すると、中ではパチュリーが焦げていて、小悪魔はオロオロしていた。
…あんまり珍しい光景でもない。魔理沙がが本を強奪していったんだろう。
あの白黒も嫌いじゃないけど、こうやって家族を傷つけられるのは腹が立つ。
そう考えていると、小悪魔が声をかけてきた。

小悪魔「あ、フラン様…ごめんなさい、パチュリー様が見てのとおりで…」
フラン「うん…また魔理沙?」
小悪魔「はい…パチュリー様はかなり慌てていました。よほど大事な本だったのでしょうか…力尽くで取り返そうとして、これで…」
フラン「む~…よし、わかった! 私が取り返してくる!」
小悪魔「え、ですが妹様…!」
フラン「大丈夫! 私だって紅魔館の一員だもん、たまには皆の役に立ちたいの!」

私はそういい終えると、踵を返して図書館を出て…小悪魔がまだ何か言っていたけど気にしない。
窓から飛び出して、魔法の森、魔理沙の家を目指した。

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本は意外とすぐ取り戻せた。挨拶代わりにドアをキュッとしたのもあるかもしれないが…
魔理沙が言うには、あんまり役立つ内容じゃなかったらしい。
私は大量の付箋が貼られたその本を抱え、紅魔館への帰り道についた。

フラン「そういえば、コレ何の本なんだろう…?」

パチュリーはいろいろ本を薦めてくれるけど、殆どが物語や絵本で、本格的な魔道書、というのは見せてくれなかった。
私だって魔法は使えるというのに、そういった本がある区画には入れてくれないのだ。
だから、ほんのちょっとだけ、その本をめくって、内容を読んでみることにした。
適当な場所に着地して、腰を下ろし、本を膝に乗せて表紙を開く。その表紙にはこう書かれていた。

フラン「ええっと…『吸血鬼生成、およびそれに伴う擬似記憶の植え付けに関しての経過レポート』…?」


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 △月 ×日

最初の個体生成に成功。しかし一時間と持たず組成が崩壊した。やはり、一筋縄ではいかない。
だが、吸血鬼の生成という目標のため、この程度では挫けていられない。


 □月 △日

二体目の個体生成に成功、組成崩壊の兆候もなし。だが、こちらからの呼びかけに一切反応せず。
生命体として生きてはいるものの、コレではただの人形である。いろいろ試みたが、結局反応は見せなかった。
サンプルとして保存し、実験に使うことを考えたが、結局廃棄処分とする。

 ×月 ○日

三体目の個体生成に成功。擬似記憶の植え付けにも成功し、こちらの呼びかけに反応も見せた。
また、吸血鬼としての高い身体能力や、あらゆる物の弱点を手の上に持ってきて、握りつぶすことで
爆発させる、という特殊能力も持っていた。少々見た目は似ていないものの、スペックは申し分ない。
どうやら、妹様計画もようやく成功しそうだ。以後、レミィの妹として生活させ、経過を見ることとする。

 ×月 ×日

駄目だった。妹様三号は突如発狂。紅魔館に甚大な被害を出した。やむを得ず処分する。
原因の究明と、その改善策を早急に考えなければならない。

 ×月 △日

妹様三号の発狂を、擬似記憶によるものであると推定、500年分も詰め込めば、どこかで矛盾も出るだろうし、
それだけの情報を一気に詰め込んでしまうと、吸血鬼といえど精神が持たないのかもしれない。
矛盾が出ず、なおかつ情報の密度を薄くする方法が必要だ。

 ○月 □日

これで完璧のはずだ。身体生成は三号をベースに、擬似記憶を改良した。
しかし念を入れて、当分の間は地下室で過ごさせることにする。
そのほうが、擬似記憶との矛盾も無くなるはずだ。
今度こそ、上手くいくことを願う。

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フラン「何よ…これ…」

そこに書かれていたのは、生命体…吸血鬼を人工的に作ろうとした試み、そしてその失敗の記録だった。
そして何より、そこに書かれた居たのは、明らかに自分のこと…けど、そんなはずは無い。
私は500年以上前に生まれている。コレはどう見てもここ数年に書かれた本だ。
私はお姉さまの妹として生まれて…

フラン「あ…れ…?」

そうだ、吸血鬼は血を吸うこととで人間を眷族にし、仲間を増やす。だからそもそも姉妹という関係などあるはずが無い。
仮に親の吸血鬼が人間の姉妹の血を吸って眷族にしたとして、私がその妹だとするのなら、私は人間のときどんな人間だった?
私は誰に血を吸われた? その記憶が一切無い。
そもそもなんで私は地下室に居たんだろう? 気がふれてたからとお姉さまは言ったけど、私は至って正常だ。
周りの者を見ても私が特別狂っているとは思えない。大体狂っていたから閉じ込めてたのに、それがある日突然治り、
出歩いてよいということになるのだろうか? 考えてみれば、私とお姉さまとは髪の毛も翼もまるで違う。姉妹だというのに似ていない。

いや、似ていない姉妹なんていくらでも居る、私は間違いなくレミリア・スカーレットの妹で…500年近く閉じ込められていたんだ。
だから、人間を料理された形でしか知らなくて…じゃあ私は閉じ込められてる間何を食べてた? 直接人間を食べた記憶が無いから、
料理されたものを食べていたことになるはずだけど、咲夜は人間だから、400年以上前に居るはずがない、パチュリーだって200歳は超えてないはずだ。
じゃあ誰が、閉じ込めた私の世話をしていたんだろう…何だ、考えるまでも無い、お姉さまだ。お姉さまが閉じ込めた私に、
人間を使ったケーキや料理を、長い間持ってきてくれたんだ。何百年もそんなことをしてくれるのは、私が実の妹だからで…

いやまて、何でケーキにする必要がある? 何百年前といえば紅魔館はまだ外の世界にある、人間を狩って来るのに何の問題も無い。
私たちはもともと生きた人間から血を吸う種族だ。生きた人間を連れてくるのが一番のはずなのに…なんで私は調理された人間しか知らなかった?
もし幻想郷の中でなら、割り当てられた人間を使って料理をすると言うのはわかるけど…

フラン「違う…違う違う…そんなの違う…」

何度声に出しても、もう私の頭からその考えは消えてくれなかった。
私はレミリア・スカーレットの妹なんかじゃない。
私は作り出された吸血鬼、フランドールの名を与えられ、それらしい記憶を植えつけられた…人形なのだと。

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それからのことは、よく覚えていない…ただ、図書館に本を返して、それからすぐ自室に戻ったような気がする。

何度考えても、私が500年間生きてきた吸血鬼だとすると矛盾が生じる…
しかもいやなことに、あの本の内容が正しいとすると、矛盾はスルリと無くなるのだ。
だとすると、あの皆の態度は何だったのだろう? 
何で作り物の私を妹様として慕ってくれたのだろう? きっと聞いてもはぐらかされるだけだろう。

フラン「だったら…自分で調べるしか、無いよね…」

レミリアは日記をつけていた…アレを調べれば、何かがわかるかもしれない。
そう考えて…私はレミリアの部屋を調べることに決めた。

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意外と、その時はすぐやってきた。あれから数日たった今夜、
レミリアはお偉いさんたちの会合に出て行って、咲夜もそれに付いていった。
パチュリーは相変わらず図書館に篭ったまま。美鈴は門番。
メイド達も、咲夜が居ないからそれぞれサボり中…
私は誰にも見咎められることなく、レミリアの部屋までたどり着いていた。
主の居ない部屋の中は整然と整っていて、あの手帳を探すのは簡単そうだった。
けど、あの手帳を見つけても意味が無い。もっと前の日記…残しているかもわからないけれど、
残っているとしたら何とかして見つけて、事の真相を確かめないといけない。


部屋の中をひっくり返して、机や棚を全部開けて。ようやく、あの手帳と同じものが、
まとめて保管されているのを見つけた。パラパラとめくってみると、やはり日記のようだった。
夜が終わらず、咲夜と一緒に飛び出したこと。春に雪が降って咲夜が出かけたこと、そんなことが書いてあった。

そして、その中で一番古いものを開き、読み始める…日付は数年前のものだった。

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△月△日

突如、周囲の風景が変わった。何が起こったのかはわからないが、
とにかくまず状況を調べないといけない。パチェに調査を頼むと共に、
夜になったら周りを見てみよう。

△月×日

とりあえず一晩あたりを調べたが、地形が完全に変わっている。
しかも時間がおかしい。10時間近くずれているような気がする。
信じがたいことだが、どうやら全くの別の地点に来てしまったらしい。
星座が同じように見えるから、少なくとも別世界ではないと思うが…

△月○日

今日、日傘を持ち、紫色の服を着た子供と接触した。
同属ではないようだが、ただならぬ気配を放っていたので、話しかけてみた。
彼女が言うには、ここは幻想郷という土地で、私たちは「幻想入り」と呼ばれる
現象に巻き込まれたらしい。突拍子も無い話だったが、現状を見るに、信じるしかなさそうだ。

△月□日

パチェと今後の方針について相談する。忘れ去られたものが来ると言うこの世界…
情けない話だが、私達ももはや人間からは忘れられたのだろう。
実際、紅魔館にかつてのような活気は無い。たとえ元の世界に戻れたとしても、
いずれ滅び、朽ちていくだろう。ならばと、この新天地で再起を図ることにした。
パチェも賛成してくれた。そうと決まれば、早速行動しよう。

×月△日

今のところ順調だ。近くの妖怪を力で従わせ、勢力は着々と拡大しつつある。
見込みのあるものは、私直属の部下にした。中には人間も居るが…
彼女の能力は何かと役に立つはずだ。このままこの世界を、スカーレット家の名の下、平定しよう。

×月×日

無念だ。それなりの勢力にはなったと思ったのだが…上には上が居るらしい。
この世界を治める、力の強い者達に一斉攻撃され、敗北を余儀なくされた。
取り潰しは免れたものの、敗れた今、力で周囲を従えてきた私たちに、
最早付いてくるものは居ないだろう。スカーレット家再興は、夢と消えた。

×月○日

直属にしていた者のうち二人が、紅魔館に残ると言ってくれた…不覚にも、少し泣けた。
スカーレット家再興は果たせなかったが、彼女たちのためにも、
紅魔館を盛り立てないといけない。

×月□日

恥を忍んで方々に頭を下げ、ここの流儀を教えてもらった。
どうやらここでは、人を襲ってはいけないらしい。
となると、まずい事になる…人が襲えないと、吸血鬼は仲間を増やせない。
このままでは、スカーレット家は私の代で断絶してしまう。それだけは避けなければ。

○月△日

パチェから、計画の準備が整ったとの知らせがあった。
この方法なら、人を襲わず、吸血鬼の一族を維持できるだろう。
私の血から、人工的に吸血鬼を生成し、種を維持する…この「妹様計画」こそ、
幻想郷でスカーレット家が存続する唯一の方法…成功を祈るばかりだ。

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フラン「嘘…こんなの嘘だよ…誰か、嘘って言ってよ…」

知らなければ良かった。変に張り切ったりせず、暢気に過ごしていればよかった。
本を取り返しに出たりしなければ、読んだりしなければ、
今頃私は咲夜が用意しておいてくれたご飯を食べて、美鈴に遊んでもらっていたのに。

私は、フランドール・スカーレット…
紅魔館の主、吸血鬼レミリア・スカーレットの血から作られた…
ただ、スカーレット家を維持するためだけに存在する、哀れな人形だ。


  • そんなバナナ -- 名無しさん (2010-04-01 10:05:16)
  • なん……だと……? -- 名無しさん (2010-05-23 20:23:19)
  • 彼女はレミリアの妹ではないのか? -- 名無しさん (2010-10-26 17:51:22)
  • セフィロース!! -- 名無しさん (2010-11-02 19:53:46)
  • タシロース!! -- 名無しさん (2011-06-14 20:50:47)
  • 魔理沙なぜその本そのままフランに渡した・・・ -- 名無しさん (2011-09-11 13:19:57)
  • あぁぁぁ~~~~!!
    嘘だぁぁぁぁ!!! -- 名無しさん (2013-06-15 09:17:17)
  • そういう設定も
    あり…なの?
    フランちゃんカワイソス
    ( ノД`)… -- セプテット王女 (2015-03-14 08:56:11)
  • よかった…ゴミリアの妹じゃなくて本当によかった‼
    -- 名無しさん (2015-07-05 22:15:57)
  • な・・・なんだってーーーー!?
    -- フランドール (2015-07-28 19:33:45)
  • ゴミリア言うな -- 名無しさん (2015-08-13 19:02:01)
  • フランが妹じゃなくて良かったねレミィ -- レミィ愛好家←← (2015-08-20 02:56:20)
  • レミィもフランも可愛いでいいではないか。 -- キング クズ (2016-05-10 21:44:42)
  • まじでか -- 名無しさん (2016-05-16 22:02:33)
  • 自分の正体が思ってたのと違うって怖いな… -- 名無しさん (2016-07-04 22:36:30)
  • フラン妹じゃないんだね!
    おめでとうレミリア!
    フランとかまじでしね
    -- にこ (2016-07-10 19:24:45)
  • ↑ちょっと君、死んできなさい。
    ↓の図みたいに。
    ((((((((((っ・ωΣ[柱]ガコッ! -- ママチャリ担いだ勇儀 (2016-07-10 21:09:39)
  • だから羽の色や形が違うのか -- 醤油 (2016-07-24 10:37:13)
  • 気になったけど紫の服着てる日傘持った子供って誰だ??
    咲夜さん?
    それとも旧作霊夢? -- 名無しさん (2017-01-17 22:00:15)
  • ↑紫じゃない??
    しかし、この設定は面白いね。姉妹じゃなくても、2人とも可愛いから良いと思うよ。
    -- 名無しさん (2017-03-13 21:05:48)
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最終更新:2017年03月13日 21:05